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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
199/709

14話 迷ってxxx (ヨハン・クァッド)

 俺です俺。

 俺が、誰だかわからない? はあ。最近出番の多いロシナですよ。

 ユーウの事で相談に来たんですけど。ええ、あの妹基地外です。

 妹の事になると、途端に豹変しますからね。ええ。

 爆弾のスイッチですわ。ここだけの話、たまに一部を除いた人類が死亡したりしていますよ。

 つか、三十億だかの人型種族がです。

 一撃で殺害してしまう魔術を奴は、もう持っているんですよ。

 これ、酸素を一瞬で自分の空間魔術で奪うというやり方なんですけど。

 えぐい死に方するので、どん引きですわ。

 大殺界(みんな死んでしまえ)だか、リベンジ・ザなんとかとか。

 危ないんで殺そうなんて計画ですよね。するんですけど、俺には無理です。

 ループスキルあったって、無理。どうやっても肉片になりますん。

 あきらめんな? あの、俺頑張りましたよ。

 試しに? 地獄からだって戻って来るやつですよ。

 百万回に一回です。パチンコの設定じゃあるまいし……

 人質をとれ? それが、一番やばいですわ。まだ不意をつく方がいいです、はい。

 頑張りが足りない? もう嫌です。元々、嫌だったのに。

 俺、頑張りましたから。後は、あんたらでやってください。







 ユーウの家にロシナは訪れていた。

 ユーウの様子を見ておくというのは、任務でもあるので間違いではない。

 空は、薄暗い雲が垂れ込めている。

 そこでロシナは、紹介を受けた。


「この子は」

「もしかして、オフィーリア王女様。すると、その横にいるのが第三王子シャルル様か」


 ユーウの言葉。その先を読む。

 ロシナの目の前には、そっぽを向く幼い男女がいた。

 両方共に、幼い。癖のある髪。似た顔つきなので姉弟なのだろう。

 が、女の子を庇うようにシャルルが前に立つ。

 ユーウは、感心したようだ。

 

「そうだよ。よくわかったね」

「うーん。喋れるのか? かなり幼い感じだな」

「無礼者め。ひざまずけ」


 王族らしく赤と青の豪華な衣装を纏う小僧。

 シャルルは、金髪の孺子だ。小憎らしい事に舌を出している。

 ロシナは、生意気な小僧を殴るか迷う。

 ユーウのようにかっとなる程幼くない。

 振り上げる拳をにやけ面で見ているのに、我慢をしていた。

 ユーウの方を向き、尋ねる。


「で、預かるのか?」

「しょうがないでしょ。死刑台に送るとか、どこかに蟄居してもらうとかかわいそうだよね」


 ユーウは、やれやれといった風だ。

 ロシナの肩に手を置き首を横に振る。


「それは、そうだけどよ。将来に禍根を残す事になるんじゃないのか? 国外追放にするとかやりようはあったろ」

「それが、問題でね。こっちに残しておかないと、他所から攻め込まれる口実になるし。かと言って、放置しておくのも問題だし。どこかの復讐譚みたいな事になるのは、面白くないよね」


 ユーウの言わんとする事は、ロシナにもわかった。

 オデュッセウスのようにされては困るという事だろう。

 或いは、炎の紋章みたいな展開とか。

 しかし、現実にはそれがもろに当てはまる。

 そして生かしている方が問題では? という疑問も浮上してきた。

 侵攻軍は、こちらである。

 大義は両方にあるが、今や抵抗軍も一カ所に集まりつつあるのが現状だ。

 

