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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
230/710

45話 バームーラトスク

 帰った方がいいのか。それとも帰らない方がいいのか。迷っていると、ヒヨコが腹の方で動き出す。

 ミッドガルドは夜だと冷える。そういう訳でもないのに定位置になっていた。

 つんつんと知らせる合図だ。


「どうしたの?」


(どうもこうもないよ。家の方は、どうにかなるけどさ。こっちはそうもいかないから。さすがにこっちのと対決するには、ボクでもこの世界じゃ厳しいよ)


 ん? っとなった。金色に輝くヒヨコは、獣になったり喋りかけたり自由気ままだ。伸縮も自在のようだ。さすがにデブな鶏の大きさでは腹になどはいれないからだろうか。

 ユーウが出会った時には、巨大な竜であったのに今はその形態を取ることができないらしいが。嘘をついている可能性もある。けれども、それならそれで実力行使に来るだろう。そんなお構いなしの金色のヒヨコである。売れば高そうだ。

 ぶるりと震える振動が伝わってきた。


「こっちにいけばいいのかい?」


(そうそう。北の方に行ってみようよ。ちょーっと厳しいかもよ?)


 ユウタは、そう言われてびくっとなった。厳しいとは、如何に。

 ユーウの身体になってこの方、苦戦という言葉がでない。


「嫌な予感がするなあ」

「ぶつぶつと、独り言を言っているとキモく見えるんだが。何かいるのかよ」


 ロシナは、ぶつぶついう己が気持ち悪いのか。そんな風に、肩を叩く。


「キモいって…失礼だなあ。これが、話かけてくるんだよ」


 手のひらに乗せたヒヨコをみせる。


「ふーん」

 

 信じているのか。半々であろう。 

 最近、痩せてしまったのか異世界日本に行った頃の元気がなくなってしまっている。ユウタたちは、町に帰るやウィルドを赤騎士団に預けて北の方へと鳥馬を使って移動した。一面を見渡す限りの大草原。緑色がほぼ全てを覆い、林がそこかしこにあるくらいだ。見たところの魔物は、少ない。

 件の少年は、扱いあぐねた。


 一応、インベントリにウィルドを入れておく事も検討した。が、ウィルドをインベントリに入れておくのは不安だからだ。何故、不安なのか。特別な能力を持っている人間を生きたまま入れた場合、中の物を漁られるという事が万が一にも考えられる。だから、インベントリにはなるべく人は入れない。ゴミ箱と化しているイベントリの方には生きた人間が入れられないので不便だ。


 西遊記や他の小説での失敗を反省に活かしているというのは、ある。

 家に帰ろうと迷っていると、DDが話を振ってきた。その為、北へ行くことになった。

 ロシナは不承不承という感じだ。アルトリウスも同じらしく、遠くを見て面白くなさ気な声を出す。


「この方角に何があるのだ? 村が点在しているだけだぞ。そちらには、ガーフとガリオンが隊を率いて行っている。用があるとすれば、そいつらに何かが起きたという所くらいだが……」


(ちょ、やばい。もっと急いで。死んじゃう死んじゃう)


 DDは急いで欲しいらしい。が、飛行機でもなければ鳥馬の足は馬以上。飛ぶ絨毯は、ティアンナがいてくれなければ不安で使えない。運命を変えていくのだから、彼女と会う事はないかもしれない。


「わかったよ。飛ばそう」


 鳥馬に蹴りを入れる。この鳥に似た馬は、鞭を入れると暴れだすのが特徴だ。色は、茶から黄色まで様々な色がある。もっと熟れる乗り手になれば、蹴る必要もないらしいが。

 と、


「おいおい、ありゃあ。うちのが追われているのか? 追っているのは、シグルス様の軍団じゃねえのかよ」


 見ればわかる。それは、矢を放ち槍を投げて追いかける騎馬と逃げる騎馬。

 多少扮装しているのはどこかで見たような騎馬だ。どう言い繕っても粗野な山賊の集団になりきるのは無理が有りそうな部隊だ。


「割って入ろう」

「おうよ」


 出すのは、土の壁だ。追う側の矢を防ぎ、進路を遮る。それに、ぶち当たっていく騎馬隊。次から次にぶつかっていき阿鼻叫喚の地獄絵図が出現した。馬は、急には止まれないのに壁は急に現れたのだから仕方のない事か。それでも、止まった後方から進路を変えて追いすがるのとユウタたちに目掛けて走り寄ってくるのとに分かれた。


