60話 また、奴隷をゲットした? いえ、乗っ取り先の子は大量の奴隷を購入しているという。だけど、困ったものです。自分で考えない人というのは。あれ? 違いますでしょうか
「その、股間を見つめるのやめてください」
「どう見ても、勃起しているではないか。どういいつくろってもそれは、勃起というのだぞ。まったく。これだから、人間というのは油断できない。まさに、飢えた野獣。子供のフリをして、ティアンナ様にあんなことやこんな事をする気なのだろう。この手もイヤらしいさわり方だっ。はっ、まさか…手だけでイかせるつもりなのか!」
「…(どこを、どうしたらそうなるってんだよ。もう限界だ。どうしてくれよう)」
確かにユウタはエリストールというピンク髪をしたエロフを抱き起こしているけれど。
そんな気はさらさらない。セリアやエリアスの目が痛いくらいに気になる。
魔物を駆除したり、色々していたらというのに。のっぴらきならない変な女に捕まってしまった。
このエリストールは、ティアンナの護衛というが。関わりになると、頭がおかしくなりそうである。勿論、ユウタがだ。
エリストールは、舐め回すようにユウタの身体を見ていた。
(うーん。どこかに捨ててこようか。けど、こいつ。どっからでもやってきそうだ。そして、このまま野放しにしていたら…アルーシュとか間違いなく影響を受けるだろうしなあ。どうしたもんかね)
腹パンをしたり、余人には見せられない絵面になることの多いエリストール。
厄介だった。
ある意味、魔物よりも強敵だ。
エルフなのに、奇乳だったり。見た目とは裏腹な言動で、周りからは白い目で見られていそうだ。
そんな彼女に。林檎などを与えてしまったのは、不味かった。
踊りをしたり、倒れたり。抱え起こしたら、息も荒げて股間を見ている始末だ。
「くっ、その凶悪な武器でどれほどの乙女を毒牙にかけてきたのかっ。想像しただけで、身が氷そうだ」
「もう大丈夫ですよね」
「いや、足が痺れて立てない。しばらく、この状態でいるしかないようだ。このまま孕まされてしまったらどうしようか。まさか、この姿勢でやるつもりではないだろうな。ティアンナ様がみているというのに、公開陵辱を受ける事になるなんてっ。どうするつもりなのだ。さあっ」
ティアンナの鼻息が荒い。どうこうするつもりなら、このままどこかに向かって投げてしまうのもありだろう。その場合、地面にでも激突して死んでしまう恐れはあるが。
「どうもこうもありませんよ。ティアンナ、ちょっとお願いだよ」
「ん」
ティアンナは、そそっとエリストールの身体を引き起こした。
「へっ。あ、あの」
「エリス、立てる。嘘つかない」
「あ、あのお」
「ユーウをからかったりしたら、本気になる。後で、ごめんなさいは無理。わかってる?」
「えっと、ごめんなさい」
どうやら、からかわれていたようだ。
「じゃあ、農作業を続行しようかな」
「しかし! 貴様のイヤらしい野望をくじくのは私だという事を肝に命じておくがいい。このエリストールがいる限りっ貴様とティアンナ様が一緒になることなど。断じて許さないっ」
「エリス。帰る?」
「えっ、えっと。その、帰りません! 私は、長老さまからティアンナさまの監督を命じられているのです。有り余る魔力で、どれだけの事をやらかしたと思っているんですか。エルフは、人間になど関わってはいけないのですよ。彼らは、隙あらばエルフを奴隷にしようと虎視眈々なのですから。ですからっ、そのような下賤で、野蛮で、粗野な子供にこびを売る必要などこれっぽっちもございません。民が見たら、どのような噂が立つ事か。お考えになってくださいっ」
ティアンナは、エリストールの言葉を聞いて。
「じゃあ、エリスを奴隷として5ゴルで売る」
「えっ」
絶句している。そして、ムラムラしてきた。という事は断じてない。
「はあ。買っとくよ。こんな変な人は、野放しにできないし」
「あ、あの」
ユウタの手には、首輪がある。インベントリから取り出した代物だ。犬用のようである。
どこぞで手に入れたのは、秘密だったりする。奴隷商人から奪った【隷属】が付与されるアイテムだ。奴隷商人なら、作成可能なようである。目を白黒させているエリストール。耳がぴこぴこ動いているのが可愛い。
「ほ、ほんとに?」
「かまわない。実は、長老から厳しくするように言われている」
「あ、あの。本当に、奴隷に?」
「冗談は嫌い」
エリストールは、口からよだれをたらしてだらしがない。アヘ顔とは、このような代物であろうか。
まさに、と当てはまるような顔だ。
「エルフ族の女騎士が5ゴル。え、えへ、えへへ。あ、あの5ゴルで売られた女騎士、安いよー」
