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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
258/710

73話 蟹さん、退治 (ユウタ、モニカ、エリストール、ミミー、蟹)

森妖精は、おもらししている。その状態に眉をひそめた。


「ミミーのLVも上がっているのだし、あれくらいなんとかやれるな」

「いや、無理でしょ」


 目の前には、巨大な赤い蟹がいる。ヤドカリとは違うそれは、足が長い。もっとも、動きが遅いのが幸いか。ハサミが巨大だ。細長く、それだけで強力な武器だろう。と、器用にも突き刺すような攻撃が飛来する。ミミーの身体を抱えたのは、モニカだ。とっさの事に、エリストールを抱えるのが精一杯だった。2人動ける人間が居なければ、死んでいる所だ。

 エリストールの身体を下ろすと。目をぱちぱちする森妖精が、はっと我に帰った。

 声をかける。


「大丈夫?」

「あ、あう。ああ、なんなのだ。こいつは」

「ボスなのかな。それとも中ボスかも」


 群れを作るように蟹が足元に、集まってくる。エリストールが、巨大蟹に矢を射つが。


「弾くだとっ。魔法を帯びているのに、どういう事だ」

「魔術のLVが低いんじゃないかな」

「ぐっ。ならば、貴様が魔法をかけてくれ」

「いいよ」


 魔法なんて使えない。手足を動かすだけで発動するのが魔法と言われている。

 魔術を鏃に乗せると。


「おい、これはなんだ」

「なんだと言われても。ただの雷属性付与だよ。わかるよね」

「わかるが、この魔力の濃さ。ありえないだろ」


 エリストールが、顎に手を添えて考えこむ


「いや、そもそも。さっき使ったアイスミラーは氷属性だ。これは、雷属性だろ。複数の属性を扱えるのか。それでいて、空間魔法に長けているってどういう事か説明しろ」

「説明より先に、それ射って」


 魔法ではない。しかし、魔法という。違和感がある。

 エリストールは、しぶしぶといった体で弓から矢を放つと。蟹の頭をガードしようとしたハサミを貫通して、頭が弾けた。


「おい」

「何?」


 蟹たちは、川の中に戻っていく。どうやら、逃げ出したようだ。しかし、蟹が水中に入るのを見計らって電撃を撃ちこむと。ぷかぷかと浮き上がる蟹。魚の姿が見えないのは、蟹が食い尽くしたせいなのかもしれない。はっきりとしたことは言えないが、蟹は餌を食い尽くして上流に上がってきたとみるべきか。川の流れは、ウクライナの下あたりにある黒海に似た湖につながっているという。この狼国はちょうどチェコかスロバキアの位置にある。


 日本人には、馴染みの薄い土地だろう。


 そこから、ヨルムンガンドが作ったという運河が湖に繋がっているとか。嘘か本当かお伽話によれば、オーディンにぼこられたヨルムンガンドがその巨体を動かした際に地面がえぐりとられたのだという。黒海は、海という名前がつくだけに、広い。琵琶湖ですら、大きいというのにそんなレベルではなく広大だ。狼国の北には、一万メートル級の山がそびえ立つ氷の剣山と呼ばれる山々がある。


 南は、運河だ。

 そんなにも矢がおかしいのか。エリストールの追求が止まらない。


「おかしいだろ。ただの矢に魔法を乗せただけで、蟹に突き刺さるどころか貫通して爆散したぞ」

「そうだね」


 エリストールは、魔法という。おかしいのか。そんな風で。


「いくらなんでも、威力が有り過ぎる。ティアンナ様でも、あれだけの魔法をかけられるのかどうか。なんで、お前のような魔術師が有名でないんだ。おかしい」

「目立つようなことしてないからね」

「そうか? 私は、草履といったか。これだけでも、素晴らしいと思うがな。なんで、評価されていないのか不思議でしょうがない」


 尻がむず痒くなるような事をいう。エリストールは、蟹の足を引きちぎると眺めた。

 

「血は、赤いようだな」

「そりゃ、ね。あんまり、魔物の身体を破壊すると売り物にならなくなるよ」

「それは、そうだが・・・馬車を出したりはできないのか? これだけの魔物を運ぶのは難儀だぞ」


 クラブの大きさはまちまちであった。死体になって物言わぬ躯が、地べたと川に散乱している。モニカは楽々とそれらを集めているが、ミミーは運ぶのですら大変そうだ。


「ミミー、疲れたのなら替わろう」

「駄目ですよ」

「えっ」


 モニカに、叱られた。何となく察する事はできるけれども。


「これも特訓です。死体を集める。周囲の索敵をする。当たり前の仕事です。ユーウさんには、休んでもらっていないと。全部、ユーウさんがやってのけてしまいますよ。ミミーちゃん、頑張って」

