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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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76話 蟹鍋と強奪さん (ユウタ、セリア、モニカ、フィナル、エリアス、エリストール、ミミー、アキラ、マール)

「本当に食えるのだろうな」


 エリストールは、おっかなびっくりといった風で鍋の蟹をつついている。どでかい鍋には、蟹の死体がそのまま突っ込まれている。泡立つそれを、手にとった。


「こんなもんかな。じゃあ、僕が食べてみるよ」


 蟹の脚は、太い。中身は、ぷりぷりの白身があった。少し、肌色な。それを醤油につけると。

 こりこりとした歯ごたえがある。蟹は、口にあわないようだ。さらには、わずかに砂が混じっていて洗うのをもっと丁寧にするべきであった。

 ミミーが真似して、


「これ、美味しいです」


 と、ばりばり蟹の脚を剥いて食べだす。


「そうなのか! ふむ、ん。ま、まあだな。キノコ、みたいな。珍味だ」


 ラトスクの街にあるとある入り口にほど近い場所では、宴会が行われている。飲んで食べての、どんちゃん騒ぎだ。昼間から、それなのだからそこだけが異様に騒がしい。腹が一杯になれば、仕事をしてもらうという風に。日本と違って、雨が振っても仕事は休み。魔物が襲来しても仕事は休み。曜日だとかそういうのがお構いなしなのであった。狼国は。


 夜が更けても、仕事は休みなのである。24時間戦えますか。という世界での記憶があるユウタにとっては、ありえない事だ。戦えるのなら、働けるのなら限界ぎりぎりを攻めていくのが日本人だ。


「あの、手で押すポンプってすごい品物だと思うんですけど。ただで備え付けちゃってよかったんですか?」

「ああ。うん。壊れたら、換えは買ってもらわないといけないけどね。サービスだよ」

「それも、セリア様のためですか」

「……(なんてストレートな子なんだ)」

「そういう事ですよね」

「ふむ。貴様、セリアに惚れているのか」


 何気に雲行きがおかしくなってきた。酒でも飲んだのだろうか。飲酒は、二十歳から。エリストールはとっくに超えているので可だが。黙っていれば正規の軍人さんにも見えるであろう端正な面持ちも雰囲気も台無しだ。中身が外見と全く合っていないとはっ、これいかに。


 黙っていると。


「沈黙は、肯定を意味するのだがなあ。まあ、いい。この国の獣人は10歳で結婚していたりするし、ミミーの事を憎からず思っているのならありだと思うがな。最悪なのは、稼ぎもしない夫だとか暴力を振るう夫だとかそういうのだ。ユークリウッド自体は、大変な優良物件だろうから引く手あまたなのだろうが。優しくしているようだと、相手も勘違いしてもおかしくないぞ。その気がないのなら、冷たくするべきだ」

「そうなの? 人情のかけらもないような気がするよ」

「そんな物だ。大体、所詮は他人なのだから見捨てても文句を言われる筋合いなどないだろう。男だって、ちょっと話しかけられたりすれば大概は勘違いするというしな」


 わかる。悲しいほどにわかる。男も大概、チョロインだったりする。隣の席になった女子に、時々話しかけられたりするだけでもしかして気があるんじゃなんていう風に勘違いするくらい。ユウタも多分にもれず、話かけられれば有頂天になるくらいだ。隣にいるルーシアやオデットのおかげで、そんな事を忘れそうになるのだが。


 ミミーは、蟹を剥こうと顔を赤くしている。モニカがいう。


「それは、ちょっと言い過ぎな気がします。私は、そんなでもないですよ! ちょっと話かけられたくらいでコロッと惚れたりなんてしませんっ。師匠もそうです」


 憤慨しているのか。蟹の脚を荒々しくもいで、中の身を食っている。


「あくまで、例だ。興奮するな。ただ、まあ……。一目惚れというのは確かにあるからなんともな。惚れっぽいと言われればそれまでだし。男なんて、胸しかみていなかったりする生き物だからな。下半身が脳に詰まっているのかと思ってしまうぞ。モニカは、尻尾から察するに牛人の血を引いているのだろう? だったらその内にわかるはずだ。男が、胸しか見ない事。ことほど下劣な欲望しか抱いていない事をな」

