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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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56話 狼耳をした幼女がとても残念な子だった件(ユウタ、セリア、エリアス)

 ラトスクにある冒険者ギルドで、念話のような叫びを耳にする。思わず、


「見つけた?」

「どうした。お腹でも空いたのか?」


 ユウタのつぶやきにセリアが反応する。これでは、完全に頭のおかしな幼児だ。

 空耳か。不思議そうに見つめてくる狼耳を生やした少女の顔に視線を返す。

 

(頭がおかしくなったのかというような視線は止めてくれっ。たく、誰だ?)


 腹は空いている。

 いや、そうではないのだ。酒場といったような場所だ、周囲を見渡しても、それらしい人間はいない。

 そんな見つけた! だのいうような存在はいただろうか。過去に遡って見ても、あまりにも多くの人間やらそうでないのと関わりになっているために誰だかわからない。


(困った。あー、心当たりが多すぎるぜ。自業自得だけど)


 屍を山と積み上げてきたのだ。恨みつらみがあって、当然といえば当然だった。

 誰も殺さないですむのならそれに越したことはない。が、そんな事はできっこないのだ。

 運命がそれを強いているとも言える。


 例えば、憲法九条を守っていれば戦争はおきませんという人間がいるとしよう。

 だが、戦争をふっかけようとする人間がいて。軍隊も無しに国民が守れるのか。無理な相談だ。

 現実には、見るも無残に珊瑚礁を更地に変えられて守りきれてなどいない。

 日本人は、馬鹿なのか。


 その通りでしかない。知らない、知らなかった、憲法があるから。

 守りきれる? 本当にそれでいいのか。いや、信じているだけならばいいが。

 現実は常に非情だ。頭をどんどんテロリストに撃ちぬかれてから気がつくようでは間抜けというものだ。そんな風になりたいのか。なりたい人間などいないだろう。


「そうね。私もお腹が空いたわ。何か奢ってちょうだい」


 隣の席には、何時のまに現れたのかエリアスがぽすっと椅子に腰掛ける。

 それで、セリアは。


「これなどはどうだ? イチゴのフルーツ盛り。昇天ミックスなんて書いてあるぞ」

「…(なんだろうそのペガサス昇天流星盛り的な)」


 そのほっそりとした手で、すっと差し出された献立。

 そこには、何故か見なかったような代物が載っている。

 昨日、からなのだろうか。それにしても、山田の手は早い。そういうべきか。

 物づくりにおいて、日本人はこの世界の人間を隔絶した技量で魅了する。

 料理を指し示すような写真などは、未だに不可能だ。何しろ、コピー機も壊れてしまえば修繕が不可能な具合だ。インクに使われるカートリッジなど、まさに現代の魔法に等しい。


 セリアの横に腰掛けるエリアスは、差し出された献立にじっと目を動かさない。


「いいわ。それにするから、奢りでいいわよね」

「…いいけど。気配を殺して近寄ってくるなんて、らしくないよ」

「君、本気で言ってるの? なんか、らしくないわね」


 それほど、おかしかったのか。奢れも、お願いというより脅迫に近い。

 気配を感じないほどに、考え事に集中していたのだろう。

 そう。


「ふっ。こいつ、さっきから何かが気になっているようだ。何が気になっているのかしれないが」

「気になる。うーん、そうだ。ロシナとフィナルはどうしているのかな」


 強引だったか。だとしても、気になるのは確かだ。

 フィナルとロシナは同じ方向に向かっているはず。

 ガーフの壊滅した部隊を回収するのと、敵味方で蘇生できそうな人間を見つけるという役割がある。

 ついでに、白騎士団の目的を探らなければならない。


(ちょっと短気だったか。一撃で、全滅気味だったからな。真面目に兵隊を集めて来ているのに、ロボットは反則だよな。ただ、しゃあねえといえばしゃあねえし。説得とか聞きそうにないからなあ)

 

 騎士は、大抵が頑固だ。そんなイメージがある。

 とはいえ戦うのは、もっと後でも良かったはずだ。

 エリアスはいう。


「フィナルは、妙に浮かれていたわよ? ロシナは、相変わらずね。でも、こっちもなんだかそわそわしてたわ。なんていうの? 気分が晴れた、的なハッピー野郎に変身ね」

「なるほど」

 

 そりゃあそうである。ウィルドからがっぽり身代金をせしめたのだから有頂天にもなろうという物だ。

 ユウタ的には、苦心が水の泡でまったくおもしろくない。

 ちょっとした高利貸しのそんな悪どい気分を失ってしまったかのような。

 そんな優越感に満ちた気分を損ねてしまっていた。それで、恥を自覚する。


(参った。ロシナが苦労するほど、わくわくしてくるとか。どうかしてたぜ、俺も)