「何者だ」


 アルトリウスがいるのに、先頭を走る男は血走った目を向けてくる。抜くのか。抜かないのかぎりぎりという風だ。それも仕方のない事かもしれない。土の壁に激突した人馬の損傷は図りしれないのだ。

 ロシナが答える。


「何者だと? あんたらの方こそこんな所で一帯何をしている」

「…ガキどもが調子に乗るんじゃない。我らは、不審者を追いかけていただけだ。逃げていた者は、スパイの疑いがあるのでな」


 スパイ。どうみても、騎士の成りをしている人間である。それをスパイ呼ばわりとは。しかし、証拠もない。実際にスパイなのかどうか。判断がつきかねていると。鳥馬を降りたロシナが、男を抱えて、


「おい、おいっしっかりしろ。大丈夫か」

(あーあ。間に合わなかったね)


 本当に残念そうなDDの声。

 に、ロシナは、矢を何本も受けて落馬してしまった騎士を抱え起こしている。

 毒に、呪いの矢か。それに、火属性まで付けられているのか。内部ではぐずぐずとくすぶる音が聞こえてくる。先頭を走る粗野な顔に土鍋兜をつけた男が止まった。こちらを観察しているというべき様相だ。

 言わざる得ない。

(抜け、さっさと抜け。攻撃してこい)


 そんな内心を隠して、冷静に尋ねる。


「それでも、これはやり過ぎではないでしょうか」

「ふん。どこのどいつかは知らんが、余計な詮索は無用だ。引き上げるぞっ」

「待てや、こいつがうちのモンだとして、こんな目に合わされて黙って見過ごせると思ってんのかよ。ああっ?」

「はっ。子供が隊長ではなあ。話をするのならば、軍団長でも連れて来い。聞きたければなあっ」


 ミンチ確定。なのだが、相手が攻撃してこなければやりようがない。相手は重症者を手当しつつ引くつもりのようだ。冷静な相手ほどやりづらい敵はいない。

 指揮官と見られる先頭の男はあくまでも、取り合うつもりはないらしい。そして、馬鹿ではないのが厄介だ。普通は、馬鹿なのに手を出してこないとは。おかしい。パーティーの数が少ないのは見て取れるはず。口封じをしてくるようならしてやったりなのだが。アルトリウスを見ての反応なのか。今一腑に落ちない。


 彼我の差は10倍だ。

 

(何故だ?)

 と、アルトリウスはこそこそとオデットとルーシアの陰に隠れている。何がしたいのか、わからない。


「あ、こ、こいつ」

 

 男の身体から湯気が上がる。それに加えて、頭髪が抜け落ちた。

 ロシナが抱えていた騎士の身体が変化していく。ゾンビ化の前兆だ。

 すぐさま、セリアは手でさっくりと首を切り落とした。


「動く死体化か。という事は、高レベルの死霊術師が混じっている可能性がある。容易ならぬ相手だな」

「そういう事かあ。DDもわかってたのかな」

 

 追いすがろうにも、さっさと相手は引き上げていく。話をしようというような感じではなく。誤解もへったくれもないようだ。明確な敵ならば戦いようもある。なのに、白黒つかないような味方では討つのも難しい。何にしても、味方殺しではないのか。


「追って、倒すというのは駄目なのでありますか?」


 オデットは殺る気だ。味方であろうが、お構いなしか。セリアは諭すように口を開く。


「倒せる事は、倒せるだろう。だが…あれは一応味方、のはずだ。山賊に化けているのが怪しい。だが、これといった証拠もない」

「証拠がねえっていったら、こいつがスパイだったってことも証拠がねえじゃねえか!」


 ぶっ殺してやる、とロシナはつぶやくと一人、ラトスクに鳥馬の行き先を変える。オデットに視線が合う。彼女もまたロシナを追って鳥馬で走り出した。


「待つであります」

「待てと言われて、待つ奴がいるかよ。ついてくるんじゃねえ!」


 説得は、厳しい様子だ。心中を察すれば、部下を殺された腹いせを晴らしにいくというような感じだ。

 残ったのは、くぼんだ眼窩に恨めしげな肢体とパーティーメンバーだ。モニカは鳥馬に乗るだけで精一杯という風である。証拠が死体では、弱い。


「うーん。これが、そうなのか? 生きていたら事情を聞けたのになあ」


(死んじゃったねえ。でも、証拠なら残ってるかもよ?)


