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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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78話 強奪さんと (ユウタ、セリア、ミミー、エリストール、アキラ、マール、ロメル、与作丸、シルバーナ)

「LV20とかで、魔王と戦うなんてありえねえよ。つか、可愛い子と戦えんのかよ。無理だぜ」

「……(それもあるけど、秒殺間違いないけどな。普通じゃねえから)」


 魔王を倒すべく送り込まれた勇者らしいが、とても勇者らしくない。全身を黒系の装備で固めたアキラは、実に初期状態と大して変わらなかったりする。剣士なのだ。職業がそれしかない。

 アキラは鍋をかき混ぜては、お椀にスープを注いでいく。観察するに、面白くないようだ。


「毎日こんなことばっかやってんのか?」

「ええ。何か問題でもありますか」

「いや、寝床も借りてるし飯にもありつけるから文句をいう筋合いじゃねえけど」

「それはよかった。冒険者登録はしているんですよね」


 アキラは、さっぱりした顔になっている。配給を手伝っていると。


「うーん。そうなんだけどよ。この板って、本当に価値があるもんなのかねえ」

「魔術で刻印がされているでしょ。役に立たないなんてことはないわよ」


 エリアスが後ろから声を出す。アキラは、お椀に注ぎながら返事をする。


「エリアスちゃんは、物知りだなあ。そっか。けっこー不安だったんだわ」

「ご主人さま!? マールの言うこと信じてなかったんですか!」

「あ、わりいわりい。やっぱ、心配になるじゃん」


 今日も、行列は長い。空は、青い。どこにも雲が見えないくらい澄んでいる。


「クエスト受けて、魔物を退治すればいいんだな。兵士になるのも手なんだろうけど、ハーレムが遠のいちまう。ユークリウッドみたいに可愛い子と知り合いになりてえなあ。誰か紹介してくれよ」

「誰かって、そんな知り合いはいませんよ」

「あっ。アキラだっけ。貴方、アル様とシグルス様にそういう事いったら駄目よ。死ぬわよ」

「えっ。また、すげえ人なのか?」

「すごいもなにも王族だし。貴方の価値観で言えば、日本の象徴にタメ口を聞くようなものよ。ユーウの前でなら、フランクでも不問になるかも知れないけど後で斬首とかになるかも」

「マジかよ。本当に中世っぽいな」


 アキラは、誤解しているようだ。


「アキラさん。ここは、どっちかというと古代ですよ。力こそ正義的な。法もくそもないような世界です」

「そうなのか? つっても徴税とかあるんだよな。一部には、すっげえハイテクなのもあったりするし。市場とか見に行くとへこむけどなあ。ここの品揃え、やべえよ。南西はもっとやばかったけどよ」

「不敬罪とかありますので、注意してください」

「もしかすると、貴族とかその子弟でも適用されちゃったりするのか?」


 日本からやってきたのだ。そのままの常識が通用すると思っているのだろう。山田に引き合わせるのもいいかもしれない。アキラは、彰と書いてイトウは伊藤と書くらしい。頭がハゲそうだ。伊藤で思い出す相手は。モバゲーの重課金フレンドであったそいつを。今になって、どうしてか思い出す。


「しますね。本国でなら、牢屋行きは免れないでしょう」

「参ったね。ところで、これは何時までやるんだ?」

「そろそろ終わって、狩りにいくのもいいかもしれませんね」

「一緒に連れてってくれよ」

「駄目よ」


エリアスがにべなくいう。


「なんでだよ。連れてってくれたっていいじゃねえか」

「順番待ちしている状態なのに、あんたの入る余地なんてないから。皆、付いて行きたいにきまっているじゃない。セリアは、一人で狩りに行ってしまうし。他の人間と組んだって効率が悪すぎるもの。待ってるのに、横から入るのはマナー違反よ」

「人気のパーティーなのか?」

「そんな事ないですよ。ただ、男を育てるのはあまり意味がないというか。結局、敵を育てる事になったりするので。自助努力してほしいですね。それこそ、ハーレムを作りたいなら他の男なんて邪魔なだけじゃないでしょうか」

「そりゃあ、同意見だ。となると、女で戦える奴隷を集めるのが先決か。金がいるな。やっぱ迷宮で稼ぐしかないわな。儲かる迷宮とかあるのかねえ」

「近いところだと餓狼饗宴という迷宮がありますけど、マールさんを連れていくのなら地上で魔物を退治した方が良さそうですね。今だと、川沿いのクラブがホットですよ」

「蟹かあ。あれ、強敵なんだけど。死ぬだろ。囲まれて、死ぬ奴を沢山見てきたからなあ。なんで湧いているのやら。理由とか知ってるか?」

「いえ」

「だよな。あれが、南の運河で大量に発生してから村やら町が大変な事になっているんだわ。兵士とかあてにならねえし。同じように転移したはずの人間は見当たらねえし。どうなっているんだよ。西だと、食ってけそうなんで安心したけど。ミッドガルドに行ってみたいんだけど、なんとかならねえの?」

