34話 蛙の迷宮
暗闇の中。セリアが別の男と歩いている。そんな事はない。
と、追いかけるのだが、どんどん引き離されていく。
(そんな?)
足元を見ると、DDにアルや桜火ががっしりと組み付いていた。
悪い夢だ。しかし、本当になるかもしれない。
そこで、
(はっ)
朝、目を覚ますと至近距離に人が居る事に気が付く。
それは、ルーシアだった。ベッドの中にいるはずなのにだ。黒髪で顔が見えづらい。だが、幽鬼のような彼女の顔が鼻先にあり、慌てて寝返りを打つ。
(あ、あれ?)
すると反対側には、金髪に眼帯をかけた活発な少女が目に入る。危うく唇が触れそうになる距離だ。腹の処ではもぞもぞと動く物体がいる。小さな狼の姿をしたセリアがオデットに捕まっていた。抜け出せないようである。
「おはようであります」
桜色の唇が動き、背には電撃が流れたような衝撃を受ける。
「うん。おはよ」
「起きるで、ありますか」
「そうだね。見回りとかしないといけないからね」
オデットは、にこにこ顔である。ユウタの部屋なのだが、さも当然のようにベッドに潜り込んでくる二人には困惑していた。ユウタは、普通の感覚を持った男なのである。現在の見た目は少年で、歳は小学生。中身はどうか。記憶から換算すれば、いい年どころか爺もいい所。だが、人というのは歳をとっても対して変わらなかったりする。成長していないといえばそういう事で、歳をとったからといって渋みや人間的な慎みを覚えるかといえばどうか。
(人なんて、そうかわんねえってな)
ユウタには、成長していない自覚がある。歳をとって覚えた事は、我慢だけ。
壁ドンするような事もなく、歳だけを重ねたという。
ユーウはモテていたようである。羨ましいかぎりであった。
身体を起こすと。
「げぇっ」
金色の樹が、黒い液体で部屋の床に大海を作っていた。もう、言うまでもないだろう。体液なのか小便なのか判断しずらいけれども。汚れた部屋を掃除していく。ベッドの上には七色のちび竜たちも丸くなってねている。先に起きたオデットと二人で掃除だ。セリアといえば、とっと、とんとんといった風に避けて部屋から出て行ってしまう。自由気ままというべきか。手伝ってくれないようであった。
「これは、大変であります」
「だよね」
真っ黒な液体だけでも、溜息が漏れそうなのに。犯人は素知らぬ風。
植木鉢にでは、透明な液体に浸かっている樹が眩しい。こちらも、目を覚ましたのか。つつーっと、根っこを動かす。そして、滑るように部屋から出て行ってしまう。自由きままかつ、勝手なものであった。
「あの樹、ぎゅーっとしぼってやりたいでありますな」
「ほんとだよ」
オデットはそういう。同意はするが。やったら死刑にされかねない。
未だ眠っているルーシアやちび竜たちを放ってユウタは下の階へと移動する。結界の方は、解除された様子もない。オデットとルーシアがどうやって入ってきたのか。未だにわからないのである。ともすれば、セリアやアルーシュのように変化の術でも使えるというのか。そっちの線が濃い。部屋には小さな通行口が作られているのだ。
(塞ぐか? けど、入れないとずっと待っているからな。どうしたもんか)
主に、セリアが入ろうとしてずっと待っている為に作られたそれ。塞ぐ前には、一日中入ろうとして待っていたりした。なので開けたのだけれども。部屋中と言わず家に来訪中では、変身しっぱなしのようである。解けば、全裸になってしまうからであろう。だが、変身している最中は全裸という事で。ユウタは、よからぬ事を想像してしまった。鼻から、つっと血が垂れてきた。
「大丈夫でありますか。これを」
「ありがと」