「へえ」


 聞こえているのか。わからない。しかし、ゾンビ化した騎士の身体には、これといった物証に繋がりそうな物が見当たらない。腰に下げていた袋から出てきたのは、石だ。


「何だろうね」

「わかんないよ」

「話も聞けないと、手がかりがない状態だよね」


 ルーシアもわからないと首を振った。ゲームであれば、アイテムがキーとなって解決に結びつくのだけれど。そんな都合のいい話はない。し、鑑定を掛けてみても死体の一部というような無情な結果しか出てこない有り様だ。

 アルトリウスは、


「これは、何かの骨だな。石にも見えるが、かすかに怨念がこもっている。セリアも感じるか?」

「はい。これは、死者の骨です。そう見えないのが厄介ですね」


 石か。ただの石にしか見えない。アルトリウスとセリアは、何かが見えているようだ。が、見えない物は見えない。幽霊とかそういうのは見えない人間だ。ゴーストとかいうモンスターならば出会った事があるが、それは白い霧の形態を取る魔物であった。だから、霊魂などがそれだと言われてもピンとこないのである。

 パーティーメンバーに順を追って見せていくも、わかる人間がいない有り様だった。手がかりは、石一つとは情けない。騎馬を率いていた人間が山賊やら盗賊の集団というのなら、話は簡単なのだが味方では話がややこしくなる。  

 急いで町に戻ると、落ち着いたロシナが身を震わせていた。

 オデットは、満面の笑みだ。


(何があったのかしらないけど、落ち着いたようだし。これで、いいのかな?)


 しかし、尋ねるのが順当であろう。

 と、


「どうしたの?」

「なんでもねえって」


 ぶっきらぼうだ。手をロシナの肩にかける。


「その言い方じゃ、何かあったの確定じゃないの。僕に話してよ」

「いや、なんだ。その、悪かったよ。俺も血が頭に上ってた。落ち着いて考えてみれば、アイツらの仕業だってのはわかっているんだからな。どうやって追い詰めるか。が、問題だ。おーけー、俺は冷静だ。問題ない」


 相当、テンパッているようだ。殺されたのが赤騎士団でしかも味方のはずのジギスムント家の私兵で。白銀の剣に所属していると見なしてもいいのではないだろうか。とすると、シグルスが知っているのかどうかが問題でその先を詰める時に彼女と戦いになりでもしたらもっと問題だ。


 DDにぐいぐいと引っ張られるようにして、ラトスクという町の冒険者ギルドに寄っている。

 不安とは、これか。何か、わからない。


「どうした? 浮かない顔だよな」

「いや、そんなことないと思うけど」


 ___君もね。とは言えない。ガーフの事が気がかりになっているのは違いないのだ。

 視線の先には、カウンターで買い取りをしている中年男の姿が見える。ミッドガルドと違い、見た目が華やかな女子は居ないようだ。そして、この町ラトスクでは今も萎びた野菜を売り買いしている女子で溢れているというのに。