「アキラさんが入国するには、アル様に登用してもらうしかありませんね。ただ、人は余っているのでよほどでなければ登用されないでしょう。ジギスムント家の兵が帰還するので、騎士も兵士も人が余りますので」

「そうそう都合よくはいかねえか。まいったね。これじゃ、装備を整えるとしますか」

「準備が終わったら、声をかけてください」

「えっ。連れてってくれんのか?」

「折角であったのに、いきなり死なれてもこまりますからね」

 

 改装された内部は、中々に整っている。椅子が増えていたり、テーブルが真新しくなっていたり。


「じゃあ、私は抜けるわ。どうせ、クラブ狩りなんでしょ。フィナルと一緒で夜に来るから。空けといてよね」

「うん、でもいいの?」

「私も用があるのよ。時間は、有効に活用しないと。何事も限りがあるから、止まってられないわ」

「あ、ちょっと手を出して」


 注射器を取り出す。学校にあった代物だという。針を突き刺す。かなり、痛いのか。


「これ、なんなの」

「予防接種だよ。病気にかからないためのね」

「そういえば、病院なんて作ってたわね。それが関係しているのかしら。貴方なら、回復呪文だけでいけるんじゃないの。こんなものを作る必要があるのかしらね」

「何事も予想が必要だよ。けーわいと書いて危険予知。転ばぬ先の杖だね」

「いいけど。これ、どういう効果があるの」

「三種混合の破傷風、ジフテリアとかに対応しているね。結構長い期間の効果が見込めるから、やっといていいと思うよ」

「破傷風ね。わからないけど、ありがと。これで、借りを返しただなんて思わないでよね。あと、料金を徴収するわよ。あれの」

「うん。それじゃあ、またあとで」


 と、エリアスは去っていった。魔導騎士たちの姿が見えなくなる。

 町の外に、ミミーやエリストールといった面々を連れて移動していく。モニカは、鍛冶をし始めた。


「なあ。やっぱり、いいのか?」

「別に構いませんよ。ちょうどよくレベルを上げようと思っていた所なので」


 そこに、ロメルがやってきた。


「こんにちは、ユーウ様。こいつは、誰ですか」

「こんにちは、ロメルさん。こちら、アキラさんです。冒険者になったばかりの方で、南からきたそうですよ」

「へーえ。冒険者ですか。ユーウ様の知り合いなら、さぞ腕が立つのでしょうね。立てこもりが解決した件のご報告とヨサクマルとシルバーナという方が探している事をお伝えしに参りました。それと、周囲の魔物を倒して負傷した兵士の手当が必要になっているのです。何かと入用になるのですが、当座の資金が苦しくままならないので相談に参りました」


 足を止めての会話だ。町の外には、建物を建造しようという人間と獣人たちが忙しく動いている。

 一角で、


「立てこもっていた人間たちは、降伏しました。最初は信じていなかったのですが、ガーランド卿が説得するとあっさりと。親父がいくらいっても聞かなかったのに、大した人ですよ。罪を問わざる得ないのですが、それはミッドガルドの法で裁く事になるそうです」

「なるほど。それで、いくら程必要になるのですか」

「2000万は、いります。治癒術士を雇うだけでもそれだけかかるので」

「フィナルに手配してもらいましょうか」

「それは、助かります」


 金は、おいそれと動かせない。フィナルに借りがまたできるのだが、止む得ないだろう。女神教は、多数の治癒術士と神官を抱える。それこそ、司祭にしろ何にしろ高位術士はそこに所属しているくらいだ。大神教も術者を抱えているが、バーム村の件などもあって関係は悪い。最高位の地位にはアル王子が就いているらしいが。アルを頼ると、ろくな事がない。


「やっぱ、すげえとこの娘だったのか。後光が、さしていたり地面が光って見えるのは幻覚じゃないんだな」

「ええと。もしかして、光の聖女様に会われたのですか」

「光の…聖女様。すごそうだな」

「実際に、すごいんですよ。フィナル様のおかげで、傷が治ったり病気が癒えたりした獣人は数えきれません。あの方が来てからというもの、町は生き返ったように、活気で溢れていますから。ユーウ様がいてくれるおかげで、仕事が出来て、食うのに困らなくなったのです。ラトスクの獣人たちは、お二人に大変感謝してますよ。それと、あんたは言葉遣いに気をつけろ。打ち殺すぞ」