「それは……そうなんですか?」


 モニカが、エリストールの言で振り回されている。


「そんなもんだよ。男は。胸がいいなとか、顔の美醜というのは永遠の命題といってもいいね。女の人も顔の良し悪しは、気にするよね」

「ないとは言いれないな。その価値観が、どうであれ、綺麗な物は綺麗だと思う感性。こればかりは、劣等感を感じずにはいられない。が、胸が大きいと肩が凝ってしかたがないんだぞ。それで、牛の乳だなんて馬鹿にされるし。いい思いをしたことがない! 大体、なんなのだ。胸は、ほどほどがいいとか小さい方がいいとか。大きいほうが魅力的だとか。男たちは、女をなんだと思っているんだ。お前らの玩具じゃないぞ!」

「ごめん」

「いや・・・お前に言っているわけじゃない。ただ、男なんてものは下半身を突っ込む事しか考えない生き物だと思っていたからな。こと、人間の雄なんてものは森妖精をみたらとりあえず強姦するという風に教えられてきたのだ。反省している」


 ピンク色の髪をした森妖精。蟹の身を醤油につけると、熱々の液体を腰のポーチから取り出してぐぃっとあおる。

 エリストールは、一気に酒臭くなった。酒だ。


「反省しているなら、言葉には気をつけようよ」

「それは、できない。私は、止めたのだ。自重しようという言葉をどこかに投げ捨てたっ。ティアンナ様も諦めはしないであろうし、曜日でローテーションを組むとして。とりあえず、将来的に14人か21人までに収めておけ。1日3人。それ以上は、身体が持たないぞ」


 いきなり話が飛んでいる。どうなっているのか。


「それ、腹上死しちゃう」

「男の本懐ではないか」

「本懐って違うよ、それ。クズじゃない」

「馬鹿。本懐と書いて、それを男はロマンと読むのだ。すこしは、ロマンを追え。それが、男の生き様というものだろうに。国ごとに現地妻を作っているというユークリウッドらしくない発言だなっ。到底信じられない」

「……」


 未来では、一体どのような事になっているのか。空恐ろしくなってきた。ティアンナが、ああなっているのは己のせいなのか。もはや、後悔してもしきれない状態になっているようでもある。普通に恋愛して、結婚するというような事を夢見ていたというのに。全く、それらしい事にならないまま事態が悪化していくという。

 本命の相手には、相手にされないまま終わる悲劇。他の人間には、羨ましい限りなのか。セリアと遊んでいるのは大変であるが、同時に楽しくもある。ついてこれる人間というのは、貴重だ。信頼できる関係を構築するのも大変で、関係が切れるのも一瞬であるというのもわかっている。男は、ロマンを追い求めるが。

 現実にそれをやろうとすると、身体が持たない。


「ミミーは、全然おっけーですよ!」

「はしたないですよ」


 露骨なミミーにモニカは、殴りかかりそうな目だ。怯えるミミーだが、その目は燃えている。



 蟹鍋をやっていると。

 それは、突然だった。

 スキルが、反応する。それによって男の姿が脳裏に浮かぶ。

 近い。

 

 ユーウの能力は空間魔術がメインに据えられている。当然ながら、かつてのユウタよりも強固な探査能力があって。この日、初めて【強奪】の能力を持つ人間が引っかっかった。能力は、脳内に盤面を映し出すというような能力で。それをそのまま、目の前に投影することもできる。

