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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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50話 妹の扱いは慎重に、でもどうしたらいいのかわからない

 天井には壁画が。壁には、蝋燭の灯り。

 ぱちぱちと火を灯す暖炉に、石造りの広間。テープルは長い。

 何人でも一緒に取れるその長さは、いかにもな作りである。外は、雪が降り始めた。


 朝食には、父親と義母に弟や妹が参加している。

 朝の会話は、あまりないのだ。放置主義というような風で、声を掛けられるのは大体が以下のような感じである。


「ユークリウッドよ。殿下とは、どうなのだ。上手くやっておるのか」

「それは、もちろんでございます。父上、万事このユークリウッドめにお任せください」

「ならばよいのだが。最近は、戦争続きでごたごたしておる。殿下の身に何かあれば、一大事ぞ。くれぐれも粗相のないようにな」

「はっ」


 粗相のあるのは、アルーシュの方だ。

 毎日お漏らしなどしに来られては、沽券に関わる。毎朝干される布団には、大海が描かれておりご近所様に一体どのように見られているのか。勿論、悲惨な評判が立っているのは想像に固くない。義母とは、あいも変わらず仲睦まじい。母がどうなったのだとか、聞くに聞けない。

 

 何しろ、墓がないのだ。

 この年まで、墓参りをした事がない。ひょっとすると生きていて、別れただけなのかもしれない。そう考えただけで、陰鬱な気分になってしまう。ユーウも避けてきた事柄だ。先延ばしにしてしまうのが悪いとはいえない。


 義母とは、会話がほとんどない。「無茶は駄目ですよ」だとか。そんな程度の会話で。

 終始にこにこしているような人なのだから、噛み付くわけにもいかない。記憶にあるオカンといえば、とにかく世話焼きな人だった。あれ持ったこれ持ったあれしたこれしたと。


 やることなす事に口を挟んでくるのでアルバイト一つ就職一つですら、難しかった。とはいえ、過去の話である。今更どうこうしようとしても、仕方のないことで。未来を考えねばならない。かつて居た世界には魔物も居なければ迷宮もなく、魔術もなくて神秘などは有りはしなかった。


 どちらの世界が良いかといえば、返事に困る仕儀だ。

 片方には、有り余る娯楽があり。マンガやアニメにゲーム、小説でどれだけでも楽しめる。映画まで見始めれば、時間はいくらあっても足りない。こちらにそれらを持ってこようとしても上手くいかないだろう。


 何しろ、この世界。強固な身分制度を敷く世界なのだから大変だ。

 ちょっとした風刺でも、首が飛びかねない。言うなれば、北の将軍様がいるような世界なのである。

 自由な表現も自由な言論も全く許されないような世界は息苦しいことこの上ないだろう。


「ちょっと。ちょっとー。そっちのとってよー」


「はい」


 ルナは、当然のように指図してくる。まるで、召使いのような扱いだ。こういうのに我慢ができるのか。でなければ、領地も失い爵位も失うような事態はままある。何しろ、ルナは小さくて幼くても公爵家の姫君。要注意な爆弾ですらある。扱いをあやまれば、ぽっと出の貴族なんてものはあっというまに潰されてしまう。


 兄のソルやマリアベールといった人たちもアルブレストの家にはちょくちょく来ている。歓待をするのがグスタフの仕事になっているようで、かつての細い身体が一回り大きくなってしまっている。もう少し太ると、樽のような体型になるであろう。


「あのー。狼国では、一体どのようなお仕事をされているんですか」


「治安維持や食料の配給などをしております」


「それは、素敵なお仕事ですね。頑張ってくださいね」


 こちらは、オルフィーナだ。穏やかな方らしい。もじもじして顔が少しばかり赤味を帯びている。

 隣にいるシャルルは殺さんばかりの視線を投げてくる。相手にしたら、負けだ。

 

「にぃにぃ。これ頂戴ー」


「いいよ。おかわりも頼んでおくかい?」


「いいのー。やったー」


 シャルロッテは、人の分まで食べてしまうほどの食いしん坊だ。誰が甘やかしたのか。当然ながら、己であるユーウだ。もう、この子の食意地はつまみ食いですらとどまらない。ポテトチップスのようなお菓子の類が大好物で、丸々と太っていくのは想像に固くないだろう。


