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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
201/710

16話 アルカディアの魔物 (アコ、アーク)

 うーん。俺です。ユウタです。

 ちょっと、気になる事があるんですけど。誰も相談に乗ってくれないんですよね。

 身体を操っている時は、困った事に変な奴扱いされる事が多いです。

 後、凄く弱いので戦う事はちょっと。多分なんですけど、ガーフさんと戦っても負けそうなくらい。

 夜の内職とかは得意になりましたよ。後、書類の整理とか。回復薬の製造とか。田植芸とか。水田造りとか。水車を作るとか。畑の肥料を作るとか。おでんの屋台を開くとか。うどんの量産とかラーメンの量産とか。色々とやりましたよ。夜は、ユーウの奴すぐ寝ちゃうので時間あるんですよね。


 とりあえず、妹を助けてユーウの願いを叶えて、身軽になりたいです。

 現状だと、ユーウの奴は最強のような気がしますがどうなんでしょうか。

 え? もうチートだろ? ってツッコミ受けそうですね。

 まあ、その通りで。

 

 でも、俺弱いんですよ。

 ぶっちゃけると、ユーウじゃなくて俺がセリアと殴り合いしたらすぐ死ぬでしょうし。

 スペックでなんとかなるかもしれませんが、チャレンジはしたくないです。

 夜に襲って来られて、一緒に寝るなんて事はありましたけど。最近は、あまりないですね。

 シャルロッテちゃんが、毎日来るので困ったものですよ。将来が、ちょっと心配です。

 おねしょとか。ね。

 このまま元の時間軸に戻ってしまったらどうなるのでしょうか。

 この結果通りになるのか。それとも、ユーウに主導権を取られたままになるのでしょうか。

 なんとなくですが、不安ですよ。

 ええ。

 夜になったり、気絶したりすると俺の出番なんです。

 爺は、どっかにいっているのか見当たりません。人格が融合した結果が、俺なのか。

 それとも、捻くれた先が俺なのか。ええ、どっちなんでしょうね。

 ここは、置いておくとして。

 えっと、妹はなんとかなりそうなんですけど、クリスの件はもう手遅れという感じで。

 結局、こいつにはどうにもできないようですよ。ええ。

 でも、ま、未来が変わってそうでどうなるやらで。








「寒いね」

「ああ、魔術で何とかしろよ」

「それが……」

「修行だ。寒いのに耐えてこそ、男の精神を鍛える事が出来る」


 セリアがぶっきらぼうにユーウとロシナに告げる。普段から体温維持の為に魔術を使うのだが、今回はそれをつかっていない。セリアが突拍子に修行を言い出した為で。

 そこにきて、激しい吹雪だ。それが吹く街道に氷雪型のモンスターも出てくる。

 ユーウたちは、辺鄙なアルカディアの一地方に来ている。ドゥエーよりも北側にある山岳地帯。

 

 そこで、モンスターの退治を依頼されていた。

 寒いのにも関わらずユーウは、震えながら結界も張っていない。

 それが為か。わらわらとモンスターが出てくる。

 それをロシナ隊の兵士たちと斬り伏せていると。

 水色を塗りたくったような大きな体格の魔物が出現する。

 


「あれは、アイスゴーレムか」

「よし、各隊は散開してモンスターの駆除を開始せよ。でかぶつは避けろよ」

「「了解しました」」


 副官と伝令役が走っていく。ユーウは、ロシナの隊に混じってモンスターの駆除作業だ。

 雪に埋もれた民家などには、誰も住んでいない。

 

