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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
210/710

25話 帰ってきてペダ村 聖歴1106年

 【殺人】を獲得しました。

 【殺人鬼】に変わります。

 【凶つ】に変わります。

 【殺神(さつじん)】に変わります。

 新たなるジョブの獲得に、ジョブチェンジ。クラスアップというべきか。そのクラスアップは、強制だ。

 異世界での大量殺人の結果。経験値を1獲得しました。というお知らせが流れる。

 あまりの長さとうるささで気が狂ってもおかしくない騒音だ。いうなれば、ピンポンピンポンピンポーンと連打されているような。キューブを確認すると、キルカウントなるものが表示されている。現在進行形で、数字は十五億を超えていた。

 まともな人間ならば、細かい数字まで数えるのも嫌な気分になるだろう。ペットの仕業だが、己の不徳の致すところでもある。犬を飼う感覚で接していれば、とんでもない事になった。

 

 ペットが殺した結果だ。止めなかったのも己の責任。核を迎撃できたのはペットのおかげ。己で防げたかどうか。できるできないでいえば、無理だ。高速で飛来するミサイルを撃ち落とすような真似は、ユーウも未体験。精々、光輝たちを守る盾を作れたかどうかなのである。それも、核兵器の前にはおぼつかない。その威力たるや、RPGや携帯型ランチャーの比ではないのだから。

 

 という事で、ペットとお話を考えていた。が、すぐに何処かへと行ってしまった。

 それから、これだ。帰ってきた瞬間からで、おかしくなりそうである。おかげで、寝不足や疲労がユウタの身体に重くのしかかっている。パーティーを確認すると、そこにはDDの名前がある。何時の間に、加わったのか。ペットの陰謀を感じていた。それも重い話だが、もっと暗い話がある。


 ユウタの小学校生活は、完全に失敗している。父親であるグスタフとの会話も「元気でやっているか」「うん」「そうか。それならよいのだ」で、完全に放置されていた。失敗は、尚も重なる。

 その何が、どうとかいう話ではなく。完全にボッチだった。話をできる人間が回りにいない。

 かといって、ゴードンやベルンハルトら貴族の子弟と仲良くもできない。彼らは、セリアに毎日しごかれている。完全に舎弟状態だ。どうしてこうなったのか。ロシナもアドルやクリスも仕事だったりする。オデットやルーシアは、偶に話をするくらいで女子のグループに入っていた。

 孤独だ。何故、こうなのか。

 それを想像する頭をユウタは持っていなかった。

 ただ、放置して誰とも話さない。見せ場であるはずの魔術を使った授業や体育の授業でも力を見せなかった。何故なら、


「すげええ。セリアさん、マジぱねえっす」

「ありえないよな。ボール持った瞬間から点が入るって」


 やる事が、チート過ぎる。

 学校の教育現場には、授業にサッカーを導入したのである。しかし、ルール云々よりもアルとセリアがボールを持つとそのまま点が入るのが問題であった。その蹴った球は、ロングシュートというべきか。弾丸のように端から端まで孤を描き、あるいは真っ直ぐにゴールのネットを揺する。それを見て、感嘆する者も居れば劣等感に苛まれる者も居るだろう。どうしても、彼女たちのように力を誇示する真似ができなかった。

 したら、したで面倒が増えるのだ。

 黄色い声援を聞きながら、木の下で眺める。既に、スコアはコールドゲームよりも酷い点数を示していた。二人とも大人げなかった。

 ゴードンがボールを奪いにいった時の事だ。肥った白豚のような彼を、セリアは「邪魔だ!」といってドリブルで弾き飛ばすのである。文字通り飛んでいく彼は、遠くの方へと飛ばされた。ベルンハルトが、「ゴ、ゴードォオォーーーン様ッーーー」と絶叫している。エリアスがそっと魔術を使わなければ、重傷を負っていただろう。アルも似たようなものであった。

 ベルンハルトを相手に、「立ち塞がるとは、いい度胸だ」と言いながら、一人壁パスをするのだ。壁パスといっても、ベルンハルトの腹に向けてである。

 何度も繰り返されるそれに、角刈りをした金髪のいかつい顔面が苦痛で歪む。同時に、下がってきた頭を狙ってシュートだ。

 

「ゴォオオオール!」 

 

