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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
202/710

17話 オムツ (ゴードン・サイサリス)

 おねしょ。大変ですよね。

 俺の記憶だと、小学生のうちは大抵まだしちゃってるんでじゃないでしょうか。

 まあ、ユーウはしませんけれどね。

 この国に、オムツがあればいいのですが、そんな物はありません。

 ユーウは、布を巻いてそれっぽく作ってますけれど。

 毎日のようにシャルロッテは、布団に大海を作ります。

 ちなみに、夜潜り込んで来てはそれですので―――困った子ですよね。


 俺としては、DDも潜り込んで来て大変狭いベッドが更に狭くなって困ってます。

 部屋の角に穴ができていて、そこから沢山の子竜がやってきます。

 鳥っぽいのですが、餌とか全くあげていないのに丸々していますよ。

 不思議ですね。

 

 ちびたちを抱えて寝ると、温かいんですけど。

 ユーウが起きると、おねしょで湿って寒いのが難点のようですよ。

 ユーウのお気に入りは、赤い子です。DDがむくれますけれどね。

 血を滴らせたように真っ赤なこの子は二足歩行で翼の下に、小さな腕があったりします。

 鱗がチクチクしたりしますけれど、可愛いものですね。

 

 妹と一緒に寝るユーウは、忍耐強いのかなって思います。

 何って、その……おねしょですよ。

 それがまあ、匂うんですよね。一日の始まりは、そんなですので洗濯から始まる事もあったりします。


 そういう訳で、オムツ造りに手を出してみようかなと思ってます。

 できないと、大変ですよ。ゴム製のコンドームは、延期です。

 思うに、コンドームなんて物ができてしまったが為に人口が減少する羽目になったのではないでしょうか。えっそんな事はない? でも、避妊が簡単にできてしまうのもどうかと思うんですよね。ばんばん元日本人たちを増やす為にも、コンドームの製造、販売は禁止する方向です。カトリッ○の教えは正しかったんや。と思う次第で。