オデットが渡してくれたのは、布だ。慌てて鼻に布を突っ込む。この世界には、未だティッシュなる物が存在しない。ロシナには、そこら辺を埋めてもらうべく指導していく予定だ。トイレットペーパーの無い便所を想像すれば、汚さもひとしおだろう。水系統の魔術が使えるのならば、それで解決できるのだが。
迷宮では、それが一番の問題だ。掃除用に魔物使いによるテイム済みのスライム等を持ち歩いていなければ。或いは、迷宮が糞も消化するようなタイプでなければ迷宮を探索するどころではない。嘔吐感が止まらない迷宮など余程攻略難度が高いだろう。ちなみに、ユウタが経営する迷宮は何でも消化タイプである。
オデットは、部屋に残った。ユウタは、桜火と一緒に食事の支度だ。
が、「ここは私がやりますので」とか。彼女の手伝いをしようと食い下がると、
「剥き方は、こうですよ」
というような指導が、ばしばしと飛んでいる。
食事の支度を終えて、皆が食堂に集まると。
「天より見守られる我等の神々にお祈りを」
食事の時には、グスタフが神々へのお祈りから入る。一家というには、多い人間がいて。
ルナやフィリップ、オフィーリアといった面々もお祈りを捧げている。この国で、神といえばオーディンの事が第一に上がり第二にはフレイヤとフレイだ。ユウタは、未だにこの国の神という存在に会った事がない。ユーウは、会ったようであるが。見た目は、ただの爺にしか見えないのが難点だ。そして、王様にも会った事がない。ユーウの記憶にあるはずのそれがすっぽり落ちて抜けている。
(どんな奴なんだろうな。すごく腹黒そうだ)
普通は、国に王が頂点にいてあれこれとしているものだ。
が、この国は普通ではない。そもそも、在位が千年以上だという。その時点でどうかしているレベルだ。一度は会ってみたいような会いたく無いような。そんな複雑な思いがある。と、相手にも都合という物があるのであろう。差し当たり、ポッと出の人間兵器が如き下賤には会えないともいうべきなのかもしれない。頬杖をつくと、可愛らしい妹の姿を見つめる。
(癒されるなあ。将来は、美人間違いなしだ)
しかし、何時かは嫁に行ってしまう。嫁にやれるだろうか。というような疑問が浮上してきた。
(こっそり暗殺するか)
変な奴ならそうするしかない。しかし、変とは? 疑問に答えがでない。
もぐもぐとパンを頬張るシャルロッテの姿を見ながら、今日するべき事を考えて。
学校にいくしかなかった。テストが近いのである。全く集中できていないので、不味い状態だ。
「ルナは、勉強大丈夫なのかな」
「私は、平気です。しっかり、勉強できてますよ。それより、君の方がしっかりした方がいいんじゃないのかな」
「手伝ってよ」
「うーん。じゃあ……シャルちゃんも一緒にやるわよ? あ、あとオフィーリアもね」
「うっ」
「はい、決まりね」
今日は早く帰宅しなければならなくなった。日ごろから全く勉強が足りていない。魔術の行使だとかそれらに関する物はすらすらと脳味噌に入って来るのに、数学の勉強がまったくといっていいほど弱かった。といっても、高校生程度の数学ならわかるので問題ない。ただ、暗記しておかないとわからないような単語の類。それらは勉強しておかなければわからない。
屋敷を出ると、通りには一際目立つ物体があった。
オデットが、興味しんしんといった風で目を輝かせる。
「あれは、なんでありますか」
それは、人がくくりつけられたまま檻の中に転がされている。
男が何人も数珠つなぎで、だ。その足は見るも無残な有様。異様に膨れ上がっている。
それが、何であるのかすぐにわかった。
が、とんがり兜を被った兵士の傍に駆け寄っていき。
「おじさん。これは、なんなのかな」
「ん? ああ、アルブレストの坊ちゃんか。こいつらは、連続強姦魔さ。隣のは、睡眠薬を使っての強姦魔たちだな。子供には、毒だからさっさと学校に行った方が良いぞ」
