84話 学校にいってみた。意外に楽しかった。あれ? (ユウタ、ローエングリン、ルーデル・デ・アマデウス、セリス・ド・フィッツカラルド)
学校に行くか。久しぶりの学校だ。見た目も改装されたとか。ユウタは、わくわくしてきた。
古い木造の学校が、今や赤いレンガをつかった高級感のある建物になっているとか。
馬車で揺られて行くことになった。隣に同席するのは、シャルルとエリストールだ。
真向かいにはセリアとルナ、オルフィーナが並ぶ。広い特注の馬車だというのに、中は狭い。むくれているルナとぶすっとしたセリアにオルフィーナは困り顔だ。シャルルは、黙っていたが口を開いた。
「この森妖精は、一体どこの者だ」
「僕のです。一応、護衛です」
嘘ではない。セリア一人でも十分だが、シャルロッテにはモニカが。他にも小姓たちが側につくとか。日本人の学校像をぶち壊しにしてしまうような感じが見え隠れしている。今の学校がどのようになっているのか。ユウタは、とんと無関心であった。学校といえば、学び舎だが。友達を作りにいくとかそういった事もない。
流れる景色に、ルーシアとオデットが歩いている様が見えた。目ざとく気がついたオデットが手を振っている。馬車で通う人間など、そうはいないだろうに。シャルロッテは、クラウザーたちと一緒に別の馬車に乗って登校だ。歩かせて、何かがあってからでは遅い。
「本当か? 森妖精は珍しいな。ふ。貴様が登校するなど、明日は雹でも降りそうだな」
「そんなに珍しいですかね」
「それは、そうだろう。お前、今年になってから学校にいった事があるか?」
「いえ」
「ふん。その様子だと、学校の麒麟児たちの話も知らないようだな」
と、シャルルは饒舌に話はじめた。
「高い魔力を持つ人間が、貴様だけだとは限らないのだ。ということだな」
誰がどういう魔力を持っているだとかそういう事をいう気はないのか。探りをいれるべきか。しかし、藪蛇という言葉もある。馬車の中は、ルナがぎゃあぎゃあと煩い。話題を変えようにも、お菓子でなだめるしかなかった。
馬車に揺られて、ついた先は。
「ようこそおいでくださいました。シャルル様」
老執事が出迎える。白い髭に片メガネだ。背の方はかなり低い。名前は、セバスチャンだったか。よくある名前だ。何代目セバスチャンとかありそうである。
「ん。ご苦労」
「お足に気をつけてくだされ」
足元は、石畳だ。綺麗に舗装されている。
皆が降りると、最後に出る。エリストールが何か言い出さないか心配であったが、杞憂に終わった。
学校は、鮮やかな赤で色調が加えられているようだ。どこぞの廃校舎といった風から大分進歩している。日本人の手が加わったのだ。塀も真新しく、花壇がある。中に入ろうというのに、出迎えるのは騎士と兵士だ。警備の手がやけに厳重になっている。魔術師も控えているのだろう。詰め所が一箇所だけではない。
見知ったる日本の学校とは、大きく違って中まで馬車が入れるとは。校舎の中に入るのにも、警備兵が立っている。と、シャルルたちは顔パスで中に入っていく。最後に警備兵の横を通り過ぎようとすると。
厳しい顔が見下ろす。圧迫感。
「君が、ユークリウッドくんかい」
「ええ。そうですけど」
「君の教室は、Gクラスだ。一番左の奥の教室になる。二階に上がると、3年生の教室がある。そこに行けば、席を教えてくれるだろう」
愕然とした。見知った人間は、いないようだ。とことこと歩いていくと、下駄箱が見つかった。そこには、上履きらしいゴム製のサンダルがある。名前を探すと、確かにあった。用意されていたようだ。下駄箱は、無駄に新しい木製だ。蓋はないようである。盗まれたり、隠されたりするのではないか。ブーツからサンダルに履き替えると。
階段を上がって、教室にたどり着く。すれ違う子は、皆小さい。場違いではないか。大人、とまではいかなくとも中学生が小学生にまぎれているような違和感がある。そして、中に入ると席がわからない。きょろきょろしていると、女の子が話かけてきた。制服がだぶだぶだ。手が上着に埋まっている。