 ちなみに、紙の量産には山田くんとかが関わって大活躍してます。

 紙オムツ。出来るといいですね。









「ほう。珍しいな」

「主?」

「生き残っている虫けら共がいるではないか」


 男が手にしたのは、映像だ。室内は、荘厳華麗といった造り。

 薄暗い室内には、男と奴隷たちしかいない。蝋燭の灯りが、彼ら彼女らの姿を浮かび上がらせた。

 手に持つ映像は、迷宮内の一部を示している。

 男の名は、ケッセル。この迷宮の支配者にして、復讐者。

 元は、小国の王子であった。しかし、今や人外の存在である。

 傍に控えるのは、性奴隷である女だ。


「面白い。が、これでは逃げられてしまうな」

「私めにお任せくだされば、直ぐにでも」

「いや、それには及ばん」


 ケッセルは、迷宮の出口をふさぐ。実際には、入口と出口を入れ替えるという代物。

 この迷宮に入り込んだ人間は、決して無事には逃げ出せない。

 じわじわと嬲り殺しにする戦術をとる。


「そうだな。ボルモルタートルだけでは役不足か。ドロル・ギガースも出すとしよう」


 冷静な視線は、冷たい捕食者のそれだ。

 侵入者は、いずれも腕きき。中々死人がでない。

 よって、ケッセルの持つ死霊魔術もそのチャンスがないのである。

 次々と、迷宮に魔物を造り出す。抵抗する騎士たち。

 迷宮内の各所にて一人、また一人と魔物の餌食となっている。

 偵察に出した兵をそのままケッセルの兵として使うという手も重ねて。

 ゾンビに加え、催眠術式の罠。前後を突如として魔物に塞がれ、苦戦を余儀なくする。

 そう長くは、持たないだろう。ケッセルが勝利を確信して笑みを浮かべていると。

 轟音が響く。


「何だとっ」


 映像に映っているのは、新たな侵入者たちだ。


 後、一息だったのだ。手練れの騎士を追い詰めて、ようやく倒すという段になって邪魔が入る。

 隊の指揮官なのであろう。彼の者を倒せば、後はもうよりどりみどりの筈であったのに。 


 塞いだ筈の入口が開かれ、人間が入って来る。銀髪を兜に収めた女騎士が魔物を飛ばす。

 文字通り飛ばされた巨躯のオーガタイプは、壁に叩きつけられ肉体を弾けさせ飛散した。

 それは、一直線に騎士たちを攻撃する魔物を狩っていく。倒しては、また次の獲物に向かう。

 まるで、流星のように。


 あり得ない光景に、ケッセルは肝を抜かれてあつらえてある玉座に座り込む。


「おかしい。おかしいぞ。こんな事があって良い筈がない。何かの間違いだ。嘘に決まっている」

「主?」


 ケッセルの狼狽に、女が訝しむ。だが、構ってもいられないのだ。

 今まで、これほど事態に遭遇した事がない。

 あらかたの魔物を駆逐した銀髪の女騎士は、拳を振り上げ、地面へと叩きつける。

 次の瞬間には、頭上の階層から爆音が鳴り響き、ケッセルはのたうち回る。

 迷宮と身体が同化(リンク)している為に、激痛が走っているのだ。


「ぐあああ。何が起きているのだ」


 天井が崩落する。煙が巻き起こり、そこから人間が出てくる。


「ふう。お前が主か?」


 目の前にいるのは少女だ。まだ、幼い顔立ちで。

 顔かたちが、将来は美人になる事間違いなしに整っている。

 

 ケッセルは迷った。ここまで来た以上、明らかに敵だ。

 今まで、ここまで入ってきた侵入者はいなかったが為の戸惑い。

 そして、階を破壊してここまで来るなどルール違反でさえある。

 普通は、一階ずつ攻略して来る物だ。

 目の前の相手は、女だ。ならば、ケッセルには自信があった。


「如何にも、我こそは……」


 最後まで、言えなかった。


(痛いぞ。何故、我は倒れている? 防御障壁はどこへいった。貫通したとでもいうのか) 


 肩から下の身体が、ない。ケッセルは、べちゃりと地面に倒れ込む。

 かつて、美しさで並ぶ者なし。と、謳われた美形が台無しである。

 倒れたケッセルを見て、つまらなさそうに小女は言う。


「雑魚だな。死んでおけ」


 怒りの余り、唇を噛みしめる。


(このクソアマが、肉便器にしてやるからなあっ。じっくりと絶望の味を教えてやるぞ、ぐあああ。なぜ、回復しないのだ。このままでは―――)


 一向に回復しない身体。おかしい。ケッセルは、最強になった筈だった。

 迷宮にて、侵入者の魂を刈り取る。そうして、誰にも負けない力を手にして王国を再建する予定なのだ。配下の魔術師によってもたらされた禁断の魔術である。弱い者が強くなるには、他人の魂を滋養にするのが手っ取り早い。効果は絶大で、大抵の者はケッセルに抗う事は出来なかった。

 そして、再生しようと魔術を行使する。

 が、できない。

 これでは、迷宮へと逃げ込む事すら不可能。


「ああ、無理ですよ」


 顔だけを動かすと、そこには黒いローブを着た年若い少年。

 指を左右に振りながら、宙に舞った埃を吸い込まないように口に布を当てている。

 黒いフードに隠す金髪が眩しい。

 布をとったそれは、女顔でともすれば男装をしているようにも見える。

 甲高いの声は、憐れむようだ。近寄ろうとする少年を娘が制する。


「さっさといこう。ここは、吐き気がする」

「そうだね。そうしようか」


 復活できないケッセルは、上半身だけを動かして少年を睨む。

 口からは、何もでない。既に、肺も動きを止めている。


(馬鹿な。こんな馬鹿な事があって良い筈がないっ。こんな子供にやられるなぞ、ありえんっ。何故再生できんのだ。おかしい、おかしいぞ。私の悲願はっ。王国再生への道はっ。こんな所で終わって良い筈がないっ―――)


 だが、再生が阻まれる原因について考える間もなく。闇がケッセルの意識を塗りつぶす。

 再建する筈だったのに。小国の王ではなく、今度は大国の王へと成り上がり。

 平和で、豊な国を取り戻す。そんなケッセルの願い。

 奴隷だった女は、瓦礫の下に埋まっている。誰もケッセルを助ける者はいなかった。





「大丈夫なのかな」

「大丈夫じゃねえよ」

「二人とも、戯言は後にしろ」


 突入した部隊を救出して、外へと出る。崩れる階層に、全員が必死で走った。

 外は、猛吹雪で視界がすごぶる悪い。もっとも、ユーウの結界にて気温を操作しかつ雪を防いでいる。物理的には、かまくら式で雪のドームである。その中では、焚火をして身体を温める兵士たちの姿があった。皆、生き残った喜びで一杯であるが反面暗い者も多い。号泣する者もいて、愁嘆場となっている。


