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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
228/711

43話 ロシナのスキル

 ユウタは、今日も粥を炊いていた。

 土下座は終了になった。セリアに叱られたからだ。

 それを思い出し、ぶるっと震える。からっとした風が、草を巻いてころころと転がっていく。

 銀髪を逆立てる勢いの彼女を思い出し、遠くを見やる。今日も行列は、長い。

 その列に、赤ん坊のような体躯をした小人族が歩き回って粥を配っている。

 リリペットたちが手伝いを申し出てくれていた。不思議な縁だ。

 それで、彼女は。


「強者たるお前が、なんで頭を下げる必要があるのだ。こいつらは、自業自得だ。狩りにもいけないような弱者は、飢えて死ぬしかない。お前のやっている事は、砂に水をかけるような事だぞ。無駄だ。それよりも、もっとやるべき事があるのではないか? ユークリウッド」 


「そんなこと言われたって、この人達がお腹をすかせているのは王様の責任じゃないの?」


「王は、責任など取らない。強者が故にだ。ただただ、追従を求めるのみである。だから、救ってやる必要もなければかまってやる必要もない。大体、民なんてのは勝手な物だぞ。負ければ、なんというか知っているか。敗戦後の父上などは、タダ飯ぐらいの役立たずなんて評判だったのだからな」


「それは、酷いね」


 己からすると、タダ飯をやってでも人気が欲しい。ミッドガルド軍の評判は最低最悪だ。

 だから、ユウタは止める気はしない。何しろ、何をやるにしても人気と知名度というのは重要なのだ。

 国境から入った村は、酷い物だった。首都に入る前に通過するはずであった町は、迷宮があるにもかかわらず飢えている。これでは、都市に入ればといういう事になるか予想ができてしまう。まずは、一つ一つ状況を改善していかなければおぼつかない。周辺の町にもロシナの兵をやっている。

 

 ガーフは、安心できる指揮官だ。

 そういう対応を迫られているというのに。


「全て、弱いのが悪い。強ければ、勝てれば、良いのだ。何もかもが強者の思いのまま。違うか?」

「違うよ。強さだけが全てじゃないよ」


 賛同してしまいそうな己がいる。それは確かな事なのだ。勝者が歴史を作っていくのだから。


「では、弱い奴に足を引っ張られてもそれを引いて行こうというのか。正義の味方を目指しているのか? あれは、ろくなもんじゃないぞ。ただ、自己を押し付けるだけだ。結局は、な」

「正義の味方なんてなりたいとは思っていないよ」

「じゃあ、聖者でも気取るつもりなのか。聖職者なんて、得体がしれない者に」

「それもないって」


 ユウタは、己がある。ただ、人に優しい世界であってほしいのだ。

 地獄のような過去を思い出せば、今はずっといきいきしているとはっきり言える。

 社会の歯車のように、決められた時間に決められた通りにただ作業をしている訳ではない。

 ここは、自由なのだ。嫌ならば、止められる。自由であるということは素晴らしい事だと叫ぶ事だってできるだろう。サラリーを得て、日々を食いつなぐというのとは違う。


「ふん。……好きにするがいい。だが、パーティーには遅れるな。後、運動会に出ろ」

「考えとくよ」


 毎日一緒に寝て、起きると運動会。運動会。いい加減にしてほしいものである。

 影魔術を使って、去っていくセリアを見送った。キースは毎度ズタボロの雑巾になっている。それをアンジェやグレゴリーが運んでいく。


「うへえ。セリア、マジ切れ寸前って感じだったな」

「え?」

「え? じゃあ、ねえだろ。凄え迫力だったじゃねえか。どこいくのか知らねえけど、ありゃ相当頭にきてるな。血の雨が振るぜ。マジで」


 そうだったであろうか。理解しがたいが、他の人間には強烈な圧迫感があったようだ。

 目の前の男が、ズボンに大海を描いていた。


「これ、多めについどきました」


 男は、そそくさと器を受け取って離れた。

 人は、飢えれば礼儀も正義も道理もどこかへと打ち捨ててしまう。狼国の人心は、荒廃しきっている。


「かなあ」

「かなあ。じゃねえって。あれのとばっちりを食らうなんて俺はごめんだぜ。そんで、今日はどうすんだ? 運動会にでもでてみるか?」

「出たって、セリアが一番になるだけじゃん。面白いのかなああれ」

「さあな。他の人間からしたら、すげええってなるかびびるかどっちかだろうな。実際、マジで化け物だからな。一人で、綱引きをしていたのにはマジ引くわ」


 実際には、他に人間がいるのだが。一人で、引張り勝ったようにしか見えない勢いがある。しかも、ぎりぎりまで負けそうな風にしているから狡猾だ。内心では、ニヤニヤしていたに違いない。或いは、澄まし顔でふんっと。引っ張ったというか。