「ちゃっちゃと片付けて、休憩にしようぜ」

「そうだね。寒いし、雑煮が食べたいね」


 ユーウは、掌にフレイムランスを作り出し、それを投擲した。

 結果、巨大な氷像が融解する。上半身からどろどろにだ。


「セリアも仕事ばかりしていないで、休憩しようぜ」

「ふむ。……肉が食いたい。肉だせ、肉」

「焼肉にでもするかい? 確か、ビッグフットの肉が余っていたような」


 デカ物は見当たらない。仕事を終えたユーウは、学校の生徒に作らせた七輪を取り出す。

 そして、コッソリ生活保護を出していたりする。怒られたりするのも承知の上だ。

 日本人を優遇するのは、自分を優遇するのに等しい。

 彼らが増えてくれるのは、自分の事のように嬉しいのである。


 七輪は、少々小さいが五人くらいならば余裕で焼ける。

 炭に火をいれて、土の魔術で椅子を拵える。

 肉は、じゅうじゅうと良い音を立てる。


「うめーっ。冬は、焼肉に限るな。このタレは、塩か」

「うん。醤油に味噌味もあるよ」

「ふむ」


 日本人が持っていたレシピ本をもとに作った物だ。量産化の目途は立っていない。

 肉を焼いていると、兵士たちが戻って来て、同じように肉を焼こうとする。

 しかし、中々上手くはいかないようだ。悪戦苦闘というのがぴったりであった。

 そんな兵士たちを横目に、ユーウは肉を裏返していく。

 セリアがどんどん食べてしまい、ユーウは食べる暇もない。嬉しいやら、悲しいやらである。

 セリアは、もごもごと口を動かし、

 

「焼肉は、やはり牛に限るような気がするのだが」


 等と言う。ユーウは、だんだんと腹の虫が泣きはじめた。

 

「ううっ。そんな贅沢は言わないでよ。確かに、臭いけど。熊肉だし。硬いよね……牛高いんだよね。育成に時間がかかるから、彼らにも厳しいみたい。酪農科、作ってみたんだけどねえ。農業って難しいんだよ。生き物は、特に。馬も大量に育成するとなれば、それに関わる人の確保が必要だし」

「牛、も、いいけどよ。あれ、元日本人たちは増えてんのか?」

「ぼちぼちかな」


 高校生で、妊娠するというのは実際に厳しい。でき婚だったりする。

 結婚式をあげれたカップルというのは、ユーウのポケットマネーから出されていた。

 結局、なんだかんだでユーウが金を出しているのが現状だ。

 給料は、生活に消える事が多いようで。一番最初にくっついたのは、美上と御子斗のカップルだった。

 しかも、愛人つきという。

 山田は、涙しながらそれを眺めていたのが印象的であった。学校の傍には神社ができていたり、そこの神主に鳳凰院がなっていたり、色々とあるのだがそれはもう長い話になる。神社を作るのでもひと悶着あった。何しろ、ミッドガルドではオーディンが最高神になっているのだ。最終的には、女神教の支部という話になった。教会ではない建物なので、冬は素晴らしく寒い。そして、神社もまだまだ小さい。鳥居も小さな物であった。


 ユーウが取り出す肉を焼きながら、ロシナも肉を頬張る。

 

「シャルロッテちゃんの調子はどうなんだ」

「何時もと変わらないよ。けど、最近おかしいんだ。お兄ちゃんと結婚するーとか言いだして。困った」

「そうか、うちのと交換してほしいぜ……なんか俺、嫌われているんだけど。きもいって」


 ユーウは、毒舌を吐く少女を思い浮かべる。ユーウの前では、しおらしいのだ。

 どうも違う一面があるらしい。


「ロシナが、べたべたするからじゃないかな。あと、女の子はどこまでいっても女の子だよ」

「一緒に風呂に入ろうっつったら、どすけべって。お前の評価は凄いのに。年がら年中ユークリウッドさまぁだぜ。ハートまで見えるくらいにだ。なんだかむかついてきた。ユーウ、勝負だ」


 ロシナは、意を決したように立ち上がる。が、ユーウは相手にしない。

 セリアが、ロシナの腰を掴んで座らせる。


「座れ」

「あ、はい」

「変なロシナだなあ。一本いっとく?」

「おいおい。俺、未成年なんだけど」


 ユーウが取り出したのは、美上の作った酒だ。美上は、酒造りに精を出している。

 というのも、儲かるからだ。割と簡単に金になる。酒屋と米屋に魚屋、八百屋。

 色々と、学校の周りには商店が出来始めている。形になっているので、ユーウも驚いた。

 学生なのに、だ。森を切り開いて畑を作っている。冬は、柿だなあとか言っているが。柿は、残念な事に見た事がない。干し柿でも作ろうというのだろう。


 ユーウの希望としては、工場まで作って欲しい所である。が、そこは時間がかかろうという物。

 基礎を作るには、鉄だ。鉄は国家なり。という言葉もある。


 しかし、製鉄所など現状では、夢の又夢だろう。高炉や電気炉も図面だけは図書館の方にある。

 誰にも見せられない一品だ。今の技術力では無理であった。

 

 無理やりに作ろうとしても、失敗して爆発しかねない。コークスも全く備蓄が足りず、炭鉱の数を増やしていても働く人間が中々に集まらない。結局の処、ユーウは奴隷に手を出さねばならなかった。高炉の製造に失敗して、爆発、炎上でPM2.5などを大量発生させては事だ。天文学的損失で国家が破たんしかねない失敗であるのだし。