 ロシナは、涙目だった。彼の率いる隊が半壊しているのだからであろう。

 死者だけでも百を超える。その殆どが、身体すら見当たらない。

 ―――よわったなあ。

 救出された騎士たちは、皆満身創痍だ。決して、弱い訳ではないが相手が狡猾すぎた。

 魔術による治癒で、身体を癒すのに近場のランスという町まで移動している。

 地形的には、やや上に位置する。


「よく場所がわかったねえ。僕は、間に合わないって思っていたけれど」

「そりゃあ、巻き戻しだ。こういうのには、役に立つんだよ。けど、全滅は防げてもどうにもならない状態ってのはあるってひでーよ。ガーフなんか死にかけじゃねーの。フィナルはどこだよ」

「ああ、はいはい。治すから」


 ユーウは、ガーフの足を手に取る。魔物に食いちぎられたのであろうか。

 足のふくらはぎから先がない。歴戦の騎士をしてこれだけの傷を負わせた魔物もセリアが始末している。閉じた入口を破壊しての救出。中では、今まさにガーフたちが食われそうになっている所であった。


(普通の迷宮じゃなかったしね。相手が悪かったよ)


 傷を治す横で、セリアが体操をしている。

 

「ん。間に合っただろう。普通ならば、全滅だ」

「そりゃ、そうさ。けどよぉ。なんつーか、もっと被害が少なくなったんじゃねーのっていうかさあ」

「部下の鍛え方が足りなかったんじゃないのか? これだけは言えるぞ。いつだって敵は、選べない。死は、いつも突然にやってくるものだ」

「はあ。隊の再編が頭痛いぜ。どうすりゃいいんだよ」


 ロシナが頭を抱える。ユーウとしても助言の一つや二つは出来る事だが―――


「最悪の出目で最善の結果がこうなら、仕方のない事なんじゃないかな。どれを生かし、どれを殺すか。全部を助けるなら、それ相応の対価が必要になるよ」

「これ以上良くならないループってどうなんだよ。まじで、欠陥スキルだぜ」


 何度でも選べるロシナのスキル。相当なチートだ。が、彼には不満があるらしく。

 選べる限界点が定められているのだという。どうしてもガーフやその有力な団員を選べば取りこぼしがでる。そこが限界なのか。ユーウにとっては、耳の痛い話でもある。


「迷宮が使い物にならなくなっちゃったねえ。どうしようか」

「入口を埋めてしまえばいい。だれも入る事ができないようになるが」

「ちょっと待った。まだ、中に生きている奴が居ないか探してくる」


 ロシナは、慌てて迷宮に戻っていく。雪が吹きすさび、外はすごぶる寒い。迷宮の中に、入るとそれは緩和されるが魔物と出くわすだろう。崩落したのは、セリアが破壊した部分であった。そこを避けて、部下を探そうというのだろうが無茶という物だ。

 ユーウが結界を使用している為に温度は高めである。


「生き残っている奴は、もう居ない筈だが?」

「多分、死体を探しにいったんだと思うよ。身体を直しさえすればいい感じなら、いけるし。騎士をまた一から育て直すのは大変だしね」


 ロシナの隊は、一応精鋭で通っている。それが、半壊したとなれば今後の任務に差し障るのだ。

 領内の治安にも、問題が出るであろう。

 ミッドガルドでは、騎士が警官と軍人の役割を同時にこなすように、修正をかけている。

 なのであるが、人口比に対して少ない。兵士もまた軍人と同時に警官として勤務している。

 こちらの数は、それなりだ。が、教育に質の差があるためだろうか。文字の読み書きから教えねばならなかった。さらにいえば、法律等についても疎い。

 

 小学校も中学校も始まったばかりである。

 予定では、十年をかけてまともにする教育システムで。

 アルとであった頃から、計画は動いていたのであるけれど、時間がかかすぎである。

 小中高と無料で教育を受けられる予定。給食費も無料だ。

 アルの領地接収が上手くいっていないので、直轄地と王都のみであったりする。

 貴族を一つ取り潰すのにも大変な労苦が掛かって牛歩のような歩みだ。


 その絡みで、決闘をするのも問題になる。

 少しばかり血の気の多いセリアが誰彼かまわず決闘を申し出るのだ。

 当然、相手となった子供は親に泣きつく。

 大概の相手は、土下座しにやってくる事になるのだが。

 稀にではあるが、代理人を立ててくる事がある。

 そうすると、儲けものであった。相手の領地を丸ごとアルの直轄地へと組み込める。

 すげないやりようである為、今では「血に飢えた餓狼」等とあだ名されていた。

 

