30話 盗賊団を管理しよう
◆ 侵略者、アルトリウス
アルトリウスは、剣が大好きだ。
何より、剣が。
武器といえば、剣。槍、弓、爪、槌、鞭、銃、斧、鎌。様々な武器があるが、磨き上げられた剣の美しさは、他を抜きんでている。
何よりも切れる剣なら、尚の事。それが、手元にあるなら手放す事をしないだろう。
手に携えるのは、蒼い柄に金で華美な装飾が施された聖剣エクスカリバー。
アルーシュには、彼女が持つティルフィングのパチ物呼ばわりされるそれだ。持つ者には、勝利を約束するという。抜けば、刀身が見えないとか。魔術を防ぐ防具にできるとか。光を放つとかそういった事はない。細胞の回復能力を高めたり、不老化したりする事もない。ただ、アルトリウスには聖剣技が使える。似たような技はある。と、同時に高速を極めた末に至る光速剣の使い手でもある。
それでも、ユークリウッドに勝つのは厳しい。
―――食らってもダメージ無しとか。
彼は、詐欺師だった。鋼鉄だろうが、戦車だろうが、魔術だろうが。楽に、斬り裂くのにである。
美しい剣で、よく斬れるならば多少の好みは黙るところ。
同じようなモノをアルーシュは、易々とこちらにそれを寄越した。
彼女は、腹の虫を悪くしていたが。
ブリタニアは、アルトリウスの故郷である。といっても、過去の記憶での話で。今となっては、手を出すのも事情があっての事だ。空は、明るく陽射しは中天を越えている。敵兵が、城壁から見える。そう、地表を埋め尽くさんばかりに展開しているのは、敵だ。味方ではない。
敵兵は十万を超えるという。
キャメロット城とその城下町を取り囲む外壁から見えるそこには戦意に燃える無数の兵士たちで、地表が埋まっている。立て籠もるには、不利だった。ミッドガルド軍の手によって外壁が損壊したり、食料の備蓄がたいしてなかったりする。敵は、倍の兵力で取り囲んでいるだけで率いている軍団は降伏の憂き目を見かねなかった。
そう地平の向こうまで、敵陣だ。
という風に見えるのが、敵の策でもある。アルトリウスが出陣しても埒があかない。
騎士団総出で追いかけると、戦車で弾幕を使って逃げ回るのだ。馬では、戦車を相手にして追いかけるのも苦しい。もっと早い機動力と火力が必要だ。そうこうしている間に包囲網を敷かれて、痛い目にあったのは最近の話。痛い目というか、一隊が全滅しかかった。己は無傷だったが、配下はそうもいかない。
火力を前面に出し、銃を使う相手。卑怯極まりない相手であった。といって、罵るだけでは脳味噌がたりない。
ミッドガルド軍にとっては、少しばかり困った事態である。
兵を減らしては、支配もできない。強引な作戦は、激しい出血をともなうだろう。味方の数は、五万程度。海を渡る為に、船を徴発して、やりくりしたが足りていない。
それで、セリアが呼んだという訳である。
呼ばれたセリアは、まったくおもしろくないらしい。
聞けば、セリアの意を決した攻撃も空振りに終わったとか。
―――危なかった。
幸いな事に、何が悪かったのかわからないようである。
その彼女が、
「それで、あれを全滅させればいいのですか」
「ああ。俺の見立てでは、速ければ速いほどいい。とりあえず、好きにしていいぞ」
苛立っているようである。アルーシュの忠実な腹心で。
正面攻撃を得意とするこの主は、計略を立てるのが苦手だ。
一応、アルトリウスの故郷である。敵だからといって、皆殺しにしてはのちの支配にさわる。
横には、眠そうな眼をしたフィナル・モルドレッセが。そして、黒い三角帽子を触るエリアス・レンダルクが隣に立つ。
アルルにシグルスがいるように。己にも配下は、いる。
幼児か爺か。その間が乏しいのが難点だ。
