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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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71話 落ち武者、ならぬ落ち騎士さん (ユウタ、エリストール、モニカ、ミミー、ガーランド、蟹)

「ユークリウッド・アルブレスト。我、ガーランドと一騎打ちをしろ。正々堂々の勝負を望む」

「・・・(まさか、死ぬ気なのか。すごいガッツだ。こんな所にくるなんてな。不意打ちをしなかったのは何故だ? 理由はわからないが、手駒に欲しいな)」


 背後から声をかけて来たのは誰であろうか。ガーランドだった。ジギスムント家でも屈指の剣士にして騎士。奇妙な動きが得意としているらしい。だが、この場で勝負をするのか。蟹は、モニカが相手をしている。援護するのは、エリストールだ。弓で固い殻を貫く一撃を見舞っていた。電撃を放つ矢を見て、マジックアローが使えるようだ。


 ガーランドは、ぼろぼろだ。まるで、乞食か何かのように無精髭を生やしている。仲間は、いるのだろう。遠くに離れた矢の光が見える。気配は、5。相手をするには、不足ないが。殺すのは、勿体無い。


「ちょっと待っててね。すぐ、終わらせるから」

「うむ」


 強引に鎧の主導権をミミーから奪い取ると。蟹を撲殺し始める。クラブは、大きな鋏が脅威だ。が、自分よりも固い相手には無力だ。なので、鈍い動きを制して叩いていく。しばらくすると、動かなくなった蟹の死体が大量に川近くの平地に散乱した。終わったところで、再度ガーランドに向き直ると。律儀にも待っていたようだ。


 鎧では、反則だろう。


「尋常に勝負されたし」

「ふう。正々堂々の勝負ね。得物は?」

「無論、剣で。だ」


 変身を解くと、襲ってくる気配はない。ミミーは、崩れ落ちるように地面に倒れる。抱えて、ゆったりと寝かせた。死んでいる訳ではないが、体力の限界を超えたのだろう。残念ながら、Lvが発現しているという事はないようだ。動かなくなったミミーをそのまま寝かせると。


「ガーランドさんは、僕を倒してどうしたいんですか?」

「どう・・・とは・・・所領を取り戻す。ジギスムント家の栄誉も取り戻す」

「取り戻して、奴隷商売をするんですか。それが悪いとは、全く思っていないんですか」

「税を納めらないのなら仕方がないだろう。平民たちが悪いのだ」


 どうやら、ガーランドは典型的な頭の硬い騎士のようだ。凝り固まったガーランドには、周りが見えていないようである。倒すのは、簡単だがここはガーフの顔を立てて説得するのも一つの手だろう。このガーランドも貴族の柵からは逃れられない。

 ガーランドは、ガーフの弟だ。取り込んでいて損はない。まずは、


「そうですねえ。このままいくと、好きな人は別の男性と結婚してしまうんじゃないですか(くくく。馬ー鹿が。死んで楽になろうなんて、な。んなこたあ許されねえんだよ。お前には、きっちりと働いてもらう。それこそ、死んだ方がましだっていうくらいになあ。調べはついてんだ。逃がさないぜ?)」

「なっ。それが、どうしたというんだ」


 絶句した。そして、顔がぶるぶると震える。ショックのようだ。


「シュタインホフマン男爵家の令嬢リリーアン様。美しい方ですよね。貴族たちの中でも、サロンでは人気になるくらいには。そして、それを取り合う男たちの中に身分の低い方が1人混じっておられるとか。幼馴染みで、長い時間をご一緒されたとか。騎士団に入って、別々になっても手紙のやりとりをするくらいに親密な間柄、と」


 ガーランドの眼光は、獰猛さを失っている。目がぴくぴく動いていた。

 効き目は、十分なようだ。


「だから、それがどうした」

「僕を討っても、却って醜聞になりませんかね」

「・・・」


 考えるだけの余地は、あるらしい。


「戦いを平和的に収めて、所領を半分失ったとはいえ。ジギスムント家の兵力は、まだまだある格好ですよ。シグルス様ともジーク様とも良くしてくださる仲です。金で、失った仲間が帰ってくるとは申しません。ですが、ご自分たちのやってきた事を冷静になって見つめてはいかがでしょう。僕も、貴方の同僚を手にかけてきた身ですから言えた口ではありませんけれど。村を襲って、奴隷狩りをしていた貴方がたに義はあったのでしょうか。主君に忠義を誓ったのなら、諌めるべきだったのですよ」

