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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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93話 開墾しようと思ったら (ユウタ、アルーシュ、セリア、DD)

 かつてに比べれば、ずっと強くなった。

 しかし、先は長い。一撃で、銀河ぐらい破壊してみせねば。最強とはいえないだろう。

 ユウタの能力はユークリウッドの物とはいえ、それを磨いてきたのは己のものと同じだ。大抵の魔術は卒なくこなす。領地もある。兵隊も育成している。一国の主とはいかないが、一城の主といって過言ではない。だというのに、その主自ら最前線で畑を耕している。


 そう。今日は、春が近づいてきたという。なのでいち早く耕作に入る。ラトスクの住人を動員して、町の周辺を開墾だ。魔物の姿はほぼ見えなくなってきたのが大きい。にやにやが止まらない。畑をつくるのはセリアとユウタで、アルーシュはやはりというか見ているだけ。DDを手に遊んでいる。セリアの鍬が高速で残像を描く。


「暇だな」

「暇じゃないです」

「セリアもそう思うだろ」


 アルーシュは、相変わらず手伝おうという気はないらしい。セリアがぶんぶんと尻尾を振っている。嬉しいというより、怒っているようだ。


「暇ではなく、サボっているだけでは?」

「容赦がないな。だが、私はこれで色々と疲れる事もあるのだ。ここではリラックスしていたい」


 金髪を纏めた幼女は背もたれのついた椅子に座っている。時折、背もたれを倒して横になる有り様だ。畑を耕そうと、アキラやエリストールといった面々まで手伝っているというのに。畑には、水が必要だ。耕すだけでは作物も育たない。ラトスクの町には井戸を色々と掘った。草履を作ったり、下水道を整備したりした。


 食料を供給できるように、魔物を退治して食料の変わりに提供してみた事もある。炊き出しだけでは、己の身代がやせ細るばかり。商売をやって、金を巡らせなければならない。その一環で、革靴を生産させてみたりもしたがこちらはあまり売れない。安すぎるというよりは、獣人の爪が問題だった。


「これが終わったら、王都に行ってみるかな」

「なんだと!」

「そうだ。急用を思い出したぞ」


 アルーシュがバックレた。都合が悪くなると、急に腹が痛くなったり急用を思い出すのだ。性懲りもなく、突然言い出した彼女にあきれていいのかどうなのか。


 セリアの父親と会うのが怖いのかもしれない。怖いが逃げたりなどしない。


 影に溶けたアルーシュは、ミッドガルドに帰っていったのか。どこぞで様子を伺っているのかもしれないが。そんな彼女と入れ違うようにアキラがやってきていう。


「アル様は、どうしたんだ」

「どうしようもないですよ」

「そっか。とっておきの策を思いつたんだが」

「ええ? なんなんですか。それは」


 セリアの国をよくする策なのであろうか。ユウタは、思いつく限りの策をやっていく予定だ。何か他にもいい案でもあるのか。アキラの顔をじっと見つめると。


「いや。大将には、あんまりいえないわ」

「?」


 何なのか気になる。アルーシュあたりと悪巧みでもしているのか。ただでさえ、ティアンナとエリストールを持て余しているというのに。セリアはDDをお手玉にして遊んでいる。それからボールのように、どこか遠くへと投げた。ぴゅーっと流れ星のように豪快に飛んで行く。なんで投げるのかわからない。


 アキラに視線を戻す。


「いや、だって無理だから。なあ、女の子の相談だからよお。察してくれよ」

「いいですけど」


 面白いはずがない。と、門の外が騒がしい。

 

「何かあったみたいだぜ。行ってみよう」

「ええ」


 町の外縁部が広がって、長屋が立つその入口にゾンビの群れかと見紛う人々が現れた。それが、最初誰なのかわからなかった。が、頭が禿げ上がっているなりと、特徴的な仲間を連れているのでそれがアキュたちであることがわかる。誰も駆け寄らないので、周囲を押しのけていくと。


「これは、申し訳ない」


 ばったりとアキュが倒れてしまった。後ろに続くユッカやナタリーもよろよろと歩いてくる。すぐに救護をするべく簡素な棒で作った担架を用意させると、空いている長屋に運び込む。重体だ。


