62話 サンドバックとか許せないですよね。ちょっと、そこの君棒立ちになって立っていなさいっていうのは。氷結モンスターの味はどんなだと思いますか?
どうして。こんな目に。取り囲むのは、獣の耳を生やした少年たち。
同じ獣人なのに。周りには、無表情な壁しかない。敵は、獣だ。
なんとかして、この危地を脱出しなければならないのに。
「やめて」
「ばーか。黙って差し出せばいいんだよ。あっ?」
少年は、凄んだ。
ミミーは、震える事しかできない。抗えば、殴られる。
しかし、この時ばかりは抗う。手を取られて、しまうと。
「このっ」
別の少年が腹を拳で殴る。腹からは液体が逆流して、鼻から飛び出す。
「うっ」
でも、放さない。大事なお金なのだ。放せる訳がない。
けれど、少年たちの力は強くて手からは力が抜けていく。
必死の抵抗も、指を剥がされていていけば。
「残念だったなあ~。こいつ、結構持ってるじゃねーかよ」
奪った少年は、袋の中身を見て笑みを浮かべた。
「遊ぶ金にはなりそうかよ」
「しけた額だけどな」
「返してっ」
叫んだ。しかし、その叫びの返事をする代わりに蹴りが腹をえぐる。
悶絶するしかない。そうして頭が下がったところに、拳がきた。
「弱っちいくせにっ。黙って差しだせやっ。痛い目をみねーとわかんねーらしいなあ、おい。おらおらおらっ」
少年の拳で、地面へ倒れる。容赦のない蹴りが身体のあちこちにあたって、身体を丸めた。
それを見てか。
「抵抗してんじゃねーぞ。調子くれやがってっ」
蹴る少年が増えた。同じ獣人の子供なのに。そうであっても、弱い強いはある。
そして、大人が見ていなければそれは顕著だった。
その攻撃も、ミミーの身体を破壊する勢いで。ひたすら耐えるしかない。
「おめーらっ。ミミーに何してやがるっ」
「げっ。黒狼族だ。逃げろっ」
剣を手に、少年たちに追いすがるヒルダ。けれども、彼らを追うよりもよってきた。
「ヒルダ。お金を、お金を取り返してきて」
「なんだって? 金を盗られたのかよ。あの畜生どもめ。けど、怪我の方が先決だ」
「駄目、なの。お金、お金がないと」
お金は、大事だ。そのお金がないと。
「どうしたんだよ。あいつらっ」
危ない。ヒルダの後ろに忍び寄る少年がいる。
けれど、ミミーの視線はヒルダに届かない。叫ぶけれども。
「ヒルダっ」
「おらっ」
「がっ」
間に合わなかった。酷い。
どうっ、とヒルダは倒れた。
頭部を強打されたのだ。意識が飛んでしまったのか。
ヒルダは、動かない。
「びびらせやがって。一人でやってくるなんてよお。こいつ、結構いいからだしてるんじゃね?」
「へえ。ま、楽しませてもらうかよ」
下卑た視線で、ヒルダの身体を舐めまわすように見る。
少年たちは、捕らえた獲物をいたぶるつもりだ。
楽しむだとか。それが、どういう事なのか。わかっている。いやらしいことをするつもりなのは。
にきび面をした少年が、ヒルダの身体を仰向けにしてのしかかろうとする。
そこに。
「いてええええーっ!」
噛み付いた。ミミーの牙は、大したことがない。狩をするには、とても人らしい。
それでも反撃にでるしかない。死ぬかもしれない恐怖に抗いながら。
思い切りよく腕に噛み付く。もっと強く。
だが、
「何しやがんだ。このちびっ!」
放さない。殴打がこようと。放さないのだ。
一度噛みついたら、命はないかもしれないけれど。
ミミーの牙が血溜まりを作る。その間も、少年が絶叫を上げている。
腕よ千切れよとばかりに、全身の力を込めて。
ミミーが生きている間は、ヒルダは無事であろう。
「放せよっ! こいつっ」
顔面に一撃。鼻血がでた。もう一撃、で鼻が折れたのか目の前で火花が飛ぶ。
