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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
222/710

37話 カードの能力

 天井は青黒いカビがびっしりと生えている。

 そこで、動物の唸り声と鎧が擦れる音が楽器のようだ。

 対するのは首を二つに分けた犬型の魔物と小柄な男女。


「マナの流れを読むんだよ」

「当たり前でしょ」

「それが、できないからやり方を教えてくれっていう、のな」


 ロシナは、ボス戦で落ちる事の多いタンクだった。

 暑い日差しをよそに、土下座参りをしては迷宮に入る。

 

 ユウタの後ろについてくるのは、長い黒髪をローブに収めたオデット。獣の皮をなめした鎧を纏い、眼帯をしたルーシアだ。

 オマケに全身を金属鎧に包んだモニカがいる。身長は、モニカが一番高い。いつもにこにこしているルーシアと何を考えているのかわからなくなりつつあるオデット。頑張り屋のモニカは、元気一杯である。

 

 モニカの動きは、残念であるけれど。ロシナのSTとしては、まずまずだ。

 というのも、事情がある。きちんと、ロシナが吹き飛ばしを避けてくれればいいのだが―――


「ぐっ」


 赤い鎧を纏った幼児は、一つ目玉をした二つ首の巨体の端に当たって吹っ飛んでいく。

 ここは、狼国にある迷宮の一つ。で、餓狼饗宴の名で呼ばれるそこ。

 狼や犬を基本とした魔物が多い。

 今、相対する群れでも一際大きいのは、アイズジャッカルの親玉であろう。

 魔物でも群れを作る事がある。

 ゲームと違うのは、その配置が全く読めないことと吹き飛ばしなどの攻撃が範囲として見えない事であろう。飛ばされたロシナは、壁に激突してずるずると床に落ちる。

 敵の攻撃には、デバフとも言えるような威圧であったり、硬化などというスキルもあるが。 


 何故よけられないのか。


「発動のタイミングというかさ、来そうな感じがしない?」


 ボスをそっちのけでユウタは、ロシナにヒールをかける。

 肋もおれているようだ。HPがゲージのように表示されるわけでもないが。

 手応えというやつである。ロシナの体が痙攣しながら、


「いってえ。へへ、なんというかなあ。まるで、タイムラグがあるかのようになるんだわ。んで、スローモーに相手が見えるんだけど。食らっちまうっていうのな。どうにかしたいんだけど、どうにもならないっつー。どうしたらいいと思う?」

「自分で、気づきを得るしかないかも。結局、ロシナの能力使ってしまえば無効化できてしまうから避けるって考えがなかったんだよ」

「俺も、そう思う」


 そう。ロシナには、絶対の盾がある。インビシブルバリアガードなどという大層な名前で呼ばれる盾だ。この盾は、不可視の矛にも使える。大抵のボスであればソロでも行けるくらいの能力で、無敵を謳われてもおかしくないチート能力であった。


 使っている本人以外には、見る事ができないために階段等には使えないのが難点だ。乗ろうとしたって、見えないので墜落必至だ。

 もっと言えば、弱点もわかってしまえば対処可能なチート能力なのである。よって、改善したいというのが本人の意向であった。


 簡単な殺し方は、水攻めだ。それで、すぐにも死んでしまう。全周に全方向にバリアを張ると、酸欠になってしまうのである。穴を開ければ、水が入ってくる。毒ガスにも弱い。

 

 セリアにも、「遅い」と言われて秒殺されたりするのだ。対峙してシールドを張っていても、地面に埋められたりすれば生き埋めである。アルーシュに対しても、フィナルやエリアスを相手どっても優位だとはいえない。仲間内では、ひょっとすると最弱なのがロシナだった。


