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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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87話 強奪さんと迷宮に (ユウタ、エリストール、ミミー、モニカ、アキラ、マール)

 じめじめした洞窟は、どこまでも続いている。

 隣を歩く森妖精が、振り返った。


「誰だ!」

「貴様は、新顔か。私だ。アルだ」


 と、つけてきたのはアルルだった。黄金の鎧に兜。短く髪を収めている。後ろには、シグルスの姿がある。白銀の鎧に羽兜。真っ赤なマントはアルルとお揃い。シグルスはアルルの後ろからチラチラしている。そして、お供に2人の女騎士風の少女が付いていた。未来では、胸糞な先生である少女が片割れのようだ。名前が出てこないが。


「どうしてこのような場所に?」

「ん。うん。その、なんだ。こいつが病気になってしまったのだ。ちょっと、見てほしいのだ」


 と、シグルスを見ると。すぐにアルルの後ろに隠れてしまう。


(堂々としていたシグルスさんはどこいっちゃったのよ。マジ)


 黒髪のもみあげをいじりながら、もじもじしている。思春期にはいってしまったようだ。


「見るも何も、なんで隠れてるんですか」

「それが、すごい病みたいだ。仕事もぼーっとしている事が多くなったのだ。もうこれは、駄目かもしれないのだ。ユーウの方で、面倒を見てやってほしいと思ったのだけど。これじゃ、無理そうなのだ。帰るとする。あ、また来ると思うけどこいつをよろしくなのだ」


 恋の病のようだ。

 のような事をいって、さっさと帰ってしまった。シグルスは、アルルを引きずって。

 どうしたいのか。シグルスは、鉄面皮な子だと思っていたのだが。違ったようである。

 アキラは、その様子を見て。


「あの、今のって、王子様かよ」

「そうですね」

「俺らの事、まったく眼中にないっていうの、な。無視されるって、辛いな」

「無視されていたほうが、いいかもしれませんよ? 目を付けられると、何かとこき使われるので大変です」


 事実だ。無視されていた方が何かと捗る。


「ウォルフガルドでやってる事か。あの草履はいいよな。つか、日本人がいるから草履の作り方とかわかるんだよな。ってことは、音楽とかもちろんあるんだよな」

「あるといえば、ありますけど。当面は、アキラさんの生計を立てられるようにしてかないと。ですね。弱すぎて、魔物に食われました。では、話にならないですよ」


 黒髪の少年は、弱かった。剣が使えるといっても、普通の獣人に較べて何が強いのか。大した差がない。


「とほほ。そう言われると、【強奪】は微妙だったな。むしろ、成長チートとかそっちをつけるべきだったかね」

「真当な正道は、鉄板ですよ。誰からも文句を言われませんから。お手軽でない分、大変ですけど。鑑定を持っているなら、商売で食ってけそうじゃありますね」


 鑑定は有用なスキルだ。魔術でも再現できるが、こちらは難しい。


(鑑定だけでも生きてけるんだぜ? 上手くやればだけど。普通は、MPが持たねえけどな)


 アキラは、床を棒で叩きながら進む。


「んだなあ。魔力を最初から拡張していた方が有利だな。こりゃ。魔術が万能すぎて、スキルが有利ってわけじゃねえっていうか。魔力を消費する格好で上がってくぽいから、鑑定して寝るだけでも魔力上げができそうだが。それだって、時間がねえと無理っぽいし。あっという間に歳を食っちまいそうだな」

「気力の使いすぎでも魔力の使いすぎでも気絶するらしいですが、どうですか」

「マジで気絶する。これ、ほんとだからな。迷宮の中で倒れるとか洒落になってない。あと、スキルの恩恵がなあ。剣士だと物理攻撃ばっかで、魔術士がいるわ。サブにそれつけるか奴隷で魔術士を買うしかなさそうだな」


 と、洞窟の中を歩いていく。ウルフが音で現れたが、すかさずエリストールの矢が飛んで倒れた。糸を垂らしていくのも有りだが、風の魔術が使える。出口と入り口くらいは、それで把握できる。地図を書いていると。


「それって、地図か。やっぱ書くのか」

「そりゃ、書きますよ。入って探索した場所は、メモしておくといいです。中には、時間が経つと内部が変化してしまう迷宮もあるので要注意ですけどね。探索した場所は、さっさと抜けて下の階に行く方が実入りもいいですし」

「出会った魔物を全部倒した方がいいか? 今んとこ倒してるけど」

「経験値になりますからね。身体に魔素を吸収できるみたいですよ。人間の場合だと生素だとか聖素だとかいうみたいですが」


 ウルフは、まだ小物だ。ツーヘッド・ウルフくらいになるとピンきりだけれども。スケルトンもスケルトンソルジャーやら。スケルトンアーチャーやらスケルトンマジシャンやら色々いる。しかも、生前の能力があったりする魔物は危険だ。侮ってはいけない。どれ一つとして、油断は禁物だ。突然変異のようなスケルトンが居たりするかもしれないのだ。


