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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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99話 アキラの事情 40-47 (アキラ、ネリエル、ユウタ、シルバーナ、与作丸)

「ここって、大変な場所なんじゃないのか?」

「そうですねえ。餓狼饗宴と違って、後ろからいきなり奇襲されたりすることがないのがいいです。むしろ、何時でも襲われるあそこが異常なのかもしれませんね。宝箱もしょぼいですし」


 アキラは、先頭をいく忍者とポニーテールの少女を見る。ちぐはぐな取り合せだ。黒装束をした忍者の方は、ヤクザも顔負けのしかめっ面。額当てに、マスクをしている。口元が見えない。背の方は、平均的な日本人くらい。少女の方は、平均的な日本人なのかという程に小さい。セリアよりは小さくて、アルーシュよりは大きいというような感じだ。今朝会ったDDなどは、コビットよりも大きいくらい。


(無理やりついてきやがった。どういう関係なのだろうか。同僚、か?)


 荷物持ちがいない。マールは置いてきた。となると、荷物を持つ人間がいるのだけれど。収納鞄を腰に下げている。

 なので、荷物持ちをする人間が必要で無くなったのは、大きい。といってもマールが、事務所から出てくるには人手が足りない様子である。事務所のゴミを片付けたり、調理をしたり服を洗濯したり。まるで、嫁さんのような……。


ネリエルは至って普通だ。得物が、ハルバードに変わっている。広い迷宮なので、得物を変えるのもいいだろう。どこから持ってきたのかといえば、事務所にあった物ではないのか。モニカが作った物を事務所に置いてある。誰でも使っていいらしい。持ち出す際には、記帳する事が必要だけれども。


 罠は、解除してもらえるようだ。地面の罠が多くて、餓狼饗宴とは違う。スイッチのように石が下に沈むとか。体重がかかってスイッチが入る仕組みになっているようだ。落とし穴よりも、槍が突き出てくるのが恐ろしい。防御スキルがないアキラにとって、即死してしまうのではないか。というような恐怖がつきまとう。罠は、少ないといっても怖いのだ。


 頭を振って、牛神王の迷宮を見なおすと。


「明るいんだな」

「ああ。ここにきて驚くのは、魔法の灯りだ。なんで、迷宮に灯りがついているのか。不思議でしょうがない」

「誰かが、手入れをしているのかねえ」

「ここは、ダンジョンマスターがいますから。でも、管理されているはずの迷宮に場違いな魔物を放つのはおかしいですね。こんな事をすると、リピーターが来なくなるのに」


 はっとなった。迷宮に主がいるとか。初耳だ。しかも、上の階層に強力な魔物がでないようにコントロールでもされているようだ。だからか、先頭を行っているはずの忍者と少女が帰ってきた。というより、必死で走ってくる。直後に、黒いスライムが現れた。液状で地面をすーっと滑ってくる。明らかに、やばい。


「ユーウ!」

「うん」


 ユークリウッドが、杖をかざす。と、魔術による冷気が走ったのか黒い液体が固まる。白くなってから、忍者と少女が寄ってきた。そこで、思い出す。忍者の方は、与作丸。少女の方は、シルバーナだったか。たしか、最初に出会った時は借金をしていたような。気のせいだっただろうか。2人とも、息を荒らげていない。が、慌てている。


「びびった。なんで、こんなのが地下1階にいるんだよ。折角、新人君にいいとこみせようとしたのによお」

「全くさ。どうして、こんなのがいるんだい」


 与作丸がそう言うと、シルバーナも相槌を打つ。固まった黒い液体は、ユークリウッドが作ったとみられる黒い穴に落ちた。なんであろうか。近づこうとすると、ネリエルが肩を掴む。


「危険だ」

「なんで?」

「瘴気が魔物になったあれは、人にくっつくと変化を促すんだよ。聞いた話だけれど、迷宮で危ない魔物といえばゴブリンとかオークが代表に上がる。けど、あれはブラックイーターといって宝箱に住み着く魔物に似ててね。くっつかれたら最後、魔物になっちまうんだとさ。回復魔術でも直せないし、蘇生ができる神官とかでも手に負えない。何しろ、別物になっちまうからだ」


 聞くと、危険な魔物らしい。それで、逃げてきたのか。シルバーナは、


「あんなのが、地下に出てたら不味いだろ。どうして、こんな浅い階にいるんだ。おかしい」


 と、不思議がる。それほどに、危険な魔物なのだ。斥候役がいて助かった。シルバーナと与作丸がいなければ、アキラが接敵することになっただろう。そして、ユークリウッドとて不覚をとるかもしれない。なんでもできるが、なんでも完璧という訳ではない。彼にも得手不得手があることは料理で知ったばかり。


