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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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5話  学校の暗がり

「意味がわからんっ」

「四の五の言わないでください」


 ジークルーネは強敵だ。

 彼女を押さえるのに、ユーウと黒龍の二人がかりである。

 戦乙女の記憶に潜って、進むのにはシグルスと黒龍が大きな働きをした。

 殆どが彼と彼女任せだった。

 

 ユーウのドッペルゲンガーさえあらわれなければ問題ない。

 尚且つ、道中のユーウは疲弊しているので休憩中であった。

 殴り合いをした上に、回復をかけては堪らない。


 二人を押さえて、シグルスが呼びかける事によって自我を取り戻そうという作戦のようだ。

 

「始祖よ。我が祈りを聞き届け給え。シグルズの過ちを訴えるブリュンヒルドの声。祈りの刃にて絶望を斬り裂く」


 シグルスが取り出したのは、輝く剣だ。

 それが、何であるのかは一目瞭然で。

 振りかぶった光剣でジークルーネの黒き衣を引き裂いた。

 崩れ落ちる彼女を手に支えるユーウと黒龍。


「やりましたね」

「ああ。これで」


 黒い衣が、アルの身体に吸い込まれていく。

 どうやら、彼女の力と成っているようである。

 ユーウはそう判断して少女の身体を床へと降ろす。

 すると、脇から輝く黄金の剣が転がり落ちた。

 

 二本の剣である。


「これは、もしかして」

「そうだ。私のティルフィングとエクスカリバー。どちらも同じ特性を持つ姉妹剣。どちらが先かといえば私の方だ。よく覚えておくようにな。持ち主に、必ず勝利を約束する剣なのだがティルフィングは呪いがある。が、私にはそれが効かない。ふふふ。そこらへんのカラクリは秘密だ」

「それは、残念です」


 と言いながら、ユーウはちっとも残念ではなかった。

 只、威力の高い広範囲攻撃なのである。

 全くの想像であるが。それでは、大した事がない。

 

一瞬で地表を破壊し尽す位でなければ、驚きはしない。

 既に、ユーウにもある程度の時間さえあれば同程度の攻撃が可能だ。

 複数の隕石を落とすシューティングレイン。核どころの威力ではないと計算している。

 適当な岩石を地表の目標にぶつけるだけでも、下手な爆弾よりも派手だ。

 

 炎の壁ですら任意でコントロールすれば、絶大な性能を発揮するのだし。

 稲妻を連打しているだけでも相手は再起不能だ。

 ファンタジーに現代兵器が勝つ余地はほとんどないといっていいだろう。

 幻想に打ち勝つのは幻想だけだ。


 そういう風にして、思考を巡らしている目に映る男がいる。

 黒龍が先程から指をくいくいっとして、煽って来るのがうっとおしい。

 色男なのだが、戦闘本能の方が優っているらしくユーウにちょっかいをかけてくるのだ。


 アルを戻らせつつ、ユーウは三階への扉を開く。

 その先も上の階と同様であった。

 基本的には下へと下って行く迷宮のようだ。


「戻るぞ。アル様が待っている」

「うん。それじゃあ」


 DDの顔を見るとお腹が空いたような目をしていた。

 戻ったら、何か用意しないといけないとユーウはメニューを回転させるのだった。





「うー。どうにか回避できないものでしょうか」

「そうね今すぐには、無理ね」


 謁見の間では、玉座の横に座るマリアベールとアル。

 その眼前では、将軍たちを含む高官が議論をしている。

 つまるところ、戦争の話だった。

 隣国アルカディア王国に攻め込む戦力を増やそうというのだ。

 ユーウは反対しているが、アルはちっともその気が無い筈。

 だというのに、今日は意見を翻していた。


「今も、戦場では多くの兵が刃を交わしているのですぞ。補給線を確保する為にも増援を」

「いやいや、ここは一旦撤退して国境線まで下がるべきです」

「何を軟弱なっ」

「何ですとっ?」


 掴み合いが始まりそうな雰囲気である。

 ついでに、両者の間に敷かれた地図をみればドン詰まりの戦局で動きようもない。

 ユーウは、壁際で待機しながら食料をどうするか。そればかり考えている。

 貴族たちも参列している中では、下っ端も下っ端。

 とはいえ、護衛なので端とはいえ近い。


「つまらないな」

「そういわないで」

「だが、事実だ」

「貴公らは何を言っている。静かにしましょう」


 黒龍にセリアを含めシグルスまでもがユーウに同道していた。

 彼女が騎士団に戻らないのが、謎であった。

 セリアの髪に隠れるようにしてDDが潜んでいる。

 ここは、ペット持ち込み禁止ではないが不謹慎というべきだろう。  

 