 ミッドガルドは、寒くなるのが早い。秋だと思っていれば、すぐにも雪が降ったりする風だ。だから、収穫には気をつけなければならない。そして、収穫高が今年も過去最高を更新した。取れる量を素早く計算し、ミッドガルドの食料自給率もまた過去最高になりつつある事に安堵した。日本人たちを上手く使ってアピールもし始めた。


 アピールは、しなければならない。わかってもらえない理解してもらえない。そんな事は、相手に対して言葉を投げなければわかってもらえるはずもない。勝手に相手が、解釈してしまう。そんな風だから、損をしている。奥ゆかしいのも結構なのだが。

 ユウタは、ロシナを視た。


 筋力B 耐久力B 敏捷D 魔力E 幸運B スキルS 

 平均以上だ。ランクにしてみれば、わかりやすい。


「ちょ、おま。なんで、今みてんの」

「セリアを止められるのはロシナしかいないよね」


 ロシナは、スキルに重きをおいている。


「マテマテ。俺、死ぬ。死んじゃう」

「ロシナならできるよっ。ファイ!」

「ファイじゃ、ねえよ。勘弁してかーさい」 


 最初は、オールG。

 出会った時に比べれば、相当な上がりだ。細かい数値まで計算すると、面倒くさい。

 固有スキルは金剛不壊たるバリアブルガード ランクS相当。これだけが異常な性能だ。

 他のスキルは、平凡なのに。突出した性能を持つ。

 からのよろいはこわれはしない。という事らしいが、嘘か真か。


 特性としては、衝撃無効というような脅威的な特性がある。変形も可能らしく、見えざる武器とすることも可能だ。空間系の魔術を使う事のできない敵にとっては最悪の相手と言える。ユウタからするとロシナ次第では最強になれるポテンシャルがあるとふんでいる。敵にするよりは、味方につけておいた方がなにかと便利であるし。付き合いも悪くない。


 ここで、こうして粥の給仕をしてくれているくらいなのだ。セリアに頼み込んでみたのだが、にべなく断られた。アルにいうのは、どうみても斬られかねない。 

 ロシナは騎乗に剣術、軍略に優れている。反面、経済活動には疎いのか。やることなす事空回りしている。どうしてそうなるのか。情報収集に、金と時間をかけていないようだ。なんでも己でやろうとするのは、失敗の元である。


「ところで、どうだったんだよ」

「何が?」

「ふひひ。とぼけんなよ。あれだよ、あれ。おっぱいボーンなねえちゃんとうまくやったんだろ」


 空を見上げた。そんな事はない。危なかったが。


「何もなかったよ」

「はあ?」


 ロシナは、呆れたような顔をしている。どうしたことか。童貞は、守るものだ。

 

「何かおかしいのかな」

「おかしいに決まってるだろ。やらなかったのかよ。据え膳食わぬは男の恥だろうが!」

「いや、それは違うよ。まだ、僕らは子供じゃないか。責任なんて取れないよ」

「お前、変なところで真面目だよな。責任とか。ありえなくね? 貴族なんだぜ。俺ら」


 日本とは、違う。と、言いたいのだろう。確かにそういった部分がないわけでもない。

 ただ、出したら孕んでしまうではないか。そして、腰を振るだけなら自家発電でいい。もっともな理由としては、年齢が若すぎるという事だ。いくらなんでも身体が多少大きくともやってしまうのは、倫理的に問題がある。