ゼンダックだとかゼンダックだとか。ビスマルクだとか。ファルガとか。大臣たちの爺率の高さ。
将軍たちも五十台以上の動きの硬いおっさんばかり。
そんな中でアルトリウスがセリアを呼んだのには、他にも訳があった。
ユークリウッドの事だ。長時間、セリアとユーウを一緒にしているのは、不味い。
夜も押しかけているようだ。子供だというのに、やろうとしたという。
ようじょ、であっても変態な男であれば、押し倒す。が、押し倒してこない。
ユークリウッドは普通の男である。
雄ならば、獣欲のままに振る舞うのが獣人の常識だ。まだ、早いというが。
十二になるまで、待てそうもない。そう、セリアを含めて獣人には発情期がある。
待てといって、待つのか疑問である。身体が、できているのならやりかねない。
隔離しておくに、こしたことはないのである。こちらにて、セリアをこき使うという考えだ。
果たしてうまくいくのか。
アルトリウスは、モートレッドの子孫であるところのフィナルに問う。裏切り者の烙印を押されている彼女の家にとっては、この地を支配するのは悲願だ。薄い笑みが浮かんでいる。
「こちらに引き込めそうな者は、どれくらいだ?」
「残念な事に、応じた者が一割しかおりませんわね。流石に、勝ち目は薄いと見ているのでございましょう。様子見をしている者は、切り捨てるべきですわ」
「ふん」
―――馬鹿共が。
勝てば、官軍という。こちらの勝ち目は、十割だ。いざとなれば、ユークリウッドを使えばいい。
彼ならば、直ぐに片付く。
もっとも、セリアが突撃してすぐに戦いは終わった。変身も使わない。舞い上がる敵兵は、ゴミのようだ。ぼとぼとと落ちていく様は、痛快であった。アルトリウスには、彼女のような真似が出来るかといえば、難問で。斬れば、サイコロのようになるのだから。とはいえ、防御能力には自信がない。変身してしまっては、意味がないのだ。あくまで、兵を率いている王としての力で以って屈服させねばならないのである。
困った時は、セリア頼み。
敵の戦車部隊が放つ砲弾は厄介だったが、彼女にとっては豆粒のようなものなのだろう。
配下の騎士たちですら、目を疑うような光景。だが、真実だ。
下がりながら打つ砲弾の威力は、スキルでもって銃弾を意にしない騎士たちにとっても脅威だった。
兵隊は、温存するに限る。
この島の横には、距離を置いてまた島が存在する。
戦乱で明け暮れるその大陸の如き島の名をアヴァロン。三年程度では、世界を征服するには全くたりない。国の人口が百万足らずとか、総兵力が一万とか。そんな風でもない。他国を征服する。それ程、簡単な話でもないのである。ブリタニアですら、その総兵力は五十万とも六十万とも言われる。
今は、手を出しかねる場所だが。アルトリウスの総べるべき大地でもある。
約束の大地、だ。
◆
そこは、酒場のようだ。
そして、柄の悪い連中がたむろしていた。
煙で、前が見にくい。
ユウタは、ルーシアとオデットを外で待たせて中へと入る。
彼女たちは、己の身を守れる程度には腕が立つ。槍に格闘に魔術の腕は、鍛えたのだから。
二人は、共に学業成績共に優秀だ。ルーシアの方が若干点数は上。オデットの方が、体育の成績がよい。ユウタとしては、憤懣やるかたない。学業に、戦闘の強さとか魔術の出来だとか。そういう物は、加味されないのだ。したがって、まぐことなき落ちこぼれが出来上がっていく。
酒臭い場所に、子供が入って行くのはどうか。
どう見ても、場違いである。
アルが内政を疎かにしている訳ではないのであろうが。
胡乱な連中であった。
