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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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異世界からの侵略者たち13 寒冷化、暗闇

 翔は、部屋の入口に座った。靴は履いたままだ。

 敵がくれば扉の側で斬るつもりで、反対の方を見た。


 少年が立っていた。トウヤだ。紺の半ズボンに、白いTシャツ。血がところどころついていて、臭う。

 にかっと笑顔を浮かべた。


「翔さん、お腹が減ってませんか」


 丁寧な言い方だ。翔は、昨日から食べ物を口にしていないのに気がついた。

 そのくせ、意識は覚醒している。眠気もない。


「大丈夫さ。冷蔵庫に食べれそうなモノがあるか探してほしいんだけれど」

「食べれそうなものはないですよ」

「そっか。なら、何か取りにいかないといけないな」


 餓死するつもりはない。

 トウヤの急な変様に戸惑いを感じる。腰のところにあるぬいぐるみを見た。首がとれかかっている。

 目からは白い綿が飛び出していて、もはや元の姿が想像できない。頭の髪の毛だったものはなくなっていた。

 

(いつの間にか、ひどいな)


 薄暗かった外の光がなくなっていく。扉のむこうから、あったはずの光がこない。

 背後を見て、それから扉を開ける。空は、暗くて廊下は死体が転がっていた。人の気配は、しない。

 扉のむこうか、マンションから下を見る。夜目がいい方ではない。


「こいつは、本気だな。まー詰んでるわ」


 肩に飛びついてきたぬいぐるみの感触がする。


「どういうこと?」


 赤い瞳が暗がりにいくつもあって、それが動き回る死体だということを訴えていた。

 廊下に灯りはない。扉の中に戻り、


「そりゃ、太陽を隠したんだろよ」

「そんな馬鹿な。卑怯じゃないか」


 本心だった。いくらなんでも太陽がでてなければ、地上は真っ暗闇だ。翔が見てきたアニメでは、太陽から降りそそく光を遮るなんて敵はいなかった。おしまいだ。隕石を落としてくるほうがまだ生易しい。怪獣やロボットで都市を破壊するほうがもっとやさしい。いんちきではないか。抵抗手段を奪って止めを刺しに来るなんて。

 

「麗花、行こう」

「行こうって、どこに?」

「ここなら、多摩川の上流かな」


 最低限、水があればいい。山が近いなら狩りをしたっていいだろう。

 留まっていても事態は、好転しない。引きこもっていても、安全ではないからだ。

 とにかく食料がいる。


(食料だって殺して、奪うしか、ない)


 翔は、人の死体を食べたいとは思わないが腹が減れば人も変わる。

 トウヤやアイカは守れるとは思えないが、付いてくるというのなら好きにさせるし残るというのならそれでも構わない。


「ちょっと待ってて、準備するから」


 何か、使えるものでもあっただろうか。

 扉の外に出る。人の姿はない。

 動き回る屍も、2階に上がってこない。夜のようだからか。

 夜そのものだ。本来は、昼なのに。


「水源に行くのは、悪くねえな」

「でしょ」

「ただ、お嬢ちゃんたちが生きてられるかってーと微妙だけどな」


 剣が、暖かい。それ自体が燐光を帯びている。赤い光だ。翔の周りが明るくなった。


「それで、なんで太陽がいきなりなくなったの。これじゃ」

「まるで、夜ってか? そりゃ、攻撃だもんよ。最初にこれでもよかったんだろうけれどな。締めこいつは効くぜ。なんたって、さみーからよ」 

「さみーって、他人ごとみたい、だよね」


 打開策は、ない気がした。遥か彼方、宇宙空間なのだ。一日でどれほどの気温が下がるのか。

 

「まあな。地中にもぐって凌ぐってのもあるんだろうが、科学技術がおいつかねーだろうし」


 そもそもが、日本全体が、世界が攻撃されて崩壊している。治安も最低以下。

 ましてや、死体が動き回っているのだ。軍隊にしても、自衛隊も米軍も壊滅していてはどうしようもない。


「その太陽を遮る作戦、やめさせるわけにいかないのでしょうか」

「そりゃ、おめえ、あいつならな」


 あいつとはユークリウッドという男のことなのだろう。

 言って止めるわけないとはいえ。


 手でぬいぐるみをつかもうと探す。ぎりぎりでよけられてしまう。見えない位置と手が届かない位置にいる。赤い光点が、そろりそろりと階段を上がってきた。動く死体だ。服装は、見るに堪えない。首が横になっていて、猛然と走ってくる。剣を抜いて、力を込めた。


(なんで、2階に上がってきた?)