 結論からして、マリアベールの意向が通るようだ。

 つまり、アルカディア侵攻である。

 ユーウは溜息をついた。

 内政を充実させるのが、国富の基本だというのにと。


 回廊を歩きながら、ユーウはルナを姿を目撃する。

 相変わらず人形のように、物静かだ。

 隣に立つのは、兄のソル。普段であればそのまま通過する所である。


 しかし、父のグスタフと歓談していた。


「父上」

「ん、ユークリウッドか。こちらの方に挨拶をしなさい」

「お久しぶりです。ソル・フォン・エッフェンバッハ様。ユークリウッド・アルブレストめにございます。本日はお日柄も良く、お会いできて光栄です」

「ぶっ。いや、失礼。どうも聞いていたのと違う人の一面を見たようだ。そうだ、グスタフ殿。お願いがあるのです」

「ほう、何ですかな」


 ルナを突き出しながら、


「この子を預かっては貰えませんか。城にいても、どこにいても私の影に隠れるばかり。これではいけない。情操教育の為に、家庭教師を雇っているのですが中々上手くいかないのです。それでマリアに相談した所、ユークリウッド殿に預けては如何か、という次第でして」

「そういう事でしたら、御預りいたしましょう。ですが、期限を設けなければなりますまい」

「僕が、この城に滞在している間でどうだろう。この子に遊び相手がいなくてね。困っていたんだ」

「わかりました。ユークリウッド、頼めるか」

「はい」


 物静かな様子で、黙ったままだ。

 ユーウは勿論セリアやシグルスも声をかけない。

 どうも針鼠に成っているような印象を受ける。


「アル様は、これから暫く公務なのだがどこかに向かうのか?」

「城の水槽を浄化したり、色々仕事がありますね。手伝ってくれますか」


 うっという表情を見せるセリア。彼女はマメな性格ではない。

 生活環境を整える作業というのを厭うところがある。

 シグルスは乗り気のようだ。


「気になりますね。私は手伝います。黒龍殿はどうするのでしょう」

「俺は、王の御心に従うまで」


 DDと会話しているみたいである。

 しかし、それがユーウたちに聞こえないところを見れば、念話であろう。

 ルナと言えば、ユーウの顔を見るなりぷいっと顔を背けてしまう。

 溜息を吐きながら、


「素早く済ませます。その後で、学校に行きます」

「学校か。俺も興味があるな。人を獣から変えるのだろう? とても興味深い」

「私も気になります。貴族と言えば、家庭教師を雇う物。平民は読み書きなど商人を除いて出来ない物ですから」


 三人ともついてくる様子だ。

 セリアが護衛として残る事になり、ルナが加わる事になった。

 水瓶に向かって歩くのだが、セリアがいないとユーウは黙ったままだ。


「これが、神具ウォーダンの水瓶ですか」

「これ、どうなっているのか未だに不明ですよ。中にある水晶石と呼ばれるクリスタルが水を発生させているのですが、原理がわかりません。空中の水分子を結合させているのかなんなのか」

『それね。水神ウォーダンの支配する深海から直接転送されてるからね。いうなれば、あいつの汁を人間は美味いといって飲んでるんだよ。ちなみに、水神の支配する界域は海の底なんだけれど海神ポセイドンと勢力争いが激しいからねえ。それで、魔力切れを起こしているんじゃないかな。ユーウの魔力が補充されると、嬉しいみたいだね。発生量が、半端じゃないもの。余談だけど、湖にも神がいるんだよ。女神だけど、斧を落としたりすると珠に出てくるよ。美少年限定だけれどね』

