表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
197/709

12話 寒くなってxxx

「私と結婚して」くださいまし」

「え?」

「返事は、どうなの? 返事がないわよ」


 エリアスとフィナルに連れられて、ユーウは家から出る。

 話があると言うのだ。で、庭にある大きな木の下で聞く事になった。

 辺りは、大雪だ。このミッドガルドでは、冬の間に一メートルの雪が積もる事も珍しくない。

 

 ユーウは、考え込む姿勢をとっている。難しい問題だった。

 彼女たちを傷つけずに、なんとかやり過ごさねばならない。

 どうせ、女は忘れてしまう物。そんな風に捻くれた部分がある。

 眼前には、エリアスとフィナルが着飾ったドレス姿で立っていた。

 可愛らしいモノだ。そのように見える位に、ユーウはロリコンではない。

 二人は、ユーウの手を取りながらかしずく。そして、真っ直ぐに見つめている。

 真摯に、淡水のように透き通った瞳だ。

 成長すれば、男たちは放って置かないだろう。ユーウは、捨てられるに違いない。


「ええっと。ですね。まだ、早いんじゃないんでしょうか」


 当たり触りの無い返事を返すユーウ。しかし、彼女たちは納得しない。

 

「こ、婚約者でもよくってよ」

「はあ、ふざけんな。この売女」

「なんですの。エリアス、下品な言葉は止めてくださいまし」


 今にも、殴り合いを始めそうな雰囲気だ。ユーウは、固まっている。

 思考が、追いついていかないのだ。何故? というような文字が頭の上に見えるようである。

 そこに、


「暇そうだな。勝負だっ」


 セリアまでもがやってきた。しかも、全く前後を無視して拳を突き出す。

 過日とは、うって変わり普通に黒で統一された装備を着ている。

 さすがのセリアも、ユーウに拳で説得されては聞く以外にないというところか。


「ちょっと、セリア様。こちらの話が済んでいないのですけれど」

「そうよ。お子様は、引っ込んでなさい」

「ふっ。ユーウなら、とっくに私の番だぞ? お前たちの方こそ、手を出すな」


 それを聞いた、二人は手に持った物をぎゅっと握りしめてユーウの方へと視線を動かす。

 