「その話なんだが……」

「ん?」

「ちょっとここじゃあ」 


 ロシナは、言葉を濁す。流石に、言うのは憚られる。

 シャルルやオフィーリアを置き、離れた。


「何なの」

「というのが、な。アルカディアの西に、有翼人たちの浮遊島があるのは知っているだろ」

「うん」


 アルカディアの首都であるパリ・ベルサイユ。

 そこを奪還せんとやってきたのが有翼人の浮遊島だ。

 目測で全長百キロ以上はあり、空を覆うほど大きい。

 端と端が見えないのだから、その巨大さというのがわかる。

 ユーウとセリアが侵入したというが、二人を知らなければとても信じ難いだろう。ロシナも、びっくりしたが他の人間程ではない。


 ちなみに、飛行船の他多数の戦闘機が目撃されている。

 文明の度合いは、ミッドガルド以上。

 勝つ見込みは、以前なら有りはしなかった。

 今は、ユーウが居る限り勝つ。そういう読みだ。

 それで、


「その下に、フィリップ王子を中心にした抵抗軍が集結しつつある。これを撃滅するかどうか。っていう話なんだが、どうする?」


 という話だ。ロシナとしては、苦境になる前に戦闘を終わらせたい。

 長引けば、国が風邪を引いてしまう恐れがある。

 ユーウは、きっぱりという。


「どうするもこうするも、殲滅してしまうしかないよね。降伏してくるならまた別だよ。ロシナは、有翼人たちが出して来る浮遊型の魔物を見た?」

「あれか」


 浮遊型のモンスター。奇怪な形状をしている使役型のやつだ。

 形状は様々で、亀であったり羊や獅子といったこちゃまぜになった魔物が多い。

 それから、小型のモンスターが溢れだす。降下させた場合の被害は甚大だ。殲滅というのは、嘘だ。妹が絡まなければ、至極まっとうである。

 もっとも、モンスターの駆除を見る限り違う事もあり得る。

 ユーウが、根こそぎやってしまう事の方が多いのだ。

 ユーウが居ない場合、騎士団の損害は甚大どころではなかった。


 何しろ、魔術を多く行使できるといってもユーウほどの者はいない。

 エリアスのような魔術師もそうそういなかったりする。

 大きなものを一発撃ったら、休憩が必要だ。

 ロシナには、肉体強化系であったりする魔術くらいのものしか駄目で。

 魔術をもっと使える職。それにするべきか迷う所であった。


「普通の人には、荷が重いよね。騎士団でもてこずるし。死者も結構でたみたい。無視できないよ」

「片付けたんだろ?」


 アルカディアの首都は、百万都市だ。

 けれども、戦闘の被害は自軍にも住民にも大きい物だった。

 有翼人たちの兵がもたらしたものが大半なのだが、住民にはどちらにもとらえられる。専ら、食料の配給を行い人気の獲得を狙っていた。

 そんな事は、シャルルたちにも秘密であり、彼らが国に帰る頃には石を投げられる可能性がある。

 ユーウは、髭のない顎を撫でる。


「それが、直接の転送は防げるんだけどね。島から飛んで来られるのは、撃ち落とすか地上で迎撃するしかないみたい。それで、敵の本拠地を叩くかどうか。迷うんだよね」

「美形が多いからか。また、下半身直結だな」


 ユーウに殴られたロシナは、ふっとんで壁に埋まった。

 出るのが難儀だ。

 しかし、何事もない。という風に、そこから出る。

 最初は、血塗れだった。慣れというのは、恐ろしい。


「酷いなあ」

「言い過ぎた。だから、その刃物を納めてくれ」


 ロシナの口は、よく滑る。

 ちょっと、ユーウの方がかりかりきている様子だ。

 全身がばらばらになりそうな衝撃。

 常人ならば、叩きつけられた段階で即死だろう。

 もしくは、水袋のように破裂するか。

 ユーウの手には、魔力で作られた刃が出来ていた。

 ロシナにとってあれは、危険だ。