いつも孤独で。誰も助けに来てくれるなんて。いつも、信じていなかった。
でも、いつも助けに来てくれた。彼女は、出会ってからずっと。
だから、もう。血だまりが己の物か相手のものなのか。わからなくなっても。
必死で、噛み付く。
「おおおっ」
何度も地面に叩きつけられても。壁にぶつけられても。
諦めない。その内に、目の前が真っ赤に染まりだした。
己に死期が迫りつつあるのを感じ取る。
「(どうして、どうしてこんな事になったのかなあ)」
ミミーは、家から病気になった弟の薬を買いに町にでたはずだった。
だが、現実には路地裏に連れ込まれて死にかけている。
こんな世界なら、生まれてこないほうが良かったのではないか。
それでも、良い人もいる。悪い人もいる。
「くそおっ。俺の腕がっ。やりやがったなあ!」
腕は、どうなったのかしれない。もう、目の前すら見えないのだ。
病気になった弟の薬を買うために、町をうろついたのが悪かったのか。
それとも、単に運が悪かっただけなのか。わかりはしないけれど。
ただ、病気になってしまった弟の薬をどうするのかだけが気がかりで。
死んでしまうのか。倒れてしまったところに蹴りが入る。
壁に叩きつけられても、まだしぶとく生きているようだ。
誰か。誰かヒルダと弟を助けて欲しい。真っ赤に染まった世界で、叫ぶ。
「(誰か。誰か。誰か。助けて)」
誰も、答えてくれない。そのはずなのに。声がする。
「(しょうがないなあ。君。助けて欲しいの?)」
「(誰? 誰なの? 誰でもいいの。助けて)」
「(じゃあ、契約だよ。僕と契約して、下僕になること。これが飲めるなら、助けるよ)」
「(いいよ)」
「(契約成立だね。ま、お願いをたまにするくらいだから大丈夫だよ)」
迷うことなく飛びついた。この場、この時。ヒルダが助かるのなら、己の魂だって賭けよう。
誰も、助けてくれなかった。ヒルダ以外には、誰も手助けをしてくれなかったから。
アキュという大人も、この場にはいない。彼にだって都合があるのだ。
常に、一緒にいてもらうのはできない相談なのだから。だから。
「君。大丈夫?」
「なんだあ? このガキは」
そんな声が聞こえてきたのが、あまりにも間抜けに聞こえた。
次いで。
「これは、酷いな」
女の声だ。まだ、幼く。固い。そんな声の持ち主は、誰であろうか。
そして、悲鳴が上がった。
「あ? てめえ、ぎゃああ」
少年たちは、どうなったのか。悲鳴が上がり続ける。
「止めて、やめてくれ」
「こいつ。どの口で、そんな事を言ってるんだ。今どき、子供でもこうなのかよ」
「獣。獣人だけに、笑えない」
抱え起こされた。その透明で透き通るような美声が、耳を打つ。天上に、いる戦乙女たちの奏でるというハーモニーよりもなお一層に真に迫った。そんな声が側から聞こえる。生きているのか死んでいるのかわからない状態でも、わかるほどに。
「回復」
その声は、少年未満の声だ。聞き覚えのある声の主は、ユークリウッドだろう。
ミミーには、天上人のような存在だ。目の前が、焦点を結ぶと。
幼い少年の姿があった。年の頃は、15,6に見える。ミミーよりも年上であろう。
「大丈夫? 君を襲っていたと思われる少年たちにはきつい罰を受けてもらったよ。死刑になるかどうかは、わからないけれどね」
「あ、あの。私よりヒルダの方を」
「彼女は、そんな大した事ないみたいだよ。君、よく頑張ったね」
そんなことはない。それよりも。
「よかった。あと、お金を取り戻してください」
「お金?」
「そうです。袋に入っています。茶色の布でできた物です」
ややあって。
「これかな。・・・大事なんだね」
顔には、憂いを帯びた表情が浮かんでいる。ユークリウッドが来て、アキュは来てないようだ。