 有翼人たちの技術を提供して欲しい所なのだが、交渉は暗礁に乗り上げている。

 相手もおいそれとは、それらを渡せない事は織り込み済みであった。

 喉から手が出る程欲しいが。機械にしろ、何にしろ基礎的な技術が不足している。

 ユーウは、セリアに聞く。

 

「そうだっけ。セリアは飲むよね」

「もらおう」

「ちょっと待て。その未成年だぞ。いや、そういうレベルじゃねえ。って飲んでる……」

「うむ。美味い。麦酒もいいが、米酒もいいな。というよりも、元日本人たちを優遇するのは私も間違いではないと思う。彼らの持つ勤勉さ、真面目さ、誠実さ、道徳心の高さ、清潔さ。どれもこれも我等にはない物だ。時間にも正確だしな。というか、手を洗うのもそうだが……彼らは病気なのかもしれない。清潔という名の。ロシナは、手を良く洗うな? しかし、部下はそうではあるまい」

「そりゃあ、そうだ。水、貴重だもんよ」


 酒が入ると、饒舌になる。幼女の年齢の筈だが、彼女は水のように酒を飲む。

 水は、貴重なのだ。

 日本のように、水は手に入らない。殆どが、ライン川というか。河川頼み。

 降る雨も溜め池を作っては、今ごろ貯蓄し始めた。そして、河川の元である上流の国とは基本的に仲が悪い。一応、シグルスの家が管理しているので問題はないが。

 元日本人たちのいる森には、一応小川が流れているので水の確保はできている。

 植林も重要だ。剥げ山がないので、その必要がないのである。

 

 溜め池を大量に作るのは、水を確保する為。

 水源は山が近くにあり、そこがアルカディアとの国境になっていた所からだ。

 調査では、洞窟があり迷宮化していた。探索する隊も組まれ、地下へと潜っているのである。

 山田は冒険者としてそこに踏み入れたりしているのだが、成果はあまりよくないようだ。

 コボルトに、ゴブリンが住み着き、中からは様々なモンスターで溢れているらしい。

 

 迷宮核を持つタイプなのか。ユーウも気になっているが、時間の都合で後回しになっていた。


「牛肉が食べたいねえ。どうするべきだろうか」

「山田たちは、養鶏から始めてるみたいだぜ? その卵を売って牛を買って。それで飼うんだと」

「へえ、考えてるんだね」

「日本の隣の国でもそれで頑張ったらしいけど、お……この話嫌いだったな」

「ユーウが嫌いだというのは、珍しいな」


 ユーウも知らなかったのだ。まさか、隣の国に六十三兆円も援助しているなど。

 それでは、毎年自国に大量の自殺者が出るという物だ。

 日本の隣にあれば、どんな国でも発展するというのは、冗談ではなかった。


「恩知らずだからねえ。人口を倍にして、生産量を倍にして、鉄道をどこまでも敷いて。水道に下水道に便所を作って。悪習を止めさせて。それでも恨まれるなんて予想外すぎるよ」

「どんな国だ。それは……」


 セリアは、絶句している。犬ですら、飯を与えられれば恩を忘れないという。

 だから、元日本人たちに対する援助を惜しまない。隠れて鶏を用意してやったり、売り先を探したり。 隣のパン屋だった商会には、とにかく高めに買ってやるように指示を出している。

 いざとなれば、しらばっくれるだけだ。売国奴だろうが、一向に構わない。


「あはは。ま、いいじゃないこの話は。それでなんだけど。ここが終わったら、学校にでも行かないかい」

「学校か。小学校の方か?」 

「そうじゃなくて、フィナルの領地にある方にね」

「ややこしいなあ。あれ、名称とか付けた方がいいじゃないか」

「あるぞ」


 セリアが、焼肉を頬張りなが呟く。ロシナは、憮然とした様子だ。

 ユーウは、躊躇っている。


「何? あるなら早く言えよ」

「いや、その。それが……トリール私立リヒテル高等学校。なんだ」


 ロシナは、げらげらと笑いだした。そして、串をぺろりと舐める。

 ソースまで勿体ないという風。


「なんだそりゃ……学校の人間たちは受け入れたのか。そいつは恥ずかしいな」

「そうなんだよ。意味が分かる人なら、大概だと思う。フィナルが名前をつけたんだけどさ。中二病じゃなくて、素なんだよね。彼女」

「教会の関係者なんてそんなもんだろ。ちょっといっちゃってるというか。それでも、あれで教会のアイドルなんだぜ。魔力も桁違いだし、一体どうしてあんなに増えたんだろうな?」