「そうなの。真っ青になるまでかな。注ぐのは。あまり注ぐと、黒くなっていくから」


 DDが何時になく饒舌だ。ユーウの手が淡い輝きを放っている。

 シグルスは、ぽかんとした表情で見ていた。

 ルナは、黒龍に抱っこされる形である。ルナに抱かれているのがDDで。

 それを他所に、水瓶の下を流れるであろう水槽の掃除に取り掛かるのだ。

 ユーウとメイドさんたちが一斉に苔やらを掃除道具で落としていくのだった。


「私たちも手伝いましょう」


 シグルスが、黒龍とルナに声をかけるが。


「断る」


 にべもない。ルナに至っては、無表情でスルーだった。

 DDは、ルナの手元で寝ていて小憎らしい。

 ユーウが終える頃には、額に汗をかいていた。






 ロシナは、困っていた。

 強姦事件が連続して起きているのだ。

 その犯人捜しに、件の学校に来ている。

 何しろ、言葉が通じないので捜査は難航していた。 


「訴え出た人間が居ない。が、現行犯で捕まえてみれば学生ときた。芋蔓で引けるが、物的証拠がない」


 と、部下に愚痴るのだ。

 部下といっても大人の騎士である。ロシナの家に仕える古参。

 彼が口を開く。


「ロシナ様。でしたら、拷問にかけてはいかがでしょうか」

「自白はなあ。じい、物的証拠にならない。調書としては、裁判用にとれるが。確か、強姦はきん●まを切断だったか?」

「はっ。現行犯であれば、そのように。ただ、王の裁可次第では処刑もあり得る重罪ですな」

「だよな。そこの所をこいつらは分かってやったのか」


 ロシナも元は日本人である。転生前の名前は、山本。

 少年法に照らし合わせれば、少年院行きだがそんな物はこの国にはない。

 悪ければ、拷問死だろう。


「どうした物かな」


 校舎を練り歩き、山田を捕まえる。

 聞き取りには、この少年が欠かせないのだ。

 ロシナ一人で、捜査をするので難航するのだから協力を要請するべきである。


「あ、山田さん。ちょっといいか」

「ほほい。なんでござりましょうか」


 へらへらとしている平民だ。

 自身がそれと気が付くまでこびりついた意識という物は中々に拭えない。

 

「協力してほしい。謝礼は弾もう。事は内密に、しかし、素早く情報が欲しいのだ。頼めるか」

「ふーむ。では、これでどうでしょう。拾えた情報の中身で、報酬を追加するというラインで」

「では、内容を教えます。他言無用です」


 へらへらしていた山田の顔が引き締まる。

 どうやら、山田も童貞のようだ。

 肩を怒らせて、去っていった彼を見送り、校舎の暗がりを巡回する。

 

 手がかりは、碌に得られなかった。

 どうにも、用心深い連中だ。

 山田の友達である美上と最上からは、情報を仕入れる事ができなかった。

 彼らは、暗がりに迷い込む人間でもない。


 しかし、この手の依頼はしにくい。

 対人関係が狭い人間であるからだ。最上と御子斗の二ばさみになっているようで動けない。

 客観的にみて、自分が鈍い部類だと判断するロシナですら、すぐわかる。


「じい、この件がユーウに伝わった場合どうなると思う?」


 歩き疲れたロシナは、校舎前の階段に座った。

 怪しい人間と言えば、男子生徒全員が怪しくも見える。

 白い髭と白髪が混じった髪を弄るガーフ。


「魔術で、すぐ解決してしまうでしょうな。しかし、そうなったとしても調査していないとお叱りを受けるでしょう」

「女子は、だんまりだしな。それもこれも日本の悪い部分なんだがな」

「私めには、理解できませんな」


 女子生徒は、強姦された事実を隠してしまう。

 泣き寝入りしてしまうのだ。セカンドレイプを恐れてなのかわからないのだが。

 学校側に、それが伝えられてそこから騎士団に上がってきた。

 

 それも恐らくは、氷山の一角に過ぎないであろう。

 大半は、埋もれてしまっている。

 ロシナとしては、ユーウの怒りが恐ろしい。

 アルも当然だが、殺しに関しては容赦がないのだ。


 噂では、何千時間も拷問を加えては正気に戻すなどの苛烈さだとか。

 実体を見れば、噂の一人歩きしている感があるのだけれども。

 