 まず、遠距離攻撃が使えない。とか。最初は、無敵のバリアじゃん。といった評価もあったのに。


 なので、


「いっそ、タンクというか前衛職をやめてアタッカーに転向してみるとか」

「魔術士とかか?」

「格闘士とか魔術剣士とかがいいかもね。気や魔力を練る事で、更なる強さを身につけられるかもしれないよ」


 ロシナは、考え込む素振りだ。だが、勧められたものではない。

 時間は有限で、ロシナは騎士団の運営もある。隊の育成も担っているのだから。


「マナの収束している様子とかが、見えるといいんだけどねえ」

「ふっ。あいにくと、超自然的な奴には弱いんだぜ」

「その割に、吸血鬼とかスライムさんとかすまわせてるじゃないの」


 ロシナのハーレム? には吸血鬼な女の子とスライムな女の子がいる。

 見た目は、二人ともすごい美人だ。


「あー。あれは、あれ。ペット? 的な枠で」

「じゃあ、スカハサさんに教わればいいのに」


 そこで、びくっとした。ロシナは、ぷるぷると震えながら、


「あいつは、そのなんていうか、ショタの気があってなあ。近寄ると、レイプされるからな。気をつけろ」

「……」


 されてしまったのか。

 深くは問いかけられないようなお話だった。一つ上とはいえ、ロシナはチン●が立つのか。

 というような事はさておき、


「終わったであります」

「はー、疲れたー」

「ひぃひぃい」


 足をガクガクとさせたモニカは、股間を濡らしている。

 どうしたことか。


「すいません、でした」

「大丈夫であります。スイッチもいけるでありますよ」

「そうそう。心配しなくても大丈夫だよ~」


 モニカがヘマをしたというところだろう。ロシナには、厳しい二人がすごく甘い声をだしている。

 

「どうするかな。このまま進んでも、大丈夫かな」

「休憩いれるでありますよ」

「そうした方がいいかも」


 オデットとルーシアは、モニカとロシナを気遣っての事だろう。

 二人が根を上げる事は、滅多にない。一体いつから頑強な子になったのか。

 気が付けば、一緒に農作業も土木工事も厭わない子たちになっている。

 ボスらしき相手をやり過ごした先には、階段があった。抜けた先には、転移装置とみられる台座に玉がのった代物がある。一息いれるには、もってこいであった。魔物が湧いてでてくれば、上の階に逃げれば良さそうである。そして、転移装置の傍だというのに冒険者も見張りの兵も居ない。


 冒険者がいないのであろうか。

 

「ここで休憩しても大丈夫かなあ」

「足音は、人のしかしないでありますよ」

「前方から狼種がくるかもしれないわね。それだけかな?」


 二層なので、それほど危険を感じていない。むしろ、気がかりなのは後ろから接近してくる足音だ。

 子供のような足音が拾える。


「いざとなれば、俺の力があるって」

「だねえ。頼りにしてるよ」

「へへ」


 むっとしたような表情を浮かべるオデット。と、垂らした前髪の下に能面の如きルーシア。

 一瞬だが。


「「ふーん」」


 如何にもつまんないという風で。

 はもった。休憩を取っているうちに、入口からやってきたのか。人影が、そぞろに現れる。

 小柄な、人だ。


「小人族か」

「珍しいね」

「いや、珍しくねえよ。結構いるんだぜ。配達とか、手先が器用な連中なので重宝するしな。お前も冒険者ギルドに来たら、女ばっか見てないで観察したらどうなんだ?」

「いや、見てないし。見てないけど、見えてなかったかも」

 

 と、先頭を歩いていた男の横から声が降る。


「こんにちわー」

「ど、どーもユークリウッドです」


 よく見れば、赤ん坊のような子だ。小人族という物をいまいち分かっていない。

 手足が小さいのにミッドガルド人も顔負けの戦闘力だとか。

 面食らうユウタを他所に相手は、尋ねてくる。


「私はリリペット。こっちはクランの仲間。君たちも潜っているの?」

「そうです」

「あれ、もしかして。小人族じゃ、ないのかな」

「間違いでしたか」

「そうね。同族にしては、ちょっと大きいかなって」


 どうやら、間違われたようだ。くりくりとせわしなく動く目が可愛らしい。そう、捕まえて投げたくなるような愛らしさというべきか。

 バスケットをしてダンクシュートを決めたくなるようなサイズである。

 そんな小人族から横に目を移すと。 


 リリペットの仲間は、アキュにロキュシー、シックという四人だ。タンクにアタッカー二人という構成でリリペットがヒーラーのようである。小人族が三人に人族が一人というような構成だ。そして、男が人族で、女が三人。

 ユウタは、唾を飲み込んだ。


(アキュ。こいつは、ロリコンだ。間違いねえ!)


