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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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81話 強奪さんとお風呂 (ユウタ、セリア、エリストール、ミミー、アキラ、マール、ルナ、オルフィーナ、オヴェリア、シャルル、シャルロッテ、桜火)

 陽が傾いてきた。蟹を倒しまくっても人の姿が見当たらない。

 蟹が食ってしまったのか。それとも、住んでいる獣人は逃げ出してしまったのか。鳥馬に引かせた馬車は、廃村となった場所を通り過ぎようとして。後ろで、弓を引く練習をしていたアキラはそれだけで疲れてしまっていたのか。


「疲れたわー。休もうぜ」

「休むのも、もう少し進んでからにしましょう」

「まだ戦うのかよ」


 呆れている。気合が足りないのではないか。これでは、速攻で肉塊に変わりそうだ。ゴブリン、オーク、オーガと幾らでも強力な魔物はいる。雑魚だと思っていたら、大物が混じっていたりするのは日常の事。油断しては、いけないのに。わかっていない。

 蟹の死体がそこら中にあって、それを回収している暇もない。状態が良い物を選んでいたりする有り様だ。セリアが戦っている様を見て、


「なあ」

「はい?」

「あの子って、まだ9歳なんだっけ」

「そうですが、何かおかしいですか」


 セリアを見るアキラは、顎を上下した。そして、手を振ってありえないという素振りを見せる。


「いやいや。おかしいだろっ。小学生だろよ。あんな馬鹿でかい蟹を素手でぶっ飛ばしてるとか…。ありえないぜ。どこの龍玉物語だよ。目で追えてないような気がするし。残像とかが、目に映ってるんじゃないよな。6人とか7人に見える事があるんだけど…。気のせいだよな」


 目で追い切れないのか。そんなことはないのだが。 


「どっちだと思いますか」

「目がおかしくなったんじゃないって事かよ」


 セリアは、遠く離れた蟹を空気の固まりで破壊する。放たれるただのジャブでも、受ければクラブは死ぬ。尻尾を揺らしながら、蹴り上げた蟹が地面に叩きつけられて中身が出る。手加減しても、これなのだからたまらない。セリアの攻撃が終わる頃に、別の蟹がハサミで掴みかかる。


「ふっ」


 ハサミがセリアの身体をえぐり取るよりも早く手刀が、蟹を切り裂いた。左右に別れた蟹は、目を瞬かせて重力に引かれていく。全員で、援護するだけだ。村人らしい残骸が、そこかしこにある場所で。村人が全滅したのか、蟹が物資の集積所としていたのか。村人の一部と思しき物が散らかっていた。おぞましい。