 ループでも勝てない要因でもある。顎から冷たい汗がぽとりと落ちた。


「否定は、できないけど。ショックだよ。僕は、それほど下品じゃないよ」

「……そうだな」


 嘘だっと叫べば死ぬだろう。冗談で、妹をからかった時は酷かった。

 宇宙まで飛ばされた。自由落下する際中に、妹をネタにするのは止めようと誓った程だ。後は、宇宙に放逐されるのも。

 何しろ、魔術が碌に使えないロシナにとっても宇宙空間というのは鬼門に過ぎる。酸素が無いので、ちょっと巻き戻した位では死にっぱなしだ。

 得意技が、土下座になっていたりする。

 懲りない。周りには、そう言われるけれど。


 家の傍では、ルナとシャルロッテがヒヨコな蜥蜴と遊んでいる。

 ユーウの家には、蜥蜴が巣を作っているようだ。地下から、DDに率いられた軍団が出てくる。

 ヒヨコサイズであるからまだいいが。

 大きくなれば、どうするつもりなのか。

 ロシナにもわからない。見ている分には微笑ましい光景だ。

 ユーウが、指をさす。


「それより、見てよこれ。良い出来じゃない?」

「まあ、でかいな。これは、アル様か」


 雪で作ったアルの像だ。それを通りに並べるらしい。

 雪まつりをやろうというのだ。折しも豪雪で、雪は腐るほどある。

 歳のほどは、ロシナよりも上な筈の王子に王女が雪と戯れていた。

 子供らしい嬌声を上げている。


「ところで、ロシナはフィナルのパーティーに出かける準備は済んでいるのかな」

「もちろん……だ」

「それは、良かったよ。僕も寂しいしね。パーティーに出席するなんて初めてだし」

「ああ……」


 ロシナは、早くも後悔し始めていた。アルにもぶつくさと文句を言われ、セリアには殴られ散々だ。

 蜥蜴たちの様子をみれば、心が和む。

 蜥蜴たちは、ロシナに全く興味がないのか近寄って来る事もない。

 指をくわえながら、眺めるしかなかった。


「よしよし」

「えへへ、かわいいねー」


 ルナとシャルロッテが、蜥蜴を撫でている。

 二人共、にこにこしていた。蜥蜴たちはされるがままだ。

 数が増して、ぐるぐると二人の周りをまわっている。

 蜥蜴たちは、小さい。そして、愛らしい。

 誰もが撫でたくなるだろう。

 もっとも、成長すると凶悪な面構えになるのだ。

 が、それは伏せておいた方がいいだろう。

 DDは、ユーウの家にある池で蜥蜴を引き連れて遊んでいる。


「シャルロ……」


 最期まで言えなかった。口には、雪だんごが詰まっている。

「嫁にくれ」と言おうとしたのだが、ユーウはロシナの行動を把握していたようだ。

 ユーウが顔を近づけて、ロシナに迫る。


「何か? 言おうとしたの?」

「むー、むー。ぶはっ」


 黙るしかなかった。


「そろそろ帰るわ」

「ん。んじゃ、ロシナの実家でいいのかな」

「おう」


 ロシナは、転送門をくぐった。






 ロシナの家では、パーティーに出る為の準備で忙しい。

 何しろ、北西部の権門であるモルドレッセ家が主催するパーティーだ。

 滅多な事ではでない人間が出る。というのでもちきりである。

 ガーフに愚痴をこぼす。 


「あー、どうして俺まで出る事になったんだよ」

「諦めされ。ロシナ様が出る事は、非常に栄誉な事でございますぞ。招かれるのは、伯爵家以上の方々のみとか」

「めんどくせえ。代わりに出て欲しいわ」


 といっても、ロシナの代わりになる人間は……いない。

 でなければ、出ないでいいのかもしれないのだが。

 セリアもアルもエリアスも出る。というので、その選択肢はないのだ。

 美人を眺めるのは、心が安らぐのである。ユーウが聞けば、修行させられそうな内容だ。


「そういえば、セリア様も出るらしいですな」

「ああ」


 小憎らしい。髭を弄るガーフは、素知らぬ顔で告げる。

 

