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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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80話 強奪さんと鳥馬車に乗る。 ●(ユウタ、セリア、エリストール、ミミー、アキラ、マール、蟹)

「手応えがないな」

「そのサンピラーだかチンピラーだが撃っちまえばいいんじゃないのか?」

「アキラ、だったか。お前、地上を消し飛ばすつもりか」


 セリアが、アキラを窘める。道には、人の気配がない。往来が途絶えて、しばらくたっているようだ。

 馬車には、セリア以下ミミーにエリストール。それに、アキラとマールが乗り込んでいる。

 電撃で蟹を焼きながら、進んでいく。後ろでは、セリアがアキラと話すようだ。


「へっ」

「へっ、じゃないぞ。ユーウの奴が極大魔術を地上で使ったらどうなることか。天空高くある小島くらいでしか使えん術だ。迷宮でも滅多に撃てない代物を、気軽に使えというのは無神経すぎる。私でも奴の魔術を使えだなんて言ったことがない。死にたいのか」

 

 秘密をばらすとは。切り札は、秘密なのに。

 人の呪文をばらしている。よろしくないが、止めるのもみみっちいか。

 太陽柱。おいそれとは撃てない魔術だ。強烈なプラズマ粒子を放出し、放射線が発生する。

 その範囲で生命体が生きている事が難しい呪文である。セリアをこんがり焼くとすれば、これであるが。一回撃ったきり、セリアは使うなというので。封印された魔術だ。 

 アキラは、腕組みしている。


「そんなすげえ魔術なのかよ。おっかねえ」

「その名の通り、太陽が柱を作っているような感じだ。横でも縦でも食らえば、何も残らない。なぜ、エリストールが知っているのか不思議だが。見たことがあるのか」

「いや? ティアンナ様が話してくれた事がある。竜巻(トルネード)をも凌ぐ強力が術を。あの頃の私は風系の技の中でも真空を間をおかずに投げつけるのが、最大の技だと思っていたのだが…。まだ、青かったのだ。天地を揺るがす、風の波を生み出し球を投げる。風の極意は、未だに掴めないと。まだまだ未熟」


 セリアとアキラの話にエリストールまでもが加わる。黙っていれば、凛々しい軍人という格好なのに。

 真面目に話すエリストールは、怜悧な容貌の口元を歪めた。

 エリストールも風を使う魔術師らしい。騎士に魔術師と弓術士と多才だ。森妖精だけに、年月の積み重ねがあるようだ。

 アキラの視線が鳥馬車の前にいる蟹に移ったのか。電撃で焼かれるのを見てなのか。


「敵が、どんどん焼かれていくな。俺の出番とか、ないんじゃないか」

「そうらしいぞ」

「先を急ぎましょう。敵がどこまで出てきているのか掴む方が先です」


 川に沿って、南下する。川沿いにある村を探して進むと。前方に、崩れかけた柵が見える。

 奥には、家らしき物がある。


「村じゃねえか?」

「そうみたいです。えっと、ご主人様。敵が、移動しているみたいですけど」

「どういう事よ」


 マールの言葉に、アキラが疑問をいう。それに、セリアが答える。


「恐らく、囲もうという腹だろう。敵の待ちぶせがあるかもしれんな。どうする?」

「セリアで倒せる相手かな」

「ふっ。私を誰だと思っているんだ。大抵の相手なら、一人で余裕だ」

「じゃあ。セリアは先行して敵を排除しつつ進もうか。討ち漏らしたのは、エリストールの弓か僕の電撃で倒そう」


 と、言いつつボウガンを取り出す。

 電撃を付与するのもいい。弓の鏃に、放電現象が起きる。蟹に向けて発射すると、それは盛大に破裂した。セリアは、鳥馬車から飛び降りると。


「わかった。前に進んで、蟹を始末しておけばいいのだな。囲みを厚くされる前に、かき回してやろう」

「なるべく、ロボットは出さないようにね。売り物にするんだから」

「了解した」

「売り物って、クラブが売れるのか?」


 アキラは、何もわかっていないようだ。金を出すばかりでは脳がない。稼いでこそATMだ。


「アキラさんは、日本人なんですよね」

「だな。けど、それが何か関係してるのか」

「転んでもただでは起きないって、知ってますか」

「そりゃ、知っているな。それで、クラブとどう関係があるんだ?」


 金持ちが金を出せば、世の中の金が回るという人間がいるが。嘘っぱちだ。

 食う量は、たかが知れているし。希少品に金を注ぎ込んで一体どれだけの消費になるというのか。

 誰かに回した金は、手元に戻さねば無一文になってしまう。

 

