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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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52話 いろいろとややこしい。深く考えると頭が頭痛に苛まれる事ってありませんか

 幼女の手についているのは、血だ。

 何かを殴ったのは間違いない。セリアの拳には、普段付けている鉄甲が見当たらなかった。

 促す視線にセリアが反応する。


「これか? 外に弓を構えて火をつけようとしていた人間がいたので退治しておいた。何かやったのか?」

「やったというよりは、あったよ」


 ユウタは、かくかく云々と説明をしていくと。


「間違いない。狙われているな。すると、連中を生かしておいたのは失敗か。今からでも始末してくるとしよう」

「えっと、ちょっと待って。そのチンピラみたいなのじゃなかった?」

「そうだが?」


 セリフに焦った。いきなり殺しに戻るとか。弱肉強食を地でいく幼女らしい。

 幼女は、腕を組んだ状態で、頷く。いかにも当然だと言わんばかりである。


「あの、さ。町の中でチンピラとはいえ、殺しちゃうのは不味いんじゃーないかな」

「何を言っているんだ。我らは、騎士。国の治安を守るのが仕事だ。火付け強盗強姦等は、その場で処断する権限が与えられている。もしかして、お前は総督になった事をすっかり忘れているんじゃないだろうな。一向に中央の王都に向かう気配がない。いや、間違いないな。面倒くさくなったのか、それともここから掃除を始めようだとかのんびりしたことを考えているにちがいない」

「…(そういえば、この世界。弁護士も居なければ裁判所もないんだよなあ。法律? そういうのもあるみたいだけど、役に立っているようで王族に都合がいいようになんでも解釈できてしまうというか。火付けなんていきなり縛り首か斬首だし。強姦も懲役何年とから局部切断まであるし。窃盗で手を切るなんてあるし。掃除って、そりゃあ地方から攻めてかないと駄目っしょ。違うんかな)」


 返事ができない。いや、その通りでございますと認めるのもしゃくであった。

 何にしても行けば行ったで、白騎士団に捕縛されて投獄死か毒殺かというようなエンディングに到達してしまうのが目に見えていたからで。何も手をこまねいていた訳ではない。


(ん? 総督? いつの間にそんなことになっているんだ。そういえば、魔術師が騎士ってどういう事なんだよ。騎士なのか魔術師なのか意味がわからねえよ。確か、騎士の誓いを立てたりだとかするものだけれど。ユーウは、適当にしていたからなあ。全人類を幸福にするだとか。マジ基地でござる。そんなん無理に決まってんだろうが)


 言ってしまえば、虚しい。人間には出来ることと出来ないことがあって、出来ない事の方が多い。例えば、この瞬間にも全人類に叡智を授けてみせろだとか。争いを無くせだとか。正義の味方になりたいだとか。


(バカバカしい。考えるだけ無駄だ。それよりも、謎は解けたんだろうか。シルバーナと与作丸の野郎遅え)


 考えをまとめようとするのに、セリアはテーブルの上に乗っている茶をそのまま飲み出す。

 間接キスしている。顔が熱くなる。というのに、


「回収しにいくか?」


 全く気にしないセリアはいう。


「そうだね。話が終わったらそうしよう。けど、セリアも学校はいいの?」

「お前が行くなら行ってもいいが、つまらないぞ? 所詮は、子供の教育の場所だ。生死を賭けた戦いに優る醍醐味なんて存在しない。違うか?」

「…(やべーよ。この人戦うのが日常になっているよ)」


 セリアは、残念な感覚を一部で持っている。殺し合いに人生を見出すなど、その最たるものだ。

 厨房の方から人が出てくる。


「や、またせたな。おや、お客が増えたな」


 エプロン姿のアキュが、手に皿を持って現れた。それは、暑苦しい。

 外は寒いというのに、室内の気温が5度は上昇したような。黒人が額に汗を浮かべて、料理を手にして子供に迫っているというような絵面だ。

 リリペットとナタリーも一緒に座って、


「セリアさん、いらっしゃい。どうぞ、どうぞ」


 と、勧めてくる。

 皿の上には、肉を焼いてソースを入れたサンドイッチにホットのコーヒーらしき液体が並ぶ。

 カップは、兎さんの絵がかかれていた。一口入れて、


「これは、迷宮の肉を使った物ですか?」

「そうだよー。あそこで食料を手に入れるのが、ここの流儀だからねえ。ちなみに、ミッドガルドと違って食料の調達には迷宮に潜るしかないんだよね。地表には魔物がわんさとでてくるから、農業に向かないんだよね。ただ、エリアにいるボスを倒せばいいらしいんだけど。それが、また強くて誰も退治できていないんだよね」