「君、君」
「はい」
「もしかしてー。席がわからないの?」
「そうです」
どこにでも居そうな小さな女の子だ。顔には、まだソバカスがある。麦色の髪の毛を揺らしながら、
「ひょっとして、アルブレスト君?」
「そうですが」
「じゃあ、あっちだよ」
開いてる席があった。一番後ろだ。ぽつんと、隔離されたように開いている。
全員の視線が突き刺さる。子供なのだ。皆、興味があるのかもしれない。しかし、子供に興味はない。
Gクラスと聞いて、誰も知り合いがいないのだ。やがて、先生が来ると終業式らしい。
学校に出たと思ったら、終業式だった。
すごくつまらない。話をしようにもエリストールは、下で待機しているようだ。子供にまぎれて居座られたら大変だ。隣に座っている子が、じっと見ている。そんなにも珍しいのか。
「ね、君って。あのアルブレストくんなんだろ」
「そうですけど」
壇上では、校長先生が訓示を述べている。とてもつまらない。
「僕は、ローエン。兄貴がいつもお世話になっているとか。よろしくね」
「ユークリウッドです。よろしく。兄貴とは?」
赤毛だ。赤毛というと、知り合いにはいないような。わからない。
「ああ、うん。兄貴と僕は母が違うからね。似てないかもね。兄は、ロシナ。赤騎士団の。わかるよね」
「へえ」
ロシナに、弟がいたとは。しかし、隣の椅子に座っている所を見るとGクラスの人間のようだ。ロシナの弟にしては、かなり不出来なのか。勉強が得意ではないのかもしれない。柔らかな赤毛を伸ばしている。制服は、ぴったりと合わさっているようだ。
「君、学校にはこないだろう。どうしてなのかなってさ。皆、聞きたがってると思うよ」
「うーん。仕事で忙しいんですよね」
「えっ。どこかの騎士団にでも入っているの?」
と、問われてはたと気がついた。騎士団に所属していないではないか。騎士といっても、よくわからない。騎士団なら、白から黒、青、赤、黄と知り合いが居たりするけれど。黄金騎士団がどうなっているのかよくわからない。ユーウの身体を乗っ取る前は、レオの父親が騎士団長をしているらしかったとか。未来の事なのでかなり変わっているという事が想像できる。
「いえ」
「そっか。僕も赤騎士団に入れ、なんて言われてるんだけどね。兄貴がすごくて、僕はあんまり剣も戦闘も得意でないし。冒険者もなんだかできそうにないかも。本でも読んでいられれば、そっちの仕事がしたいんだけどね。といっても、魔術が得意でないから魔術士になって図書館の整理とかに携わるのも難しいそうでさ」
じっと男の先生が、見ている。他でもない、ローエンをだ。すかさず、裾を引っ張る。
「ど、どうしたの?」
「先生が見てるよ」
「ごめんね。じゃあ、また教室で」
壇上では、校長先生に変わりアルが演説をし始めた。シグルスの姿がある。と、ぷいっと姿を消す。目があったせいであろうか。悲しい。アルは、シグルスを見て動揺したのか。しどろもどろになった。が、笑い声はでない。いきなり不敬罪で死亡とか投獄とかあり得るので、ないのだろう。
教室に戻ると、ローエンが話かけてくる。
「兄貴は、元気でやってるのかな」
「元気ですよ。家には、帰ってないんですか」
「うん。だって、ウォルフガルドに出征しているからさ。たまにしか帰ってこれないみたい。先月に一度帰ってきたきりだよ。赤騎士団で、千人長をやってるとかってさ。すごいよね」
「そうですね」
周りの子供も話に加わりたいのか。周りに集まっている。なんともうっとおしい限り。
それを知ってか知らずかローエンは、話を続ける。
「あのさ。君って、アル王子とも知り合いなんだって」
「それは、誰から聞いたんですか」
「えっと、兄貴だよ。いっつも自慢しているからね。姉貴も事ある事に君の事を言ってるし」
「へえ。そんな事を」