 アキラの思考は、停止しているらしい。金は、やって来るものじゃない。売って作る物なのだ。

 蟹という硬い甲羅を持つ生き物なら、いくらでも使い道がある。特に、ただで提供するのもあれなのだ。勿体無いのだ。折角食べたのなら、綺麗に甲羅をとって貰って。それをモニカに鎧や武器にしてもらえば、一石二鳥である。腹も膨れて、人気もとれるとなれば更に旨味が増す。それが、わからないとは。


「蟹って、硬いですよね」

「まあな。剣が、通らねえんだ。あっ」

「そういう事です」

「なるほどなー。なんか、どっかで見たゲームのような事をやろうっていうのか。モン狩りかよ」

「素材を集めて、武具や防具にするのはありふれた話ですけどね。もう少し、レアなモンスターを狩りたいですけど。氷の剣山とかで毒氷花(アイスラフレシア)を狩るのもいいでしょう。あれは、狩りがいがありますよ。クラブも兵士の防具にしては、それなりに有用です。狩っておくのは、良いことですね」


 素材が集まれば、良い物が作れる。モニカは鍛冶の技術を磨いているのだ。使わない手はない。質のいい防具と武器は、魔物を駆除するのにも有用だろう。売ってもよし、使ってもよし、食べてもよしだ。アキラは、腕組みをして頷いた。


「なるほどー。そういったとこから、頭が回らんちゅうのな。俺も、子供に負けてるのは悔しいけど。今は、我慢するしかないわな。なあ、ユーウはまだ小学生っていってもいい年頃だろ? どうして、こんなに頭が回るんだ? それとも、この世界じゃそれが普通なのか。気になるんだが」

「こんなのが、ごろごろいたら私も困る。ティアンナ様を超えるような存在が居ること自体が、な」

「ご主人様、ファイトです!」


 セリアの変わりにエリストールが反応した。

 マールがぽんぽんでも手にもって応援しそうな勢いだ。対するアキラは、頬杖をついた。


「ところで、後ろを見ながらでも大丈夫なのか?」

「後ろにも、目をつけろだなんて言うじゃないですか。前を向いていないと危ないのは、わかりますけど」

「こりゃ、確かについてきても出番がねえ訳だ。遠距離もってないと、役にも立てやしねえ」


 と、不満があるようだ。なので、弓を手渡す。


「弓か。俺、射った事がねえんだけど。エリストールの姐さん、教えてくれないか」

「む。貴様、弓も射った事がないだと? 一体、どのような生活をしていた」

「そりゃ、これで」


 ぽんぽんと剣の鞘を叩く。


「剣よりも槍、槍よりも弓だ。それくらいは常識だぞ」

「つっても、剣のが格好良いじゃん」

「貴様、戦いを舐めているのか。より間合いがある方が有利に決まっているだろうに。戦闘を経験した事がないのならわかるが。それで、人を斬りまくっていたのなら当然わかっているのではないのか」


 考えこむ。


「運がよかった…って事か」

「ついていたのだろうな。弓手と戦った事がないのか?」

「そういや、そうだわ。大体、爪とか剣とか斧とか棍棒だとかだったな。まったく、ついてたわ。大概が、短剣だとかで襲ってくる連中ばっかだったもんな。魔術も使ってくる相手がいなかったからなあ。スキルを奪う事も出来たし、な」

