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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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51話 筋肉むきむきは、どうですか。実際に対峙すると、ただ圧倒されそうです

「やめろ!」


 ユウタが言ったのではない。白昼堂々と、剣を抜いての喧嘩をしようというのに自警団らしき人間があらわれない。ミッドガルドで揉め事を起こせば、騎士団なり自警団なりがかっ飛んでくる。喧嘩両成敗になりがちな平民同士の争いでも、誰かしら通報していそうなものだ。


 現れた声の主は、アキュだ。浅黒い肌に、忍者姿をしている。戦士からイメージチェンジというようなそぶりだが、この忍者はなにかおかしい。顔も隠しておらず、ガタイのいいおっさんがコスプレしているようなそんな風で。ムキムキになっている筋肉は、湯気を上げんばかりに隆起している。


 対するチンピラことロメルは、黒髪の下に凄んだ。


「ああん? 誰だ、てめえ」


 黒犬というようなイメージだ。ただのチンピラでしかない因縁の付け方だけれども。

 アキュはいう。


「俺の名は、アキュ。こいつらのクラン員だからな、喧嘩は俺が買わせてもらうっ」

「へえ? 俺とやろぉってのか。こいつはおもしれえ」


 ロメルは、黒犬系の獣人なのか腕の部分だけが黒い毛に覆われている。顔がそれっぽく見えるだけなのかもしれないが。いづれにしろ、強力な戦闘力を秘めていそうだ。

 取り巻きから、両手にはめる武器を受け取ると。腕をだらんと下げた格好で、


「おらぁ!」


 一気呵成に、アキュとの間合いを詰める。そして、


「ぐふっ」


 一撃でアキュが宙に舞う。

 一瞬の攻防を制したのは、ロメルの方だ。どう見ても、ロメルはナタリーごとアキュを攻撃しようとして。それを防ごうとしたところにいいのを貰ってしまっていた。追撃で、放物線を描くようにアキュは飛ばされた。受け身は取れそうなのか。空中で、くるくると回転している。

 

 障害が無くなったのはロメルで、間には見物人が邪魔になる。獲物を見据えるような視線で、小人族の二人を睨む。

 ついでに、ナタリーとリリペットを叩き潰そうというのか。ロメルの拳がうなる。


「まっ、ああ」


 声よりも、手からは電撃が伸びていた。ロメルに直撃してしまう。


「おごあああ」


 ずずん。と、巨体は崩れ落ちた。

 観衆は、静まり返っている。


(やべえ、とっさにやっちまったよ)


 フードを取り、前へ出る。


「僕が相手になるよ」

「ロメルさんを、…よくもやりやがったな!」


 殺ってしまうつもりはない。ただの喧嘩なのだ。相手も、そのつもりはないはずだ。

 一瞬の間合いを制し。

 ぶすぶすと煙を上げて痙攣するロメルに回復をかけつつ、取り巻きの出方を伺うのだが。

 誰も前に出てこない。


「どうしたんですか? さあっ、いつでもいらしてください」


 苛立たしげに言うと。チンピラ獣人の一人が、上ずった声を出す。


「ちょ、ちょっと待て。もしかして。こいつ、ユークリウッドじゃねえのか?」

「そうですけど、何か」

「あ、あはは。待て、ちょっと待てや、いや、待っててください」


 チンピラたちは、何かを相談し始めた。毛むくじゃらではなく、それっぽいファッション獣人たちは皮鎧を着ているが武器といえば腰に下げた剣だけ。魔術師は、居ないのか杖を持った個体は居ない。相談が終わったのか一人がユウタの方を向きながら、吠えるようで尻すぼみに、


「きょ、今日のところは勘弁してやらあ。そのロメルさんだけ、返してくれ。死んじゃいねえよな?」


 尋ねる。

 痙攣していたロメル。回復魔術をかけた結果。タフな獣人らしく寝息を立てている。

 チンピラたちは、ロメルを引き取る事を選択したようだ。

 恐る恐ると、前に出てくる獣人たちは、ロメルの安否を確かめる。

 それに、


「よかった。いじめは、感心しませんよ。ちびだからって、舐められるのは嫌いです」

「チッ。…おい、てめえらどけどけー! 見せもんじゃねえぞ。コラァ!」


 ざわつく見物人たちも、それで道を開けた。

 取り巻きの獣人たちは、ロメルを左右から支えて去っていく。

 それを見送っていると。


「あ、ユークリウッドさん。ありがとうございます。助かりました」


 リリペットが話かけてくる。小さななりに、本を手にしていた。

 指を指すと。


「これ、ですか。これは、魔導書ですよ。杖の代わりにこれを持っている人も少なくありません。一般的ではありませんけど。私も冒険者の端くれですので、一通りの職業はやれます」

「へえ」


 魔導書。グリモアとも呼ばれるそれを持っているということは、魔術士か魔術師かそれとも学者や錬金術士といった系統の術者ということになる。が、一通りの職業をやれるとは?


