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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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74話 蟹祭り、続き (ユウタ、モニカ、エリストール、ミミー、蟹、蟹人間)

「また蟹か。どれだけいるんだろうね」

「私に聞くな。こいつら、どこから来たんだ」


 生きている人間が居ない。川を下っていっても、下流の方には人の姿が見当たらない。周辺には、村が有りそうなものだが。川の側で、エリストールが着替えをしている。


「くっ、こっちを見るなよ・・・。いや、襲ってくるつもりだろっ。そうにちがいないっ」


 見れるはずがない。おしっこや汗で汚くなった服を着替えている。着替えを持ってきていた。冒険者も着替えくらいはするのだ。荷物がかさばるので、大概は大変なことになる。インベントリやアイテムボックスといった空間収納を持たない冒険者は、臭い。鼻が曲がりそうな匂いになる。フランスでは、糞がそこら中にあった為に香水が流行っていたという。


「ユーウさんは、そんなことしません」

「そうか? 私には、淫獣にしか見えないがなっ」

「ミミーは、全然おっけーですよー。ぺろぺろさせてください」

「なっ。ミミー君、私もやりたいのにずるいぞ!」

「させません」


 どこでもぺろぺろしたがるミミーは、問題児だ。

 問題児は、防具の手入れをしている。鍋型のヘルムに、布の上に鎧を着ていて。その手には、布があった。血は、ついていないはずだが。弓をひっぱたり、矢の数を数えていたりしている。蟹の群れは、地上になく。川面は、発見された蟹の死骸で埋まっている。人がいてもおかしくないのだが。


「ここらへんに、村とかないのかな」

「あるはずですよ。バーム村の下方向には、かなりの数で村が存在してますから。国の西側にあるラトスクは大きな町です。私の村は、北の方にあります。南には行ったことがないですけど、川から採れる魚で豊かだって聞いたことがあります。ちなみに、北東の方へ行けば火山があります。すごい高いですよ。ここからだとうっすらと見えるかどうかの位置ですけれど」


 南の方に流れる川を伝って、大河へとつながる。山は現代とは比較にならない高さだ。ユーラシア大陸では、ヒマラヤ山脈が高いと言われるがそんなレベルではない。まさに天をつくようなそんな山がどんっと鎮座している。言うなれば、遠くに見える壁のような。そんなスケールなのだ。


「川がね。蟹で埋まりそうだね。LV上がってる?」

「すごいです。もう10を超えました。なんでしょう。スキルが増えました。犬スキル。犬を配下にする。配下にした犬は、従うようになる。って、なんだか使えそうなスキルです」


 ミミーのスキルは、魔物使いの劣化版のようだ。犬だけを配下にするとか。とても、しょぼい。


「職業犬ですか。初めて見ました。ミミーちゃんは、サブ職とか決めてますか?」

「えっと、サブ職ってなんですか」

「サブで育てる職業ですよ。ユーウさんのは参考にしては、駄目です。なんでも上げようというちょっとあり得ないことをしてますから。補正で、すごい能力になるんですけどね。誰もが真似しようとして、失敗する例ですから」


 耳が痛い。


「でも、育てるんでしたら全部上げたくなるんじゃないですか?」


 ミミーを応援したくなった。


「それは、現実的ではありませんから。エリストールさんを見てください。どれもこれも中途半端ですよね。こういうのは、ぽんこつタイプといって絞れずに失敗している例です。真似しちゃ駄目です」

「そうなんですかー。でも、上げれるだけすごいですよ」


 エリストールがこほんっと咳払いをした。


「あーまあ、確かに否定出来ない。騎士をさっさと魔法騎士か十字騎士にしておくべきだったとか。考えないでもない。派生を考えると、王騎士も捨てがたい。騎士のジョブで迷っていた。なので僧侶もとっておかないといけないし、魔術士もとっておかねばならないし。派生を出すのには、サブ職が必須だ。ミミーが職業犬を獲得したのなら他にもなれる職業になっておいた方がいいぞ。戦士だとか。な。きっと犬戦士とかに変化すると思う。ただ、ステータスを満たさないと転職できない職もあるからな。一概には言えないが。生産職を持っていると、食うのには困らない。ちなみに、錬金術士はジョブ以外にも学芸、称号等でも有用になる。私のおすすめは彫金師だな。指輪を作ったりする職だ。手先が器用なら、腕力は必要ないからな」