 傷を負った兵から、ロシナの実家へと送り返す。

 傷の手当は、向こうの方が向いている。ここでは、寒さも厳しい。

 気温は、調節できても地面の雪まではどうしようもないのが現状だ。


 ロシナが戻ってきたのは、全員の傷を癒し戻してからであった。











「えー、火炎(ファイア)を説明するぞー。これは、最下級呪文だが基礎となる魔術だ。使える者は、手を上げなさい」


 教師の言葉で、教室の生徒たちは手を上げる。約半数といった所だ。


「宜しい。この魔術だが、単純な火を起こす魔術だな。MPの消費は、約六だ。成人の魔力量を十として計算すると、大体一発撃つだけで次に撃つには回復が必要だな。詠唱だが、大体これは各個人によって異なる。必要になるのは、集中力だ。詠唱の長さが長いほど、自身に対する暗示は深くなる。それで、効果が違ってくる訳だ。当然、威力は長いほど高い。例としては、『命じる、炎よ、走れ、疾く速く』等があるな。個々人でも、詠唱は違っているぞ」


 教室の中は、静まりかえっている。

 普段は、五月蠅い小学生たちもこの教室にいる生徒はお喋りに興じない。

 皆、真剣そのものだ。


「戦闘では、ファイアが主力に成り易い。何故だろうね? 誰か答えられる者は居ないか」


 手を上げるのは、エリアスだった。


「魔術は、相手の魔力抵抗を計算しなければなりません。ですから、着弾した時点で追加ダメージを狙える火炎魔術が選ばれるのは当然です。次点では、サンダーではないでしょうか」


 教師は、それに頷く。


「エリアス君の言う通りですね。ですが、ファイアは幾つかの利点があります。一つは、これが点火の魔術に派生するという点ですね。鍛冶のスキルにも欠かせない術ですし、寒い我が国では生命線とも言える魔術でしょう。生命体にとっては、火が天敵になりやすいのもあります。皆さんは、火傷や火事にあった事はありますか?」


 教室を見渡す教師。エリアスやフィナルといった人間以外には手を上げる者もいない。


「あまり、体験がある人はいないようですね。まだ、冒険者として迷宮に潜る人も少ないでしょうしここは体験ある人の方が珍しいでしょう。しかし、です。火の魔術には、分子の動きを加速させるという特性上で威力に限界がありません。アイスの魔術に比べれば、非常に有用な魔物は多いです。皆さんは、ゆくゆくは迷宮に潜る方も居られるでしょう。そこで、必ずといっていいほど必要な物がありますが……それは、なんでしょうか」


 教師の問いに、男子学生が手を上げる。


「はい、灯りです」

「その通り。迷宮内には、光源がある物とない物があります。無い迷宮では、松明やカンテラといった照明は必須です。勿論、光属性の光灯が使えるなら別ですが。これは別名永続光とも言われてます。術者によっては、火属性の炎灯を使う人もいますね。詠唱呪文が違うだけで、どちらも効能は一緒です」


 今日の魔術に関する授業は、炎系についてであった。

 ユーウは、大抵の事を知っているので欠伸を堪える方が難しい。

 迷宮に、といってもここにいる生徒ではミニブルースライムを倒すのも難しいレベルだ。


 口に手を当てるユーウが、座っているのは後方である。

 教室の中でも左後ろの席というのは、中々にレアだ。

 隣にはルーシア。前はロシナで、その隣にはオデットが。

 アルとセリアは中央付近に鎮座している。エリアスとフィナルは右隅に。

 

