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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
226/711

41話 強敵は

 暗い迷宮を走る。手には、カンテラ。じめじめとした空気が苛立たしい。 


 とはいえ、絶好の機会だ。対象が護衛もろくにつけず迷宮に入っていると。


(対象は強い。という。が、我らでどうにかなればよい。数は、揃えた。後は、やり方次第か)


 逃がす訳にはいかない任務だ。ちょうど情報を収集しているところで、突然訪れた。そう、ようやく機会が巡ってきたのだ。横にいる子供が、そわそわしているのが気がかりだ。

 戦うのは、誰でもできる。無謀と勇敢を分けて考えねばないらない。

 だというのに。


(噂だけが先行しているという話だが、侮れん。この餓鬼は、わかっているのか。最悪、見捨てる事になる。敵の戦力を測る事が目的なのだ。いきなり殺れるならば、そもそも兵を差し向けたりはすまいに。といっても見てみないことには、な)


 左右に控えている兵は、同僚である騎士。やかん頭にゴツゴツとした黒塗りの金属鎧をまとった方は、ゴルドフ。脇に挿したメイスが主武装だ。盾をよくする戦士系でもある。

 羽根飾りのついた白兜に軽装の鎖帷子をまとった青と白を基調にしたキース。どちらも、国ではありがちな名前だ。失敗した事のないキースは、調子に乗っているといってもいい。一度、黒竜と戦わせてみるのもありなくらいだ。死ぬであろうが。こちらは、レイピアを使う剣士系だ。

 

 二人は、ともにセプテントリオンにして帝国の誇る最強の騎士でもある。帝国でも、選びぬかれた強者である事は間違いなく。百の兵士を相手にしても、切り抜けられるだけの技量がある。千の兵を相手にしても引かぬ力を持っていなければ、セプテントリオンには選ばれない。それが、三人も同じ場所で同じ任務を受けたのだから勝てると思い込むのも若さ故か。増長するキースを抑えるのは一苦労である。


 今回の目的は、単純だ。

 後方に控えている兵を呼び寄せて、王国の重要人物を消す。そういう段取りだ。

 が、目の前に迫った相手を見て固まった。誘っている。明らかに、罠だ。

 どうやれば、相手を倒せるのか皆目検討が付かないほどだ。毒が効くか。寝込みでも襲うか。やれば、黒竜が黙っていない。と、釘を刺されている。「食われに行くというのなら、いくらでも刺客を放ってみるがいい」と。実際、放った結果は散々なものだった。帰ってきた者は、誰一人いない。身元がはっきりしているミッドガルド人を金で釣ろうとしても、拒否される。


 胡散臭い盗賊ギルドや暗殺者ギルドですら、あそこに手を出そうという者は居ないという。

 と、警告を受けた。


(見た目とは、裏腹だ。あれが、こちらを消す気なら。やられる)


 見た目は、こじんまりとしたどこにでも居そうな乞食という風で。襤褸を纏っているいるが。

 無理だ。己の技と力、それにスキルを鑑みてそう判断せざる得ない。魔力を感じ取れないのが、異常だ。


(魔力がまるでない、魔術師だと? それでいて、底が見えない。ロシナ・アインゲラーを排除しても、ユークリウッド・アルブレスト。噂以上の化け物だ。どうにかなる相手ではない)


 蚊蜻蛉と人。くらいには、差がある。肌の感覚だ。

 一目でわかってしまった。圧倒的な戦闘力。まるで、魔力を持っているようにはみえないのが狡猾だ。つまり、「こいよ、こい。こいっつってんだろ」と。誘い受けの姿勢だ。間違いなく。チラリ、チラリと同僚の顔を伺う。大柄な男の顎から、大粒の汗が落ちていく。呑気なのは、少女だけだ。じっと相手を見つめている小柄な子供の頭を叩く。


「引くぞ」


 男になりたがりのキースは、負けん気が強い。手で諭しても、中々わからない子供だ。


「なんでだよ。あんな奴ら、俺だけでもいけらあ」

「馬鹿者」


 わからないのか。いや、そうれもそうかもしれない。キースは、栄えある帝国騎士となって間もない。敗北も知らないまま、勝ち続けた。己とゴルドフには負けているが。だからか、


