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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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6話 学校の暗がり2

 吹きすさぶ風が冬の厳しさを伝えてくるようだ。

 校庭を木枯らしが転がっている。一人の少年が、手に引きずっている様をロシナは見る。


「あいつと俺の関係ですか? そうですね。友達というか同僚ですよ。あ、歳は一個下です。ああ見えて、短気だから気をつけてください」

「そ、そうみたいでござる」


 ユーウが、強姦したという生徒の襟首を掴んで連行していた。

 顔面は、土が波打ったような形状だ。

 もう原型を留めていないので、彼の末路は決まったような物だろう。

 ロシナは、配下を連れて校内に戻ろうとするところだった。

 山田が、疑問の声を上げる。


「裁判抜きで、このような事をやっていいのでござるか?」

「普通は、裁判が開かれて処分が決まるのです。あれ、違法ですからね。真似しないでください。ただ、彼は視線から魔術で相手の視覚を再現できるのです。これ、ちょっとした秘術の部類なのですが。山田さんは黙って置いてくださいね」


 何時だっただろうか。

 ロシナがそれに気がついたのは。恐ろしく強力な魔術だった。

 視線から相手の脳味噌を覗き見るという。

 その術の前では、沈黙も無意味。

 効力は、ビデオ映像のように映し出すという奴で、誰にでも理解できる。


 だが、そんな事は山田にとって理解しがたい事なのであろう。


「なんとも中世のようでござる」

「いえ、もっと酷いとも言えますよ。王の意向が絶対ですから、古代とも言えますね。裁判の結果が覆るなんて事はざらにあったりしますし。ただ、重要な案件というよりはユーウの奴が出くわした事件はほぼ百パーセント解決されてしまいます。なので、治安の良さはうなぎのぼりですよ。反比例して、地方の治安が悪化してたりしますけど」