 墓がある。勇敢なる戦士(ファイター)ハル・パル。剣士(セイバー)リーフ・ミース。魔術士(マジシャン)ケンゴ・アスピリット。ここに眠る、と。

 蟹と戦ったようだ。村人は、逃げた後なのだろうと推察した。


「こりゃあ。南西の村は全滅か? けど、町だとどうなんだろうな。分厚い壁がある町もあるから、そこに行ってみないか。何かわかるかもしれねえ」

「そうしようか。けど、このまま行くには時間を食い過ぎたね。一旦帰るとしよう」

「えっ」


 アキラは、わかっていない様子だ。空間転移の魔術を見せていないのだから、それもそのはず。


「ちょっと待ってくれ。言ってる意味がわかんねーんだけど」

「?」

「いや、そんな顔されてもわかんねえって」

「転移魔術を見るのは、初めてですか?」


 蟹を倒していたセリアが戻ってくる。動いている蟹の姿が見当たらない。川からは、蟹がちらちら見えるが。倒していても、きりがない。ここで、戻るのがいいだろう。

 アキラは、手をわたわたとさせて。


「転移って。まさか、あれか。どこでもド●的な奴か?」

「えっと。それが、何なのかわかりませんけど。行ったことのある場所には、転移できます。行ったことのある場所でなくても遠見の魔術を組み合わせれば、行けますね」

「どこでもド●持ちかよ。とんでもねえチートだぜ。もしかして、他にもチート持ってるとか」


 チートを連呼するアキラは、目をキラキラさせている。うっとおしい。


「他にも、というとインベントリとかですか」

「ゲームっぽいなあ。それって、あれだろ4次元ポケッ●的な奴だろ。ユーウって、もしかしてドラ●もん的な奴なのか」

「ええっとなんの事かわかりませんけど。そうなのかもしれませんね」


 日本人は、すぐにわかりやすい例えを使うので危険だ。いろんな意味で危険人物であった。デコが広いアキラは、普通の人っぽいが。黒い服もそこそこ汗臭い。臭わないのであろうか。

 転移門を開くと。


「すげえええ。なんだこれ、向こう側がどうなってるのか見えるのな」

「入りましょう。鳥馬と荷台は、回収します」

「おっと、先に入っていいのかい」

「もちろん」


 アキラが入り、マールが次いで。セリアとミミーにエリストールが入った。

 そこは、事務所の中だ。


「マジかよ。いきなり帰れるって、すごくねえ? いや、強奪とかなんのこれ。しょぼすぎるだろ」

「でも、強いですよね。スキル的には」


 自虐しだした。もっと自信をつけてもらいたいのだが。そんな風では、なかったようだ。励ましてみるが、アキラは今一な反応だ。


「いや、いやいや。強いっても相手から取れるだけで、戦闘中に剥ぎ取って無力化するとかできねえし。相手が強いと、逃げるしかできねえし。制限が厳しすぎるぜ。はっきりいって、ユーウの使ってる魔術のがつえーよ。ありえねえよ。マジで騙された感があるぜ」


 アキラは、椅子に座ってぐったりした。とりあえず、飯にして服を着替えたり風呂に入った方がいいのではないだろうか。ゲームと違って、汗が臭いを放ったり汚れたりで大変なのだ。飯もなければ、魔物であっても料理するのがこの世界である。食うのに困れば、暴動が起きる。そんな世界で、清潔だとか整理整頓を教えていくのは。骨が折れる。


「さて、どうなんでしょうね。ただ、努力するとその強奪スキルも強化されたりするかもしれませんよ。成長がある、ならですけど」

「成長ね。とりあえず、風呂に入りにいくか。着替えとかは、いいからな。マールも風呂に入ってこい。それで、飯にして寝ようぜ」

「寝るんですか」

「そりゃ、だって夕方だぜ? 夜にでもなったら、狩りなんてしてられないって。そんなに狩りしても、効率が上がらないっていう、な。この世界じゃ、テレビもラジオもないんだろうし。やることっつったら、アレしかねえじゃんアレだよ」


 アキラは、にやにやした。下の方が盛んらしい。あっという間にマールと子供を作りそうだ。時間は、有限だというのにアキラはゆったりとした人生を送るつもりなのか。レベルは、そうそう上がったりしないというのに。ましてや、アキラは2人だ。剣の腕は、そこそこにあるのでウルフ辺りであれば負けはすまい。

 桶を手にしたアキラは、自分の部屋を確認して風呂へと行くようだ。

 セリアが、いう。


「ここで、晩御飯にするのか?」

「いや。帰ろうかな」

「そうか。モニカも、連れて帰るのか」

「そうだね。迎えに来るのも時間がかかるだろうし」


 転移門を開くと、家の方へ帰ってご飯をとる。出迎えたのは、桜火だ。


「お帰りなさいませ。ご主人様」

「うん。ただいまー。何か、変わった事はあったかい」


 玄関には、メイドが整列している。増えている。財政が安定しているせいか。

 グスタフは、質素を旨としているはずだが。桜火が手配したのかもしれない。

 主人の手落ちをカバーできるくらいには、有能だ。

 滔々と流れるように、桜火は話す。


「特には、変わった事ないと思われます。学校の方からは、出席するようにと連絡が来ておりますが。いかがされますか。アル様の方からは、学業について心配する必要はないとの事づてを仰せつかっておりますが」