 リリペットの目線は、顔色を伺うようだ。迷宮のボスとはまた違うボスがいるという事か。ユーウが開拓をした時には、多少強い魔物がいたがそれがそうであったのかもしれない。手加減なしの電撃や火炎系の魔術でじわじわ削りながら、一人で倒していた。その頃のパーティーメンバーが、今やばらばらだ。


 MMOと違うのは、全員が冒険をしている訳ではないという事だ。迷宮に潜りたくても、メンバーの都合で入れない。そんな事があれば、すぐにでも首を切って違う相手と入ればいいと思うが。ゲームではない。なので、普通は代わりの人間を探したりする。ユーウは、ソロ志向であったしユウタも別段他の人間を入れる必要性を感じてはいない。


 培った能力で切り抜けていければいいのだし。その能力がなくなったりしても、それはそれ。

 最強への道は、未だに遠い。誰もが知っていて誰もが認めるような、そんな最強に。

 前に進めば誰もが道を開けるような。見物人の壁を割って入るのも、一苦労では話にならない。

 

(もっと威嚇するべきなのか? こう、骸骨戦士みたいな。なんというか、俺、個性がないのか?)


 取り止めのない考えに、頭痛が頭痛を呼びそうだ。

 アキュは、心配そうな顔で。


「ユークリウッドくん、大丈夫か」

「いえ、お気遣いありがとうございます。ところで、提案があるのですけれど」

「ほう? 何かね。他ならぬ君の頼みならば、多少の事は聞くつもりだ」

「アキュさんには、この町で兵士を募集していただきたいのです」

「ふーむ」


 アキュは、目をつむった。


「今日のようなゴロツキを取り締まるクランの中心に、アキュさんのような人がいれば安心できます。なんとか、兵士の募集をして欲しいのですが」

「それは、騎士団か自警団の仕事じゃあないかね」

「それが、人手不足でして。自警団は、あるんですか? 先ほどのあれでも出てこないって、おかしいですよね」


 アキュは、眉間をぐりぐりとした。


「アイツらがその自警団なんだ」

「は? いやいや。あんなのが、ですか?」

「そうだ。その、あんなのが、だ」


 茶を飲んでいれば、吹き出しそうな事態だ。とすると、自警団に逆らった一般人のようにしか見えていなかったのだろうか。自警団とは名ばかりのゴロツキというのが実態だったとは。


「でしたら、なおの事。ぜひともにやって欲しいです。軍資金は、用意できます」

「いや、資金の問題ではなくてだね。ここの市長とも相談せずにそういう事を始めれば、問題が出るのではないかな。それと、獣人がどれだけ私に従ってくれるか。疑問が浮かぶのだよ」

「そうですか」

「すまんね。力になってやりたいのだが…獣人の人間に対する憎しみというのは並々ならぬものがあるからな。君が募集をしたところで、どれだけ集まるのか。私としても、集まる姿は見えない。それとは別に力を貸すというのなら、やらせてもらおう」


 残念な結果だ。説得は、失敗だった。

 リリペットたちも残念そうに見ている。


「ふっ。こういう時は、素直に私に頼ればいい」

「えっ」

「人を集めるのだろう? そういうのは、ここでなら私の出番だと思う」


 サンドイッチをユウタの分まで頬張りながら、セリアはむふーっと鼻息を荒くした。

 テーブルの上では、黄色いヒヨコが飯をつついている。


「自信あるの?」

「ないが、みかん箱の上に立って叫ぶのだろう? ユークリウッド、ユークリウッドをお願いします! っと」

「いや、違う。それ、違うよ!」


 選挙と何かを混同している。

 ---やばい子だ。

 アキュとユッカが生暖かい目で見て、リリペットとナタリーは楽しそうだ。


(へへへ。もう、どうにでもなーれ。だ。さて、断られてしまった事だし。ここを出て、兵隊集めをするべきか。それとも、赤騎士団に戻って人を借りるか。それとも、冒険者ギルドにいって冒険者を集めるべきかな)


 そんなセリアにリリペットが口を挟む。


「その、セリア様がやるというのなら手伝っちゃおうかな。えへへ」

「ふむ。そのユークリウッドくんには悪いが、この国でのセリア様の知名度というのは子供でも知っているくらいだ。町へ出て行けば、すぐにも人が寄ってくるという意味では客寄せとしてこれ以上ない広告塔だからな」

「そうなんですか」

「そりゃあもう、この国の王族でしかも最強と謳われるフェンリル種。止められるのは、ミッドガルドの王族くらいのものですからねえ。かの神具スレイプニールでもない限りは、止まりませんよ。一人で無敵なんて言われるのも冗談じゃないです」


