91話 強奪さんの事情23-30 (ユウタ、アルーシュ、モニカ、ミミー、アキラ、ネリエル)
「アキラといったか。貴様、こいつの見張りくらいはできそうか」
「いっ? そいつを本人の前で言いますか」
「アキラさん…」
アルとユウタとの間に挟まれて、アキラは首を行ったりきたりさせている。狼男の死体を回収しながら、アルがアキラを赤い刀身の剣で突いた。炎を吹き出すと、一定時間刀身が赤くなったりするのが特徴だ。しかも、機能はそれだけではない。
アキラは、目を下に落とした。どっちにも付けない。
「すいません。意味が、わかりません」
「見張りだ。わかりやすくいえば、だ。こいつが、他の女といちゃいちゃしたりするのを妨害したりやりそうになったら阻止するという役目だな。これは、非常に重要な任務だ。シグルスに任せたいのだが、奴はミイラ取りのミイラになりそうだからな。受けるよな?」
「また、そんな勝手な事を」
爆発していい。とアキラは思った。可愛い子に言い寄られて羨ましいと。
アキラは、ネリエルとマールを手に入れたが雪だるま式に借金が増えている事に頭が痛い。住む場所は用意してもらったが、いつまでもユークリウッドの世話になるのもどうかと思っている。
(どうみてもリア充だよなあ。ただし、相手が男の娘だけどな)
伯爵の息子で、王族とも仲がいい。将来は、結婚するのだろう。ウォルフガルドでは、セリアという王族と婚姻を結ぶのかもしれない。まさに、ハーレム王だ。本人が望むかどうかは別として、アキラが目指す物をそのまま持っている。アキラは、冒険者ギルドで薬草採取などのクエストを受けていた。しかし、金を稼ぐには大量に持って帰ってくる必要がある。空間収納系のアイテムかスキルが必要だ。
(なんか甘いし。くれねえかな)
ユークリウッドは、なんだかんだで甘い。甘すぎるくらいに甘い。なんでであろうか。日本人を厚遇する理由が見つからない。
(俺が日本人だってわかるのは、黒髪黒目だからか。まあ、それはわかる。でも、なんで厚遇するんだ? 外人を厚遇する理由がわからねえ)
アルの攻撃で、魔物は大抵一瞬で倒れていく。ワーウルフも出会えば、一瞬で消し炭だ。【焼きつくす灼熱の赤】を手にした王子は恐るべき相手だ。敵対しようとは思わない。通路をてくてくと進んでは、魔物を倒して。2階をずんずんと進んでいく。
(魔物の戦っている内に、すげえレベルが上がってやがる。あれ、俺って戦う必要がない。けど、やべえな。役に立ってねえ)
ユークリウッドは、ローブの袖に死体を回収していく。羨ましい。アイテムの回収が、迷宮での収入源になる。パーティーの収入は、潜ってどれだけ回収できるかにかかっていた。ユークリウッドは、立ち止まると。
「はい」
「おっ。おお。これ、ソーダ? ソーダじゃねえか!」
「ラムネですよ。いや、レモネードなのかなあ」
細い瓶に入ったそれは、間違いなく懐かしい炭酸飲料だ。
「私にもくれ」
「100ゴルになります」
「生憎と持ち合わせがない。付けといてくれ」
「わかりました」
いいのか。
「ぷはー。埃っぽいのが難点だが、迷宮で飲むこれは最高だな!」
ふんぞり返ってアルがいう。ホモの王子だが、ラムネの良さはわかるらしい。しゅわしゅわした炭酸が喉と胃を潤す。人類の発明に、ソーダ水は素晴らしいの一言だ。アキラは、何か食べたくなった。すると。
「これを」
「おお! これは、まさか」
イカの干物ときな粉をまぶした物体が出てきた。ローブの袖から。何でも出てくるような勢いだ。
(すげえ。こいつ…気がきく!)
