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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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2話 俺と彼女2

「さて、集まって貰った諸君には悪い話だ」


 校庭で、全校集会らしい。

 教頭が禿げ頭を撫でながらぼそぼそとスピーカーに向かって話をしている。

 内容は、生徒ですら言われなくても分かっている話ばかりだ。

 川からの距離が数キロはあると見られた。

 実際の測量を鏡也たちがしたわけではないのだが。

 水得るのにも、危険が付き纏う。

 戻った鏡也たちにとっては次々と面白くもない話が展開されていく。

 これで憂鬱になるなというには、いささか難しいだろう。


 探索隊が森に出てから、戻る頃には夕暮れ時であった。

 混乱していた学校内は、落ち着いている。

 だが、食料が足りない。水を輸送するのには時間がかかる。

 鏡也も川で水を飲んだが、非常に美味いと声を上げた。

 隣にいる山田に小声をかける。


「でも、あれだけ遠いと身体を拭きにいくのも大変だ。川辺に浴場をつくるべきかもしれないな」

「ぐふふでござるな? しかし、ルーン文字が反応を示すという事は大発見でござるよ」


 土を弄る山田。何時もの奇行という訳ではないらしい。

 疑問の声を山田にぶつける。


「何だそれ」

「北欧神話でも魔術に使われていた文字でござる。組み合わせによって効果を発揮する魔術の円陣が必要なのかもしれないので。うーん、そこはまだまだ未知数であり申す」


 普通に喋れよ、と言うのは厳禁だ。

 そうすると山田はヘソを曲げてしまう。

 山田は、しゃがんでごそごそと円陣を描いて五芒星やら六芒星を試している。

 ルーン文字で使う魔術。その効果の程はわからないのだ。 

 教頭の話はつまらない。

 しかし、それらを含めても千人近い人間が校庭に集まっている。

 

 それには驚いた。

 もっと混乱し、略奪や強姦が起きる。

 そう予想していたのは鏡也だけではない筈。 

 隣の御子斗や最上を見ても、それはわかる。


「これ。見て欲しいでござるよ」


 山田が、屈んで手を動かし地面に文字を描く。

 しかし、僅かな水が足元からじわっと出ただけであった。


「こりゃあ、確かに大発見だけどよ。しょぼいな」

「ぐぬぬ。いずれは大量の水を出してみせるでござる」


 力を込めて、地面の文字をわしわしと消す。要、努力という奴であろう。

 やがて、全校集会も終わりを告げる。生徒たちに走ったのは緊張でしかない。


 


「これ食事だってさ」


 集会が終わって御子斗が手に持ってきたのは、木で作られた御椀にスープであった。

 味が殆どしない。が、肉が少々入っている。臭みがかなり強烈だ。

 御子斗の方を見れば、和気あいあいと最上と食事についている。

 あちらは、少なくても文句は無いようだ。


「水道の水が使えないのは痛いな。太陽光発電はどうなったんだろうか」

「あーちょっと手間取っているみたいね。どうも、江戸時代よりも苦しい生活になりそうっだって先生がいっていたわよ」


 屋上には、太陽光発電に使われる予定の代物が付いている。

 しかし、電力を賄うには足りない。

 有効活用するには、そのシステムを理解できる人間が要る。


「だろうなあ。つうか、この状況で皆良く平然としていられるな」

「違うでしょ。緊張してる子は結構いるわよ。それでも、鳳凰院の身内がそれなりに固まっているからどうにかもっている訳。結界の術を試すとかいってたけど、正直、陰陽道とか信じられないんだけど」