 クラスは、平民と貴族の半々で構成されており揉め事も起きる。

 今日もまた、久しぶりだというのに嫌味を言う貴族の子弟が授業の終わりと共にやってきた。




「お前、アルブレストのユークリウッドだな。アル王太子と、どういう関係なんだよ」

「どういう関係とは? ただの主従ですよ」

「なっ。お前のような奴が主従だと? 俺が替わってやる」

「えっと、どうぞ」


 ユーウは、静かに告げる。それには、鼻息の荒い少年も満足気だ。

 前の席に座るロシナは、振り返り残念そうな顔をする。


「おいおい。正気で言っているのか? あいつ、とんでもない目にあうぞ」

「サイサリス家のゴードン。伯爵家でしたっけ。三男ですし、これ幸いとおもったのではないでしょうか。子供の考える事ですから、僕にも理解できなくもありません」


 クラスの中心で、人の輪を作るのはアルであった。その中に潜りこもうとするゴードン。

 しかし、何であろう。ライバルが多すぎて潜り込めない。

 仮に潜りこんだとしても、上位貴族の手で排除されるだろう。

 アルの傍にいるのは、そういった手合いでユーウにとっては苦手という人物ばかりだ。

 弁の立つ人間というのは、ユーウにとって厄介極まりない。


「お昼はどうするの?」

「屋上にしようかな。それとも、食堂がいいかな」

「俺は、食堂がいいな」

「じゃあ、それで決まりかな」


 食堂で食べるのは、ロシナに弁当が無いからだった。

 ユーウは、ルーシアが弁当を作っているので問題がない。


 授業は、国語、算数、社会、魔術、体育、道徳。という具合に並ぶ。

 つまらない授業ではあるが、内容は家の書庫で読んでいる物と食い違う。

 教科書といっても、それが真実かどうか。自ら調べねば騙される事もある。

 昼に差し掛かり、昼食の時間になってゴードンがまたしてもやってきた。

 ルーシアとユーウの間に立ち、


「おい。俺をアル様に紹介しろ」


 俺に、様が付いていないのがおかしい位にのけぞっている。


「自分で、アピールすればいいじゃないですか」

「それができれば、苦労はしない」

「あの、ゴードン君は何ができるんですか?」


 金髪の角刈りといったゴードンは、隣に小姓のように従う生徒を連れている。

 そちらの方も金髪だ。不思議とクラスの人間は、金髪でない方が珍しいくらいである。

 躊躇いがちに、しかして尊大な態度でゴードンは言う。 


「何っ。紹介しさえすればいいんだ。顔を覚えて貰うのが重要だからな」

「何もできないのに紹介しても、忘れられてしまうと思いますが……いいんですか?」

「むっ。なら、何か出来るようにすればいいのか?」

「そうですねえ」


 ユーウは、思案顔になる。ロシナもルーシアもそれを見守りながら、支度をしている。


「闘技場で、名前を売るとか。迷宮に潜るとかでしょうかね。後は、辺境まで行ってレアなモンスターを狩ってくるとかでしょうか。いい話ができると、ウケもいいかもしれませんよ」

「そ、そんなのは無理だろうが」

「いえいえ、そんな事はありません」


 鋭い視線をセリアに投げかける。アルの隣に立っていたセリアは、ユーウの視線に気が付いた様子だ。

 人の輪をすり抜けるようにして、すすっとユーウと前にやってくる。

 ゴードンは、魂を抜かれたかのような表情だ。


「何の用だ」

「この人が稽古をつけて欲しいんだってさ。見てあげてよ」

「なっ。そんな事は……」


 ゴードンは、絶句した。しかし、セリアは感心した様子だ。

 制服に身を包んだ細い腰に手を当て、顎に手を添える。 


「ほう。見た所、鍛えてないようだぞ。殴ったら、すぐ死ぬだろう。無茶だな」

「それも含めて、やって欲しい」


 ゴードンは、小姓のように従う生徒とセリアと視線を彷徨わせている。


「まあ、いいか。こい」

「ちょ、ちょ、ああああ―――助けろ、ベルンハルトっ」

「ゴードン様っ」


 セリアは、ややもすれば自分よりも体型のいいゴードンを引きずっていく。

 金髪を角刈りにしているベルンハルトが、セリアの腕を取り必死に止めようとするが効果がない。

 腰に手を伸ばして、殴られる。糸が切れた人形のように倒れるベルンハルト。

 それを線の細い少年が駆け寄り、抱え起こす。


「ふふふ。仲良くなるといいね、あれ?」


 教室の視線が、ユーウの周りに集中している。

 エリアスやフィナルといった面々の周りもひそひそと話をしていた。


「あれ? とか……どういう反応なんだよ。行こうぜ」

「そうだよ。ちょっと、ゴードン様が可哀想かも」

「ユーウに、それを言っても効果が無いでござるよ。自分の物差しでしか、図らぬ御仁なれば」


 ルーシアが、ロシナに同調し、オデットは後ろを振り返りながら机の上で指を叩く。

 ―――別に悪い事じゃない筈。

 

