72話 ミミー、襲う (ユウタ、モニカ、エリストール、ミミー、蟹)
モンスター文庫大賞は、落ちましたが頑張っていこうと思います。
Orz
「・・・」
ミミーが唸り声をあげて襲いかかってきた。それを、手で押さえようとすると、噛みつき攻撃をしてくる。ミミーの牙は、全く痛くない。それどころか、皮膚で止まっている有り様だ。が、全身から力が抜ける。おかしい。LVどころか、ろくなスキルすらないはずなのに。おかしい。
それを見たエリストールが、
「ユークリウッド。大丈夫か・・・血が出ていない。どういう事だ」
「多分、筋力が弱いんじゃないかな」
筋肉万歳だ。
セリアであれば、間違いなく食いちぎられていたであろう。しかし、ミミーの筋力値は1。ダメージにすらならない。噛みつかれた所で、何の痛痒もなかった。灰色の髪を振り乱し、目を真っ赤に染めて暴れるが。その内に、噛みついている腕を舐めだした。
ぺろぺろぺろ、と。くすぐったい。
「ミミー。大丈夫かい」
返事はない。ただ、無言で舐めまわしている。まるで、犬だ。それで、見ているエリストールに助けを求めるが。
「どうやら、蟹がまた現れたようだ。貴様で、なんとかしろ」
「ええっ?」
手を舐めていたミミーが、今度は飛び乗るように顔面に覆いかぶさる。膝蹴りを貰ってしまうと、後ろにのけぞれば。
「・・・」
ブリッジする格好のまま。のしかかるミミーは、顔を舐めまわす。
ぺろぺろ。
暴れるミミーを投げたら、死んでしまいそうだ。HPは常人以下しかない。地面にぶつかっても重症だろう。そうしている内に、ミミーは大事な所を掴む。引き剥がせない。おかしい。
「へっ。ちょっとまって、ミミー」
ミミーは、大事な所を掴むと。そのまま嚙りついた。強烈な脱力感に、劣勢だ。
力が入らない。睾丸を引っ込めるという技法もあるが。間に合わない。
「あがっ」
悶絶した。意識がないはずなのに。ミミーは、そこに噛みついている。強化しているので、全く痛みはないが。そのまま、出てしまった。何故、こうなったのか。
ミミーは、
「うぐっ。あ、あれ?」
ブリッジした格好で酷い格好のまま、人目があるというのに。犬耳の少女は、喉を動かした。
飲み込んだようだ。
「変な匂い。臭いです」
「ごめん」
心の中で泣いた。ミミーは、かじった部分から手を話すとそのままスルリと地面に降りる。
下履きの中は、大変な事になっていた。
「なんだか、すごく力がみなぎってきます」
「そうかい・・・」
色々と酷い。軽く飛び上がるミミーは、それだけで10m近く飛び上がった。どういう事か。
鑑定すると、何時の間にか。LV0とある。職業が犬。称号に、ぺろぺろ犬と。なんだか、とても酷い称号だ。だが、LVがついた事は大きな前進だろう。
しかし、酷い目にあった。あり得ないことだった。LVもないのに。
頭が、痛い。幸いにして、モニカもエリストールも蟹の相手で忙しいようだ。そそくさと、水の魔術で股間を洗うと。ミミーは、まじまじと見ている。
「ちょっと、ミミー。見ちゃ駄目だって」
「あの、それってなんなんですか? あの臭いのは」
「それって・・・。これは、人に聞いちゃ駄目だよ! 絶対に駄目」
「わかりました。臭かったですけど。すごく美味しかったので」
「そうなんだ。でも、僕とミミーだけの秘密だからね」
「はいっ」
とっても嬉しそうだ。が、あり得ない事に愕然とした。痛くないのが不思議だった。現代人の男子ならば、5歳で精通があり得る。10歳で10パーセントの男子が射精の経験があるという。11歳では更に倍になって増えていくとか。本当なのか、今一疑問であるけれども。経験があるので、身体が変われば童貞ではなくて非童貞なのか。
女子だと膜の有りなしで処女か非処女かと言われるけれども。ユーウの身体が変身して、ユウタの姿をとっていたのか。そこの所が不明だ。いくらなんでも9歳で、いたしてしまうのはいけない。まっとうな常識を持っていると己では、思っているのだ。未成年と、やってしまうのは犯罪だ。戦争をしたり、殺し殺される世界で徐々に感性が狂ってきつつあるのかもしれないが。
ミミーとの事は、完全に事故だ。本意ではない。セリアなどに知られたら、真っ先にやられかねない。自分にもさせろという事間違いなしである。周りで、誰かが覗き見していないかどうか。気配を伺う。が、アルーシュやアルルといった覗き魔の視線は、ないようだ。最強になろうという人間が、LVもない女子に手玉にとられたとあっては沽券に関わる。