 鏡也自身も信じてなどいない。が、彼らの武力は本物だ。

 十人程度でも、その十倍の人間を殺してのけるだろう。

 今は、ついて行くしかないと睨んでいる人間の多い事。

 暗がりを見れば、そういった人種が見て取れる。

 それで、つい御子斗に声をかけてしまう。


「あまりはぐれないように行動しような」

「そんな事わかっているわよ。うん。最上っちー行くよ」


 山田の様子眺めている最上は、御子斗の方へ視線をむける。


「行くって何処へ」

「寝るに決まっているじゃない」


 御子斗が指さすのは、校舎だ。

 どうやら、男子は体育館で寝泊まりするという事のようである。

 最上と御子斗は、お喋りしながら校舎へと去っていく。

 それで、鏡也は手持ち無沙汰になってしまった。

 山田といえば、未だに地面で魔術の使用法を探っている。


「あーそうするでござるか。なら、明日の朝一で狩に出かけるとしますぞ。宜しいですかな」

「やる気だな。わかった」


 向かった体育館の中では、早くも場所取りが始まっていた。

 皆いい場所を欲しているのだ。特に、道具部屋は人気だ。

 が、鏡也は見張りのいる場所を選んでごろりと転がる。

 隅では、何が起きるのか知れたものではないからである。


 風紀委員や教師が一緒になって、見回りを行っているという。

 外の校門も閉められ、中では焚火がずっと行われるのだ。

 多少の安堵もあっただろう。鏡也は、すぐに眠りに落ちた。





「鏡也どの。朝でござるぞ、起きるでござる」

「う。おお、山田か。もう朝なのか?」


 二日目である。体育館の外は暗い。

 鏡也から見ても、それは朝だろうとわかる。


「そろそろ出るでござるよ」

「んー、御子斗たちは?」

「女子に頼るのは、かっこいいとは言えませんぞ」


 クソッと毒ずくのは鏡也の悪い癖であった。

 元々が強面の男なので、山田をビビらせる事がよくある。

 とはいえ、鏡也とて山田の行動に抗うつもりはなかった。

 何しろ、人の上を行かねば苦しむのが世の常だ。

 

 それを嫌というほどVRMMOでは味わってきた。

 こればかりは殴れば解決する物でもない。


「んで、何処にいこうっていうんだ」

「昨日の狩り隊に潜り込むのでござるよ。ついでに、拙者らの役は斥候でござる」

「本隊に居た方が安全じゃねーのかよ。それはどうなんだ」


 外に出た二人はあーだこーだと言い合いをする。

 そうして歩きながら、トイレへと向かう。

 そこは既に異臭が漂っていた。


「ぐわ。たまんねえなあ。これ」

「水が流れないでござるからな。水道が滞った以上やる事は非常に多いでござる」


 蛇口をひねれば水が出るのが当たり前の世界。

 そんな世界から、放り出されたのだ。

 不便さというのは想像を絶する物がある。

 昨日からシャワー一つも浴びていない事を思い出し、くんくんと袖を嗅ぐ。

 鏡也は、酸っぱい匂いに頭がくらっとした。


「水さあ、魔法でどうにかできねーの? あればだけどよ」

「んー。拙者の見立てでは、まだまだ検証が足りないとしか言えませんな。それと、昨日の狩り隊に参加したメンバーには木の槍に盾が支給されるでござる。ついでに、優先的な物資の支給もあるらしいですぞ」


 ふーん。と頷く鏡也だったが、内心では小躍りしていた。

 流石に、木の棒で戦うのは無理がある。

 欲を言えば鉄製の槍が欲しかった。

 剣道の心得はあるが、剣よりも槍の方がいい。もっと言えば弓なのだが。


 小便を済ませた二人は、校門の前に立つ集団がいるのに気が付いた。

 

「山田くん。ありがとう」

「いえいえ。どういたしまして、でへへ」


 顔が緩みっぱなしだ。山田は天城に声をかけられた様子である。

 それで起こしに来たのであろう。

 一目で、天城に惚れているというのがわかるほどだ。

 

(そいつは、無理ってもんだろうが。相棒。まあ、応援はするけどよお)