「コビットは、筋力や身体の大きさでは劣ります。ですが、薬草を作ったり魔術で味方をサポートするという点に置いては他の種族に何ら劣っていません。と、自負しているのですが…このような有り様では説得力もありませんね。本当に危ないところを、ありがとうございました」


 ナタリーとリリペットが揃ってペコリと頭を下げる。

 可愛らしい生物だ。赤ん坊がちょっと大きくなって、冒険者として生計をたてているのだ。魔術を見たことのなかった現代社会の常識に照らし合わせれば、いかにも幻想だ。ともあれ、ゲームのようにステータスでノーダメージというような世界ではない。二人ともに、今回のような因縁をふっかけられるような事もしばしばなのか。


「いつも、こんなことがあるんですか?」

「その、…アキュさんやイングリットさんにユッカさんが揃って居ないと。狙われているのでしょうか。たまーにあります」

「危ないですね。冒険者をやっていて大丈夫なんですか?」


 冒険者など、山師の同類だ。はっきりいって、ミッドガルドですら派遣業務のそれと変わらない。非正規雇用のようなものなので、常に騎士といった固い定職につこうという風潮がある。一獲千金を得て、順風満帆の生活をしている冒険者もいるようだ。けれども、そういうのは普通にチート級の能力を持っているような連中である。


 どこで何をしても頭角を表すような人間であれば、冒険者という職業にロマンを求めずにはやっていられないだろう。

 地面を見つめるリリペットにナタリーが。


「皆、夢を抱いて冒険者になりましたから。コビットの寿命は長いですし、これからですもん」


 それに見物人を押しのけてやっと着たというような疲れた表情を浮かべるアキュが。


「はは、確かにな。冒険者として生きるには小人族は、向いて居ない。どちらかといえば、生産職の方がいいのだがね。彼女たちは、どちらもしたがるからな。おっと、ユークリウッドくんありがとう。助かったぞ」

「いえいえ、大した事はしていませんよ」


 腕組みをする。それに、返事をする。


「あれは、無詠唱かね。なんとも、すごい電撃だったが。それでいて、避けられない角度から撃つというのは大した物だと思うぞ。うちの魔術士にも見習わせたいものだ。増幅器は、どこにあるのかな」

「それは、杖ですか」

「杖なのかね。しかし、持っていないようだが?」


 ーーー不味かっただろうか。

 しかし、持っていない事もある。全身に施された紋様だとか、そこら辺の話をするわけにはいかないのだ。銭湯にはいれば、追い返される事間違いなしの紋様も魔術を行使したりしなければ浮かび上がってこないだとか。都合のいいようにしているのは、裸を見られた時に困るというユーウの苦肉の策だ。全身が魔導書替わりだとか。


 そんな事をばらす訳にもいかず。


「ありますよ。ほら」


 とっさにインベントリではなくイベントリから、いつか得た不思議な書を取り出す。


「これは…大した物だ。すごい魔力を感じるな。しかし、君は全く魔力を感じさせない。不躾な話かもしれないが、魔術士には見えない。不思議だな」

「まあ、よく言われます。そこは、秘密なのでお話できませんけれど」

「うむ。魔術師がぺらぺらと自らの秘蹟を話すようでは、術者失格だ。忍者だと、スキルを得るのも一苦労がある。知っているかな? おっと、立ち話もなんだ。俺たちのたまり場に来ないか?」


 お誘いを頂いた。ちょうどいい。

 乗らない手はないだろう。

 頷くと、向かった。先は、一件のあづま屋だった。木造で建てられているのは外観でわかるが、年月が経っているのか外壁の色が剥離して穴が空いている。窓も、木製の扉が申し訳程度についているくらいだ。アキュたちに案内されて、そこに入っていくと。