支離滅裂になっているようだ。背筋には、ぞくぞくするような感覚が生まれている。
「とりあえず。このまま農作業を続けるけど。小屋を作る事ができる人ー」
いないという。己が作るしかない。
誰でも日本人のように器用だったら、びっくりだ。
そんなものなのである。肥溜めとかいきなりやろうというのは、ナンセンスだ。
難しいものは、無理なのだから。
呆然としているティアンナの首に、奴隷の首輪を嵌めると。
農作業と狩りの続行だ。
冬は、鍋がいい。雪も振りそうなくらいに冷え込みが厳しくなってきた。
狼国は、草原ばかりかといえばそうでもない。森もあれば、山もある。
土に鍬を入れて耕す。それで、【耕作】【農耕】のスキルが上昇するらしい。
狩猟も【狩猟】というスキルが存在する。
この世界を作った何者かが、そのようなスキルを作ったと見て間違いないだろう。
例えば、【稲妻】の魔術でも詠唱を加えれば威力が上がる。このようなちょっとした事は、スキル屋でわかった事だ。畑を作るという作業もこれと同じで、あぜ道を作るだとか。用水路を作るだとか。そんなちょっとした事がスキルに関わってくる。勿論、持っていない人間にしてみれば全く関係のない話であったりする。
ただ、持っているか持っていないかで全く違う。アキュがいうようにユーウの鍬を振るうスピードときたら、人知を超えた速度で耕す事できる。最初は、のろのろとした力の入っていない耕しぶりだったのが嘘のようだ。ちなみに、やれば覚える事もある。【農夫】のクラスを持っているだとか。そんな人ならば、だ。
これの上級職が【農家】でその先には、【豪農】だとかいうのが待っている。
そこまで行くと、【農夫】をまとめたりするスキルがあったりするので侮れない。ミッドガルドでは、普通に持っていたりするけれど。この狼国では、持っている獣人の方が稀だ。ステータス的には、ミッドガルド人に負けていないけれども。
---スキル 振り上げ
---スキル 振り下ろし
こんな風にキューブのシステムログには出てくる。あまりにも読み上げればゲームのようになっているが、ログを読むような戦闘は、勘弁だ。ちなみに、
【農夫】一般的な農作業全般のスキルを身につける。初級職。
戦闘には、向かない。
持てる武器は様々だが、鍛え上げれば底は見えない。
使用武器 例 鍬、鎌、手斧、棒、シャベル
代表的スキル 【我田引水】【耕作】
アクションスキル 【耕す】
こんな風だ。
それでいて、ミッドガルドの外ではこれすら持っていないという。
アキュの場合だと、戦士にサブ魔術士だというからびっくりだ。様々な職をとれたらしいが、
「あの子は、大丈夫なのかね」
「ええ。多分。ああ見えてタフですよ」
「ならいいが。兎狩りも終わりが見えてきたので、どうするね。我々としては、ここで一旦帰ってまた来ようというのを提案させてもらうが」
至極ごもっともな意見だ。どこまでも畑を耕す体力があるのは、セリアと己だけであった。
エリアスなどは、テーブルと机を取り出して優雅に果汁のジュースを飲んでいる。
周りでは、小人族であるリリペットとメンバーが兎の死体を集めては台車に乗せていた。
「わかりました。このまま、じゃ皆さん風邪引いてしまいますよね。寒くなってきたので帰りますか」
「そうしよう」
もうちょっと行けると思った時には、大体手遅れだ。すぐ帰るのが正しい。
セリアやエリアス、ティアンナならば普通に活動できるかもしれないが。
魔物の群れから、全員を守り切るのは至難の技だろう。寒さには、人間も負ける。
寒ければ、焚き火にでも当たりたくなるのが人情だ。帰路は、鳥馬を使う事になった。
ラトスクの街に入る門の周りには、テントと小屋が溢れかえっている。
別に、難民というわけではないが。家もなければ、食うのにも困っている人間が多いいという。
「あれは、どうにかしないといけないですよね」
「ふむ。だがな、彼らは仕事がない。外はこのような有り様で、農作業をするには危険すぎる。冬場では、魔物も強力なタイプがでてくる事の方が多い。ゴブリンやオークといった魔物も群れを作ってはここに攻め込んでくる事もある。町の外にでているのは、死亡遊戯としか思えないのだがね」
「なるほど」
魔物から、身を守るための柵を講じる必要がある。
もっというのなら、防壁を多くして守りを固めるのが上策なのだが。
「ここでは、奴隷が買えますか」
「面白い事を言うな。むしろ、奴隷にしてくれるならば売る方が多いだろう。食うのにも困って子供を売るのなんて事は、この国では日常茶飯事だよ。それもこれも、ミッドガルドが押し付けてきた賠償金のせいだとも言えるがね」
「…」
