77話 強奪さんは饒舌 (ユウタ、セリア、フィナル、エリアス、アキラ、マール)
「可愛い子ばっかなのに、手をつなぐのだってしてねえとか。お前、ホモなのか?」
「違います」
「じゃあ、なんでやらないんだよ。こうブチューっとしたり抱きしめたりするもんだろ」
「あの、僕がどのくらいに見えますか」
「中学生か高校生くらいか。ここに学校があれば、なんだが」
「ありますよ」
「すげえ。ずっと、アフリカで暮らしているような感じだったからよ。アフリカって言われてもわかんねえだろうけどよ」
「……(知ってるさ)」
「ま、いいんだ。こっちの話だからな。俺がここに来たのは、ハーレムだなんていったよな。南の方じゃ魔物が溢れかえって、しかも稼ぎがわりい。王都に出る前に、まともな街を見ておきたかったんだわ。音楽が聴きてえ。マールを手に入れられたのは、幸運だけど。なんか、地面に穴を掘ろうとするし。文字が読めねえし」
翻訳チートはあるようだが。解読チートはもらっていないようだ。ちなみに、レクチャー屋では解読スキルもⅠからⅤまである。なんだか分かるから、すごくよく分かるまで。スキルの売り買いができるだけに、強奪スキルを売ってもらうのが好都合だが。売らないだろう。
「ここにきた理由は、わかりました。けれど、南はそんなに不味い事になっているんですか」
「ああ。一緒に転移したので、マジチートを貰った小僧がいたんだけどな。アイガ・ケンイチロウっていう。こいつ、日本人のガキなんだけど。そいつのがスゲーチート貰ってんだよ。それに比べたら、俺のなんて霞むね。あれだぜ、世界っつうか世界っていってもわかんねえだろうけど。あっ、あんたもしかして身分のある人間の子供だったりするのか」
「ええっと、まあそうなりますけど。敬語は、いりませんよ。普通に喋ってくれたほうがいいです」
「なんだか、すげえ丁寧にしゃべるよな。俺としてはありがたいけどな」
アキラは、用意されたお茶を飲む。そして、お茶とフィナルのお付きを見た。
「これも、日本人の好みだし。ウォルフガルドからミッドガルドに行きてえ。なんとかならねえのか?」
「そうですね。厳しいです。入国制限がありますから。他国の商人ですら、商売で入るのはできません。事実上の鎖国です。他国の外交管だとか、貴族なりであれば中に滞在できますけど。それも、金髪の人間に限るだとか」
「それって、すげえ差別じゃん。人種差別なんて、時代に合わねえぜ」
「……一応、理由があります。ただ、そういった事を貴族や王族の前で堂々というと死刑になったりするかもしれません。僕も、なかなか言えないですよ。奴隷の扱いを変えるようにって進言したりしたら、物凄い反発を受けました」
「やっぱどこも遅れた国ばっかなのか。コンビニのチキンが食いてえ。醤油とか胡椒とかねえの? ああ、ここの人間に言ってもわかんねえかな」
唐揚げは、大好物だ。勧めたいが、人物を見るのが先か。
アキラは、周囲を見る。フィナルが、蟹の脚を皿に乗せて持ってくる。
醤油が添えられてある。それを見たアキラは。
「おっ。これ、もしかして。醤油か。あるじゃん」
「わたくしの地元で、生産しておりますのよ? よろしければ、少しばかりとりよせましょうか」
すると。燕尾服をきた執事らしき男が割って入る。
「姫様。このような下賤の者に、かようなお言葉を賜られては。間違いが起きますぞ。それでなくとも、男という生き物は勘違いするもの。下手に出ることはございませぬ。ましてや、こやつめはどこの生まれともしれぬ者。多少、日本人とのゆかりがあったとしても都合を図る理由は低うございます。ご自重なさいますよう」
「差し出がましいわよ。わたくしが望むのだから、早速とりはからいなさい。それとも、お願いは聞けないのかしら」
「ははっ。では、御意のままに」
フィナルが、大の大人にする態度と初老の燕尾服をきた男の態度。それを見たアキラは、ぽかんとしていた。
「な、なあ。君って、もしかしてすごい子なのか?」
「あら、それほどでもございません。ここに逗留するのなら、何かとユークリウッドが世話をするでしょうし。わたくしが世話をしても何の問題もございませんの。ねえ、ユーウ」
にこにこしてフィナルがいう。手には、汗が出まくりだ。
「うん……。そうだね」
「なんかもう、尻に敷かれて感じだな。醤油があるって、おっ。こっちは、味噌か。味噌なんだな!」
