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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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94話 アキラの事情35-36 (アキラ、マール、ネリエル、ロメル)

「大将、平気なのか」

「大丈夫ですよ」


 血まみれになって帰ってきたユークリウッドは、風呂に入るつもりのようだ。そして、そのまま用事が色々とあるとか。レベル上げを手伝ってもらいたかったのだけれど。迷宮にいくのは次の日になってしまった。アキラの最大の目標は、地力を上げる事。従って、レベルを上げないといけない。


 なので、開墾のバイトとクラブの死体を集める仕事を引き受けた。マールは、事務所で仕事だ。ネリエルを連れて、町の外に出ると。蟹の死体を台車に乗せて運搬する。


「ひでえ臭いだな」

「ご主人様は、ユークリウッド様と仲がいいのか?」

「大将と? 知り合ったばっかだな。けど、まあ。なんか優しいよな。俺には好都合だけど、あんなに甘くていいのかって思うぜ」

「そうか」


 困った。ネリエルの言葉遣いがなっていないのにも、困った。レベルを上げるのには、ユークリウッドの力が不可欠。ぜひともに欲しい。パーティでの不測の事態にも余裕を持ってしのげる。町の外に現れたビッグテール・クラブリーダーは強敵だったのに、あっさりとセリアとユークリウッドが倒してしまった。町の外は、ユークリウッドの家臣バランが率いるモヒカン部隊が防衛している。


 クラブの死体集めは、金になる。死体が重いので、荷車を押すのも力が必要だ。それに、生きている場合は戦闘になるので命がけの仕事でもある。ネリエルが押して、アキラが引っ張った。他にも冒険者が仕事を引き受けていたが、そこも似たような人間が似たように押していた。大変だ。


 クラブの死体集めをちょこちょこやって。ラトスク周辺の開墾を手伝って、汗まみれになった後で戻ると。風呂場は、人でいっぱいだった。汗を落として、ロメルの居る事務所に入る。ロメルが、玄関で帳簿をつけている。涼しげな顔に、むかつく。


「冒険者は集まってんの?」

「貴方に言われたくないですね。招集に応じろよ」


 視線が交差する。ロメルはいけ好かない獣人の男だ。年上だかなんだか知らないが、ユークリウッドの事務所で執事のような姿をしている。顔にはメガネをして、これまた気に食わない。冷静沈着といった風情の腹黒メガネな風体だ。ユークリウッドとの関係が、どのような物なのかしらないがアキラにとっては面白く無い。


「で? でてどうなるんだよ。俺がでてよ」

「まあ、数としてはただの1ですがね。おっと、新しい奴隷ですか。貴方には勿体無い美女だ」


 ぶっ殺してやりたい。強奪スキルを使って、無力化したあとでじわじわとなぶり殺しに。それを知ってかしらずか。


「くふっ。貴方には、特別なスキルがあるとか。ですが、慢心しない事です」

「なんだとっ!」


 かっとなるような物言いだ。


「監視されてますよ。迂闊な事はしない方がいい」

「なにいぃ。どこだよ」


 周りを見るが、それらしい人はいない。ロメルが窓を指さす。と、耳が見える。建物の上に。


「気づきませんか」

「チッ。本当に見張りがいやがる。うぜえ」

「わかりやすく配置しているだけ、マシだと思いますけどね。俺なら、わからないように配置する」

「なんでだよ。気が付かれたら、不味いじゃねえか」

「ユークリウッド様は、あんたを排除する気がねえって事だよ。わかんねえのかよ」


 はっとなった。


「ちょっと待て。見張りをつけるって、監視してるって事だろ。それって、消す気まんまんじゃん」

「はあ。これだから、馬鹿の相手は困る。いいか。あんた、日本人なんだろ。もう少し、頭を使え。消す気なら最初で消してるだろ。未だに、スキルを解放した挙句に手元に置いてるって事はだ。期待してるってことじゃねえか。で、暴走しないように見張りをつけているだけだろ。変な事をしたら、鞭打ちくらいだろうさ。それでもわかんねえのなら…ま、今後に期待するしかねえんだろうがよー。殺しちまう方がはええだろうに」


 ロメルは、乱暴にいう。執事っぽく燕尾服を着た獣人は、獣毛に覆われた手を組む。


「つまり、下手な事すんなでいいのか」

「まとめりゃ、そうだ。スキルで好き勝手するようだと、さすがにかばいきれんだろってこった。すぐに、わかれよな」


 アキラは、ことここに至ってもよくわかっていなかった。期待は、されている。しかし、同時に油断もしていないようだ。でなければ、為政者などやっていられないだろう。アキラは、面倒な事が嫌いな口だ。獣人のロメルはむかつくが、敵対してもあまり良さそうな事がない。なので、下手にでるかといえば。


