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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
214/710

29話 マーキング

 下半身に起きている激痛。

 ベッドですやすやと寝ていたはず。何が起きているのか。

 ユウタは、股間に視線をやる。足がつって痛いとかそういう話ではない激痛である。

 銀髪をした誰かが、いた。


「痛いってば。何をしているの」

「むうー」


 何をいっているのか。セリアは、何かを咥えている。

 己の大事なものだ。少女の犬歯がガッチリとそれに食い込み。

 振りほどこうとして。離れない。


「ぎゃああああ!」


 膨張。


「むふ!?」

「……もげなかった。よかったあ」


 突然のそれで、セリアは転がっていく。喉につまったのであろう。「げっげえっ」と、えづいている。

 不幸中の幸いだ。

 残されたのは、血塗れて取れかかったもの。

 回復魔術で、治るようだ。幸いだった。いや、良くないが。

 

「なんだこれは。不味い。母上に聞いていたのとは、違うな」

「どんなのを想像していたんだよ! というか、何でこんな事をするんだい」

「マーキングだ!」


 眩暈を感じて、額を押さえる。どこをどうしたらそうなるのか。マーキングといえば、犬がするような小便を連想するのであるが。

 意味が解らない話になっている。

 いつも通りの黒く染めた皮鎧ではなく、ピンク色をしたスケスケのネグリジェ。似合わない訳ではないが、色気は皆無だ。

 出る所がでて、初めて意味を持つというやつである。大事な部分を回復させつつ。


「わかった。けど、とれちゃうから。やめようね」

「む。ユーウにも弱点があるとは、意外だった。再生くらいするかと思ったぞ」

「僕は、どんな生物なの!」


 偶に、頭がおかしい子になる。くっついた大事な部分。歯型がはっきりと残っている。腹には、DDがつくった凄まじい傷跡。のっぴらきにならない身体ができあがっていきそうだ。ユーウのそれは、でかすぎる。ユウタの記憶からしても大きい。今生では、他人のあれを見比べる機会もないのだが―――