「ここが俺たちの根城だ」

「へえ」


 中は、清掃されていた。木造だというのに床は石だ。内装は、壁紙を白で統一しているのか。のっぺりとしたペンキでも塗られている。そこにリリペットが、

 

「買い取った家をクラン員で、改装をしているのだけれどね。ちょーっと、ボロすぎて壊して立て直した方が早いかもっていうのねー。でも、住んでいる内に愛着が湧いてきちゃって皆壊そうって言い出せない感じでごめんねー。汚いところだけれども…」

「いえいえ、お構いなく。けれど、皆さん人数が多いですよね。個室とかあるんですか?」


 庭付きで、それなりの構えだけれど。外観が酷い。


「うん。増築に増築を重ねてね。裏手の方に広がっていったんだけどね」


 通されたのは、ラウンジのようになっている場所か。中には、受付がちょこんとあってその先にはクラン員がたむろできるように椅子やテーブルが置いてある。人数は、入り口にある板を見てもわかる。アキュ、リリペット、サック、イングリット、パンシー、ナタリー、ユッカ、フュー、チスズ、ネジコ、セフィア、ルカ。と、名札があった。出ている人間は名札が赤になっていて、裏返せば白になるというような感じだ。


「手狭で、すまない。適当な所に座ってくれ」


 アキュは、何時のまにかエプロンをつけてコック帽をかぶっている。むきむきの身体にエプロンは反則だ。黒光りする筋肉に、あいまってただの変態さんにしか見えない。


「あっ、手伝うよー。ユークリウッドくん。ちょっと待っててね」


 リリペットが厨房に入っていき、ナタリーがとことこと奥の通路に姿を消すと。

 代わりに出てきたのは、ユッカだ。でかい。見上げるように、でかい。2mはあろうかという大女だ。

 しかし、顔は…


(美形というよりは、女版トキさんか!? 肌の色がまじで白いのに、筋肉が盛り上がってやがる!)


 笑顔だ。


「いらっしゃい。君、リリペットを助けてくれたんだって?」


「(や、やられる!)こくこく」


 頷くしかない。お盆を持っていて、そこには湯気を立てたお茶らしき飲み物が差し出される。


(これは、飲まないと死ぬ!?)


 有無を言わせない笑顔に、硬直していると。


「ゆっくりしてってねっ」


 背中をみせるユッカ。薄い布だけれども、鬼の表情が筋肉で出来ていそうだ。

 

「はい、えっとユッカさん。ありがとうございます」


 姿からは、脅威しか感じない。強いか弱いか、ではない。女の人を殴るには抵抗があるのだ。襲われたら逃げの一手しかない。

 湯気を立てる飲み物をすすりながら待っていると、セリアらしき気配を感知する。

 直で来ようというのか。影から現れたのは、愛らしい銀髪の幼女だ。への字で口元はいよいよ角度をましている。目をつぶったままの幼女に朝の挨拶をする。


「おはよう」

「うん、セリア。今、起きたの?」

「酷い目にあった。起きたら、びしょびしょだったからな。風呂に入って、髪を乾かしている間に面白そうな相手と戦っているじゃないか。アルーシュ様は、仕事があるらしいからと布団を干す羽目になってしまったし。私を一体何だと思っているんだ。小間使いじゃないぞ」

「まあまあ、これでもどうぞ」


 インベントリから取り出したのは、アメだ。水飴というのは、あった。けれども、日本のお菓子というのは異世界で作るには手間暇がかかる。例によって、領地で雇った日本人に作らせた代物である。時間というのは有限で、人材は有効活用しなければならない。


(魂は日本人なんだから、日本人を優遇して何がわるんいじゃーい。まあ、ちょっとだけならいいよな。くくく)

 

 諦めきれない。

 作り方を本があるので、それを活用して。ユーウの名義で店を出させて。そうやって、商売の枠を広げていくというやり方は今の所上手くいっている。奴隷制度のあるミッドガルドではあるが、そこ上手く改革していかなければならない。


 抵抗勢力が多いのと、所詮は力が物をいう世界なのがネックだ。

 差し出したところ、


「貰っとく」


 セリアの手は、小さくて細く肌がきめ細やかだ。鍛えているというのに、ぷにぷにしている。

 突っつくと、噛まれるのでやらないけれど。

 手に乗せる。見れば、セリアの手は赤く染まっていた。これは? と、指で指すと。 


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