「やはり、兵士を女の子に二人位はつけるべきか」

「費用が甚大な物になりましょう」

「そうなんだよな。何かいい案はないものか」


 監視カメラの存在を思い出したのであるが、あれは電気設備に関する知識がなければならない。

 加えて、カメラ自体がない。

 一から作らないといけない物に関しては、ユーウと言えどすぐには出来ないだろう。

 結局振り出しに戻る。であった。


「集まった情報は、無しか。手がかりになりそうな物は、不良の情報だけとは」

「これだけでは、判断できませんな」

「ちっ。もう少し使える奴が揃っていれば・・・・・・また、ユーウの奴に嫌味を言われるぞ。糞ったれが」


 鞘に入った剣で、ロシナが悪態をつく。

 そこに、山田たちが歩いてきた。

 何か情報を得たのか。ロシナは、先程までの悪態を悟られないように立つ。


「速いですね。もっと時間がかかると思っていたのですが」


 正直に言えば、ロシナはそれ程期待をしていなかった。

 というのも、当たればいいなくらいの感覚で投げたボールだからで。

 

「いえいえ。僕らとしても、そんな噂を少し耳に挟んではいたんですよ」


 生徒たちの間では、まことしやかに被害者に関する情報が流れていたようだ。


「ほうほう。それで、どのような」

「こちらが、リストになります。噂に上っている人物ですね」

「ありがたい。じい。早速、こいつらを監視しておけ。悟られぬようにな」

「仰せの通りに」


 すると、美上と彼女二人が三人でいちゃいちゃしている光景がチラリと視界に入る。

 これを山田は、何事も無いように接していた。

 大変な精神力である。ロシナには、ユーウの作る世界が耐えられない。

 尊敬の眼差しで、山田を見ると少年はニカッと歯を見せる。


(なんて男だ。このハーレム状態に耐えているなんて。こいつ出来る男だなあ)


 腰に下げた革袋から金貨を取り出し、山田の手に握らせた。


「お兄さん。また、頼めますか」

「ぶひっ? もちろんでござるよ。しかし、こんなに貰ってもよかったのござるか」

「ええ、もちろん。お近づきの印という事です」


 普段は、居丈高になるロシナも敬語を使おうとすれば出来ない事もない。

 ユーウのように魔術が使える訳でもないロシナには、人を動かす事でしか貢献できないのだ。

 払う物は、払うべきときに有効に使うべきだ。

  

 最上も御子斗もかなりの美人だ。

 特に、御子斗の方は相手の男と奪い合いになってもおかしくない。

 しかし、山田にはそんな所を感じさせないのが不思議である。


「そういえば、電源の件は進んでいるのですか」

「えーとですなあ。そうそう、蓄電用の希硫酸を確保出来れば何とかなりそうなのですが」


 鉛の板と陰陽極を利用したそれを開発するのに、大変な労苦がいる。

 電解液を量産したとしても、単体の充電ができるのかどうか不明だ。

 出力の問題もある。家庭用の電源は大抵百ボルトが主流なので、それに合わせねばならない。


「それに関しては、錬金術師ギルド絡みでして。今少し時間がかかりますね」

「おー。期待していませんでしたが、これは朗報ですぞ」


 ユーウのように【サンダー】を自在に連射できる魔術師などいない。

 明らかに、異常な性能だ。兵器としては、最上だが。

 それが、こちらに向けばどのような事になるのか推して測るべきである。

 平原の魔物を一年とかからずに刈り尽くし、一人で農場を造ったりと規格外過ぎる。


 貼り付けて置いた密偵によれば、夜中も狩りに出かけるとか。

 こちらは、疲れ切って寝ているのにだ。

 ロシナにも切り札と言えるべきものはあるが、ユーウの努力には負けてしまう。

 間近くにいれば、その光で焼かれてしまうだろう。


 とはいえ、セリアもエリアスもフィナルも手に余る。

 いずれ美しく成長するであろう事は予見できても、彼女らは業がある。

 ロシナの余技に、その鑑定スキルがあってカルマまで見えるのだ。

 出来る事なら、制御できる程度の女がいい。


 じゃじゃ馬は、ユーウに押し付けて制御してもらうのが最善だ。

 隣の三姉妹には、アドルが粉をかけている。

 それも排除していく。すると、自分で行動しないと見当たらない。

 なので、こうしてアルから離れて行動するようになった。


「どうなされました?」

「いや、ちょっとこちらに」


 山田とロシナは、いちゃいちゃする三人から距離を取る。

 ガーフは、リストを手に騎士や兵士たちの指揮をし始めていた。


「山田さんは、彼に怒りを感じないのですか」

「ん? 何ですと。ふーむ突然ですなあ。拙者、誰かを恨んでも幸せには成れないと思うのでござる」

「成程、他人の幸せを妬んだりはしないのですねえ。しかし、本当にそれでいいのですか」

「ははっ。確かに」


 山田は、下を向きながら石を蹴り飛ばす。

 