手にとって、口に運ぶ。きな粉の物体に楊枝が刺さっていた。どこか駄菓子風だ。歯で咀嚼すると、柔らかい。餅か。
「風味といい。味といい。こいつは…きな粉餅!?」
「ええ。日本人に作ってもらいました」
驚きだった。異世界に来て、食える日が来ようとは。夢にも思っていなかったからだ。ユークリウッドの足元には、銀色の犬、もとい狼が出現している。何時の間に。そして、ユークリウッドの出したきな粉餅をぱくぱくと食っている。
「セリア、はしたないぞ」
セリアと呼ばれた狼は、小さい。セリアは、制止しようとするアルの手をすり抜けてきな粉餅を食い漁る。ユークリウッドは、困った顔をして次を出すのだが。セリアは急に転がった。
「言わんこっちゃない。ラムネを出してやってくれ」
「はいはい。ほら」
セリアを抱えると、ユークリウッドはラムネの入った瓶を狼な幼女に飲ませる。セリアは、狼に化けられるのか。セリアと呼ぶからには、そうなのだろう。魔物を相手にしているのは、モニカとミミーだ。何気に、盾と斥候で、コンビになっている。ネリエルは荷物持ちだ。
(マールも連れてこられればよかったんだけどなあ。腰が抜けて、駄目みたいだしな。それにしても、駄菓子っぽい。もっと食いてえ)
アキラは、よくも自分が子供っぽいのを自覚している。しているのだが、同時に大人になるとはなんなのかと悩んでいた。この世界に来て、魔王を討てと言われても現状は魔王の仲間か手下になっているような有り様だ。その配下である幼児を相手にしても勝負にならないだろう。口の中は、きな粉の餅で一杯だ。くちゃくちゃと咀嚼して、ラムネを飲む。
最高だ。
程よい疲れと、小腹が空いたところで休憩。アキラもこのようなパーティーを構成したいが、仲間が少ない。剣士や戦士といった前衛は揃えやすいようだ。となると、結局のところユークリウッドのように魔術士になるしかないのか。魔術は、苦手だ。精神が削られて、疲れる。疲れると、セックスしたくなるのは普通だった。アキラはハーレムが大好きだ。
(ユークリウッドもハーレム大好きにならんかねえ。こいつ、ハーレム王の素養があるぜ。ま、ホモっぽいんだけど。うめえ。もっと食いたいけど、あんまりごちそうになるのもなあ)
色々、思考が混じってまとまらない。
座って休憩しているだけでも、経験値ががんがん入ってくる。こんなパーティは初めてだった。自分の手で倒さないと、経験値が入ってこないのではないのか。これでは、養殖が可能だ。そして、高速でレベルが上がっていく。マスタリーは、貧弱だけれどもステータスが上ならそれだけでも勝ち目がある。歯に餅が詰まった。
「このための楊枝か!」
「ふふふ。いいところに気が付きましたね。この楊枝、日本人が作ってくれているんですよ。素晴らしいでしょう」
均一に、しかも長さが整っている。この世界では、楊枝など見たことがなかった。諦めていたのだけれど、もう諦める必要などない。音楽が先で、セックスばかり頭にあった。しかし、ここにきて食い物にはまろうとは。アキラは、腹に貯まった餅の味を思い返すにもっと食べたくなった。
(うまかった。もっと食いてえな)
ユークリウッドが、セリアを撫でているとアルが隣に座ってよりかかった。どちらが猫なのかわからないが、ホモに違いない。しかし、いい気分だしそんな事は口に出して言うべきではないだろう。顔は整っているし、女なら将来が楽しみなのだが。
「貴様、私が男だと思っているのだろう。ふむ。ばらしてもいいか。実に気分がいいしな」
「は?」
「ある時は、王子。冒険者アルであり、アル王子を演じている。が、その正体はアルーシュというただの女だ!」
「はあ!?」
いきなり、幼女になった。顔は、まさに理想的なバランスをしている。すこし、キツい感じだ。ネリエルも美形だが、アルーシュはそんなレベルではない。黄金という言葉が実に似合う。ユークリウッドは、苦虫を噛み潰したような顔になっている。眉間には皺が寄っていた。
「女。だったんですか」
「そうだ。ま、そんな訳でよろしく頼むぞ。貴様は、しょぼいがユークリウッドとは仲良くやれているようだしな」
「はあ」
「こいつ、男の友達がほぼいないからな。何かにつけて手助けをしてやってくれ」
意外だった。晴天の霹靂とはこのことだろう。ステータスカードを見ると、27まで上がっていた。戦っていないのにこれほど上がっていくと、アキラのしていた事は何だったのかということになる。手助けをしてと言われても、ユークリウッドには世話になりっぱなしだ。特に何かをやれるような気がしない。借りは、返さないといけないのだが。
