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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
232/710

47話 知らない事は、直接聞いて見た方が早いが

 ユウタは、知らない。何故、白騎士団と赤騎士団が戦闘をしているのか。

 わからない。けれども、握りしめた拳に力を込めた。


(やべえ。敵のペースにはまってた。けど、おっさんしぶとすぎだろ)


 こんな屈辱を受けたのは久しぶりだったからだ。何でも上手く行くようにするのがモットーだ。

 恋とかいう性交への詩的表現は苦手だけれども、失敗するのは絶対に嫌なのだ。

 最強に、敗北は許されない。


「騎士のくせに逃げるとか、ねーよ」


 誰もいないので、文句も言いたくなる。ブーメランになりそうな文句だ。勝て無さそうなら引くのは、普通だし逃げるのもわかる。体勢を立て直すというような思考を持った相手は厄介だ。

 周囲を見ればどこもかしこも剣撃が鳴り響いていて、火と血の匂いで天地が真っ赤に染まりつつある。

 空は、灰色というよりは黒い雲で辺りも暗くなっている。人為的な物であろうか。


 矢が飛来してくるのを器用に避けながら、組み打ちをしている敵と思しき相手を斬り倒す。

 一人、二人と。先ほどの戦士は、見当たらない。

 セリアは、飛来する矢を掴んでは投げ返している。投げ返した相手に当たっているのかは不明だ。

 エリアスは、スライム召喚をして自動防御させている。 


 矢がひっきりなしに降ってきて、以前であれば死んでいただろう事態には閉口気味だ。

 そして、上と横からの矢を払いのけつつ前進する。手近な敵に突きを見舞いつつ、進んでいると。


「うあ」


 黒い染みが戦場を覆い始めた。地面から出ているのは、セリアの魔術だ。

 影の術で、多数の影人形を生み出す。という使い方と沼の効能がある。そして、天井は青い水性生物が村だったであろう場所の赤を青く染めていく。

 敵の手は、矢と次いで【ファイア】の魔術だ。飛ばしてくる相手に、カウンターで矢を投げつけてやる。命中すると、敵である魔術師は悲鳴も上げずに後ろ向きに倒れた。


(きりがないな。味方のはずの白騎士団が敵になっているのがおかしい。どうしてこうなったんだろうか)


 事情を聞くにも、ガーフたちは今も剣を交えている。エリアスとセリアの姿は、すでに見えない。ガーフたちから事情を聞くべく寄っていくと。


「ぐうっ」


 くぐもった声を出しながら、相手の剣を受け止めている。ガーフが苦戦している相手は、双剣の使い手のようで一筋縄ではいかないのか。受ける度に、ガーフの腕から血が落ちる。

 加勢するべきだ。とはいえ、いきなり後ろから斬りかかるのは騎士道に反しているような。そんな気分がある。日本の戦国時代でならば、騎士道とかそういうのは気にしないであろうけれども。どうにも、ユーウとして過ごしている内にそういう物を気にしだすようになってしまったようだ。


「ふう」


 ずぶりと、剣は金属の鎧を割いて突き刺さる。何の変哲もない鉄の剣で、普通はそんな事ができるはずもない。が、スキルの恩恵を受けたそれは鉄だろうが何だろう安々と断つ。剣士系のジョブが習得する【斬鉄】だ。現実にこんな物があれば、剣が廃れる事もなかったろうにというようなスキルである。ちなみに、剣士では習得ができず剣豪か剣聖以上で習得できる上級スキルだ。


「済まない。ユークリウッド様が直々に来られたという事は、ロシナ様も来られたのですか?」

「いえ。ロシナは、今もラトスクで兵を用意させてますよ。この状況を説明していただきたいのですが」


 力もなくだらんとなって、金属鎧を着た男が倒れる。心臓を貫いた一撃に、即死したようだ。

 ガーフといえば、死地にあって荒い息を吐いている。


「私にも、訳がわからないのですよ。いきなりの出来事でしたから。ただ、相手はこちらの口上を待つわけでもなく攻撃を仕掛けてきた。ということです。相手に事情があろうが、私達にはわからない。説明をしてくれなければ」

「うん。そうだねえ」


 そりゃあそうである。攻撃されて、やられなければならない理由もない。説明もなく戦闘に突入したのには違和感しかないし。何よりも、


「村人は、巻き込まれたということですか?」

「村は、病人が出たそうです。そう、黒死病とかいう話でした。ただ、この病気はロシナ様の話によれば治療が可能だとか。我々はこれに対して、治療を要請しています」

「ふむふむ。治りそうな病気なら問題なさそうなのですけどねえ。一体どうしてこのような事をするのか。解せませんよね」


 分からない。もっとわからなくなってきた。


「ユークリウッド様は、あのガーランドを退けたのですか」

「ガーランド?」

「大剣を携えた戦士ですよ。不肖の弟ですが、剣の腕はかなりの物だと見込んでおります」


 なるほど。そういう因果があるのか。だとしても、弟が兄に斬りかかってくるのは余程の事があるのであろう。撤退の早さといい、ガーフの弟は戦略眼を持ちあわせているようだ。

 矢を切り払いながら、


「その弟さんなんですが、話は聞けないのですか」

「戦場で会えば、敵味方ですぞ。敵ならば、会話をする余裕などありますまい。然るに、彼が仕えている主は名門ジギスムント家。忠義は、かの家にこそありますからな。上が黒だといえば、白に見えても黒だというのが騎士という物です。時に、これは?」