「うん? それ、冗談だからね。セリアが勝手に言ってるだけ」

「そ、そうですわよね。ちょ、ちょっと私、用事を思い出しました」

「私も……」


 セリアに、一瞥をやると走り出す。「ちょっと待ってよ」と手で止めようとするのだが。

 考えをする間もなく二人共に、奇声を上げて居なくなってしまった。

 ユーウというと、足から頭まで鋳物のように固まっている。

 まだ、思考がぐるぐると混濁していた。


「もっと、こう、上手い言い方はなかったんだろうか」

「何を言っているんだ。行くぞっ」


 セリアの乱入が想定外だった。

 ―――話も終わっていない。

 セリアの話も初耳だ。渦のように考えが回り始めていた。

 セリアの右拳が、ユーウに迫る。普通であれば、そこで反撃するのだが。

 拳を受け止めた状態で、ユーウは止まっていた。


「どうしたのだ。何時ものように、戦えないのか?」


 セリアは、矢継ぎ早に屈んでの足払いに移行する。跳んで躱すユーウに、蹴りの連打だ。

 後ろに跳び下がりながら、それも受け流す。

 ユーウに、決定打を浴びせられないセリアは、更に気炎を上げた。


「戦えユーウっ」


 そう言われてみてもユーウの身体は、鉛でもこびりついたように重い。

 エリアスとフィナルの言葉が重くのしかかっているようだ。

 セリアの怪力で殴られれば、普通は手足が折れる。

 それを回避させる為、魔力で作られた鎧が存在していた。


 魔力で作られたそれを剥がされれば、一撃で死ぬ。

 ユーウは、特に意識をしなくとも防御魔術をやってのける。


「言われなくてもっ」


 戦わなければ、死ぬだけだ。そんな事は、わかっている。

 それよりも、何時の間にかセリアの番になっていた。そんな話は聞いていない。

 動きに、重くのしかかるのだ。

 と、堂々巡りの攻防を何度か繰り返した後。


「ふっ。どうやら、今日こそ勝ちだなっ。はああっ」


 上下に連打を積み重ねる。腕の動きから、ユーウは軌道を読む。

 ―――受けきれない。

 そんな連打だ。どこかで、腕の軌道が受けられないようになる。

 一体どこで、このような技法を学んだのかは不明だ。

 蛇がまとわりつく風に組立をするセリアの攻撃は、何時もと違う。

 そして、


「これでっ……がっ」


 打撃で、セリアが空気を吐く。ユーウは、滑るようにしてセリアの背後を取る。

 何も迷う事はないのだ。今日の決め技も、関節系。

 セリアをひっくり返し、逆海老にもっていく。

 ばんばんと地面を叩くセリアに、拘束を解いた。


「あ、足が千切れるかと思ったぞ」

「うーん。力が、入りすぎたかな」

「今日は、どうもおかしいみたいだな。ここまでにしておくか」


 稀に、セリアがユーウを追い詰めると大抵ろくな事にはならない。

 という事を予期してなのだろう。切れたユーウが手足をもぐ事が無かった訳でもなく。

 やってしまう事がある。


「そうだね。お茶にしようか」

「あの二人は、一体どういうつもりだったのだ。お前と私の間に入ろうなど、断じて許せん」

「はいはい。それで、セリアはアルカディアの方はいいのかな」


 強引に、話題を変えるユーウにセリアはむっとした表情を浮かべる。

 平らな胸の前で、腕組みをした。


「アルカディアの兵は、弱すぎる。有翼人共は、強敵だ。しかし、彼らは最前線までは出てこないしな」

「乗り込んで行けばいいじゃない」

「そんな事が出来るのは、ユーウくらいだ。いくら私でも、どのような敵が出てくるのか分からない場所に一人で乗り込んで行くほど馬鹿じゃない」


 ユーウは、お茶セットをテーブルの上に乗せる。

 お茶を飲むには、肌寒い。周りには、一面雪化粧がされている。

 雪の深い事もあるこの国では、雪かきも一仕事であった。

 魔術でさっさと片付けてしまうのが、ユーウなのだが。


 水晶玉を取り出し、遠方を覗き見る。

 