茶色い味噌に色を濃くした味噌。味は、微妙な違いしかわからない。どこがどう違うと言われてもわからないのだ。重要なのは、美味しいかどうかだ。
「日本人たちが、丹念にこしらえた品と聞いております。何につけても美味しいかと」
「へえ、お嬢さん。俺にもくれよ」
と、フィナルは反応しない。一転して、無視のようだ。こめかみをグリグリとしてから。何かを感じとっているようである。ふっと息を吐く幼女。
「フィナル?」
「あいにくと、わたくし、猿と話す言葉はございませんの。他をあたってもらえますでしょうか。ユーウもこのような方とお付き合いされるのは、感心できませんわ。猿は、猿。下賤の者といえど、品性の卑しい人間の隠しもしない下劣。目に余りますわよ」
「「えっ」」
対応が真逆になった。
アキラが、顔を真っ赤にしている。口をぱくぱくさせて、まるで金魚のようだ。
フィナルが口汚く貶めるのも珍しい。どういうことか。
「すいません……」
「顔にでておりますわ。ご注意を」
「でも、男だったらそんな事考えるのは普通じゃない?」
「見ず知らずの相手にそのような視線を向けられるのは、不愉快ですわ。わたくしを売春婦だとかと勘違いしているのでしょうか。次に、向けたのなら容赦なく火炙りですわ。ええ、ユーウはよろしいですけど」
「……(と、とんでもないダブスタだああ)」
フィナルは、お付きの人間に視線をやると。入り口から、ぞろぞろと騎士が現れた。
「それでは、わたくしも務めを果たしてまいります。ごきげんよう」
「うん。頑張って!」
「夜は、参りますので時間を空けといてくださいまし」
フィナルがお供を連れて去っていく。外には、整列した聖堂騎士と魔導騎士の姿が見える。と、フィナルの姿が消えてから。アキラは、目を丸くしたままだ。
「なあ。あの子って、すごいところの子なのか?」
「一応、貴族の娘ですけど。神殿とかで働いていますよ」
「そっか。やっぱ鑑定かけたりしたの、不味かったな」
それもあるだろう。
「どっちかっていうと、スケベな視線でジロジロと見たのが不味かったんじゃないですか」
「そっちかよ。おっかない人ばっかで、斬られるかとぞくぞくしたんだけど。なんか、すごいとこの子だろ。間違いねえよ」
と、エリアスが割り込んでくる。
「おにーさんは、日本人だから助かったんだぜ。あれが、ミッドガルド人だったら容赦なかったでしょ。フィナルを舐めまわすように見てるなんて、信者にでも聞かれたら暗殺者がわんさとくるわよ。それでなくても女神って言われてるくらいなのに。大した度胸だと思うわ」
「おおう。こっちもすげーかわいい。なに、この魔女っ子。紹介してくれよ」
「あいにくだけど、私は興味ないわ。時間が勿体無いし。アキラだっけ? もう少し、レベルを上げるなりカルマを下げないと魔人化するわよ」
「魔人?」
わかっていないようだ。魔人。一般的には、人の敵だ。
エリアスは、解説が大好きだったりする。知っているのかエリアス状態になることも。三角帽子のツバを触りながら。
「魔に取り憑かれるってこと。魔人ってのは、悪魔系が憑依して魔人になるタイプと業を積み重ねてなっちゃうタイプがあるのよ。もちろん、生まれながらにして魔人になっているのもいるけど。かなり、殺してきたわね。アキラは、善行を積んでいないのもフィナルが冷たい態度をとった理由の一つよ」
「そうなんか。でも、俺はこっちに来たばっかだし。右も左もわかんねえんだけど」
来たばかりで、カルマがマイナスらしい。
「それで、カルマの値が溜まっているのなら殺しすぎ。人を殺すと、その分善行を積まないとマイナスに振り切れていく先は地獄よ? 或いは、冥界に囚われるか。ろくなことにならないんだから。気をつけなさい」
エリアスは、鑑定をアキラにかけているようだ。
「というと、何をすりゃいいんだ?」
「例えば、ここの街の住人に感謝されるような事をするとか。魔物を退治するのも善行を積むという事よ。魔物っていうのは、世界の悪意を物質化する事で生まれているのよ。システムが作り出しているの。だから、それを退治するとカルマ値は+になるわよ。ユーウなんて、凄まじい数の人間を殺しているけれどその分善行を積んでいるから全く関係ない話なんだけどね。ちょっとは見習った方がいいわ。ちなみに、兵士だと軽減されるわ。称号に兵士を獲得すると、それが影響するのよ」
「へえ。ええと、エリアスちゃんは物知りなんだな」
「様をつけた方がいいけどね。こういう場所でなら、許されるけど。言葉遣いを間違えると、首が本当に飛ぶわよ」