「ありがと」
それから槍で、檻に入った男の足を打擲する。「ぎひぃ」悲鳴が上がった。
日本では、このような拷問は許されないだろう。が、ユウタは当然と受け止める。
むしろ、妹がいたりすれば生温いと思いさえするのだ。
回復魔術に蘇生も治癒もこなすユウタにかかれば、肉箱もお手のモノ。
レイパー死すべしがモットーで、妄想だけにしておかなければならない。
それが童貞野郎の掟である。例え、死ぬまで未使用でチ●ポが腐ろうとも。
オデットとルーシアは、顔を背けず目を輝かせている。
「悪い人たちみたいだよ」
「ちょっと見ていきたいであります」
「駄目駄目。行くよ」
ユウタは、学校に行くことを優先した。オデットは、片目を輝かせているが。
というのも、あまり精神衛生上よろしくない事案だからだ。
日本と違い、このような野蛮な刑が普通にある。鉄の処女桶やら頭ネジ割など。
一日ほど晒されて、あとは鉱山という名前の強制労働所で死ぬまで働く事になる。
それでいて、酷い強殺とかいう物であれば彼らが死ぬまで尻強姦や拷問が待っていて。
自殺しても地獄から呼び戻されると。
なので、日本と違いそうそうミッドガルド国内では強姦がおきない。
王都では、囮捜査もしょっちゅう行われている。
やりたければ、風俗などという物がきっちりとある。とはいえ、ミッドガルドは階級社会。
被害者が平民と貴族では、全く扱いが違う。同様に騎士でもそういう事がある。
なので、女騎士の比率は百対一の比率だったりする。
とはいえ、従軍慰安婦というような物もあって戦地でそのような事をするミッドガルド兵はいない。
やって露見した日には、地獄よりも尚、厳しいと噂される拷問刑が待っているのだから。
今回のように厳しい刑が科せられるとするならば、大抵は貴族が関わっている。
例えば、被害者の関係者に貴族が関わっているだとか。被害者を好きな男が貴族だったりだとか。
地獄の方がまだマシというような目に合う。
足を打擲して、放置するのは激痛が長い。性器を斬り落とし、歯を全て抜き取られる。
というようなコースである事は間違いなく。日本のように懲役何年とかそういう話はないのだ。
加害者の悲鳴を他所に、学校へと歩を進めると。
教室では、何故か静まりかえっている。というのも。
「俺と友だちになってくれっ!」
と、ゴードンがセリアに迫っている。すわ、NTRか。
(許さないぞ)
ユウタは、了見の狭いハイユニコーンだ。セリアが手を繋いで歩いているのを見たりすれば、凄まじいショックを受ける。だから、好きな相手を作らないように努めているのだ。心臓は、どっどっという音を鳴らしていた。ぐにゃりと歪む景色に、倒れそうになる。
が、心配は無用なようだ。セリアは、冷たい声で、
「生憎だが、私は忙しい。他を当たれ」
言い放ち。ゴードンは、彼女の腕を取ろうとするも、躱される。
ほっと胸を撫で下ろした。そこでも、ゴードンは諦めないようだ。
「なんでだよ」
「しつこい奴だな。なら、あれとあれから友だちになってもらったらどうだ? そうしたら考えよう」
セリアが指を差したのは、金髪ドリルヘアーのフィナルとツインテールをしたエリアスだ。
取り巻きを従えた二人。壁となって、ゴードンが近づけない風である。
「ちょっと。私たちを巻き込むのは止めてくださいまし。あ、ゴードン様。ごめんなさいね。丁重にお断りいたします。悪いうわさが立っては困りますので」
「私も同意見。そんじゃこの話は終わりでいいのかしらね」
二人はにべもない。
「畜生、馬鹿にしやがって。父上に言いつけてやる」
「おほほ。ゴードン様に置かれましては、ご自身の立場もわかられない様子。よろしいでしょう。お父上に言ってごらんなさいな。明日にも這いつくばるのではなくて?」