「所詮、ただの騎士だ。目通りすらかなわぬわ。問答は、無用よっ。いざっ」


 間合いを詰める。が、ガーランドは脂汗を浮かべ始めた。以前は、面食らった。だが、二番煎じの同じ手は通じない。斬りかかってくるならば、手足を落としてお話だ。

 効果は、十分。あと一歩だ。


「主君が間違いを犯そうとするときは、腹を切ってでも諌めるのが忠義ですが。武士道かな。騎士には、猪突盲信しかないのか。僕は、貴方を救う事ができる。話を聞いてみませんか」

「なんだと」

「ちょうど、信用のおける配下を欲していたんですよ。貴方のように乞食のような風になっても、なんとかしようという騎士は貴重だ。どうせなら、出世してリリーアン嬢を捕まえませんか。それがいい。そっちの方がずっと建設的です。ここで命を捨てたって、誰も幸せになりませんよ」


 ガーランドは、目を見開いている。効果があったようだ。

 止めだ。


「シグルス様には、話を通します。そうですね。ジギスムント家から出向する格好を取りましょうか。御役目もないガーランドさんには、願ったりもないお仕事があります。僕には配下が少なくてですね。1人でどうにかするには、ちょっと心もとない。協力してくれる人は、1人でも居てくれた方がいいですし」


 長い間があって。


「ふぐっ」


 ガーランドの手から、剣が落ちた。心が、折れたようだ。


「お腹が、空いていませんか。まずは、これからのお話でもしましょう。お仲間も呼んで、鍋をつつきながらですね」

「すまない。すまない」


 がばっと、頭を垂れて髭もじゃの騎士が両手をついた。

 ほっと胸を撫で下ろしていると。エリストールがつかつかと寄ってくる。


「このむさ苦しいのは、なんなのだ」

「ガーランド。配下になったから、よろしくね」

「配下って、そんな簡単に仲間にしていいのか」


 おかしいのか。おかしくないはず。


「えっ。だって、そんなもんでしょ」

「いや、それでいいならいいんだが。なんたる手管。なんだか、お前が大人物に見えてきたぞ」


 感心するエリストールは、地面に弓を突き立てると腕組みしている。

 失敬な。

 戦うのも、悦楽だ。しかし、言葉で巧みに誑かすのは悦があるものなのだ。時間さえあれば、敵は調略できる。問題なのは、時間がないときだ。15000の敵を、敵だからといってロボットで踏みつぶしたのはやり過ぎだった。潰してしまったおかげで、蘇生には失敗が多いらしい。茂みや平地の陰から人が集まってくると。

 ガーランドの仲間は、一様に頭をたれた。悪い気分ではない。


「まあまあ。蟹鍋でもしましょう。これを持って帰って」

「して、我々の扱いはどうなるのですか」


 顔は下を向いたままだ。不安げな声が振り絞っているのか。細い。


「そうですねえ。まっ、客将という扱いで。兵の指揮をとってもらいますか。あ、奴隷狩りを取り締まる方に回ってもらいますよ」

「過去は、問わないのですか」

「命令した人間が悪いですよ。軍では上司には、逆らえませんからね。この世界。そもそも、金の稼ぎ方がわからないジギスムント公爵が悪いですね。僕はそう思います。権力があれば、いくらでも金の作り方なんて思いつきそうなのに」


 ガーランドも仲間も全員が泣いている。どうしたことか。


「ううっ」

「大丈夫ですか」

「いや、見苦しいところを」


 エリストールは、目を白黒させている。モニカが、蟹をインベントリに詰めているのを手伝うと。ミミーを鳥馬に乗せて、移動する。蟹を食べるにも、一旦は戻ってガーランドたちに仕事を与えなければならない。命令されてやったことだ。責めても、相手の事情などわかるわけがないのである。そこに、どういった理と利があったかどうかだけで。