 それでは意味がないのだが、といって無策という訳でもない。

 ここに、騎士を派遣してきたのも犯罪に対処する為だ。

 多くの騎士が、兵士を連れて森の中を巡回している。

 学校の校舎の中にも、兵士が配置されており犯罪に目を光らせているのだがそれでも起きた。


 魔術による監視の目を光らせたいのであるが、そこはここにいる陰陽師たちの意向に沿わない。

 鳳凰院という家が、問題だった。

 彼を排除するという手も考えに浮かぶのである。

 だが、それにはアルの怒りが降り注ぐだろう。

 従って、ロシナが採れる方法は精々人員の増加くらいだった。


「はあぁああ?」


 いきなり、山田が奇声を上げる。

 その視線を追っていくと、ユーウがセリアと戦闘していた。

 相変わらずであった。


「あ、あれは一体?」

「何時もの事ですよ」

「あの、あの女の子。血塗れに、どんどん成っていくんですけど? 大丈夫なのでござろうか」

「それも何時もの事です」


 狼藉者を片手に掴んでいたユーウは、既にそれを持っていない。

 影からの奇襲だったのだろう。

 ユーウのローブが、股間の方から裂けていた。

 両者は、技も術も使いたい放題だ。

 ただ、ユーウは手加減をしている。セリアの方は常に全力なのだが。


 セリアの貫手がユーウの手に弾かれる度に、魔力光が走る。

 並の兵士であれば易々と肉塊に変えるであろうそれ。

 一撃毎に火花のように、それが舞う光景は蝶が飛んでいるようでもある。

 セリアは、ユーウの打撃を貰っては、転がりうつ伏せになっていた。

 そろそろ獣化してもおかしくないダメージだ。身体の皮が剥がれ、真っ赤な筋肉が見えている。

 が、校庭では派手なパフォーマンスが行われていると思ったのか。

 見物人が増えつつある。状況は、ユーウの優勢のようだが。


「あれ、そのあんなのが普通なのでござるか」

「いえ」

「そ、そうでござるよね」


 語尾がおかしい。山田の顔は、のへっとしたような物だ。

 ユーウの放つ牽制。火炎弾の塊をかいくぐって接近するセリアは必死の形相になる。

 受ければ、火達磨になる事は間違いなしだ。

 セリアの魔力抵抗が高いとはいえ、ユーウの放つ火炎弾の浸食率は格段に高い。

 何時もの彼女であれば、ここで押しきられるのだが。今日は違うようである。

 ボール大に調整された玉を受けた少女の手からは、それが何事も無いように消えていく。


「あれは……」

「火の玉が消えたでござる」


 暴食の権能だ。恐らくだが。

 ロシナが推測するのは、魔術的な物を吸収する能力をガルムの一族が持っていると聞いているからで。

 防御結界のような魔術をセリアが使えるとは聞いていない。

 毎回本気の様相で訓練が行われるのだが、今日もまた少し違う様子だ。


 狼国の王族は、代々フェンリルの名を受け継ぐに相応しい能力を持つと言われる。

 初代からずっと最強と謳われてきた。

 その彼女が、玩具のように遊ばれている。屈辱感たるや相当なものだろう。

 顎から汗が滴り、セリアは歯を噛みしめている。

 

 攻撃の合間を経て、交差するように両者が入れ違う。

 次の瞬間に、両の手を合わせて駆け抜けたセリアが鳩尾に打撃を受けうずくまるのを眺める。

 セリアの敗北だった。躱すと同時にセリアの脇腹に、ユーウの膝が刺さっていた。

 尻を上げたままの恰好で、あるが周りからは失笑の声もでない。


「皆さん、あれですね。真剣な顔でござる」

「ええ。あれを馬鹿にする奴は、半殺しでは済みません」


 雑魚が笑うなど許せる筈がない。

 沈黙するのは、ロシナがかつて行った制裁の為だ。

 崩れ落ちた格好は無様。だが、あれを嗤うなど許せるものではなかった。

 剣を構えるロシナが、校庭で膝枕の恰好をしてセリアに回復魔術をかけるユーウに歩みを寄せる。

 セリアの血でユーウもまた血塗れ状態。子供の喧嘩とはとても言い難い。


「あー、こほん。今日も調子がいいみたいだな。俺も勝負をしたいのだけどさ」

「いいですけど、ちょっと待ってください。真剣ですか?」

「そのつもり」

「わかりました。ただ、セリアをちょっと移動させますね」


 膝の上でセリアの回復魔術を施していたユーウが、浮かぶ板に華奢な女の子を乗せる。

 それは、静かにガーフの元へと移動していく。

 ロシナは、正眼の構えを取る。本気も本気。

 対するユーウも、黒い靄から剣を取り出した。


「いいですか?」

「ああ、何時でもいける」


 隙は、ある。ロシナと対峙したユーウは、最初から隙だらけであった。

 だというのに、ロシナは動けなかった。

 打ち込もうとすれば、手首を切り落とされるかはたまた強かに打ち据えられる。


 かといって、上段に移行しようにもした瞬間胴を抜かれかねない。

 とはいえ、時間が経つ程にロシナは不利になっていく。

 奥の手は、何時でも発動できる。

 劣化した防御スキルなのだが、ユーウにしてみれば欲しいスキルらしい。

 相手は魔術師で、剣が使えるといっても馬鹿正直に剣だけとは限らないのだから。

 ロシナが躊躇っていると、ユーウの姿が霞のように掻き消える。


「ロシナ様っ」

「ぐっ」


 ガーフの声だ。ロシナは、一瞬たりとてユーウから目を離した覚えはない。

 しかし、背後から組み付かれている。

 この技。


「まさか、コブラツイスト? 決まっていますな。まるで、消えたように見えたのでござる」


 山田の声が聞こえるが、返事を返すどころではなかった。

 左に回り込もうとするユーウの残像だけは見えたが、足は大地に縫い止められるように動かない。

 ロシナの足には、魔術がかけられている。

 アダマンタイトと呼ばれる金属片で組まれたブーツで、対物理では相当な防御力を誇る。

 だが、それも状態変化系の魔術には意味がない。

 

 魔術抵抗も低くはないのだが、ユーウの魔術には抗しきれなかった。

 

「そろそろ降参しますか?」

「ま、まだだ。うおおおぉ」


 全身に力を込めるが、万力のようにしまっていく。

 完全に決まってしまって、後はねじ切られるだけだろう。

 ロシナは、堪えていたがロングソードがポロリと手から落ちてしまった。


「はい、終了です」

「くそ。また、負けか。ありがとう」

「いえ、それではまた」


 ユーウは、ルナたちと共に犯罪者を連行して校外へと移動していく。

 転移門を余人に見せないようにする為であろうか。

 ロシナは、痺れる手で剣を拾うと腰に収めた。

 セリアといえば、ガーフに見守られながら未だに寝ている。

 