「わっ」


 ユーウは、のんびりしている様から一転して慌てた。

 というのも、今まさにアルカディアに駐屯するシグルスの兵たちに隕石が降りかかろうとしている。

 転移門を作り出し、咄嗟にそこへと移動する。


「おい。どこへいくんだ」


 飛び込んだユーウの背後から、セリアが声をかけてくる。

 が、構っていられない。ユーウは、大規模転移を直上へと展開する。

 都市ごと根こそぎ移動させるか、相手の魔術を妨害するか。

 いずれでもよい。周囲では、この世の終わりだというように騎士団員たちが右往左往している。


「どういう事なのだ? まさかあれか」


 セリアが、上を目指して指を差す。頭上に振ってこようとする点だ。

 よくよくみれば、それがかなりの大きさである隕石である事がわかる。

 それも一つや二つではない。一個でも十分に都市を壊滅させるだろう。

 セリアが呻く。


「あれをどうにかしようというのか? どうやってだ」

「まあ、見てなよ。失敗すれば、死ぬだけさ」


 敵による攻撃。だが、肝心の相手が見つからない。

 遠距離で、魔術を行使しているという所なのだろうか。ユーウも手加減をするつもりはない。

 これは、戦争なのだ。勝てば全てを手に入れ、負ければ全てを失う。

 そういう類の物。


 上空から迫る敵の攻撃を転移門で受け止めて、敵と思しき相手にぶつける。

 ブリタニア軍の方にもこれを落とすべきか迷う所だ。

 ユーウは、相手の方へと送り返す。再度送り返されないように、妨害しながらというオマケ付きだ。


「消えたぞ」

「そうだね。あんな手を使えるなんて、油断していたよ」


 ユーウは、水晶玉を取り出して手をかざす。魔力を練り込みながら、敵の様子を伺おうというのだ。

 送り返された隕石で、浮き島は大混乱の様子である。

 自分たちが放った筈の攻撃がそのまま帰ってきているのだから、当然だろう。

 ユーウは、そう思い込む。


「それじゃあ、敵を仕留めに行くけど。どうするかな?」

「私もついて行くに決まっている」


 ユーウは、セリアを連れて転移した。







「ここは?」

「浮き島の外部だね。あれが、相手のいる場所さ。混然としているね。チャンスだ」

「ああ」


 ユーウたちは、浮島に転移した後内部へと走り出した。街は広い。

 味方の兵は、零だ。

 セリアにとっては、理解し難い事でもない。

 無能な味方というのは、時として邪魔なだけだったりするのだから。

 内部へと進行していくユーウは、身隠しの魔術と魔甲の魔術を併用している。

 一般的に、扱いが難しい魔術だ。


 魔力量が少なくとも、技能が低くともそれらは役に立たない。

 相手も見破りの術を使えるのだから。

 敵の島は、相手の放った隕石で大混乱だ。

 防いだのであろうが、その損害は並ではない。

 むしろ、街が残っているのが不思議なくらいだった。

 そうした合間をぬって、内部へと侵入するのも普通では上手くいかない。

 中央にある建物にも、結界が張ってあるのだ。


 そこにいる有翼人たちの中に、一際魔力が高い者がいる。

 それに目がけて真っ直ぐに向かう。

 道中で、少なくない見張りを仕留めている。

 赤子の手を捻るようなものだ。


「ちょっと。セリア、手加減しようよ」

「何を言っている。ここは、敵地だぞ」


 戦闘中は、ユーウと念話が多い。口で喋っていても分からない為だ。

 同時に、まいったという事もこれで行わなければ、拘束など外してもらえない。

 先ほども、ユーウの技で脚がとれてしまう程のダメージを受けた。

 もう、回復しているとはいえ、だ。

 

「あれかなあ。普通の人っぽいけど。護衛付きかあ」


 見れば、祭壇のような場所。そこの前には、無傷であるアルカディアの首都が映っている。

 ほろすくりーんと言うらしい。理屈は、全くわからない。

 空中に映し出される画面はわかりやすいのだが。

 それの横に、浮き島の惨状もある。中々に魔術の進んだ様子が見て取れた。男は、息を荒げていた。吹き飛ばす為の隕石が自分たちの方へと向かって来れば当然、防ぐ以外にない。これだけの質量と移動させるとなれば、より難しい。大規模魔術を使った後であれば、それは一層難しくなる。

 とはいえ、捕虜にするも殺すもユーウ次第だ。


「どうするのだ」

「どうするも、こうするも。これするしかないよ」


 ユーウは、首を切る仕草をした。つまり、殺せという事だ。

 女に容赦してしまうユーウだが、男であれば捕虜にする事もほぼない。

 相変わらずの変態だ。護衛が問題だが、相手になりそうなの者は一人。

 相手は、一人である。前後で挟めば、楽に仕留められるだろう。


「私が右から」

「わかったよ」


 セリアが、右斜め後ろに位置取りをして突っ込む。護衛は、ついでに吹き飛ばす。

 護衛は、塵芥のように弾けた。

 黒いローブ姿の男は、未だに気づいた風はなく。

 振り返る間もなく、そのままセリアの攻撃が突き刺さった。

 上半身と下半身が、二つに弾け飛ぶ。

 

 魔術による障壁を感知したが、セリアには魔食いの能力もある。

 魔力を食うというのが、これの基本的な能力だ。上手く使えば、万能の力を発揮する。

 らしい。ユーウの言う事である。

 魔力による防壁を打ち破るのは、これによる所が大きい。

 大抵の相手は、紙ほどの厚さもなかったりする。

 対象からは、悲鳴すらない。敵の首魁と思しき相手は、あっさり死んでしまった。

 