「領主様も大変お喜びでしたよ。親孝行をなさいませんと」

「まあ、頑張るわ」


 ガーフの兄は、執事長だ。その関係で執事としての役回りもできる。

 騎士団内でも、指折りの剣の使い手。

 結婚して、もう子供がいたりする。幼いので、供とするには難しいが。

 ガーフの言う事は、理解できる。

 だが、ロシナとしては逃げ出したい気分だ。

 ロシナの敵は外堀も埋めていた。

 両親が出席するのだ。逃げようにも逃げられない。


「馬車の用意はできておりますよ。お着替えを」

「あいよ」


 ロシナは、館に入る。古い石畳でできていた館を改築し、木造という風にしている。

 石では、冬の間が寒いのだ。といっても鉄筋にするほどの技術はない。

 内装を木で覆い、暖をとれる恰好にしてある。暗くなると、もう寝るしかない時代があった。

 今では、電気を利用した電灯がある。魔術を利用した暖房は、維持に金が非常にかかる。

 なので、暖房も電気も自然と科学を利用するようになっていた。


「おかえりなさいませ」

「おう」


 メイドたちが通路を慌ただしく動く。

 両親は、部屋にいるようだ。出発の準備が忙しいのが見て取れる。

 妹や弟たちは、まだ小さい。ロシナのように上手く喋れる訳ではなかった。

 五、六歳では、こういう物だ。 

 部屋に入れば、フィナルの配下が持ってきたという書類が山と積まれている。 

 モブレとアイスマンという男たちからだ。

 書類を見て、


「うえっ」


 ロシナは、思わず呻いた。損害額が、表示されている。

 主に、アルカディア方面軍の損害だ。国内でも、様々な問題と事故や事件が起きている。

 が、特に酷いのが軍人であるところの兵士たちの死であった。

 ロシナは、着替えながら考えをまとめる。外の雪は降りやまない様子。

 蝋燭の炎が部屋を明るく照らしていた。


 暫くして、こんこんという音と共にメイドの一人が入って来る。

 コーネリアは、霧化して待機中だ。


「そろそろ、お時間です。馬車で皆様お待ちですよ」

「今、行く」


 部屋から出る前に、重要な書類を分けれなかった。時間が余りにも短かったのだ。

 アルカディアでの損害は、空中からのモンスターによる所が大きい。

 人同士の戦闘でなら、ミッドガルドの勝ちだ。どうにかしなければ、消耗戦で敗北するだろう。

 しかし、巨大な島を何とかする手段はユーウくらいしかない。 


 馬車には、父と母が待っていた。ロシナは、笑顔を作って乗り込む。



 がたっという音を立てて、戸が閉まる。

 笛型のタバコを手にした父親が、口を開く。


「ユーウくんとは、その上手くやっているのかね。彼は、お前が居ない間に来ては色々とやってくれておるのだ。何もお返しをしないようでは、我が家の面子に関わるのでな」

「手作りのリンゴパイケーキなどは喜んでくれておりましたけど」


 母親も気にかけているようだ。ロシナは、安心させる。


「お任せください。考えてありますよ」

「そうかそうか。それならばよいのだが」


 嘘だった。ロシナには、これといってユーウの為に出来る事はない。

 精々、敵対的な人間を説教したり、拉致したり、そんな所だ。

 時に、拷問までロシナの担当だったり。

 とても、人には言えない。誇れる事ではないので、ユーウにも話せないでいる。

 あるいは、知っているかもしれないが。


「ところで、だな。そろそろ、お前にも婚約者を用意しようと思うのだが……どうしたのだ?」

「いえ、結構ですよ」

「いやいや、とても良縁なのだ。向こうの親も乗り気で、悪い話ではないぞ?」

「婚約者くらい、自分で探しますよ」


 父親は、とても残念な顔をする。ロシナからすれば、余計なお世話だ。

 おかげで、霧になったコーネリアに殺される所だ。

 ユーウの周りにもロシナの周りにも、こういうのばかり集まる。

 どうしてそうなるのか不明だ。


「そうか。とても良縁だと考えたのだがなあ。ギルギスタン公爵家の娘でな。歳は、お前より上だ。だが、持参金はとてつもない額になるであろうし。我が家も安泰だと考えたのだ」

「それは、止めてください」


 父親は、すごすごと引っ込んだ。ロシナが強く出る事はそうない。

 というのを察したのであろう。

 南西部の雄であるギルギスタン公爵は、アルの王位継承に反対する急先鋒だ。

 ともすれば、反乱くらいはやりかねない男である。

 そして、ジギスムントの家と同調すれば王国を乗っ取りかねない。

 そんな事をすれば、ユーウに叱られる。

 

 必死になって説明をするロシナに両親は、困惑して青くなった。

 それから、とりとめのない話が続く。

 雪をさくさくと踏んで進む馬車の音が、軽快だ。護衛の人間は、配備している為問題ない。

 道中は、つつがなく進んだ。


「ちぇ、暗殺者の一人や二人くるかと思ったのになあ」

「お前は、またそういう事を……冗談でもやめなさい」

「そうですわよ。お父様の言う通りです」


 ロシナは、退屈だ。敵が、そういった類の人間を放ってくるのもめっきり少なくなってしまっている。

 退治すると同時に、敵を特定できるので便利なのだ。

 貴族の家であれば、そのまま取り潰して接収する事が可能である。

 実験的にだが、それは進行中だった。

 

 ともあれ、王都にあるフィナルの屋敷前に到着した。


「流石、モルドレッセ家だな」

「そうですわねえ。あれも見事な像ですわね」


 門の中へと入っていけば、直ぐに白亜像が出迎えた。

 一目で、フィナルとわかる。像だ。本人は、叩き壊したいらしいが、周りが許さない。

 一度事故で壊れたらしい。すぐに復旧されたが。

  