 危険な敵だ。能力持ちをずっと探していたのだ。


「敵だ。門の所にいるみたいだ」

「敵か。私達だけでやるのか?」

「まさか。セリアを呼び出すよ」


 味方でないのなら、敵だと考えておいた方がよい。

 エリストールやモニカでは危ない。ミミーだと、死ぬだけだ。

 蟹鍋をつつきながら、待っていると。セリアが建物の影から現れた。一人ではない。女の子を連れている。


「どうした」

「強敵。だと思う。【強奪】を持っている相手だよ」

「なるほどな。どこにいる?」


 フィナルとエリアスのオマケ付きだ。脳内の映像をそのまま魔力で作り出す。端的に言えば、3Dの地図なのだが。セリアは、地図把握と名づけた映像を見ると。


「この赤いのが、目標か。お前で、倒せるんじゃないか?」

「逃がすのは、嫌だし。捕らえるにしろ、倒すにしろ、万全の状態で相手にしたいね」

「ふっ。さっそくいくか」


 対象を探して移動すると、それはすぐに見つかった。フィナルとエリアスにセリアが揃っている。万全だ。門の上から、よく観察すると。警戒している様子がない。さっさとやってしまうべきか。否か。


「どうするんだ」

「先制攻撃かな。相手と会話してみるか必要があるのかどうか。高い魔力に俊敏さもあるとなると。中に入られると、厄介だね」

「ならば、囲んで能力を盗みだしたら攻撃でいいのではないか」

「そうしようか」


 相手は、女の子を連れているようだ。


「こんにちは」


 相手は、突然現れて。話かけられたのに驚いている。そして、


「何か用か」

「うん。その強奪スキルを持ったまま街に入れる訳にはいかない。封印させてもらうよ」


 相手の男は、剣に手をかける。が、周囲を見て。


「なんだと?」

「抵抗するようなら、死んでもらうけど。そのスキルは、危険過ぎるからね」


 盗むな犯すな殺すなと言われている三悪の一つだ。盗む様子が、ない。


「……勝てないか。投降する。こいつには傷をつけるなよ」

「それは話が早い。でしたら、スキルの封印にとりかかりましょうか。セリア」

「ふっ。狼神拳閉門が一つ」


 ずぶっと、胸に指が突き刺さる。男は、うめき声を上げた。胸に7つ傷が入る。


「ぐっ。これはっ」

「貴方の生命が危機に陥る時、そこでしかスキルが使えなくなります」

「なるほど。ぐうっ。それでは、これは永続効果を持つというのか」

「そうですね。そういう事になります。お名前を聞いてもよろしいですか」

「イトウ・アキラだ。お前は?」

「イトウさんですね。私は、ユークリウッド。そちらがセリアです。後ろで囲んでいるのが仲間になりますね」

「ちっ。来る場所を間違えたか」


 男は、日本人のようだ。周りの獣人たちはどん引きして、輪を作っている。


「ここで話すのもなんですから、中でゆっくりとお話をしませんか」

「いいだろう」


 男の身長は、180cm程度。かなりの身長で、隙がない。そこそこに、冒険をしてきた風だ。皮鎧に剣を2本下げている。犬獣人は、荷物持ちか。女の子なのに、大きな鞄を背負っている。

 門に入ろうとすると、敬礼する獣人たち。中では、人でごった返していたがセリアを見るやいなやさっと道が開いた。それを見たアキラは。


「あんた、相当な実力者なんだな」

「違います。隣にいるのが有名だからですよ」

「セリア。どこかで聞いた名前だな」

「ご主人様! 王族ですよ。セリア・ブレス・ド・フェンリル様。ウォルフガルドの後継者なんですからっ。忘れちゃ駄目ですっ」

「ああ、そういやそんな名前だったか」


 アキラと獣人の少女は、2人して話をしている。

 エリアスがそれを見ていう。


「呑気な物よね。一歩間違ってれば死んでたかもしれないのに」

「鑑定にゃ気をつけてたんだけどな。こんなに早くバレるなんてよ。あの神、ふかしこきやがった。これなら、もっとよく考えるべきだったぜ」


 神様から転生か転移チートでも貰ったのであろう。強奪は確かに強いが、周囲にバレた時にはリスクがある。アキラを連れて、事務所の中に入ると。


「汚いですわね。このような所で、休憩をしているのですか。ありえませんわ」


 フィナルが、ぱんぱんと手をたたくとお付きの人間が側に寄ってくる。影ともいうようなそんな護衛だ。モブレにアイスマンの姿までもが集まってきた。部屋の中は、すっきりしていたというのに。あっという間に椅子や絨毯が用意された。暖炉には、火がくべられる。