 アルが、ガッツポーズで叫ぶ。人ごとである。両方の意味で。相手をするのが悪いのだ。グラウンドを揺らす歓声が響く。ネットに収まったのは、体格のいい金髪の少年だ。

 気絶で済んでいるのは、フィナルの神聖魔術のおかげか。無事のようだ。授業が終わる頃には、肉ボールと化した二人の姿があった。これで、ベルンハルトが遺恨を持たないはずがない。弟のラインハルトが駆け寄るが、意識がないようで焦燥していた。

 こんな扱いであれば、どうにかして見返したいと思うのが人間というものだ。


 午前中は、こうして過ぎていく。混ざる気持ちになれないのだから仕方のない事だろう。

 品性を重んじる日本人だったから、格闘サッカーに手を出す気になれないのだ。学校では、ボッチになってしまっている。

 午後は、お仕事だ。これも、学業に専念できない一因である。

 というのも、


「大変だなあ」

「ふん」


 セリアがそっぽを向いている。従順で愛らしい犬形態だったときとは、大違いだ。

 お仕事だというのに、ついてくるという。ついてこなくてもいいと言えば、むくれて後をつけてくるのでうっとおしい。邪険に扱えば扱うほど、厄介さを増す幼女だ。

 それで、


「犬にならないの?」

「む。断る。あれは、狼だ。犬ではない。見間違えるのは失礼だぞ」

「触ると、気持ちいいのから。触らせてよ」

「き、気持ちいい? 確かに。だが、断る」


 頭を撫でようとしても、避けられる。顔は、真っ赤だ。けれども、可愛らしさが全然ない。ふりふりと振られる尻尾を触ろうとして、避けられた。断固として、触らせないつもりのようである。ユーウの身体と強化魔術を使用しても、同じように影分裂に影分身を使用する彼女の防御は鉄壁だ。

 二人して、汗だくになっても無理であった。


 帰って来てから、ユウタは使い走りでくたくただ。北に西に、城では魔術を使い水を補充したりと。てんてこまいであった。休養を取る為、寝ようと考えていたのだ。それではたまらない。黒龍は、さっさと姿を消しておりDDはいつものように飛び回っている。毎日がめまぐるしく過ぎていき、息をつく間もない。


 冒険者ギルドでは、薬草を栽培していたのだが―――


「損害が大きいなあ」


 仏頂面をする銀髪の少女に、ツッコミを入れられる始末。


「ふ。何とかしておくべきだったろう。備えが足りなかったようだな」


 そして、枯れていた。なぜ、枯れたのかは単純だった。魔力の濃さが重要で、その調節が難しいのである。魔物の出る森に群生しているのは、当然ながらそこにユグドラシルの力が大きく働く為だ。森が大きくなるのはその実、ユグドラシルと関わりがある。濃密な魔力が、適度になければならない。ミッドガルドの首都でそれを実行するには、難しいといわざる得なかった。


 それで、ユーウの力が必要なのだ。

 どうしようもない時はある。というような言い訳しか思いつかない。


「神さまじゃあるまいし。何でも想定できないよ」

「どうだかな。それより、迷宮で遊ぼう」

「飽きないねえ。ちょっと、今日は用事を済ませてからだね」


 セリアは、迷宮に行きたがりの遊びたがりである。毎日迷宮に潜っては、不登校を繰り返しているようだ。その癖に、成績は悪くない。ユーウは、散々な成績だ。ある意味、劣等生になっている。そして、ユウタは頭が悪い。本当の意味で劣等生になりかねない。学業で、だが。

 

 学校の成績に、魔術での評価やスキルでの評価はない。学校にきちんと出席しているか。テストの点数は、いいか悪いかだ。義務教育として、始まった学校生活なのである。小卒などは、恥ずかしい。せめて己で考案した冒険者学校高等部位は、卒業してみせねば。妹のシャルロッテが恥ずかしい思いをしてしまう。

 心配が、襲ってくると。


「温かい物はいかがですか」

「ありがとう」


 メイドさんが心の安らぎとなっている。従順なのがポイントであった。馬車馬のようにこき使う偽王子などよりも遥かに好感度は高い。つんけんする幼なじみも、殴り合いばかりだ。それが、楽しいかどうかは微妙だろう。一歩間違えれば、殺り愛だ。


 何もない所で、温かい紅茶を楽しめるのはいい。冒険者ギルドの中では、今日も人で一杯だ。仕事がない人間が、ここで命をベットしている。薬草を栽培するとなると、薬草採取のクエストがなくなのかといえば、ノーだ。何故なら、初心者を育成するにはもってこいだからである。弱い魔物を相手にして、経験を積んでいくというのが正しい。