 食事をとろうと、ユーウたちは屋上へと歩を進める。

 屋上の天気は、晴ればれとしていた。雲はところどころにあるが、雪が降る程ではない。

 が、終業式の前だというに、まだ寒かった。


「さっきのあれは、不味いと思うぜ」

「何で? 良かれと思ったんだけど」

「どうみても、セリアにぼこらせているようにしかみえねえよ。ま、あいつにはいい薬になったのかもしれねえけど」

「どういう事なの?」

「授業に殆どでないお前だからなあ。俺もいえた口じゃないけれどよ。あいつは、伯爵家の人間だからな。自分を中心に世界が回っていると思っているタイプだ。上か下かで物を見るんだよ。アル様には、分厚い壁ができているだろう?」


 アルの周りには、多数の人間が存在する。

 服装からして、華美だ。制服もあるというのに改造している人間が多い。

 アクセサリーは制限されているので、していない。

 どの子も上流階級といっていいほど品のいい人間ばかりが揃っている。

 ゴードンのような粗の目立つ人間でさえ、それを押し通す事は難しい程に。

 ユーウは、弁当の中身を頬張る。


「確かに。そう言われてみれば、取り巻きになっている方たちは誰もが侯爵家以上の子弟だったかもしれないね。あれ、なんで他国の王族とかがこのクラスに編入されているんでしょうね」

「そりゃ、お前。爆弾みたいなというか危険な物は一カ所に集めておく方がいいからな」


 教室の外には、警備の兵が控えている。

 数も等間隔に、だ。教室の数が十ほど並ぶ端には、兵士たちの詰所まである。

 加えて、魔術師による結界等も敷かれており、警備の方は厳重其の物だった。


「爆弾って、ぶっそうだなあ」

「まんまだろ。それで、今日はこの後どうするんだ?」 

「山田さんの様子を見てくる予定だよ。ロシナもくるよね」

「ああ。しかし、ルーシアとは仲がいいよな」


 幽鬼のような少女だ。しかし、特段の苦手意識は薄くなっている。

 あーんをする程である。すっかり亭主関白というようなユーウとルーシア。

 それにオデットまでもが参戦して、とても姦しい。


「うん。普通だよ」

「そうでござる。これは、普通でござるよ?」

「いや、……まあ、いいか」


 ロシナは、ジト目でユーウを見る。

 それから、転移するのに三十分ほど経過した。

 授業に関しては、ルーシアとオデットに頼むのが常になっている。

 ユーウは、ノートを見るだけでも理解できる具合なのである。



 


「アル様も無茶くちゃを言うよな」

「そう。だね。でも、向こうに行く手段がね。ないからね。どうしようか」

「日本から日本人を拉致してこいって、そりゃ北の国と一緒じゃないか。将軍さまじゃあるまいし。本気で言っているのかよ」

「うーん。確かに。結局、学生たちの子供も生まれたのは三百人くらいだっけ。選り好みしちゃうのかなあ。あ、コンドームの在庫があったのかもねえ。そこの所がわからないけど」

「コンドーム禁止して、それだと結構きついよな」

「だよねえ。もっと、解放的にいってもらわないと。精力のつくご飯もてんこ盛りにしてみようかな」 

「無しは、無しでやばいんだぜ? 性病とかな」

 

 山田たちの元へユーウとロシナは連れだって来ていた。

 今日は、山田たち元日本人と山へと入っている。リヒテルの森を抜けた先にある雪山だ。

 とんでもなく寒いのであるが、山から魔物がやってくるので仕方がなしにである。


「コンドームを制限して、売るとかかな。どうかな」

「それは、それで儲かりそうだけどよ。誰が作るのって、話だ。あれ、意外に難しいぜ。量産化がな」

「うーん。まいったね。さて、どうしようか」


 ユーウは困っていた。元日本人が、子供を作らないのだ。

 その為にアルから日本侵略の戦略を練るように言われた。

 拒否しようにも、主上の言う事は絶対だ。

 なんでも、言う事をよく聞く労働者が欲しいらしい。


 何でもいう事は聞く筈がないのであるが。そんな事は、アルにとって埒外であるようだ。

 未来を見通すフィナル。その力で、一つ分かった事がある。

 結果は、ろくでもない事になってしまうと。 


 それでも策を練らなければならない。どうすれば、いいのか。

 難題に困ったユーウは、山田や鳳凰院を連れて山へと狩りに出かけた。

 すると、鳳凰院に尋ねられる。

 