「でかいなあ」


 ズクッと痛みが入るそれ、再起不能になりかけた。文字通りである。

 というのに、セリアは肉食獣が獲物に狙いを定める目をしていた。


「本当だ。あごがはずれそうだった。ところで、試してみないか?」

「いや、そういうのはだめだからね」


 セリアは、乗りかかってきた。そして、


「ここか? ふんっ」

「あがっ。無理! DD助けて!」

「ぐっ。駄目か。先手必勝なはずだ」


 取っ組み合いになり、押し付けてくる。が、入らない。そして、押し倒す方が間違っている。

 ユーウのでかすぎるそれには、助けられた格好だ。セリアを巴投げの要領で投げ飛ばし。安堵の溜息を吐いて、身を起こす。セリアは、まだ諦めてない様子だ。

 そこで、


『あの、ユウタ。助けて』

「どこだ?」


 視線は、壁に。埋まっている物体が七つ。小さなお尻が見える。

 壁まで歩いて行き、取り出してやると。ドアから転がり出る人が。


「のわーーー。押すなーーー!」

「うあっ?」


 アルーシュにエリアス、フィナルが入ってきた。


『助かったよーーーありがと』


 セリアに埋められたようだ。嵌って動けなかったようでもある。

 幼女たちに注意を払いながら、


「どういたしまして。それで、アル様。夜分にどのようなご用でしょうか」


 DDを抱えて、撫でてやると痙攣して動かなくなった。どういう事だ。

 そのまま床に寝かせて、向き直った。

 全員が、ネグリジェを着ている。どういう事だ。

 そのまさかである。セリアを焚き付けたのは―――


「ふむ。いや、まあ、なんだ。その、うま、かゆ」

「はあ。何もないなら、でてってくださいよ。セリアも、もうこんな事をしたら駄目だぞ」

「ふっ。あきらめないのが女騎士だ」


 ―――何が女騎士なのか。

 アルーシュは、目をぐるぐる回している風に混乱している様子だ。まともに、舌が回らない。

 何が諦めないのか。どうして諦めないのか。

 というよりも、夜分遅くに男の部屋に押し掛けるとは。金髪ドリルヘアーの幼女が、口を開く。


「まあ、ここは。鑑賞会といきません事?」

「却下。さあ、出ていく」

「ちょ、ちょっと。あたしは別に。止めたし。止めたよね。やめようって」


 ―――おかしい。

 フィナルは、優雅に手を口元に添えている。断りをいれているのに、出ていかない。

 エリアスもエリアスだ。

 別にではない。瞳がハート色だ。どうしてそうなるのか。全く不明である。

 どうするべきか迷っていると。


「ふーむ。この大きさ。私でも無理だな」

「ですわね。縮ませるというのは、いかがでしょう」

「それ、だめよ。このくらいはないと」


 勝手な言い草だった。ここは、ユウタの部屋で寝室。寝る所である。なのに、勝手に侵入したあげく触っている。無理やり、払いのけると。


「あらあら、お困りのようですね」


 救いの主だ。忠実なメイドが現れた。


「あっ。桜火。頼むから、こいつらを連れて行ってくれ」

「はい。ご主人様」


 樹の蔓がするすると袖から伸びて、彼女たちを捕まえていく。

 桜火の後ろには、ルーシアとオデットがいた。仲間だとでもいうのだろうか。

 不安になり、セリアを見る。


「くっ放せ」


 桜火が何事かを耳元でささやく。すると、すぐに大人しくなった。

 ドアが閉まり、鍵をかけてようやく静寂が取り戻された。

 蜥蜴たちをおろして、撫でてやると。不思議な液体が身体からでて、仰向けになった。

 さらに撫でるのだが―――


「反応がないな。どうしたんだ、これ」


 反応がないのはDDも、であった。

 ユウタは、ベッドに潜る。結界を使用して、部屋には何人もいれないように。

 からくも守りきれたが、また同じ事になっては堪らない。

 こういう事は、結婚してからだ。仮に婚前交渉だとしても、まだ早すぎる。

 ついでにいえば、人は物ではない。これも物ではない。

 股の間がずきずきして、眠れそうもない。回復魔術を使って、痛みが引くまで眠れなかった。





 朝だ。すがすがしい寝覚めのはず。

 しかし、ベッドのよこでは様々な液体に塗れたちび蜥蜴たちがいた。腹を見せる恰好で、だ。

 DDが女性に見える現象は、治まっていた。目の錯覚であったに違いない。


「大丈夫か?」

「……」


 返事はなかった。鳩のような体型になっている。ヒヨコとは、もう言えないだろう。

 にしても、間違って絶世の美女に見えるのはおかしな話である。


 朝食は、一家そろってだ。継母は、二人目が生まれるのだという。

 お祝いを考えねばならない。弟が四人になった。

 五人でも六人でもいい財力がある。全く問題は、ない。

 ユウタは、テロリストの処分を迷っていた。殺すのは、簡単だ。しかし、テロリストとはいえ人権を考慮する必要がある。少なくない犠牲者を出した城での騒動。アルーシュの手にゆだねれば、即刻死刑か或いは拷問刑だろう。


 そこまで、考えて。も、迷う。

 日本人らしいのだ。とはいえ、テロリストには違いがない。

 学校を襲うようならば、処分にも迷わないのだが―――

 はーっと息を吐き、空を眺める。窓から見えるそこは、どこまでも澄んでいて。

 悩みなどすっとばしていけそうだ。


 テロリストといえば、爆弾に重火器を揃えていて、容赦のない存在を想像するのだ。捕えた相手は、普通のどこにでもいそうな少年。処分するのにも、気が滅入る話だ。首尾よく捕えられたので、終身刑的な労働で済ますしかない。


 質問等をして、改心を迫ってみてもミッドガルドが悪いの一点張りだった。

 テロリストならば、処刑が前提で殲滅しても問題はない。現代的感覚でもそうであろう。武装を一瞬で解除できる相手であれば捕縛するのにも、労がない。生憎と、そのようなチート技能はないのであるが。あれば、殺さずに済ませられる。武装を解除した相手を、無力化した相手を一方的に虐殺して殺人罪に問われないのか。そういう考えをつい持ってしまうのである。


 幼児のうちから数えきれない程の人間を殺しても、だ。


 朝食を食べて、学校に向かう。家の畑は、みずみずしい。田植が施されていた。弟たちは、しっかりと働いているようだ。子供でも、仕事をしないようでは食わせないのがユウタの方針である。父や継母には、苦言を呈されるのであるが。子供の内から働いておく事は、重要だ。


 新学期もほどほどに、過ぎてユウタは席につく。登校は、なぜかルーシアとオデットと一緒であった。恥ずかしいのであるが、無碍に扱う訳にもいかない。ちなみに、会議では姓の話がでた。貴族でなければ、或いは騎士でなければ姓を持てないのである。それを改める必要がある。というような事だ。どこどこのジョンとか。そのようなのでは、書類が作りづらい。そういう事で。