 黙るしかない。それは、フィナルとユーウだけの秘密である。

 なんだかんだと、エリアスと共に実験していた結果でもあった。

 ユーウは、曇天の空を見上げた。雪は、降りやまない。

 そこで、地を打つ音が響く。遠くの方からそれは、ユーウたちに近づいてくる。


「む。敵か?」


 セリアは、ピンと耳を立てた。

 兵士たちは、それが響く方へと視線を向けている。吹雪は酷い。

 魔術師たちが、防寒用に焚火やそれらに類する魔術を使っている。

 視線の先には、氷の像がまたしても立っていた。

 像が、腕を振るう。次いで、人型が飛来した。


「あはっ。虫けらどもがいるーっ。退治しちゃおうーっ」


 水色の髪に幼い言動。飛来する氷片を防ぐので、ユーウは返事に困った。

 それを聞いたセリアが、前に出ている為だ。


「はっ」


 セリアの拳による攻撃だ。まともに受けた人型は、バラバラに砕ける。

 と、セリアは紅く脈動する玉を手に持ってユーウの前にやってきた。

 拳の衝撃波であろうか。後方にいた巨大な氷の像の方までも、破壊されている。

 ユーウは、玉を凝視する。


「何それ」

「さっきの奴の核だな。砕いておくか?」


 すると、


「ま、待って。待ってー。殺さないでー」


 という声が響く。


「君は……スライム?」

「スライムって屈辱だけど、そうかも。そのまだ死にたくないよ」

「ふーん。ちょっと違うようだぜ。雪女のスライム化ってのは初めてみるけど、どっちなんだろうな」


 急速に身体を再生していく。核が、心臓になり、筋肉を、皮膚を。

 人の死を見慣れている三人でも、異様な光景に言葉を失った。


「すごい、凄いよ。これは。奴隷化魔術をっと。契約者は、ロシナね」

「えっ。ちょっ、おま……」


 再生した少女の胸に、赤い文様が刻まれる。


「ふわあっ。何これっ」

「ふっふっふ。これ、結構な代物だからね。ロシナの意に反し続けると、蛙になっちゃうタイプ」

「待てよっ。何で、俺ばっかり。人外ばっかじゃねえか。ヴァンパイアに行き遅れにスライムもどき。どうみても未来が真っ暗だぜっ。ふざけんなよ」

「ふざけているつもりはないよ。全員ロシナより強いし、守る事ができるよ。言ってみれば、モンスターテイマーかも」


 ロシナは、レイプされたような目でがっくりとしている。

 悪い事ばかりでは、ない筈なのだが。男の沽券という物にロシナは強くこだわっているようだ。

 

「まだ、来るのかな。さっきのゴーレムは、君が操っていたのかい」

「そう、だけど。これ、どういうものなの」


 胸に刻まれた小さな文様。すぅーっと肌に同化して見えなくなる。

 

「一言でいえば、隷属化だね。基本的には、ロシナのいう事に逆らえなくなるよ。エッチなのは、交渉でもしないとだね。無理やりやったら、解除される仕組み。これも、エリアスに言われて作った魔術なんだけどさ。奴隷魔術って、嫌な感じだよね。でも、刑務所が要らないって言われるとさ。んー、必要かなって」

「え、じゃあ。あの奴隷商人たちのスキルにある奴ってお前が? またえらいの作ったな」

「犯罪者だからって、直ぐ殺しちゃうのもねえ。じゃあ、どうしたらいいかなあって。考えたら、奴隷にしちゃえばいいじゃないってさ。社会奉仕にも当たるし、タダメシ食わせるほど僕は甘くないよ」


 増える犯罪者たち。ユーウは、刑務所の必要性に迫られていた。

 獄なんていう物もあるが。そうそう、それらにぶち込む訳にもいかず。

 さりとて、犯罪者たちを野放しにする訳にもいかず。では、どうするべきか。

 行き着いたのが、奴隷だった。


 奴隷でも、死刑級奴隷であれば殺してもOK。という風だ。

 ただ、法律が緩い。裁判官も貴族以上がなる為に、貴族に甘くなる。

 結局の処、日本とは異世界ともいうべき人治主義であった。

 

