59話 バリア系はやっぱ最強チートっぽいですよね。えっ、違う? 面倒な女の子は、どうしたらいいでしょうか。とりあえず、スルーしておくべきですか
(あああ。やべーよ。女の子を殴っちまった。しかも、腹を。どうしよう。起きたら、また殴るしかないのか? 魔術で寝かせる方が良かったんじゃ。でも睡眠とか効きが悪いんだよな。魔術抵抗力とかなんかあるし。催眠も効かねえ)
異世界日本なら、ちょろかった。大抵の人間が魔術に対する抵抗がなかった為だ。
困ったユウタは、思考の迷宮に入りつつある。
兎狩りを楽しむユウタたちの一行は、夜がふければ帰る予定だ。頭のなくなった魔物をなんと呼称すればいいのか。その程度を話つつ、ひたすら鍬で畑を作る。人力の耕運機だ。それを見て、
「なんという、馬力だ。あれが、子供なのか…それともミッドガルドの子供は皆、ああなのか」
アキュたちは、呆れている。しかし、このような子供はそうそう居ないだろう。セリアくらいであろうか。同じ事ができるのは。
エリストールは、そのまま放っておくとうるさいので《スリープ》でもかけておくことにした。睡眠の呪文は成功率が異常に低い。ゲームでは100%の成功率だとか、そんな風なものが見えているが。この世界の魔術は、基本的に対象の抵抗力が高いのか。失敗が起きやすい。十回は連続でかけても、寝るかどうかだ。
コマンドスキルでもあるスリープ。だが、実際には使われる頻度が低い。
なぜならば。
「スリープスリープスリープスリープ」と、一度に連続で唱えてる暇があるのなら稲妻の呪文を使って倒した方がよほど効果的だ。少なくとも魔物を倒すのなら、その方がいいだろう。呆れているアキュたちは、魔物の相手で精一杯だった。
置いてきぼりにしたセリアとエリアスが追いついてくると。
開口一番に。
「あいつは、誰だ?」
「ティアンナだよ」
「ふむ。それが名前か。馴れ馴れしく近寄ってくるぞ」
青い髪を颯爽とたなびかせながら美女がセリアに詰め寄る。
どういうつもりなのか。そのまま、いきなり抱きついた。
鼻息も荒く。
「セリア。かわいい」
「むっ。なんなのだ」
「ちょっと、この人なんなのよ」
「エリアスもかわいい」
両手に花という状態だ。ユウタにしてみれば、憧れてもちょっと出来はしない。
いきなり抱きかかえられて、二人とも硬直している。
「んん。セリア、ちっちゃい。いい匂い」
「こら。放せっ」
「ちょっと、ユーウ。見ていないで、助けなさいよ」
「まあまあ。親睦を深めるのも悪くないんじゃないかな。ティアンナも悪気はないからね。大目にみてやってよ」
そうして、もがくセリアとエリアスはハグされていると。
「はっ。そんな、ティアンナ様。すっごい羨ましいです。その子たちは、どこの子なのですか。私も触っていいですか。あ、いいですよね。むふふ。凄く、良い手触りです。げほぉ」
せっかく立ち上がったエリストール。彼女は、セリアの尻尾に触れて前蹴りを貰って、おっぴろげというあられもない格好で吹っ飛んでいった。
地面を滑ってバウンドする。普通なら、死亡コース。だが、生きている。大した頑丈さである。それで、セリアは犬歯をむき出しにした。とても犬っぽい。と、口をへの字にした。
「無礼な。あれは、なんだ」
「エリストール。しばいとく?」
「駄目だよ。彼女をあんまり殴ったら」
ちょっと酷いとは思うのだ。ただ、エリストールも悪い。セリアの尻尾に触れては、殴られるですまない雰囲気だ。そんな事をいうと。
「ふっ。じゃあ、お前にはこれだな。人参の刑だ!」
「ひっ?」
ティアンナの手を強引に振りほどいたセリアは、背後に周り込む。
と、手に持った赤い野菜を尻に差し込もうとする。
(どういうプレイだよ。やめろっ)
手は、本気だ。目も笑っていない。
DDは、倒れたエリストールをつついている。
「どういうつもりなの?」
「どうもこうもない。尻尾に触れるという事は、こういう事だ。ついでに、○んこを弄ってやるからな」
「すいませんでした」
「わかればいい」
恐ろしい目に合うところだった。公開羞恥プレイ寸前である。尻尾は、獣人にとって大切な場所であるようだ。前尻尾とでも言えばいいのだろうか。大事な所をモロに握られては、たまらない。
