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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
238/710

53話 犬なのに熊のようでもあり。金持ちから金を取ろうとせずに、貧民を搾ろうとする。何時の時代も。

 誰であろうか。ユウタは、知らない獣人だ。目の前には、黒髪に獣耳を生やしたロメルとその取り巻きたちが息巻いている。そのロメルは包帯で全身を覆った格好をしていた。そこまでの怪我でもないはずで、回復魔術を使った結果。回復しているはず。


 それに、確認するような岩の如き声が響く。耳が痛くなるような音量だ。

 

「おいっ。あいつで間違いないんだな?」

「そーだよ。親父。あいつにやられたんだ」

「そーか。このっ馬鹿者がーっ!」


 一回り大きい方がいきなり包帯だらけのロメルをぶん殴った。


(どうなっているんだ。訳がわからないよ)


 止める間もなくロメルに対する暴力は加速していく。周りの獣人は、怯えたように立ちすくんでいた。止めようという獣人がいない。


「ちょ、親父? やめっ」

「やめる? このどあほぅがー!」


 問答になっていない。怪我をしているロメルは、殴られるままだ。倒れたところに鳩尾をえぐるような蹴り。


「はあはあ。見苦しい所を見せましたな。わたくしめは、この不肖の息子ロメルの父でドメルと申します。この度は、なんといっていいやら…大変申し訳無い無礼を働いたようで。何卒、ご寛恕の程をお願いいたします」

「ふっ。これで死刑にするのもどうかと思うな。ここはひとつ寛大な心で許してやるのがいいだろう。ドメル、彼がここの市長だ」


 熊のような体型だ。顔面には、無数の傷が付いている。いかにも歴戦の戦士というような恰幅の良さが目を引く。


「えっと。僕は、何も死刑だなんて言ってませんよ?」

「ふっ。こうでも言っておかねば、あのチンピラどもはよくわかっていないのだ。後から、オデットなりルーシアなりが始末しにいかないとも限らない。話は細心を持って行ったほうがいいぞ」

「えっ。またまたー。そんな事を彼女たちがするはずがないじゃない」

「人には、表と裏がある。よく見ておくべきだ」


 知らない事でもあるのだろうか。それとも遠見の魔術を使えない事にしているのをたしなめているのか。覗き見をしているのは、あまりよろしくない。何しろ、この便利な魔術であるディスタントアイとクレアボヤンスアイ。様々な場面で効能を発揮する。水晶が必要になるのが、問題で空間系を操る魔術師ならだれでも持っていそうなアイテムだ。


 覗き見は、良くない事なのだ。そう、変な場面を見てしまうのが良くない。着替えとか。

 絶対に駄目。


「ごきげん麗しいようでなりよりです。セリア様。ご幼少のみぎり以来ですが、覚えておられないでしょうな」

「いや、熊のような黒い獣人の事ははっきりとおぼえている。確か、得物は戦斧であったか。近接戦闘に特化した戦士であったな。婦人は、病を得たとか」

「ええ。家内は、これが幼い時に無くなっております。男手一つで育てたせいか、このようにグレてしまい。放蕩はするわ、町の衆に迷惑をかけるわ、もはや手打ちにするしかない程でございます」

「ふっ。そこでいい案があるのだが、聞くか?」


 セリアとドメルは、何事か話をし始めた。

 

「面白そうだ。それでいこう」

「ですな。この悪たれどもには、良い薬になるでしょうし」


 何か、悪い予感がする。DDは、痙攣するロメルの身体をくちばしで突っついている。

 食う気なのか。

 セリアとドメルに引きずられるようにして一向が向かったのは、いつも食料を配給している門の側だ。

 騎士団の人間に手伝いをやらせているのだけれど。今日は、そのロシナや赤騎士団が出撃してしまって駐屯している人間がいない。残っているのは門の側で出入りを関ししている門番くらいだ。


 セリアは、おもむろに空気を吸い込むと。


「我が名は、セリア・ブレス・ド・フェンリル! 私は、兵士を募集するっ! 力がある者、力がない者。知恵のある者、知恵のない者。女であっても、町を守らんとする兵にならんとする者は申し出るがいい。私が導いてやろう、国を立直す勇者よ、ぜひともに参戦されよ!」