問いかけてきた不思議な声は、ぱたりとやんでいる。
少年たちが、顔をぼこぼこに変形させて連れていかれた。どうなるのか。
仕返しが恐ろしい。
「あの、あの人たちはどうなるんですか」
「えっと、死刑かな。僕の中では、ね。でも、一般的な刑だと腕を切り落とすか。それとも刺青を入れるか。はたまた収容所送りかな。禁錮刑でも10年は行きそうだね。何しろ、黒狼族の娘に手を出したんだ。死刑になってもおかしくないよ。ええと、何か心配ごとでもあるのかい?」
話をするべきなのか。そう、これは神がくれた配剤だ。
不思議な声の主にすがりつくしかない。弟を救うには、頼るしかない。
お金を持って、町をうろうろしたところで薬が手に入らないのはわかったのだから。
それが、すごい値段だというのだ。
ミミーが頑張って水を毎日売って。稼いだしても一日に3000ゴルになるかどうか。
それを365回やっても、税金で大量のゴルを持って行かれて手元に残らない。
食費で更に削られて、ミミーの貯金は1万ゴル程度しかなかった。
対する薬は、恐るべき価格だった。
「あの、アイスウルフって知っていますか?」
「へえ。知っている事は知っているけど。確か、氷雪地帯に住むユニークモンスターだっけ。セリアが詳しそうだね」
「知っている事で良ければ話そう。まずは、大きい小さいに関わらず特殊な攻撃が脅威だ。氷雪圏と呼ばれる何でも凍らせる防御圏を纏っている。その為に、レベルの低い冒険者では全く歯が立たない。同時に、魔術師を入れていないパーティーなら苦戦は必死だ。何故かというと、武器が凍って相手に届かないからだ。近寄れば、身体が凍り、遠くから攻撃すれば弓矢が凍る。相性的には、投げやりの名手か炎か風の魔術を使えるのがいい。ところで、そんなアイスウルフに何の用だ?」
もう全てを話すしかない。
恥を忍んで。
「弟の病気を治すのに、そのアイスウルフの身体が必要なんです」
「なるほど」
「しかし、ここいらにはそれはいないぞ。いや、迷宮の中にはいるかもしれんが奥の方にいる。時間がかかりそうだな」
「そいつなら、ちょうどいい。狩人ギルドからハントの依頼が出ている」
何故か。アキュまでが現れた。目の奥からはじわっと汁が出始めている。
泣いては駄目だ。というのに。
時間との勝負なのだ。すぐにでも薬が欲しい。母親は、きっと泣いている。
父親は、土下座ばかりしているだろう。嘲笑われるだけだというのに。
アキュの言葉に、胸を押さえた。
「どの辺で? 遠いと、ここの防衛もあるんだけどね」
「それなら心配ない。アル様から連絡があった。敵は、降伏するそうだ」
「えっ。それ、どういう事」
ユークリウッドがセリアの言葉に驚いている。
「どうもこうもない。敵は、15000近い戦力をただの1人にやられたのだ。戦うというのは、選択肢としてないだろう。それでも戦うというのなら、自殺に近い。いや、お前としては戦って欲しかったのだろうが。シグルス様とアル様の説得で、降伏を選んだという事だ。何やら、お前の事で誤解していたらしいしな。爵位の繰り下げでどうにか収まりそうだという話だぞ」
セリアは、つまらなさそうにいう。彼女も戦いたかった素振りと表情だ。
「そう簡単に降伏するものなの?」
「それが、憑き物でも落ちたかのような素振りらしい」
「それなら、【催眠】の可能性がある。ユーウは、人形使いの能力持ち。その効果も知ってるはず」
「そういう事なのかなあ。そんな簡単に【催眠】にかかるものなの?」
ユークリウッドは、美女の意見に懐疑的だ。一刻も早くアイスウルフを倒して、その肝や牙から薬をつくらないといけないのに。話を聞いているしかないのがもどかしい。