「奪えなくなったら、どうするつもりだったんです」


 アキラは、困った表情を浮かべた。頭をぽりぽりと掻きながら、


「ええっと。何も考えてなかったわ」


 苦笑いする。


「蟹に弓は、どうかと思うがな。硬すぎて、普通には弓が通らないではないか。こいつに魔術の心得があるようには、見えない」

「目を狙って射つか、口を狙って射てばどうでしょうね。口が一番ですけど、接近してくるようだと当てがたいですけど」


 アキラが、遠くにいる蟹に向けて矢を放つ。しかし、


「当たらねえ。口どころか、かすりもしないんだが?」

「要、練習ですね」

「大変だぜ、これは」

「マールも頑張りますよ」


 アキラとマールが弓に矢をつがえて、射つ練習に励む。が、敵に当たらない。

 矢が無駄になりそうだ。


「実戦で、いきなり使うのは難しそうですね。魔術は使えるんですか」

「いーや。それが、からっきしだ」

「…それで、よく生き残ってこれましたね」

「だって、しょうがねえってば。魔術書とかあるらしいけど、俺が転移した村とか立ち寄った町にはなかったんだよ。冒険者ギルドにはあるらしいけど、それ見るのにすっげえ金取られるらしいじゃんか。そんで、その金を稼ぎにこっちに出てきた訳よ。ハーレムだけの為に、こっちに移動してきた訳じゃないんだぜ」


 今一、不安だ。何も考えずに、移動してきたのではないだろうか。少し、状況が悪化したのでとりあえず北に移動した。みたいな。弓を取り上げると、今度は杖を手渡す。


「まさか。これで、魔術を使って見ろって事か?」

「杖は、増幅器ですからね。持っていないよりは、持っていた方がいいと思います。ただ、魔術士のジョブを持ってますか?」

「いや、ないな。鑑定を俺にかけてくれよ。説明するのも、めんどくさくいし」

「それでは、失礼して」


 アキラに鑑定をかけると。酷い。自ら鍛えたとみられるスキルは剣技くらいか。

 それでも、下だ。


「LV20の剣士。なるほど。双剣のスキルがあったりするんですね。投擲レベルが高いですね。これで、離れた相手を仕留めてきたりしました?」

「だな。まー、剣士っていってもアイテムボックス持ってないからな。手当たりしだいに投げたりは、できないけどな。あったらよかったんだけどなー。アイテムボックスのチートも結構ポイント食うんで、とれなかったんだわ。なんと、驚きの20ポイント。かなり使うだろ。ぶっちゃけ、39ポイントじゃまともなビルドなんてできねえって。どう思う?」

「かなり、きつそうですね。強奪より、アイテムボックスとか魔術が使える職を選んでしまいますよ。ジョブを選ぶとかもあったんじゃないですか」


 アキラは、ビルドに失敗した転移者のようだ。強奪は、強力なスキルなはずなのだが。当人のスキルは微妙であった。制限なしの距離も関係なく、相手から奪える事を想定していたというのに。全くの微妙スキル持ち。少しばかり、憐れになってきた。

 アキラは、脂汗を浮かべている。焦っているようだ。


「お、おう…。その剣士って、セイバーっていうじゃん」

「それは、何か意味があるんですか」

「いや、だからセイバーっつったらなんか強キャラっぽくないか」

「えええ?」


 どうも、有名な人を想像しているらしい。当人の想像力は、かなりあるようだ。剣士では、ありきたりの技しか使えなかったりするというのに。上のジョブにチェンジしていかなければ、生き残れない初期ジョブだったりする。

 アキラは、しょげかえったのか。声が小さくなる。


「ま、その、えええって言われると悲しくなってくるわ。これでも20になったんで、99目指してがんばろうって思ってたのに。ひでえよ。そんなに弱いのか?」

「イメージを崩してすいません。その、剣士は99まで上げればそれなりのボーナスが付きますけど。そこまで上げるんでしたら、仲間が居ないと厳しいですね。さっさと次の職に変えてしまったほうが、上には行きやすいですよ。とれるスキルを一通りとってしまったら、スキルを鍛える事くらいしかないですし」