ロシナは、ろくな事をしないようだ。赤騎士団には、金を貸してばかりで返済も厳しいというのに。臨時収入があったとはいえ、ロシナは産業を育てるとかそういう事が下手くそだった。同じ転生者で、なぜこうも差が出るのか。ロシナがただのめんどくさがりという事か。ローエンは、ローエンでぼやっとしているようだ。
ロシナの妹でローエンの姉は、可愛い。が、口が悪い。ローエンは、転生者でもないらしく普通だ。
「騎士団も大変らしいからね。僕も馬車を作る手伝いくらいしてるけど、あ。ここの授業とかわかるかな」
「すいません。全くわかりません」
そこで、先生が入ってきた。話は、後にするしかないようだ。皆、蜘蛛の子を散らすように去っていった。教室の外では、エリストールが食い入るように見ている。生徒たちは、それを見てから先生の方へと向き直った。先生は、日本人の男のようだ。黒髪に黒目で顔立ちが四角くない。顎も割れていないので、間違いないだろう。
下手な共通語を話す。と、ローエンが紙で話かけてきた。
「後で、この学校の案内でもしてあげようか」
「おお」
学校の案内をしてもらえる事になった。しかし、案内してもらったからといって通うとは限らない。
「この学校が、左右に分かれてるのはしってる?」
「知らない」
どうやら、そこで平民と貴族、士族と別れているようだ。厳格な身分制度が、学校の中にまで適用されるとなると。重苦しい学校生活になるのではないだろうか。小学生だというのに、皆真面目に学校の先生の話を聞いている。モンスターペアレンツだとかそういう物は、いないのか。体罰だとか普通に有りそうなのが怖い。
校庭は、ないのか。体育館が凄まじい大きさであった。プールも備え付けられてある。校舎が、何処かの貴族の屋敷を模したように作られていた。形としては、四角いコの字を描くように立てられている。一階が職員室と教室。二階、三階が教室と。屋上は、整備されて解放されているとか。何時の間にか変わっていた。滅多に学校にこなかったせいであろう。
「この学校って貴族の子弟だけが通うようになっているんだよね。平民は、才能がないといけないらしいよ。なんでも特別なスキルを持っているだとか、貴族の口利きでもないと入れないんだってさ」
制服が、赤だと貴族のようだ。平民だと、緑と。女子は、胸につけるリボンの色で学年の違いをだしているらしい。ちらほらと見かける緑色の制服姿は、どの子も自信なさげだ。
「来年は、というか今年は学校に通うのかい」
「どうだろうね。たまに、くると思う。よろしくお願いします」
「忙しいんだね。兄貴にもよろしくしてやってね」
ローエンは、本当の名前がローエングリンという。歳相応に、冒険者や騎士にあこがれているらしく。その話で盛り上がる。上級生が、校庭で防具をつけて槍試合をしているようだ。一緒になって土手で観戦する。
「かっこいいよねー。槍。兄貴は、剣を勧めるんだけどさ」
「ロシナは、大剣使いたがるからね」
「戦場だと、どうなの。やっぱり槍働きっていうじゃない」
「うーん。槍、強いけど。もっというと弓だし、さらにいうと魔術の方が有用だね。騎士は、飛び道具を嫌うけどね」
「そうなんだ。槍を抱えて馬に乗って走るのが、騎士じゃないのかな」
「うーん。ランスでの戦闘は、あるにはあるけど。先に、弓か魔術の打ち合いになる事の方が多いよ。あとは、飛び抜けたセリアみたいなのが居なければ槍での突き合いになるね。槍衾を作るのは、基本だし。歩兵が、それをすると中々崩せないよね」
陣形を作って、色々と動きをさせている。普通は、こうなのだ。セリアやエリアスといった飛び抜けた存在が居なければ、槍での突撃というのは有用であろう。もっとも、騎乗での騎射でもできないような騎兵ばかりだというならその程度。陣形を作っても、平地では遊牧民が使う騎射の方が有用だ。歩兵を引きずり回し、敵の戦力がない部分を襲うといった略奪スタイルも強い。
槍は、木製なのか。むき出しの木の柄を握っている。先っぽを丸い布か何かで怪我をしないように施されていた。槍を前後に突く事と集団戦闘を体験させようとしているのか。
