46話 推理するには頭が必要だ
ユウタは、考えた。
必死に、ない頭をフル回転させて考えた。
しかし、
「判断つかないよ…」
「ふむ」
セリアは、我関せずといった風に饅頭を頬張っている。熱々のはずのそれをぱくぱくと。
「エリアスでも呼ぼう」
「水晶球で、現場を見ようというのか? それが早そうだな」
「そうであります。ごちゃごちゃ考えていても、始まらないでありますよ」
実際にそうだ。何が起きているのか。判断しようにも、謎を解いている時間がない。
ロシナは、兵を集めるべく走り回っているしアルトリウスといえばこれまたただ紅茶を飲んでいるだけ。謎を解こうとかそういう事はないようだ。死体と見られる石のかけらは、気味が悪い。
謎を解くために、手は打つ。エリアスをパーティーコールもとい念話で呼び出すと。
「ちょっと。私、暇じゃないんだけど」
「ごめん。手伝ってよ」
「んーじゃあ、私のも手伝ってよね?」
ギブアンドテイクだ。仕方がない。
「いいよ。それじゃあ、ガーフさんの居場所を探して。どうなっているのか知りたいんだよ」
「…それだけ?」
「うん。遠見系の魔術は使えないし、お願いするよ」
「はあ、いいわよ。何でもできそうなのに、どうして遠見の魔術が使えないのか不思議よねえ」
そんな事はない。万能系で創造魔術の使い手だなんて言われる事もあるけれど。
物質を地中から抽出したり、数千体のゴーレム同時に操るだとかそんな神がかった事はできないのだ。
何しろ、そんなに頭が良くない。記憶していられる魔術を本からいちいち読み出さねば使えない体たらくである。それこそ、簡単な攻撃系ならばである。
水晶球を取り出したエリアスは、手を球に手をかざしながら。
「ちょっと。これ、不味いわよ?」
指を指す。そこには、透明な玉に景色が映っている。
「いえええ。どうなっているんだろう。これ」
戦闘が行われている。燃え盛る村が映っていて。
ガーフが、指示を出しながら剣を交えていた。敵は、
「白騎士団に違いないな」
セリアが口を挟む。
「これ、どうするのよ」
「どうするもこうするも、行くよ。皆は、待っていて」
転移門を即座に開くと、飛び込んだ。
そこは、赤色に染まっていた。
どうしてこのような事態になっているのかは知らない。が、そうでなくても助けるべき相手は決まっている。ホモではないので、そこまで深いりするメリットもないけれど、見捨てるのは気分が悪い。
今にも、ガーフを切り捨てようとした相手の胴を蹴ると。
「ぐぇ」
短い悲鳴を上げて、金属鎧を纏った重戦士風の男が横倒しになる。
防御できた様子もなく、柔らかい餅を蹴るような手応えであった。ガーフは、血まみれだ。返り血と、額が割れている様子で流血している。手当しようにも、飛来する矢を取るので暇がない。ガーフは苦し気に咳き込んで、
「君は、ユークリウッド様?」
「うん」
返事を返す。
四方は、武器を構えた敵でガリオンやマークといった騎士たちも押され気味だ。
つまるところ、死地だった。
「こいつらは…」
という暇もなく、敵の攻撃は待ってはくれない。
2mは越そうかという大剣。
それを構えた白銀の鎧を着る戦士が、横薙ぎの一撃見舞って矢が同時に飛来する。
剣をのけぞって躱しながら、足で矢を払いのけた。と、飛び上がって槍衾を交わす。
手を合わせて、印を組み「アースウォール!」と、呪言を吐いて土壁を作る。
「おお!?」
戦士たちが、せり上がる足場に気を取られている。チャンスだ。
(どういうつもりか知らないが、死んでもらう)
広い場所に高低差を活かした攻撃で敵を分断するのだ。味方も分断されるであろうが、問題ない。
数が、少なすぎるので。
「サンダー!」
電撃は、手近な戦士に当たるかに見えた。だが、
「ぬん!」
「は?」
大剣で、振り払われる。魔力の乗せ方が悪かったのか。金属系の前衛には、電撃が一番なのだ。
だというのに、戦士は大剣で防ぐ。容易ならぬ相手だ。
「貴様がユークリウッドか。確かに、大した腕前だよ。だがっ」
返事を返す間もなく、戦士は手斧を投げてよこす。と、左右から矢が飛来する。
手で矢を取りつつ、手斧を弾く。と、突きがくる。
「チェストーッ」
胴か。しかし、頭の位置に剣先が向いている。躱して一撃を入れれば、敵は終わる。
剣先を避けるところで、それが横薙ぎに変わった。
驚くほど変則的な剣の腕だ。これで、名前も知らないような相手なのだから白騎士団の層は厚いのだろう。
「ぬ。仕留めるはずだったのだがな。やりおるわ。噂に違わぬ小僧よなあっ」
返事を期待しているのか。会話をすれば殺しずらくなるというのに。
殺るならば、一撃必殺がモットーで。やれないのは、相手が強いという事だ。
とはいえ、動き事態はセリアに比べて遅い。ただ、
「あっ、ずるっ」
ずるい。援護がずるい。足を止めようと、バインドが飛んできて矢が間もおかずに左右からくる。