 ―――これだから、困る。


 転移門を使ったとはいえ、はるばるやってきたというのに時間の無駄だった。

 セリアは、時間の無駄が嫌いである。一秒でも腹筋なりを鍛えていた方がよい。

 ユーウのように腹筋を鍛えなければならないのだ。


「弱いな。これから、どうするのだ」

「暫く、様子を見てからかな。再生とか復活とかできるようだと、厄介だし」


 ユーウは、念をいれている様子だ。セリアとしては、浮き島ごと破壊してしまう方が手っ取り早い。

 そう考えているのだが、有翼人たちをまとめて殲滅する事には反対らしい。

 ユーウは、二つに分かれた相手と護衛の死体をそのまま箱に入れる。

 奇妙な黒い霧のように、それは生まれる。中には、色々な物が詰まっているのだ。

 セリアは、そこに手を突っ込んでみたいとは思わない。


 何しろ、怖気が走るのだ。そこから来る気配とでも言うべき物は、強烈の一言。

 一体何が入っているのか。底知れない物がある。

 物陰に隠れて、仕留めた男の立っていた場所を監視する事に。


「暇だな」

「僕は、暇じゃないんだけど。セリアも手伝ってよ。訓練に付き合っているんだしさ」

「ふっ。断る」

「ちぇ。まあ、めんどくさいけどさ。あ、王子さま発見。ふむふむ」

「お前。遠見の魔術を乱用していると、相手にも気づかれるんじゃないのか」


 ユーウは、指を振る。


「元が遠いと、相手にも気づかれない物さ」

「なるほど」


 元、というのは覗き見る場所の事だ。部屋などの狭い場所を見る場合、気づかれやすい。

 そういう事なのだろう。ユーウの使う魔術は、セリアの常識を壊す物が多い。

 飛行魔術にしてもそうだ。獣人の中でも、翼を背に生やす者以外で空を飛べる者はいない。

 ましてや、魔術を良く使う者もまたいない。

 ユーウが、セリアに飛行魔術を教えた時には酷い物であった。

 飛ぶという感覚に慣れない。

 

 地を疾走する事には慣れているのだが、空を駆けるというのは未知の領域で。セリアは、何度も墜落して地面に大穴を作った。おかげで、大分ユーウに叱られたが、その甲斐もあって空に上がれるようになった。というのも、ユーウが空から攻撃すると、セリアは全くの無力だったのだ。炎の鞭や岩を使った打撃。それらを十全に使いこなす彼の攻撃は熾烈を極める。魔力の鎧も使えるようになっていたセリアでも耐えきれない程だ。そこで、セリアは決断した。空くらい飛べなければ、勝てないと。


 セリアくらいの物だ。肉体を限界まで強化し、魔術で強化し、変態までやってのける者は。

 アルを別にすれば、アドルが及第点。

 ロシナは、物理も今一つでエリアスやフィナルは魔術による強化だ。

 ユーウは、水晶玉を使いながら何者かと会話をしている。

 

 見ると、シグルスであった。 

 シグルスの家は、巨大な家門だ。総兵力は、三十万とも五十万とも噂される。

 セリアの国に攻め入ったのですら、その一部であると。

 アルカディアに攻め込んでいる戦力の殆どが、今やその父の配下であった。

 シグルスは、明らかにユーウに対して好意的だ。それが、セリアには気にくわない。


 ユーウを攫ってどこかで、暮らすというのもいいだろう。それくらいに考えている。

 が、現実は無惨だ。セリアでは、今の処ではあるが且つ目途が立たない。

 寝込みを襲った事もある。そうした所、蓑虫状態で一日吊るされた。

 修行が、一日遅れればそれだけ目標に遅れる。


「むっ。誰か来たようだぞ」

「ああ。ほっとくといいよ。手出し無用だよ」


 やってきたのは、妙齢の女性だ。金の髪を腰まで垂らし、白い布で出来た服を着ている。

 腰は、きゅっとしまり胸は大きい。セリアの母には、負けるが。

 セリアにはよくわからないが、男たちはその脂肪が大好きだ。と、アルは言う。

 胸を触ってみると、起伏も何もない。


 番である筈のユーウが、勝手に他の雌に言い寄られるのは面白くなかった。

 なので、マーキングをしておこうと思うのだが、これまた上手くいかない。

 顔を舐めたり、色々あるのだ。犬っぽいと苦情があって、それっきりである。

 監視をするセリアの前では、女性が辺りを見ている。


 居なくなった男の行方を捜しているのだろう。勿論、見つかる筈もない。

 