「こいつッ! 言わせておけばあッ! 放せベルンハルトッ」
ベルンハルトが必死にゴードンのでっぷりとした身体を押さえる。
「いけません。ゴードン様。彼女は……」
「別に喧嘩を売るのはいいけど。子供を相手に勝ってもねえ。フィナルもあんまりイジメちゃだめよ」
「おほほほ。そちらの方が売ってきたのですわ。私、売られた喧嘩は高く買いますの。ねぇ、エリアスが友だちになってあげては如何かしら」
「冗談。……あんた、何気に私に粉かけてるのかしら」
「滅相もないですわ。おほほほ」
暴れるゴードンを他所にして、二人で火花を散らしている。
そんな中でセリアは、素知らぬ顔で席につく。そして、じぃっと見つめてくる。
顔が火照るのを自覚しつつ、目を逸らした。
居心地が悪いのは、ユウタの方だった。隣に座るルーシアとオデットはどこ吹く風といった様子で。
教科書を開くと。
「今日もモニカ殿のお手伝いでありますか」
「そうなるね」
ロシナは、来ていないようだ。アドルとクリスは、右前の方で座っている。
ゴードンの方は、立ち直れないといったようなダメージを受けて席に座り込んでいた。
ベルンハルトといえば、ほっとしつつも残念そうな複雑な感情を顔に浮かべていて。
すぐに授業が始まったが、微妙な雰囲気が流れていた。
日帰りで帰れる場所にある迷宮に、転移門を開き跳ぶ。この日も、蛙が大量に生息する迷宮だ。
中は、真っ暗でカンテラ等を使用しなければならない。青に黒を混ぜたような天井と床が目に入る。
永続光を魔灯に灯して、内部を歩いていく。一階の狩場で、乱獲である。
所々の水溜りは、注意が必要だ。足を入れた瞬間飲まれる事もある。
化け蛙といって侮っていれば、大型で丸飲み型の蛙に出会って全滅しかねない。
ランクはFなのだけれども、それが当てにならないのが迷宮だ。ゲームのようにダメージが0というような事もないので。
PKもあり得て、絶対の安全などどこにもないのだから。
パーティーメンバーは、モニカにオデットとルーシアである。桜火は、姿を消している。家に帰ったというのか。ユウタにもわかりかねた。
「頑張ってね」
モンスターを釣って来るのは、モニカだ。ルーシアとオデットは、既に治癒術士から治癒師へとクラスアップを果たしている。回復に攻撃に、彼女たちの能力は上昇が著しい。普段、釣って来るのはユウタかセリアなのだが。何時の間にやら姿を消した三匹。
長い得物をもって、走っていき連れてきたのは人並の大きさがある化け蛙だ。
ぴょんぴょんと飛び跳ねてくる土色の蛙に、
「えいっ」
斧槍を縦に振り降ろす。狙いをあやまたず、蛙は真っ二つ。
微笑ましい数だ。確実に倒していこうというのだろう。それでは、物足りない。
釣ってきた蛙の残りをルーシアとオデットが牽制しながら、モニカが倒すという恰好なのである。
MMOっぽくレベルを上げるだけならば、ユウタが倒しまくる。が、それではスキルの熟練度が上がらない。その上、戦い方がわからない兵士が出来上がってしまう。
そういう事で見守っている。
長い柄に槍と斧に槌の機能が付いたハルバードは、投げにくい。
モニカは、精一杯の攻撃なのだろうか。スラッシュとクラッシュを使えるのだが―――
「うんうん。その調子であります」
「安全が、第一だよ。しっかりね」
距離を取って、リーチを把握した上での一撃が土色の蛙をまたも引き裂いた。
ユウタが口を出すような事がないような有様で。
居る意味がないような手持無沙汰感に襲われている。
この分では、家でテスト勉強でもしていた方が良かったのではないか。脳味噌の出来がユウタはよろしくない。記憶力にも自信がなく、魔術や戦闘。或いは、目的になっている事しか覚えていられなかったりする。そして、どうでもいいような事ははっきりと覚えているというような有様。憑依前に作った鉄パイプに印字したナンバーを思い出せるのに、昨日食べた料理を言えなかったり。ちなみに、鉄パイプの外径は216.3。油井管で、肉厚は10ミリといってもすごぶる硬い。