「ひぇ、おっかねえ。もう、気楽に生きてけるようになりてえ」
アキラは、大分へこんだようだ。ちなみに、このアキラ。どこかで、殺してしまった記憶がある。ユーウの記憶では、問答無用で出会い頭に殺したという。
「じゃあ、ここらで冒険者をやりながらハーレム目指すか! 魔物を退治してきゃいいんだよな」
「そうですね。当座のお金とか住む場所とかあるんですか」
「あー、それがあんまりないんだわ。ここらで、盗賊でもシメてお宝をゲットしようって思ってたんだけどな。魔人になったりしたら、どうなるんだ?」
アキラは、そっちの方に話を戻す。
「そうね。魔人になったら、当然人間の世界にはいられないわ。討伐対象だし、冒険者に狙われるでしょうね。そうなりたくないのなら、殺してスキルを奪うのなんて止めておいた方がいいわよ。殺す上に盗むまで重ねるんだから、カルマが上がりやすいの。今は、封印されている状態だけど。今後とかれたら、魔物からに限定するだとかした方がいいわね」
「なるほどな。つか、俺のこのスキルってそんな便利なもんじゃねえんだけどな。ほら、いわゆるチートスキルって部類に入りそうじゃん。でも、接近して触れないといけないし。死んでないと無理。おまけに相手のレベルが低くないと取れないんだ」
「それじゃ、欠陥スキルじゃないですか」
アキラが腕組みした。
「そうなんだよ。俺のこれ、すごそうに見えたから貰ったんんだけどな。ちなみに、貰えるリストみてえなのがあってさ。翻訳スキルが1ポイント、毒無効が15ポイントとかでさ。強奪だけで、30ポイントつかっちまうし。39ポイントしかなかったから、悩んだんだわ。なんで39なのかって聞いたら、サンキューだからだと。ふざけんなって気もしたけど文句言える状況じゃねえし、減ったら鬱だからな。体力向上弱とか付けたかったんだけど、無理だった。足りねえって思いながら悩んだんだわ。あっ、そうだ。俺以外に日本人っているのか?」
急にまた、話が飛ぶ。
「いますよ。日本人なら、この街にも仕事できてます」
「へえ。そっかラッキーだわ。あのお嬢ちゃんが言ってたから間違いねえって思ったんだ。ここじゃ、音楽とか聞けねえから困ってたんだわ。タバコも売ってねえみたいだし」
「あの、お幾つですか」
「あ、言ってなかったっけ。俺、16。今年で、17になるんだ。あんたの方はとても信じられねえけどな。結構、老けて見えるか?」
「いえ。日本人は、若く見えますから。ちょっと意外でした」
アキラは、蟹肉をもりもり食いながらマールに視線をやる。
「礼儀か。気にしちゃいなかったけど、気にしないと死亡フラグがなにげに立ってそうだよな。俺はハーレム王を目指すぜ。こんな所で、死ぬつもりは全くねえ。無礼もあると思うけど、よろしく頼むぜっ」
「日本人ですから、僕も多少の融通は効かせたいですね。それで、神様からスキルを貰った人は貴方だけでしたか?」
大抵は、集団転移があったりする。多数の人間を暗殺者として、アルに向かわせるのなら問題だ。
「ああ。そういや、他にもいたな。アイガ・ケンイチロウだっけ。歳は若かったな。まだ、ガキっぽかったから小学生だったような。あいつ、困ってたからアドバイスしてやったんだよ。そしたら、ガチャ回してやがった」
「ガチャ、ですか」
「ガチャって何かわかるか? わかんねえだろうけど、ガチャガチャっていう代物があったのよ。ま、イメージがわかんねえだろうけど。とある企業が開発した玩具を吐き出す代物だと思えば、いい。100円入れたらハンドルが回せるようになるんだけどな。そんで、それに39ポイント全部つぎ込んでやがった。ゲットしたのがなんと【時間】だぜ。ありえねえよな。すげえスキルらしいけど、それを持ってたってガキなんだから使う前に死にそうだけどよ。あれ、何秒か時間を止められるならすげえスキルだと思うね」
「そいつ、見かけたら殺すの?」
「強敵だね。仲間にできるのなら、越したことはないけど」
と、セリアが食いついた。
「腕がなるな。時を止めるか。相手にとって不足はない」
「おいおい。お嬢ちゃんにゃ、厳しいんじゃないか。時を止めるんだぜ?」
「時を止める。だから、なんだ?」
アキラは、戦慄したようだ。
「こ、この嬢ちゃん。恐れってもんがねえのか。そういや、フェンリル。げえっフェンリル。あのフェンリル!? 魔王かよ!」
マールのハリセンがアキラの頭をすっぱたいた。あまり叩くとハゲるのに。容赦がない。
お話(・∀・)




