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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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32話 食料

 現代における奴隷商人たち。人材派遣業を名乗る彼らケケ中のパ●ナに代表される売国奴。

 ユウタも苦汁を舐めただけに奴隷商人は、大嫌いだ。光輝たちの世界では、そんな彼らが招き入れた移民たちで内戦がまたも起きているらしい。またも、呼ばれるのではないかと危惧している。

 呼ばれると、面倒なのだ。DDが、大量殺人をやらかした事もある。大量の漫画本を購入しに行っただけのようにも見えて、つり合いがとれていない。ちゃっかり変電器を購入しているけれども。


 異世界日本。

 移民の数が膨れ上がり、日本人の数が減れば内戦がおこる事など誰にでも想像できる事なのだが。

 彼らには、想像できなかったらしい。小泉ーケケ中と組んで日本の雇用を破壊し、人口を半減させた。

 罪悪感も愛国心も無い連中でもある。


 この世界も同様だ。人には、生まれながらにして格差がある。

 貴族として、生まれ落ちる者。奴隷の子供として生まれ落ちる者。

 区別されたくないのならば、どうしてもそれを乗り越えなければならない。

 ただ、乗り越えられるかどうかは別だ。元日本人たちを優遇している際には、色々とあった。

 ユウタは、我慢強く耐えたが。


「誰の為の人権か。言ってみろ!」こんな暴言を受ける事もあった。かっとなって皆殺しにするほど、愚かでもない。けれども、日本人たちに対するスタンスを変えねばならないようだ。ミッドガルドは、ミッドガルド人の為の国なのだから。


 それでも。ユウタは、決めあぐねていた。

 義務を果たしている貴族を滅ぼすのか。それとも方向性を変えるのか。

 いずれにしても、王権強化の為には貴族が少ない方がいい。

 とはいえ、貴族はそもそも王の家臣ではないのか。

 そのような疑問がぐるぐると渦巻いている。

 


「あつっ」


 べたつく汗で、ユウタは起きる。

 腹に金ぴかの樹が乗っていた。重いはずだ。

 それをわしずかみにして、撫でていると。


「ぶっ」


 凄まじい勢いで、墨のような液体が根っこからほどばしる。

 咄嗟に液体ごと、植木鉢に投げ込む。セーフであった。

 樹は、ぴくぴくして動かなくなった。危険な物体だ。まるで、烏賊のようである。


「寝よう」


 イカだけに、遺憾だ。




 こんこんという音がするので、ベッドから起きたユーウはそのままドアを開ける。


「おはよー。朝だよー」


 ルーシアだ。相変わらず、前髪は長い。



 学校に向かったというのに、まるで生きている感じがしない。そう、学校とは楽しいものなはずなのに。ユウタにとっては、檻のようになっている。出来る事なら、もう本をずっと読んでいるべきなのかもしれない。そう考え始めたユウタ。図書室で読むのは、美味しい味噌の作り方だ。こうじ菌にも乾燥タイプなどがあるらしい。学校の図書は、その多くが山田たちの学校から写本された物を揃えている。よって、為になる事が多い。


「珍しいであります。ロシナ殿でありますよ」


 オデットの呼ぶ声。そして、ロシナが現れた。だいぶ、やつれてしまっている。


「どうしたの?」

「すまん! ちょっとこっちにきてくれ」


 引っ張られるように廊下に出る。ロシナは、隅の方へと移動すると。


「金、貸してくれ」


 またである。


「いいけど。今度は、何に使ったの?」


 毎度の事ながら、なんでもなさそうな事に大金を使ったのではないか。心配の種が尽きない少年だ。 


「馬の調達に、支度金とか。金がいくらあっても足りやしないぜ」


 苦労しているようだ。

 ユウタは、考えた。ここで、ぽんと渡してもまた溶かしてしまうのではないかと。実際、そう見えても仕方がないくらいにロシナの金は減り方が早い。どうせ、またどんちゃん騒ぎをしたに違いない。己でなんとかしようとする気概のないヒモのようなロシナにげんなりした表情を浮かべる。


「はあ。で、幾らいるの」

「一億くらい」


 桁がちがった。とことん、飲み食いしたようだ。


「しょうがないなあ」

「恩にきる。妹と婚約とかどうだ?」

「それは、ちょっと」


 ロシナは、ゴルの詰まった箱を受け取りながら笑顔を浮かべた。

 どうせ、返す事が出来ないのである。貸し倒れもいい所であった。インフレ経済にしろ何にしろ、ロシナの稼ぎは当てにできない代物。ゴム製品にしても、エリアスのところから作ってもらっているのだ。ゴムの樹を見つけて、生産しているとかではない。南方では、植えられているようであるが。ユウタのいるミッドガルドから遥か南の方へと移動しなければならなかった。