「子供できちゃったらどうするの?」

「産ませればいいじゃんよ。スキル持ちの子種なんて、金を積んでだって欲しがる奴はいるんだぜ?」


 スキル至上主義。確かに、ミッドガルドに蔓延る悪習だ。

 魔物が跋扈していたミッドガルドでは、スキルを持っているか。魔力が高いかどうか。これが容姿並に問われる。

 勉強ができるかどうかよりも、戦闘関係のスキルや生産系のスキルの有無が重要だ。何しろ、銃の効かない魔物たちを駆除するにはスキルが物をいう。LV次第では貴族にだってなれる。高LVの冒険者ともなれば、入婿として誘いが引きも切らない。

 それでも。


「僕は、あんまりいい気はしないよ」

「そうか? でも、綺麗なねーちゃんだったじゃんか。もったいねえ」


 後ろからは、殺気が飛んでいる。ロシナに。


「桜火さんが助けてくれなかったら、大変な事になってたんだよ。人ごとなんだろうけどさ」

「なんだ。メイドさんに助けて貰ったのかよ。面白そうだったのに」


 ロシナは、気がついていない様子だ。


「ほう? 俺がいない間に、大変な真似をしてくれたな?」

「へっ?」

「どうしてくれようか」


 ロシナは、顔が真っ青だ。後ろには、アルトリウスがジャガイモの皮を剥きながら爪を包丁で削っている。


「へぁっ。アル様、いらしたんですか。あは、あー。すいません」

「すいませんで、済むか。ぼけっぇ!」


 ロシナは、火だるまになった。走り回るそれは、カチカチ山の狸さんという様相である。

 水を掛けなければ死んでしまう。Sランクスキルに頼りきりで、回避力がない。タンクをやってすぐに死ぬという原因でもあった。初級のアクアを唱えて、水を出して消火する。

 ずぶ濡れになって火だるまになっても、ロシナは生きていた。治癒してやるまでもない様子だ。


「た、助かったぜ」

「酷いですよ。いきなり放火するなんて」


 アルトリウスは、火をよく使う。火計も。ブリタニアでも盛大な作戦で火攻めにしたとか。


「ふん。当然だ。殺しはせぬが。大体、なんだ。えっちな事は、駄目だぞ。大人になってからだ。早熟の蕾も腐れかけては実らぬ。時期を待つのが賢王というものだ」

「ですよね~。ロシナがおかしいだけなんだよ」

「男は、みんなそうなんだよ。興味があるのが普通だってばよ」


 メイドさんは、にこにこしながら器を集めている。彼女を見ようと来ている人間も少なくないのではないか。

 

「…でかいのが好みか」

「いえ」

「ふーむ」


 アルトリウスは、手を当てて胸を見ている。真っ平らだ。僅かな起伏すらない。大丈夫。大して、成長はしない。成長しないからといって、魅力が損なわれる訳ではない。胸をぽんぽんと叩いた後、


「狩りに行く前にだな。これは修正しておいたからな」

「あっ、はい」


 一枚の紙があった。扶養控除の修正だ。己で何かした訳ではないけれど。

 ロシナが笑顔だ。


(殴りたい。こいつを)


 いずれ、修正されるとは考えていた問題だった。しかし、予想以上に早い。

 王制が故か。悪化するときは、進行も早い。が、治りも早いというべきか。


「これ、やばいっていってましたよね。さすがアル様、仕事が早い」


 扶養控除での、優遇が解消されてしまうとは。

 困った事になった。日本人世帯と外国人世帯の格差。日本では、年間控除額が622700円と108000円。この扶養控除差を修正せずに放置していた外国人問題が解消されてしまったのだ。日本では、日本人が差別されていたのである。ミッドガルドでは、優遇してやりたいという気持ちが強いのだ。それで、日本人の家族には控除されるようになっていたのに。

 外人を優遇していた日本に対して、ロシナの憎悪の深さを思い知らされる結果になった。

 味方なのだけれども。


「……」

「駄目だぞ。所得税を0にしようだなんてな。5年もこれを放置していたのでは、ミッドガルド人に対する逆差別だ」

「そうだぜ。そういう事だから」


 ロシナを殴る訳にもいかない。正しい事なのだ。おかしい事を修正したのだから。

 とはいえ、スキルや魔力において劣る日本人たちはとにかくいじめの対象にされやすい。肉体的には、戦いにならないはずなのである。気合だとかよくわけのわからない精神論で乗り切ってしまうけれども。生活基盤を作るには、多少の優遇でもしてやらねば国外に行きかねない。奴隷ではないので、強制的に留め置く事もできないし。