 強い魔物を相手に、養殖されているような冒険者もいるにはいるが役に立つのか疑問である。息を吸うように魔術やスキルを使っているのが、正しい姿だ。スキルや魔術も使い込んでこそ、身に付くというものである。こうして、のんびりと紅茶を楽しめるようになったのも桜火のおかげである。今までは、己で用意して己で飲むしかなかった。


 他人が作ってくれた物というのが、大きいだろう。思考するのにも、安らぎの時間が必要だ。戦争のお手伝いばかりしていては、気も病んでしまう。とはいえ、鍛錬を止められないのは性か。何処までも強くなりたい。だが、一方で強敵を欲しがっている。己を追い込むような、灼熱の沸騰感を与えてくれる敵を。

 戦乙女の迷宮にいるドッペルゲンガーは強敵だ。己を鏡として、戦う事ができる。己自身と戦っていると、際限がない。経験値自体は、大量に獲得できるようだ。ボスを除けば、一体で獲得できる量は最大とみられた。己と同じ攻撃なので、ぎりぎりを楽しめる。

 

 だが、駆け引きが駄目なのだ。知能が備わっていればいいと願う有様。戦いは、非情だ。一撃で勝負がついてしまう事が多く、長々と戦いが続く事が少ない。ならば、セリアやアルとやればいいと考えられる処。彼女たちでは、長すぎる。一度始めると、三十分戦っている事が少ないくらいだ。


 今日も、戦いを求められた。が、行くところがある。




 ペダ村と領地だ。というのも、帰ってからこっち何故か。ダンジョンから呼びかけがある。ユーウの頃は無視されていた問いかけ。ユウタは無視できない。なので、行ってみると。


『お待ちしておりました。ご主人様』


 懐かしい声だ。

 もちろん、中を拝見させてもらうと。


「すごい」

「これは、立派な温泉か? 宿のような迷宮だな」


 セリアの顔は、感心したという物だ。それには、同意せざるえない。

 ユーウとして過ごした時間は、六年近くになる。その間に進化したらしい。何故、ユウタと共にこのダンジョンができたのか。不思議であるが、ユーウはちゃっかり使っている。さらに言えば、全然寄り付かない癖にダンジョンに魔術の工程を素っ飛ばした簡略式を使わせていた。


 つまり、長い詠唱が必要な大魔術であってもユーウが直ぐに使えるのはダンジョンの補助があっての事だ。単体で使えるようなのとは訳が違う威力を発揮するのも当然といえる。しかも、単なる増幅型の魔力炉持ちではなく、増殖までやってのけるとか。


 ダンジョンは、そのまま自己で進化をして、改造を施していたようだ。

 温泉宿といってもいいそこで、牧畜やら薬草の栽培までも手掛けていた様子がうかがえる。しかも、冒険者たちには好評のダンジョンになっているらしい。ペダ村は、そのおかげかゴブリンに襲われる事もないようだ。周辺の村からも、ダンジョンに来る農民がいるらしく賑わいを見せていた。


 最下層までは、二十層あるという話だ。一、二階を持てなし用にして。

 三、四階では、ゴブリンやらオークがゾンビ形態で出ると。

 ゾンビなだけに足が遅く、動きも緩慢。そして、火に弱いとあって狩りしやすいようだ。

 ユウタも少し遊んでみる。


「ファイア」


 ぼっという音と共に炎の塊が人型を焼く。

 LV1で使用して、魔力を限界まで絞っても大きい。とてもではないが、マックスの威力では打てない。ダンジョンでそれを使用した場合、通路ごと焼き払う感じになる。ユーウの魔術は、どうみても規格外の威力だ。並の魔術師であれば、ギガファイアと叫ぶような代物であった。


「面白くないな」

「なんで?」


 セリアは、つまらなそうな顔だ。後ろにいる桜火は、目を閉じたままついてきている。握りしめた手が、震えていた。一発触発であろうか。メイドさんカムチャッカファイアだ。

 薬草を採取している農民を見て、


「これでは、死なないだろう」


 憤慨している。そういうダンジョンなのだ。そして、ダンジョンのマスターなのだ。


「いいじゃないの」

「迷宮を冒涜しているぞ」


 そうかもしれないが、これでいいのである。ダンジョンは、忠実にユウタのいう事を聞いていた。花も実らねば、咲かないのだ。冒険者には、もっと先をいってもらいたい。それでも、死んでしまうのだから。