 邸内は、広大だ。入って、直ぐに下車待ちという風になった。

 招かれている関係者だけでも数えきれない程。

 煌々と灯る魔灯の数が財力を物語る。

 

 入っていった先には、出迎えの家人たちが両側に並んでおり、一様の恰好をしている。

 ロシナは、緊張で下が緩くなり始めた。

 殆ど、ロシナが知る人間はいない。良くて、フィナルの家人ぐらいの物であった。

 戦うばかりで、このように人が集まる場所には殆ど足を踏み入れた事がない。

 

「ちょっと。ロシナ」


 中に入った広間で呼び止められるまで、ロシナは上の空だった。






「ロシナ?」

「お……なんだ。ユーウか」


 大広間の入口で、ユーウはロシナを捕まえた。

 何しろ、一人ぼっちだったのだ。心細さでユーウは、逃げ出したい。

 そのまま隅に引きずっていく。


「ところで、このパーティーって何を祝うの?」

「えっ……おま」

「良く知らないんだけど」

「よくわかってないのに来たのかよ。フィナルの大司教就任を祝うのが目的らしい。女神教は、女ばかりだからな。神殿騎士は、男も多いけど下働きみたいなのが多くて大変らしいぞ。女のための宗教で、美容とか健康にいいらしい。結婚も上手く行く事が多いな。あそこの温泉は、入るのに大変な入浴料をとられるとか。まあ、男には効能がないらしいから行くことはないと思うけどな」


 教会も色々である。宗派もあって、対立は激しくないのが救いだ。

 一応、フレイアが上に立つ恰好のようだ。

 ユーウは、改めてパーティー会場を見渡す。人、人、人だ。


「両親と挨拶回りに行かなくてもいいのかな」

「ああ、いってくるわ。それじゃあ、また後でな」


 ユーウは、連れ回される際に石像になっていた。何を言われても鷹揚に返すばかり。

 戦場よりも、一層緊張している。この中に暗殺者でも混じって居れば大変だからだ。

 壁際に立っていると、フィナルの挨拶が始まり、堂々とした様子が見られた。


 食事は、ひっきりなしに運びこまれており、食事会の様相を呈している。

 ダンスに演奏などが行われて、時間が過ぎていく。

 ユーウは、不意に袖を引かれた。


「こっちに来なさい」


 白塗りの壁を移動して、エリアスに手を引かれていく。

 