煙草の煙が漂う酒場の如き場所は、ユウタは苦手である。煙が苦手で、それが肺に入るともなればむせ返る。だからといって、そこにいる人間を皆殺しにしたり洗脳したりはしない。それで、どうなるという話だ。相手がくつろいでいるのだから、さっさと用事を済ませて帰りたいのである。幼児だけに。
「お、おやっさん。只今帰りやした」
「おう。珍しいな。お前等が、報告にくるなんてよ。で、何をやらかしたんだ?」
どうやら、この親玉はろくでもない手下を持っている認識があるようだ。
隠形を使っているユウタの事は、認識できていない様子であるが。
「へえ、それが。そのお」
「歯切れがわりぃな。どうしたんだ」
「子供にやられちまいやして」
どっと笑いが起きる。
「で? 冗談はよせ」
「いや、それが。その急に身体が動かなくなっちまって。ここまで、歩かされたようなんすよ」
「おいおい。二人とも、酒でも飲んでんのか? ちょっと横になってこい」
親玉は、髭面に渋面を浮かべる。いきなり殺したりはしない穏当な風であった。
「それが、本当なんすよ。まだ、子供だったんですけど。俺らの後をつけていたようなガキが表にいるはずなんで。表を確認してもらえりゃわかるんですけど」
「おい、誰か。水を持って来い」
そこで、口を挟んだ。
ユーウことユークリウッドなら、話もせずに殺して処理する処だろう。ユウタには、そこまでやる必要がないように思える。そして、使えるものは何でも使っていくのが主義だ。
「ちょっと、いいですか」
「? 誰だ」
きょろきょろと見渡す大人たち。ユウタの声は、少々大きかった。
この男を味方に付けるべく算段を開始する。どこかで見たような男である。
姿を現すと。
「「子供!?」」
「おいおい、坊や。こんな所に紛れこんじまったら、大変な事になっちまうぜ?」
変態の気質でもあるのであろう。手を卑猥に動かしている。ユーウならば、カッとなって殺戮を開始する処だ。己は、それ程カッとならない。大人であるのだから。
「……待て。以前、見た事があるな。アル王子の腹心だったか。アルブレスト卿の子息、ユークリウッドとかいったな。飛ぶ鳥を落とす勢いの君がどうして、このような場所に?」
ユウタは、かくかく云々と説明をした。さっと殺すなら、一秒で終わるような連中である。武装を解除出来れば、その方向がいいのであるが。生憎と、敵を無力化できるそんな都合のいい魔術はない。あれば、殺したりするのはやらないであろう。魔術で、銃を分解したり敵の剣を的確に曲げたり。そんな真似が出来ればいいのであるけれども。
まだるっこしいのは嫌いである。単刀直入に言って、理解を得る方針だ。
「わかった。あいつらには、厳しく言っておく。これで、いいか?」
「勿論です。が、まだ話があるのです。よろしいでしょうか」
「言ってみろ」
親玉の男は、あくまでも対等の立場を崩さない。どこかで見かけたという顔。アルルの配下にいた将軍であったか。青騎士団の将で、アドルの上に立つ人間であったとかいう。大分、話が変わっているようだ。ぽんっと手を叩いた。
この男、騎士団を止めて野に下ったとかいうクゥアッド家の人間であろう。間違いは、ないはず。ユウタの記憶力は、大した事がない。といっても、ユーウのそれは段違いだ。直ぐに映像付きで思い起こせる。
他の盗賊のようななりをしている人間たちに対して、極めて大きい統制力を持っているようだ。
先ほどのデカぶつとチビは、場の隅で震え上がっている。
「実は、盗賊団を探していたのですが。あなた方は、盗賊とは違うのですか」
「無礼だな。俺たちは傭兵だ。雇い主を探している段階でな……」
「と、言っても就職先は、ないですよね」
「ぐ、そんな事はないぞ」
嘘である。アルが、国内での傭兵活動を認めないのは周知の事実。
無いものは、ないし。雇ったら、それこそ潰す口実にもなる事が請け合いである。