 ロメルが、急に怒りを露わにする。


「お、おい?」

「てめえ、何様のつもりだ。ああ? 喧嘩を売ってんなら、いくらでも買うぞ。ユーウ様にその口のききよう。ユーウ様が許しても、俺らが黙っちゃいねえ! ちっとこい」

「ま、まあまあ」


 割って入る。ロメルとアキラは、いきなり殴り合いを始めそうな雰囲気だ。

 と、


「ふっ」


 セリアの拳がロメルとアキラの鳩尾に決まる。


「煩い。黙って、寝ていろ」

「あーあ。すいません。あっシルバーナ」


 タッと立ち止まったのは、皮鎧を着た仏頂面の少女と忍者だ。


「ここにいたのかよ。冒険者ギルドに来てくれよな」

「ごめん」

「いや、謝る事じゃないが。あれの件なんだが……」

「何か掴めた?」

「すまん。さっぱりわからないかった」


 与作丸は、悄然としていう。シルバーナの方も。


「ごめん。こっちも掴めなかった。代わりに、王都とか周辺の状況を調べてきてあるから。そっちの方だけでも話を聞くか?」

「そうしよう。ただ、鳥馬で移動しながらでもいいかい」

「いいよ。あんたが忙しいのは、知ってるからな」


 シルバーナは、髪をいじりながら返事をした。鳥馬の場所に移動する。

 鳩尾を押さえたままのアキラは、


「ひどい目にあったぜ。げっ、こいつはチョコ●じゃねえか!」

「なんですかそれは」


 すっとぼけた。


「いや、これ有名な奴なんだけど。あっでも前足がないな。似てるが、栗色か。パチもんだな」

「なんだかわかりませんけど。日本には似た生き物が生息しているということでしょうか」

「いやー。こういっちゃなんだが、実物を見ると感動しちまうよ。それで、空とか飛べれば最高なんだけどな」


 アキラは、腹をさすっている。


「飛べますよ。訓練次第です。生まれた時から、そういう風に訓練すると飛馬になります。訓練しないと地面を走るタイプになってしまいますね。それと、馬車には向かないのですけどね」

「そっか。ちなみに、こういうのっていくらで買えるんだ?」

「1頭で、800万ゴルからです。欲しければ、売りますよ」

「ぶぉっ」


 アキラが盛大に吹き出す。シルバーナと与作丸が汚い物を見る視線を寄越した。

 馬車に使う鳥馬は、セリアが御者をするようだ。


「買える額を頼みたいわ」

「中々、下がらないですね」

「こいつ、また新しい顔だな。何か、特技があるのか?」


 与作丸が珍しい物を見るようにいう。


「エリアスも似たような事を言ってたね。ええと、特技は【強奪】スキル。でも、封印されて使えないけど。日本人の世界移動者っぽいね」

「ほおう。では、ミッドガルドで飼うのか?」

「それは、わからないよ。飼うってちょっと酷くない」

「失敬。しかし、実態はそうであろう。使える人間であることを期待するが」


 与作丸は、値踏みするような視線でアキラの全身を上から下まで見る。

 それにマールが、


「ご主人様を馬鹿にしないでください! できる人なんですから!」

「おう。それは、それは。少なくとも、忠義を持った獣人を捕まえる辺り期待できようか。くくっ」


 嘲笑っている。レベルでも見ているのだろう。シルバーナがいう。


「あーいいかい。そっちのピンク色の髪をした女だとか、犬獣人の事は置いておいて。あれと王都の状況から、説明するとしようか」

「うん」

「まず、あれが何だったのか。全くの不明。王都は、各地の流民で溢れかえっている。危険な状態だよ。軍事的空白が生まれているからね。王が復帰したというけれどね。王が復帰したといっても、その指導力が発揮されるには相当な時間がかかりそうだねえ。で、南。これがやばい」


 地図をシルバーナが広げた。


「まず。獣人の王国には、貴族と支配部族とかがいるのは知っているかい」

「なんか、そんな感じだね」

「そうだ。ここラトスクは市長と黒狼族が対立するようになっている。っていうような事情を知っていたりは、するのかねえ」

「初耳だよ」

「市長のドメルは熊系の獣人。それなのに、狼系の獣人が市長でないってのはおかしいだろってのが反目する理由になっているんだろうね。あんたが、この街を治めていくのなら留意しないといけない点だろうさ。で、そこの日本人がいたっていう南なんだけどね」


 シルバーナが言葉を濁した。


「この南。蟹に実験を行った馬鹿がいたのかねえ。急激な進化が蟹に広まって、蟹人が勢力を急激に伸ばし始めたんだよ。目下下手人を調査中。与作丸と連携して、それを突き止めようとしているんだけどさあ。何しろ、命がけでね拠点をここに作るかって話になってんのさ。そんで、密偵のアジトを幾つか作りたい。家を都合できるかい」

「早急に、用意させるよ。ご飯とかも言ってもらえれば、蟹飯でよければ用意できる」

「助かるね。それと、やっぱ……。金ちょうだい。蟹でひと儲けしようってんだろ」


 何故それを。とは、言わない。

 がたん、と。馬車が止まった。セリアが、飛び降りていく。ミミーとエリストールが追いかけた。

 魔物か。アキラとマールを制止する。


「先立つ物は、アル様に言えばいいんじゃないかなあ」

「財布のヒモが硬いんだよ。言って動かすには、ゼンダックやらが煩いじゃないのさ」

「左様。俺のところも入用だ」


 歯噛みした。どうしてか、ちょっと金が入る見込みがでてくると。出て行くのだ。

 金貨の詰まった袋を取り出すと、2人は破顔した。


「悪いねえ。飲み食いに金がかかっちまってさ」

「すまんな。恩に着る」


 2人が、馬車を飛び出す。と、すぐに姿が見えなくなった。懐のひよこがもぞもぞと動く。

 やるせないとは、この事か。いくらでもたかれると思っている所が憎らしい。


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