それよりも随分と小さいが、モニカの身体には不釣り合いなハルバードを蛙目がけて振り下ろす。
べちゃり。潰れる蛙は、見ていられない様になる。
緑色をした小さな蛙は、可愛いのだ。日本の田んぼでも、ぴょんぴょんと跳ねている奴だ。
ルーシアとオデットが釣ってきているのは、人も食べるようなモンスターである。
倒して、食用にも使われているらしい。ユウタは、食べられないが。
何しろ蛙だ。
日本でも、牛蛙などを昔は食ったというが到底受け入れられない。飛蝗もそうである。
苦手というよりは、常識が邪魔してユウタには蛙も飛蝗も食べられない。両親には、好き嫌いをしてはいけないと説教されるのであるが。駄目な物は、駄目なのだ。食べようとしても、目に入った瞬間からテンションはだだ下がりになる。
と、
「あうっ」
通路になっている場所で、人間大もある蛙と交戦していたモニカの身体に矢が突き刺さる。
目を剥いて、飛来した方向を見れば、
「行けっ。今が、好機だッ!」
正体不明の敵である。姿は、どれも二メートル近い巨躯である事から、ミッドガルド人と見てとれる。
急襲してきた敵であるが。
「しっ」
「しゃらくさいであります」
疾風のようにオデットとルーシアが逆襲していた。まるで、瞬間移動でもしているかのような素早さであった。
「しっ」「なんだ? このガキども。ぐあっ」
ルーシアの拳を受けた巨漢の戦士が腹に空洞を作って倒れる。相手の放つ矢を手でつまみながら、お返しにソニックブロウを放つ。音速の拳が、空気の塊を相手に叩きつけるというスキルで。磨き上げると、遠距離の相手でも肉体を損壊せしめる。「ぐえっ」「ひっ」熟れたトマトが弾けるように頭を割り、樽に穴を開けるようにしていく。
オデットは、自慢の槍ではなく石化の雲を投げつけていた。石化を促す雲だ。命中率を表示するDEXが関係してくるだとか、眉唾な話がある。オデットの談によれば、身近な相手はほとんどレジストされてしまうので使い勝手が悪いとかいう。オデットが投げた雲は当たった相手をほぼ石化させていき、
「た、助けてくれえっ」「化け物っ」
恐慌をきたした襲撃者たちは逃げようとする。が、襲撃者死すべし。二人に慈悲はない。ルーシアの拳で足を折られ、膝をつき頭部を叩き潰されていく。オデットは、石化に専念しているようだ。時折、飛来する矢を槍で弾き返す。
敵の集団は、誰一人として生きている相手はいなかった。一人くらい生け捕りにしてほしかったのであるが。と、反対側から桜火が敵を抱えて現れた。蔓のように伸びたそれが首をあらぬ方向へと向けさせている。
「あれれ、桜火さんだ。見た見た? 頑張ったよねー」
「であります」
「ふふ。お二人共、お見事です。それでは」
桜火がメイド服の裾を手で引き、おじぎをすると。
「むふー」という鼻息を放つ二人。
共にドヤ顔だった。背後関係を洗いたかったのである。そこの処を理解してほしかった。
またも、姿を消す桜火。謎の銀髪メイドさんになりつつある。敵を追っていったのかもしれない。
守るようにモニカの傍に立っていた。そして、しゃがむと。
「うん。モニカ、大丈夫?」
「うっ」
倒れたモニカの身体を抱えたまま、矢が刺さった箇所を見つめる。
胴体まで、刺さっているようで。一気に抜き取りながら、ヒールをかける。
と、同時にピュリを使って毒の除去も行っておく。
抜かりはない。
「こんなところに敵が現れるなんて。危ないなあ。どうしようか」
「どうするもこうするも、敵は探し出して皆殺しでありますッ!」