 桜火が、連れて行った幼女たちの姿は見えなくなっていた。

 彼女が、上手くやってくれたのかもしれない。しかし、ここにきて問題が発生した。ユーウに憑依するのと同じ状態に近づきつつある。力があるので払いのけられるが。いづれやられてしまうかもしれない。しっかりと戸締りには、気を付ける必要があった。


「どうしたの? 具合でも悪いの?」

「いや、平気だよ」

「そうでござるか。それはよかった」


 ルーシアとござるが抜けきれないオデットは、相変わらずだ。子供なのに、エッチは良くないと考えている。確かに、ユーウの力を以ってすれば養っていくくらいの事はできる。が、倫理的な問題だ。どれだけこちら側で過ごそうとも長い間、童貞だったのである。呪いが解けて、そういう気分になる事もあるが。理性的にいかねばならない。

 これでは、完全なるロリコンでしかない。酒場の美人なおねーさんに迫るとか凛々しい女騎士のおねーさんに迫るとか。そっちならまだ良いのかもという風であった。

 一つの露店で足を止める。


「むっ。そういえば。隊長、たこ焼きは売れ行きが悪いであります」

「そうなの? 味付けが悪いのかなあ」

「ソースが合わないのかも?」


 蛸は、迷宮産だ。たこ焼きに使う鉄板もタイ焼きに使う鉄板も、元日本人作であった。

 買いにくるのも、日本人が居たりする。

 味付けが、日本人好みになっているのだ。ユウタも当然味付けは日本人風にしている。

 ソースにしろ味付けが美味いものは、どこへいっても美味いはず。そんな風だが、蛸抜きがいいのかもしれない。


「たこ抜いてみる?」

「それ、たこ焼きって言わないんじゃ」

「困ったなあ」


 ルーシアが容赦のないツッコミを入れてくる。たこの無いたこ焼き。

 思案のしどころであった。タコは入れるのが、基本だ。タコは馴染みがないのか、歯ごたえが悪いのか。あまり評判がよくないようである。ちなみに、海の魔物は強敵揃いだ。蛸ことオクトパス系は触手も厄介で海中に引きずり込まれては、苦戦を余儀なくされる。中級の冒険者でもまず勝てない海中の魔物だ。

 道を行く馬車に目を移す。


 貴族ならば、大抵は馬車だ。だが、ユーウは馬車を使わなかった。妹の為に、豪華な馬車を用意しているが使わない。あくまでも、妹の為である。道を歩いていれば、色々とわかる事もある。野菜が少なかったり、柄の悪い連中が歩いていないか。とか。


「そうだねえ。工夫が、必要かな。それともたこ焼きを止めて、焼きそばに転向する必要があるかも」

「それは、たこ焼き撤退という話でありますか」

「売れないのなら、仕方がないよ。工夫して、売るにしてもメインから外していかないと」

 

 暑くなれば、アイスクリームを売るのも手である。

 ちなみに、夏場ではミルクアイスが大人気だ。小豆を入れたりと工夫の余地があり、かつ独占市場で儲けがある。高値で売っても飛ぶように売れる一品だ。豆腐や油揚げといった代物よりもずっと売れる。やはり、甘いものには目がないというか。そういう風に人間はできているのだろう。そういう物を生産できる元日本人は、厳格な管理下にある。


 ちょっとした知識ですら、この世界ではチート気味に効いてしまうからだ。

 カイゼンやジャストインタイム。それらを活用する要素は、多々に渡る。ただ、物流が貧弱すぎて同じ真似ができるかといえば疑問であったが。何しろ、配達といってもその日の内に届くような物流システムが構築されていない。通販などを支える物流を一体どうやって賄っているのかといえば、馬車だった。


 馬車組合を商人たちが作って、それで配達をしているのである。しかし、遅い。車で配達している訳でもなく、大量の物品をどうやって運ぶのかという具合に。さらにいえば、日本のように時間を守っての配達など望めない。空間魔術でやればいいではないか。という話もあるが、コストに労力が見合わない。というよりも、ユーウくらいしかできないので成り立たないのだ。次点でエリアスだが、きっと彼女もやらないであろう。


 あっちからこっちにほいっとそういう風に出来れば話は、簡単なのだけれども。


「また、考えているでありますね」

「みたいだねえ」


 道を歩いている間に、学校についてしまったようだ。考え事をしていたユウタには、ルーシアもオデットも呆れ気味である。話を振られているのにも関わらず、応答していなかった。