「人は、石ではござらん。意志があるのですよ」

「そうですね。・・・・・・近くに定食屋を造ろうという話がありましてね。ちょっと見学にいきませんか」

「いいですな。拙者も小腹が空いてきましたぞ」


 ロシナも同意見だった。

 誰かを恨んで、それで幸せになった人間等いない。

 大概は、悲惨な末路だ。前向きに生きていこう。

 ユーウが作るという新生冒険者ギルドには、女冒険者を積極的に採用していくという。


 となれば、ロシナにも芽があるという事だ。

 何も、誰かと争って手に入れるだけが全てじゃあない。

 その為には、レイパーたちに全滅してもらう必要がある。

 ロシナたちが、そのまま移動していくとそこにユーウが現れた。


「ひっ」


 山田が、悲鳴を上げる。

 無理もないだろう。その横に立つ男の目は縦に瞳孔が伸びている。

 人間界に合って、最強の生物と噂されるそれだ。

 魔人、竜人、吸血鬼、いずれ劣らぬ最強種。

 それを目にして、立って居られるのは騎士として訓練を受けた者のみ。


 大抵の兵士は、失禁している有様だ。

 

「ちょっと、黒龍。威圧を抑えてください」

「ふん。この程度か? 人間ども」

「ぬかしたな? 竜っ」

「はいはい、やめやめ。揉め事は起こさないでね」


 ユーウが一人でぺこぺこと頭を下げている。

 相変わらずの腰の低さだった。

 だからこそ、気に食わないのだが合わせられる。

 ロシナは、そっとリストの写しをユーウに手渡した。


「これは、何ですか?」

「実は、学園内で強姦事件が起きている。現行犯は、逮捕したが残りの余罪を追及するのと残りの犯罪者予備軍をどうするのか。意見を伺いたくてね」

「はは、ああ。死刑ですよ? しかし、ただ死刑にしては波風が立つでしょうし、捕えた場合には労働禁固刑で行く予定です。これは、内密にお願いしますよ」


 成程。ユーウは、こういう。

 しかし、現行犯はさっくりと殺しているであろう事は間違いない。

 この国は、法治国家ではないのだ。大概が、人治である。

 量刑の重さは、裁判官でもある王族の裁量一つで決まる。

 これから、法律が決まる事になるであろう。最近になって、明文化されている次第。

 良いも悪いも王族が決めるのだ。


「日本では、強姦罪の量刑いくらでしたっけ」

「確か、三年以上二十年未満だったかな。それがどうかしたのか」

「軽いと批判を浴びますけど、重いと女性が殺されちゃう事になるんですよね」

「そうだなあ。俺もそれは思った。捕まっても軽いから殺さないというね。昨今は、厳罰主義が訴えられるんだけどな。殺しに関しては、俺は死刑論者。ユーウもだろ?」

「ですけどね。ただ、間違いがありますからねえ」

「費用の方も頭が痛いよな」


 鉱山に作っている強制労働の収容所の事だ。

 予算がかなりつぎ込まれている。

 それに掛けるくらいならば、農具の一つも増やす方がマシだと思えるほどに。

 

 殺害に関しては、ユーウも殺される立場にある。

 何人もの人間を殺してきただけに、何も言えないであろう。

 彼が罪に問われないのも、一重にアルのお気に入りだからだ。

 ただの一市民であれば、殺害の罪に問われる事は予測がつく。


 犯人が誰であるかわからないにしても、アルにしてみれば真贋がつくのだから。

 だとしても、ユーウは替えが効かない。彼の真似は、誰にも出来ないだろう。

 水瓶一つとっても、水神を呼び出さなければ使えない筈であった。

 何十年いや何百年も戦争をしてきたこの国は、常に飢えていたから。

 それを易々と解決していくユーウの功績は余りにも大きい。

 そうだから、ユーウのやりようが見逃される。


 貴族をやったとしても、その証拠がない。

 強姦魔を殺害したとしても、その証拠がない。

 世間的に見れば、ユーウの在りようは善人のそれで批判する者と言えば商人くらいだろう。

 道路がどこまでも作られ、農場や水田がどこまでも作られていく。



 