 どう見ても釣り合わない。しかし、彼は諦めないだろう。

 一途な男なので、完璧に撃沈されるまではあのままなのかもしれない。


「それではこの五十人で、森の探索だ。一つの班で纏まって行動する。索敵行動をとる人員は決めてあるからそのつもりで。くれぐれもはぐれないようにな」


 教師の佐藤が拡声器を使って話をする。

 しかし、拡声器に使う電池も貴重品になる筈だ。

 その考えが浮かばないと言った処か。

 森の中に出た一行は、円周上に出る。


 ひとしきり歩いた後、戦果といえば灰色の兎くらいのものであった。

 弓道部の弓が冴えた結果である。


 三時間程探索した結果。

 学校周辺に加え、川の周辺にいたモンスターらしき存在を掃討するに至る。

 死傷者は今回も零だ。人はそうそう死ぬ物でもないのか。

 が、逆を言えば餓死する可能性が高まってきたとも言える。

 ついでにわかったのは、校舎の方角から日が上ってきた事。

 それから、川下にいけば東に進むという事だ。

 わかった所でぐうと鏡也の腹がなった。


「果物とか、ないのなあ」

「そうですなあ。拙者、ゴブリンの群れが出てきた所には興奮しましたぞ」

「まあな」


 とはいえである。山田と鏡也は殆ど何もしていなかった。

 精々ゴブリンの死体を埋める作業。

 それに、死体から武器や防具を剥ぎ取る。

 次いで、山田がしている地図作成といった所だ。


「これは、川下に進んでいくべきですな」

「ほほう。やっぱそうだろうな。川沿いに町がある可能性が高いからだろ」

「然りでござる。ただ、上はどのように考えているのかわからないのでござる」


 いきなり現地民に接触しては、どのような事になるのか想像出来ない。

 鏡也がそうなのだから、生徒会の連中や教師陣であってもそうだろう。

  

「ゴブリンとか出て来てもなあ。食えねーし。園芸部が持ってた種を今から外を開拓して植えようってのも遅いだろ。ああー畜生。考える程に嫌になって来る未来しか視えねええ」

「確かに、リア充は乙でござる。まあ、平安時代に戻ったと思って行動すれば間違いないでござろう。鳳凰院家が頂点に立つ政治が行われるのは、確定的でござるし」

「だよなー」


 異世界に来たからといって、力関係という物が早々には変わらない。

 ひょっとすると明日には戻れるかもしれないのだ。

 そういう希望でもなければ、ここは地獄となろう。

 それ位の事は、見て取れる。何しろ、ここは携帯の充電もままならない。


 PCゲームや音楽、絵画といった娯楽を楽しむ事ができないのである。

 鏡也たちは、エルフに出会う事を期待しているが。


「ま、エルフなんて出てこないわな」

「ですなあ。出てくりゃ、見てみたいもんですがねえ。拙者、バインバインのエロフきぼんぬで!」

「馬鹿野郎。そこは、つるぺたに決まってんだろうが。大正義だぞ」


 山田と二人でいる鏡也は、地が出てくる。

 山田は、エルフさん巨乳派だった。

 鏡也は胸なしがいい。エルフと言えば、そうではないか。

 別に、ロリコンという訳ではない。


 二人の仕事は、斥候役として淡々と敵の情報を連絡するだけでよかった。

 山田は勿論、鏡也もエルフを探すのには異論がない。

 折角異世界に来たのだ。可憐な妖精さんを探すのは男子の野望といってもいいだろう。

 主に、男の欲望に釣られてではあるのだが。


「こちら山田班。ゴブリンを十ほど発見したでござる」

「わかった。周囲に伏兵が居ないか確認してくれ」


 携帯でさっと連絡するだけでいいのだ。

 それを誘導するようには連絡を受けていない。

 手に持った槍で倒したい思いはある。

 が、それは匹夫の勇である事を知っていた。

 数は力なのだ。個々で圧倒し、数で圧倒する戦術に間違いなどない。


 携帯の電源を何とかする為、生徒全員の携帯が集められた。

 それを遠出する人間が持つ事になっているのだ。

 鏡也たちは、ゴブリンの集団をぐるりと回っていく。


「どうも、この周辺に村があるとかか?」

「見たいでござる。川沿いから凡そ3キロというところですかな。ちょっと距離はありますが、連中の勢力を図るには今日にでも行っておくべきでしょうし」


 エルフエルフと言っている山田は不気味な声を出している。

 左右に展開した本隊の生徒たちは、武器を構えて合図を待つ。

 ここも携帯を持つ側の有利な点だ。


「弓での攻撃が最初だっけな」

「でやんすよ。拙者らは、見ているだけというのが最高の乙、ですわあ。ひゃっはー」

「モヒカン役じゃねーか。それじゃあ、あいつに強くなった姿を見せられねえんだが」

 