「どうしたんだよ。これ、南の防衛に向かった部隊じゃねえの」

「嫌な感じがしますね」


 事情を聞けそうな人間から、そこの所を聞きたい。元気な人間が、まるでいない。

 隣に立つ人型をとったセリアがいう。


「南に行ってみるか?」

「直球だね」

「聞くよりも見に行った方が早いだろ」

「アキラさんはどうしますか」

「俺、ねえ。いいけど、役に立つのか?」

「魔物からスキルを剥ぎ取るだけに限定していただけるなら、封印を解きましょう」

「マジで?」

「マジです」


 いえば、ひどい言い草だがーーー使えない。アキラは。

 スキルが無ければ、一兵卒にも劣る能力値なのだ。

 セリアがアキラの胸を突く。


「世紀末な技だよな。これ」

「経絡の門は、大体似ているからな。それよりも、どうだ。スキルは使えるようになったか」

「ああ。ステータスカードは、封印が解かれたと出てるぜ。でも、あっさり解いちまっていいのか? 裏切るとか思わないのかよ」

「馬鹿め。裏切っても即座に倒せるから、解かれたのだ。つまり、お前は敵にならない。もちろん、敵対して欲しくはない、とユーウのやつは思っているだろうな。私は、大歓迎だ」


 アキラは、冷や汗を流す。セリアの目が獲物を見る目になっていた。


「勘弁してくれよ。それはそうと、俺たちだけで行くのか? 守備隊がやられたんだろ」

「それは、問題ないよ。増援は、呼べるから」


 転移門を開いて、呼び寄せる。その人間は、領地でも指折りの悪相をした男だ。


「も、モヒカン。肩パット! どなたさまよ」


 アキラは、転移門を抜けて現れた人物に後ずさった。


「こちら、バランさんです。僕のとこの兵隊だよ」

「坊っちゃん。いきなりですね」

「うん。ちょっと守備をお願い」

「俺、壊すのは得意なんですがね。守るのはどうも苦手で」

「僕のいうこと聞けないんだ」

「いえ、そんな事言ってませんぜ。ただ、どうも苦手な事だと失態をしでかしそうだなと」

「守りきれない時は、仕方がないよ。想定していたよりも、ずっと魔物が強力みたいだ」


 バランの背後には、モヒカン部隊が勢揃いしている。そちらの方は、髪というよりも兜がたてがみを立てる飾り付けがついているだけなのだが。モヒカンと言われるのはバランのせいだった。部隊の柄が総じて悪いのではなくて、人相が悪いのばかりそろっているために言われているとか。どちらにしても、外見と中身が稀にしかないほどアンマッチだった。



 バランの指示で、機敏に動く。


「それでは、ぼっちゃん。たまには、領地の方にも来て下さい。皆寂しがってますよ」

「そうだね」


 領地は、順調すぎるぐらい順調な経営状態だ。盗賊団が現れるだとか、災害が起こって水浸しになるだとか竜巻が発生するだとか。そういうのも防げるだけの力がある。 


「守らせるのか? それだと、後手に回る。攻めるべきだ」

「手の空いている部隊が、ね。ロシナを呼び戻せるといいんだけど、そうそう都合よくもないし」

「なら、私とお前で掃除した方が早いな」

「この町の冒険者に協力を依頼してから、かな」


 と、アキラを見る。


「んじゃ。俺が行って話をすればそれで通るのか。それともロメルの野郎と話をつければいいのか」

「どちらかと言えば、ロメルだろうな。ドメルに話をつけさせた方が、ギルドは動かしやすい。金がかかるが」


 アキラが走っていく。ティアンナは、事務所からでてこない。のんびりとくつろいでいるようだ。それから、不意に風が吹くと。セリアを見て、ぎょぎょっとなった。セリアが、またパンツを履いていない。


「セリア。パンツどうしたの」

「破けた」

「破けたら、替りの履こうよ」

「むう。手持ちのがない」


 インベントリから、しょうがなく渡す。股間が勃っているのを悟られないように。


「トランクスは、ガバガバだな」

「しょうがないじゃない」


 ブリーフは、履かないのだ。そして、渡したトランクスは日本人に作らせた特注品である。びりびり破かれたのでは替えに困るのだが。セリアは、そんな事は知らずか足を上げたり四股を踏んだりしている。大丈夫なのか。全く危なっかしい子だ。このような状態では、あっさりと誰かに騙されてコマされてしまうのではないか。心配で、気が気ではない。