「再生する様子も無し。魔力の残滓も感知できないし。肉体は、確保済。任務完了かな」

「他愛もない。私だけで十分だったのではないか」

「いやいや、セリアだとねえ。君、この島ごと破壊しようとするでしょ。これが、地面に落ちたらどれだけの被害になると思うの。というわけで、駄目だからね」


 ユーウがいうので、止めるしかない。

 セリアにとっては、目の上に出来た腫れ物のような相手である。

 何故なら、空を飛べる味方というのは少ない。空中を飛ぶ兵種は、少ないのだ。

 殆どが、徒歩であるからして味方にとっては強敵にしかならない。

 

 敵は、すぐさま抹殺しておくというのがセリアの信条でもある。

 エリアスやフィナルを抹殺しないのは、それがユーウにとって不利益だからだ。

 なんでも抹殺すればいいという物ではない。複雑に絡み合う利害関係は、ぐちゃぐちゃだった。

 ユーウが、魔術で強化したぱんつという物を履けというので履くのだが、これがまた窮屈だ。

 セリアの気分は、退屈に窮屈が乗っかかっている。

 下着など、履くものではない。しかし、履かないと訓練をしてもらえないのだった。

 ぶらうすというのも、面倒だ。こちらの方は、もっと千切れてどこかへいってしまう。


「それでは、さっさと帰るか」

「うん。そうしようか」


 セリアは、勿体ないと拳を握る。島の中心部まで打ち抜くのも出来ない芸当では、ないのだ。

 転移門を作るユーウの後ろに続いた。









 帰ったユーウとセリアを出迎えたのは、ロシナとアルだ。

 どういう経緯なのかは、わからない。だが、二人そろって木の下で待っていた。

 凍りつく程の寒さだというのに。


「よっ」

「あれ、ロシナは首都の治安維持じゃないのかな」

「話が、あるからな。それで、来たんだ」


 ユーウは、気候制御の魔術を発動させる。

 これによって、稲作を可能とせしめた。あまり弄ると、とんでもないしっぺ返しがくる。

 そういう代物だというのがわかるのは、害虫の大量発生だったりした。


 空間魔術が大部分を占めるユーウの魔術。その中で、枝別れしているのがこの気候制御だ。

 エリアスが、ユーウを特にこき使うのがこれであったりする。

 雨が降らなければ、降らせるように。雪が降り過ぎれば、降らないように。

 おかげで、ユーウはエアコン等もいらない。ロシナが、椅子に座りながら口火を切った。


「どこからかなあ。そうだ、アルカディアに攻め入る理由からか。二つ目な。これは、まあユーウには実感がないだろうけど。昔から、ミッドガルドは魔物だらけの国だったんだ。王都の周辺も魔物だらけで、耕作地が乏しかった。で、アルカディアにちょっかいを仕掛けては食料を分捕るみたいな真似をしていたりしてな。東には、強国であるハイランドがあるし。元々我が国と同じ王族が治めていたんだけれどなあ。分離独立させちゃって、もう食料事情は悪化の一途ってわけさ。で、ここ近年ではシグルス様んとこが戦争を吹っ掛け始めた。獅子国は素直にこっちについたけど」