「どうしたの」

「いいから、こっちこっち」


 バルコニーのようになっている場所に出る。外は、雪だ。

 寒いので、防寒の魔術をかける。邸内では、魔術不可の結界もなく外に向けてのものしかなかった。

 不審者が入れるような状態ではないので、心配はないが。

 ユーウは、魔力の高い人間を探すので忙しい。


「綺麗よねえ。ちょっと雪であそばない?」

「ん。いいけど。何をするの」

「みてなさい。ふふふ」


 エリアスが作るのは、女性だ。武器を掲げたセリアの姿である。二階から見上げるような恰好だ。

 ユーウも負けじと、アルの像を作り始めた。中々に鎧が難しい。

 そして、周囲に客の人形を作っていく。外では、結構な騒ぎになり始めた。


「あちゃ。不味い」

「いいのよ。誰も私たちがやったなんてわからないでしょ。別に害があるわけでもないのだし」

「まあ、そう言われるとそうだけど。雪を操る魔術をよく覚えたね」

「当たり前よ。四元素に関して、私に勝る術士はそういないわよ。あんた以外」

「水に属する魔術だけど、氷結魔術と言われたりするし曖昧だよねえ。強みがほとんどないというか熱にすごく弱いし」

「雪玉の魔術は、かなり強力なんだってば。確かに、火系の魔術は熱量に限界がないっていう利点はあるけど防御に向かないじゃない。火壁の魔術で物理攻撃は防げないわよ」

「確かに。全部使えないと、碌に戦えないっていうのはあるね」

「物理攻撃を蒸発させるくらいの魔力があるなら、さっさと相手にぶつければ言いわけ」

「先手を取られたら、別だよね」


 ユーウは、魔術の方陣を空中に出し始める。こちらの方は、大量の魔力を消費する時に使われる。


「それ、どうやってやるのよ。教えなさいよ」

「やだよ。どうして、何でも教えないといけないんだよ」

「あんたには、何でも私に教える義務があるのよ」

「意味がわからないよ」


 無茶苦茶であった。エリアスの言い分は、毎度のことながら道理を無視している。

 雪像は、踊り始めた。一種のゴーレムなのだが、そんな事も家人にはわからないのだろう。

 しかし、シュールな光景で特に害がないとわかれば落ち着いていく。

 暫く、二人でそれを眺めていた。


「ああ、なんで私はこんな話をしているのっ。ユーウっ」

「どうしたの」


 エリアスの瞳は、ユーウを真っ直ぐに見ている。

 それにたじろいだ。


「この前の答えを聞かせて」


 ユーウは黙ってしまった。そうそうに答えは出ない。

 躊躇いがちに、口を開く。


「やっぱり、僕らはまだ子供だし。そういうのは、早いかなって思うよ。将来、君の気が変わるって事もあるし」

「大事なのは、今よ。いいわよ、その内既成事実が積み上がるんだから、気にしないわよ。後悔しても遅いんだからね」


 深深と積る雪。周りの時間は、止まった。ユーウには、酷く長い時間に感じられた。


「でも、何だって僕なの?」


 ユーウは、殴りかかってくるエリアスを交わして抱きしめる恰好になる。


「えっと。ふう」

「?」

「わかんないのなら、それでいいわよ」


 エリアスの身体からは力が抜けている。ユーウは、どうしていいのかわからない。

 そこに、


「おい」


 アルが、現れた。頭からは、湯気を沸かせている。どういう事なのか。


「こいつは、俺の婚約者とするっ。手を出すなよ?」


 エリアスの身体を奪ったアルは、ユーウに宣言した。エリアスは、目が点だ。

 そして、ムンクのような顔を作って「ええっ~」と叫ぶ。


「その、どういう流れで」

「うるせえっ。黙れ、このクソ野郎」


 アルの怒声にユーウは、しゅんとなった。どうしてこうなったのか。訳がわからない為だ。

 会場にとぼとぼ戻ると、そこでもおかしな事になっている。

 エリアスに加えて、フィナルとアルの婚約発表だという。

 側室か正室か。という事で、盛り上がりを見せていた。


「おい、ユーウ。大変な事になったな」


 ロシナだ。ユーウの胸の裡は、もやもやが渦を作っていた。


「ねえ、女同士で結婚て。それ、どうすんの?」

「知らんがな。俺に聞くなよっ」


 アルは、本気の目をしていた。しかし、女同士で子供などできない。

 どうするつもりなのか。ユーウには、さっぱりわからなかった。










 

 フィナルが開いたパーティーは、大混乱で終わった。

 フィナルもエリアスも半開きの口から魂が抜け出るようであったし。

 ユーウとしては、答えが先延ばしになった事に一息つく事ができた。

 子供同士で、婚約というのもおかしな話である。

 普通であれば、親が決めるような事。

 それから、ユーウにはシグルスからの依頼をこなす日々が待っていた。

 主に、食料の配達に人員の輸送だ。

 ユーウは、シグルスに頼まれると二つ返事であった。

 

 そんな日々で、ユーウは王城へと出仕した。

 内部には宮殿があり、ユーウが調達した資金で作られたそれは、金ぴかである。

 宮殿の執務室にはアルが笑顔で待っていた。

 

「ふむ。これらを読む限り、日本人というのは馬鹿なのか?」

「馬鹿じゃありません」

「しかし、馬鹿な政治家ばかりを選んでいるではないか。つまり、それは馬鹿という証左でもあるな。どうだ、反論はあるのか」


 ユーウは、答えに詰まる。確かに衆愚政治と言われれば、答えようのない話だ。


「馬鹿じゃありませんよ。ただ、出てくる政治家が揃いも揃って無能なだけで。皆、候補者の吟味はしています。敵国に、情報機関を乗っ取られたりしていますけれど」


 報道しない自由がある。意味が不明だ。


「ふん。人口が、百年後には半分か。大した民主政治だよ。愚か者の集団としかいいようがない。ただ、我が国もそういえないのが現状だ。とりあえず、貴族の所領を減らしていくしかない。民衆の貧困度は、日本の遥か上を行くのが現状だしな」