「あーうん。その、それで出席しなくても大丈夫だと思う?」

「出席日数については、特別の配慮をするとの事です。成績点などは、考慮されませんのでABCD段階でオールC評価になるとか。最低の手前ですね。こちらは致し方ないかと。評価できませんので」


 ぐうの音もでない。

 まさに劣等生。というか、落第生だ。このままいくと、学業の方は壊滅的だ。日本の学校を卒業する程度には勉強ができるかもしれないが。物理だとか、化学だとか教えようという事になっているので中学辺りからは真剣に取り組まなければ。というような危機感くらいは、ある。魔物がいるので、仕事には困らないだろう。


 というような呑気な考えがあったりする。現代社会のように、役に立たない事ばかりでない。冒険者として、生活をできるようにする仕組みが整えられている。工場を作り始めて、そこそこになるので工員は必要だ。これが、金を持つ者と持たない者との差なのか。愕然とする。金が有るから、色々できて商売をすれば勝手に金が増えていくという。


 貧乏人は、貧乏なままなのだ。それをなんとかするのが、政治の役目なのだが日本の政治家というものは機能していない。国会があっても意味がないのではないだろうか。居並ぶメイドたちを見ながら、一体どこからこれらの人間を雇ったのだろうか。資金の方を一部で、桜火に管理させているためか。屋敷が綺麗に片付いている。


 アルがくるので、表面だけは取り繕ったようになっていたというのに。通路が、さっぱりしていて魔灯が備え付けられている。歩いていった先には、シャルロッテやオルフィーナが談笑していた。シャルルがオマケのようにくっついている。目障りな事に。ルナが立ち上がると、全員が優雅にお辞儀をしてみせる。様になっていた。


「今宵のお食事は、ここでされますか? それとも、済まされましたでしょうか」

「ああ、うん。ここで食べようかなって」


 後ろについてきたセリアやエリストールといった面々がお辞儀をしている。

 同じようにいたはずのミミーは、どこにいったのか。


「それはよろしゅうございます。早速、準備にとりかかりますのでお風呂に入られてはいかがでしょう」

「うん。それと、後ろにいたミミーはどうしたの」

「お連れの方は、先にお風呂に入らせてもらいました。あの格好で、この場には少々差し障りがございます」


 と、オルフィーナの横に似た子が座っている。オヴェリアか。すぐに隠れてしまった。怖がられているようだ。アルカディアを滅ぼした張本人とっても過言ではないのだから、仕方がない。会話をするには、間が悪いか。身体が臭う。