 そこを苦慮するのだが、そういう配慮に二人はお構いなしだ。


「スキルの有無で日本人たちを馬鹿にしないように指導していく。後は、黒髪だからといってからかったりしないように。とか徹底させていく。だから、安心しておくがいい。弱い者を保護するのも王の努め故に。天下太平に万民をすべからく安らかに扱う。責務よな」

「同じ扱いをしてなきゃなあ。将来、困るんだぜ? 虐殺とかあったら、目も当てられないだろ」

「…うん」


 ロシナとアルトリウスの正論に頷く以外になかった。


「ふっふっふ。未来の帝王たる俺にできぬ事はない。闇世を切り裂く黄金の光たる俺が約束するのだ。大船に乗ったつもりでいるが良い」

「ですよねえ。時間もいいし、迷宮に行こうぜ。なんでも餓狼饗宴の10層から先は、未踏破層らしいじゃねえか。行ってみたいぜ」

「ほほう。それは、腕が鳴るな。俺の剣も哭いている。天地に救う悪を滅ぼす前に、一狩りというのも一興。ふはははっ」


 高笑いに、頭痛がする。

 この人ら。というのが、偽らざる気持ちだ。人の都合など一切気にしない。一応、一日のスケジュールというのが存在しているというのに。

 10層から未踏破層ということは、そこがボス部屋に違いない。ちなみに、牛神王の迷宮は30層からが未踏破に当たる。そこから先には、超えた者がいないという迷宮であった。ユーウたちは、余裕で越えていったけれども。

 一見しては、脱出不能の仕掛けがあるため逃げる事もできないのがポイントだ。

 牛神王の30層は、とあるタイミングで炎系のギミックが発動して全滅へと誘う。

 範囲攻撃を避けられないでも詰むというような代物であった。


「わかりました」

「心地良い風が、吹いている。俺も優しさは、人を救う。というのは同意だ。人の善意こそが世界を続けさせているのだとな。天上に坐す神々もご覧になろう。時に、俺は貢物をもらわなくもない。いや、あると善い。人の気遣いを受けられるのは王者の特権でもあるし、いや。この器に全てを注ぐのも悪くない。な?」


 腹減ったと。面倒くさい人だ。オデットもルーシアもDDさえもが三角の目で見ている。

 辺りには、露店が立ち並ぶ。倒れかけた家は、飯を食う代わりに建て替えをさせていった。露店で、肉を売っているのもコルト商会の人間だ。現地採用という強引な手法である。おかげで、通りは混雑している。肉を食いに来る人間と仕事を求める人間とで、だ。


 タダ飯をやって、仕事をやって、住居をよくして、環境を整える。

 国の王族であるセリアの仕事であるはずなのだが。やる気なさすぎである。

 器を頬張るロシナとアルトリウス。勢いが違う。


「これ、いけますよね」

「うむ。ジャガイモを自分で剥いてみたが、こやつめ、予想を超えた抵抗であった。我が剣の冴えには勝てなかったがな! 時に、この邪悪なる物体、もとい鋭く尖った鱗はいらぬ。捨ててしまってもよいか」


 物体というのは、小魚の事であろう。付近でとれるエレジアブナに似た物を干した奴だ。

 ユウタは、勿論網を使って一獲である。


「駄目ですよ。背、伸びませんよ」

「な、んと。我が帝王道を妨げんとする奸物がここに! 星雲も落ちよとばかりに滂沱するぞ…う。うう、せめて一口で葬ってやろう」


 何を葬るつもりなのか。

 さっと投げた。それをDDがぴょんぴょんしてキャッチするという始末だ。

 ぱくぱくさせている。


「見ろ。やはり、敵ではなかったな。腐海の主にも劣らぬ脅威。光をも凌駕した早さに、驚いたか。我が威光には逃げ去るより他にないのも道理。敗北させようなどと、片腹痛いわ!」


 ハリセンがあったら、頭をはたいている所だ。

 セリアのあれといい、どうにかしなければならないのは一人ではなかった。

150万字も近いので、どの話が良かったとか。読みきったら、感想をいただけるとありがたいです。

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