 黒い皮鎧を着て、同じく黒いグローブを身につけた幼女はいう。


「どうした。心配ごとか。私に任せておけば、何も心配はいらないぞ」

「その心配じゃないよ。セリアが大事なとこを丸出しにしているから」

「む。そうか。心配してくれてるのか。気をつけるようにしよう」


 セリアは、わかってくれたのかわからない。見上げる幼女は、だんだんと近寄ってくる。


「どうした。いかないのか」

「うん」


 と、


「だっしゃあああ」


 幼女がタックルしてきた。どういうつもりか。倒れるところで側転して転がる。タックルしてきたのは、DDだった。幼女な姿をしている。頭には角が生えていた。


「今、何を言おうとしたんだい!」

「え、え?」

「捨てる? 捨てちゃう? ボクを。ティアンナたちも?」

「へ?」


 何のことだかわからない。だというのに、幼女姿のDDはいう。


「この、ドグサレがッーーー!」


 足にしがみついて、わんわん泣きだした。


「今、セリアを選ぼうとしたよね! 絶対したよね! セリアだけを見つめていこうとか! ボクを捨てちゃうの。捨てられちゃうのん…」

「そんな、そんな事いってないし」

「いーや、言おうとしてたもん。ボクにはわかるもん。けっこう、ぐらぐらきてたよね。セリアのポンコツぶりにっ! 守らなきゃって思ったよね。ええ、わかるもん。ぐすん」


 滝のような涙を作る。幼女は、周囲の耳目を集める。


「やだーやだー。捨てないでー!」


 獣人たちも日本人たちも奇異の目で見ている。困った。DDの頭を撫でると。


「わかった。わかったから、泣き止んでよ」

「何がわかったってのさ。わー。捨てられちゃうんだ。ボク」

「ふっ。どうやら、ユーウは惚れてしまったか。この私に」


 もはや、この場に留まるのも難しい。と、歩き出す。足にはDDがしがみついたままだ。

 と、


「大変だ! クラブの群れが町に迫ってるぞ」


 大変な事になった。


「ふ。負け犬ならぬ竜は離れてもらおうかっ!」

「ふぐう。ふぐうう。やだよう。やだよう」

「だから、言ってないじゃないか。俺が信じられないのか」


 足を引っ張るDDとそれを剥がそうとするセリア。町の外には蟹の集団が迫っているというのに。


「さっさと迎撃しないとまずいんだよ。離れて」

「本当に、捨てない?」

「…本当だ」

「しつこい竜だな。おとなしく諦めて竜界に泣きダッシュすればいいものを」


 DDを放置しても不味い。といって、セリアをこのままにしておくのも不味い。どこをどう曲解すれば、セリアが好きになるのかわからないが。町の外縁部まで移動すると、蟹の集団が海を作って町に接近しつつある。畑を作ろうというのに、始めた場所から蟹でままならない。


 小さな蟹でも人間大の大きさだ。


「やれるか。巨人なしで」

「んー俺ので十分だけど。ま、落とし穴だけで対処できそうだけどな。空中から電撃で倒すか、殴って倒すか。どっちでもいいけど」

「援護、頼むぞ」


 セリアが外壁を飛び降りると、蟹の群れに突っ込んでいく。獣人たちは、続こうという者はいない。

 DDは足にしがみついたままいう。


「ロボット無しでいいの。なかなか強力なのがいるじゃない」


 蟹を遠距離から電撃(ライトニングボルト)で仕留める。ただそれだけだ。魔力が切れそうになると、危ないが。接近する方がもっと危ない。強酸を吐く蟹もいて、それを避けられるとは限らないのに。セリアは接近戦を選んだ。