 料理については、アキラも全く自信がないのでどの口で人の事を言うのかという具合。


「そんなに危険な魔物が、地下1階に出てきたら他の冒険者とか生きてるのか?」

「そうだね。恐らくは……」

「1階のは、全滅しているかもしれないねえ。こいつが危険なのは、何も魔術が効きづらいってだけじゃない。スキルや物理攻撃は、もちろんの事だけど。火が効きづらいのさ。黒いから、燃えそうなんだけど。燃えたら燃えたで、そのまま追いかけてきやがる。しかも、燃えると動きが速い。どの程度速いかというとさあ。馬か全力で道を走っている人間くらいには」 

 

 シルバーナが補足してくれる。なるほど。


「じゃあ。そんなのが、出てきたら1階にいる連中は全滅しているんじゃないか」

「それが、おかしな事に聞いていないんだ。こんな化け物が出てきているなら、警報くらい出しても良さそうなのにね」


 ユークリウッドが聞いていないというのだから、パーティーの斥候役も聞いていないだろう。斥候役がわざわざ魔物を連れてきたりすれば、話は変わるだろうが。その可能性は、少ない。と、判断した。与作丸は、日本人っぽい。味方を罠にかけるだろうか。遺恨があれば、そうなるのかもしれない。ただ、忍者なのだ。忍者が雇い主を裏切るかというと。


 裏切るだろうか。という感想になる。贔屓目に見ているのかもしれないけれども。


「ブラックイーターってどんくらいの階で出てくるんだ?」

「ここの30階を超えると、出現するよ。ただ、この迷宮を今のところ攻略しているパーティーは8階くらいまでしか行けてないみたいだから。知らないと、ぱっくり食われちゃう。そして、食った人間の数だけ分裂するから困るんだ。あれを火で炙ったら、火の中からまたでてきた事があるからね」

「食うって、形状が変わるんか」

「ちょっと、見て見ますか」


 ユークリウッドが、本を取り出すと。映像がそこに浮かび上がる。いかなる魔法なのか。


「すげっ。これ、図鑑かなんか?」

「そうだよ。光の魔術だね。投影魔術だよ」

「えっ。もしかして、複製が作れるとか」

「それは、ないですよ。……どんなのを想像しているのかしらないけど」


 図鑑。欲しい。なんでも入用だ。あるに越したことはない。

 アキラは投影と聞いて、わくわくしたのだが違ったようだ。投影は投影でも魔術で、映像を見せるものらしい。てっきり、物を複製して創りだすというようなとんでもない魔術を期待したが。できないのか。それとも、必要でないのか。


 投影の魔術が映像を結ぶ。本の上には、不規則な形をとる黒い粘液状の魔物がいた。口になったり、棒になったり、馬になったり。最後には、人にもなると。脅威だろう。予想外の魔物と遭遇した。が、それ以外では全く魔物が流れてこない。


 進むにつれて、パーティーの前進スピードが上がり始めた。罠が減ったのだろうか。槍が、出てくるのが恐ろしい。落とし穴よりずっと。隣にいるネリエルはどっしり構えている。歩き方は普通だ。ふりふりと尻尾が動いているから、機嫌はいいようだ。少女の横顔を伺うと。


「こうしてると、前衛って何だろうなって思うんだが」

「斥候がいると、楽できると思っているな? 斥候の動きに合わせて、連携を取らないと斥候の意味がないぞ」

「大丈夫です。僕がフォローしますよ」

「む、ああ」


 ユークリウッドも加わる。

 ネリエルも危機感は、あるらしい。アキラは手持ち無沙汰で、緊張感が失せつつある。なにしろ、魔物と戦っていないのに次のレベルまでの経験値がどんどん減っているのだ。ステータスカードを見ると、焦る。これでいい気もしないでもないが。これでは、いけない。と、周囲に目を配るのだけれども。暇を余して、剣に稲妻(サンダー)を纏わせようとしてみる。しかし、やはりできない。奪ったスキルに魔術詠唱があるので、できない事もなさそうなのだが。


 魔術詠唱と火系の魔術。

 それで、できそうな物なのに。魔術士というジョブか付与術士というジョブが無いためだろうか。であれば、ジョブを奪えるといいのだが。そこまでできれば、強奪スキルと言えるだろうに。スキルだけを奪ったところで、適正がないので使えませんとか。酷い。アキラは、何度も試すが火は出ても剣があぶられて使い物にならなくなるだけだった。


 前方から、敵がこない。ユークリウッドの方を見て、


「もしかし、あの2人って相当にできる奴なの?」

「んー、どうなんでしょう。一応、与作丸は忍者の頭でニンジャマスターですよ。シルバーナは盗賊団の一員です。与作丸は、分身の技とか得意ですね。催眠とか不動金縛りのジツ……じゃなくて術。とか。視線を利用した忍術とかを含めて、火遁がメインでしょうか。放火させたら、彼に勝てる忍者はそうはいないんじゃないでしょうか。あ、ちなみに忍者は弟子とか取らないので忍者になりたいと思っても難しいですね。でも、スキルを奪うと……これは止めといたほうがいいかもしれません。仇となると、与作丸はしつこいです。子分1人でも、かなり執念深いですよ」