「おっさんたちなら勝てるんじゃねえの?」

「わからんか。あれは……正真正銘の化け物だ。前を歩いている赤い鎧のは、ブラフだぞ。本命は、あの黒いのだ」

「はあ? おいおいおい。赤いのがロシナ・アインゲラーだろ? 王国の将軍候補じゃねえの。今のうちに潰しとけって指令だろ。逃げんのかよ」

「ああ。逃げる」


 相手は、陽気に接近してくる。警戒しているのは、こちらもあちらも同じだ。けれど、戦闘力では圧倒的な差がある。そもそも、殺すつもりならば物陰に潜んでいようが関係ない相手だ。攻撃力は、帝国の戦車部隊を軽く凌駕するという。セリアが居ないので、チャンスだと考えたのはどう見ても間違いだった。


「むぐっ」


 キースの口を押さえる。と、同時に入り口からは距離を取って離れる。逃げるのではない。自然な形だ。相手は、ユークリウッド・アルブレストは、ちらと己たちを見ただけであった。すれ違って去っていく相手の後ろ姿を襲うなど、毛頭ない。全く脅威を感じさせないのが、恐ろしい。分からない人間には、彼の戦闘力を図ることなどできはしないだろう。

 と、

「ざけんなよ。グレゴリーのおっさん。指令は、無視かよ」

「無理ならば、時節を待つのも戦略だ。あんな者をたった三人で相手にするのは無謀というものだぞ。もっとも、セプテントリオン全員を集めたところでどうにかできるのか怪しいがな」

「そこまでいうかよ」


 グレゴリーの手を振り払い、キースは背伸びした。


「俺が試してやるよ」

「待て。これ、待てというに」


 キースの足に、重装備のグレゴリーでは追いつけない。

 グレゴリーとて、並の速度ではないのだが---


「おいっ」

「君は…さっきの人たちかな」

「手合わせしろ」

「いきなりだね」

 

 キースが、襤褸をまとった少年に剣を向けている。頭には、錐でも差し込まれたかのような痛みが走る。勝てない時には、大体これが教えてくれる。策を講じる必要があるのだ。が、血気盛んな子供でしかないキースは自分の力に酔っている節がある。少なくとも勝てない相手に突っ込んでいく特攻癖は、己にはないし。ゴルドフやキースをみすみす死なせる訳にもいかない、が。

 

(こいつは、切るか? しかし、見捨てるのも勿体無いんだが)


 剣を向けられたというのに、赤い鎧をまとった少年も黒いローブの少年も泰然自若としている。

 後ろにいる大柄な男たちの方が緊張しているくらいだ。


(いかんな。こちらには)


 ゴルドフに目で合図を送る。ゴルドフの大きな手が、キースを手を抑える。


「だあっ。おっさん、なんのつもりだよ」

「失礼した。こちらには、敵意はない。これは、馬鹿者なのである。無礼を水に流してやってほしい」


 青い目だ。黒いフードから、己を見透かすように。探っているようでもある。


「いえ、いいですよ」

「よかねえよ。お前ら、帝国人だな?」


 不味い。


「帝国人だと、何か問題があるので?」

「おうよ。お前ら、ハイランドにちょっかいかけてんだろ。どういうつもりだ」


 赤い鎧のロシナはやる気満々だ。不可視の盾を持つという彼の攻略法など、そうそうない。

 己が今少し魔術を使えるならば、やりようはある。だが、それにしたって強敵すぎる。アルカディアでは、万の兵を屍に変えたという。うそ臭い戦歴の持ち主で、年の頃は幼児なのに見た目は少年だ。

 レイピアを持つごつごつとした手を払いのけられないと。


「はっ。何を言い出すかと思えば、そんなことか。それは、国境部隊の出すぎた行動だろ。そういうもんだ。いちいちとりあってられるか」


 馬鹿だ。

 ゴルドフに再度、合図を送る。今度は、口を塞いだ。


「それは、確かに問題です。が、一騎士ごときにはいかんせん力不足というもの。ご理解いただきたい」「ま、そりゃそうだわな。それで、そいつはなんなんだよ。喧嘩売ってんのか? 手合わせなんてのは、敵同士でやるもんじゃねえ。殺すか、殺されるかだろうに。馬鹿なのか?」