味方がどうなっているのかもわからずに戦っているような有り様に、歯噛みした。
最強になったはずなのに、苦戦している。やられないだけ、マシというような状態だ。
鎧化をするべきか、否かというような。
「目的は、なんなんですか。こんな事をして」
「アホォう。そんな事をべらべらとしゃべる奴がいるかっ。むんっ」
ダブルソード。に、イグニッション。剣を出して対応するしかない。屈辱だ。
剣道三倍段というが、それは確かにある。気を纏わせた剣を受ければ、素手では受け切れない。事もあり得る。その場合、そのまま真っ二つだ。
上下を封じる剣を受け流して、炎の魔術に抵抗する。
要は、
「はあっ」
気合だ。相手の顔は、兜に閉ざされてわからない。けれども、巨体が止まっている。
タイミングを図っているのか。周囲は遥か下にあるような場所だ。このままこの戦士を置き去りにしてしまうのもいいだろう。ちらりと見れば、セリアとエリアスがコンビで敵の手からガーフたちを守りながら敵を駆逐している。彼女たちには、敵を捕獲して聞き出そうとかそういう思考は無さそうだ。
「くく。魔術師が剣も使うか。今のを凌ぐとは、な。だが、これならばどうだ」
大剣が炎を纏う。炎系のスキルも持っているのか。ファイアソードであろう。フレイムソードというような似たようなスキルもある。
飛来する矢には、毒が塗られているようだ。滴る矢の先を見て、そう判断するしかない。
セリアの石礫よりは、威力が落ちるけれども狙いが正確だ。タイミングも申し分ない。
敵からは、情報を引き出す事はできそうもなさそうだ。
殺るか。殺られるか。
だが、場所が悪い。土壁で上に移動した結果、敵の弓手からは良い的にされている。
そのうち、脳天に矢が刺さって死亡する可能性が高い。
「逃がすかっ」
降ろうとすれば壁に剣を突き立てて追ってくる。執念深い相手だ。
もちろん、壁を降りるには【壁走り】を使っている。というのに、大して変わらない相手の速度には狂気を感じるほどだ。かなり奇妙な動きだが、先手を打つ。
「アイスジャベリン!」
印を手で組んで、呪言と共に放たれる氷槍に串刺しにする。予定だったが、敵のファイアソードに阻まれる。しぶとい。
【ファイア】は効果がないのは見て取れるし、【サンダー】ですら払われる。【アイス】かそれ系統ならば、と考えた訳なのだが。
「おっさん、しぶといねえ」
「はっはっは。これも年の功よ。子供に、負けなどあり得ん。よっ」
空中で、斬りかかってくるのはおかしい。足場もないはずなのに。
【レビテーション】を使っているとか【フライ】がかかっている風でもない。
単純に、相手の体術といったところか。それでもまた、おかしな動きに翻弄されている。
言うなれば、オランウータンがぶら下がって攻撃を仕掛けてくるというようなイメージだ。
とにかく、変則的な攻撃である。
「そろそろ」
そろそろ死んでもらうか。いつまでも目の前の戦士とやりあっている暇はない。敵は、多数であり味方は少数なのだ。守り切らねば、負けである。最強が負けるなど、あってはならないのだ。とはいえ、最強への道を踏み出して間もない。躓くなどあっていいはずがない。というのに、取り出した丸太の攻撃を。
「ぬお!? 洒落臭いわっ」
炎を纏った剣で迎撃する。丸太が、燃えて切れ端にされていく。ぶんぶんと風切る音とぱちぱちと燃える木と。落下していく勢いで下がっているというのに、相手は取り乱した様子もない。大した度胸であった。
相手の戦士は、歴戦の強者という事か。地面はすぐそこであった。
相手の動きは、滑らかに着地する。敵のフォローは中々大した物である。パーティーメンバーに見習わせたいくらいだ。何しろ、セリアときたら好き勝手に敵を殴っているような感じでエリアスもまた水系の魔物を呼び寄せて連携の型もない。勝手にやって、後でフォローするというのはどういう事かと問い詰めなければならないほどだ。「お前が連携しろ」と言われるのだけれども。
「いい、仲間がいるんですねえ」
「はっ。そっちはとんでもねえ化け物揃いじゃねえか。こっちの方が泣きたいわっ」
じりじりと、距離を取り出した。ここで逃すのは悪手だ。仕留める。絶対に逃さない。
だというのに、
「食らえ。バーニング!」
剣から放たれた爆炎が視界を覆う。これが、切り札か。
持ち札は、最後に切るというのがお約束だ。そして、同じタイミングで不可視の盾を発動させる。魔力量が上がった事で、防御力は投石だろうがなんだろうが防ぐ。ロシナからは、努力チートずりぃぞと言われる有り様だけれども。努力すれば、凡人だって上に上がっていけるシステムに乗っからない訳がない。
炎が視界から消えた先には、戦士の姿はない。次に着たのは矢だった。転がりながら、それを避ける。
「マジで、逃げやがった。野郎、ぶっ殺す」
内心を抑える事など出来はしない。
地面には、物言わぬ躯となった少女の姿が恨めしげに空を見ていた。
感想・批評を募集中です。