 移動していると。


「我々を信用して、よろしいのか。背中から撃たれるやもしれませんぞ?」

「あはは。そうして、当たると思うのならよろしいですよ。ただ、やる意味が見いだせないのなら止めてください。まだ、信じてませんがそれでも信用しているのはガーフさんのおかげですね。ガーランドさんも頑張って、信用を作りましょうよ」


 裏切って来たわけではない。裏切ったなら、即座に殺す。裏切り者は、何度だって裏切るので信用ならないのだ。一度裏切れば、それが癖になるのが人間だ。残虐非道の第六天魔王を名乗ったかの信長は、松永久秀を何度も許しているが。仏門に対する焼き討ちと一向宗に対する残酷なやり方が、風評になってしまったのだろう。


 要は、雇用主も裏切られないようにする努力も必要だ。


 ミッドガルドも、戦国時代にも似た大陸全土を巻き込んだ戦乱の世にある。狼国を侵略、併合するのも天下統一の為といえばわかりやすい。天下統一には、大変な困難がまっているけれどもやらねばならないという。わかりやすくいえば、星の修復だとか。はなはだ奇想天外な状態を言われて、ハイそうですかと納得できるものではないが。


 星の状態は、かさぶたを覆った程度におさまっている。人間が、魔法を使った結果だといわれているが真偽の程は不明だ。火星を引っ張ってきて、テラフォーミングしましたよ。なんていう文献がある事から、神の力というのは底がしれない。今また、千年期の始まりを制して星の修復を図るという大義はわかるが。だからといって、狼国でやったような事をやらせるわけにはいかない。

 ガーランドと仲間に、いう。

 

「台車を使いますか。運んでいくのを手伝ってください」

「これを乗せていくのですか」

「そうですよ」


 ガーランドも仲間も、呆れ顔だ。クラブは、相当な重量だが食いがいのある魔物でもある。運んでいけば、食えるのに放置しておく手はない。インベントリに入れていけば早いが。


「わかりました。見張りを立てて、運びましょう」

「牛を使いましょうかね。運んでいくついでに、魔物を倒していただけると助かります。ああ、身分証を作りましょうか。顔見知りになってもらえれば、ありがたいのですが。まずは、ここラトスクの街で顔を売っていった方がいいかもしれませんね。ラトスク市では、ロメルさんか市長のドメルさんを頼ってください」


 割符を取り出す。金属製のそれに、魔術でもって印を入れるのだ。ミッドガルドでは、魔術による照会もある。狼国では、まったくそんな事もないので軍団の編成だとかそういった管理がおざなりになっていた。兵士を5人で構成して、それを管理する兵士が内1人。20隊で100人の隊になる。これが、10揃うと1000人隊に。


 狼国では、軍団編成から崩壊しているのでやらねばならなかった。ガーランドには、遺恨のある獣人も居そうだ。が、それはそれ。自業自得で哀れな末路をたどってしまったならしょうがない。今は、1人でも戦える騎士が手元に欲しい。シャルロッテンブルクでも人を集めるのに苦労している。曹操孟徳が行ったという「ただ才あらば用いる」というような事は、難しい。


 なぜなら、シャルロッテンブルクには新興の領土なのでスパイが紛れ込みまくればなにがなんだかわからなくなってしまう。ハゲで格闘のできるバランなどや髭のサムソンは殺し合いを経ているから部下にしたという。経歴を問えば、埃が出まくるような部下ばかりだ。上手くやっているから、文句を言わないだけである。


 経歴などは、白い方がいいに決まっているので。ガーランドのように身元のはっきりしている人間は、願ったりだ。客などと言わず、転向でもよかったのだ。今になって、後悔が湧き始めたが後戻りもできない。後で、シグルスに話をしておかなければならないが。何故だか、気恥ずかしい。会うのがそんなにも怖いのか。何故か。