「つか、面倒みきれねえって。飯とかどうするんだよ」

「私は、水だけでもいいよ。寒い所なら、活躍できる」


 すっと耳に入る声の人型に無理やりローブを着せた。そのままでは、不味い。ロシナの股間は、テントを張っていたのだから。放っておけば、セリアに殴られて死にかねない。

 ロシナは、疑問を投げる。


「戦闘は、いいとしてだ。掃除、洗濯、食事をしたりするのはどうなんだ?」

「多分、できるよ」

「うー。ま、いいか。んじゃ、今日からお前はアコな。アコ」

「氷雪の魔王アーリアなんだけど。その名前でいいよ」


 それを聞いたユーウは、びっくりした。


「え、ちょっと。今、魔王って」

「そう、元魔王のアコだよ」

「ええー」

「これは、ロシナの勝ちだな」

「嘘だ」


 ロシナは、目を輝かせている。それに、ユーウは噛み付いた。


「ロシナ。ちょっとこの契約は、なしに」

「や、お前が押し付けたんじゃねーか。駄目駄目」


 今更だった。ユーウは、相手のステータスが見えないので適当な事をしていた。

 確かに、高い数値を示していたのでロシナに合う。という具合にしか診ていなかった。

 彼女は「スライム化」「高速再生」「増殖分裂」等を持っている。

 使い方によっては、非常に役立つスキルばかり。

 

 しかし、ロシナにはモンスターテイマーなる職がない。今からでもダンジョンで特訓が必要だ。

 そして、王都にそういったスキルを獲得させるショップを運営する予定がある。

 一年目には一校だった学校。


「ふ。まあ、愛人がどれだけ増えようと一向に気にしないが」

「まじかよ。けど、弱いってんならよ。俺にも何か強くなる方法を考えてくれよ」

「そうだねえ」


 セリアは、収納鞄から本を取り出す。


「古に曰く、性交にて魔力を増やす。スキルを増やす。スキル枠を増やす。ジョブを増やす。ステータス値を上げる。スキル性能を変える。LVを上げる。レベル限界を上げる。各種の値の上限を上げる。こんな所か。有名なのは、全体的に性能を上げるだな。それだけとは限らないぞ。アイテムであったり、相手が叩いたり、殴ったり、蹴ったり、キスしたり、抱きしめたり、と。色々ある事はある。が、基本的にはそれらは滅多に存在しない」

「超絶のチートだねえ。ロシナのも真っ青だよ」

「俺のループ。そんな凄くねえって。確かに、死亡の回避はできるけど。時を止めるとか、そっちの方が便利だろ。特殊能力バトルだと、大した事ねえっていうかさ。相手の物理攻撃と魔術攻撃を完全反射、完全回避、完全破壊、完全操作、完全迎撃とかこっちのがやばいぜ。スキルでそんなのもっている奴は、見た事ないけど」


 アコは、もじもじしている。服を与えたのだが、寒くはないらしい。

 そして、どちらかといえばロシナの方をちらちらと伺っている。


「可愛いねえ。そんな事よりさ。彼女の為にも、モンスターテイマーを取りに行こうよ」

「まだ、話は終わってねえよ。直ぐにでも強くする方法をだなあ」

「ロシナ。すぐに強く成る方法などないぞ。地道に、こつこつとひたすらに。だ。丹念に、練り込まれた技というのは、自らを裏切らない。取ってつけたような力で、どうするというのだ。勝って嬉しいのか? 借り物の力を授かり、勝った。それでは道化だ」

「ちっ。わあったよ。んじゃ、モンスターテイマーになって……え」


 ロシナを転移門に押し込み、セリアを先に行かせる。

 ユーウは、ガーフに後始末を任せると同じように跳ぶ。


 向かったのは、一軒の商店。売り物は、スキル本である。

 読めば、使えるようになるのであるが使いこなすには修練が必要だ。そして、適正なステータスと素質、職が無ければスキルは得られない。レクチャー屋の先駆けとなる店で、隣家の父コルトが傘下にしている。そこの扉を開けると。


「はい、らっしゃい。お客さん、今日は何のようだい」

「モンスターテイマーのジョブを取りたいんだけど、何かいい情報はないかな」

「それか。待ってな」


 体格のいい中年男性が奥へと引っ込む。ロシナは、浮かない顔だ。

 