 国を一つまたいで、さらには海を越えたところにあるという暗黒大陸。

 そこまでいく気になれない。出不精であるのだ。飛行魔術を使って飛んで行けば、ひとっ跳びなんていう風に考えなくもない。そこに他の神々が張っている神域がなければ。楽なのだろうけれども。

 

「しっかし、まいった。馬車じゃ、そんなにもうからねえっていうのがな。どこもかしこも真似してきやがるし。いっそ、車でも作ろうかと思うんだが。どうよ」


 どうよ。である。

 車に必要な部品を揃えようと思えば、できなくもない。エリアス頼みになるが。ユウタとしては、彼女に借りを作るのが怖いのだ。ちょっとした事でも、貸しを作るのはいい。貸しを十くらい作って一返してもらうくらいで。丁度、いい。

 学校の授業を受けるでもなく、ロシナはそわそわしている。


「鉄製品が難しいんじゃないかな。事に、エンジンは―――」

「化石燃料を使った物が作れないんだっけか」


 そうなのである。化石燃料が、地中奥深くに眠っていると見られているのだが―――


「アル様が反対ですからね」

「となると、電気か水素エンジンだな」

「魔術を使用しないタイプがいいかと思いますね」


 魔術で、電気を起こせる。といっても、蓄電の技術も開発中。錬金術師たちに丸投げなのであるが。彼らに言わせれば、問題はそこではなく。女神教にあるらしい。


「簡単に儲けが出る商売がいいよなあ。うちの木材もだぶついてるし、何かいい案はないか? 相談にのってくれよ」


 これである。ロシナは、自分ちにある品物を開発しようという事をユウタに丸投げしている。椅子やらテーブルに家具といった代物。それに加工して、販売するように進言していて、ルートの開拓なのであるが。フィナルの商売と若干重なる。樹を切って売るという事に加えて、それらを加工するとなると。