「じゃあ。また、後で」

「あっ」


 シャルロッテが駆け寄ってくる。


「お兄ちゃん。どこいってきたの」

「ええっと、ちょっと遠くまで。蟹と戦ってきたんだ。ほら」

「わあ、わあっ」


 蟹の腕を取り出すと、布の上に置いた。


「すごい。これ、魔物の腕なの? ゴブリンとかとは全然違うわよね。えーと、待ってね。えっと」


 ルナが何かを言おうとするが、中々出てこない。


「クラブ、という魔物ではございませんか」


 オルフィーナだ。意外にも。


「そう、それよっ」

「当たり。よくわかったね」

「私も実物を見るのは、初めてです。こんな、恐ろしい刃をしているのですね」

「すごいすごーい」


 まだ幼さの抜けないシャルロッテに大して、ルナとオルフィーナはきちんと考えているようだ。


「触っちゃ駄目ですよ。これ、怪我すると危ないのでしまっときますね」

「ええっ? もっと見たいよー」


 だだをこねるシャルロッテ。これには勝てない。


「では、これを。甲羅です。尖っている部分がない物ですが、触っては駄目ですよ」

「ちょっとくらいなら大丈夫じゃない」

「ちょっとくらいですよ?」

「わかってるわよ」


 桜火に目で促すと。視線に反応して、ぱちぱちとした。頼れるメイドさんだ。


「お任せください。解毒の魔術にも心得があります。薬も屋敷には、常備させてありますので。心配には及びません」

「さすが、桜火さん。頼りになります」


 と、顔を赤くした桜火がくねくねしだした。どういうことか。

 不可解だ。その場を立ち去ると。


「いい身分だな。おい」

「ええっ? 気苦労が絶えないんですけど」

「どーだかな。幼なじみがあんなに居るとは…しかも可愛い子ばかりっ。貴様は、一体どれだけの少女を毒牙にかけて来たというのだ! ミミーだけでは飽きたらず、どこでもかしこでも粉をかける。あまつさえ、男にまで色気を出すとはっ。やはり、私が正しく教えてやらねばならないようだな! 年上の良さというものをっ」


 エリストールが、興奮している。鼻息が、ばふっと顔にかかる有り様だ。セリアなどは、いつのまにか背中にしがみついている。一体、何がしたいのか。

 風呂場に入ろうとするのに。エリストールがぴったりとついてくる。入ろうというのか。男湯に。


「なんでついてくるの?」

「あーうん。背中を流してやろうと思ってなっ」


 明後日の方向を向きながら、顔が真っ赤だ。鋭い眼光も宙を泳いでいる。


「駄目ですよ。男女7歳にして、同衾せずです」

「しかし、貴族ともあろうものがメイドに背中くらい洗わせる物だろうに。もしかして、一度も洗ってもらった事がないのか?」

「それとこれとは、別でしょう」


 エリストールをどうにか思いとどまらせて、中へと入る。どうして、人の背中を流そうというのか。邪な欲望しか感じられない。子供だというのに、してしまったらどうなるのか。養うのも大変だ。というよりは、世間体が危うくなる。子供の時分から、やっていてはおかしくなってしまうだろうに。エリストールに、説教をしなければならない。

 と、横を見る。


「えええ? セリア、どうしているの」


 何故か、犬の状態になったセリアが身体を洗っている。ヒヨコなDDも平然として、そこで身体をお湯につけていた。アルブレスト家の風呂場は、蛇口を捻ればお湯も出るようになっているのだ。器用にも、その上に乗って蛇口を閉めている。どぷんと、音がしてDDが桶につかった。


 ぷかぷかと浮いて、桶の中を楽しそうに泳いでいる。掴みたくなる。が、それどころではない。


「ねえって」


 反応を待つ。すると。


「いいじゃん。何もしてないし。別に、見られたって減るもんじゃないでしょ」

「いや、気持ちの問題だよ。セリアも、堂々と入らない」


 すると。前足を上げて、「ことわる」と書いてきた。ユウタの方に選択権はないのか。が、モラルの問題だ。間違いが起きたらどうするつもりなのか。全く考えていないようだ。ありえない。


「ええっと。女の子が、堂々と男風呂に入っちゃ駄目だって」

「竜だもん。わかんないもん」


 意味がわからない。女の理屈は、度し難いとはこのことか。会話にならないので、DDとセリアをつまみ出そうとすると。


「いい湯だな」

「は?」


 髪を結い上げたエリストールが塀を乗り越えてきた。大事な部分が。見えてしまうのではないか。本人は、布で隠しているつもりらしいが。無駄に目がいいと、ろくな事にならない。むくむくと下半身が元気になるのだから。

 あってはいけない。


「何故、こっちに」

「いいではないか。ピーを観察しにきた」

「はい?」


 禁断の呪言を唱えた。エリストールは、つっと歩いて接近してくると。

 不意に角度を変えて、そそくさと風呂に入ってしまう。豊満過ぎる肢体を布で覆っているが、隠しきれていない。


「ふっふっふ。股間は正直だな。ええ?」


 下を向くしかない。悔しい。

 しかし、股間は意思に反していた。セリアとDDが湯船から見ている。

 顔が、破裂しそうだ。 


パーティーの女子に自重が(・∀・)

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