「私は、農家がいいです」

「農家か。あれは・・・その細腕では無理ではないか?」

「筋力値が足りてなさそうですね。今日から、腕立て伏せと農作業をしましょうか。何でしたら、小麦粉の運搬の仕事がありますよ。仕事代もでます」


 ミミーにモニカが過酷なことをいう。頷いてはいけない。ミミーには、無理だ。


「農民から始まるんだけどね。最初のジョブは。農民から農家、豪農に転職していくんだけど。能力は、生産も戦闘も出来たりするよ。意外に、ゴブリンくらいなら相手できちゃう」

「そうなんですか。農民になると、畑関係のスキルを覚えるんですよね。それで、村の畑を良くしたいです」


 夢がありそうだ。しかし、農民なのに農民という職を持っていないのが狼国の国民だった。腕力が上がるだとか、そういう恩恵があるのでミッドガルドでも取っている人間はいる。冒険者を引退して、農民になろうという戦士系とか。そういう人間もいるので、農民の地位はそれほど低くない。むしろ、日本のように士農のようになっていたりするものだ。


 ミッドガルドの国土は広いが、同様に人間も多いのでちょっとあるけば村に当たる。耕作地も異様に増えて、人口ボーナスの真っ最中だ。


「ミミーちゃんが、サブに持つとしたら。まずは、斥候(レンジャー)をおすすめします。盗賊同様に罠と罠解除が出来て、斥候や野伏は非常に優秀です。弓が使えて、短剣も使える職なので器用な人に向いています。エリストールさんは、騎士なのにレンジャーを持っているという希少な方ですよ。弓手の上のジョブも持っているみたいですし。すごいですよね」

「うっ。実は、失敗しているのだ。何でもできるというのは、一見するとすごそうなのだがな。タンクとしてもDPSとしても頼りない。光の剣にあこがれて、魔術士を鍛えてみたが。騎士なら騎士らしく、魔装の技でも鍛えておいたほうがいいのだ。でも、光る剣はロマンチックだよな」

「いや・・・それはどうなのかな」


 光る剣は、確かに男子なら憧れる武器だ。が、迷宮では目印にしかならない。加えて、何でもぶった斬れそうなイメージがあるが。相手の防具が、魔術を帯びていたりすると、その限りでもなかったりする。エリストールは、かなりミーハーのようだ。ちょっとズレた感性の持ち主で、やるのならトコトン鍛え上げるべきである。


 川辺を下っていくと。

 川に、二階建ての家以上の大きさな物体が見える。蟹だ。

 蟹は、遠目からみてもわかる大きさであった。ハサミからして、熊などは余裕でついばむ事ができるであろう。脚元には、蟹がうようよと湧いている。


「あれ、どうします? 魔術で余裕そうですか」

「うーん。ミミーが死ぬ確率と攻撃して回避して帰ってこれる可能性を考えると、うん。魔術でやってしまおう」


 電撃が、水面を叩くと。蟹が立ち上がる。


「モニカ、退避」

「わかりました」


 パーティーメンバーは貧弱だ。セリアやアルーシュではない。連携を期待していては、死なせることになる。高速で迫るダンプの如き勢いで、巨大蟹が滑るように来る。ハサミを避けて脚を叩くと。

 脚がへし折れて、体勢を崩した。チャンスだ。頭の方に飛び乗って打ち下ろす。

 拳が甲羅を割った。クモ状に広がるひび割れと、中身が吹っ飛んだ。下の地面まで、えぐってしまった。巨大蟹は、赤い巨体を揺らしてゆっくりと動きを止めた。

 中身が下に漏れているところから、死んでいると推定される。


「一撃、だと。そんなばかな。しかし、LVがまた5も上がった。貴様、これだけの力を持っていてどうしてくすぶっているのだ。訳がわからないぞ」

「別にくすぶっていません。やれることを精一杯がんばってますよ」

「す、すごいです。一撃で、脚を破壊して飛び乗って一撃で倒しちゃうなんて。ミミーもがんばります!」

「真似しないほうがいいとおもいますよ」


 モニカは、冷静だ。興奮する2人とは、対照的であった。


「ちなみに、このビッグクラブも適正レベル二次職50程度なのです。遭遇したら、死んでしまうことも。LV相応の装備があって倒せるような敵です。装備次第ですね。これだけの蟹から採れる素材で、一体どれくらいの防具と武具が作れるのかと思うとわくわくしてきます」