「死んだ方がそりゃスリルが満載だけど。死んだら、先がないじゃないの」

「そういう物だろう。面白くないダンジョンだ」


 そういう意見もあるかもしれない。が、沢山の人間に来てもらえればそれでいいのだ。成長していってほしい。その為に、用意してあるのだ。何も、殺す為にダンジョンがある訳でもない。

 成長を見る。

 その為にダンジョンを開いているのである。迷宮稼業としては、儲からないかもしれない。ダンジョンマスター界などがあれば、底辺かもしれない。

 けれども、死体になった冒険者を見て悦に浸るのも如何なものか。

 ペダ村は、ダンジョンのおかげで景気がいいようだったし。ユウタとしては変えるつもりもない。


 最下層である二十階と十階には、ボスが設置してある。歯ごたえが、全く無い訳でもないはずだ。

 ただ、魔晶石と呼ばれる魔力が結露したアイテムは精製されない。なので、旨味はそれ程ないという所であった。なのだが、迷宮に潜る人間は日に百人を超えたりする。それがダンジョンの悩みかもしれな い。何しろ、入口は狭い上に入ろうとすれば上の砦で揉める事になる。村の人間が、管理しているようだ。

 

 歳のいっていない村長がいたりするのに、驚きであった。

 若いロクドにゴメスがいたりするが、懐かしい。二人ともに、真逆の体型をしている。ロクドは、もやし。ゴメスは、筋骨隆々といった風だ。肉付きのいい格闘家というような。とても、でっぷりとした彼を想像はできないだろう。


 聞けば、たまに迷宮を討伐しようというような人間がいたりするらしい。そういった人間は、退場してもらう事になると。村といわず、迷宮に潜る人間の手によってであった。何しろ、金の卵とまではいかないにしても危険度が低いのにそこそこの稼ぎになる。ペダ村には、冒険者ギルドの支部ができていてそこからもクエストを受けれるようになっている。仕事は、腐るほどあるようだ。


 主に、森の木を切り倒して開拓するというような仕事から畑の手入れまで。幅広く存在する。

 ユウタは、勿論そこで各種のお手伝いをしていく。ロクドの「おや、ぼっちゃん物知りなんだね」というのには、情けない思いであった。その内、殴らずにはいられない。本当の事だとしても。ユーウが放置していたペダ村は、新しく生まれ変わる事だろう。



 次に、ユウタは領地へと跳んだ。 








 時を同じくして。帝国軍は、この年に世界転移門に対する占領を決めた。

 というのも、門を守っていたはずの黒き竜が消えたのだ。尋常ならざる力で、多くの冒険者を退けてきた。数多の冒険をこなしたSランク冒険者ですら、かの竜と対決する事は避ける。遭った瞬間、死を想起させるからだという。かの竜を打ち滅ぼせし者は、世界をも制す。と予言される。

 だが、現実になった事はない。

 

 それどころか、Aランクパーティーによるレイドが行われた際には、未曽有の損害がまき散らされた。その場所にあった古い魔術大国が消えるほどだ。それが、故に帝国が勢力を拡大できたのは僥倖というべきか。五万を超える兵士と五千の帝国騎士を用意し、多数の魔術師に加え異世界産の武器【列車砲】【地対空ミサイルSK-1】を手に制圧に乗り出す。切り札は、チートと呼ばれる異世界からの勇者たち。

 元老院は、強固な反対姿勢を見せた。

 けれども、時の皇帝は断固として譲らない。


 結果は、散々な物だった。

 強力な魔術を使う魔術師が、強固な守りを誇る帝国騎士が、異世界から召喚した勇者たちが。

 藁屑のように死んでいき、ついには兵士共々全滅した。

 相手の使った魔術は、空気を奪うものだったという。ドラゴンと称されるものを討ち取ってきた、魔術も弓矢も異世界の武器も。まるで効かないという。それでは、勝てるはずがない。

 そう、首脳陣全員が結論づけたが。

 時は既に遅かった。相手には、感情がある。襲った方が、襲われるように。

 黒い竜は、報復にきた。皇帝を始めとする、将軍たちも全員が死亡するというものだった。

 抵抗できないままに蹂躙される皇宮。

 

 幼い皇女は、頭を垂れ膝をつき、震える手を組んで許しを乞うた。

 「ならば、よし」と。

 その際に結ばれた盟約により、竜の守る門の守りを手伝う羽目になる。

 しかし、かの竜が求めたのはその幼い皇女だ。

 生贄か。はたまた何の故があってか。

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