「うーん。もうそれどころじゃないよ」

「それどころじゃないって、お前。もしかして、セリアとアル様の事か?」


 木製のコップに、牛乳を注ぐ。牛の放牧は、手を焼く。

 農家は、相当に貧しいのだ。日本のようにはいかない。知識も受け継がれていくものなのであるから。

 ホットミルクを作るのも魔術無しでは一苦労だ。

 もっとも、そういった労を厭うユーウではない。妹の為に、万難を排していく予定である。


 痩せた土地に、肥料を導入するのも学生たちの手伝いがなければそう上手くいかなかっただろう。

 数年もしない内に、ユーウがやろうとしていた事は潰えていた可能性もあった。

 だが、


「どうしたらいいんだろうね」

「困ったもんだよな。一番の問題は、攻撃力に服が耐えきれないのが問題だろ? 闘気を纏うと、見えなくなるけど。それじゃ、駄目なのか?」

「それもあるんだけど……」


 魔術で編んだブラウス。これも、中々強靭なのだが持たない。

 ユーウは、牛乳を口にする。喉越しは、どろりとしていた。まるで、ヨーグルトのようである。

 それは、そうとして。ユーウは、アルとセリアがじゃれあっているのを眺めた。

 そう、アルは女だった。口から声が勝手に出る事はないけれど、ユーウは叫びそうになる。

 

「よくも、僕を騙してくれたよねえ」

「俺か? 俺は、あれから頑張っているぜ。学校だって、不祥事を起こす奴はいない」

「そういう事じゃないんだよ」

「じゃあ、どういう事なんだ」


 コーネリアは、ロシナの横に座り優雅に茶を嗜む。

 アルカディアには、紅茶があった。輸入されたという代物で、庶民には手が出ない程の高値だ。

 他にも、コーヒーであったり、チョコレートの原料であったり色々な物がある。


「アル様が、女だっていったらロシナは信じるかい?」

「ははは、またまた冗談を……まじで?」


 手を振って、有りえないという仕草をする。しかし、ユーウの顔を見て真顔を作るロシナ。


「冗談は、嫌いですよ。僕も信じらないんだけど」

「お、おう。で、この話は、他の奴には言ったのか?」

「いえ。言ってないけどさ。ロシナに相談してみるかなって」

「おう。そ、そうだな。これは、大問題だぜ。だ、だけど俺も信じられねえよ。アル様が女だなんて」


 アルをまじまじと見る。ロシナにしても、信じられない様子だ。

 無論それと聞いてみる勇気もない。本人が男だというなら、そうと信じるしかないが。

 物がない以上、ユーウにしてみれば女だ。それ以上を確かめる勇気がなかった。


「という訳で、協力してよ」

「ああ、公衆の面前で全裸になる事か。あれは、将来恥ずかしい事になるだろうしな」

「そうだよ。まさに、黒歴史だよ。いや、正常な判断力を取り戻したら自殺しかねないね。僕なら」

「まあ、ふるちんでも男ならな。いや、よかねえけど」


 ギャグ漫画等も会話できる男は、ロシナくらいしかいない。

 パンツだけで、悪党を成敗する話で盛り上がれるのもロシナだけだった。

 それで、意を決したユーウは、アルに尋ねた。


「あのう。アル様」

「なんだ。私は、雪で遊ぶので忙しいのだが?」

「それは、失礼しました」

「まあ、いい。何か聞きたそうだな」

「はあ、その。アル様は、いつから全裸に抵抗が無くなったんですか」


 アルは、いきなり雪玉に突っ伏した。


「な、何を言っているのだ。お前は」

「いえ、この間あったじゃないですか。全裸で戦っても平気だ、みたいな」

「お、お前。それ、誰が言っていた?」

「アル様ですよ」


 アルは、雪玉を抱えて投げた。当たったのは、セリアである。

 彼女は、雪だるまになった。


「あのな。それは……一体、どういう話なんだ。詳しく話せ」

「では」


 ユーウは、アルに話をする。アルは、転がり回りだした。

 顔は、火を噴くかのよう。熟れたトマトのように赤くなっている。

 