「はあ」


 アルがぱらぱらと書類をめくっていく。ユーウは、目から汁が出そうだ。


「ところで、何かいい策はないのか?」

「今の処は、特に。人口増加は、基本的に民衆の所得が増える以外に手はないので。出産費用の国持ちとか、避妊の禁止とかですね。父親が誰だかすぐわかるので、責任の追及はすぐできます」

「人口の上向きと同時に、産業の育成もしなければならない。炭坑の開発は進んでいるのか」

「順調です。ただ、インフラ整備と同時に法律の施行もしていかないとですね」


 ユーウの他には、セリアが控えているのだ。しかし、彼女は黙ったままである。

 興味がないのだろう。武官に文官も黙ったままだ。


「馬車で轢く件だな。頭が痛い」

「貴族といえど、平民を轢けば逮捕。よろしいですね」

「うーむ。ちょっと待ってくれ。貴族たちには了解をとらねばならんよ。まだ、戦争が終わった訳じゃあない。それと、ブリタニア軍とアルカディアの残党を何とかする方法は考えてあるのか?」


 未だに、北部で睨み合いをする事と浮遊島の話だ。


「北では、睨み合いを続けているのでしょう?」

「それがな。報告をしないまま、我が軍は敗走を続けたらしい。一日で一敗地にまみれて、北部ノルマンディー地方は完全に敵の勢力圏だ。かろうじて、砦に立て籠もる青騎士団だが―――持たない」

「確か、大将はクアッド家の方でしたよね」

「ヨハン・クアッド。出来る男だったはずだが、敵の方が勢いに勝るようだ。ブリタニア軍でも高名なスカハサが率いる影の兵団は強い。兵力は、五分だったのだから均衡が崩れてそうなったのだろう。ともあれ、立て直しを図るしかないな」


 ユーウは首を傾げた。


「負けた原因がよくわかりませんが、そこは把握しているんですか?」

「会戦で押し負けた。という事は、つまり軍の采配が不味かったという事だろう。セリアのような奴がどこにでもいる訳じゃない。勝負は、時の運というのもある」


「戦費が大変ですねえ。どうするんですか」

「増税しかない」

「どこから搾り取るんですか?」

「民衆からだな。それとも、ポケットマネーで何とかしろとでもいうのか。ただ、今のところは必要がない。そもそも食料は間に合っているし、金も国庫には潤沢にある。戦費はかさばるが、向こう十年ほど戦い続けてもいいくらいだ。さらに十年戦うとなると、国が傾くが」


 国家の予算は、いかほどか。アルの予想する額は、かなり低い。

 ユーウをこき使ってやりくりする気だ。

 動員する兵力を抑えているのもその為だろう。輸送にかかる費用がほぼ零で計上されている。

 暫く似たような議論が続く。


「今日の用件は、これくらいですか」

「ああ、最後に元日本人どもの話をしようか。それから頼んでおく事がある」

「はい」

「人口減少の件だな。これと相まって娼婦の話だが、まとまった。ついでに、孤児院施設も作る。未亡人もそこで働くという風だ。それから、売国奴の話だが落ち着いてきた。まあ、ユーウは私の物なのだから手出しできないようにするのは当然だなっ。我が国の話もついでにしておくか」


 武官も文官もぎょっとした。セリアは、口の端を上げている。

 ユーウは、殴りかかる衝動を抑えるので懸命だ。

 アルは、優雅に紅茶を口に含む。


「ふう。我が国の人口は、ピラミッド型だ。基本的に長く生きる人間が、少ない。妖精族や神族は除いている。これを計算にいれると、訳が分からない数字になるからな。で、日本のようにするのはいいのかどうか。という事だ。高齢者ばかりに金を使っても、先がないというのに出生率の上昇に手を回さず移民を考える。これはない。別の国にしたいというのならわかる話だが、民主主義の政治家というのは馬鹿しかいないのか。そうとしかいいようがない。民衆は素晴らしいのに、どうしてそうなるのか不思議だ。学校の生徒たちを見ていればそれはわかるな。ユーウが厚遇したいというのも、頷ける」

「ありがとうございます」

「トップダウンでやれる事はいくらでもあるだろうに。我が国もそれらを見習っていかねばならない。ま、侵略国家なので何を言っているんだと言われるだろうがな。高齢者の福祉を打ち切り、出生率の回復を図る手段は私でもわかるぞ。たとえば、出産する度に十万ゴルを祝い金として用意するだとか。ミッドガルド人に限るが。お見合いパーティーを開くだとか。合同結婚式を開くだとか。ま、あとは治安だな」