(んー。そうか。そういう事か。ユークリウッドをハーレム王に仕立てれば、俺はそれを参考にしてハーレムを考えればいいんじゃね。このままいくと、奴隷でハーレムを作りそうだしなあ。奴隷って拒否権とかないだろうし。意思を無視して抱くってのは、ちっとなあ。マールは、合意してくれたけど…。ネリエルはわからねえし)
きな粉餅で休憩して、イカの干物をしゃぶりながら歩く。モニカとミミーは連携して進むようだ。スケルトンを相手にしても、多数が相手でなければ残りの人間は手を出さない。考える事は、一杯でしかも事態はまったなしで進んでいる。毎日の薬草採取で、1日の上がりは1万ゴル。30日をそれで過ごせば30万ゴルだ。
迷宮に潜れば、レベルは上がる。が、収入はユークリウッドが持って行ってしまうのでない。少しは、分けてもらいたいがそんなことは言えない。借りている額の利子だけでも、そんな物は吹っ飛んでしまいそうだ。この世界では、銀行も冒険者ギルドがやっていたりする。利子を鑑みるに、ユークリウッドが請求してきたらアキラは飛び上がっても払えないだろう。
10万ぽっちだとか、全くといって生活費だけでかつかつだ。
(うー。払い切れねえし。さて、さて。仕事増やした方がいいのかねえ。けど、事務所の前でボランティアするのも時間食うしなあ。夕方からは、やりたいし。飯とか洗濯とか考えると、マールを事務所に置いて家事をしてもらわねえと。あれ、戦う人間というか獣人が少なくねえ?)
厳しい。アキラは、単独で戦えるほど強くない事を自覚するしかなかった。剣の腕はあるほうだ。だが、ユークリウッドの電撃やら魔術やらを見てしまった後では、小さくなる。
「あの、アルーシュ様と大将はどういう関係なんですかね」
「おっ…」
「幼馴染です」
「…とだ!」
「違います」
おっとと言おうとしたのか。完全に、ほの字だ。上手く行けば、王国の支配者階級に組み込まれる事間違いない。下手に出て取り入るのは、むかつくが仕方がない。
「別に、子供同士だから何言ってたっていいんじゃね。将来は、わからないんだぜ?」
「だろう? 別に、構わんと言っているのに。こいつときたらチューだってしてくれない」
キスくらいは、してもいいのではないか。と思っていたらセリアが足に噛み付いた。痛い。
「あがああああ!」
「こら、セリア。止めろ」
「ちょっと、セリア。何をしているの。大丈夫ですか」
「ひぎぃいいい」
涙が出た。足がもげる。そんな痛みに、アキラは飛び上がった。とんでもなく痛い。鉄が入った皮の靴なのに、そんな事は関係ないと牙が足にささっている。顔面には爪が、しゃっと走った。ネリエルは、棒立ちでかばってくれない。
「ヒール!」
ヒールⅤが飛んできた。セリアはアルーシュが引き剥がしてくれが、痛かった。ユークリウッドは、電撃だけでなく回復の魔術も得意のようだ。恐るべき使い手だ。一瞬で、皮がめくれて骨まで見えていた傷が肉が復元して元に戻る。セリアは、今だに唸り声を上げている。怖い。食い殺されそうだ。ガルルゥと唸る狼の迫力に、セリアも魔王だという事を思い出した。
魔王に囲まれている。勇者は、歯がたたない。
これが、敵であったらぞっとする。
(敵対しなくて、よかった。マジで。死ぬ。足とか、無くなったら回復使えないのに。回復の魔術を使える僧侶が欲しいなあ)
「こら、いきなり噛み付くな」
アルーシュは、笑顔だ。先ほどからユークリウッドの腕に組み付いて楽しげである。
モニカとミミーが戻ってくると。
「ユーウさん。ボス部屋が先にありますけど、どうしますか」
「そうですね。2階は、さっさと抜けて3階に行っちゃいましょう」
「いいんですか。彼は、殆ど戦っていませんけど」
「ボスを周回するのもいいと思います。スキルのマスタリーも上げると、いうことで。できれば、今日は3階を体験しておきたいですね」
無茶苦茶だ。1階を掃除していくと、2階も出会う敵を掃除していくスタイル。
2階のボス部屋前に行くと、誰もいない。アルーシュは、笑顔でセリアを抱きかかえながらいう。
「ふむ。アレを使うか」
「あれ?」
「ああ。わかりました」
アキラは、2人が会話しているのに気をとられた。そして、狼が先ほどから殺気を放っているのに恐怖を感じている。セリアに殺される、とか。ネリエルはかばってもくれない。マールの顔を思い浮かべて、股間が湿っているのを感じた。