「はいっ」


 ミミーのLVが5から10に上がっている。異常な上がり方だ。普通の人間なら、そうはいかない。


「おい。こいつ、LV上がり過ぎじゃないか? おかしいだろう」

「確かに。でも、ミミーの歳だと・・・えっと何歳だっけ」

「私、ですか? 14です。結婚もできます! 恋人は居ません!」

「そうなんだ。14!? もっと幼いかと思ってた」

「へうっ」


 ミミーは、地面にへの字を作った。どうやら、堪えたらしい。  


「14・・・か。まだ、毛も生え揃わない時期だな! 私は、ぴちぴちの104歳だ」

「・・・ババアじゃない」

「なっ、貴様!?」


 ミミーの反撃に、エリストールは絶句した。そして、般若の形相で視線を寄越す。

 

「ノーコメント」

「エルフでは、これが普通だ。大ババ様など、1万飛んで数千歳だぞ」

「ほんとに?」

「ホントも本当だ。正確な数字は、不明だ。歳の事を言うと、顔を真っ赤にするからな。びっくりするぞ。ちなみに、200歳を超えるといきおくれだ。大ババさまには言ってはいけないぞ」


 懐の中のヒヨコが熱を持ちだした。熱い。DDが昂ぶっているようだ。


「歳は、あんまり気にしないよ。ただ、僕もいい人ができるといいなあ」


 3人は、無言になった。どうしてか。


「あれ?」

「どの口がいうんだ。こいつは」

「そうです。これじゃ、お師匠も可哀想です。あ、私もですけど」

「どうしてこんなにひねくれてしまってるんでしょう」


 どうせ、ちょっと顔しか見ていないんだ。好きだとか。

 そんな事は、言えやしないのに。好き勝手に女たちは言い始めた。川に浮かんでいる蟹がぷかぷかと浮いて、川下に流されていく。魔力の限界まで、魔術を使えるが。川の中にいる生き物が死滅してしまいそうだ。魔力を鍛えるのに限界を追求するのは、当然としてある。誰もが、魔力の最大値を追い求めていく。

 当然だろう。

 川下に移動しながら、話は止まらない。


「それで、ユーウさんは誰と付き合うんですか?」

「ノーコメント」

「のーこめんと?」


 モニカもわからないのか。言っていなかったとはいえ。


「言えないって事」

「こういう事は、はっきりとさせておいた方がいいと思うがな。ティアンナ様とか、絶対に引き下がらないだろうし。あの方に、諦めるとかいう文字はなさそうだからな。貴様の方で、突っぱねてしまえばいいのだ。あ、いや・・・そうした場合、貴様が死んでしまうかもしれんから・・・無理か」


 人の都合など、おかまいなしの少女たちだ。モニカはミミーよりも歳下だというのに、ミミーはへこへことしている。しょうがないのだ。昨日までLVもなく川まで魔物に怯えながら毎日を過ごしていたのだから。

 電撃を撃つ傍らで、


「モニカさんは、何歳なんですか」

「10歳です」


 モニカは至って真面目な顔だ。


「へっ。嘘ですよね。いえ、その信じられないんですけど。だって、私よりずっと大人びてるのに」

「大きいって事ですか」


 モニカが、ぶんっと音を鳴らせて槌を振った。モニカは、青ざめた顔になってユウタを見る。


「モニカが大人の女性だって事だよ。あっ、こっちの変態妖精さんは真似しちゃだめだからね」

「そうですか。それならいいんですが」


 モニカは、表情を変えずに尻尾を振った。機嫌は良くないようだ。これだから、女性は手に余る。セリアですら、むくれると大変なのだ。機嫌を気にしないで生きていきたい。大体において、苦労するのは女性問題なのだ。どこにでもついてきて、機嫌を気にする必要のない奴隷などが人気なのはそのせいだろう。ミッドガルドでは、奴隷を禁止にしようとしても貴族の反発があって難しい。


 奴隷は、考えなくていいのだ。美味しい飯とご飯が用意されていて、寝る所まで確保されていれば。文句もいわないのである。何故かといえば、ユウタの所がそうなのだ。解放しようとすると、とたんに「我々を捨てるのですか」と言われる有り様。シャルロッテンブルクは獣人奴隷を大量にかかえている奴隷経済だ。望めば、結婚も可能だ。


 手に仕事をつけて、色々な職業につこうという人間も出てきている。

 川下に移動していくと。


「なんだか、ワンパターンだな」

「それは、言えています。連携がありませんよね。エリスさんは弓が得意なんですね。尊敬しちゃいます」


 浮かぶ蟹が灯篭流しだ。

 モニカは、弓が苦手である。何故か、的に狙って射っても当たらない。単純に、気流を読んだりだとか複雑な相手の動きに対応するのが苦手だとも言えるだろう。


「なんで、こんなにLVがあがるんでしょう」

「それは、ですね。ユーウさんとパーティーを組んでいると、勇者(ブレイバー)の成長補正と英雄(ヒーロー)の成長補正が得られるからなんですよ。取得経験値倍加と取得経験値アップがステに付いているのがわかりますか?」