 持ち上げがすごい。そんなに凄くてもスレイプニールには勝てないのか。

 北欧神話に出てくるアイテムだかなんだかと記憶していたが、実物があるようだ。


「ふっ。あれは、汚い。神族が魔を制する秘宝の一つなのだ。類似品に神牛を縛ったアンドロメダの縛りなんていうのも存在する。天ノ川にあった石を加工して作られたなんていう奴らしいが。今は、誰が持っているのか。こちらは不明だ」

「物知りだねえ。強力な動きを制止するアイテムなんだね」

「それだけではない。能力も封じ、魔力を吸い上げるというような機能まであるらしい。一旦捕まれば、脱出は困難だ」

「へえ。アル、様が持っているの?」

「ん、ああ。今はアル、様だな。その前は、マリアベール様が所持していたのだが。そもそも、マリアベール様は天界屈指の強者。下界しているが、そのうち天界に戻られる事だろう。そういう事もあって、王位を譲られたのではないかな。ま、王様業など面倒なだけであるらしいぞ」


 投げやりな意見だ。セリアは、飯食って戦って寝ているようにしか見えない。

 ブリテン島でも、好き放題に相手を倒しまくっていたらしいのである。どう見ても、相手からは一身に憎悪を買っていそうだ。


「ブリテン島の方はいいの?」

「何かあれば、呼び出しがくる。それと、酷いぞ」

「え? 何が?」

「何が、じゃない。ロボットが壊れてしまって、修復ができない。一発で壊すのは、やめてほしい。予備は、あるけれど…それが壊れたらまた生身の勝負だぞ」

「それでいいじゃない」

「ふっ。それもそうか。減ってきたら、奪ってくればいいのだしな。在庫は49だ」 


 結構な数字だった。伺うような目線に気がつく。


「あの、そのロボットっていうのは、もしかして。巨大なゴーレムの事ですか?」

「そうだが?」

「わあ、すごいです。あれなんて、魔物とか比較にできないくらいの大きさなのに。どうやって倒したんですか?」

「ふっ。これだ」


 セリアは、拳をつきだしてみせる。拳で殴って倒すなんて、普通じゃない。

 モンクも極めれば、そこまで行き着くというようなそんな風で。アキュなどは、目を丸く見開いている。額には、うっすらと汗が吹き出していた。外はミッドガルドとは違い極端に寒くはないが、暑くもない室内だというのに。


「流石は、セリア様。我々も協力を惜しむ事はありませんな。それでは、どこで兵を募るのですか?」

「適当な場所がある。兵を募りながら、食料を配りつつ人心を掌握して治安の回復に当たらせる。チンピラのロメルという男にも協力させればいい。さっそく、いくぞ」

「はーい」


 ユウタ以外の声がはもった。金色のヒヨコは我関せずと、サンドイッチをつついている。

 領地の開発もしなければならない。学校の成績は赤点すれすれ。セリアの国を任されたのはいいけれど、にっちもさっちもいかないような問題が噴出している。頭痛が頭痛を呼びそうだ。


(めんどくせえ、全部を放りなげたくなるな。妹もなんとかしてやらないといけないし。モニカもそうだし、アクアの国もどうにかしないといけないし。迷宮に潜っていかないとレベル上げもできないし)


 面倒くさいといえば、隣の国だ。何しろ、自分たちはやりましないのに要求してくる。

 例に上げればきりがないけれど。  

 生活保護適用除外。公務員にさせない。銀行における銀行の当座取引、預金、送金、融資不可。日本人学校卒業者でも韓国小中学校の卒業資格は与えない。日本人学校卒業者は韓国高校の受験は禁止。授業料免除どころか学校に対して1銭の補助金もなし。

 こんなところか。


 だから、日本人を優遇したくなる。いつも、何かいい手はないか。と。

 食事を済ませて。そして、アキュたちとセリアの話が盛り上がりを見せているのを他所に食料を配るための場所に向かおうとするのだが。


 アキュたちの家、その前にはずらりと並ぶロメルたちの姿があった。

 包帯だらけになったロメルとその横には、一回り大きくなったロメル似の男が立っている。


「お前が、ユークリウッドか!」


 家が震えそうな怒声だ。

 

挿絵(By みてみん)

「おーほっほっほっほっ。あら、貴方どこかで見たような顔ね。こんな所まで辿り着いてしまうなんて、可哀想な方。お帰りは、あちらでしてよ?」

「ちょ、ちょっと。貴方、スカートを引っ張らないで頂戴!」


▷ もう少し粘る

  今年もお疲れ様でした

  皆の幸せを祈る

  賢者に転職

  童貞じゃないから帰る

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