 フィナルが浮かれていたのは、見間違いであろう。何がそんなに嬉しいのか。

 恋に恋しているような乙女には、手がつけられない。

 どんなに彼女が持ち上げられようとも、ユーウにとってみれば子豚ちゃんだ。

 ユウタは、どちらかといえばそのフィナルには恐怖すら抱いている。

 何がそうさせるのか、理解しがたいからだ。


「状況は、不利だけど。シグルス様がこちらに向かっているし、バーム村は無事よ。北の方では、ロシナが集めた獣人でやりくりする方針を固めているわよ。なんでも、新生ウォルフガルド軍を組織したとかなんとか。本気なのかしらね。そっくりそのまま自治へ持ち込む腹なのかもしれないわ。放っていていいのかしら」

「あながち、間違いじゃないよ。上手くいけば、だけど」

「獣人たちの反乱は怖くないのね。それと、白騎士団の反乱とアル様が認定したわ」


 それは、大変な事になった。このまま反乱軍として征伐してよいという事か。

 しかし、白騎士団も自軍である。説得が可能なタイミングはありそうだ。

 

「説得しないのかな」

「どうでしょうね。あいつら、本国でのクーデターを画策している連中と繋がっているならいいんでしょうけど」

「ええっ?」

「ふっ。姉上の考えそうな事だ」


 芋づる方式ということか。自軍に大きな被害が出る代わりに、敵対勢力を根こそぎにしてしまうという危険な策だ。この場合は。

 

「でもね、気になることがあるのよ」


 エリアスは、帽子をいじりながらテーブルをとんとんと叩く。


「奇妙だと思わない? ジギスムント公爵といえば、四公の一人。代々将軍を排出して、大将軍まで務めた事もある名門中の名門よ。それが、どうしてこんな反乱を起こしたのかが不明瞭なの。だって、そうでしょう? 起こすのなら、アルカディアと戦っている最中に起こすのが最良なのだし。そうなると、アルカディアと反乱軍とで苦戦を余儀なくされたでしょうに。公爵は、どういうつもりなのかしらね」


 聞かれたって本人ではないのだから、わかりっこない。それこそ読心術でも使えなければ難しい。

 魔術には、心を読むとかいう術もあることにはあるが。それを使うのは、少々汚い。

 己だけなのか。使えば、確かに楽勝だ。人形使いのチートスキルと同様に、相手を無力化できる。

 時を止めるようなスキルやスキルを奪う、破壊する、といったチートには勝てないが。

 

 ただ、


「例えば、病気のお子さんを救うとか。そんな話があったりして」

「ないわね。シグルス様の弟君は、確かに病弱だけれど副官として頑張っているわよ? なんだっけ、日本人が作ったユンケ1000とかいうの。ビタミンドリンクっていうらしいわね。あれ、すごい効き目があるから。魔術師たちの間でも、ポーションづくりを専門としている人間には脅威らしいわ。…レシピとか持ってないわよね?」

「そりゃあ、ないよ。あったとしても、信義に反するし。ちなみに、手を組んだらいいんじゃないのかな。山田さんが作らせたとかいう話を聞いた事があるよ」


 話をしていると、どんどん違う方向に脱線していきそうだ。

 とはいえ、嫌な話や難しい話よりも金儲けや人助けの話の方がよほど精神安定にはよい。

 山田たちが成分や植生の研究をした結果。

 ここで作れる米は、大して日本の物と変わらないという事が判明している。


 ジャガイモもそれと同じらしく、人参や玉ねぎですら構造も何もかもが同じらしい。

 ひょっとすると。現代的な日本ではなく並列世界としての星に近いのかもしれない。

 