「ま、まだ初期だから。セーフだなっ」


 顎から下に汗が落ちる。言われたアキラは、慌てている。エリストールやミミーが弓を持って射つ度に、経験値が溜まっているようだ。アキラをパーティーには、入れていない。男を入れる趣味は、無いので。ロシナやアドルは、小さい内から一緒に居たから仕方がないが。それでも、強くしていくと邪魔になったりするのだ。強敵は、セリアとアルだけで十分。

 そんな事とは、つゆ知らず。アキラは、杖を持って叫ぶ。


火よ!(ファイア)

「出ませんねえ」

「ご主人様は、魔術士でないのですから出ないのは当然です」


 マールは、冷たい声をだす。主人はうなだれた。


「んー、でも魔術士の素養があるとジョブを獲得したりするんだけどなあ。それこそ、鑑定でMPを消費し尽くすしかないかも。魔力を使い果たしてみましょう」

「マジで? 言ってるのか」

「魔力を使いきれば、寝ると最大値が1日1回は上昇しますよ」

「でも、それって気絶するだろ。気絶した時、誰が守ってくれるんだよ」


 と、アキラは左右を見た。マールが可哀想な人を見る目をした。


「あのご主人様。そのユーウ様を信じましょうよ」

「信じてもいいのか?」

「ここでは、マズイですけど。事務所代わりに使っている場所の隣を使ってください。宿代わりに使えるようにしてありますので」


 ガーランドも使う予定の宿だ。ミミーの家族にも下宿してもらうのもいいだろう。

 門の近くにはロボットが出しっぱなしだったりする。眺めに来る獣人が多い。

 アキラは、うなずきながら肩を叩いた。ごつごつしている。


「いやーユーウってば。話がわかる奴で、良い奴だなあ。でも、君って損してるって思わないのか?」

「損とは?」

「や、だってこんな得にもならなさそうな事しているわけだろ。別に、自分の領地を広げている訳でもなしに。他人の面倒をあれこれみているのは面倒くさいんじゃねえのって。そういう話」


 杖を持ったままアキラは自身の肩を叩いた。肩が凝っているのか。そして、村に近づいても人の気配がない。それどころか、蟹の死体が散らばっている。色とりどりだ。赤や緑に青といった蟹が動かない。


「ええ。面倒ですけどね。頼まれたからには、しっかりやらないと」

「ふーん。面倒見がいいんだな。俺が、ハーレム築くのも手伝ってくれよなっ」

「それは、ちょっと。自分でやってください」

「ケチなこと言わずによおー、俺も力を貸すからさ」

「大体ですね。会ったばかりなのに、アキラさんの好みなんてわからないですよ」


 と、


「貴様ら2人で、話をしてばかりだなっ」

「そうです。ご主人様、マールの事なんてどうでもいいんですね!」


 エリストールとマールが睨んでいる。ミミーは、犬とじゃれついていた。


「だって、俺、接近戦じゃないと役に立たないんだもん」

「僕が電撃で倒しているのが悪いんですね。確かに、楽過ぎるのかもしれません」

「いやいや、蟹だけに水属性っぽいし矢が当たっても弾かれし。魔術さいこー。俺も電撃を剣から飛ばしたいです。先生」


 先生。言われて、悪い気がしない。しかし、アキラは魔術の素養が有りそうにない。


「ユーウを倒そうと思ったら、遠距離からの弓くらいしか無さそうだな」

「おっ。俺もそう思った。けど、言うか普通」

「怖いこと言わないでよ。即死したら、どうするの」

「と、いいつつ実際に飛来すると普通に避ける奴だからな」

「ユーウさんなら、ぱって取りそうですよね」


 ミミーが犬の手をとって合わせる。そんなに、器用に行くはずがない。

 先行したセリアが倒しているのか。蟹が少ない。DDがひょっこり顔を服から覗かせた。きょろきょろすると、すぐに引っ込んだが。






挿絵(By みてみん)

ユークリウッド、16歳バージョン。

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