 その通り。馬鹿なのだ。

 しかし、馬鹿は自身が馬鹿であるとは思わないもの。どうしようもない馬鹿ならば、扱いようもあるが。なまじ、知能はほどほどにあるのだから始末が悪い。


「こやつは、確かに愚か者。さりとて、むやみに殺しをする方々ではありますまい? こう見えて、女ですからな」

「はっ。これだから、帝国人ってのは卑怯者だっていわれるんだぜぇ? 女子供を盾にする気かよ。大した騎士道だな!」


 落ち着いて息を吐く。ゴルドフなどは、顔を真っ赤に染め上げているが。激昂して、決闘を申し込むのは愚策だ。ユークリウッド・アルブレストは全く魔力を感じさせない。どういうことか。煽っているのは、丸わかりだ。

 その手に乗ってやるつもりはない。


「落ち着け。ゴルドフ、キース」

「あ?」


 思い切り、蹴りを見舞う。キースの細い身体は、もんどり打って壁に激突した。死ぬほどではない。己の攻撃力は、やった本人でも少々引く程度になった。殺すほどの力は込めていないが、痙攣している。


「すまない。こやつらには、言って聞かせる。ゆえ、この場はおさめていただきたい」

「そうですか。ですが、女の子を蹴り飛ばすのはいただけませんよ。程々にしてあげてください」

「うむ」


 ガラス玉のような目に不穏な光が灯されている。一触即発で、倒されるのはグレゴリーたちであっただろう。彼我の戦闘力を測りしれないというのならば、救いようがない。倒れたキースをゴルドフが助け起こしている。そこに、


「ユーウ。何をしている? 腹が減った。飯の時間だぞ。帰るぞ」


 うなじに寒気が走る。アル王子だ。魔術的描写で描かれる事が多い。暗殺する相手を見間違えないためだ。ここでは金髪を長くまとめた格好で、中性的な容姿をしている。帝国では、皇女の輿入れまで検討されている相手だ。ミッドガルド王国を打倒するのは、帝国にとって悲願である。だとしても、当面の相手はハイランド王国であり、南にある獣人連合国だ。 

 美しいメイドを連れている。が、王子がくるような場所ではない。


(なぜ、こんなところに? それよりも、どうするかだ)


 討てるなら討っておきたいが、子供だ。不意打ちもやる気分ではない。

 そんな思惑をよそに、王子と魔術師は話を続ける。

 

「また……はあ、わかりました。イングリットさんたちはどうしますか。良ければ、街まで送っていきますよ」

「転送してもらえるなら、そうしようかな。仲間も来るまで、時間がかかりそうだし」


 粘着く手に、スキルを乗せるか迷う。討つべき相手ではあるが、同時に時を選ばねばならない。

 相手は、星の守護者と噂される王族なのだ。下手にやってしまっては、世界的な惨事と非難を浴びかねないだろう。帝国の皇族もまた、遠い血縁関係にある。暗殺などしては、面目もなくなる。

 

(毒殺、か? もしくは、それに近い形の事故死。不敬だが、死んでいただかねばならぬ。どうしたものかな)


 知らず、腰に構えた剣に手がかかり、


「ふむ。来るなら来い。いつでも、相手をしてやろう。ただ、その前にこいつらを倒せれば、だがな」


 傲岸にも、先手をとって言いのける。左には不敵な光をたたえた狼族の幼女が、右には銀髪を短く切りそろえたメイドだ。胸元を強調するかのような服とそれとわかる胸が目を引く。

 眩い銀、金、銀。


(眩しいな)


 3人共に、余人ならば目を奪われるような容姿だ。

少なくともグレゴリーが出会った中の人間で、メイドと同程度の容姿を持つ者は少ない。容姿以上に危機感を煽られるのは、グレゴリーの勘だ。容姿に騙されてはいけない。戦ってもいけない相手だ。


「お戯れを。我ら帝国騎士とて、皇室とのつながりを知る身。王国に喧嘩を売ろうなど、滅相もありませぬ」

「よいよい。だが、この首は安くはないぞ。討つならば覚悟してくることだ」


 と、


「!?」

 

 宙を舞っていた。天地が逆さまになってグレゴリーの身体は壁に打ち付けられた事を知る。

 

「ガキが! オッサン大丈夫か? てめえぇ」


 キースの声が響く。やったのはセリアか。背中にかかる銀髪が宙に浮かんでいた。


(速すぎる!)