すぐに降参するしかなかった。玉は、引っ込める事で防御が可能であはあるがそこまで鍛えあげられてはいない。最強ともなれば、金的をいかに防御するかは至上命題だ。
「ところで、こんな所で何やってんのよ。魔物を狩るくらいなら、兵士にでもやらせればいいじゃないの。マナガードとかならすぐにでも貸し出せるわよ?」
「そこを自分でやるのがいいんじゃない。なんでも自分でやって見せないとさ」
「ふーん。ま、いいけど。この魔術。あんたがやったの?」
「ティアンナだよ」
兎の魔物たちは、ひき肉になっている。それを台車に乗せて運んでいくという話だ。
冬は寒い。冬には、とてもあったかいものが食べたくなる。道理といえよう。
皮は、皮職人にでも頼んで服に早変わりだ。獣人の国は、とても未開の国だった。
早い話が、貫頭衣を着ているような。なので、毛皮のコート辺りは大変重宝するであろう。
金髪の整った顔をした幼女は、ティアンナの魔術が気になっている様子だ。
「これ、風の魔術でやったんでしょ。でもって、これだけの魔術になると。エアカッターの連発。いや違うわね。エア系の魔術でこれだけの圧力を加えたような、削ぎ落としたような術って。どんな技なのよ」
「エリアス、使いたいの?」
「えっと…教えてくれるの?」
「ん。教えない事もない」
すると、エリアスは頷く。ティアンナは、エリアスを抱っこしたまま術を発動させた。
まるで、扇風機を回しているような音がし始める。
「なにこれ。シールド? それに似ているわね。風系だけじゃなくて水系も混ぜているのかしら。完全に風の魔術を極めていないとこれだけの制御はできないし。貴方、一体何ものなの」
「へへん。聞いて驚きなさい。そこにおわすお方をどなたと心得るのです。シルフの森きっての術者にして、妖精王を超えし者。三千世界をあまねく支配すると予言されるティアンナ様です。人間の魔術師風情が、真似できるはずがありませんよっ。あーはっはっは」
復活の早いピンク髪の美少女は、仁王立ちをしている。とても残念な騎士だ。
それを無視するようにティアンナは、エリアスを地面に下ろす」
「ん。あんな事いっているけど、無視。この魔術は、風だけじゃない。水を混ぜて、電撃を防ぎ、重力を操ることで空間を削ぐのに似た効果を引き出す。光系の魔術をねじ曲げて、弱点を克服している。でも、克服できない問題がある」
「結局物理に弱い。そういう事ね」
「そう。圧倒的な硬度を持つ攻撃。魔力と気を混ぜた闘気の使い手には、劣勢を強いられる」
「なるほどな」
何時のまにか。セリアまでもが、ティアンナとエリアスの会話に加わっている。
鍬で地面を耕しているのは、己だけであった。
「とすると、機動力が肝になるわね」
「そう。知能があるなら、バリア系を持った時点で突進攻撃がいい。それをしないのは、知能がないと考えても問題ない」
「辛辣だな。だが、わかる」
戦闘論議に移行しつつある。バリアは、強い。ロシナは、それほどじゃないとか言うけれども。実際には、最強クラスのチートだ。時間を止めるだとか、スキルを奪うだとか、ステータスをコピーするだとか。そんなスキルに比べると、パッとしないが。これらの固有スキル【時間】、【奪取】、【模写】。
あまりにも強力なスキルだ。
これを持っている人間は、未だに見ていない。
居れば、真っ先に殺しのリストに上がる強敵だろう。
「で、あんたはそれいつまで続けているの。それと、あの女騎士はなんなのよ」
「…ただの痴女だよ。相手にしない方がいい」
「きぃっ。このエリストール、くさってもティアンナ様の筆頭護衛。そのような侮辱を言われて黙ってはいられません。さあ、この剣にかけて勝負です。負けた方は、ティアンナ様と一切の関わりを持たない事を約束すること。さあ、さあいざ勝負」
なんで勝負をしなければならないのか。女を殴った事で、衝撃を受けたのに。何にもわかっていない彼女は、言いたい放題だ。手をひらひらとさせて。
「やですよ。なんでそんな勝負をしなければならないんですか。僕は、見ての通り忙しいんです」
「きぃっ」
農作業を続行だ。誰も手伝ってくれない。鍬を振るうのは、嫌なのだろう。
農業は大事だというのに。魔物を狩っているのも、命がけなのに。
そもそも、どうして己でやっているのか。だんだんと虚しさがわいてくる。