 ガーフが地面を指で差す。セリアが展開させた影の魔術だ。おおよそこれを展開させたということは、締めにかかっている。敵を逃さず、敵を葬るためのチート結界でもある。が、これでそのガーランドを葬れるかどうかは怪しいものだ。体勢を立てなおして、必殺を期してくるような相手ならば尚の事。


「セリアの魔術ですよ。それと、こっちの弓兵はどうしているんですか?」

「なるほど。それについては、面目ない。味方の弓兵と敵の弓兵では雲泥の差があったようだ。結果から言えば、味方の弓は殆ど効果がなくてですな。前衛は、押しまくられて劣勢でしたのですよ」


 物は言いようだ。劣勢というよりは、全滅寸前まで追い込まれていたのではないか。村を真っ赤に染めていた炎はエリアスの魔術によって鎮火していく。と、矢がぱったりとやんだ。

 セリアとエリアスの魔術に耐えかねたという事か。撤退しているという事か。不明だ。


「逃げたんですかねえ」

「わかりませんな。ともあれ、味方を回収していきましょうぞ」


 ガーフは、まだやる気のようだ。敵が潮のように下がっていくのに合わせて、味方の追撃が始まった。

 一人、二人と回収しながら隊伍を組み。敵の背後に追いすがっては、槍なり剣なりで攻撃していく。昔から退却戦の時が一番死体が出るという。逃げる相手に攻撃をするというのが、一番リスクが低いからか。殿というのはいつだって勇猛果敢な人間がする危険な仕事だ。


 件の戦士の姿は見えない。


 敵の手を振り払うのには、成功した。けれども被害が余りにも大きい。


「それなりに手応えはあったが、わからないな。意味が」

「そりゃあ、そうでしょ。私だって、この辺鄙な村を襲う理由がわからないわよ。そして、捕虜とか取ろうとしたのに全員爆死するとか。余程の覚悟よねえ。死んでどうにかなるような話なのかしら」

「よほど、隠したい秘密があるのかもね」


 秘密ぐらいしか想像がつかない。何らかの理由があって、赤騎士団には村を捜索させたくなかったのか。村長の家が容赦のない攻撃を受けて、爆撃にでもあったかのようだ。何も残っていないような建屋に呆然とする団員たちとパーティーメンバーが残った。

 

 村人の生存者はゼロだというのだから凄まじい。そして、念入りに殺されている。どういう事なのか、知りたいだけなのだが。敵となった白騎士団は厄介だ。そして、嫌な予感がする。セリアの国でなければとっくに放り出して、己の領地を開発することに勤しんでいただろうに。この体たらく。敵は逃がすわ、事情を聴取できないわでさんざんだ。


「ふーむ。連中め、私の姿を見て逃げて生きおったな。かっかっか」

「むしろ、この人が原因なんじゃ」

「なんだとぉ。どこが、だ!」

「そこは、置いて置いて。これから、どうするのかが問題じゃないの?」


 一同は、黙ってしまった。生存者がないまま帰る事になっても、今度はロシナと白騎士団の戦いを見る事になる。言うなれば、内戦だ。白騎士団とは、白銀の剣を指すものばかりだと思っていた。けれども、この時代には白銀の剣だけではないようだ。連隊方式ともいうべき制度で白金の剣やら白虎の爪など色々な隊があるという。


「相手が、白金の剣というのもおかしな事ですな。連中は、ジギスムント家の直属ともいうべき部隊でして。私設の親衛隊といってもよいような部隊です。出身地からして制限を受けるような部隊ですからな。ジギスムント家に対する忠誠心は並々ならぬ物があるといいます」


 ということは。


「この村といい、バーム村にも何か都合の悪い物があると?」

「そうとしか。考えられんでしょう」


 探せば何か出てくるかもしれないが、この場合はそうも言っていられない。敵の増援が来る前に撤退だ。しかし、撤退をすれば証拠は全て片付けられてしまうかもしれない。と、命か証拠かの天秤でははなから釣り合いがとれていないのも確かな事で。撤退するというのが正しい。事情や申し開きは、後日にでもしてもらうとして。戦闘ともなれば、半壊しているガーフの部隊では難しい。


 敵の弓手を何とかしなければ、生き残れない。

 捕虜をとれればよかったのだが、敵がそうそう都合よく捕虜になってくれる訳もなかった。

 ともあれ、敵を待つのか。それとも攻撃に出るのか。これが問題だ。


「敵が何時また攻撃を再開しないとも限らない。私は、撤退を推奨するぞ」

「んー。でも、私達がいればなんとかなるのじゃなくて? 死体を蘇生できるユーウもいるのだし」

「よく見ろ」


 抱え起こしていた少女の身体が、ビクリと震える。顔には、うごめくような血管が。

 つまるところ、これはゾンビ化が施されているのか。それとも施術されたのか。はたまた薬に寄るものなのか。不明ではあるけれども、魔術でそうされたようではない。血液による侵食で吸血鬼化というのもあるが、知能を完全に失った様子で脳がやられた場合。蘇生は、できない事が多い。


 これは、蘇生体験から言えることなのだ。

 直接聞こうにも、死んでしまっていては聞けはしない。残虐非道もここまでくれば、怒りを通りこして悲しみが浮かんでくる。

 闇の帳が迫っていた。 

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