「なあ、俺にモンスターテイマーさせようってのか。家、そんな広くないぞ」

「増築すればいいじゃない。儲かっているんでしょ」

「そりゃ、そうだけどよ」

「モンスター軍団を率いるロシナ。わくわくしてこない?」

「いや、めんどくせえ。確かに戦力になりそうだけれどな。俺、騎士団の事もあるんだぜ? ついでに小学校も行かなきゃなんねえっつー。学校、数回しかいってねえよ。始業式と終業式しか……おかしいよな。な? ユーウだって学校そんくらいだろ? 普通は、通ってるっての。アドルは普通に行っているみたいだけどな。もしかして、行きたくないのか?」


 ロシナは、ユーウの顔を眺める。困り顔であった。

 小学校だが、ユーウは年齢が合っていないのに登校になっている。

 他の面子もそうだ。


「うーん。いきなり、アル様がスクール支配をぶち上げたり、セリアが喧嘩したり、ルーシアがすりよってきたり、授業が面白くなかったり。色々あったよ。通いたくない。というのは、本音だったりするね。とりあえず、一度習った事をもう一度っていうのが。文字は普通に書けるし」

「そっか。俺は、もう一度勉強しなおしたいんだけどな。おっと、帰って来たようだぜ」


 奥から、ダンが戻って来る。手には、分厚い本を持っていた。

 ロシナは、そこでモンスターテイマーの職を獲得する講義を受ける。

 最初は、【魔獣使い】からのスタートらしい。

 ユーウもそれは獲得している。というよりも、殆ど全ての職をコンプリートしていた。

 半数が何時の間にか。なのだが。


 【魔導王】もジョブがカンストしてしまっており、更なる上は【魔術神】とかいう物が出ている。成ったはいいが、ステータス値がおかしな表示になっており、不安は隠せない。すぐに上がりすぎて、どれもこれもに手を出している。

 魔術が効かない相手には、魔術で物理攻撃を産み出し攻撃する。そういった技能もある為に、殆どの魔物は一撃だ。ボス位のものだろう。仲間の育成の方が、苦労が多い。


「待たせたな。坊やたち。それじゃあ、講義を始めるとするか。おーい、ココナツ。店番を頼む」

「またなの? 父ちゃん、社員を雇ってよ」

「そういうなよ。内は、あんまり儲かってねえんだからよ」

「利益率でしょ。はあ。上げればいいのに」

「ばーろー。客が来なくなっちまったら、どうすんだよ」


 口論になった。ココナツは、にこにことした笑顔でユーウを見る。

 

「あららあ。可愛い子たちじゃない。父ちゃん、しっかり教えなよ」

「うっせえ。まあ、こっちだ。ついてきな」


 向かった先は、板張りの個室であった。儲けは、度外視しているようだ。

 寒い個室に、ユーウたちの吐く息は白い。椅子と机が置いてあり、そこに座る。


「んじゃ、始めるとすっか。俺の名は、ダン。よろしくな」

「おっさん、ちゃんと教えられんのかよ。心配だぜ」

「そこのマセガキっ。聞こえてんぞっ」


 ロシナに、本が飛んできた。激突したロシナが、机に突っ伏す。

 授業は、意外にも真面目な内容であった。




「難易度高すぎる。スライムかゴブリンで始めろっていうのがなあ」

「そうだね。いきなり魔王クラスっていうのは、無茶だよねえ。現状じゃあ、恩恵が好感度+1とかいう謎のスキルだし。他には、LVが上昇してからかな?」

「だな」

「ん。それはいいのだが、アコの居た地点を探索しなくてもよかったのか?」

「え」


 ロシナとユーウは、間抜けな声をハモらせた。


「あそこには、邪悪な気配が漂っていた。良くない迷宮がありそうなのだが、放置しておいてよかったのかって」

「放置しないよ。早速。調べにいこうかな」

「おう、けどよ。学校はどうする」

「今日は、後回しだね。緊急でもないし」


 ユーウたちは、支払いを終えるとそこを後にする。ココナツは、ほくほく顔であった。

 ロシナは、木に墨を塗ったくった文字を眺める。そこには、「常夏」と漢字で書いてあった。客の入りは、少ないのが不思議である。 


「あそこ。何で有名じゃないんだ? スキルを教えてくれるとか、どこでも引っ張りだこだろ。おかしいよな」

「冒険者ギルドの隠し部門だったんだよ。特定の人間にスキルを伝授するみたいな、ね」

「何でだ?」

「よく考えてよ。冒険者なんて、傭兵と殆ど変らない訳じゃない。それで、そんな身元も不確かで所属も不明確で。ギルドに忠誠心があるのかないのかわからないような人間にほいほいスキルを与えたら、どうなるの?」