 黒い皮膚に、斧を持っている。戦士か斧術士か重戦士か。鑑定をするのは、ためらわれた。

 そして、女の子たちは雑談で花を咲かせる。

 アキュもロシナも呆れ顔だ。こんなにもフレンドリーなPTなど見たことがない。

 そして、

 

「ボスを倒したのは、君たちかな?」

「そうですね」

「そっかー、なら三層くらいまで潜る必要があるわね。それじゃ」


 リリペットは雑談をしてから去っていった。


「なんか、感じのいいPTだったな」

「あんな人たちばっかりならサツバツ! なんて迷宮も明るくなるんだろうけどね」

「そうであります」

「死んで欲しくない人たちでしたね」


 ルーシアは、にこにこして締める。

 その通りなのだが、他所の国で生計を立てているのだ。生半な実力では、生きて行けない事はたしかである。そう、ロシナ曰く、食い扶持を得るために皆戦っているのだと。


 ミッドガルドで、ユークリウッドがやりくりするまでは食料を得るために命をかける事など日常茶飯事で起きていたという。魔物が突然現れるような国土では、農業もままならない事は事実であったろう。そこから、結界が張られるようになった。冒険者たちの仕事は、迷宮ないで溢れる魔物を刈る仕事へと変わっていった。

 

 この国はどうか。魔物が地上を跋扈している。食料の生産などは、夢のまた夢だろう。

 結界石の製造はどうかといえば、限りがある。狼国に貸し出すにしても、理由が必要だ。結界石も魔力が途切れれば、ただの石でしかない。どうすればそれを解決できるのか。エリアスの配下が研究しているのだ。

 時間が解決するかどうか不明だった。


「まーた、考え込んでやがる。そろそろ、行こうぜ」

「そうだね。そうしようか」

 

 道行く冒険者に好奇の目で見られるか襲われても、話かけられるなぞとんとなかったのだ。

 まあ、大抵は時間の無駄だというアルの意向があったのであるが。

 見知らぬ人間と話すなど害悪でしかないという。何故だか、余人には冷たいのである。

 立ち上がったユウタは、モニカたちを連れ立って歩きだす。


「さっきの人たちは、結構前に進んでいるんだねえ」

「そうでありますなあ」


 気配が遠い。倒したモンスターを回収する訳でもなく真っ直ぐにボスめがけて突進しているようだ。

 ボスが出す宝箱を目当てにしているのかもしれない。

 

 この迷宮は、ボスが腹からドロップアイテムを出す事でも知られている。難易度が高いので、八人程度が推奨だ。もっと多くてもいいのだろうが、分け前が減っては食っていけないだろう。中に入れば、魔力が結晶体として落ちている事もある。それを回収して金に変えるというのが、この国の冒険者の稼ぎであった。

 もっと採取系のクエストがあってもいいはずなのだが―――


「ところで、よお。こんな話を耳にしたんだが」

「ん?」


 横を歩くロシナは、口元を隠すようにしておずおずと言う。


「日本人街が狙われているらしいぜ」

「え?」


 寝耳に水とは、このことだ。まさかアルーシュが言っていたのはそれなのだろうか。

 ユウタは、内心で飛び上がらんばかりに驚いた。


「詳しく」

「おいおい。そんなに興奮するなよ。ちょっと、待て。敵だぞ」

「あーいいから。ロシナは話の方が先だよ」


 前方からは、道を塞ぐようにして一つ目の犬が飛び出してきた。

 そして、威嚇するように並ぶ。

 が、ユウタがその気になれば、迷宮を走りながら攻略する事も訳ない。

 