 びっくりした。突然の大声に、道往く人間までもが足を止めている。

 ロメルは、腫れ上がった目を白黒させながら立っていた。

 応募の方は、ぽつりぽつりと集まりだす。町の外縁部で募集して、町の外に建屋をつくろうというような目論見である。ともすれば、草原なので魔物に襲われかねないのだが。


「じゃあ、掘っ建て小屋でも用意しようかな」

「ふっ。そちらの方は、任せた」


 家を立てるのには、手慣れた集団がいる。早速呼び寄せたのは山田だ。

 すっかりハーレムの主として、出っ腹になった山田は、


「おひさー。ユークリウッド氏。元気でありますかな」

「うん。こんにちは、山田さん。今日は、家を立てて欲しいのですが」

「なんと! ふひひ。ちょうど、ええもんが入っとりますですはい。ええと、どんなもんをどれ位たてればええんですか」


 この山田、日本人たちの中では優秀だった。何をやらせてもそつのない対応で、みなぎる下半身を武器に3人もの妻を娶っている。ちなみに、フィナルの領地にある日本人学校は更に規模を増やして現地人をも入れている。人口も三倍だ。


「えっと。町の外に、増築していって欲しいんですけど。頼めますか」

「ふーん。ほんじゃ、こんなもんでどうですかー」

「ちょっっと高くないですか」


 示された額は、十億ゴルオーバーだった。


「そないな事ありませんですわー。酷いですわー。俺、ユークリウッドくんの事を信用しとりますからいいますけど。原材料費は、圧縮できますー。けど、人件費は結構な額を積んでもらわんとー。あれですよー。人間を確保できませんてー。それにー、最初にー投資してくれてたほうがー、一括でー購入できたりしてー、やりやすいんすよー」

「うーん。わかりました」

「ふひひ。サーセン、じゃあ早速とりかかります。でゅわっ」


 ユウタが開く転送門をくぐって山田は消えた。

 仕事は早いが、手付の金をもらうのも早い。どんぶり勘定になりがちなのがこの国のやり方だったりする。なので、別途で請求書が来たりしないように見積もり書を出して契約を結ぶようにはしているのだが。


(まいっちゃうな。焦って、決めすぎたかな。いや、十億ゴルじゃ全然足りそうにない。この土地に家を立てなおして、町の中も改築させ直す工事をさせようとすれば・・・全く足りない。後で、見積書を出してもらうか)


 金は、大事だ。

 使う時に惜しむべき物でもないけれど。町の立て直しに、懐の資金を出していってはすぐにも枯渇するだろう。となると、徴税などをする必要があるのだけれども。

 この町の徴税は、一体どうなっているのだろうか。

 戻ったところで、


「盛況だぞ。ユーウ、今日はカレーだな」

「えっ? うん、いいけど。こんなに人が集まるもんなんだね」

「ふっ。私の人徳という奴だな」

「…(どや顔だよ。この子。しかし、ぶん殴る訳にもいかねえ。少し、可愛いけど。ん? はは、まさかね。気の迷いだ)」


 尻尾をパタンパタンと地面に叩きつけているのを見て、無性に握りたくなる。

 尻尾が、魔性の引力を放っていた。


「どうした? 急に黙って、!?」


 素早くセリアの後ろに周り、尻尾を掴む。


「な、なんだ?」

「…(凄く、柔らかい。ど、ごあっ)」


 セリアの拳が側面にヒットした。と、頭が宙に浮くのを察知してくるりと壁に着地する。

 鼻からは、血が出ていた。


「お前、いつから変態になったんだ」

「へ、変態?」

「ふっ。尻尾を触るとは…いい度胸だな。覚悟しろ」


 セリアは、ゆでダコのような顔をしている。真っ裸が平気だというのに、一体どうした事だろう。

 それほどの事をした実感がなかった。それで、腹に拳がめり込む。


「おふっ」

「断岩拳!」


 拳には、オーラが乗っていた。殺されてしまう。

 黙って殺される訳にはいかない。顔面を縦真っ二つにする手刀だ。とっさに身を捩ると。


「もらったぞ! 殲撃脚!」


 スキルを連続で使ってくる。普通ならばモンク系の使う横回し蹴りでしかないが、セリアが使えば衝撃波を纏う。周囲に撒き散らされれば、死体を量産されるであろうそれを密着して防ぐ。