「治安ですか」

「資料を見る限り、警察は仕事ができていない。強姦の件数は氷山の一角に過ぎないだろう。それで、結婚しない女性が増える。そうすると、草食系男子は全滅の一途だ。日本人は農耕民族のようだし、そういった村社会から出て他の肉食系男子と張り合って結婚相手を捕まえられるかと言えばノーだろ。漫画を見ていて、それは強く感じるぞ」

「まあ、後は野と成れ山と成れ。というのが、皆感じているところなんじゃないでしょうか。社会の末端では、どうする事もできませんし。せいぜい、デモくらいでしょう。それで何も事もなかったりしますけど」

「見るべき所は、日本の民だな。学校の生徒たち。あやつらばかりのような民なら、為政者というのは居ようがいまいがかわりないな。それにひきかえ、我が国の民とくれば……怠け者が多い。一部以外排除するべきかもしれん。アルトリウス辺りが反対しそうだが」

「……」


 ユーウは何と言っていいやら途方にくれた。

 アルは、民衆をどうでもいいと切り捨てるきらいがある。

 娯楽を与えて、食料を与えて、住居を与えて。それらを達成していれば、基本的には国が治まる。

 そういう風だ。

 秘書官も用意しなければならない。


「日本がどうなろうが、かまわんから百万人ほど労働者を拉致してきたい所だな。唯唯諾諾と黙って働いてくれるのは有難い。……学校教育もそういった人間を育てる。というのはわかる話だな。箱物か。校舎だけは、何とかできている。春には、開校出来る手筈だ。お前も通ってみるか?」

「ええ。できればですが」


 高中小幼と言う風に作っている学校が一校。

 教師の数は絶対数が不足している。


「うむ。それからな。アドルたちがピンチだ。シグルスの所に食料を運ぶついでに、助けてやってくれ。青騎士団の殿をやるらしいからな。これは不味い」

「それでは、失礼します」


 アルの執務室を退出するユーウは、肩を叩くセリアの方へと身体を向ける。


「こほん。私もついて行く」

「あれ、警護はいいの?」

「最近、その時間が退屈だ。アルーシュ様もとっても退屈らしい」

「ああ、アルーシュ様だったんだ」

「ふ。もう少し、観察眼を養うべきだ。味方に鑑定スキルを使うのは、失礼なのだから見てわかるようにしておいた方が無難だ」

「どうせ、鼻でしょ。僕ら猿には、無理ですよー」

「ふっふっふ。さあ、急ごう。どうやら、アドルたちが正念場だ」


 ユーウは、走りだした。アドルの傍にクリスがいるからだ。

 しかも、水晶玉で覗き見るかぎりオデットにルーシアまでいる。店番をしている筈なのに。

 転移門を無理やり作る。





 移動したのは、アドルたちの直上だ。平地で、四人が取り囲まれている。

 着地するセリアに合わせて、ユーウは結界を展開した。


「ユーウっ」


 アドルの声だ。そして、セリアは正拳を突き出す。

 

「はっ」


 その結果、波打つように人が飛んでいく。風圧だけで、人が舞い上がる。

 それは、まるで津波のよう。敵の兵士が舞い上がっていく。

 それを何度も放つ。

 やがて、見渡す限りの兵士が地面に叩きつけられて赤いものを流す。

 最早、敵方で立っているのは二人だ。

 黒い金属鎧に身を包んだ女と小柄な少年だけ。

 ユーウの敷いた結界内では、アドルが荒い息をついていた。

 女の子たちは、座り込む。


「助かったよ。来てくれるって信じてた」


 アドルの言葉に、ユーウは頷く。


「馬鹿者。まだ、終わりじゃない。ユーウは、あいつの能力を知っているか?」


 セリアが指を差すのは、女の方だ。肩に槍を乗せている。

 崩壊した地面。その剥き出しになった岩の上に優雅に立つ。

 セリアの攻撃を躱したという事か。

 ユーウも、稀な相手を前に緊張が走った。


「いや、なんだか検討がつくけど。あれが本物ならね」

「なら、話は早い。グングニルの模倣品だ。その槍を投げれば、必ず心臓に当たり、また手元に戻る。という。私には効かないがなっ」


 二人だけになった相手は、血に染まったような色をした槍を構えた。

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