 受け身を取るどころではない。ゴルドフが、スキルを使おうとする。それを使っては、戦う羽目になる。博打は嫌いだ。確実に勝てる時に、勝つ。その時までは我慢するしかない。

 大声で危惧するが、


「いかん! ゴルドフ!」

「……」


 女児の身体とは思えぬ力で、二人は蹴り飛ばされた。同様に、壁に叩きつけられた格好だ。

 勘は、的中した。手も足もでないとは。


「ふっ。これで? まさかな」


 鼻をこすりながら、嘲笑を浴びせかける。が、反論もしようがない。

 息がつまり、胸の骨が折れているのを知覚する。二人のダメージはそれと同じかそれ以上のレベルだろう。

 だが、


「があっ」


 血走った目をさせた獣のようにキースが飛びかかる。馬鹿だ。流血もしているというのに、全力でのレイピアを使った一撃。スキルを纏った刺突剣は、紅色の鱗粉をまき散らしているようでもある。

 相手は、それを軽やかに躱しながら、鳩尾に膝を見舞う。

 セリアの攻撃は、強烈だ。とても手加減しているとは、思えない。伝え聞く幼女の力ならば、五体が四散してもおかしくない。止める者が居なければ、死ぬ。


(抜くべきではない。抜けば……)


 少女は、宙に浮いて地面に落ちた。痙攣している。

 そこにユークリウッドが声をかけた。己のスキル、剛破を使うべきか否か。撃ったところで切り抜けられるとも限らない。


「セリア、ダメだよ。その子。それ以上は、死んじゃうよ」

「ふん。こいつ、女か?」

「そうだよ。あんまり無茶は駄目だって」

「また悪い癖だな。大男の方は、まだやれそうだぞ」


 ゴルドフが立ち上がろうとしている。ぬうっと、大斧を構えていた。


「そこまでにしておけ。仮にもセプテントリオンの連中だ。殺せば、戦争にもなりかねん」

「それは、都合がよろしゅうございますね」


 アルに銀髪のメイドが両の手を合わせながら応じる。殺して、埋めればわかりはしない。普通は、そうだ。それとも何かがあるのか。魔術を使った探知などでわかりそうではある。魔術について詳しくない己の不知に、絶望しながら眺めるしかない。


「はっはっは。確かに、だが好きで戦争したがるのはあいつだけだ。私は、限界を知る方だぞ。それに統治というのは面倒なものだ。責任を取らされる」

「全て、お任せくださるのならばこの桜火めが手配いたしますが?」

「いや、それはなぁ。無能扱いされるのも業腹よ。却下」


 メイドがスカートの裾を手に取り、グレゴリーの方へと歩み寄る。

 今少し年を重ねれば、どれほどの色香を身につけるのか。絶世の美女になっているに違いない。

 そんな少女の声が耳朶を打つ。


「大丈夫でございますか?」

「なんのこれしき。心配無用。この程度では、死なん。それよりも、見逃すのか? 我らを」

「ふふふ。いつでも、お相手いたしましょう。そういえば、あなた方のお友達が邪魔をするので少々叩かせていただきました。行く先を遮るのではしょうがありませんよね?」

「ああ」


 部下たちが。寄せ集めだけに、ごろつきとかわらない。彼らは、クズの集団である。

 桜火と呼ばれたメイドは、立ち上がりお辞儀をする。殺されたか。殺されてもしょうがない者ばかりを使っていた。殺し、犯す。襲って、殺される。それもまた運命である。

 部下が殺された事よりも、手も足も出ない状況の方が衝撃であった。これほどまでの差。


(ウィル様。状況は、非常に厳しいですぞ。任務続行は、命をかけても果たせそうにありませぬ。如何にするべきか。銃、大砲、毒、女、酒。うーむ。キースを敵と接触させるべきだったか。埋伏の毒。いずれにしても時すでに遅しか。敵が強すぎたな。魔剣を振るう暇もないとは)

 

 頭は、ぐるぐると霞がかかっている。受けたダメージは、身体に浸透して、痺れをもたらしていて。


(ぐ、足が)