国の管理を離れた戦闘力のある集団を認める等を止めて、冒険者ギルドへとそれをまとめて上げている。かつては、ミッドガルド国内に傭兵団などもあったようであるが。
「如何でしょう。ここは、盗賊団をやられては。一応、案がありまして。カジノ経営など、ですね。あくどい話ですと、娼館の管理も商人たちから取り上げてしまうと。それを盗賊団の収入にしてしまえば何も盗みや誘拐をやる必要もなくなってきますよね」
「待て。俺たちがそれをやるとは……」
言葉を遮り、
「やるしかないでしょう。飢え死にしたくなければ。どの道、傭兵では仕事も得られずに盗賊化するしかないのですよ。ですから、今の内から傭兵団として盗賊団を取り締まる盗賊団をやるという方向でいきませんか」
「つまり、どういう事なんだ」
何もわかっていない相手に、ユウタの頬が震える。
「ですから、盗賊の真似をする必要はありません。けれども、盗賊共を管理する傭兵となっていただきたい。という事です。ああ、駄目でしたら断ってもいいですけれど。他に話を持っていくだけです。ただ、断られた場合かなりの不利益を被る事は間違いないですよ」
そこで、小さな茶色い頭が飛びかかってくる。
「ふざけんな。てめぇ!」
その小さな拳をやり過ごし、喉をわしずかみにする。
「ぐぇえ」
「気持ち悪い声を上げないでくださいよ」
喉を押さえられた相手は、誰であろう。
シルバーナだ。小さいシルバーナである。ここで皆殺しにする訳にはいかない理由が増えた。
これのおかげで、歴史が変わってしまいそうだ。
そう。これを含めてここの連中をまとめて殺すのは、不味い。
「止せ、シルバーナ。小アルブレストも大人げないのではないか」
わかっていて、気が付かないフリをする男は役者のようでもある。
湧き上がる暴力的な衝動に、肩をすくめて放すと。
「くそがっ」
毒舌を吐くシルバーナ。また、殴りかかって来る。皮一枚で躱しながら、クリンチだ。
背丈が違うので、子供を受けるような恰好である。己も子供の年齢であるのだ。少しばかり、大きくなりすぎた背丈が恨めしい。
「放せ、こんちくしょう」
放さない。
「変態。どすけべ。ロリコン野郎」
放すしかなかった。
「どうですか。考えが、まとまらないのならば後日でもよろしいですよ。ここで返事をするのには、ためらわれるかもしれません。騎士団に復帰する望みを絶たれる訳ですしね。といって、断れるとは思わない方がよろしいかと。気が変わりましたので。絶対に、受けて貰いますよ」
「む……」
視線を合わせる。眼力を込めて、じっと見つめれば。視線を逸らしたのは、男の方だ。
厳つい顔に髭を乗せたその男は、だんまりだ。
「ええと、クゥアッド将軍……」
「その名は、捨てた。今は、ただのボルクスだ。小僧、何でも上手く行くと思うなよ?」
小僧。そうである。
「ボルクスさん。上手く行かせるのが、交渉ですよ。ええ、何があっても成功させようという気迫が足りない。どうやら、酒を飲んで憂さを晴らそうとしているようですが。休息も終わりですよ」
ユウタは、インベントリから書類を取り出す。そこには、盗賊団の規模や生業が載っている。会議で出回ってきたお仕事でもあった。面倒な仕事は丸投げするに限る。
それを机に置き、
「よろしくお願いしますね」
「おい、待て。俺たちが受けるとは……」
「きっと、受けます」
準備金として、五千万ゴルが詰まった箱を手渡す。インフレしている今日では少々額が少ない。が、手付けだ。十分であろう。子供には重いが、ユウタならば楽々だ。