 正眼に構えていると、見えない壁にぶつかったかのようにして死体の身体が止まり圧力で押し潰れたかのような格好になる。首のところを横に振った。


「バリア、いいですよね」

「まあな。寒冷化作戦は、なあ。ちょうど、翔と同じくらいの背格好の野郎を捕まえれば止むと思うけれどよう」


 わかっている。

 どんな子供だろうか。翔と同じ少年のような気がした。次にへばりついた死体を縦に斬る。

 赤い光で、死体が燃え上がる。不思議だ。死体は、燃えないだろうに。肉を焼く匂いがする。

 

「その子はどこに? 手がかりはあるんですか」

「ねえよ。あったら、とっくに元通りだろ。もしも、ユークリウッドが死んでたなら地上は地獄になる。人は、家畜に家畜が人に、な」


 意味がわからないけれど、見つけられなければ終わりと。

 探索するに、手がかりがないときた。正面から、3体の死体。いずれも飛びかかってくるが、目の前で弾けた。見えない壁は、強固なようだ。


「あんちゃん、扉があかねえよ」

「ごめん、今どくから」

 子供の声が扉からして、翔は死体が作った血の池に進む。足元は、水溜りをいくようだ。臓器が散らばっていて気持ちがいいものではなかった。


「バリアが邪魔なのかな」

「そりゃそうだ。他人が入れるもんじゃねえ。そうじゃなかったら、おめー首を食いちぎられてる可能性があったぜ」


 バリアさまさまだ。剣で死体を切れたとしても傷を負っていない保証はない。3人が外に出てきて、翔は剣の明るさで顔がわかることに気が付く。麗花は、いまだ眠たそうである。寝ていてもいいのだが、ガーフが襲ってこないとも限らない。


 麗花の服装は変わっていないが、トウヤとアイカの着込み具合がぐっと増えていた。

 外套に耳あてをしている。背中には、リュックがある。

 階段に差し掛かると、下には燃え上がる物体があった。素人が箪笥やソファーで作ったのだろう。

 その先には、動く死体が燃え上がって倒れている。


「こりゃ、勝手に死んでいる? というか」

「入れ喰いともいえんなー。上にもバリケードがあるから、上がれねえし」


 人の気配がする。登られないように待機しているようだ。声を出さない。通路の死体は隅に寄せられたり、減っているところを見れば何かをしたようである。死体の群れを突っ切るかそれとも燃えて死ぬのを見ているかなのだが、


「こいつは、やくいな。全滅するまで、時間がかかるぞ」


 移動が困難なほど死体が集まりつつある。剣の灯りに当てられてか、それとも温もりを求めてなのかわからないが動く死体が勝手に集まって勝手に死んでいく状態だ。翔だけなら、バリアのおかげで進むことができるだろうが、

「まいったなあ」


 剣でソファーを突き飛ばし、箪笥を押しやる。階段は、人が横に2人並ぶ程度だ。

 おしやれば、燃える死体が上がってきて剣を斜めに振り下ろす。

 赤く輝く残光を伴って斜めにずり落ちる。男だったか女だったか気にしていられない数だ。

 数が、どんどん増えていく。剣を振るうに疲れはないものの、後ろから奇襲を受けないとも限らない。


「来る方向が決まっているのが救いってな」

「ははっ」


 翔は、部活なんてしていない。帰宅部であるからして、運動は苦手、というわけでもなくて筋トレ自体は嫌いでもなかった。1人では、剣を振るっていられなかっただろう。作業的に斜め、横に振っていくだけなのだが血しぶきがする。ロシナのバリアがなければ、真っ赤に染まっていたことだろう。