 生まれたて子鹿のように、足が震える。

 立ち上がりながら、頭をよぎるのは任務の失敗をどう報告したものか。ということだ。

 去っていく相手を見て、勝てそうなのが小人族くらいだという事に愕然とした。





 敵だと思ったら、味方であった。そんな不満に、悄然とした。求めているのは、強敵だ。

 

 帝国騎士。

 存分に殺し合いを演じる事のできたゴブリンたちや忍者たちに比べて、圧倒的なまでの力を持っていたに違いない。セプテントリオンだと言ったが、遥かに異能が足りない。技が、魔力が、力が。努力しすぎたのであろうか。それとも、セリアやアルと決闘らしきものをやっている内にユーウが能力を伸ばしすぎたということであろうか。どちらにしても、不完全燃焼だ。


 イングリットたちを送った後。アルたちを連れて近くの街で、プリンを食べている。

 道端で、そのまま簡素なテーブルを用意してだ。


「ふん。どうした?」

「いえ」


 知らない事もある。

 知らないからといって、それをそのままにしていくのは愚者の選択である。


(優遇しないと、逃げられるし。だからといって殺すわけにもいかないし。かといって、待遇がよくないのに俺のとこにいる理由がないしなあ)


 ユウタは、元外国人である日本人の優遇について止めざるえなかった。住民税などや所得税なども。無税にしていたわけではない。人頭税からそういった税制に変えるのには、彼らが活躍しているのだし穴というべきかそれができるのは已む得ないのか。


(住民税半額くらいやってやりたい。アルーシュには、税制上の改革やらもしてほしいんだけどな。貴族に対する累進課税がないっていう。俺も貴族だけど、反対する勢力が大きすぎるのが問題だっていうのに。相続税すらねえ)


 日本では、扶養控除を悪用した脱税が蔓延っていた。だからか、ロシナは手厳しい。在日韓国人なりが扶養家族を20人と偽って、申告し脱税を行うのは有名な話で。彼は、それらが許せなかったようだ。扶養控除、それ自体は底辺労働者であった己にとっては縁遠いものだ。そもそも、結婚などできなかった。金がなかったから。


(貴族も金がねーといけないのはわかる。商人に牛耳られちまうし)


 金。

 大事だ。税金を払っているといいながら、嘘をついている人間を憎むのもわかる。なぜ、日本人が真面目に払っている横で脱税がまかり通るのか。日本人と同等の扱いをするからだ、と。嘘をつくのも憎まれる原因なのだろう。ミッドガルドでの日本人が嘘をついているわけでもないのに、ロシナは憎たらしい様子だ。己が優遇しているからか。頑張れと。笑顔で、手を降っている。


(なんというぶん殴りたくなる顔だよっ)


 アルは、満足そうにプリンを頬張っている。手作りで、下手なのだが。

 金色に輝く甲冑の類を虚空へと還し、ラフな格好をして食べている。

 ティーシャツに近い服のそれは、真っ赤であった。


「美味しいな」

「それは良かった。まだまだありますからね」


 お世辞に違いない。

 日本人から教わったものと本を生かして、色々と作っている。

 自身がやれる事には、限界があり、人一人ではやれない事の方が多いのだ。

 戦いをすれば、その間の生産活動はどうするのか。ものづくりに欠かせないのは、伝承である。

 日本人には、サボらずに真面目に働くという勤労の概念がある。


 やはり、厚遇して間違いはない。と思う瞬間であろう。ものづくりでは、日本人に優る種族を知らない。ドワーフなる土妖精がいるらしいのだが、今のところ確保に手間取っている。というのも、ユグドラシルがある場所にはエルフが。ドワーフがいる場所は、山だという。

 

 かつて、といえばおかしな事になる。が、ユウタはペダ村でドワーフを確保した。

 それよりも、日本人というのはおかしな種族である。間違いなく。24時間戦えますか、というような種族は日本人だけであろう。ミッドガルドでもハイデルベルクでも狼国でもそのような人間はいなかった。大抵は、7時間も働けば疲れはててしまう。


 異常だろう。日本人の労働時間は。

 そんな事を他所に、アルは手を組んで目を座らせた。

  