 ロシナは、渋い顔になった。


「そりゃあ……力があれば反逆したり、非道に走ったりするだろうな。当然っちゃあ、当然だ。コントロールできないような人間には、力を持たせない、か。納得だな」

「そういう事でしょ。けどまあ、今後は厳密な身辺調査をするし。あまりにも隠し部門である。というのは、王国の戦力上昇にマイナスだよね。冒険者の死者を減らす意味でも、こういうのは必要だよ。アルカディアとか、悲惨過ぎるでしょ」

「そうだな。とっと、ガーフから連絡だ」


 店を出た途端に、寒風がユーウたちを襲う。厚着をしているが、それでも寒いものだ。


「やっぱり、不安だなあ」

「セリアの予想通りらしい。迷宮の入口を見つけたそうだ。どうする?」

「直行しようかな」

「それがいい」


 学校は、後回しになった。ユーウは、転移門を開き飛び込む。




 






 ガーフは、部下からもたらされた報告を受けて山沿いを探索していた。

 そこで見つけたのが、大層な造りの門だ。上司であるロシナには、すぐさまに連絡をつける。

 少しばかり時間がかかるという。

 門の先にある地下迷宮。山にそれはできているようだ。

 思案顔をするガーフは、部下の一人に問いかける。

 

「魔物どもは、駆除し終えたか?」

「はっ。スノーウルフやアイススライムの類が多かったのですが、殆どを討ち取っております」

「ゴブリンやオークは?」

「多少でした。寒いので、巣穴に閉じこもっているとも考えられます」

「ふむ」


 ガーフの考えでは、ここが臭い。

 余りにも、人の手が加わっているという風な出来栄えだ。

 邪悪な気配に、怖気が走る。放っておくには、危険な感じにガーフの目も細くなった。

 攻略するには、準備不足とも言える。が、調査だけならば問題も無さそうで。

 隊の人数は、凡そ五百。一気に全員で、入るには入口が狭すぎる。


「先遣隊を選定するか」

「はっ」


 こうして、ガーフたちは山にこしらえたといった風の地下迷宮へと入って行く。

 中には、魔物たちが歓迎してくれた。動く死体は元より、奇怪な虫たち。

 加えて、剣を持った骨の兵士が歓迎してくる。弓を携えている骨兵士は厄介であった。


「しかし、これでは埒があかんな。探索隊を分けるか」

「はっ。でしたら、六人のパーティーを三十組ほどにして支道にも向かわせましょう」

「罠には十分に注意しろよ。危険を感じたら、即撤収だ。命を惜しむようにな」

「はっ」


 部下の隊が小隊を作り、散開していく。あくまで、偵察だ。死ぬような事があれば、事で。

 慎重に先へと進む。

 ガーフの本隊は、真っ直ぐに地下への入口を発見する。

 それまでに出た死者は零だ。弓は、精度がないが毒があった。


 その為、少なくない負傷者が外へと退いた。襲って来る敵のレベルは、それなり。

 トロールといった大物もいたが、ガーフの敵ではなかった。

 腕が、奇怪にも継ぎ接ぎになったなりで異様な棍棒が脅威であったが。

 突きあたりになる場所には、ぽっかりと空いた空間があり、そこには階段が見えた。


「下へと降りる階段か。ボス部屋というのはないようだな」

「そうですな。しかし、油断は禁物というもの」


 応じた男は副官で、ガリオンという。中年の騎士で、でっぷりとした腹が特徴だ。

 長年の付き合いで気心の知れた仲だった。できる男なのだが、容貌が悪い。

 頭も禿げている為、その話題は禁物である。頭の事でちょっとでもからかえば決闘になる。剣の腕はガーフに勝るとも劣らない。魔術やスキルを使うセンスにおいては、騎士団でも定評があった。ちなみに、独身で嫁探しは毎日のように聞き込みをしている具合だ。

 ガーフは、不安な表情を浮かべる年若い騎士に声をかける。


「アークは、どう思う」

「えっと。僕は、嫌な感じがします。引き返して、ロシナ様を待った方がよろしいのではないでしょうか」

「確かに。独断専行の誹りを受けかねないな。ここは、一旦引き上げるか」

「それがいいですな」


 ガーフの言葉にガリオンが、相槌を打つ。

 アークと呼ばれた少年は、おっかなびっくりした動作である。年若い事もあるが、それ以前に新人という立場も手伝って腰が引けていた。若いが、剣や槍に加えて弓の使い方も良くする騎士だ。

