82話 アルブレスト家の日常 (ユウタ、セリア、クラウザー、アレス、グスタフ)
フィナルとエリアスが来て、きつい迷宮に入って。また汚れて風呂に入る。疲労が溜まった状態だ。
彼女たちが納得するような迷宮で稼がないと、文句が飛び出す。馬車ならぬ列車をして、魔物を焼くというような作戦を採ったり。追いかけてくる魔物も居れば、帰ってしまう魔物もいる。知能の高いゴブリンなどは、意外なまでに経験値が入ってくる。牛神王の迷宮は、今でも攻略し甲斐のある迷宮だった。
「それでは、ごきげんよう」
「またねえ」
「…うん(疲れた)」
狩りを終えて帰ってみれば、ベッドに横たわる小さな狼と木。と美少女。
その夜は、セリアとアルーシュを追い出す事にした。
ティアンナにエリストールも来ていたが、断固拒否だ。危うい一線を超えそうになったからだ。
もふもふなセリアの毛並みをすいてやると、しぶしぶといったていで隣の部屋に移動した。
隣の部屋は、シャルロッテの部屋になっている。
真向かいが、弟たちの部屋で。奥に行くに従って、ルナやオルフィーナといった面々になる。
何故か、当然のようにずうっと泊まっていたりする。
学校にいくのも、当然のようにアルブレストの家から出る始末。
しっかりと鍵を施すと、眠りにつく。DDが侵入してきた。もぞもぞと布団に潜りこんできた。
ちびたちは、ベッドの下に潜り込む。
「ところで、こんなに女の子増やしてさ。どうするつもりなのかな。ボクは、そこが心配だよ」
「さあ。他に好きな奴ができるんじゃないか? 勝手に離れていくさ」
「本気でそう思ってるの?」
「女は、現実的なんだよ。駄目だとわかれば、あっさり切り替えるね。そうに決まっている」
「そうだといいけどね」
そう簡単にうまくいくのか。と言いたいらしい。あいにくと、愛など信じない。どうせ、いいように遊ばれるのだ。男は、ほうぼうで遊ぶし。女もまたしかり。この世のどこにも、真実の愛など有りはしないのだ。もしそんなものがあると、そう信じているなら。とんだお花畑さんだ。
目を瞑ると、心地よい疲労で眠気がやってくる。
頬を突く感触で、目が覚めた。
外は、雪でもないのに異様な寒さだ。寒波という奴であろう。日本の技術を取り入れて、断熱材を使用した屋敷は温かい。石造りに見えて、さにあらずだ。磨かれた床は、鏡面のようにテカテカとしている。空気は、程よい温度に調節されている。暖房という奴を取り入れてあるのだ。昔ながらの、むき出しな屋敷とは違う。
日本の建築技術を取り入れて、内部は暖房を入れなくともある程度の暖かさがある。木製のドアを開けると。セリアが薄着で歩いていく。
「おはよう」
「ん。おはよう。鍛錬でもするか」
「もう、かい?」
「もう、だ」
朝は、6時だというのにセリアは剣を振るい拳を鍛える。朝食は、桜火以下メイドが用意しているようだ。金があると、人も雇えて苦労が少ない。弟たちが起きてくるのは、もっと後だ。学校に行くぎりぎりまで寝ていたりする。一家で揃って食事を取ろうとするのだが、父親も勤務で早くに出てしまうためか。中々一緒にとれない。
父親のグスタフは、伯爵になった。なので、登城して政策にも携わっているようだ。本来の仕事をしつつ。他にも社交界に出るようになった。母親のエリザが悪影響を受けなければいいのだが。
と、そのグスタフが廊下を歩いていく。
「ん。おはようユークリウッド。早いな。セリア様と鍛錬か?」
「おはようございます。父上。左様にございます」
「ふむ。怪我をさせないようにな。それと、それが終わったら重要な話がある。執務室に来てくれ」
「はい」
何やら話があるらしい。どういった要件なのか。ぐるぐると頭を回してみるが、とんと思いつかない。
「何をしている。いくぞ」
急かされた。空は、青い。今日は、一体何をするのか。検討がつかないのも、おなじみだ。
セリアは、顎で上を示す。鍛錬と、きて上とは。上空に上がる事、ひとしきり。誰も居ない。いるのは、セリアと己だけだ。空気は、無いに近い。むしろ、宇宙にいるといってもいいだろう。流れ行く星のかけらを目で追いながら、気合を込めた。地上最強を謳うのなら、宇宙くらい行けて当然。世界最強を謳うのなら、高速で落ちながらでも戦えなければいけない。
筋肉が、酸素を蓄えるくらいできて当たり前だ。セリアは、拳を突き出すと。
「巨人で勝負だ」
「いいの? また、壊れると修理が大変じゃないの?」
「ふっ。それをフィードバックして、新たな機体を作り出す。という事らしいぞ。今日の機体は、今までのと同じだと思ってもらっては困るなぁ!」
よほど、自信があるらしい。セリアは、己の影から巨人を取り出す。と、乗り込んだ。黒い巨人だ。