「それより、お前。なんで、土下座なんかしているのだ? 意味がわからないぞ」

「その……ごめんなさいという事ですよ」

「もっとわからないな。色々と考えているのだろうが」


 アルは、口元がら火が出ている。といっても、普通の火ではなく。魔術でいうところの霊的な火であろう。ユウタは、それを勝手に霊火などと名付けている。桜火は、口元を拭ってやると。


「ふっ。そんな小さな事よりも、面白い物を見せてやろう」


 セリアが冷麺を喉に流し込む。それが出現した。巨大な機械人形だ。テレビアニメで見るようなロボット。それがそのまま出現して、立ち上がる。仮にも街の中だ。

 すぐに、辺りは大騒ぎになる。ロシナもルーシアもオデットですら目を擦っていた。


「あー。こんなのと戦ってきたの? よく勝てたねえ」

「どうということはない。動きが遅すぎる。普通に考えて、脅威なのは高出力照射器だけだ。人間が当たれば蒸発する性能だったな。もっと厄介なのは、飛行機だったぞ」


 ふふん。と、胸を反らしている。よほど、自慢したかったのか。

 聞けば、バカバカしくなるような科学兵器と生身でやりあってきたという。

 それは、巨大な鉄の固まりにしか見えない。巨人だ。

 上空から、爆弾を落としてくる戦法には現代戦を彷彿させる。

 巨人を作れる技術があるのならば、勝ち目も無さそうに見えるのだが。


「飛行機も、一人で倒したの?」

「そうだぞ。味方が、ほとんど上がってこれない高度からひたすら煙幕弾に焼夷弾を撃ってくるのは閉口するぞ。こちらは、魔獣か鳥系の飛行部隊で追いつけないでいたからな。私がどうにかするしかなかった」


 そんな国を相手に、よくも勝てた。一人で戦っていたのではないだろうけれども。

 道理で、最近フィナルやエリアスが顔を見せない訳である。蘇生に移動に防御や相手国での調達には苦労しているはず。集積所には、ユウタが運んでいるけれども。


「えっと、それでこっちに顔を出したって事は終わり?」


 セリアは、キュウリに似た野菜を切ったサラダを食べ始めた。

 

「うむ。奴らとは、殲滅戦をやっている訳ではない。だから、適当なところで降伏を迫れば否とはいえぬ。それに、これがモノをいったしな」


 アルは、腰に下げた剣を抜き放つ。淡い光が漏れだす。まるで、剣に蛍が集まっているかのようだ。

 有名な剣だ。が、そんなスキルはついていなかったはず。では、どういう事か。

 原子と原子を入れ替えている超科学的な代物だとでもいうのだろうか。

 フォトニックに対する仮説が脳裏を横切る。


「どういう事ですか」

「ブリタニアの、いや、島を統べし王の持つ剣だからだ。私こそが、王であり、大陸を統一する未来の帝王である。で、だ」

「はい」


 紺碧の瞳には、真摯さがある。真っ直ぐに、ユウタを視て。身動ぎ一つなく、プリンはテーブルの上から消えていた。時に、


「私の」


 アルが足元の闇に引っ張り込まれていく。代わりに、白い紙切れがそこから出てきた。


「今のは、無し……と」

「ふむ。姉上らしい」


 書いてある文言に、頷くセリア。腕組みをしている。

 胸は、高鳴っていたというのに残念至極な展開だ。思い起こせば、決闘をやらなくなってから何度もユーウにはあった光景だ。何となく察する事のできる機微だが、恋人というには早過ぎる。年齢が。

 前田利家とか、そういう人をぶっちぎってしまう。

 かの人は、11歳で。であったらしいが。嘘か真か。ロリコンの汚名を着てしまう。


「助かったのかもしれない」

「ほほう。では、勝負だ」


 なんで、こうなるのか。今日も今日とて、甘酸っぱい展開などない。

 肉弾戦、というよりは殴り合いで。とても正常な関係とはいえない。

 ちなみに、セリアは葉っぱをしていたので教育にしどろもどろになった。

「いつになったら、イチャラブするんだ」

「知らん」

「やる気あるのか」

「どうせいちゅうんじゃい」

「エロだ」

「繋がらないだろ」

「人は、性欲には勝てん」

「そうか?」

「そんなもんだ。間違いない。脱ぐと売れる」

「いや、萌えだろ」

「どこに萌える要素があるんだ」

「DDをひたすら撫で回している」

「……」

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