「あの、俺たちが帰る手段を考えてはくれたんでしょうか」


 痛い処を突かれた。


「それは……」

「結構、なじんで来てはいるんですけど。帰りたいって奴もいるんで。お願いします」


 鳳凰院に頼まれるユーウは、勿論知っている。黒龍が管理している世界移動の転移門の事を。

 しかし、同時にアルからこうも告げられていた。

 奴らを逃がすな。と。それでも、ユーウは頼まれると弱い。


「それが、実は……わかっているんですがそこに行くには、困難を極めるのです」

「えっと、どのようにですか?」

「まず、幾つかの国を越えなければなりません。次いで、必要な物が幾つか必要なのです」

「それは?」


 ユーウは、考える人のポーズで立っている。表情は、苦りが増していた。


「それは、神の至宝。らしいのですが、詳しくは分かっておりません。そして、もう一つ。龍の宝玉が必要です」

「それ集められそうなのですか?」

「現状では、どのような物なのか。さっぱりわかっておりませんが、向こうから来る分には扉から来る。という事がわかっております。皆さま方が来られたのは、偶然だとも」


 偶然か否か。それは、そうなのであろう。確率的には、低い可能性だが。

 誰かが仕組んでいるとも考えられる。

 それで、美上はこめかみをひくつかせた。


「そ、そんな事があってたまるかよ。ふざけんなよ。帰せよ」

「すいません。僕には、これくらいしか」


 荒い息を落ち着かせる。鳳凰院は、涼しげな眼差しで遠くを見つめ、


「神の宝玉について、詳しい情報はないのですか?」


 ユーウにとっても気になる情報を聞き出そうとする。

 が、あやふやな事しか言えない。


「それが、何なのか。誰も教えてくれませんからね。文献等に載っているかもしれませんが。今の処は、手がかりがありません。そして、扉の場所が悪いのです」

「どこに?」

「東にある帝国の軍が管理する場所らしく、そこには密偵も入れないとの事。それ以上の情報は、難しいようです」


 凡その場所は、判明している。しかし、黒龍にも門の機能は自由に操れないとの事だ。

 そして、向こう側にいくにも条件があるらしい。それを満たして初めて向こう側に行けると。

 光輝たちがこちらに来たのは、ただの偶然か。それにしては、大量の人員だ。

 学校一つ丸ごとである。誰かが仕組んだ陰謀という風に考えるのが妥当。とも言える。


「僕らは、帰れないのだろうか。どうしても帰らないといけないんだ」

「それは、どうしてでしょう」

「……秘密を守っていただけますか」


 いつになく真剣な眼差しで鳳凰院は、ユーウを見つめる。

 対するユーウもそれを受け止めた。


「……出来る限り」

「妹の為です。僕は、陰陽師の家系に生まれたのです。と、普通の人に話しても気味悪がられるだけですが、魔術師である貴方ならわかっていただけるかと。家の跡継ぎである男子は、僕しかいません。巫女である妹には負担をかけたくない。そして、様々な霊を祓う業に妹はいささか未熟。妹に多くの霊を祓えるのか。心配で堪りません」

「わかりました」


 ユーウは、真剣なまなざしで光輝の独白に応える。

 手がかりになるような物は、あまりない。しかし、神界アースガルドに足を運んでみればどうか。

 気の遠くなるような話であるが、さりとて諦める訳にもいかない話だ。

 身につまされる話であった。


「あー。それなら、アル様に相談したらどうだ? もしかしたら、力になってくれるかもしれないぜ?」

「それは……」

「本当ですか? 宜しくお願いします。この通りです」


 光輝が、土下座の姿勢を取る。


(弱ったなあ。引き受けるしかないかも。けど、アル様からは拉致してこいって言われてるし。ここで、この人たちを返してやったらどうなるんだろう。オムツの話もしずらくなったし。どうしよう)


 ユーウとしても、これには応えるしかなくなった。

 今日やってきたのは違う話を進める筈だったのに。おかしな話になっている、と。

 元々は、オムツの話をしようとしていたのである。

 話が、それでどこかにいってしまった。


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