「かわいいねーちゃんじゃなくてがっかりか?」

「そりゃあ、って何を言わせるのさ」


 ロシナは、鼻をこすりながら受付周辺を見渡す。テーブルや椅子の類は傷んでいて、とても使用にはみたない。足が折れて転がりそうな危険がある。というのに。


「俺は、オデットちゃんやルーシアちゃんだけでも眼福だけどなあ。あっセリアも。だけど、怖えよ。最近、なんかぴりぴりしてんよな。何かあったのか?」


 そう言われてみても、そんな事がわかるほど機微に敏い訳ではない。ただ。


「生理だったりして」

「まさか。あーあれか。獣人連合国が攻めようとしている件じゃねえの。皆殺しを指示されてるみたいだしな。複雑だろ」

「それは、ちょっと酷いんじゃ。せめて、捕らえて送り返すとか」

「まあな。国外じゃ、魔王セリアだなんて言われてるくらいだしな。この分でいくと、俺らも魔王扱いで、アル様が大魔王とかになってそうだぜ」

「あはは…」


 もう、笑うしかないような話だ。何しろ、子供が魔王で大人は一体何をしているの。というような状態なのだからたまらない。


「おう。ガキども、待たせたな。これで、しめて5万ゴルでいいか?」

「ちょっとぼったくり過ぎじゃねえの」

「しょうがねえんだよ。うちにゃ金がねえ。出す方が貧乏っていうのが笑えねえが、売れねえからな。高いとよ。なあ、騎士様。あんたらにゃあわからねえだろうが、ここいら一帯は徴発ばっかりで金目の物がなんにもねえんだ。これといった産業もねえのに5万近い人間が集っているんだぜ? ちょっと買い叩かせてもらわねえと、ギルドが潰れかねねえ」


 事実であった。ジギスムント家が率いていたであろう軍。それがやった食料なり、なんなりの徴発によって飢えた国が出来上がっているのだからもう土下座するしかない。

 軍隊が通っていった後には草木すら残っているのも稀というほどだ。


「10万!」

「6万だ。これ以上は、出せねえ」

「渋いぜ。どうする?」

「いいよ。しょうがない」

「おうおう。まいどありー。こいつは、ちょっとした情報なんだが」


 

 中年の親父は、死者の一部と観られる石を見つめながらこそこそとつぶやく。


「彼処に座っている男は、アキュっていうんだがロリコン野郎っていう話がある。けどまあ、実際には違うんだな。続きを聞くか?」

「そりゃあ、気になるだろ」


 アキュは、普通にリリペットやサックを交えて会話をしている。ナタリーという小人族が増えていた。

 とても愛らしい。


「小人族ってのは、高く売れるってのは知っているか?」

「らしいね」

「だから、ここいらにいる小人族は大概があいつのクランに入っている。何しろ隙を見せたら売り飛ばすような外道がうようよしているしな。そんなわけで、アイツの事を誤解している連中も多いんだ。坊主たちは、そんな素振りは見せてねえしよろしくしてやってくれや」

「あはは、まあ、ぼちぼちで」


 ロシナが肘で突っつく。


「マジモンのロリコンだと思ってたぜ。やっぱゲームみたく強いわけないかあー。身体が小さいとやっぱ不便だよな」

「そりゃあね。荷物を運ぶのも、無理そうだし。身体からいって、手先は器用そうだけど。魔術もそこそこ使えるんだよね」


 ゲームならば、筋力やら歩幅は無視で移動能力も変わらない。けれどもそんなことはないようだ。ゲームの転移者で使用キャラに小人族を選んでいれば、噴飯ものだろう。ユーウの身体も小さい時には難儀したものだ。でかくなるスピードが異常だったが。それを不思議そうに見ている男。

 平均よりも出っ張った割れ顎を手で撫で始めた。


「ゲームってのが何かはわかんねえが。運び屋には向いてねえな。どっちかっていうと、希少な魔術師や治癒師ってのが多い。前衛をするにも小さすぎて盾に向かねえ。防御するはずの矢やらなんやらがそのまま後ろにいる連中に当たるからな。壁にゃあ使えねえってこったな」


 とんとんと中年の男は、机を指で叩く。

 にかっと笑いながら、


「んでもまあ、ここいらじゃあアイツらは名前の知れたクランだ。頼りにしてもいいはずだぜ? 例えば、お前らが通ってきたっていうバーム村の警備を頼むとか。小人の数が多いからな。男もロリコンってわけじゃないんだろうが、入っているクランにゃあ美人が多い。だから、男もそれなりに揃ってる。全部で五十人くらいか。ここじゃあ一等大きなクランよ」

 