 ガーランドたちは、汗びっしょりになって積み込みをする。

 蟹を満載にした台車を牛に押させながら、見送っていると。


「いいんですか? インベントリに入れて、運んでいけばすぐだと思うんですけど」


 側によってきたモニカがいう。


「ああ、うん。そうだね。そっちの方が早いけどね。何でもかんでも僕が解決してしまったらさ。僕だけが居ればいいじゃんみたいな事になってしまうよ。ここは、連携をしていかないとさ」

「そうですか。でも、時間もかかりますよね。食料を抱えたまま、戦うのって大変だとおもいますけど」


 モニカは、ミミーの様子を見ながら川辺に視線を移した。

 わからないようだ。人生経験が少ないので、わからないといえばそうなのだろう。

 ここらへんは、中々経験がなければ理解し難い。


「でも、それでもやってもらわないといけないんだよ。苦労は、買ってでもしろっていうでしょ。あれって、苦労をして信用を得るという意味合いもあるんだよね。だから、僕が解決しても僕の手柄にしかならないじゃない。それじゃあ、彼の望みも叶わないよ」

「えっと。女の人ですか? 私には、よくわからないのですけど」


 モニカは、ちょっと鈍感な所がある。男は、女を得るために命だってかけられる。女には、わからない気持ちなのかもしれないが。

 エリストールが、先ほどから黙っていると。よくよく見れば、涙を流していた。滂沱のように。


「うっ感動した。猛烈に感動したぞ。てっきり、決闘して殺すのだとばかり思っていたが・・・。口先三寸で丸めこみ、手下に加えるその手並み。股間だけが立派な馬鹿だという認識は、改める必要があるようだな」


 前かがみになっていうセリフではない。

 ピンク色の髪をした森妖精が鼻をすすっている。

 手ぬぐいを差し出すと、鼻をかんだ。


「僕は、君の中でどういう風に捉えられていたのか心配になってくるよ」

「ティアンナ様を毒牙にかけんとする野獣に決まっているだろう!」


 むんずと迫ってくる。エリストールの胸の位置にしか頭がこない。

 少女は、かなりの長身だ。エルフの歳はわからないので、老女かもしれないが。

 この場合どうなるのであろうか。と、疑問を地にして。


「酷いなあ。僕は、残念だよ。ティアンナには、露出プレイでもしてもらおうかな」

「まっ。まさか、鎧を来たままでプレイするというのかっ。そんな淫らな行為をするなんて・・・バッチこい、ではなくてだな。このままでは、野獣の飢えた牙にかかってしまうっ。モニカどの、こやつに近づいてはなりませんよ」

「ユーウさんは、そんな人じゃありません。勘違いをしていると思います」


 モニカは、普通の感性を持っている。だんだんと思考がピンクのエルフさんと同化してしまいそうだ。

 

「う。その、わかってはいるんだ。だが、ティアンナ様の事を考えれば毒牙にかかるのは私一人で十分。このミミーという少女までもがその牙にかかってしまうのを見過ごすわけには。みろ、ぴくりとも動かないぞ」


 やはりか。エリストールの積極ぶりは、そこにあるのか。


「脈はあるようですよ。ただ、目を覚まさないのが不思議ですね。疲れてるのかもしれません」

「というと、これと同じようになったことがあるのか?」


 我が意を得たりと、モニカがニッコリする。


「これ、すごいんですよ。一緒に、変身すると。全身が燃え上がるように力が湧いてきて。何でも出来てしまうような。万能感っていうんでしょうか。神様にでもなったかのような気分になるんです。でも、変身させてもらったのも、一回だけで。私は、もっと合体してもいいんですけど」


 モニカがちらちらと見つめる。【鎧化】は強力だ。

 しかし、中毒性がある合体を何度もさせるわけにはいかない。

 対象者は、すごくLVアップするのだが。白目を剥いたミミーの目が、突然充血し始めた。


「これは、目が赤くなりだしたぞ」

「どうしたんでしょうか。ユーウさん、これが普通なんですか」

「いや、普通じゃないね。ミミーがLVを持たないのと原因が関係しているのかも」

 

 川辺からは、クラブが姿を見せつつある。それと、同時にミミーの身体が激しくバタつき始めた。



閲覧ありがとうございます。

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