 火系の魔術で支援も可能だ。電撃も強力だが、光線じみた魔術も使用可能。なので、手にワンドを持つと。


「ファイアレーザー!」


 ワンドから伸びた火線(ファイアレーザー)が、蟹の集団を薙ぐと。爆発した。セリアは、避けられたであろうか。


「チィッ。当たってないじゃないか。もっと、よく狙わないと!」


 DDがけったいな事をいう。この魔術、敵をなぎ払うには持ってこいの術なのだが。あまりにも強力なので、迷宮では使いづらい。迷宮で使って、壁を破壊すると壁から崩壊が始まるか魔物が現れるか。どちらにしてもろくでもない。その上、ダンジョンマスターからは危険人物として狙われるだろう事は間違いないのである。迷宮を運営しているから、こそわかる話だ。


 DDは、もっとよく狙えという。しかし、薙ぐのは危険だ。散発で連射すると。


「あれ、でっかいねえ。蟹というよりロブスターかザリガニっぽいね。あれ、どう?」


 でかくて赤いザリガニっぽい魔物が町に迫っている。セリアは、その周囲にいるクラブの相手をしているようだ。バランの指揮するモヒカン隊は、討ち漏らしたクラブを相手取っている。


 きりがない。

 クラブを殴り飛ばしながら、突き進むと。


「せあっ」


 ザリガニの足を叩いた。巨大なハサミがくるよりも先に、足をへし折る。動きを止めて、頭をかち割る予定だ。と、セリアが同じように足を反対側から潰して上がってきた。先に仕留める。拳を巨大な頭部に叩きつける。次いでセリアの足が落ちてきた。敵を狙ったのか。それとも、己を狙ったのか。ユウタにもわからない。


 砕ける甲羅と吹き出す汁。ハサミが落ちていく。セリアの足がそのまま横薙ぎにきた。


「ふっ」


 勝負をこの場でするつもりか。セリアの連撃は止まらない。横から縦に、反対の足が顎を蹴りあげようと迫る。ダミーだ。くるくると回るセリアの攻撃を避けながら、背中を殴った。手応えがある。セリアは、くの字のまま赤い甲羅にくるりと着地した。


「やはり、こうでなくては!」


 昂ぶっているようだ。腕組みをしたまま飛び上がると、そこからかかと落とし。避けると、また甲羅が2つに割れた。そこから裏拳がくる。受け流すと、金的を狙った蹴り。足の勢いを殺しながら、そのまま乗ると。


「破っ!」

「むんっ!」


 寸勁を込めると、セリアもまた同じ攻撃だ。互いにダメージを受ける。と、セリアはふらふらと足を動かす。ブラフだ。この程度の攻撃でダメージを追うのはおかしい。腹部を痛打したのなら別であろうが。のけぞった格好で幼女が接近してくる。体勢が悪いというのに、スピードはゆったりとしている。滑らかに、それでいていつでも攻撃できるという。


 のけぞったまま、ぴたりと止まる。攻撃するタイミングをはかっている。罠も用意しているのだろう。負けられない戦いだ。ザリガニもどきの足が動く。ざくざくと、自らの頭部を足が突き刺す。セリアは避けて、そこから足を蹴りで破壊する。死んでいないのか。破壊された頭部と足からは、赤い液体がシャワーのように噴き出している。酷い光景だ。セリアは、まだやる気だ。付き合うのも一興。


「おおおお!」


 腕を左右にしてセリアがぐるぐる周り始めた。風が生まれる。やがて、竜巻になって突進してきた。

 DDを足から引っぺがす。と同時に投げつけて、同じように飛び込む。


「何!」


 竜巻に突っ込んでくるとは考えなかったようだ。すんなりと抜けて。DDは、セリアにぽかぽかなぐりかかっている。

 微笑ましい。DDが竜巻を無効化したようだ。飲まれてみるのも悪くなかったが。


「しまった」


 セリアの手首をつかむ。と、後ろでに掴み上げて足で技をかける。


「参った。痛い」


 強気なセリアが涙目になって降参した。プロレス技は、強い。何しろ、四肢がもげる。技を外すと、起き上がって殴りかかってきた。懲りていない。手で拳を払う。カウンターで肘をセリアの顔面に突き出す。


「? 何故やらない」

「殴れないよ」


 セリアは、必殺の雷光無双突きを繰り出してきた。クリンチして、やり過ごすしかない。DDがまるで役に立ってないのが、気にかかる。蟹の血で2人とも真っ赤だ。今日は、もう開墾できそうもない。




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