 忍者だから、ちょっと憧れる。苦無と手裏剣をしゅぱしゅぱと飛ばしてみたいのだ。しかし、アキラはそれほど器用ではない。死んだ忍者からスキルを奪うなという事か。残念だが、アキラはそれを断念して自力で忍者になるしかないようだ。とはいえ、騎士もまだなので剣士を早く脱却したい。不意をついて現れる魔物というと、コウモリことバットくらいだ。


 赤いバットだと非常に危険らしい。ゲームだとただの雑魚。そのコウモリが、首筋を目掛けて襲い掛かってくる。剣で斬るとか言っていられないので、盾で殴りつけると。嫌な手応と共に、コウモリが地面に落ちる。黒いコウモリはわかりずらい。その上、数が多いと防ぎようがないではないか。


「伏せて! 火網(ファイアネット)!」


 ユークリウッドの手が赤く光る。火属性の魔法を使おうというのだろう。ユークリウッドに言わせると、魔術らしいけど。手があやとりのように動く。そして、その赤い輝きが網を作ると。ブラックバットは、全滅した。1匹残らず網で絡めとって、肉が焦げた臭いが漂う。頭の上には、もうコウモリの姿はない。ネリエルとアキラの2人で挑んでいたらどうなっていただろう。


 きっと、コウモリにすら勝てなかったに違いない。魔法、もとい魔術は重要だ。魔術士の仲間が欲しい。或いは、魔術を真剣に覚えるべきだろう。夜は、さし控えて勉強するべきなのだ。やってばかりいるから、頭を地面まで下げて屈まなければならない。強ければ、なんでも通る世界なのだから。強くなければ生きていくことも堂々とすることもままならないようだ。


「コウモリ。やばいわ」

「ええ。単体でいる事が少ないので、ゲームのように1匹ずつ相手にするとかいう事ができないんですよね。むしろ、ゴブリンとかオークを探すほうがマシかもしれませんよ。魔術士がいないと、対応できない事が多いですし」 


 ゴブリンを探すのが面倒だとか、言っていられないようだ。マールとイチャイチャするのも、控える必要があるだろう。しかし、イチャイチャしたいのだ。年頃の男子高校生なのだから、当然といえる。違うだろうか。アキラは、モテなかった。モテなかったから、この世界ではモテたい。男として、女にモテたいと思うのは自然の欲求のはず。それを否定するかのようなユークリウッドの態度が、わからない。


(俺は、ホモじゃない。ということは、あいつがホモなのか? ……わからん)


 モテモテになりたい。きっと、誰もが思うはずなのだ。ちやほやされたいし、女の子に囲まれて生きていたいのだ。ついでに、この異世界で禿げを直す手段を見出したい。育毛企業の世話にならないように。金がかかるのだから、金のかからない手段で。治すのだ。


 倒したコウモリことブラックバットから、スキルが盗れた。【吸血】、【かじりつき】、【夜目(ナイトビジョン)】、【飛行(フライ)】。【夜目】はなかなかに強力なスキルだ。夜でも遠くを見通せる。【飛行】は、使い難い。【飛行】を使ってみたいが、迷宮の中である。どうなるのか。【かじりつき】は、その名の通りだろう。試してみようにも、アキラの歯はそれほど丈夫ではなかった。


「スキルの練習は、どうですか。上手く行ってますか」

「ん、と」


 いきなりの質問に戸惑った。アキラが、スキルを使っている事などお見通しなのか。

 

(コンボ技に進化とかしないんかねえ)


 楽したい。

 コンボになれば、ラッキーなのであるけど。コンボ技にならないのだ。ついでにいうと、アキラは剣士で育成していたので、ある程度のコンボを期待せずにはいられなかった。


「あっ。そういや、あのブラックイーターからスキルが盗りたかったなあ」

「危険です。側に寄るだけで、あれに乗っ取られてしまうかもしれませんよ」


 黒いスライムは、惜しい事をした。何しろ、ユークリウッドが真面目な対応してしまった。どんなスキルがあるのか気になるのだ。

 またここに来る事があれば、ブラックイーターとバッド対策をしておく必要がある。その日は、ネリエルと罠を避けるだとかスキルの練習になった。【雷光剣】が使いたい。勇者っぽいので、使いたい。ユークリウッドに視線を送ると、顔を赤くして背けた。


(まさか、本当のホモか。ホモショタか?)


 すると。横から手が伸びて、アキラの顔面に手が。背が高いのに、宙に浮いた。力強い女の子が怖い。 

 


  

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