(にしても、これじゃ)


 生きている人間が、他にいるのか疑わしい数だ。階段から下は、虚ろな目をした死体ばかりで総じて半裸か身体の損傷が激しい死体だったりと様々。切りがない。斬って、斬って、斬って、燃えている。

 同じ場所に積み重なるので、山になってくるのでまたそれを斬る。


 山が生きたかのように蠢いたのには、翔もびっくりした。


「ひゅー、やるねえ。もう手馴れた処刑人ってとこか」


 音がする。車か。ヘッドライトで道を照らしている。西からだ。通りに面していて東は東京都心部。

 大型のトラックだった。改造しているのか。荷台からは、男たちが銃を乱射していた。翔にも、弾丸が飛んでくる。問答無用だ。


 トラックの荷台には人がくくりつけられてあった。人だったものが。死体になっている。 

 全裸で、裸身が浮かび上がった。トラックは、3台で真ん中から人が降りてくる。


「部屋に戻ってて」


 弾丸の嵐だ。軌道を防ぐようにして立つ。


「ハロー、ファーックジャアアップ」


 乳房が切り取られた女を投げつけてきた。下は履いてない変態だ。届かず地面に落ちる。

 その変態男が、声を出し左右にいた男たちが黒光りする銃を構えた。

 片膝をついた状態だ。


「ヘイトネトウヨ、そいつをよこしな。てめえには、持ったいねえしろもんだろがよい」


 翔は、剣を振るった。赤い軌道が、男の足元を襲う。見えているかのように、髪を刈り上げた男は宙に避ける。

(そんな馬鹿な)


「シット、ファッキンん玉無しジャップが、抵抗してんんじゃねえ! うっがああぁ」


 トラックの運転席に括られていた生首とって、地面に叩きつけた。手に持つ銃口は火を吹いている。


 剣から出る光を見切ったというのか。いずれにしても、首が落ちる部下の2人は倒れている。

 死体は、減った。そして、増えるのだろう。仲間に入るのは、翔かそれとも突如あらわれた敵か。

 どちらかなのだ。


 階段を駆け足でおりながら、走る。荷台の上からは、弾丸が降り注いで転がされた榴弾を蹴り飛ばす。

 運転手席の窓に当たったが、硝子は割れていない。特別なトラックのようだ。

 是非にも奪いとりたかった。弾丸は、バリアに当たって地面にぽろぽろ落ちていく。


「キルキルキル、ヘイトジャップ、ミートにしてやれい!」

 

 そう言いながら、先頭のトラックは前に動いていくではないか。2台目を縦に斬る。荷台が斜めになって、銃弾とともに人も崩れ落ちた。引火して真上に火の壺ができあがった。閃光で、真っ白になって浮き上がる。3台目が、後ろに走っていくところだ。


 銃は、翔に効かないのを悟ったのだろう。思い切りがよくて腹立たしい。

 せっかく、足を奪えるところだったのに。

 

「あいごー、あいごー、助けて」


 残ったのは、半死半生の男たち。

 

 叫ぶ男へ無言で、脳天めがけて剣を突き立てる。荷台の横にくくりつけられた死体が動く。

 しゃべっていた男は、リーダーだったのだろうか。 

 いずれにしても、翔の能力を知られたからには倒さないといけない。


「やっぱ、お前才能あるよ」

「嫌な才能だと思いますけど」


 特に、寝込みを襲われれば翔とて殺される。振り返って見ても死体は、銃弾で掃射されてしまったように見える。1階とその先にある駐車場にいた動く死体は、動かない死体になった。駐車場が広い。車は、軒並み破壊されているが、部品だけでも使えないだろうか。トラックの残骸は、道で燃え上がっている。そちらは、燃焼が収まるまで無理だろう。


 呻き声を上げる男たちに止めを刺し終わると、部屋に戻ることにした。


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