異世界からの侵略者たち14
男たちが建物を囲む。仲間がやられた。許されない事だ。ヘイトクライムである。
2階に立て篭っている日本人が狙いだ。狩りを邪魔するなど・・・
死体に火をつけて、肉の焼ける匂いがする。そんなことでは治まらない。
そう。
生意気にも、世界最優秀民族の攻撃をやり過ごした。
「許されねえことをしたな? ジャップめが」
「然り、然り、然り!」
集ったのは、潜入したチョン軍団猛虎部隊でも選りすぐりの強者たち。
動き回る死体を再度動かなくするくらいには優秀だ。
突入するべく砲弾を浴びせる。崩れていく建物に、瓦礫が舞って死のさきがけが踊った。
「くくく、死んだか」
「ファッキンなジャップですからなあ、卑怯な攻撃にでもでないともかぎりますまい」
捕らえたジャップ女を殴打するのは、日常の事。
ムクゲの花が、東京湾で炸裂して以来天下はチョン軍団のものといってよい。
潜入した猛虎軍団は、差別につぐ差別を乗り切った戦士たちだ。
「げっげええ、ぽげええ」
ジャップ女が股間で喚いている。喉が鳴っているようだ。
しつけがなっていない為に、吐瀉物を地面に撒き散らして白く染まった。
「このっ、ジャップが! ごみ! 寿司くってんじゃねーぞ!」
茶色い糞を口に放り込む。靴がめり込み、掴まれていた髪は抜ける。
まばらになった頭髪は、さながら日本の現状を表しているではないか。
当然ながら、慰安婦おばあさんたちが受けた屈辱はこんなものではすまない。
仲間の男は、転がった女の口に糞を入れては飛び上がって女の上に着地する。
我関せずか、建物の中からジャップがでてくることはなくて待ちぼうけだ。
男が手を振って攻撃を開始させる。
機械音と炸裂音が行進曲替わり。ひゅっと流れる風の冷たさに驚きながら、火を頼っていると巨大な何かが仲間たちを踏み潰していった。
「あいごー、兄貴ー」
逃げ惑う。男たちは、とっとと後ろに向かって走っていく。
「あいごー」
悪夢だ。ジャップが持ってよい兵器ではない。巨人だ。ジャップの卑劣な兵器か。
核兵器は、どこだ。弾頭を搭載したミサイルは? 至近距離にあっては使えないが、味方を利用して攻撃させるのがベストだろう。逃げ惑う仲間と攻撃をしている巨人は、踏み潰すのにためらいがない。
チョン軍団に愛はないのか。糞を食う女が、いつの間にか立っていて銃を向けている。
手足を折ったのに?
ありえないが、引き金をひく女に振り返ったが遅かった。
指まで折っておくべきだった・・・
直後に、岩が女を踏み潰す。
巨人は、赤い色をしている。ロシナの専用機であるところの赤い盾と同じ型であろう。
手には、斧槍。
18mはある巨体だ。金属に覆われた巨人が、構えを取り動きを止める。
「でてこい」
拡声器であろうか。辺りに響き渡る男の声がして、建物の反対側にロシナの機体が前触れもなく現れた。
空間を飛び越える技術は、地球にはなくて戦いにすらならない装甲は同様の異世界ならではのものなのだろう。
翔は、機体の中で操縦する玉を握り締める。光で反応するようになったのは、内装が変わっている。
槍による突きが、移動してきた巨人を操るガーフによって放たれる。
「くそっ」
赤い剣を抜き放ちながら弾く。弱々しい弾きに、振りかぶった斧槍が振りぬこうとして翔は耐える。
転ばされればどれだけの被害になることか。
建物も、振動の影響でか傾いている気がした。実際に、ガーフの機体が横に躱して突進してきただけであるが水場だったのかどうなのか。
「死ね!」
「あんたに恨みはないんだが!」
「ぬかせっ」
ぎりぎりと膠着して、後ろへ下がれば突きだ。槍の射程に、受けるか躱すしかなくて攻撃しようがない。
得物が剣で、そのガーフの赤い機体は背後に麗花たちのいる建物を人質にしていた。
騎士とは思えない悪辣さだ。
「あれ?」
バリアがない。バリアを張っていない。ロシナは? ロシナの人形は、首元にも手元にもいなかった。
ならば残ったということか。ロシナを信じて、1人で切り抜けるしかない。バリアがないのにガーフもきがついたのだろう。いよいよ慎重な突きが速さを増してきて、地面への配慮などお構いなしに斧槍を振り回す。
一撃、また一撃に消耗していく。どちらが、といえば翔で受ける側は痺れがくる。
火は、剣から消えていないがガーフを引き剥がそうにも一定の間合いから崩さない。
必殺の構えだ。逃がさないが、逃げられない意図を感じる。
逃げてくれれば・・・
翔にも、機会はある。火の剣で、ガーフの斧槍を溶かすのが先か。
はたまた、ガーフの斧槍が火の剣をヘシ折るか。あるいは、翔の命が消えるかだ。
「あんたの事情は、あんたのもんだろうが! 人に押し付けるな!」
「何を言っているやら。運命? 非常理だろう。棚から餅を盗んで振舞う様は、醜いものだ。貴様もまたその力をなんの努力もなく振るっている。おかしいだろうが。正すのだよ、世界を! これからだ!」
「そうだとしてもっ」
助けたい人がいる。その人だけを助けられるなら、それでいいのだ。
翔にとっては、麗花が全てで他はどうでもいい。
おまけについて来ている2人の姉弟だって、本当のところどうでもよかったのだ。
負けられない。だから、剣で槍の先を切り落とした。
「何!? おのれっ」
「あんたが、悲惨な目にあったのは知っている。だからといって、それを他の人に押し付けるなっ」
「ガキが、知った口をきく。お前らさえ、こなければ世界は平和だったのだ! なにもかも、お前らの自業自得だ。この光景も、お前らの、お前がやったことに違いない! 借り物の力で、勇者気取り、なんの痛みもなく代償もない。クズの極みがお前だということを自覚しろっ」
一際、力のこもった攻撃に拮抗が崩れる。
折り重なる死体の山。人が彷徨い、人を食う世界。そんなにも日本人は罪深かっただろうか。
「自分がやったことでなくても、その罪を背負えと? 知らない人の知らない罪を押し付けられる謂れはない!」
削り取られていく槍に、燃え上がる剣が優った。
「生きているだけで、日本人というのは悪なのだ。存在するだけで、人を不快にする旗を崇める邪悪なる種族である。俺が、ここで死のうとも貴様ら日本人を絶滅させようとする異世界人は絶えん。ぬあっ」
いよいよ短くなった槍を投げ、剣を抜いてガーフの機体が突進する。
正面からくる機体が傾いて、槍を弾いてもまた姿勢の崩れた機体の頭に翔の機体が持つ剣が突き刺さる。
「なん、だと」
「例え、そうであっても生き抜くさ。ごめんなさい」
機体の頭は、火花を放っている。食い込んだ剣を押し戻そうとする腕はあがらなかった。
「いいや、貴様らの命も持つまい・・・。だが、ただの、なんの魔力も持たない、ガキに負けるとは不覚。そうか、その輝き」
胸の装甲が開くと、赤い玉が転がる。
「およそ、浮遊城が去れば極寒の地になるのは必定だ。せいぜい、地獄を彷徨うがいい」
崩れる砂のように闇に、溶け込んだ。
「極寒だって?」
そうかもしれない。太陽が見えない大地を照らしているのは、翔の機体が持つ剣であり転がった赤い玉だ。なんであろう。機体に力が込められる気がして、手に掴む。