「実際には、違うのかなあ」
「うーん。その、ロシナはユニークスキル持ちだからねえ。あいつだけで勝ててしまう事もあるし」
「そうなの? 他の騎士さんたちの援護もあるよね」
「そこが弱点といえば、そうなるね。遠距離攻撃が苦手だからね。ロシナ」
「バリア張ってると、魔術くらいしか手がないのに。兄貴って魔術が苦手なんだよね」
「修行すればいいのに」
「うん。そうなんだよ。でも、魔術書を見ていると頭が痛いっていうんだ。勿体無いよね」
ロシナは、昔からというか出会った頃から魔術が苦手だ。バリアを張ったまま魔術が使えれば、それだけで最強になってもおかしくない。セリアには、バリアが効かないのでちょっとわからないが。それでも、対象を選ばない能力というのは強い。金属鎧を着ているので、バリアを張る必要がないような。本人は、常時張っていると疲れるという。
常時は、張れないのか。いつでも張れるのが強みだが、それだと魔術師たちの使うシールドで事足りてしまうような。こちらも瞬時に張れる。が、強度がなくて大概は一瞬で破られてしまうのだ。再度貼り直そうにもクールタイムがあるという。ゲームっぽい枷がある。ロシナのバリアは、その点で強い。貼り直しも即時に貼り直せる。なんというチートスキル。
「この後、どうするの」
「ええっと、帰ろうかなって」
「歩き、なのかな」
「そうだね」
「馬車には、乗らないんだ」
「馬車に乗るの?」
「いや、乗らない人の方が少ないよ。平民もお金を持ってないと通えない学校だから」
土手も綺麗に手入れが行き届いている。座るのに適当な草が生えていた。校庭は、適度な広さがある。野球とかはやっていないようだ。どちらかといえば、馬を走らせているくらいで。馬が校庭の隅を走っている。強力な魔力の塊が校舎から出てくる。異様な魔力だ。幼い顔からして、同じ歳の頃なのだろう。隣には、気が強そうな赤い髪の女の子を連れている。
「あの人は」
「あ、気がついた? 特待生らしいよ。ルーデル・デ・アマデウス。隣の子がセリス・ド・フィッツカラルド。どっちもすごい魔力の持ち主らしいって。あと、剣もかなりの使い手なんだってさ。あの歳で、ゴブリン討伐やオークジェネラルまでこなすっていうんだからすごいよね。ちなみに、もう一組すんごい子がいるんだよ。キルギスタン公爵家の子なんだけど。まだ、帰らないみたいだね」
「へえ」
2人は、魔力を隠そうともせずそのまま馬車に乗っていく。余人とは、魔力の桁が違うようだ。ちなみに、隣にいるローエンなどはHPが5で魔力も3だとかそんな物である。普通の男の子だ。あまり、鍛えていないのか。子供の頃から迷宮に潜るのは、普通ではないようだ。勝手に鑑定をかけた。悪い気がしたが、ロシナの弟なので問題ないはず。
「弓の神童と癒やしの聖女って言われているみたいだよ。フィナルさんとは仲が悪いみたいだね。女神教のフィナルさんには大神教の聖女が目障りみたいだ。変なことしないといいんだけどさ。黙っている分には、相手も何もしないって」
「ちょっかいだしそうだよね。困るよねえ」
フィナルは、普通に敵視しそうである。周りを巻き込むので、タチが悪い。公爵というからには、王族の血が入って居そうなのだが。そうではないのか。アルは、そういった話を殆どしないのでよくわからないのだ。と、ローエンは四角い箱を鞄から取り出すと。
「これ、食べる?」
「お、サンドイッチだ」
柔らかい生地に肉を薄く切って具にしていた。口にあう。
「食べるねえ。あ、これ麦茶だけど」
「ありがと。ちょっとお腹が空いていたんだよね」
いつも、出す方なのだ。人が出してくれる飯のなんと美味い事か。
アルルに隠れるようにしているシグルスの姿がある。近づいてくる。人を沢山連れて。セリアは、オデットとルーシアと一緒だ。そちらも人が群れをなしていた。
シグルスは、目を合わすとトマトになって逃げ出した。アルルは、手を振って追いかける。
シグルスは、思春期のようだ。