 一階は、まだいい。二階には、ワーウルフといった強力な魔物が出現したりするのでもっと危険だ。狼系がメインの迷宮だけに、強力な魔物がいたりする。収入に吊り合わないので、ミッドガルドほど冒険者がいないようだ。ペダ市となった場所で経営する迷宮前には、冒険者たちが溢れかえっているのとは対照的にこの餓狼饗宴は寂れている。


 潜っていて、人に出会うのが稀なのだから。


 アルルたちが帰ってから、ウルフの群れを全滅させて。収入の無さに、アキラは口を開いた。


「なあ。このウルフを回収して、どうするんだ?」

「仮にも狼ですからね。皮で鎧にするなり靴にするなり。使えますよ」

「なるほどな。そうやって金にするのな」

「ですよ。でなきゃ、ここに来るよりクラブを退治したほうがいいですし」

「っていう事は、だ。経験値稼ぎにここに来たって訳か」

「そういう事です。僕が上げるのなら、ここに来てもしょうがないですし」

「なんだか悪いな。付きあわせちまって」

「いえいえ」


 蟹を倒した方が儲かるのも事実。迷宮を探索するのなら、もっと先に進むべきなのだ。しかし、行けるからといって潜った挙句にアキラが死んでしまっては元も子もない。


(封印解いても良さそうな。そんくらい弱い。強奪スキル無しだと…)

 

 床を叩く音で、ウルフの襲撃はひっきりなしだ。とはいえ、叩かないと落とし穴にかかる。しかも、床がスイッチで矢が飛んできたりする。盾を装備しているのは、正解だった。


 やがて、大きな扉に辿り着いた。


「これ、もしかしてボス部屋か」

「よくわかりましたね。結構、時間経ってますから。入って、さっくり倒してしまいましょう」

「ちょっと待ってくれ。情報も何もないんだが?」

「ああ。そういう事ですか。でしたら、心配ありません。ここのボスは、トリプルヘッド・イーター。狼じゃないんですよね。火に弱いです。けど、そうとも限らないのが迷宮なんですよね。きっと、迷宮の主が気分次第でボスを変えてるのでしょう」


 己もそうなのだ。とは、ユウタも明かせない。迷宮のボスを常に弱めにしておかないと、誰もかれもが肉塊になってしまう。侵入されたくないのなら、明らかに場違いな魔物を配置しておく。そして、扉は帰還不能なように閉まって開かない、と。転移不能もつけておけば、冒険者が死亡する確率は跳ね上がる。


 大きな扉に手をかけると。鍵はかかっていない。中には、誰もいないようだ。


「やるのか…。ちょっとまってくれ、説明してくれよ」

「ボスの攻撃ですか?」

「そうだ。それそれ、何の予備知識も無いまま突っ込むとか自殺行為だろ」

「しかし、いつだって戦闘はいきなり死亡ですよ。まあ、いいでしょう。トリプルヘッド・イーターだった場合の話ですが、こいつは首が長い。それで、攻撃してきます。食われないように避けましょう」

「それだけ?」

「実際に相対しないと、わからないですからね。ゲームのようにはいかないと思いますけど」


 すると、アキラは。


「まって、待ってくれ。今日は、ここまでにしとかないか。なんだか嫌な予感がする」

「気のせいでしょう。びびってどうするんですか」

「び、びびってねえもん。ちょ、ちょっと小便してくらあ」

「あ、はぐれたら迷子になって死んじゃいますよ」


 モニカに目で合図すると、後ろについていく。本当に逃げないとも限らない。


「ちょっとご主人様らしくないです」

「行き当たりばったりな人っぽいのにねー」


 マールもミミーも勝手な事をいう。実際に、危険なのだ。びびってしまうのが普通だ。


(小便ちびられるのも困るけど。ここで逃げる? いや普通なのか)


 むしろ、びびっていないようだともっと危ない。

 女の子たちは、容赦なくいう。


「ユークリウッド様は、平気なのですか」

「僕? 僕は、平気だよ。慣れたものだしね」

「へえ、やっぱりレベルの高い方は、慣れたものなんですねえ」

「むしろ、セリアが襲ってくる方が怖い」


 するとマールもミミーもきょとんとした。


「どういう事なんですか?」

「うん。なんでかしらないけど、癇癪起こしてさ。襲ってくるとか、あるから。迷宮に入った状態で、外から攻撃されると生き埋めになっちゃうんだよ。それで、中に入るのが面倒くさいとか言うんだもん。たまらないよね。中の人は、さ」