「錬金術士たちにとっては、彼らは目障りな存在ではあるけれど。ある物を作ってくれるから、友好関係が結べているといえるわね」

「ある物? ああ!」


 エリアスは、そう言って一枚の紙を取り出す。

 それは、和紙だった。


「なんていうのかしら、これは本当に良い物よねえ。石州っていう所で作られた物なのかしら」

「作り方は、いろんなやり方があるらしいよ。あと、使う植物によっても様々な色合いが出せるから侮れないよね」

「全くわからない」

「セリアも少しは勉強したらどうかしら。本は良い物よ?」

「ぐっ。む、むむ」


 セリアは、汗を浮かべている。どうも、セリアは勉強嫌いなのだ。

 本を前にして、机に座らせると。3分くらいで睡眠に入れる。というか、入ってしまう。

 こうして、紙を前にしているだけでも汗をだらだらと流し始める様子が伺える。

 頭が残念で、しかも勉強嫌いという国王。かなり、やばいだろう。

 内政とか、出来そうにない女王とかになりそうで。想像するだけで、げんなりする。


 しおしおとヘタっている尻尾に目が吸い寄せられると。


「ふっ。困ったらユークリウッドにまかせる!」

「やだよ! 自分でやろうよ!」

「なっ。どうしてだ。姉上の国は、面倒をみれても私の国は面倒をみれないというのか!?」


 セリアは、大粒の涙を浮かべている。

 その瞬間、酒場の雰囲気がざわっと変わった。視線が突き刺さるようだ。

 まるで、悪者になった気分である。


「いや、そんな事ないよ。お願いされたら、あはは。あーやるよ! がんばりますよ!」

「そ、そうか。それじゃあ、よろしく頼むぞ」


 セリアは、笑顔を浮かべている。涙をこすりながら、そういうのは反則だった。

 女の涙にすっかりやられてしまった。最強、いや、無敵の最終兵器(ファイナルウェポン)だ。

 卑怯だ。どうやっても勝てない。

   

「相変わらず、ちょろいんだから。いい加減にしないと、たかられるわよ?」

「…(こいつ、そのセリフをそっくりそのまま返すぜ。つか、鏡を見ろっての)」


 とはいえ、そんな事をそのまま言えやしない。エリアスをこき使っているのも確かなのだ。

 そうして、ここに会いに来てくれるだけありがたいという物でもある。

 感謝しながらも、多少は悪態をつきたくなる事態が起きているのだ。

 徴税官の事もある。反乱軍の事もある。

 どうして、こうも立て続けに邪魔が入るのか。


 ペダ村が順調に成長していってるのとは、正反対に狼国は上手くいっていない。


「そうそう。悪い話ばかりしてたら、君も腐っちゃうだろうし。いい話もあるわよ?」

「へぇ。どんな?」

「聞きたい?」


 エリアスは、給仕のメイドが持ってきたメガ盛りのパフェをつつく。

 木製のテーブルをちょんちょんとヒヨコは歩く。腹をでかくしたヒヨコが横になった。

 そして、


「食べさせてくれたら、考えてあげてもいいわよ?」

「私が食べさせてやろう」


 最悪だ。セリアは、おもむろにパフェを掴む。と、エリアスの口に目掛けてそれを突っ込んだ。

 

「ちょっ、ちょっと。や、やめえ。やめてったら」

「遠慮はいらないぞ。それっ」


 見ているのも、憚られるようなキャットファイトが展開される。

 ローブ着崩したような風になって、取っ組み合いだ。セリアの頭は、あれだが身体能力は高い。

 対するエリアスは、黒い前掛けに黒い服が解けかかっている有り様だった。


「こらっ。ちょっと、止めてよ。ユーウ、あんたも見ていないで止めてったら。こらっ、変な所に手をいれないの」

「むっ。柔らかい。胸が、ふにふにするな」


 そこで引き剥がす事を決意した。このままだと、エリアスの魔術が発動しかねない。

 それこそ、酒場のようなギルドなどひとたまりもない奴が。 

 荒い息をつくエリアスは、服を整えると。


「むー、やっぱし教えるの止めにしようかしら」

「えっ」

「セリアは、こんなだし。せっかくいいことを教えて上げようとしているのに、こういうのはないわよ。セリアには、反省をしてもらいたいんだけど?」

「ふっ、これはなんだ?」


 セリアの手を見れば、白い下着がある。


「ちょっと、何時の間にー! 返しなさいよ」

「これは、なんだ?」

「下着よ、下着。セリア、あんたもしかして。下着とか着けてないわけ?」

「そんなものをつけていたら、動きにくいだろう。私は持っていないぞ」


 エリアスは、すごく不憫な子を発見してしまったかのような表情を浮かべると。

 

「セリアには、一般常識を教える必要があるわね。このままだと、ただの痴女になってしまうわ。ユーウ、ちょっとだけこの子借りてくわよ」


 すかさず、頷く。

 いい話は気になる。けれども、この残念な幼女をどうにかするほうが大事だ。

 もしかしなくても、パンツなど履いていない。セリアは。


 そして、二人が去った。その後、テーブルの上でよだれを垂らすDDを見ていると。

 入り口から、ざわめきが上がる。


 

クリスマスが近いのに、寂しい。えっこの小説をここまで読まれた貴方!

町に出て、ナンパをしましょう。無理ですか、そうですか。

では、

▷ 異世界に旅立つ

 このままここにいる

 ぽのつく物はやらない

 セリアの教育係になる


ほら、クリスマスですよ。しかし、おかしい。ロボでバトルが始まるはずが、何故か百合展開で終わるとか。DDはごろ寝してやがるし。


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