 内臓を根こそぎ破壊されている可能性があった。

 彼女は、回復魔術を必要としない回復力の持ち主で、人に見られるのは嫌がる。

 ユーウの回復魔術と相まって、傷は塞がっている様子だ。

 セリアを眺めるロシナ。そこに山田が声をかけてきた。


「ユーウ殿。強いのですな」

「ええ。俺も勝てませんし、他の奴でも一緒でしょう」


 セリアは、もちろんロシナでもここにいる騎士たちをまとめて相手にできる。

 殺せと言われれば、できる。しかし、やらないし。命令したりする人間もいないが。

 同僚である彼女を馬鹿にされれば、頭に来るのは当然だった。

 勝てもしないのに、外野でぶつぶつと言う人間に黙って居られるほどロシナは人間が出来ていない。


 ロシナは、そこでポンっと手を叩く。


「そうでした、忘れる所でしたよ。今日は、色々とお話があるのです」

「何の用でござるか」

「学校側にですが、お話がありましてね。一つは、騎士団員の募集です」

「む。それは一体どういう流れでござるのか」


 滔々と説明していくロシナ。校舎外に設置された騎士の詰所で話をする。

 巡回する騎士と兵士以外は、大抵がここに詰めていた。

 

「まずは、騎士団員見習いとなり働いて貰います。その後従騎士となり、騎士として採用される恰好です」

「質問でござる」

「はい。なんでしょうか」

「ロシナ殿は、何歳なのでござる?」


 腕組みをするとロシナは、コップに注がれた水を飲む。

 実に応えずらい質問を繰り出してきた。「ここで幼稚園児ですが何か?」と答えるのは簡単なのだが、それでは見縊られてしまう可能性がある。しかも、今のいままで普通に話をしてきたのだ。あっさりと認識が覆っては堪らない。


「見た目通りです。が、中身は二十より上と思ってください」

「ぶっ」


 差し出された木のコップ。その水を飲んで吹き出した。

 顔にかかるそれを布で拭きながら、ロシナは話を続ける。

 中世同様ペイジ、つまり騎士見習いの事であるが大体は七歳頃までに奉公しなければならない。ロシナの年齢で、初めて見習いになるのだ。従騎士(エクスワイヤ)と言えば、十四歳前後で成れるがこちらは盾や槍持ちといった風である。戦場に出る騎士(ナイト)というと十七から二十で叙任される。


 ロシナはどうか。まるで、年齢が当てはまらない。

 冒険者であれば、迷宮に潜ったりする事はあっても戦場に担ぎ出されるのも稀。

 体格がすごぶるよく、年齢を間違えられる事の多いロシナだからこれが通った。

 貴族の子とはいえ幼年の身で、騎士に取りたてられたのも訳があっての事なのである。


「ふむふむ。ロシナ殿も大変なのですな」

「ま、好きでやっていますから。それよりも気をつけてください。この国は不敬罪がありますから」

「日本とは、違うのでござるな。早速、皆に教えなければなりませんわ」


 山田は、先程からメモをとっている。

 学校のPCを使って記事を作成しようというのだろう。

 プリンターの存在を知るロシナにとっては、是が非でも手に入れたい物だ。

 ユーウとも相談しなければならない。

 手書きで文章を作る煩雑さといえば、大変な物がある。

 ただ、文字を日本語からゲルマ語へと変換する必要があるのだが。


「一通り、分かってもらえましたか」

「了解でござる。ただ、騎士団員の募集が上手く行くかどうか不明でござるが」

「それについては、問題ないと考えています。何しろ、メリット多いですからね。普通に就職口を探しても、ここでは中々。警察に就職してもらう物と思って結構ですよ。ただ、日本と違うのは戦場に出るかでないかです。では、農民や市民でなら安心かといえばそうでもない。という事は、ここの近くにある村を見て理解出来たと思います」