「お、お前。それは、誰にも言っていないのか? それと、見ていた奴は?」

「セリアと、他はベルティン様とその隊くらいでしょうか」

「ふ、ふふふ。あの馬鹿、ぶっ殺す」

「え、えっと。大丈夫ですか。落ち着いてください」


 暴れ回らないだけましだった。今日のアルは、常識が通じる相手だ。

 しかし、憤慨するアルの剣幕にはユーウもたじたじだ。

 アルに紅茶を進めると、それを静かに飲む。

 そして、


「この事は、他言無用だぞ」

「それは、もちろんです」

「それと、ロシナ。話は、したのか?」

「まだ、です。きり出しにくいんですよ」


 ユーウの隣には、アルが座っている。対面する恰好でロシナが腰かけていた。

 腕を付いて、顎に手を付く。


「うーんとな、学校の件なんだけどな。あれ以上に元日本人を優遇する訳にはいかなくなった」

「よくわからないんですけれど、どうしてですか」

「どうしたもこうしたもないだろ」

 

 ユーウの家に建てられたテラスで、ロシナとユーウはアルの話を聞いていた。

 次第に、ユーウの眉の間には皺ができる。

 

「僕が、売国奴って冗談でも酷い話ですよ」

「気持ちは、わかる。しかし、他の貴族たちから見れば恰好の的だ。どうにも、お前が売国奴だという声が日増しに強くなっていてな。ほれ、あやつらは元々外国人だったろ。今は、我が国の国民になっているがな。それで、ユーウがあいつらばかりを優遇するのは、おかしいといいだしているのだ。それで、国を売る国賊ではないのか。というような噂が一人歩きしているのが現状だ。あえて、厚遇を止める必要性も無いと私は判断しているのだが……ロシナ」

「はい。ユーウ、先に言っておく。生活保護なんて、この国にはないからな」


 そうなのである。現状のミッドガルドには、貧困対策がほぼない。

 あるのは、孤児院くらいの物だ。道端に、乞食が居たとしても次の日には奴隷商人に売り飛ばされているだろう。それくらい、生きていくには厳しい。放っておけば、日本人は餓死してしまうか野垂れ死にを選んでしまうだろう。放っておける筈がなかった。「おにぎりが食べたい」といって餓死させるようでは、無能の極みだろう。だから、


「ですが……無いならば、作ればいいのでは?」

「それだ」


 ―――何とかしたい。

 ユーウの意見に、アルが言い咎める。ユーウが厚遇する理由を他の貴族たちに理解できないでいた。

 その辺りをユーウも貴族たちに工作する必要がある。というような話だ。

 ロシナが話を繋ぐ。


「次期尚早だっていう話だよ。貴族たちをまとめて相手するには、ひとまずアルカディアでの戦争を終わらせないといけないってこった。それくらい、難しいかじ取りを迫られているんだ。だから、国民になったからといって元外人を優遇するのは先に延ばせ。出ないと、貴族どもが暗殺者を放ちかねない。ユーウだって、家族と他の全てを同時に守りながら、そいつらの相手をするには無理があるだろう? 作ったとしても生活保護は、自国民が先だ」

「……」


 ユーウも、まるで気が付かなかった訳ではない。外国人を優遇するのは、おかしい。

 それくらいは、ユーウにだって理解できる。そして、生活保護を与えるのも。

 しかし、一旦自国民にしてしまえば優遇するのに問題はないと考えていたのである。

 朝鮮人のように、敵国である日本にいながらにして生活保護を受けるという訳でもないのだし。


 そうして、気持ちが先走った状態で、自らの危地に気が付かなかった。

 宮廷では、売国奴というレッテルが張られようとしている。

 内心でも涙目になりながらも、頷くしかなかった。


「話を変えるか。今日は、色々あるのだ。一つは、お前が確保した王女様だがこちらで預かる事になった。一応、婚約者という事になる見通しだ。幼い王女だけに、判断力も糞もないが使い道には困らないからな。それで、ここにも遊びに来させ……」