きょろきょろとしていると。ミミーが身体を寄せてきた。
「あの」
顔を赤らめながら、耳をパタパタさせている。
「どうしたの?」
「ユーウさんって、好きな人とかいるんですか?」
「えっと、ノーコメント」
「ノーコメント?」
「言えませんってことだよ」
「そうなんですか。てっきり、あの青い髪をした女の人と付き合っているのかなって思っていました。これなら、私にも・・・」
「・・・」
嫌な予感しかしない。ミミーには、悪いがこれ以上の荷物は大変だ。そして、返事を返さないでいると。
「私、頑張ります!」
「そうなんだ。がんばろう」
「はいっ。その、こんな身体ですけど。よろしくお願いしますっ」
「えっ・・・。うん」
頷いたが、がっと拳を握りしめるミミーに不安がある。
蟹の相手をしていたエリストールが、弓を持ったまま勢いよく戻ってきた。
モニカは、一人で相手をしているというのに。
「何をやっているのだ貴様は。聞いていたぞっ。なんという真似を。ちょっと目を離したすきにこれだ。歩く性欲魔人とは貴様の事だなっ。よりにもよって、このようないたいけな子を相手にす、するなんて。とんでもない奴だ。これは、ちょっと私も味見・・・ではなくて検査が必要だぞっ。あとで、たっぷりとやらせてもらう。奴隷なんだからなっ」
詰め寄るエリストールの口元から、よだれが出ている。怖い。
どうしてこうなったのか。投げ飛ばすべきだったのか。わからない。
モニカは、蟹の腕を盾で弾くと危なげなく頭を叩いて割っている。と、泡を吹いてくる個体がいた。泡を避ける。モニカは、くらわないようだ。地面の草が溶けているので、強酸性の攻撃らしい。
エリストールが、間近に迫るので。実験をしてみる事にした。ミミーの身体を受け止めた際に、感じた脱力感。ミミーに再度の鑑定をかけると。
「・・・(貧弱。虚弱。最弱。なんだこれ)」
ミミーは、バッドステータスがついている状態だ。素で、弱いのだろう。しかし、力が入らないと云うことはから察するに、貧弱、虚弱、最弱。いずれかのスキルが相手に、弱体化をもたらしているようでもある。ミミーの手を握ると。脱力感が襲ってくる。そのまま、
「えっ。どうしたんですか」
「ちょっと、実験」
手をエリストールの鎧に押し付ける。
「? なんだ?」
効果は、見られない。それで、素肌の部分にタッチしてみると。
「うっ。これは」
「どうしたの」
「力が抜ける。止めろっ」
「??」
その効果をミミーはわかっていないようだ。
「どうやら、ミミーには相手の力を奪う能力があるみたいだよ。ただ、条件が厳しいね」
「えっと、それって相手に触れればいいって事ですか」
「そうみたいだ。ただ、その・・・接近できないと意味がないのと。直接相手の肌に触れないといけないみたい。あと、LVが付いたのは秘密にしておかないとね」
「ほう。それは良いことを聞いたな」
「黙っといてくれるよね?」
「う、まあそうだな。バレると困るだろうしな。面倒な事は、私も避けたい。後で、ティアンナ様に折檻されるのもあれだしな・・・いや、待てよ? これをダシにして、あんな事やこんな事を迫るのは、どうだろうか・・・」
エリストールが邪悪な事を考えているようだ。口元が緩んでいる。
「そんな事、しちゃだめですよっ」
「お前が言うな! この変態犬っ」
「うっ。そんな、変ですか」
「ああ、人前で顔面をぺろぺろしたり。あまつさえ、あんな事を・・・羨ましい。私もやりたい」
「・・・(誰がやらせるか!)」
最後の事は、顔を覆いたくなるような出来事だった。しかし、一般的な情報としては、精通したら股間が痛くなるという。
痛みがない。おかしい。ぺろぺろの追求を避けて、空気を変えるべく話を振る。
「その話は、いいから。検証してみよう」
川からは、蟹がわらわら湧いてでてくる。かなり異常だ。
その様を見て尋ねる。
「こんなに湧いてくるなんて普通なの?」
「えっと。蟹の化け物をみるのも初めてです」
「そうなんだ」
ミミーの能力は触ってみることが必要条件で、攻撃する手段に乏しい。インベントリから、クロスボウと矢を取り出すと。
ミミーに手渡す。ハイデルベルクで手に入れた略奪品だ。
「これで、蟹を狙って撃ってみて」
「はいっ」
「犬娘ばかりにかまってばかり、私は放置か・・・」
エリストールがぶつぶつ言っている。
「モニカの援護をしてよ」
「足止めの必要は、ないのか?」
「うーん。背中に矢がささるエリストールの姿が目に浮かぶようだよ。危ないね」
すると、エリストールは顔をぱあっと明るくさせた。