「誰もが、ユーウのように耐性があるわけじゃないだろう。魔術師の力は、エリアスがよく知っているはずだ」
「条件次第ね。状況とか。あとは、人の心理を巧みに誘導する奴だとか。何も術だけが魔術ってわけでもないし。言葉だって、ことのはっていうくらいに暗示とかかけられるものなのよ」
「ん。それで、アイスウルフを狩りにいくの?」
黒いローブを着た幼女に、ティアンナが割って入る。
やっとだ。やっと狩りにいくのか。期待が高まる。
「じゃあ、アキュさんに案内を頼もうかな」
「ああ。そう言うと思って、クラン員に準備をさせている。狩りをするのは、狩人ギルドの領域だ。冒険者ギルドから協力という格好になるがね。難易度は、俺達にとって達成するのも難しいが・・・やらんといかんだろう。君の助力があれば、間に合う可能性も高い。やれるだけやるつもりだ。ちなみに、空間転移で移動はできないのかね」
「そこが、行った所でないと無理ですね」
アキュの言葉に、三角帽子をかぶった女の子が反応する。
「えっと。ちょっと、待ちなさいよ。あんた、遠見の魔術を使えばすぐに行けるでしょ」
「え・・・」
「え、じゃないわよ。すっとぼけても無駄よ。使えるのは、わかってるんだから。空間転移が使えて、門まで開ける奴が遠見の魔術程度を使えないとかいうのは、なしよ。気持ちは、わからなくもないけど。使ってないのも知ってるんだから、どうにかしなさいな。現地に着いてから、そのアイスウルフを探して狩りをする時間まで計算に入れておきなさい。ついでに、【製薬】するのだって時間がかかるんだからっ」
ユークリウッドは、顔を赤くしたり青くしたりめまぐるしい。【製薬】まで使えるのか。
錬金術士につてなんてない。女の子は、見た目の通り魔術師のようだ。
魔術の心得がない己ですらわかるほどの。
ともあれ、魔物を退治しに行くことに間違いはない。
初めて見る魔術だった。驚いた事に、アキュの仲間にヒルダを加えて金色に光る門をくぐると。
そこは、氷の世界だった。
狩人ギルドの領分に手を突っ込むような仕儀だが。
一面が氷で出来た世界で、アイスウルフを探す。
辺境すぎるのと、広すぎるのが問題だ。
ゲームのようにすぐに魔物が見つかるわけでもない。
しかも、凄まじい凍気だ。あまりの寒さに誰も住んでいない。
加えて、魔物がわんさといる。
そんな中で、ミミーに何ができるのか。
それでも探す事くらいはできるはずだ、と。
「連れてってください!」
「危ないよ?(死ななきゃいいけどなあ)」
と、本人はやんわり止めても「絶対についていく」といって聞かない。
氷の世界は、ウォルフガルドでも北の山脈にある場所らしい。
その名も、氷の剣山。巨大な氷の山がいくつもつらなるという。
探すこと、小一時間。アキュのクラン員は、リリペットにユッカ、リップ、リオ、ナタリー、チスズ。
メンバーが入れ替わっているのは、都合なのだから仕方がない。
手分けしてやっていくのも、時間がかかってしかたがなかった。
広範囲の探知する魔術もフィールド型ダンジョンなのか、効果がでない。
普通の迷宮とは、訳が違うようである。
アイスフラワーと呼ばれる強敵もいるので油断できないでいると。
「すまん。こいつは、難しいっ助けてくれっ」
鬼のような形相で走ってくるのは、アキュだ。
文字通り命を賭けている。
ゲームではない。モンスターだって、強いと逃げる。
今回の場合は待機場所を決めて、釣ってくるというやり方だ。
勿論、セリアやティアンナが出会えばそのまま肉塊になるであろう。
逃げてきたアキュとそのメンバーは、必死の形相だ。ミミーという獣人の少女を抱えたままではさもありなん。土台、難しいモンスターなのだから。