 こらえ性のない子になってしまいそうだ。

 見た目は、悪くないのだが。彼女には、大変な不味い部分がある。それは、一体何かというと。

 端的に、魔力がほぼない。

 ついで、スキルが全くない。

 恐ろしい事だ。これが明るみに出ないように細工を施しているのがユーウで。ユウタとしては、迷っている。何故ならば、嘘だからだ。


 彼女が将来気がついた時に、全く能力がない。というような事に気がつけばどうなるか。

 兄に、両親に騙されていたと気がついた時にどうなるのか。火を見るよりも明らかなのである。

 恨むだろう。怒るだろう。絶望するだろう。


「はむはむ」


「あまり勢いよく食べたら、こぼすよ」


「ふぁあい」


 皿の底まで舐めかねない。満面の笑顔では、怒る気にもなれなかった。

 

(この子が成長した時、本当の事を話せないなら。嘘をつき続ける事になる。なら、今の内から訓練した方がいいんじゃないのか)


 その為に、スキル屋なんていう物があるような。だれでもスキルを身につけられる。魔力も努力次第だ。子供の頃から、魔力上げに勤しんでいる人間は当然いるだろう。エリアスやフィナルですらやっているはず。ただ、魔力を切らすということが危険極まりない事を最近しったのでやらせる訳にもいかない。


 普通は、魔力がなくなれば気絶するか死ぬか。魔力が心という物につながっているらしく、簡単に転生者は魔力上げを行うのだけれども。死ぬ危険性をおかしてまでも、魔力を上げようとする人間はそうそういないだろう。この国の人間は、LVを上げれば身体機能も上昇して魔力の量も上がる。


(冒険に連れて行くには、子供すぎる。転生者、或いは神子でなければ連れていけない。あれ、オデットとルーシアは? クリスもそうだけど、ひょっとして転生者なのか?)


 聞いてみなければわからないが、はぐらかされそうだ。

 ルーシアもオデットもただの商家の出。アドルは下級貴族の子で。他は大体が、高位貴族様だ。


「ねえねえ、にぃにぃもー。学校、いこ?」


「んー。ちょっとお仕事があるんだよね。ごめんね」


「ぶーぶー」


 タコのような口をするのも可愛らしい。頭をなでてやると、周囲の視線が突き刺さっているのに気がつく。朝食に普通に参加しているルーシアとオデットの目が生暖かい物を見るようだ。視線を返せば、相手はそっぽを向くのがこれまた可愛らしい。手を振ってぷるぷるしているのが、オデットだ。眼帯をしているのは、ファッション眼帯らしい。


 義母の横に座る弟たちは、黙々と食べて食べ終わると。


「兄者、今日の予定は?」


「出かけるから、妹たちの事をよろしくね」


「承りました」


 寡黙なクラウザー。彼は、眉が濃い。子供とは思えない身体のできで、ユーウとも拮抗しているような大きさだ。アレスの方といえば、これは小さくてクラウザーの後を追っかけて行くような風だ。更に下の弟が出来て、いる。名前は、バーン。よくありそうな名前をつけるのは、グスタフの特徴でもある。何も考えていないようでもあり、複雑だ。  


 食事が終われば、さっさと出る用意をする。

 寝室では、まだセリアもアルーシュも寝ているようだ。どれだけでも寝れるのか、という具合で。

 ハムスターのような小さいサイズをとるDDが胸元に飛び込んできた。

 連れて行けという事だろう。


(さて、ラトスクにさっさと行こう)


 セリアが起きれば、ついてくるか学校に行くかは自由だ。

 背中の方には、オデットやルーシアがいた。


「学校にも、たまには行くでありますよ」

「うーん。片付いたらね」

「ノートは取っておくから、見てね。それと、ロシナ様になんでもかんでも押し付けてしまうのは酷だと思います。フォローしてあげてください。それと、これ、お弁当ですっ」

「あ、ありがとう」

「げえええっ、ずるいであります。ルーねえぇええええ!」


 手渡された弁当を見て、昼飯が手に入ったのとは裏腹に。

 頭痛がしてくるような、微笑ましいような。暖かい気持ちで一杯になる。

 ぽかぽかルーシアを叩くオデットを見ながら、転移門に飛び込んだ。





(君、彼女の気持ちに気がついているのかな)