目を見張るボルクスに、手を振りながら【隠形】を使う。絶対にやってもらわねばならない案件である。これも、治安維持の為。にしても貨幣では重い。紙幣にする必要があるのだが、最低の貨幣としてアルミニウムに似た金属を使うのにすら時間がかかっている。作りだして、等価の価値をもっていないといけないのであった。これには、苦戦している。
外で待っていたのは。
「待ちくたびれたであります」
「そうだよぉ」
手にした槍と反対の手で眼帯を弄っているオデットとシャドーボクシングをしているルーシアだ。
まるで、汗をかいていないが。
身元不明の男たちを叩きのめしたのか。十人ほど地面で呻き声を上げている。殺しはしていない様子だ。実力の差が相当にある。そういう事だ。
随分と治安の悪い場所であった。鉱山で強制労働をしてもらうのも悪くないだろう。
しかし。
「帰ろう。今日から、仲間が増えるからね」
「「え?」」
驚きの声だ。二重の意味である。
二人共に、予想していなかったのだろう。
モニカと引き合わせた際には、二人共に良い顔をしなかった。
不思議である。
「この子と一緒に、レベル上げでありますか?」
「よろしくお願いします!」
「レベルは?」
「5になりました」
堂々と胸を張るモニカ。二人共に、呆気にとられているようだ。
「狩りに行こう」
「どこへで、ありますか」
「牛神王の迷宮でいいかな」
「まだ、早いでありますよ」
結局、黒い森になる。
最初は、やはりブルースライムを集める所からだ。薬草採取のクエストを受け直してである。
美人のおねーさんがいた訳で、ロクシオーヌという虎人らしい。一応、ユウタの奴隷である。手を出す訳にもいかないが。さりとて、誰かにやるというのは業腹だ。良い顔をまたしてもしない二人に、モニカはきょとんとしていた。
森に進むと。
まずは、スライムを相手にクラッシュの訓練である。
「レベル5で何回クラッシュを使えるか試してみよう」
「はい」
ちなみに、レベル1でも普通は三回ほど連続で使えるスキルだ。クールタイムは三十秒と長い。クールタイムは、使い込むほどに短くなっていくのだが。
クラッシュのスキルは、戦士系が取れる最初のスキルでもある。同時に、スラッシュも取れる。持ち替えをすれば二つとも使えるスキルだ。隙を消すのにも使えるスキルで、ひたすらにこれだけを修練してもいいくらいに良スキルである。そう剣を持てば、スラッシュなのだ。彼女は、槌がいいらしい。一般的に、メイスは扱いづらい。金属の鎧や魔物の頭部を狙えば一撃必殺の威力を誇るが。
「七回です」
「ちょっと、少ないかもしれないね」
MPとSPが少ないようだ。
森をちょっと進んだ場所で、ユウタたちの狩りが始まる。全く経験地が入らないのは頭が痛い処。
だが、オデットやルーシアは嬉々としてブルースライムを連れてくる。
「にしても、上がらないでありますな」
「まだ5だし。しょうがないと思うよ」
「はぃ」
二人に言われて、モニカはしょんぼりしているようだ。
「まあまあ、始めたばっかりで二人のようにはいかないよ」
「そうでありますな」
刻限は、迫っている。スライムをべちゃべちゃと潰し、時折連れてくるゴブリンを肉塊に変えて、ようやく1上がった。その頃には、夕刻である。
「一日が過ぎてしまったでありますね」
「はい、ありがとうございます」
クラッシュのスキルを育てるのは、重要だ。次のスキルへの派生が生まれるからだ。そこらへんも把握しているユウタにとって、育成計画の加速は微妙だ。レベルだけを上げていくのもいいのだが、下手をすると。
「死んじゃうからなあ」
「不穏でありますよ。もしや、モニカ嬢はミッドガルドの人間ではないのでありますか?」
「だね」
「まあ、それよりも。お姉ちゃん、ユーウがお友達を作れたほうが嬉しいわ」
「はっ。そういえば、そうであります。これは、お祝いをしなければいけないでありますな」