「ぐっ。どういうつもりだ」

「落ち着こうセリア。ここで、本気を出したら他の人たちを巻き込む事になるよ」

「ふっ。それもそうか。しかし、尻尾を触るとは…覚悟しておけよ? 今は、止めておくが」

「そうそう。いい子いい子」


 ガーッと火が出る剣幕だった。予想以上の反応に、尻尾を愛でるのは諦めるしかない。

 例えるなら、竜の逆鱗ならぬ尻尾といったところか。この場合狼なので、どいう形容をしてよいやらである。セリアを鎮めようとアメを取り出すと。


「?」


 獣人の子供が周りに寄ってくる。素晴らしい。

 手にしたアメは、頭に棒がささったようなタイプの物だ。それは、セリアの好物でもあるイチゴ味。

 手にしたアメをこれみよがしに、舐めていると。


「美味しいの?」


 獣人の子供の言葉だ。

 背の低い女の子である。確かに美味しい。そして、ギブミーアメ。なのか。

 間違いない。


「美味しいよ。舐める?」

「うん。ほしーほしーの」

「じゃあ、はい」


 セリアが横で指を噛んでいるのを尻目に、女の子にアメを取り出して渡す。

 見方によっては、なにもない所からいきなりアメが出てきたように見えるだろう。

 女の子に渡すと、さらに男の子や女の子がわらわらとよってきた。


「僕も欲しい」

「あたしもー」


 アメは、人気物だ。次々に渡しても、渡してもどんどん現れてはもらっていく。


「これね、ついている紙はこっちに捨ててね」


 指を指したのは、紙袋だ。アメを包んでいるのも、日本人に作らせた和紙である。作り方については、学校にあった本を採用して作ったチートアイテムだ。食べれば元気になる上に、のど飴のように喉がスーッとする効能まである。日本人は、信用できる。中には、裏切る人間もいるであろうが。それはそれとして。


「はーい」


 子どもたちは、寒いのに元気一杯だ。寒波にやられそうになる己とは大違いだ。

 ユウタの兵士募集作戦は、順調に行くかに見えた。

 だが、男たちが現れて、


「貴様ら。こんな所で何をやっている。探したぞ、市長」

「これは、徴税官さま。このような場所に何用でございますか」


 熊の如きドメルが、まるですぼむように小さく見える。隣でふてくされていたロメルは、視線で現れた男たちを殺さんばかりだ。


(徴税官? 一体なんなんだ? 徴税って、この時期にやるものなのか? 元の日本だと冬の時期は年末調整だとかボーナスだとか確定申告だとか。色々あったけどなあ。あ、消費税とか思い出した。糞むかついてきたぞ)


「ふん。こんな小汚い場所に、乞食どもと何をしているのかと思えば。施しか。大概にするのだな、反逆者よ」

「これは、異なおおせ。このドメル、徴税官さまには幾度もの納税に応じてきたはず。反逆者では、断じてございません」

「ふむ。では、滞っている税を納めてもらおうか」

「それは……」

「無理ではないよなあ。このような乞食どもに施しをするくらいだ。大方、我らに対するあてつけでやっているのであろう? 子供を使って、なんとも浅ましい事だ。大概にするのだな! 我らに対する反逆は、即ちアル王太子に対する反逆である! 縛り首がよいか、それとも火刑がよいか」


 その場にいる獣人が固まっている。子供ですら、そうだ。

 払いきれない納税を求めるとは、どういうことか。最悪、反乱が起きる。

 そういうことを理解した上で、この納税官は言っているのか。

 脳みそが空っぽのようなふてぶてしい顔に、でっぷりとした腹。

 この時点で死刑だ。


 対するドメルは、熊のような体型ではあるが。頬はこけ、目の下には隈ができている。

 色が白いので、まるででかいパンダにも見える。

 

「何卒、税の軽減を。これでは皆冬を超えられませぬ。何卒、お願い申し上げます」


 ドメルは、膝をつき頭を地面にこすりつけた。

 ロメルといえば、今にも剣を手にしそうな勢いで目を血走らせている。

 徴税官の周りには、騎士が7人。どれほどの腕なのか。わかりはしないが、止める様子はない。

 おかしいとは思わないようだ。


(食っていけない税を払えとは、一体全体どういうつもりなんだよ。…。もしかして、いやもしかしねえ。こいつら、わざとやっているのか?)


 騎士が如何に腕が立つといっても、この場で争えば獣人たちにやられるであろうに。

 そして、ここには殺人マシーンがいる。

 ちらりと、銀髪の悪魔を見ると。


「…」


 黙ったままだ。おかしい。 

 




これを見ていると云うことはっ。ジングルベルに間違いないっ(白目

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