「うっせーな。そんな事はわかってんだよ、馬鹿」

「なんだと、この野郎。表へ出ろや」

「負けて、後悔すんなよ!」


 表へ出た結果、2人ともあざだらけになった。


「くそっ。とめんじゃねえ、マール。男には、白黒つけねえといけねえ時があんだ」

「駄目ですよ。これ以上は」

「あの野郎。物いいが、気に入らねえ」


 野次馬が事務所の前に集まって、炊き出しの邪魔だった。勝敗がつきそうにないのか、止に入ったのは、マールだった。そのマールが心配そうにアキラを見ている。手当してくれたのは、ありがたい。が、黙っていられない時だって男にはあるのだ。アキラは、ユークリウッドと戦うつもりも気もなくなっているがロメルがうざい事をいう。言われなければ、気づかないような事なのに。


 アキラと同等かそれ以上にロメルは強かった。殴り合いでも、手加減されている節が見えて、それがまた劣等感を刺激する。


(ケンイチロウでも探せば、手柄になるんだよなあ)


 時を操るチートだ。有用に違いない。

 別に、味方というわけでもないのだし。売り飛ばすという事にも見えるので、気がひけるだけだ。さりとて、この状況。何かユークリウッドにしてやれる事がないものか。恩を受けるばかりで、返せないというのはつらいものだ。相手が、それを要求してこないだけありがたい。


 強奪の勇者といえば聞こえが悪いし、能力のほどは大したことがない。


 せめて、射程無限で対象をとれるとか。強制的に格上の相手からでも能力を剥ぎ取れるとか。そういうのであれば、強力なスキルなのだが。アキラのスキルは強奪にも関わらず、相手が死んでいる事が条件であったり触れている事が条件であったりと。強くない。どういうことなのか、神様に問いただしたいくらいだ。


(ケンイチロウはどこいったんだろうな)


 仲間が必要だ。ユークリウッドは、色々と手助けをしてくれるが。もっと、いる。

 こちらの世界に移動してから、他の転移者に会っていないのだ。それらしい人間といえば、ユークリウッドくらいのもの。彼は怪しい。日本人なら、山田だとか黒髪の人間が居たりするのだ。話をしづらいけれども。割腹のいい土方の兄ちゃんといった風体をしていて、声をかけづらい。


 そもそも、日本人だからといって好意的であるとは限らないのだ。獣人にだって好き嫌いがあって、ロメルとは馬があわないのである。話しかけて、下に見られるのは嫌な物だ。どうしたものか。アキラの予定では、午前中はボランティアとクエスト。午後もクエスト。今日のノルマを消化する予定でいる。日がくれようとしているが、


(そうだ。折角、能力が解放されたんだからクラブから能力を集めるべきだな。そうしよう)


 能力が、上昇すれば有用なスキルもあるに違いない。ラトスクの町には盗賊も居そうなので、それを〆てお宝を頂戴するのもいい。悪を成敗するのは、よくある定石なのだし。 


 事務所では、ロメルが腫れた顔をしていた。視線が合うと、そっぽを向く。マールがぺこぺこしているのも気に食わない。事務所の奥は、コーヒーが出るカウンターになっていた。コーヒーが出るというか、給仕してくれる獣人がいる。酒もでるようだ。真っ昼間から飲んでいるのは、誰であろうエリストールだった。ティアンナは、上機嫌で麺が乗った皿をつついている。


 その隣に、見かけない黒髪の美少女が座っていた。横顔は、好みだ。白い服に、肩に黄色い飾りをつけた学生なのか軍人なのか。両方にも見える黒髪の少女だ。後ろ姿は、そう見える。後ろに、空いている席があるので座ると。正面に座ったネリエルが尋ねてくる。


「どうする」

「もっかい、クラブの死体集めだな」

「もう、夕方だぞ」


 もう、とは。時間の感覚が違うのか。


「まだ、夕方だろ」

「夕方になれば、太陽が落ちる。寝るべきだ」


 夕方でもアキラにしてみれば、仕事をする時間だ。だが、前の席に座るネリエルは狼の獣人で太陽が落ちれば寝るつもりらしい。獣人なのだから、そんなものかもしれない。これで、よく戦争をやってこれたものだと思う。カウンターに座る少女が気になるが、ネリエルがじっと見つめるので視線を動かせない。話かけたくとも、エリストールもティアンナもアキラを気にかける風ではなかった。