 そう。たまたま、山田たちが攻めた村のゴブリンが弱かった。

 マジシャンやジェネラル級といったグレードの高いゴブリンが居なかった。

 幸運だった。後で調べた結果、そのように判断している。

 ナイト級が多数いれば、結果は逆転しているだろう。

 加えて、現在森を探索中の騎士団からは良くない報告を受けている。

 が。


「それ程、強いとは思えなかったでござるが。もっと、強烈なモンスターがいるのでござろうか」

「そうですね。犠牲者がでなければ、認識できないのが日本人の悪い所ですね」

「やはり、ドラゴンとか?」

「そこまではいきません。ですが、オークの群れなどに襲われれば学校にいる騎士たちでも苦戦するでしょう」


 何分人手が足りない。騎士として戦死してしまう人間も少なくなく。

 品行方正な人間はどれだけいてもいいのだ。

 という事で、積極的に学生を勧誘する方針だった。

 と、視線を山田の後ろに向ける。

 狼耳を立てた少女がきょろきょろしていた。

 悶絶していたセリアが回復したようである。


「ロシナ」

「何ですか?」

「ユーウは何処にいった」

「ここにはいません。帰ったのではないですか?」

「マーキングが取られていてな。戻るしかないか。邪魔したな」


 まだ頑張るんですか。と、声をかける間もなく影に姿を消した。

 頑張り屋の彼女の事。まだ、挑むつもりのようだ。


「彼女、まだやるつもりなのでござるか」

「そうみたいです。諦めが悪いというしかありませんが、本当に挫けない人ですよ」


 ロシナだったら、心が折れる。あれほど、負けていてはそう何度も挑めない。

 といっても挑んでいるのは、同じだった。おかげで、胴回りがすっきりしてしまっている。

 どうにも不思議なのは、アルだ。甘い気がするのはロシナだけではない筈。

 エリアスといいフィナルといいユーウに積極的なのを黙認している節がある。

 普通ならば、自分のハーレムに入ってきた男など追い出してしまう物だ。

 ホモなのかもしれない。と、ロシナは尻を押さえる。


「と、彼女の事は置いておいて俺たちは森の見回りに向かうのですが宜しいですか」

 






 ロシナたちが向かったのは、学校の外にある村だった。騎士を含む五百程の隊だ。

 鳳凰院を含め山田に美上といった面子が揃っている。

 情報では、森に不穏な気配があるという。

 村が滅んだ原因を追究するには、早計というものだった。


 ユーウの手を借りられればすぐに解決するのかもしれなかったが、それではロシナの面子に関わる。

 投入された騎士団も赤の大剣の団員が殆ど。

 ロシナの係累が団長をやり、父もまた軍の高官として勤務している。

 父は、アルの進める王家の接収には反対の立場だ。

 ロシナとしては、それに文句を言えない。


 そういった事も、単独での任務に拘るようになった経緯がある。

 一人で任務を果たしてみせろというのだ。喧嘩をするには、まだまだ発言力が弱い。


「ふー。どうすっかね。ガーフ、何か意見はないか」

「そうですな。五人で一組のパーティーを組ませ、探索班を構築。それを十組をほど放って見るのも手かと思われます。敵の姿がおぼろげにしか見えてきません。行方不明になっている騎士たちの数が増えているのも気掛かりです」


 森の中には得体の知れない存在がいる。

 ゴブリンとは違う何かだ。

 ロシナは、そう判断して騎士団から選りすぐりの精鋭を連れてきた。

 といっても、ユーウに比べれば雑魚もいいとこである。

 頼めば、すぐにも動いてくれるだろうがそれでは無能だと言うような物。


「殺害された兵士の状態は?」

「酷い有様ですな。オーガに頭を割られた者や武器による攻撃を受けたと診られる者は多いのですが、何分逃げられなかったのが不思議です。つまり、相手は剛力かつ瞬発力があるとみるべきで容易ならざる敵でしょう。山狩りならぬ、森狩りを進言したいところでございます」

「ふむ。ならば、それも視野に入れて動かせる兵は全て動かそう。水も漏らさぬ布陣で頼むぞ」

「仰せのままに」


 ガーフが下知を飛ばす。

 増援を頼む事になるが、全くロシナには恥じ入る所はない。

 下手に少数で敵と相対した結果、敗北するような事になる方が悪いのだ。

 最大多数で以って少数を殲滅するのが軍事的に正しい。

 エリアスのような魔術師に依頼をかけるのも手だ。


 森の中で逃げ回る相手を正確に捕捉するには、レーダーのような物があればいいのだが贅沢は言えないだろう。ロシナが活用するのは、携帯だ。二人共に、横を馬に跨りながら前を向いたまま尋ねる。