 後退を決めたガーフたち。

 下がる一方で、出てくる魔物を倒し続ける。そこに、蛇頭に亀といった魔物が現れた。

 今まで相対した魔物の中でも、異彩を放っている。首がなんと三つも生えているのだ。

 足だけでずりずりと動く様は、鈍重であるが首を振って来る為に悪寒に襲われる。

 まともに相手をしては、損害も計り知れない。ガーフは、声を荒げる。


「何だコイツはっ。各自防御陣形を取りながら撤収するっ」

「はいっ」


 ガーフは、スキル「火炎剣」を使い斬りかかる。狙いは、蛇の頭部だ。それは、相手の口から出される液体に阻まれる。咄嗟に転がり、回避する事ができた。避けながら、斬り付けるも効果は薄い。頭には、爛れた皮膚が再生する様が見える。ガリオンが、間に入って盾を構える。


「こいつは、危険だぞガーフ。盾隊、敵の攻撃を防御せよ」


 アークもガリオンも大盾を掲げて液体を防ぐ。近寄れない。敵の吐く液体を前に、攻撃は魔術頼みだ。

 後衛の魔術士たちが放つファイア。火炎が、蛇頭を焼いていく。ガーフは、突然現れた敵に脅威を感じた。周囲を見渡すが、突然現れたにしては出てこれるような道はない。

 ガーフは、訝しむ。


「こいつら、一体どこから?」

「知るか。ガーフ、下がろう。敵は、こっちを見ているに違いない。ここは、俺たちに手におえる迷宮じゃない。明らかに殺しに来てやがるっ」


 ガリオンが吠える。じゅうじゅうという肉を焼く音が敵の動きを止めた。

 詠唱を必要とする魔術士たちの攻撃。時間はかかるが、敵を葬ったようだ。

 しかし、


「また、新手かっ」

「次々とやってきてます」


 それは、異様だった。髑髏の首飾りをした蟻だ。

 寒い筈の迷宮。その気温を更に下げるような巨躯であった。両の手ともいうべき部分には、部下たちが握られている。ガーフは、咆哮を上げて走り出す。

 鈍い音と共に、それは蟻の外殻に阻まれた。次いで振るわれる攻撃を直剣で受けるのが精一杯。

 ガーフは、後ろに飛ばされる身体を足で踏ん張った。投げつけられる部下は、すでに虫の息だ。完全に予想外の出来事である。


「こいつは。しくじったか」

「た、隊長」


 アークが情けの無い声を出す。

 そこに、


「降伏せよ」

「何っ」


 虫であり、蟻。魔物と目する相手からの降伏勧告だ。

 戸惑うガーフに、蟻は再度告げる。


「降伏せよ。と言っている。主の慈悲だ」

「ほざけ」


 巨大な蟻の一撃は、脅威だ。ガーフは、それを避けながら攻撃を加えていく。

 炎は、赤騎士団の得意とする技で。スキルもそれに類する物が多い。魔術士たちの援護を受けながら、ガーフは蟻にダメージを加えた。


「貴様っ」

「はっ。その主とは、一体どのような相手なのだ? 降伏するにしても材料がなければ判断できん」


 するりと、ガーフたちと蟻の位置が変わり、アークやガリオンは後方の位置に立っている。

 部下の安否が気になるが、それよりも前にいる蟻が逃がさないだろう。

 ガーフの言葉に、


「偉大なるご主人様は、迷宮の主。それ以上は言えぬ。従え、人間」

「ふっ。邪悪な魔物に降伏を迫られるとはなっ。行けっ、アーク、ガリオン」

「お前は?」


 邪悪な魔物だ。逃げるにしても、ガーフだけの方がいい。

 戦うにしても、他の人間が居ては派手な技が使えない。

 ガーフは、走り去るガリオンたちを向かず手だけを振る。

 そして、邪悪に負けぬと裂帛の気合いを叫びに込める。


「行くぞ、化け物っ」


 腕が要注意だ。掴まれた部下は、死んではいない。

 が、アークたちが連れていく時間を稼ぐ事に専念して。

 腕を斬り飛ばし、必殺の一撃を図る。

 ガーフは、振りかぶる。「痛烈なる一撃」「筋力倍化」のスキルを乗せて。

 相手も爪による攻撃で応戦してくるが、それを避けての一撃。

 蟻の首を落とす。着地すると。


「くっ」

 

 ガーフの口からは、呻き声が漏れる。

 その代償に、肉体は反動で鈍い。よたよたという風に、アークたちの方向へと歩き出した。

 そこでは。



 


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