もはや、いうべき言葉が見つからない。石を投げつけられなかったのが、不思議なくらいだ。
「ま、元々がこの国は弱肉強食が国是となっているからな。税の殆どが、黒狼族にいってしまって全体で使われる部分が少なすぎるんだ。7公3民だというのもきついがね」
「黒狼族とは?」
「君たち、ミッドガルドにおける貴族みたいな者だと理解して貰えれば早いかな。彼らは、元々がこの地の支配者的な立場にあった。それで、町のいたる場所を我が物顔で闊歩しているというのかね。そういう風に振る舞うものだから、市長は苦労しているようだ。民会での合議で選ばれたといっても黒狼族の意向を無視できない。予算もそういった方向に使われているとなれば、問題だろう」
色々と、情報が入ってきた。
棚からぼたもちではないけれど。どこをどう攻めればいいのか。わからなかったのでは、仕方がない。
問題解決のために対象を殺すのは、簡単だがそれでは埒が明かない。
帰り道に、魔物が襲ってくることもあったのだが。それは、セリアたちの手で先んじて処理されていた。出番がなかった。
町についたところで、
「それでは、君たちはここでお別れなのかな」
「そうですね。配給でもやっておきます」
「そういうのは、市政のやる仕事なのだろうけれどもな。ああ、肉は多少貰っても構わんかね。クラン員にも久しぶりにまともな肉を食わせてやりたいんだが」
「勿論です。どうぞどうぞ」
「すまんね。殆ど、君のところの人が倒してしまったというのに」
「妻。これからも、ユーウをよろしく」
アキュは、びっくり仰天という顔になった。心外だ。
全く、そんな事はない。
「そ、そうか。意外と、君は手が早かったんだな。あーそうだ。君も知っていると思うが、肉を見せびらかすのはやめたほうがいい。近隣の村からも、乞食がわんさと集まるだろうからな」
「そんなに、ですか」
「そんなに…だ。この国の治世というのは、正直に言って最悪の部類だよ。とてもではないが、立て直すのは難しい。何しろ、役人から上まで収奪しか考えていないからね。ドメルさんは普通の人だが…だからこそ苦労しているとも言えるだろう。俺も力になってやりたいが、本業は冒険者なんだ。政治に向き合うのは、面倒だ。気楽に魔物と戦っている方が向いている。が、それはそれ。君が必要としているのならかけつけよう。力、及ばずともね」
ごつごつとした金属鎧の集団が去っていく。禿げ上がった頭を撫でるアキュと仲間たち。
なんといっていいのかわからない。ただ、ちょっと格好良い人だという事がわかった。
セリアの国なので、見捨てる訳にはいかない。獣人の国には、貴族らしい貴族がいないようだ。
むしろ、もっと厄介な一族、或いは血族支配が成り立っているようだ。
そんな中で、それを変えていく困難さといえば頭が禿げ上がってしまう。
(焼き肉にするかな。インベントリから七輪を。あとは、ソースでもぶっかければ全然いけそうだ。金網の大きいタイプでもいいし)
底辺から収奪しようというのは、現代日本でもよくあるシステムだ。消費税という名前のそれは、景気を著しく冷え込ませるのだが。日本の官僚と政治家というのは、そういうモノには気が回らないらしい。自分たちの懐を潤わせるためには、何でもやるという。そんな役立たずであった。給料だけは、高いのがさらに穢らわしい。
下に行くほど、真面目で清廉になり。上に行くほど、頭は良くても腐臭が漂う。
【隷属】の商人スキルを使う。人形使いのスキルでも問題ないが、気分だ。被っているといえば被っている。そして、そっと側によってきたのは。エリストールだ。
女の子たちには、着替えをしてもらう。サービスだ。
「ちょ、ちょっと待て。私に何をさせる気だ」
「売り子さんですよ」
「くうっ。こ、こんな格好でか?」
露出の高い格好だ。いわゆる、サンタさんの格好で赤い上着にぎりぎりスカートに見える布切れ。
セリアたちにも着てもらっているのは、普通の服だ。
これを作ったのは、山田である。断じて、趣味ではない。
「さあ、張り切っていこうよ! お客様は、神様です! さ、お客さまに力強い声で! いらっしゃいませ~」
「ちょっと待て、待て待て。売ってないのに、胸に肉を乗せて。それから焼く、意味はあるのか?」
焼き肉なのだから、それくらいのサービスは必要なのだ。勿論、趣味ではない。
お客様サービスだ。人気が欲しい。嫌われるよりは、好かれる方がいいに決まっている。
そんな心境を逆撫でするように金色のヒヨコは、金網の上にのっている肉を勝手につまんでいる。
(こいつ、焼き竜にするかな)
滝のような汗を流し始めた。一人と一匹が。
(`・ω・´)来年もよろしくお願いします