騎士風の機体に2つの目が輝くと。
「どうした。早く乗り込め」
「はあ」
「今日こそ、お前を倒す。いざ、尋常に勝負!」
乗り込んだところで、セリアが吼えた。が、灼熱のプラズマがセリアが駆る機体の下半身を消し飛ばした。避けられなかったようだ。何の策も出させない。最強だ。
「い、いきなり最大火力とか。ない、だろう……泣くぞ」
「面倒だもん」
「そこは、空気を読んで格闘してくれよ。せっかく用意した分身技が、泣いてるぞ…くそっ」
「帰ろうよ。その技は、ロシナにでも試してね」
「ぐうううっ。お前、少しは戦わせろっ。これじゃあ、ここに来た意味がないだろ」
「その状態で戦うの? 爆発して、修理しようが無くなると思うけど」
「うっがああ。もう、いい。修理すればいいんだろ。また、戦ってもらうぞ」
「いいけど。防御技を覚えた方がいいと思う」
セリアは、歯噛みしているようだ。らしくもなく。
「お前。それ、避けられない。生身ならいざしらず。それ、どうしても避けられない。使用禁止。ロボットの火力よりも、生身の呪文が上というのはどうかしてるぞ」
「だって、これ出力を機動力に振ってるし。生身のがもっと速いよね」
「くそっ。アレを食う。腹が崩壊する。下痢になる。うんち、まみれ。責任をとってもらう」
「いや、それは断る」
「うんち、まみれにしてやる!」
「どうして、そうなるの。ともかく、それを修理に持って帰ろうよ。ばちばち火花が飛んで見えるよ。しまった方がいいと思う」
セリアがコックピットから出ると、真っ黒な機体はそのままセリアの後ろに吸い込まれた。中から出ると、礫が飛来する。それを受け止めて、そのまま投げ返した。機体をインベントリに収納しながら、礫で遊び続ける。セリアの動きについていける人間が少ないので、相手をするしかない。ミミーを育てて、セリアにぶつけて見るのがいいかもしれない。
組み付ければ、意外に勝ち目がある。かもしれないのだ。
降下しながら、セリアの目は真剣そのものだ。熱が、表皮を温める。が、気合でどうにかなる。
「おらぁ!」
「荒れてるね」
「お前が! 負けないからだ!」
「勝ってどうするの」
「勝ったら? やりまくる」
「なおさら負けられないね」
セリアは、流星になって落ちていく。その先は、屋敷の上だ。つっと止まると。優雅に降りていった。
降りながら、礫を投げるのはやめてほしい。当たったら、即死である。明らかに頭部を狙ってきていて、心臓に悪いのだ。それでいて、平然と。
「朝は、トーストだったか?」
「サンドイッチかもね。目玉焼きに、トマトにサラダ盛りかもしれないよ。寒いから、ミルクスープがあるかも。蟹の肉が出てくるかもね」
「蟹は、夜ならいいが。朝は、そんな気分ではないぞ」
ゆったりと地面に、足をつけた。そこには、クラウザーやアレスが父親に鍛錬を受けている姿があった。2人とも、剣を握って素振りをしている。上から降りて来たことには、気がついていないようだ。
「おはようございます兄者。兄者も稽古ですか」
「んっと、うん。おはよう。クラウザー。それにアレス」
「おはようございます。兄上。どこかに出かけられていたのですか」
「ああ。ちょっと、散歩がてら、ね」
「私は、先に食事をとって学校に行ってくる。その後は、合流できるかわからない。闘技場にもいかないといけないからな。蟹を始末するなら、呼んでくれ」
さっさと屋敷に入ってしまう。そこにグスタフの声がかかる。
「ユークリウッド。お前も、素振りをしていくか?」
「仰せのままに」
「お前は、いつも行儀がよいな。しかし、少しは打ち解けてもよいだろう」
「はあ」
「まあ、よい。素振りという物を見せてやってくれ」
「では」
と、取り出したのは、鉄の剣だ。そして、巻藁を前にして。腰だめを作る。
「はっ」
巻藁を斬りつけた。さくっと。
「は? 藁が、消えた……」
「兄上、藁はどこに?」
「ふっふっふー。どこでしょうー。当ててみてよ」
2人ともに、目を動かして探そうとするが。どこにも見当たらない。
「もういいだろう。クラウザーとアレスよ。これが、兄との差だ。ユークリウッドは、剣で藁を消し飛ばしたのだよ」
「え? えっと。斬って消した、ということですか」
「ああ。恐るべき剣力だ。私でも、こうはいかない。我が子ながら、凄まじい技の冴えだ。お前たちもこれくらいの力をつければ騎士になれるであろう」
「はいっ!」
そうであろうか。こんな力を身につけなくとも、ほどほどで騎士にはなれる。騎士になって、何をしたいか。なのだ。グスタフは、不正を追求するのが職務だと思っているらしくそれを追うのに懸命だ。治安を維持する治安維持騎士。不正を取り締まる特捜隊を率いる特捜特命騎士。色々あるが、だいたいはその長に聖騎士が選ばれる。