「ここ?」

「ああ」


 着いたのは、学校の外である。

 そこには、学生が腕を振るう。うどん屋があった。

 どっかと腰を下ろしていく騎士たち。

 

 どうにも腹が減っている様子だ。

 護衛の兵士たちにも休憩を取らせる。

 カウンターにも人で一杯であった。それを見た黒龍が、ユーウに尋ねる。


「これはなんなのだ」

「うどんだよ。うどん。食べた事ないのかな」

「ああ。俺は、肉しか食わないからな」


 黒龍の発言にロシナは、ぶるっと背筋が寒くなった。

 それもそうだろう。彼の人は、竜。まぎれもないそれの言葉に偽りがあるとも思えない。

 黒い服に、人形のような女の子を乗せていた。

 目があったが、ゴミ虫でも見ているかのようである。

 

「食事を取るところで、その発言は駄目だよ。気をつけないとさ。DDもなんか言って」


 黄色い鳥に何かを伝えようとジェスチャーをしている。

 すると、黒い服を着た男が頭を下げて、


「済まなかった。気をつけるようにする。で宜しいか」

「全く心が篭っていないよね。でも、追々変わってよね」


 ユーウは、黄色い鳥の顎を擦っている。

 どうにも信じられない事であるが、あの黄色い鳥が神龍だというのだ。

 ロシナにとっても余人にとっても伝説の存在とも言うべきそれ。

 未だに、疑念は晴れない。

 神龍といえば、山をも貫き、天に届くかという異様で書かれている事が多い。

 その足で大地を踏めば、地が裂け、天が落ちるとも言われる。


 そんなだから、部下にあれがそれと教える事はできない。

 恐慌をきたす事は明白だ。


「指、震えてますよ?」

「ですよねえ。えっと、山田さんは龍玉とか見ましたか」

「もちっすよ。あれは、国民的アニメでしょう。未だに、私の戦闘力は五十三万ですとか名言が多いですし。どうなっても知らんぞとかですねえ。ええ、拙者も憧れますよ。なるんなら主人公で」

「あれ、竜ですからね」


 顎で指し示すと、山田は箸をボロリと落とす。

 かなりの衝撃のようだ。


「あの、可愛い鳥がでござる?」

「ええ」

「おほっ。携帯、携帯」

「あ、駄目ですよ。写真なんてとったら、殺されるかもしれません」

「ぶほっ。残念でござる」


 山田は、心底残念がっていた。

 実際、そうなる可能性はかなり高い。

 傍にいる黒龍が、その気になればここにいる人間を一秒で殺す事は出来るだろう。

 噂に聞く、竜の咆哮はそのような威力を秘めている。

 

 防御魔術でもかかっていなければ、鼓膜など一撃で割れて白い脳味噌まで届く。

 そのように警戒しておくべきなのだ。竜という存在は。

 これが、蜥蜴の変態というのなら別の話であるが。


「あの子は、なんていうのでござろう」

「ん。ああ、あれはエッフェンバッハ家の令嬢でござる。歳が離れすぎているので、普通に犯罪ですよ」

「残念でござる。お巡りさん、こいつです。みたいなあ」

「ふふふ。いい子を紹介しますよ。猫耳とか、お好きでしょう?」

「おおーっ。マジですか。本気で信じていいんすよね」

「もちろん」


 こいつはチョロい。ロシナは、本気でそう思った。

 何しろ、獣人の娘を紹介するだけでいいのだ。

 後は、上手くいくかどうかの保証もないのだが。


(俺も探さないといけないだけどなあ。とりあえず、ユーウとは距離を取らないと。彼のハーレムに巻き込まれては大変だ)


 木を削って作られた割り箸を割ると、うどんを食べ始めた。

書き直しのつもりで、『剣の王』なんてのを書いてみました。

殆ど違う物に。

良ければ、のぞいてみてください。

進歩している筈Orz

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