 すると、山田が鏡也の肩をポンポンと叩き親指を立てる。

 

「拙者に任せるでござる。この日置電抜刀不敗の奥義を持つ男、誓って恋の成就をさせてみましょうぞ」

「いや、いいから」


 本音だった。山田が絡むと大抵碌でもない方向に進むのだ。

 甘口カレーを作ると、激辛カレーになってしまう位。

 悪い奴ではないのだが、そんなオタクと付き合っているのもどうか。

 そういう風には感じたりはしないのであるが。


「ああ、ゴブリンたちあっさり倒されちゃいましたな」

「数は力って事だろ。わざと、後方を開けておく念の入りようだしな」


 十人のゴブリンが持ったのは最初の三分だけだった。

 弓での斉射を受けて、立っていたのは半分。

 逃げ出そうと試みた様子だが、追いつかれ鳳凰院の木刀で倒された。

 

 残りも似たような物である。

 五十人からの人間を相手どっては戦える筈もない。

 携帯を取り出す山田。どうやら、どこからか電話がきたようだ。


「山田班。聞こえるか」

「はいはい。天城どの、どのようなご用件で?」

「わかりました。天城どののお願いとあれば、拙者どこまでも行ってくるでござる」


 そこまでは言ってないわよ、とか鏡也にも聞こえる。

 相変わらずだ。天城相手ではデレデレだ。

 すっかり犬といってもいいだろう。

 ただし、体型は豚のように肥えているが。


(しっかし、あれ相手に脈はなあ。他のに変えたらどうなんだよ。ナイアガラの滝を登るくらい無理だろうに)


 とは言えない。言えば決裂するという物はこの世にはあるからだ。

 ずんずんと前へ進む彼らの前には、やがて鄙びた村といった場所に出る。

 そこには、ゴブリンが住み着いている様子だった。


 村の周囲にある田畑に村人の姿はない。うち捨てられた廃村といった風情だ。

 しかし、そこにはゴブリンが住み着いていた。

 何とかするべき事態だ。駆除して鏡也たちが、使っていくべきだろう。

 二人で特攻するほど勇者かぶれではないので、作戦を立てる。


「どうする?」

「そうですなあ。まずは、周囲の地形を伺いましょう。そして、火攻めが出来るなら最良でしょうな。でもって、モンスターを狩っておくかどうか。これは、上が判断するでしょうし」


 もうすっかり、鳳凰院家の家臣として取り込まれている。

 どうやら、天城には人たらしのセンスもあるようだ。 

 ゴブリンが一体で鏡也たちのいる方へ歩いてくる。


「やるか」


 山田は無言で頷く。

 相手をじっくりと観察し、他のゴブリンに悟られない位置で迎撃だ。

 天城に連絡を入れた後で、二人は木陰待った。

 

 ゴブリンは気が付かない。

 槍の間合いに入った所で、一突き。

 山田の攻撃は喉を狙って、過たず貫く。

 二人同時の攻撃は、息もぴったりであった。


「こりゃあ、嫌な手応えだ。御子斗にはやらせられないな。最上もそうだろう」

「ですなあ。二人共遠距離系の職でしたし、商人系のジョブなんて物がなければ御子斗どののテクを見ることもないでしょうな」


 御子斗の本業は、金儲けにあるといっていい。

 その話では、四人の中でもぴか一だ。

 そして、パーティーの金庫番でもある。

 

 彼女に金を預けていると、何時の間にか倍額になっている事も珍しくない。戦闘では、あまり役に立たない職を選ぶのだが。

 弓を扱えば、かなりの腕前である。

 しかし、彼女には小鳥が打ち抜けるのか怪しいものだ。

 

 御子斗をパーティーに誘うのは、主に鏡也の精神を安定させる為で。

 彼女の姿が別のパーティーにあっては夜も眠れないだろう。

 ゴブリンの死体を担いでいたスコップを使って埋める。

 