聖騎士は、ジョブを持っている聖騎士もいれば持っていない聖騎士もいてあやふやだ。聖堂騎士は、神殿に仕える騎士がそれに任命される騎士で。中身は、ただの騎士だったり聖騎士だったり色々だ。騎士の上が十字騎士。その上が聖騎士なので、グスタフは若年にして相当な修羅場を潜っている事になる。上からは煙たがられているのは、変わっていないようだ。
いつか。いつか、足を取られて転んでしまわねばいいのだが。
伯爵に叙任されたグスタフは、領地があるのかといえば何故かなかった。シャルロッテンブルクは、ユークリウッドの物という風になっている。ペダ村もしかり、だ。領地を与えないつもりなのか。それとも父と子で分断をさせるつもりなのか。アルの考えが今一つわからない。アルといっても三人いるので、考えがまとまっていないのかもしれないのだ。
「兄者。そのようになるには、どうすればいいのですか」
クラウザーの身体は、平均よりは大きい。弟といっても実は、年齢が変わらない。生まれた日が早いだけだ。アレスに至っては、シャルロッテと大差がない。つまりは、グスタフは浮気していたのだ。それを考えるだけで、頭が痛くなってくる。妻は、本当に死んだのか。そう、疑問が浮上してくるのを抑えきれなくなる。
「う、とね。握り方は、そうだね。父上に教えて貰ったのかい」
「そうです」
「そうだね。後は、ひたすら、一心に剣を振り続ける事かな。無心に、ひたむきに。空も斬れよと」
クラウザーが斬ったと見られる藁が落ちている。それを手にとると。
鉄の剣を握りしめる。
正面に人が居ないのを確認して、外壁にある木を捉えた。
「せいっ」
風が巻き上がる。
「え」
「嘘」
藁が消えて、木がずり落ちる。どっと倒れた庭木は、小ぶりだった。
「スキルを使わずとも、それを為すか。大したものよ。お前たちもここまで鍛え上げれば、一人前ぞ。励めよ」
「はい!」
クラウザーは、勢い良く返事をしたが。アレスは、それを見て木剣を握りしめている。
「兄上は、最初からこのような事が出来たのですか?」
「まさか。努力すれば、できるようになるんだよ。スキルに頼るのは、良くないね。結局、気力が尽きてどうしようも無い時。そんな時、頼れるのは自ら磨いた技だけだよ。もっとも、そうならないように観察眼を磨くのもいいね。状況とは、すべからく水のように流れてできるのだからね。どうしてそうなるのかそうなったのか。それを見ておくのも、いいね」
「今のは、手の動き腕の動きだけで斬ったという事ですよね」
アレスは聞くが。全てを教えてやるつもりは、ない。
「どうかな。そのからくりを盗むのが修練だよ。見て、相手の技を盗め。これができると、戦っている相手が五分の相手でも勝ち目は拾える。むしろ、そうして乗り越えなければ生き残れないさ。戦う相手が、いつも格下とは限らないんだから。強敵に当たって、倒されるのか。乗り越えるのか。それが出来なければ、剣を握るのは勧められないね」
「…」
黙ってしまった。言い過ぎたか。アレスは、クラウザーとも違う。グスタフとも違って、線が細い方だ。クラウザーが勢いよく木剣を振っている傍らで、アレスはじっと木剣を見つめていた。食事をとる為に、屋敷に入ろうとすると。
「兄上っ。一つ、手合わせ願います」
「いいよ」
やる気らしい。子供らしい体格で、華奢な身体に木剣を構えた。
正眼の構えだ。
「行きます!」
「いつでも」
クラウザーとグスタフが、見ている。と、木剣を上段から打ち込んでくる。優しく、首筋に木剣を添えてやると。
「えっ」
「甘いよ」
「もう一度!」
また、正眼の構えに戻る。アレスは、木剣を振るうので精一杯だ。小学生なのだ。しょうがないだろう。それで、木剣を合わせてやると。手首を狙う事にしたのか。引き気味に、振り下ろしがくる。それを弾いて、優しく首筋に木剣を添えてやる。
「ううっ」
「おいっ」
アレスが涙目だ。セリアが、屋敷から出てきて叫んだ。飯を食えという事らしい。
眼尻が釣り上がって、犬歯がむき出し。怖い。アレスの頭を撫でてやると。
「大丈夫。これからだって」
「兄上…」
兄より優れた弟など、いない。居てはいけないのだ。
差があって当然。しかし、追いつかれる焦燥感に苛まれそうだ。
その火は、ずっと身を焦がすだろう。
アレスが泣きそうなので、抱きしめると。後頭部にセリアの蹴りが、来る。
危ない。
執務室に来てくれといっていたが。それよりも何より、危ない。蹴りを掴んで、受け止めたが。暴力反対だ。
ロボ絵を何とかしないとなあ(・∀・)