「いいですか。山田さん」

「はい、索敵班から連絡はありませんお。しかし、これはお尻が痛いでござる」

「でしょうねえ。鞍に鐙ができたのも最近の話ですし」


 騎士団には、鐙が配給されるようになってきた。

 それもこれもユーウが調達してきている。

 職人が尊敬されるように色々と手を考えているようだ。

 ロシナも真似をして、領内の改革に乗り出したのだが悪い部分ばかり浮彫りになっている。

 教会の勢力が強く、領主のやりようにまで口を挟んでくるのだ。

 これならば、やはり有象無象を一掃しようというアルの意見には同意するしかない。


 視線を戻すと、山田が尻を押さえている。

 その後ろでは、相変わらずの美上に最上、御子斗といった面子がいる。

 鳳凰院の隊は、少し後ろだ。


「今日は、拙者らがいて連絡係という事でござるか?」

「その通りですよ。宜しくお願いしますね」

「役に立てれば幸いでござる」


 離れた距離で、連絡を密に取り合えるというは絶大な効果がある。

 通信連絡に、発煙筒などを使う必要もない。

 魔術師がいて、それで連絡を取り合うというやり方もあるのだが組合を通さねばならないのが難点だ。

 もちろん、ユーウがいればそれもすぐに解決できてしまうのだけれど。


 ロシナは、ホモではない。しかし、ついユーウを頼りにしてしまう点がある。

 借金まみれの騎士団を立て直すにはどうしたらいいのか頼ってしまったり。

 財政収支が破たんしているので、倹約志向でいくしかないと判断されたり。

 それで、任務を増やして増収を狙っていくしかないと勤労の精神を育もうをしたり。

 今回のそれもユーウが発案しての事だ。


 王都から離れる為に、向こうから娼婦を隊ごとに雇ったりしたのも士気高揚を狙っての事。

 色々と、ユーウに世話になっているので何かをしなければならない。

 ロシナが、考え事を纏めている内に敵が網にかかった。


 向かったのは、学校から出て北の方向へと向かった場所である。

 滅んだ村とその北側にかけて相手を追い込んでいく手筈だ。

 山田を含めた日本人を囲い込む試金石でもある。

 連絡が来た方角へと軍勢を集結させていく。


「あれは?」


 山田の声で、目標を発見した。

 敵は、人だ。しかし、とんでもない剛力の持ち主のようである。

 二mを超すロシナの配下を易々と槍で貫き、その身体を投げ飛ばす。

 一緒にいるのは、オーガ。鬼のような巨躯で、配下の兵士すら怯む程だ。

 だが、ロシナの敵ではない。


「はっ」


 馬を駆り、先陣を切る。


「いかん。お前達、ロシナ様を援護しろ」


 ロシナの後ろからは、ガーフが濁声を上げる。

 駆る馬の速度に乗せて、術式を発動。同時に、スキルを上乗せすればユーウ以外には破られた事のない防御壁の出来上がりである。つっと駆け寄り馬上からのランスを見舞う。


「ふっ」


 短い吐息と共に繰り出されたそれは、巨漢の男の胴へと吸い込まれる。

 男も槍を振りかざし、ランスを払い退けようとするがそうもいかなかった。

 ロシナのランスが胸元へと突き刺さり、そのままもんどりうって倒れる。

 倒れ際に、男の眼球から光が漏れたがダメージはない。

 ロシナには、微かな熱を手に感じた位である。特殊なスキルで、よく劣化と言われるが。

 そんな事はない。とアドルに言い返す事もしばしば。

 次いでに、丸みを帯びたランスについている刃の部分でオーガたちを殴り付けた。


「ゴフッ」


 短く甲高い悲鳴を上げて、オーガたちは倒れる。

 やはり、ユーウやセリアが異常なのだ。ロシナは、自分が決して弱くない事を確認する。

 これは、そういった儀式のようなものだ。自分の部下を使うのには限度がある。

 ひょっとすると、部下が手加減しているのではないだろうか。

 等という疑念に憑りつかれない事もある。


 珠にだが。そういった訳で、一人でオーガを含む人間を倒したロシナはバイザーを上げる。

 人間を良く見れば、胴の部分からは金属のような何かが飛び出していた。

 