 匂いをさせては、気づかれるからだ。

 暫く、そうして狩りをするのだが。

 罠にかかったのは、四匹といった所であった。

 余人であれば、食べた物を戻したに違いない。鏡也も胃液がこみ上げてくるのは避けられなかった。




「お待たせしたね。それで、ゴブリンの村は?」

「あっちだ」


 鳳凰院が生徒たちを連れてやってきた。

 出迎えるのは鏡也である。

 その指を指した方向に、廃村が見えた。そこの家屋から覗くのは、緑の小人だ。

 

「君の見解を聞きたいな。どうするべきか」

「俺なら、包囲して火を使うね。火矢を射る事はできるんだろ。家屋はもったいないけどな。で、釣られて外に出てきた相手を矢で討つ。そんだけだろう」

「上手く行く保証はないな。しかし、突入するよりはマシか。矢だけでいくのは無理だな」


 鏡也は、反対された意見に頭が沸騰しそうになる。

 自然と握り締められる拳。


「どうしてだよ」

「肝心の矢がね。無いんだ。先程の戦いでも、回収していたけれど。矢羽根のついた矢は作れていない。命中率は格段に落ちることだろう。それでも一人十本という処なんだ。それでは、無駄撃ちが出来ないだろう? 火矢で攻撃して、接近先しかないな」


 そう言い、鳳凰院は鏡也の前を後にする。

 背中を見つめる鏡也は、不安げな山田を見て我に立ち返った。


「考えてみればそうだよな。昨日の今日じゃな。簡単な武器を作るので手一杯だろうしな」

「死人がでなければ、御の字でござろう。拙者も本気を見せる時がきたでござるよ」


 ねえわ。と言いかけた鏡也は横を見る。

 どんどん人が包囲網を作っていくのが見えた。

 こうした連携プレーをする際には、大抵誰かが輪を乱すものだ。

 しかし、緊張した面持ちの生徒たちは静かに行動に移っている。 


「こんな時に、魔法の一つでも使えればなあ。楽に倒してしまえるのにな」


 鏡也がいうのはラのつく国民的魔法の事だ。

 睡眠系の魔法で一網打尽にしてしまうのがいい。

 相手の魔法抵抗力にもよるのだが。


「魔法とは限らないでござる。魔術の線もあるからで。術の上に法があるという小説もあるでござる。他にも神々が使うそれを魔法と呼んで、人の使うそれを魔術なんて風に捉える見方もあるでござろう。現状では、水を舐められる程度にしか出せないのであり申すので何とも。あっ始まりましたな」


 山田の話について行くのには大変だ。

 何しろそういった方面では、造詣に深い彼に敵わない。

 

 こちらは元の数に三十人ほど加えての攻撃だ。

 万全の状態を期していると言っていい。

 増援を加えた戦いで、必勝を期しているのだろう。

 投石なんて事を行うのも遠距離武器が不足しているからで。


 囲んで、火をつけて煙で攻める。且つ、投石による攻撃で相手の出方を待つ。


「地味だよなあ。これ」

「ですな。おっ出てきましたぞ」


 煙に紛れてゴブリンたちが出てくる。

 それを見た鏡也は、振りかぶると一投。当たったのであるが、大したダメージではないようだ。

 怒りの咆哮を上げながらゴブリンは駆け寄っていく。

 しかし、


「近寄れんよなあ」


 弓による攻撃が殺到し、且つ近寄れた所で槍の攻撃が待っている。

 ゴブリンたちは組織だった攻撃を完封されたままだ。

 死体を見て吐き出す生徒たちもちらほらと見える。

 鏡也は耐性があるのだが、頭部からはみ出た白い物には嫌悪感を覚えるのだろう。

 

 戦闘の結果は、鏡也たちの圧勝だった。

 



「ゴブリンに魔術師とか召喚術士とかいなかったのが残念でござる」

「杖持ったゴブリンならちょろちょろ見えたけどな。投石で頭が割れているみたいなのがいたぞ」


 鏡也たちは勝った。よって、ゴブリンの拠点であった廃村を探索中だ。

 そこで、杖を持つゴブリンの死体を探すのだが。

 

「なんかわかったか?」

「駄目でござる。魔術書らしき物を持っているのでござるが。ルーンがところどころ書かれていますな。これは、読めるのかどうか怪しいでござるよ。ドイツ語のようでござるが、解読できるのかどうか。ドイツ語を習っている人間なら読めるかもしれませぬ」