 女子のスカートは、長い。ふりふりの短いスカートなどはありえないというのが持論だ。だいたい、スカートが短いというのもかわいいというよりは、危ない。短くして、突っ込まれるのを待っているのではないか。そんな風に男を誘っているようにも見える。そう、男の都合にあわせているのではないだろうかと。


「あわわ」


 おっと。という風に支える。ルーシアは、野暮ったい制服とセットになった長いスカートに足をよく取られるドジっ子だった。

 校門の前でコントをやる羽目になる。オデットも真似するからだ。


「てへっ」

「てへっ。じゃないよ」


 困ったものだった。二人の横をゴム製の皮をつけた馬車が横切る。黒いゴムは、ロシナ家で生産しだした代物。割と、値段が張るのであるが重宝する家は多いようだ。馬の疲労度と乗り心地が大分違う。ちなみに、これもまた日本人たちの手助けがなければできない代物だった。おまけに、コンドームも作ろうというのだが、反対である。


 物流強化も急務だ。車の生産が出来ない以上、馬車で当面は過ごすしかない。有翼人たちの使う飛行機や飛行船の類を真似するには魔術的な技術に差がありすぎる。

 彼らの作ったそれを回収して、真似しようとすると。一機で、三十億ゴルほどはかかる。一体、どれだけの騎士が雇えるのか。想像もつかない金額だ。飛行蜥蜴に魔術士か魔術騎士をを乗せて戦った方が、安上がりである。飛行船も同じような事から滞っている。作るのに、一隻につき一千億ゴルから一兆ゴルなどという。

 あり得ない数字が提示されては、どうもこうもいかない。

 騎士の給料を年五百万ゴルにあげようというのですら四苦八苦である。

 馬車を眺めるルーシアが呟く。

 

「すごいねえ」

「馬車通学、したいの?」

「ううん。ちょっと憧れただけ」

「にゅふふ。ルー姉はあ、王子さまを待っているでござるよ」


 どきんと心臓がなった。


「へっ?」

「もう、何いってるの!」


 憧れない訳ではないのだろう。

 現在におけるコルト商会の力を以ってすれば、すぐにでも馬車くらい用意できるはず。

 不思議な物である。


 授業の方は、いつも通りだ。


「えー。今日は、女神教についての授業をしますよ。皆さん女神教をご存じですか?」

「「はーい」」


 元気がいいのは、いい。


「ご存じの女神教ですが、その歴史は古いのです。確認されているだけでも六千年近い歴史があります。フレイヤ様を筆頭にアマテラス、ヘラ、アテナといったそうそうたる神様たちで構成されている女神教は大陸全土に広まっています。この女神教と競い合うのが、大神教です。大神教はオーディン様を筆頭とした宗教です。我が国は、大神にオーディン様を奉る国なのです。ここは、重要です。テストにもでますのではっきりと覚えてくださいね」

「「はーい」」

「女神教が多数の女神を擁立するようになったのは……」


 実に、あくびのでるような内容であった。

 放課後になるまで、大した事もなく過ぎていく。

 お昼が、オデットとルーシアお手製の弁当であったりしたけれども。


 放課後も、オデットとルーシアと帰るのであった。

 セリアといえば、ちらちらとユウタの反応を伺っているようでうっとおしい限りである。

 

「今日は、セリアちゃんおとなしかったね」

「あれくらいで、良いと思うよ」

「にゃはは。元気がありすぎでありますな。ところで、夜更けに皆と何をしていたのでありますか」 


 非常に答えずらい質問だった。まさか、ナニしていたなどといえない。しかも、逆に手籠めにされかかっていたなどと。改めて、セリアの恐ろしさを実感したのである。

 

「お話……かな」

「へえーそうなのでありますか。よかったでありますな」

「うん」


 まさか、エッチな事になっていたとは口が裂けても言えない。そして、この二人は心配して見に来てくれたに違いない。そうでなければ、また大変な事になる。 

 帰路につくと、辺りでは子供たちが遊んでいた。皆、騎士ごっこや英雄ごっこが大好きだ。大抵、ガキ大将がいてしきっているようである。それらを見ながら、商店街が立ち並ぶ外周を歩く。貴族街と中流家庭が立ち並ぶ庶民街。そこに学校が建てられていた。今では、貴族街に並ぶとも劣らない警備が敷かれており、治安は悪くない。

 ちょっと揉め事があれば、治安維持の騎士と兵士がかっとんでくる。


「このあたりも治安がよくなったであります」

「そうだね」

 