「「…」」


 二人共にぶるぶると震えた。冗談ではなくて、本当の事だからだろうか。セリアが、そういう人間だとわかったせいなのか。わからないが。立って待っていると、


「疲れたー」


 エリストールが寄りかかってくる。背後から。ミミーとマールは、驚いた。


「どうしたの」

「肩こった。帰ったら、肩もんでくれ」

「ええ? でも、誰かに揉んでもらうんじゃいけないのかな」

「誰か? 他の男に胸を揉まれてもいいというのか! くっ、貴様がそんな放置、いや寝取らせプレイをするというのなら考えがある…」

「わかったよ。わかりました。マッサージでいいんだよね」

「そうだ。そのままぐふふ」


 とんでもない子だ。ミミーもマールも顔を赤くしている。ミミーの犬の上にはDDが乗っかっていた。とっても可愛らしい。乗っかるエリストールは金属鎧もあってか重い。マッサージしなければならないときて、気分が重くなった。間違いがあったらどうするというのか。


「エロ整体師に、ぐふふなことをされるのは流行りらしいからな。ふふふ。これは、先手を取れるかもしれない。なし崩しに既成事実に持ち込んでしまう、完璧だ」


 良からぬ事を考えているらしい。どうしたものか。


「くっ羨ましいぜ。俺も美人の女奴隷をゲットしてえよお。けど、高そうだよな。奴隷市場とかあるんだろ?」

「ええ。ですが、今だと目の玉が飛び出るような額になると思いますけど。ちなみに、マールさんはおいくらだったんですか」

「えっと200だな」

「万ですか」


 安い。あまりに安い。アキラは、幸運の持ち主のようだ。


「だな。もしかして安い、とか」

「安すぎでしょう。ラトスクで買おうとおもったら、どのくらいかしらないですけど。ミッドガルドで買おうとしたら、その10倍の額になりますよ」

「はっ?」


 アキラは、驚いている。ミッドガルドでは、インフレーションが起きているのだ。賃金の上昇にともなって支払い額も流通額も増えている。貨幣を鋳造しているのは、主に日本人だ。かなり手先が器用な部類に入る彼らの力がなければ、難しかったであろう。それから取り残されるように、ウォルフガルドとの経済力の差が開いていた。


 人口も差があるのに、経済力でも差がつくと。属国化は、免れないだろう。アルーシュの目論見では、獣人国をまとめる役割を担うはずなのだが。そんな事が半年だとかそんな短期間でできるはずもない。むしろ、弱体化したウォルフガルドを立て直すので精一杯だ。加えて、靴すら履かないような未開の国である。


 ミミーの草履を見て、それから扉を押す。


「入りましょう」

「マジかよ」


 まだ、悪い予感がしているのか。歩を進めると。中で、魔物が出現しようとしているのか。発光現象が起きる。ボスが立って待っているのではなかった。倒された後なのか。奴隷を捨て石にして、ボス部屋を抜けるという手段もある。そういう場合なのかもしれない。出てきたのは、背の高いワーウルフだ。得物は持たずに、立っている。


 手足が長いのが、特徴か。

 

水玉(ウォーターボール)!」


 で、巨大な水玉を作るとそれを投げて、そのまま冷凍(フリーズ)を使い凍らせる。と、


「このまま止めをさしてください。相手が動くかもしれないので、注意してくださいね」

「おう」


 アキラは、接近して剣を腹に突き刺そうとするが。刺さらない。腕力が足りていないのか。


「硬い。こりゃ無理じゃね」

「うーん。エリストールは、どうかな」

「任せておけ」


 エリストールが、腹に槍を突き入れる。と、凍った部分を貫通して槍が刺さった。【鑑定】を使うと、ワーウルフ・ロングハンドと出る。体力がみるみる内に減っていき、死亡状態になった。死因は、出血と窒息とある。両方なのだろう。エリストールにかなり経験値が入ったようだ。ボーナスが加算されているのか。そんな所である。


「なんだか、あっさりしているな。ユーウが強すぎるせいか?」

「そうですね。ちょっと、手出しを控えたいんですけどね。アキラさんもスキルを使用した方が良さそうですよ」

「攻撃する瞬間、にか?」

「ええ。攻撃する前に、自己強化スキルを使用するといいですね。剣士だと、防御力上昇だけでなくて防御力と引き換えに攻撃力上昇させるスキルがあると思いますけど」

「あっ。そういやそんなのがあるわ。ファイトモードとタンクモードか。防御力を犠牲にするって、使えねえ。そもそも紙装甲なのに、よ。食らったら、一撃で死ぬぞ。マジで」


 アキラは、皮鎧を装備しているがしょぼすぎる。安物を買ったのであろう。数度の戦いで、穴が開いている始末。下層に潜るには、まだまだ早いという事だ。ボス部屋には、ドロップする箱が出現していた。おかしい。まるで出たことがないというのに。アキラは、ラッキーボーイのようだ。嬉々として、開けている。


 そして、


「おっなんだこりゃ。黒い剣だ」


 鞘が黒く。刀身も黒い。【鑑定】すると、マジックソードのようだ。攻撃力は3と大した事がないが、それでもアキラの力になるだろう。


「貰ってもいいか?」

「ええ」


 アキラは、喜んでいる。と、後ろからエリストールがしなだれかかってきた。


(頭に胸を乗せるんじゃねえ! 本当に劣情をもよおしたらどうする気なんだ)


 股間が勃ってしまう。


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