 別に、レベル制限を受けているとかそういう事もないのである。だから、最大火力でまとめ焼きをするか凍らせるか。自由自在だ。ユークリウッドの能力は、限界まで鍛え上げられている。まだまだ、もっと先に行かねばならない。誰より強くなければならないのだ。出会った敵は、その場で全殺しが基本である。手加減して、逃げられるなどというような文字は脳裏にない。

 

 男なら。


「んっとな。日本人に税を免除しているだろう?」

「そうだね」

「所得税も住民税も無税だろ?」

「そうだね」

「まるで、それ在日特権みたいじゃねーの?」

「……」


 言葉に詰まった。

 言われてみれば、その通りで。焼き討ちにあってもおかしくないような贔屓で。

 贔屓し過ぎて引き倒してしまっていたのかもしれない。

 自国民よりも外人を優遇する国は、滅びる。ロシナのいた世界では、日本は滅びたようなのだから。

 苦い事も言わざるえないのだろう。

 

「やり過ぎだ。早急になんとかしないと、どこかが動くかもしれねーよ」

「どこって」

「大神教とかが、なあ」

「修正するよ」

「うんうん。物分りが良くて助かるぜ」


 まあ、言われるまで気がつかない己が悪いのだ。ユウタは、天才でない。

 

 頑張って努力して、高みに登っていく方だ。周囲の人間が手助けしてくれなければ、どこかで躓いていただろう。そもそも、ここに来るまでの時間を随分と稼いだ。そう、ユークリウッドが十六になるまで過ごした時間では、狼国というのは形だけになっている。ほどんどの獣人が売り飛ばされて、人口が激減していたというような。


 やり直せるなら、というような世界に来たのだ。 


「それじゃあ、いいか?」

「うん」


 納得した訳ではない。日本人が差別される国。そんな国になっていたから。

 

(優遇したい。けど、優遇すると却って危ないと。どうしたもんかねえ。やり方を考えねえといけないなあ)


 敵は、モニカがタンクになって処理されている。治癒術士は、魔物の放つ毒やスキルを防ぐのが主だ。

 ユウタのように、大怪我を瞬時に治癒してしまうような術者は、大抵が騎士団勤めである。

 血統主義もそうなのだが、家門に名誉が全ての世界なのだ。

 ユウタがフィナルたちの好意を素直に受け止められないのは、そこもある。

 スキルは遺伝するのだ。LVすら、である。多少だが。

 気が進まないが、ロシナに魔道具を見せる事にした。


「ふう。これを使ってみようよ」

「なんだそりゃ」


 とんでもカードくん。けったいな名前だ。能力のほどは、自分に必要だと思われる能力を一つだけ選んで相手に付与するというような素敵アイテムである。ただ、欠点もあるので要注意だ。


「一枚選んでみてよ」

「じゃ―――これだな」


 選んだ図柄は、何も映っていない。土壇場になるまで、見えないのである。使うときにしかわからない上に、発動がわかるのも本人だ。

 とんでもカードと名づけたのは、その効能故であった。


「いくぜっ」


 ロシナは、勢いよく敵に突っ込んでいった。

 そして、今度は勢いよく避けた。敵のスキルを―――


「待てっ。ええええぇ―――」

「あああ」

「ロシナ殿!?」

「ひぃ」


 敵の魔物が咆哮を使うと、同時に突進を一列に並んで使ってきた。それを、避けて落ちた。

 穴に。

 ユウタが、マジックハンドで捕まえなければ奈落の底に落ちていっただろう。

 味方は、モニカが一匹を抑え込む事で無傷だ。盾強打で相手を昏倒させるというやり方のようである。

 他は、石化していた。オデットがやったのであろう。

 持ち上げて、赤い鎧を地面に下ろす。


「どうして、避けた先に穴があるんだよ!」

「いや、周りを見ようよ」


 周りが見えないのは、ロシナも同じようだ。


 



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