「そんな危ない事いっちゃだめでしょ」
過激な事をいうのは、オデットで窘めるのはルーシアだった。
容貌は、真逆なのだけれど。
「もう来ないのかな~」
来なくていいのだが、ルーシアは陽気だ。目は、笑っていない。
「今日は、ここまでにしようか」
「物足りないけど。モニカちゃんがこれじゃあ、しょうがないよね」
「そうするであります」
オデットも物足りないといった様子で、槍をくるくると回している。
とはいえ、何体倒したのかわからない位の蛙が死体となってインベントリに入っている。
カウントするのも億劫なくらい。更には、敵の死体も回収だ。後で、降霊術などを使用すれば敵の輪郭がつかめるのだ。とはいえ、妨害が入った。モニカのレベル上昇が今一なのである。オデットとルーシアが異常だったのかもしれない。加えて、フィナルやエリアスもそれに準じていた。
とするなら、普通なモニカには地道な修行しかない。
(うーん。全然、レベルがあがらん。どうしたものかねえ)
素材は集まる。
そんなこんなで、暑くなってきた屋敷に転移すると。
セリアが、子狼になったまま石畳に寝ているのが目につく。
妹もDDたちと一緒になって遊んでいるようだ。芝生の上にちび竜たちを立たせて、ボウリングだ。
(あれは、いいのか?)
ちび竜たちに対するいじめのような気がしてしょうがない。
止めさせるべきであろう。しかし、ユウタはシャルロッテを叱った事がなかった。
ユーウも同様で、甘やかしまくりである。
ユウタの頭には、一つの電球が閃く。蛙の肉など、己では食べられない。といっても、焼いてしまえばどうか。というような、次第。ボウリングを止めさせた上で、DDたちの慰労も兼ねる。
それは。
「そうだ。バーベキューをしよう」
「えっ。本当に?」
「やったであります」
ルーシアとオデットが飛び上った。モニカは、芝生の上に寝かせる。気絶したままだ。
ごろごろと寝ているセリアと遊んで、それからバーベキューの用意だ。手製のビニールプールに、ちゃぷちゃぷと遊ぶシャルロッテやルナたちの姿を眺めて和む。
セリアは、日向で蚤でも焼いているのだろうか。ごろごろとしているが、他の人間が寄っていくと。
「フーッ!」まるで、猫のように尻尾を立てて膝元に隠れる。
「兄者……俺」
クラウザーが肩を落として去って行った。触りたかったのだろう。
猫ではないのだけれど。セリアは、穴を掘ったりしない。奇妙だった。
焼いた肉をぶら下げると、ぴょん立ちをして食べる。
いくら焼いても足りない風だ。
焼いている肉が、カエル肉なのだけれども。
セリア以外に食う奴がいるのか怪しい。ので、鳥肉とオーク肉も用意しておく。
鶏肉は、ユウタ用だ。家でも鶏を飼っていて、四輪農法などもやっていたりする。
「おいしそうであります」
焼いている肉を見て、涎を垂らしたオデットが寄ってきた。彼女はオーク肉派のようだ。
それに垂らすソース。日本人特製のやつで。その四輪農法も日本人がやってきてやり始めた。
もっと、元日本人の功績を宣伝する必要がある。しかし、奥ゆかしいのか謙虚なのか。
手柄をフィナルに奪われているようだ。小麦にカブに大麦からクローバーへと輪作していくそれ。
(もっと宣伝する必要があるんだけどなあ。彼らは、黙って居るからなあ)
売国奴のレッテルもそうだ。反論があるなら、反論しなければならないのだ。
嘘も百回ついていれば、その通りになってしまうのだから。
困ってしまう。
蛙の肉が大量に手に入った。焼いても食う人が少なかった。が、肥料替わりに売れるようだ。
子狼に変身したセリアとちび竜たちは、焼いた蛙をばりぼりと貪るのである。到底ついていけない。
どちらも、雑食のようである。
勉強をそっちのけで、ルナに叱られてしまった。