 突然、DDが話を振る。お節介なヒヨコだ。


「(いきなりだな、もちろん。だけど、そのうちに変わってしまうんじゃないか? 成長すれば黒歴史ですむさ。ルーシアは、うつむきかげんなところを直せば可愛いし)」


(わかってて放置して、後で後悔してもしょうがないんだからね。君は、来る者拒まずだからね)


 転移した先は、ラトスクの赤騎士団詰め所だ。

 ぼろぼろの小屋といった風の家を改築して、ぱりっとした木造の家に作り変えている。人間の数がいれば、宿舎を作るのも時間がかからない。ただ、短期間で作った為か。

 受付は、女騎士が軽装でしている。基本的に赤騎士団は、後方支援だとか筆記作業だとか補給に関するような戦闘にかかわらない仕事しかさせない。

 整った顔のお姉さんに、笑顔を作る。


「みしみし言ってるよ。おはようございます」

「おはようございます。ユークリウッド様、ロシナ様にご用ですか」

「ロシナが困っていないかなって」

「左様ですか。それでしたら、言付けを承っております。そのまま、申し上げてもよろしいでしょうか」


 きっと怒っているに違いない。何しろ、全部押し付けて寝に帰ったのだから。


「うん」

「それでは、コホン。ユーウ、これを聞いていたなら補給の用意を頼む。それとラトスクの防衛はお前さんがやってくれ。何でもかんでもできるわけじゃあねえ。白騎士団の追撃に騎士団の増員を求めたけど、バーム村に着たのはシグルス様直属の兵団だったぜ。つーか、お家騒動に巻き込まれたのが実際のとこじゃねえか。身の振り方は、任せるとしてアル様が殺る気満々なのが訳わからん。あっ、徴兵してもかまわんらしいぞ。だそうです」

「へえ」


 しかし、早々に蹴りがつくとは思っていない。

 白騎士団の戦力は10万以上ある。それで、お家騒動とくればどの程度がシグルスにつくのか。計算にいれなければならない。というよりも、戦っては負けなのではないだろうか。敵の心を攻めるのが兵法という物で。引っ込みがつかないような戦闘をして、時間だけが過ぎ去っていくのは面倒だ。


(冒険者ギルドにでも行ってみるかな。アキュさんたちに相談してみよう。兵を集めるにしても、ここで集めるには無茶がありそうだ)


 武器も装備も湧いてくる物ではない。まばらな宿舎をでてみれば、喧嘩をやっている。

 人だかりが輪を作っている様子だ。何が起きているのか。関わらないで過ぎ去っていくのも手だろう。けれども、


「謝ってください!」

「ああん? 聞こえねえなあ。どちびがぶつかってきたんだろうが!」

「思い切り蹴ったようにしか見えませんよ!」


 見れば、争っているのはリリペットと男たちだ。

 どちらの味方をするのか、なんともわかりやすい。だというのに、周囲の方から味方をしようという人間もとい獣人が出てこない。


「へっ。ちびっこいんで見えなかったぜ。はっはっは」

「ちびだから、そんな理由で蹴るのはやめてください!」

「てめえらみてえな豆粒どもを見ているとよぉ、蹴りたくもなんだろうが。なあっ」


 蹴った事を正当化しようというのか。

 ぐったりしているのは金髪をしたナタリーという小人族だ。可愛らしい顔を真っ赤にしているのはリリペットで、同様に小さい。どちらが悪いのかはっきりしているのに。


「あんな子たちが冒険者だんてねえ。でもさ、相手が悪いよ」

「相手のゴロツキは、ロメルだろ。タチが悪いので知られている。殺されなきゃいいけどよ」


 そんな声が耳に入るというのに、誰も間に入って仲裁をしようとしない。

 剣を抜いたのは、ナタリーだ。


「てめえ、やる気かよ。いいぜ、相手になってやらあ」

「やめなさい、ナタリー。この人たちはっ」

「おい、見ているな。テメエらが証人だ。こいつと俺との決闘ってわけだな」


 ああ、と嘆息がもれる。狙いは、そういう事だ。

 こんなことに関わっている暇はないが、それでもリリペットを見捨てたりはできない。アキュに相談するどころではなくなってしまう。


(めんどくせえええ。しかし、放っておけねえし。自警団とかないの? なんなのこいつら!)


 見上げる大人たちは、壁になっている。

 

「ちょっと、すいません」


 輪っかに割って入ると。


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