「えっと。すごいです。これは・・・皆さんのLVがすごいのがよくわかります」


 モニカが解説をし始めた。川面には、蟹の死体が引っかかっている。電撃で、死んでいるのだろう。適当に打ち込んでも蟹しかかからない。周辺に魔物が居ないところを検証するに、蟹が食ってしまっていると考えられる。赤い蟹に緑の蟹。色々な蟹がいるが。大して、変わらない。

 魔物図鑑では、レッドクラブだとかグリーンクラブだとかに類別されている。

 ただのクラブは赤いやつだ。基本的に。川辺を歩きながら、


「通常では、LVが10もあると兵士になれるのは知ってますね」

「いえ、知らなかったです」

「そうですか。では、勉強しましょう」

「あの勉強って、なんですか」


 エリストールとモニカがずっこけた。ギャグを渾身でかましているのか。ミミーは、本気でわかっていないようだ。


「ま、まあ。その学習だ」

「学習ってなんですか」

「学ぶということだ。習うということだ。見て、聞いて理解するということなんだ」

「そうです」


 モニカと、エリストールが生暖かい目をしている。可哀想な子を見る目だ。


「あーなんだ。では、んっ。ユークリウッドは、勇者と英雄を持っているのか!?」

「あっ。これ、他言は無用ですよ。どっちも上級職に転職してるみたいですけど。能力とか見えませんから。あと、調べようとしたら逮捕されちゃったりしますよ」

「なるほど、な。周りには、誰も居ないな」


 きょろきょろするエリストール。意外にも小心者だ。


「ちなみに、ユーウさんは学者持ちでもあるので偽装も使えます。ステータスが普通に見えるのは、そのせいですね。この偽装というのはですね。ステータスを改ざんする能力があるんです。それで、普通の冒険者に見えるんですねー。これに騙されて、つっかかる冒険者さんが多いのは余談です。あと、魔力が0なんてことにも騙されちゃいます。鬼畜ですよねー。魔力が0に見えて、その実は無限に限りなく近いとか。ここ重要です」

「学者って、なんですか。あと、魔力がまるで感じられないのにさっきから魔法を沢山撃ってますけど・・・」


 モニカの言に、ミミーは興味深々だ。


「それは、治癒術士からの派生職ですね。ユーウさんくらいになると、なんでも職を持っているものなんですよ。すぐLVを上げてしまうので、歩くチート野郎と言われてますけど。本人には内緒にしておいてください」

「あの、それ。おもいっきり聞こえてますよね」


 ミミーがちらちらと視線を寄越す。居心地がよくない。


「いいんです。たまには、愚痴らせてください。私だって、頑張っているのに鍛冶師がほとんど上がらなくなって製作に苦しんでいるというのに。ユーウさんは、ちっとも学校に顔を出してくれないんですよ。あまつさえ、狼国でミミーちゃんみたいな可愛い子と知り合いになったりして。ずるいですよ」

「そ、そうなんですね」


 エリストールは、手を顔元に揃えた。モニカは、不満たらたらだ。顔を饅頭のように膨らませている。


「私は、こうしてLVがすごく上がっているのもユーウさんのおかげなんですけど。それでも、もっと上を目指したいのに最近だと週末くらいしか迷宮に誘ってもらえないし。戦士だけ上げて、次の重戦士にいかないといけないのに一人じゃちっとも上がらないんですよ。こうして蟹を退治しているだけで、あっという間に1上がってしまったんですけど。エリストールさんのような方を奴隷にしちゃってずるいです」

「もしかして、モニカさんも・・・」

「それ以上言ったら、ぶちます」


 モニカは、にぃこぉ~っという笑顔で槌を手に当てた。ぱんぱんと小気味のいい音がする。


「ふむ。すごく、LVが上がっていく謎が解けたな。ちなみに、今のLVはいくつなんだ?」

「戦士70で、1上がって71になりました。全然、これからっていう所なのが厳しいですよ」

「私は、騎士35だがな! しかし、年齢を鑑みると情けなくなってくるな。騎士の上があって、きりがないレベリングだ。蟹一匹ででどれくらい入ってくる?」

「一匹で5パーセント上昇してます。あっという間です。あっ、また1上がりました。こうやって、付いていくだけでパーティーの公平さんで上がっていくのが美味しいですよ。だから、ユーウさんのパーティーはやめられないです。ちなみに、こうした情報も全く外の方には漏れてません。お二人も漏らしちゃ駄目ですよ」

「そうだな」


 まさにおんぶに抱っこである。ミミーのステータスは、素早さだけしか上がらない。バッドステータスのせいだろうか。LVが上がった所で、無茶をすれば死んでしまう。ダメージが0だとかそういうことはないので。ゲームのようにはいかない。

 下流に行くにつれて、川の端から端まで蟹で埋め尽くされようとしていた。


蟹さんと戯れる。(・∀・)

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