 ギルドまでいって素材の買い取りをしてもらうのも、それなりに金になる。


「じゃあ。ネリエルは、寝てくれ。飯は、ここでいいよな」

「ああ。それで、ご主人様はどうするんだ」

「少し、金を作らんといかんから。まだ、寝れんわ」

「そうか」


 ギルドにいくか。それとも、ユークリウッドに買い取ってもらうか。果たしてどちらがいいのか。マールが、蟹の肉で唐揚げを作ってきた。そのままアキラの隣に座る。

 そのマールが。


「えっと。ご主人様、ここで買い取りをしてもらった方がいいのでは? 持っていく手間が省けますよ」

「なんだと。そんな事、ロメルの野郎は言ってなかったぞ」


 熊耳の獣人に、腹が立つ。


「ですから、仲良くした方がいいと思います」

「マール、頼む」

「しょうがないですね。本当に」


 困った顔になったマールがロメルの方に歩いていく。すると、ロメルはメガネを触りながらアキラを見てニヤッとした。むかつく。

 ぺこぺこしたマールが戻ってくると。


「全部で、5万ゴルだそうですよ。やりましたね!」

「チッ。あいつ、全部わかってやがったんだ。気に食わねえ。つっかかってもしょうがねえのは、わかってるけどな」

「喧嘩は、止めてください」


 マールに、精神的負担をかけるのもいけない。男がすたる。

 しかし、ロメル。外に出た時に、見積もりをしていたに違いない。そうして、色々とアキラの事情だとかそんな事を読んでいたのも腹立たしい。


「蟹の肉はどうするんだろうな」

「それでしたら、冷凍保存するとかいう話ですよ。お肉は焼き肉か鍋かに使うとか。殻は、加工して武器や防具に使われるみたいです。南西の方にある町や村は壊滅的損害を被っているみたいです。千人単位の部隊が編成されるみたいですけど、レベルの無い方が多くて。ユークリウッド様とセリア様が頼みとかいう話です」

「やばいな」

「そうなんですよ。だから、ロメルさんの話も聞いてあげてくださいね」


 腸は煮えくり返るけれども、そのような状況なら仕方のない事かもしれない。アキラがクラブから盗れたスキルは、【切断】だとか、【振り下ろし】。【泡を吐く】とか使えないスキルが取れてもしょうがない。【再生】なんてのもあるが、これはこれでどういう再生をするのか。蟹だけに、足が再生するような感じなのか微妙だ。


 南の方へと向かうか。夜になると、マールとイチャイチャして寝るのが普通だったが。金が要るようになれば、そうも言っていられない。クラブの死体集めは、なんとしてでもやっておきたい仕事だ。と、ネリエルの横にセリアが座る。どこから現れたのか。


「ユークリウッドは?」

「帰るとか言ってましたよ」

「ミッドガルドか。お前、少しは強くなったのか」

「それが、死体ばかり集めてますね」

「筋力のトレーニングだと思えばいい。トレーニングは、重要だぞ」

「前向きですね」


 銀髪の幼女は、隣にいるネリエルを見て。訝しんだ。


「ああ。こいつは、アキラの知り合いか」

「奴隷です」

「ふうん。似つかわしくない。レベルもアキラより大分上じゃないか。よく奴隷に出来たな」


 ドキッとした。レベルが上だとか。そんなはずはない。【鑑定】を使うと。


【種族】黒狼族

【性別】女

【レベル】55

【職】狼戦士

【能力】強靭 俊敏 自動再生 獣化 かばう 振り回し 咆吼 斬る 受け流し 強打 狂乱 

挑発 

【状態】良好

【加護】狼神

 

 おかしい。レベルが無いとか言っていなかっただろうか。


「ね、ネリエルってこんなレベルだった?」

「ばれたのなら、仕方がない。そうだよ。お前に、買われるとは思っていなかったからな」

「まさか」

「そのまさかだ。ユークリウッドが買うのだとばかり思っていたから、大安売りで売りたくもないのに売られる身になってみろ。今もキッツの奴を八つ裂きにしてやりたいと思っているくらいだ」


 愕然となった。当て馬とは、言いようがない。

 カウンターに座る少女たちが、くすくすと嘲笑っていないだけマシか。アキラは、額に手を当てると。セリアは、テーブルの上に乗っている唐揚げを頬張りながらいう。レモン汁をかけた美味しい一品なのに。容赦がない。


「落ち込んでいるのか? そう、気を落とさずともいいと思うが」

「いや、落ち込むだろ」

「前向きに捉えるた方が、建設的だと思うぞ。ちょうど、そこに風の魔術をよくする女とかいる。盾技に優れた騎士とか、騎士で魔術士で弓手とか器用貧乏なおっぱいもいる。色々、教えを乞うのもいいんじゃないか?」

「あんた、悪魔のような奴だと思ってたけど。…良い奴だったんだな」


 すると、幼女の顔が一変した。


「ちょっと表へ出ろ……」

「ご主人様……」


 地雷を踏んでしまった。セリアが、アキラの足を掴む。誰も助けてくれない。

 涙目のマールが、ハンカチを振っている。


(泣くより、助けるべきところだろおおおおお!)



 

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