ミミーは、クロスボウをセットするのも難しいようだ。
顔を真っ赤にしてミミーが矢をクロスボウにセットすると。蟹に目掛けて、矢を発射した。
「えいっ」
命中だ。しかし、弱体化した様子はない。蟹は、以前として横歩きで接近してくる。蟹たちの目的がわからない。襲ってくる以上、撃退する必要がある。飛び道具では、効果が見込めないようだ。数発射つのに、1分以上かかる。ミミーのクロスボウに対して、エリストールのロングボウは速い。弓をつがえてから、射つまでが。1分間に10発以上だ。普通は、6発くらいなのだが。平均よりも早く精度が高い。
「ふっふっふ。どうやら、私の方が優れているようだな」
「うっ。でも、すごいです。あっという間に、LVが5になりました。これもモニカさんのおかげです」
「違いますよ」
モニカが反応する。弓を射つエリストールは、得意気になった。
エリストールの鼻息が荒い。蟹と戦っていたモニカが戻ってくると。
肩で、息が上がっているようだ。
「ユーウさん。このままではきりがありません。魔術で、一掃してください」
「うん。そうしようか」
「魔術で、掃除できるならさっさとやってしまえばいいだろうに。何故、やらない」
「ミミーの戦闘訓練なんだから。ミミーが戦わないで、LVだけ上がってもしょうがないよ。LVが上がれば、色々と余裕ができるだろうけどさ」
短時間で、高速レベリングだった。蟹の集団に向けて、アイスミラーを放つと。
ばりばりと耳をつんざくような音を立てて、電撃が蟹を貫く。そのまま集団になって、蟹は煙を上げて動かなくなった。
「氷の地面か。便利な物だな。それだけ魔術が使えるのなら、群れも余裕だな。川下の方から来ていたようだ。蟹を追っていくか? 調査をしておくのも必要だろう。下手をすれば、新たな魔物の集団が出来上がっているかもしれないぞ」
「そうしよう」
戻るのも選択肢だ。しかし、ガーランドが戻ってくるかもしれない。ミミーは、強くなったのかといえば微々たる物だ。成長力が、低すぎる。数値以上に素早いが、動きが速いだけで攻撃力がない。モニカと訓練をすると。
「きゃあっ」
あっさりとふっ飛ばされて。地面にくの字を描いた。
「大丈夫ですか」
「あっぐぅ」
悶絶している。吹っ飛ばすと同時に、篭手でパンチを見舞っている。連撃だ。
モニカの攻撃は、ルーシアとオデットによって強化されているようだ。とてもではないが、ミミーとは勝負にならない。かといって、
「さあこい」
エリストールがドヤ顔で待ち構えているけれど。無茶だ。川からの蟹を投げ槍で退治していると。
回復をかけたミミーがまた倒れた。槍で殴られ、蹴られる。とても、組み付けない。
「まだまだっ」
「ううっ」
ミミーは、サンドバックになっている。しかし、目は諦めた様子ではない。隙あらば、ダガーで攻撃しようとしているが。そもそも、完全武装をしたタンクタイプの2人には軽装型のミミーでは相性が悪いのではないか。職業が犬というのも酷いが、攻撃する武器も槍と片手槌に盾とでは、分が悪すぎる。攻撃が通らないとか、そういうのではないけれど。
「厳しいねえ、2人とも」
「これも、特訓です。ルーシアさんのなんて、もっとすごいですよ。スクワット100回とか、腹筋から入るんですから。私、それだけでへばってました。基礎から鍛えるのも、有りかもしれませんね。ちなみに、ユーウさんもそれくらいは毎日やるんでしょう?」
「そりゃあね」
ゆっくりしていると、時間が勿体無いのですぐに済ませるけれど。川面から、巨大な目が出てきた。
蟹か。
3人を下がらせると。ざばあっという音を立てて、巨大な蟹が出てきた。明らかに、ボスっぽい。
それは、足が異常に長い。そして木よりも高い位置に胴がある。対話を試みてみるべきだろうか。
ロングフットクラブと呼ばれる魔物図鑑に記載されている物と合致するが。
「やるよ」
「はい!」
モニカは、普通に返事をするが。エリストールは、目を丸くしている。ミミーは怯えている。迷宮に入っていると、このような魔物は、いくらでも出会うのに。
蟹は、水を飛ばしてきた。とっさに、シールドを張る。水は見えない膜に遮られて、効果を発揮しなかった。が、地面がえぐり取られているところから察するにかなりの攻撃力だ。
「こんな、こんな魔物。初めて見たぞ」
「珍しいけどね。海辺に行けば、会うんじゃないかな」
エリストールは、下履きの色を変色させている。酸だとかそんな物ではない。
おもらしのようだ。
汚い。
ミミーが発情、(;・∀・)