「へえ。って、村ってバーム村の事?」


 通り過ぎた村だ。悲惨な村であった。ケアをしようとは思うのだが、何しろ手が足りない。


「おうよ。邪の道にいる蛇みてえなもんだからよ。俺の方でもお前さんたちの事情を調べさせてもらっているぜ。なんたって、土下座をかます貴族なんて人生で初めてみたぞ。それが、良いのか悪いのかは知らんが。俺は気に入った」


 男は、ロシナのヘルムを掴むとぐりぐりと撫で回す。


「あー。おっちゃん、それはいいから本題に入ってくれよ」

「そんで、だなあ。村の事なんだが、悪い知らせだ。ジギスムントの軍からそれとわかる連中が2000ほど村に向かっている。後方から1000とラトスクを迂回する格好で1000。奴ら、バーム村を焼き払うつもりらしい」

「マジで?」

「冗談で、こんなことを言えるか。ただ、これを指示しているのが誰だとかそういう事は不明だ。でもって赤騎士団の連中がここにいるのを把握しているようだし、割れているのも知っているようだ。つまるところ、ここから動こうにも時間がかかるのを。な、どうするんだ?」


 ロシナは頷く。


「そりゃあ、決まってんだろ。殺るしかねえ。説得とか、そういうの聞きそうもねえもんな」

「セリアは」


 テーブルでアルトリウスやオデットを交えて歓談している。そんな暇ができたようだ。

 ルーシアの方が給仕をしている始末だが。


「段取りは? さすがに、防ぎきれるとは言い切れねえ」

「平地ならいいんだけど。ゲリラ戦術を使ってこられたり、矢と魔術が飛んでくるとなると厳しいね」

「勝利条件が村人を守りきる、ってとこが肝だな。そんで、この話はいつ頃の話なんだ?」


 男は、眉間に皺を寄せた。


「情報を貰ったのが、今朝だからな。ひょっとするともう連中は村を襲っているかもしれん。運が良ければ、追いつける可能性もあるがな」

「はいいいいぃ」


 ロシナが飛び上がった。


「それは、その情報を騎士団には伝えてあるんですか?」

「はっはっは。坊主、俺ぁまだ死にたくねえぞ。言ってみれば、これだって博打みてえなもんだ。お前らがどれだけやれるのか。守れるのかっていうテストさ。騎士団に言ってみりゃ川に浮きましたじゃあ浮かばれねえ。死んで、何が残るんだよって話だぜ。皆、自分の身がかわいいのさ。俺だって、ご多分にもれずだ。ただ、まあちょっとしたものの弾みで言ってみたくなるじゃねえか」

「ありがとうございます。ロシナ、行くよ」

「行くって、おい」


 売上の金も受け取らずに、そこを離れる。


「ちょっと待て、二人でどうすんだ?」

「どうするもこうするも、襲ってくるなら倒すまでです」

「相手は、2000以上かもしれないんだぞ? 本気か」


 ロシナは、赤色に塗られた鉄片で包まれた手を握りしめた。すっかり男のいう事を信じている様子のロシナに疑念を抱くというのは無理がある。どれが真実なのかわからない場合に、拙速は禁物だ。勇み足で前に歩いて転ぶなどしたくはない。或いは、これが罠なのかもしれない。そういう頭を持っていないようでは、長生きもできないだろう。

 鼻息の荒い幼児は、いう。


「2000くらいでびびって引き下がるようなら、男がすたるってもんだぜ。なあ?」

「うーん」


 行くよ、と言ってみたものの迷いが生じる。善は急げだが、これは対処に困るような事態だ。

 敵は殺るだけで済む。味方を殺りました。では、ユウタの方が進退極まる。


「歯切れが悪いな。どうしたんだよ。おれぁやるぜ!」


 己は、頭がいい方ではない。はっきり言えば、頭の回転はとろい方に入る。脳筋だけに。

 しかし、真実の情報を集めなければいけない。情報だ。表面だけなら、赤騎士団の団員が難癖を付けられて始末されたように見える。そして、ガーフの方が心配でもある。

 

 こういう場合は、酒場でで集めるべきだろうか。

 ロシナは、兵士を集めるべく走りだした。

 印籠替わりのアルトリウスは、どういうつもりか興味深々という様子で見ている。

 外は、黒い雲が立ち上り始めた。



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