「紙にしちゃう方がいいかもね」

「それだ!」


 すぐ乗る。ロシナを見て、額に手を当てた。

 泣いているのか。涙をぽろぽろと零している。


「た、大変なんだね」

「おうよ。もう、金策っていうかな。借金まみれだろ。返すあてもねーしな。そろそろ身投げの危機だぜ」

「いいよ。そのうちで」


 返せそうもない額だ。既に、溜まっている借金だけでも三十億ゴル程度にはなるのではないだろうか。一気に取りたてると、アインゲラー家は破産する事は間違いない。


「紙にするのも、高度な技術がいるんだよな。元日本人たちを貸してもらえるんだろうか。俺にとっちゃそっちのが心配だぜ」

「そうだね。なんとかしてみるよ」


 ロシナは、ぽんと肩を叩く。帰るつもりらしい。


「そんじゃ、またな」


 これである。フィナルとの話を避けては通れないとか。そういう事を勘定にいれない。最近のフィナルは特に怒りっぽいのだ。忙しいのであろうか。

 眉間にしわを寄せていた。話かけると、ぱっと明るい表情を作る。大分、無理をしているようにも見える。


「ちょっと。貴方、ロシナにまたお金を貸したの? 返ってこないわよ?」


 見ていたというのか。大方、そうなのであろう。


「うーん。そうなんだけど、困っているみたいだしね」

「紙でしょ。私のところに来たっていう事は、それだけなのかしら」


 金のドリルヘアーを弄りながら腰に手を当てるポーズで、ふんぞり反っている。彼女の特徴といえば、ない物がある。白いカチューシャだ。黒いフリルがついている。


「か、可愛い髪飾りだね。似合っているよ」

「そうでしょう? もちろん、これは……」


 フィナルの語りが入り始めた。このようになると、長い。しかし、最近になって軟化しだした彼女の態度はおかしい。ちょっと前までは、ふて腐れていたのだが。

 とりあえず、褒めておけばどうにでもなる相手であった。


「ちょっと。授業が始まるわよ。あんたたち、べたべたしすぎ」


 エリアスが割って入る。三角帽子ではなく、黒いカチューシャをしている。メイドカチューシャにもにているが。フィナルのを真似ているようにも見える。


「うん。じゃ」


 あ、と言いかけてフィナルは唇を噛みしめた。

 きっ、とエリアスを睨んでいる。


「真似って、最低ですわ」

「なによ。あたしの方が先につけてたのにっ。あんたの方がっ」

「貴方、背中が煤けてますわよ?」

「何ですって!?」


 一発触発だ。

 ユウタは、ロシナに内心で謝りをいれながら逃げ出すしかなかった。

 二人が睨み合う場所にとても居られそうにない。





 家では、田植えだ。

 ルーシアやオデットと一緒になって田植えをしている。彼女たちの手伝いがあればこそ、直ぐに済むという奴であった。

 ちゃぷちゃぷと、田んぼの水で遊んでいるカラフルなちび竜たち。休憩している間に、やってきては遊んでいる。

 のんびりとした時間が過ぎていく。ぼーっと田んぼを眺めているのも安らぐのだ。

 ぼちゃんっ、という音を立ててDDが水に入る。


『悩み事があるのかな』

「そりゃ、一杯あるよ」

『ずばり、強敵が現れない! とか?』

「んー。現れないなら、それでもいいけどね」


 大体の勝負が一撃でついてしまう。剣を合わせてのチャンバラをするのもセリアかアルくらいだ。

 魔術の勝負であるとか、製造品での勝負では中々しづらい。魔術の方は、相手が死んでしまうからで。アイテムを製作する方では、製造に時間がかかるのと負けるのが嫌だからだ。美しいのと美的センスを競い合う勝負。感覚が頼りにならないのでエリアスやフィナルに負ける事がある。ユーウもそうであるが、ユウタも負けるのが大嫌いだ。従って、そういった勝負は避けるのであるが。


「モニカに、何か作ってあげた方がいいのかなあって」

『何か、って戦士系で育てるんじゃないの? もしかして、そういう事なのかな』


 DDは、ちゃぷちゃぷと水をかいて植えられた緑色の物体に触れる。

 あまり弄っていると、抜ける。


「うーん。そうなんだよね。戦士から重戦士、聖戦士。これには、治癒士もいるし。忍者を取らせるのもありかも」

『下忍を取らせて、風遁、土遁でも使えるようにしておくと便利だね。魔術士でもいいだろうけど、彼女はMPの上がり方が良くないみたいだし。SPを主眼に置いた方がいいかもね』

「そうしよう」


 ユーウのスペックは言うまでもないだろう。常に、「泡」の空間魔力炉に魔力を貯蔵する恰好でMPはない。日々、増えている最大魔力量。表示が壊れている。SPも同様だ。計算できないのが痛い。「泡」の方といえば、大体である。多いか、少ないか。維持するのに必要な魔力量を絞りつつ、水の補給であったり、配達をしなければならない。

 

 初年度の食料生産は五万トン程度で、次の年が五十万トン、その次の年は二百万トン。一昨年は、四百万トン。昨年の計算は、まだだが三倍増が見込まれている。日本の食料生産が千万トン程度である事から、かなり頑張った数字ではないだろうか。もちろん、元日本人たちの協力なしには達成できなかったであろう数字でもある。


 どこまでも伸びていく王都周辺の農地。

 そこでは、奴隷たちが自分を買い取るために必死で働いている。大抵は、そのまま農奴になってしまうのであるが。土地が買えないので、それしか道がない。奴隷であっても、結婚は出来るし全く問題はないのであるが。農民という名前に憧れる奴隷たちは、やはり多いのである。


 ばんばん子供を産ませようという策が柵となって、土地に彼らを縛り付ける仕組みになっている。だから、それをどうにかしようとすればどうすればいいのだろう。というような悩みが生まれるのだ。ユウタは、農作業など大好きだ。ちょっときつい事もあるが、大した労働でもなく。生きている事を実感する事ができる。


 青い空に、カエルが鳴く声を聞けば田舎を思い出す。


「奴隷ってなくそうとすると大変だよね」

『藪から棒だね。ボクたちには理解し難いけどね。強いのがいて、弱いのがいる。弱ければ、食われるのさ。当然の事じゃないかな』


 ―――理解し難い。か。

 ユウタも、理解し難い。そうであるように、金持ちには貧乏人の気持ちが理解し難いのかもしれない。奴隷は、奴隷で。「貧乏人は、麦を食っていろ」とか「君たちには貧しくなる自由がある」という。そんな風になるのかもしれないのだ。ユウタは、インベントリに膨大な量の食料を貯め込んでいる。人口が一億二千万だとするのならば年間で4千万トン近い食料が必要になる。

 ユウタが十六になると、ミッドガルドの人口は二億近くになっているので間に合わせるには八千万トン近い食料が必要だ。今のままでは、とても人口爆発に追いつかない。アルカディアとブリタニアを含んでの計算だとしても、食料はいきなり増えたりしないのだ。ジャガイモの生産に併せて、稲作をもっと推奨していく必要がある。


 ぽちゃん、と水田に飛び込む銀色な子犬と金色の樹が目についた。

 ぱしゃぱしゃと泳ぎ回っている。楽しげだ。 


「(いつまでも、こんな時間が続けばいいんだがな)」


 目に眩しい三匹を眺めながら、頬杖をついた。

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