「これだから、人間というものは度し難いのです。名誉以上に大切なものがあるというのですか。いいですか? 私はエルフで騎士なのですよ? こんな優良物件がそうそう転がっているはずがありません。ですから、勝負に勝てば奴隷にすることも可能です。そこをわかっているのですか。いや、わかっていませんね。あなたは、インポですか不能ですか。ひょっとして、女ですか」
怒髪天をついた。どれだけ、言えば気が済むのか。しかし、
「男ですよ。そうだ、美味しい物でも食べて落ち着きましょう」
インベントリには、蜜柑も林檎もたっぷりある。それこそ、ミッドガルドの食料で詰まっていない物がないくらいに。それを手にとると、差し出す。
「そうやって、油断させるつもりなんですね。わかっていますよ? その林檎には媚薬やしびれ薬が仕込まれているのでしょう?」
「そんなのありませんよ。ちょっと、疑い深すぎるような気がします」
「はっ。ティアンナ様を籠絡した子供の言うことなど信じられるものかっ」
そう言いながら、エリストールは林檎を手に取ると。むしゃむしゃとかじり出す。
「…(食べてるじゃねーか。どこから突っ込んでいいのかわかんねーよ)」
「くっ犯されてしまう。つい、欲望に抗えず媚薬入りの林檎を食べてしまった…」
「種まで、芯まで食べてしまったんですね」
エリストールのほっそりとした手には、何も残っていない。
「身体が熱い。…媚薬が効いてきたようだな。このケダモノめ、衆人環視の中で公開陵辱をしようというのだな」
「あの林檎に、そんな効果なんてありませんよ」
ただの林檎だ。間違いない。まかり間違っても、媚薬など入れていない。
もはや、手に負えないモンスターであった。
「なんという罠。毒林檎で、美しいエルフを虜にしようだなどとっ。それを隠そうともしないオスの欲望っ。恥を知れっ」
「その、僕はエリストールさんが恐ろしいですけど。なんでかは言わないでおきますね」
身体をくねらせるエルフ。奇怪な踊りである。なまじ、顔面とスタイルが整っているだけに。
地面に倒れこんで、痙攣した振りをしている。
「これも、貴様の描いた通りなのだろう? 悔しいがどうすることもできない」
「いえ、その。全然そんな気はありませんよ。僕は、普通の仲間になってくれるといいんですけど」
「そうか。脱げという事か。くっ、ティアンナ様の前だというのにこのような辱めをうけるとは」
エリストールは、地面から顔を上げながらいう。全身が土まみれになっている。
とっとと何処かにいってしまいたい。
「脱いだら、風邪ひいてしまいますよ」
「着衣でプレイするというのか。貴様は、来たままパンティーをずらす派なのだな。とんだケダモノだ」
「それは、…ありですけど」
「それみたことか。ついにヤル気になったのだな!? だが、貴様は私のご主人様ではない!」
頭がおかしくなりそうだった。ピンク色の髪の毛を前に垂らしている少女は、妖艶な魅力を醸しだしているが。
「私を物にしたければ、絶頂の絶頂に導かねばモノには出来ないぞ。少なくとも、抜かずの5発は1回でカウントするくらいの絶倫ぶりがひつようだ。その覚悟があるか? そこまでして私の身体を汚らしい人間の、オスの欲望で蹂躙しようというのならばっ。さあ、来いっ。今すぐ来い!」
「…(だ、駄目だこりゃ。この人はどうにかしないと)」
外野は、面白そうに見ている。人事だと思っているようだ。ユウタは、エリストールの身体を抱え起こすと。
「やはりな。人間は下劣な欲望でエルフのからだを蹂躙してしまおうという話。隠せないということだっ」
「ちょっと汚れを落としましょう。…中にはそんな人もいるかもしれませんけど。僕は、違いますよ」
「ふん。どうだかな。そうやって、甘い言葉でほだしてから、この身体を思い切り陵辱しようというのだろう。嘘だというのなら、その肉棒はどうなのだ」
エリストールは、長身だ。身体についた汚れを落としてやるのも一苦労であった。
肉棒。大事な部分は、別におかしな事にはなっていない。ただ、通常状態でも。
「これで、普通です」
「なん、だと」
エリストールは、ゴクリとツバを飲み込んだ。
来年もよろしくお願いします。
挿絵は、遅れているようです。ロボは、未定。