 椅子を勧めると。


「おう。悪いな。で、名前を教えたんだ。あとは、自己紹介くらいか」

「この街に来た理由と、これから何をしたいのか。とかですね」

「ああ、なるほどな。先制攻撃で、始末されなかった分だけラッキーだったのかね。俺の目的は、ずばり一つだ。ハーレムを築くっ!」

「「えっ」」


 一同が驚いた。


「ハーレムが目的なんですか」

「おうよ。それ意外に、なんだ。魔王を倒して、世界に平和をもたらしてくださいとかって言われてたような気もするけどよ。なにそれ。死ぬんじゃね。割にも性にも合わねえっていうか。勇者って柄じゃねえし、速攻で死にかけるし。マジで、割に合わねえ。そいうのは他の人間に任せるとして、だ。せっかく、異世界に来たんだ。俺は、俺のハーレムライフを築くね。あんたもそうだろ?」

「いや、そこまでは」


 そこでアキラは、周りを見渡す。


「嘘こけ。こんだけ可愛い子が揃っているんだぜ? 全員嫁にして当然じゃねえか。いや、むしろしないんならバチが当たるね。あんたの股間は、腐ってんのか? そーじゃねえだろ。なら、やって当然。やらなきゃ損だぜ。人生楽しまねえとよ。いきなりのピンチだけど、まあ命があるだけめっけもの。これから、実力をつけてきゃ問題ねえ。こんな所だ」

「はあ」


 周りの女の子から熱い視線が集まる。無視だ。

 どうやら、根っからのお気楽者のように見える。奴隷の獣人はびくびくしているようだ。


「で、こっちのがマール。俺の一号だ。あんたの一号は?」


 全員の視線が集まる。ぶわっと汗が吹き出す。脇も手も。多汗症にかかったようだ。


「いえ、それは……ノーコメントです」

「かー煮え切らねえ奴だなあ。そんなんじゃ、横から誰かにかっさわれちまうぞ? 男なら、さっさとコマしちまえよ。やっちまったもんが勝ちだ。悪いことは言わねえ、やれ! でないと、後で後悔することになっちまっても知らねえぞ?」

「アキラ様っ。失礼な事を言って・・・駄目じゃないですか」


 アキラに首輪が嵌められる。


「おっ。おいなんだ、これ」

「これは、【誓約】の首輪だ。【強奪】を使えなくする、な。アキラの能力は、かなり奪ってきた物が多いようだ。死刑にする事も考えられる」


 セリアは、とりつくしまもない。


「なんでわかる?」

「職業がそれ専用の奴だったりするのに、ない。ということは、だ。悪人を殺す際に奪ってきただろう? 殺すのは、ともかくとして。盗むのは、当然ながら、犯罪だ。これで、死姦なんてしていよう物なら問答無用で殺しておいていいな」


 断定されている。それを、アキラは手を振って否定する。


「おいおい。そんなこたあしねえって。俺の顔を見てくれ。イケメンだろ。信じてくれ」

「はあ……(どうだか)」


 疑わしい事は、疑わしい。八重歯をキラっとさせるアキラにマールがくってかかる。

 と、フィナルとエリアスが詰め寄ってきた。汗が止まらない。

 ピンク色の森妖精と犬耳の獣人を見て。


「また、女の子を増やして。どういうつもりですの!」 


 追求が止まらない。

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