 治安も、経済も何でも魔術で解決してしまえればいいのだが。

 そうもいかない。

 例えば、ラーメン屋。麺から作るのにも、日本人の手が必要だった。それらを作るのに便利な器材もまた、日本人が。ユーウがした事といえば、それらを作る為の場所であったり、資金の調達であったりす る。鉱山からは、鉱石が掘れる。それを精製するのにも元日本人たちの手は欠かせない。ちょっとしたアイデアですら、この世界では有用だ。


 何故、日本人ばかりがこの地にいるのか。不思議である。鉱山から領地、アルカディアを見渡しても、日本人ばかりしかいない。もっと他国の人間がいてもおかしくないのである。ラーメン屋を経営する楠本に聞いても、会ったことがないという。これが、ゲームでない保証もなくなった感じだ。日本製のゲームでサーバーが日本しかないというような。


 その楠本は、王都の冒険者ギルドで拾った歳のいった元冒険者だ。どうも、疲れていたらしく。冒険にも飽きて、ラーメン屋の開業に至っている。割合、好評だ。値段は、ほどほどである。当初は、安く設定していたのである。ユーウが反対して、止めさせた。あまりにも安いと、逆に売れない。というか長く続かない。


 店は、狭い。街の片隅にあるような感じで、客も七人入ればいい方というような風。ユーウがフルメンバーで来た時などは、入れずに外で食うしかない有様だった。

 そのラーメン屋が騒がしい。


「おう。払えねえってどういう事だ」


 開店しているのに、客がいない。と、見れば柄の悪い人間が二人で主人である楠本に絡んでいた。


「なんだ、ガキどもか。あっちへいってろ」


 ルーシアが怯えた表情を浮かべる。これは、不味い。オデットが、殺しにはしりかねないのだ。


「お客さん。この店に何のようですか」

「あ?」


 ガンを飛ばして来る。普通ならば、ここで回れ右だ。ユウタも回れ右をしただろう。

 だが。【人形使い】の能力が物をいう。


「な、なんだ。身体が」

「兄貴。こりゃあ」


 あまりにも強力すぎて、ドン引きの能力。相手を意のままに操る能力の癖に、デメリットもなければ条件も低い。人間相手の場合、相手よりレベルが高い事が条件だ。後は、相手とのLUKや魔力抵抗値などが関係するようである。この相手には、すんなりかかった。ので、弱いと判断できる。

 椅子に腰かけ、様子を見た。


「てめえ、何かしやがったな」

「何もしてませんよ。それより話をしてくれませんか。どうしてこの店でこういう事をしているのか」

「うんうん」

「そうであります。理不尽でありますよ」


 頷くルーシア。と、オデットの口調が気になる。新しい漫画か何かの影響を受けているのだろう。

 オデットが収納鞄から短槍を取り出し、ぽんぽんと手で叩く。


「は? そりゃ、おめえ。俺たち大鷹の団がここいらを締めるって話よ。ショバ代をとろうっての。妨害すんなら、ガキでも締めちまうぞ?」

「兄貴、そんな事ぺらぺらしゃべっちまいやすと。後で、親父にしぼられますぜ」


 はっとなって口を押える。金髪で角刈りをした柄の悪い男。が、背丈の方は、二m近くあり、ユウタも見上げる恰好だ。

 片方は、逆に随分と低い。もみあげの長い猿顔である。

 

 大鷹の団。聞かない名前であった。

 盗賊団のようだ。最近でばってきたのであろうか。ユーウが掃除してから、影をつかませなかったのだ。ここにきて、派手に動き出したのか不明である。

 両方共に殺して、埋めるのは楽な話だ。が、仲間がいるなら芋づる式の方がよい。

 面倒な話だが、さっさと片付けておくに限る。かつてならば、関わり合いにもなりたくないような話だが。今ならば、余裕で解決できる。


「馬鹿野郎。俺はそんな口の軽いやつじゃねえ。なんでだっ」

「しりやせんよ」

「それで、アジトに案内してほしいな」


 ぎこちない様子で男たちは動き出す。二人共目を白黒させていた。横にいる女の子二人もだ。


「もしかして、アジトを潰しに行くでありますかっ」

「どうだろうね。話し合いで終わればいいけど」

「そうね。さっさと終わらせないと。今夜は、ハンバーグがいいかしら」


 ルーシアが物騒な事を言う。彼女は、過激だったりするので危ない。

 オデットが目を光らせている。手には、ゲイボルグが。しょっちゅう芸ボルグと化しているけれど使いやすいようだ。赤いのが嫌だというので、青く塗り直している。もっとも、すぐに血塗れになるのであるが。


「こ、このガキども?」

「やばいでやんす」


 やばいで済むはずがない。


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