「これは、アンドロイドかな?」

「あんどろいどですと?」

「ああ、ガーフには分からないか」


 追いついてきたのは、ガーフと家臣たちだ。

 山田は、馬に乗れていない。おっかなびっくりで乗せられている。

 アンドロイドといったものの、それがロボットなのか判断はつかない。

 ユーウならば色々とこの場で試す事も出来たかもしれないが。

 

「ここを見ろ。この金属は、電気を帯びて光っているだろう。内部の動力源が何か気になるが」


 ロシナは、倒した男の身体にランスをどんどん突き込む。

 缶に穴を開けるような作業であった。穴だらけにした所で、手を休める。


「敵は、これだけのようではござりませんぞ」

「わかっている。女がいないからな。周辺を捜索せよ」

「ははっ」


 ガーフが、先遣隊を率いて進む。

 馬に再度乗るロシナは、最悪の展開を想像した。

 ここが、これだけで終わりではないかもしれないと。

 先ほどのような相手がごろごろしているようでは、騎士団の団員では荷が重い。

 勝てる相手と勝てない相手を見極める必要があるのだが、騎士の心得が邪魔をするのだ。

 何時ものように前進しては、敵にやられるだろう。


 加えて、女騎士が少ないとはいえ女兵士も若干ではあるが赤の大剣にも在籍している。

 彼女らがモンスターや敵に捕まった後は、陰惨を極める事になるのだ。

 ロシナも可能性がかなり高いと懸念せざるえなかった。

 前世では、男女平等と教えられてきたのだが実際はそんな事はない。


 女は力が弱く、耐久力もなく、愚かで感情的な生き物だ。

 大抵はそう。セリアやエリアスといった理性を切り離せる人間はそういない。

 男と同じように筋力があり、同じ時間を働けるかといえば疑問符しかつかないし。

 騎士団に女騎士を増やそうという話もあるが、あくまでも事務員。

 どちらかといえば、犯罪相談や護衛といった危険度の低い任務に充てる予定はある。


 追いついてきた山田たちの姿が見える。


「大丈夫ですか」

「い、いや。ちっとも大丈夫ではござりません。せ、拙者。馬に乗るのも初めてでしてええええ」

「慣れですよ。馬は、乗り手の気持ちを感じ取りますからね。落ち着いてください」


 ロシナも馬の扱いに慣れるには、大変な労苦があった。

 ユーウやセリア、アル。他の面子はことごとく馬に乗れたというのに。

 フィナルとロシナだけは転がりおちた。

 怪我はしなかったのであるが、そこからがまた荒野を進むが如しであった。


 慣れなどといってしまっても、美上や鳳凰院などは普通に乗っている。

 これが、人間性能の差という奴か。と言いいそうになるのを飲み込む。

 山田を除けば、普通にハーレム系の主人公だ。

 大分恵まれない境遇であるらしい。ロシナも一々、共感を得るのはその為かもしれない。


「どうやら、先遣隊が女性を保護したらしいでござる」

「……それは、良かった。丁重に扱ってください」


 ロシナは言わんこっちゃないというように溜息をついた。

 小屋らしいといえばそういうような小屋が立っており、そこからは女性の姿が見えた。

 ユーウは、女性が前線に出るのは反対している。

 ロシナも同意見なのだが、アドルはどっちつかず。

 女性陣は、働く女性の躍進などといっている。


 セリアはどうでもいいと言う。

 日本人は引っ込み症なのか。ロシナが日本で生きていた時から散々言われてきた事だ。

 ちょっと気になった子を追うと、ストーカーになる。

 かといって、諦めて何もしなければそれは孤独なおっさん。

 丁度いい機会でもある。帰還したら、お見合いパーティーを計画するべき。

 

 高校生の時分から、積極的に行かなければならない。

 青い顔をする山田の顔を見ているロシナは、木の合間から見える空を眺めた。

 

「山田さん。お見合いどうですか」

「はっ?」 

 

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