「頼もしいね」

「えへへ」


 モニカは、防具と武具を作るのに夢の世界へと片足を突っ込んでいるようだ。


「どうする? このまま、川の下に行っても手がかりが得られないかもしれない。貴様の魔術もそろそろ魔力が切れてもおかしくはないのではないか?」

「・・・じゃあ何か名案でもあるのかな」

「そうだな。水をせき止めてみるとか」

「溜池でも作ろうか。蟹の魔物が大量に湧いてくる原因を探さないといけないしね」


 と、ビッグクラブが倒れて油断していたのか。土の壁を周りに張ると、同時に水が着弾する。


「何事?」


 モニカもエリストールも気がついていない。ミミーも気がついていないようだ。

 蟹の側には、人型をした蟹頭がいる。魔物か。問答無用の雷槍が、人型を貫く。

 焦げた匂いをさせて倒れた。


「すごい、勢いでレベルが上がりました」

「あー。ちょっと強そうだったけど。モニカの手には、余るかなって倒しちゃった」

「えっと、ありがうございます」


 戦って、真っ二つにされるというようなビジョンがちらっとよぎったのだ。そうなっては、蘇生も難しい。頭が無くなるだとか、病気にかかったまま死ぬだとか。そういった事態だと、蘇生は困難なのだ。魔術とて万能ではない。魔法なら可能なのかもしれないが、エリストールのいう魔法とは別個のものだろう。

 モニカが、蟹人間の死体を引きずってくると。


「頭だけが蟹、いや胴体も甲羅のように硬いね。人型の蟹か。これは、新種の魔物のようだけど魔物図鑑に載っていたっけ」

「調べれば、ありそうですね」

「知ってるぞ。これは、クラブマンだ。海辺を住まいにする種族だったように記憶している。このような内陸地にいるのは、異常だな」

「さっきは、知らないような感じだったのに・・・思い出したとかそういう事?」

「そんなものだ。実際に見ると、驚くだろ!?」


 モニカと顔をあわせる。エリストールは、大分肝が小さいようだ。

 

「一旦、戻ろうか。川がこんな状態じゃあ、先が思いやられるねえ。川を干上がらせて、溜池を作りますか。それと、井戸でも掘ってみよう。町の近くで、井戸を作って、装備を整えるのがいいね。なんなら手押しポンプまで備え付けてさ」

「なんなのだ? それは」

「ポンプだよ。ポンプ」

「いや、森では水が豊富に湧いているし。水の魔法が使えるからな。森妖精は、全員魔術の心得があるので飲水には困らない」

「すごいです」


 ミミーがきらきらした瞳をエリストールに向けている。


「とりあえず、この蟹はどうしますか?」

「回収してたら、時間がかかりそうだね。イベントリにぶちこんどくよ」


 巨大蟹と蟹人間を回収し。道を戻りながら、構想をねる。

 溜池をつくるには、モルタルで底を整備してやるのもいいだろう。土の魔術を使えば、楽々だ。上流地点まで移動すると。ガーランドたちの姿はない。そこで、少し移動する。そこに溜池を用意しようとすると。


「この変な粘土は、なんなのだ」

「モルタルだよ。モルタル。知らない?」

「石膏に似た奴か。意外と、物知りなのだな。これを塗っていくのか。大変だぞ」

「いいよ。僕だけでやるから」

「ちょっと待て、モニカもミミーも手伝わせないのか?」

「女の子に重労働をさせるほど、落ちぶれてません」

「いや、それでも貴様は魔力を使いっぱなしではないか。少し、休んだらどうだ」


 首を振る。仕事は、一気にやってしまったほうがいい。思い立ったら吉日だ。


「モニカさん。言っても聞きませんよ。ユーウさんはこれと決めたら、やらないと気がすまないんです。それと、近くにいると邪魔になるので私達は井戸を掘りに帰りましょう」

「モニカは井戸の掘り方なんて知っているのか?」

「勿論です。ユーウさん、あれで中々物知りなんですよ。手押し式のポンプだってインベントリには入ってますし。ちょっとした場所に井戸を掘って見せるなんて朝飯前です。私だって掘れるんです。ミミーちゃんもやってみますか?」

「私で良ければ、がんばります!」


 ミミーは力こぶを作って見せた。まるで、こぶになっていない。

 ショベルを持って、土を一箇所に集める。すり鉢というには浅いが。

 女の子たちが、呆れた顔やら笑顔やらで見ている。おかしくないはずなのだが。それから、モルタルを塗って水が抜けるのを防ぐようにして水を誘導する。水門を丸太で作ってやれば、ちょうどいい溜池ができた。

 水車も備え付けて、水路を新たにしてやれば川の流れをある程度は変えられる。

 ラトスク周辺の整備が必要だ。ミミーが笑顔だ。セリアの為にやっているのだが。

 文明の利器が必要になるとは。

 狼国は、魔術の使える人間の方が少ないようなのだ。

 待っていてくれた女の子たちと帰り道を鳥馬で走りだした。

 蟹の死体は、一箇所に集めて土のカマクラに氷漬けだ。





蟹の人、問答なし(・∀・


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