追いかけるのは、水色をした魔物。つるりと、凍った狼の身体。
「なんとかしようとしたのだがな。魔術が効かない。どうやれば倒せるのかを考えたのだが、うちには強力な炎と風の魔術士がいなくてね」
「なるほど。任せてください」
対抗策は、色々とあるが。このアイスウルフの特徴は、情報を知らない相手を殺す。
そんな初見殺しなのだ。わかっていれば、そうでもない。
逃げてきただけでも合格点をやれるレベルだ。
腕のある炎か風系の魔術師なら、風爆か爆裂連打で圧勝だ。
そう、氷結系の弱点でもある。大気中の水分を固めるという特性上、風で拡散されるだけで弱い。
燃料気化爆弾なり、水爆なり、原爆なりを上からぶつけてやるだけでもオーバーキルだろう。
そのような強力な攻撃でなくとも、やれてしまう。
それにあたる原子爆裂や【落日】を使うまでもない。
「こんなもんかな」
「・・・すごい」
すごくはない。名前をアイスウルフと呼ばれれるそれの死体を眺めた。
強敵ではあるが、倒すのは訳なかった。
空間を凍らせる能力を持ったユニークモンスターなのであるけれども。
その能力ときたら、空気から伝播していくのでしょぼい。
矢を凍らせ、接近しようとするアキュのクランのような前衛職ばかりだと苦戦は間違いないだろう。
しかし、よく観察すれば上空からの投げ槍であったり。
空気を吹き飛ばすような爆撃でもすれば、あっさり倒せてしまう。
例え、弾丸の直進を防ぐといっても爆風を作りながら接近するだとか。
そんな事は、人間ならすぐに考えつくであろう。
「うちらも、上から攻撃してみたんだけどなあ。魔術にはかなわないね」
「全くだ。こいつ、回避するわ。近づこうとしたら、固まりかけるわ。リップ、援護してくれよ」
「ふんだ。やってるもん」
「助かったからいいようなものの。次は、頼むぜ」
リップとリオが、内輪もめ寸前だ。
「まあ、なんだ。待て。相手が、距離を取ってくるなんて予想外だろう。てっきり動かないものだと思っていたからな。投石も数を撃てばあたるんじゃないかとおもっていたんだが、それだと逃げるしな。正直、レベルが低い我々では厳しい」
「お疲れ様です」
アキュが、一番疲労しているようだ。
ミミーを降ろして、頭を下げて息を上げている。
そういうのを思い込みという。知能があれば、対応してくるだろう。
氷結装置というのなら、全く反応しないのも無理はない。
「(アイスウルフか。ロボットに凍らせる能力を持たせるのは面白そうだな)」
が。仮に兵器にするにしても、面白い兵器なだけで。実用性のほどはたかがしれている。
なので、複数の兵装を持たせるのが普通だ。脳みそが付いているのなら。
ロボットで、中に人間がいるというのなら普通はそうする。
その対象に思考が、あるならば。
例えば、このアイスウルフだと範囲内に入った獲物を仕留めるために突進してくる相手からは距離をとったりだとか。氷系の魔術を使用して、冒険者を苦しめる。
魔物であっても、攻撃を回避したり距離を調節したりもする。
そんな厄介なモンスターであるといえよう。
ちなみに、近寄った場合には氷での攻撃が待っている。まるで、ハリネズミの如き。
魔物といえど、侮るべからず。
アキュたちは、九死に一生を得たという風でへたりこんでいる。
ただ、帰ってきた組が。
魔物の死体を手にしていた。アイスウルフだ。
氷で包まれた巨体を引きずるようにしている。
「簡単」
「む、二頭だと!?」
エリストールを連れたティアンナにセリアは、牙を向いている。
「(張り合うのは、やめてほしい。人の命がかかってんだからな)」
エリアスが焦っているというのに、お構いなしだ。