「お断りします」

「速すぎるだろ。おい、王女だぞ? 王女様だよ? 大変な名誉だろ」


 ロシナは、美味い話を持ってきたつもりのようである。

 重荷が増えるのは、困った話だ。という事は、あまり彼にとって考えの及ばない事で。


「……でも、お断りです」

「なんでだよ。こさせていいだろう。それとも、何か? 私にいじわるがしたいだけなのか?」

「うーん。ですが、これ以上大きな家に改装していくと広すぎるんですよ」


 そんなつもりもないとユーウは、手を振る。

 ユーウは、どんどん広くなっていく家に困りはてていた。

 両親の部屋。妹と弟たちの部屋。使用人の部屋。客の部屋。

 それらに加えて、各種の生産用に使用する部屋。設備の部屋を入れて、広がる一方だ。


 セリアは、雪だるまを作って遊んでいる。部屋の中から見ていただけの妹たちも一緒になっていた。

 ユーウは、餅を取り出し、焼いていく。醤油をかけるだけで良い匂いがする。


「どうぞ」

「うむ」


 アルが、餅を頬張る。焼き餅は、好評であった。毎日食わせろと五月蠅いくらいだ。

 

「しょうがありません。受け入れてもいいですけれど、その待遇とかは余り良くありませんよ?」

「ああ。それなら、ここの施設は王侯貴族以上の代物が揃っている。問題ない」

「え?」


 額に手を当てるロシナは、何を言ってるんだこいつ。というような視線をユーウに向けた。


「おいおい。もしかして、もしかすると。自分で作った浴場とか、道具の数々がどこよりも優れているとか理解していなかったりするのか? 良く考えろよ。普通に考えても、中流階級以上だぜ? 日本人の感性ってやつを引きずっているから困ったもんだわ」


 浴場が狭くなったので、改築した。それだけのつもりだったが、漫画風に作り変えてしまっている。

 湯船も大理石をふんだんに使ったつるつるの物に。金があればこそ出来る設備だ。

 狭い温泉という風な出来具合だったりする。湯を注ぐ口が獅子の飾りであったり、女神像であったり。

 妹の為だけに作ったそれは、家族にも大変評判がいい。

 勿論、使用人用にも別個で作っている。ちょっとやり過ぎた。それくらいの感覚であった。


「それは」

「ともかく、明日からお前の所にオフィーリア王女をやる。よくもてなすように。あと、手を出すなよ? お前は、直ぐ手を出すと噂になっているのだからな」

「御冗談を」

「ふん。どうだか。あと、またしたら……私に言って来い」


 アルは、別にアルがいる。「見分けがつかないだろうが」という事を話した。

 でなければ、ユーウに納得させるのも難しいと判断したのだろう。

 ユーウもまた、別にいるアルの全裸属性がどこからきたのか疑問だった。

 なので、聞く。


「その、あれはどうしてなのでしょうか」

「わからん。が、学校に置いてあった日本の漫画を読み出してからおかしくなった。パンツ一枚で戦う漫画だ。相当、面白いらしい。理解が出来るが、真似は止めて欲しいものだ。私は、奇妙な冒険の方が好きだが。特に、無駄ぁがいい。後は、最近遠見の魔術を使っているだろう? 貴様、見ているな? とかしてやりたくなるな」


 びくっと、ユーウはなった。アルの様子を見ているのが、ばれていたのだ。

 遠くから見ている以上、気づかれない。という風に考えていたのだが、駄目のようだ。


「恐れ入ります」


 ふん、とアルが鼻を鳴らす。ともあれ、売国奴のレッテルだけは避けなければならない。

 ロシナは、餅を食うのにかかりきりだ。

 ルナとシャルロッテにセリアが一緒になって、かまくらを作っている。

 城を作るのは、弟たちだ。ほのぼのとした日常が、そこにはある。

 ユーウは、思考の海に飲まれていった。ユーウのもやもやは溜まる一方だ。


 

雪、大変ですよね。見ている分には、綺麗ですが。

電気も燃料も値上がりすると大変です。

原発がだめだから、火力で。という風には、いけない。

ファンタジーだと、楽に解決できてしまえますけれど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