「ええ? 普通は、未知の言語とかになるんじゃねえの。いや、日本語のようで読めるとかいうのがネット小説の基本だろ」


 憤慨する鏡也。山田は冷静に魔術書らしき羊皮紙の束を手に取る。


「ふーむ。鏡也どのは魔法、いえ、魔術の練習はしておりますかな」

「いや? ああ、そうか。毎日やる事で力が上がるって奴か」

「そうでござる。だいたい、この手のファンタジーな異世界でござれば使う程に魔力が上昇していく拡大型というのが大半でして。魔力槽とか魔力タンクとか魔力瓶とか総MP量の事をいいますなあ。確か、限界まで削る方法やら魔術の使用回数で上がるというのもありふれた話ですし」


 頷く鏡也。山田の言う事には一理あった。

 彼から借りているオタク小説には、大抵魔力チートしている主人公が多い。無限の魔力を持つのが大半で。

 回復力も半端な物ではない。

 という事で、鏡也も魔術を使用しようと誓うのだった。


 ゴブリンの死体は、計四十弱という所だ。

 倍の人数で戦ったのだから、苦戦は無かった。

 同数ならばわからない展開になったやもしれないが。

 鳳凰院の策は今の処当たっている。


 が、生徒たちの中では心的外傷、つまりPTSDのような物で戦えなくなる者がいた。

 座り込む生徒を見て、


「不味いな。このまま戦えない人間が増えていくと、どうなるのかわかりそうなもんだが」


 とはいえ、鏡也の手も震えていた。

 いくら何でもなれる事は出来ない物だ。

 VRMMOで慣れていても。


「そうはいってもですなあ。我々は文明人ですから。平和な時代に生まれて、人殺しのような真似をしている訳です。殺すのは禁忌として捉えられている訳でして。殺せない人間は死ぬしかなくなりましょう」

「そう言い切れるお前が怖いぜ」


 ぐふふと言う山田の顔は、喜悦に歪んでいる。

 この山田、かつてはこうでなかったのだ。

 今でこそ踊る豚とあだ名される有様であるが。

 

 以前は、少し太っているそんな感じであった。

 初恋の少女に告白して、振られたせいである。

 それがトラウマになって、このような基地外じみた様相を見せる。

 嫌悪感はないが歪だ。撤退する狩り隊に混じりながら、


「さっき言っていた話だけどよ。魔力の量が決まっていたらどうするよ」


 問題は、そこだ。素質がない、上昇しない場合などがある。


「ふーむ。その場合ですが、大抵はブーストする方法を考えますな。魔力を燃え上がらせる炉タイプに、カートリッジ型の貯蓄タイプ、他人から譲り受けたり奪ったりする結合タイプや吸収タイプがありますがねえ。ま、ここが異世界と決まった訳ではないので何とも」


 歩く森の中は、人の息使いで満たされている。

 戦闘に勝ったので彼らの表情は明るい。


「異世界だろ。どう見ても。あと、炉タイプっつっても色々あるんじゃね。中身を燃やすのとか増やすのとか」

「ふむふむ。弱い振りをするのでござるか。ブースト系の弱点は使う前に完封されてしまうという乙な展開がありますからな。現代にはいないゴブリンとか見てしまうとですなあ。後は、スケルトンとゾンビも現実ではありえませんし。ま、それらを追及するのも魔力量が上がらない時ですな。調べはするでござるが」


 サクサクと森の中を歩んでいく。

 二人ならば何時敵が襲って来ても良いように気を構えているが、この時ばかりは鏡也も気が抜けていた。斥候役である事も忘れて。


「ファンタジーだと、ここらで強烈なのがくるよな。定番のが」

「いやいやいや。拙者ら、只の学生でござるよ? そんなドラゴンとかでてこられたらお手上げでござる。せめて、ワーム系の倒しやすいモンスターで一つ」


 勝ったというのに、二人以外の人間は表情が冴えない。

 やはり、雌のゴブリンやらを手にかけたのが響いているのだろう。

 だが、元を断たねばいくらでも増えるものだ。

 