ルーシアに言われたユウタは、びくっとなった。ショックだったのだ。そんな風に思われているとは。
目を閉じたオデットが腕組みをして同意するようにして頷いている。
口の端がひくひくと動く。無視するしかないのである。でないと、抱き着き攻撃がくる。
ユウタがモニカを奴隷として買い上げた頃。そののレベルの上がり方は、異常だった。そう考えれば、ミッドガルドの支配域が増えた頃と今では適用が違うのかもしれない。オデットやルーシアの成長率は、比較すれば桁が違う。初期のパラメーターからして、だ。
モニカも普通の子よりは頑張っているようだが。
「夜は、何にしようかな」
「ハンバーグがいいであります」
「さんせーい」
二人は、元気がいい。モニカは、
「あ、あのぅ」
「ん。気にしないで。その内に、強くなれるよ。最初は、皆そうなんだから」
つんつんと金属鎧の小手先を合わせるようじょ。涙目だ。
わからなくもない。己ですら、大人たちに囲まれれば涙目になるのだから。
帰宅すると、丁度いい時間であった。
桜火に用意してもらったハンバーグの出来は、最高である。から揚げのにレモン汁のようなものまであった。思わず、唾を飲み込む。
食卓は、ちょっと賑やかであった。から揚げが大人気で、あっという間になくなってしまう程。
人が多いのも、慣れっこになりつつある。むしろ、居ないと不安になるくらいに。
部屋に篭って色々と仕事をこなしていると。
「お時間、よろしいですか」
ノックして入ってきたのは桜火だ。
「夜食をお持ちしました」
「ありがとう」
しっかりとしたメイドさんである。セリアにも見習わせねばならない程だ。
「今日は、伝言とこのような物を預かっております」
「へえ、誰から?」
「アル様です。「偶には、顔を見せにこい」「パーティーの誘いがない」とか。後は、この書面です」
ユウタは、満面の笑みを浮かべた。かかる費用は、おいおい回収していく方針だ。アルーシュの難題に道筋をつけていると。
桜火が、手を叩く。
「流石は、ご主人様。早速、解決ですね」
「あ、うん」
ユウタは、頭が痒くなる。
そんな風に、褒められる事に慣れていないのだから。
一緒に紅茶を楽しもうとすると、断られる。彼女は、頑固のようだ。
しっかりと、鍵を掛けてから眠る。
DDなどは、当然のように潜りこんでくるが。
数日が過ぎると、寝室にはワンコが現れた。
銀色の毛をした子犬だ。セリアに違いないだろう。抱えて、中に招き入れてやると。
ドアに、挟まるようにして金色の枝に葉っぱをつけた木が挟まっていた。
これまた誰だか何となくではあるが、想像できる物体である。
「しょうがないなあ」
ユウタは、それらを抱えて中で寝る準備をする。植木鉢を用意してやると、その中に木は入っていった。根っこを器用に動かして移動していく様は、気味が悪い。しかし、口には出せない。処刑されたいのなら別であろうが。
ベッドの上には、ワンコと化したセリアが。
寝に入ると。後から、ちび竜たちがDDと一緒に部屋の隅から侵入してきた。
土や色々な汚れがついている。ので、洗ってやらないといけない。ちょっと、洗ってやるとすぐ動かなくなるのであった。寝つきは、いいようだ。
ベッドの下では、植木鉢で寝ている? 金色の樹がある。部屋の中に灯りは、要らないくらいに明るい。樹が寝ると、ぼんやりとした明るさになるのであった。そういう事なのだろう。
どうみてもアルーシュの化けたそれであった。
キングサイズにしたベッドに色とりどりの魔物たち。
人外魔境と化した寝室だが、問題はない。
子供が、子供を作るなどあってはならないのである。モラル大崩壊より、ずっとましなのだ。