 そして、敵は排除するというのが当面の方針だった。

 そこかしこで胃の内容物を地面に戻している生徒の姿が目に映る。

 鏡也も釣られそうだった。

 やがて、学校の姿が見えてくる。


「やっと帰れたぜ。けど、飯はどうなっているんだろうな。くたくたなんだが、また探索か?」

「でしょう。まだ、人里を見つけられた訳でもないので。しかし、取引材料もなしだとか。奴隷フラグ乙のような気がしてなりませぬ」


 校門を通って中に入った鏡也は、どっかりと校庭の隅に座り込む。

 運びこまれた木で椅子が次々と作られていた。

 用務員が持っていた日曜大工の工具。それが役に立っているらしい。

 

 戦闘にでない人間。探索も怖がる人間も多い。

 そんな連中の使い道がそういう事に充てられている。

 そこに何時もの二人が寄ってきた。御子斗と最上である。


 傍目から見ても、御子斗は可愛らしい。

 もう一方の最上はモデル系の美人だ。

 そんな二人が合わない組み合わせの人間と話をしているので、奇異の目は避けられない。鏡也は、居心地の悪さになれないかった。


「ちょっと。二人とも酷いじゃないの。私たちを置いて行っちゃうなんて」

「まあまあ。行った先は、結構危険でしたぞ。幸い死人はでませんでしたが、戦闘不能になる生徒が続出しております。グロ注意な展開でして」


 とても御子斗には体験させられない。


「ふーん。話、聞いてるし。捕えるとか出来なかったの?」

「捕える余力は、ねえよ。飯だってままならないのにな。捕虜用の小屋を作るのよりも、あれだったろ。先に学校外に家を作っていくとか。いつまでも学校でクラスには、ストレスも溜まるしな」


 空高く上っている太陽の姿を確認する。日本と同じように、天に一つだ。

 二個も三個もあれば、間違いなくここは異世界と言えるのだが。

 

 どうやら色々と二人にもあったらしい。

 見れば、グラウンドの状況は異様な状況だ。

 木材を切出し、色々と作っている。

 四百人近くが働いている様子は、騒々しい。


「皆、プライバシー空間が欲しいみたいね。家を作るといっても時間がかかるし、せめてシキリでも作ろうとしているみたいよ」

「あると便利だよな。シキリ」


 四人でくつろぐ。ゴブリンとの戦闘の様子等が話題に上るのだ。

 しかし、人里の話は躊躇われた。

 あの廃村の村人はどうなったのか想像できた為である。

 

 ゴブリンに殺されて、スケルトンやゾンビになったとも取れる。

 鏡也は自然と両手を合わせていた。

 御子斗も最上もその様子に訝しんだが、山田の方はわかったようである。


「死ぬとああなるのは、勘弁でござるなあ」

「まあな」

「え、何。どういう事なの」


 そこで廃村と校門の前に現れたゾンビたちの話をする。

 どう見ても、あれはそういう事なのだ。

 鏡也たちも破れれば、ああなる。という事だ。

 

 校門から中へ駆け込んでくる女子の姿が飛び込んでくる。

 血相を変えた表情に最上が、


「何かあったのかしら。どう見てもただ事じゃないみたいよ」


 手を翳して見つめる。横に立つ御子斗はのんびりとしたものだ。 


「もしかして、人里を発見したとか? それっていい事だよね」

「そうとも言えないわよ。だって、会話ができるとは限らないじゃない。それに、大抵の場合原住民とは争いになるのが定番よ。下手な接触は避けるべきだし、慎重にいかないと」

「えーでもでも食べ物が無くて、餓死しちゃうよー」


 この場合は、最上に賛成だった。冷静にならないといけない。

 最初の接触こそ肝要で。子供っぽい御子斗には望むべくもない視野なのかも知れないが。

 普通は、異世界の住民が愚かで無知というのが大半のパターンが多い。

 だからといって、武力を以って接するには重火器の類がないのである。


 山田は、水の魔術を広めにいってしまった。

 いい方向に向かえばいいと思いながら、鏡也はこれからの事を考えると不安の霧に包まれた。

 

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