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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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異世界からの侵略者たち 11

 通りを獣人の集団が歩いている。

 先頭を歩く者は、銀色の耳が特徴的な女だ。顔にある目は、どこか挑戦的でひと目で離せなくなるだろう。

 口元は、自信に満ちているのか。嗤い顔だ。掴みかかってくる人間の死体を殴っては、地面に突き飛ばしている。すると、潰れたトマトが散乱している光景が出来上がった。白いものは骨だ。


 そんな彼女たちだから、誰も駆け寄ってくるはずもないのだが。


「セリア様。お話したい儀が」


 と、斜め後ろから追いつく男が声を上げる。ずいっと押しのけられる格好になった牛娘は「なにこいつ」という顔になって次に頬を膨らませる。


「ふっ、ガーフか。ユウタが見つかったのか」


 これしか興味がなく、これしか聞くことはない。


 黒い外套の腕が振るわれれば、影のように黒く墨を塗りたくった腕のようなものが伸びて虚ろ顔で動く死体を飲み込む。数も数えるのが億劫なほどであったが、通りに見える限りの死体は影が引いた後に残っていない。見えてしまうのが弱点だが、見えなかったら効果もないのではないか。見えないものは存在しないのが、世界というものだ。


 電磁波や磁気などと違って魔術、スキルにて効果を発揮するものは色が出る。

 男は、目を半眼にして、


「いえ。未だに見つからず」


 否定した。少女にとって、意味のない会話になる。


「では、何の甩だ」


 セリアが、日本を探しているのは何のためか。ユウタという名前の男を探している。セリアの主は、次の世界で探すなどと言っているが。他所には、居ないのではないか。ユウタは、日本が大好きなのだ。日本人を依怙贔屓にするくらいには。転生しているとしても、日本の可能性が高い。でなければ、無条件で日本人を援助したり、職を探したり食料をやったりなんてしない。


(やつめ、一体、何を考えている)


 逃げ出した理由がわからない。理解できないのだ。優秀な雄は、雌を大量に養う義務がある。でなければ、揃って餓死してしまうではないか。セリアは、農作業なんてしたくないし闘技場で遊んでいるほうが性にあっている。 


 腹筋が、熱を帯びる。練り上げる気で町並みを瓦礫に変えるも容易く。


 セリアが放った技は、影の術で威力のほどは30mほどの大槍を数回振るうに等しい。投げてやれば、楽々に人の集団を引き千切って真っ赤な大地にすることだろう。獣人とただの人では、運動能力からして天と地ほどの差がある。決して太刀打ちできないから、スキルだの魔術だのを人間は生み出して戦うのだ。


 その内の1人が斜め後ろから、


「お力を貸していただきたく、参上仕りました」


 大体。検討がつく。男の目は、ぽっかりと黒い空洞になっていて視点は定まっている。


 わかっていることだ。ガーフという男は、未だに日本人を恨んでいる。憎んでいる。一体、いつまで憎むのか。妻子を失ったから。わかる。セリアとて、家族や友人が戦争に巻き込まれて戦場を駆け回った。今も昔と変わっていない。だが、時間が憎しみを風化させる。忘れられないというが、人は忘れる生き物だ。やったこともやっていることも。


「一応、聞いておく」


 器用に、歩きながらお辞儀をする。だからといって、セリアが受けるわけでもない。


「日本人の殲滅を。今この時こそ、貴方にとっても怨恨を晴らす絶好の機会のはず」


 興味がないのだ。なぜなら、狼国を攻めこんだのは犬国を牛耳る日本人たちであって日本と出身地くらいしか関わりがない。妻子を殺した日本人が憎いあまりに日本人全体を攻撃、殺害しようというのはどうかしている。それでは、犬人をお芋若きも女子供まで殺さなくてはいけない。セリアは、強い相手と戦うのが好きだ。


(闘技場で、強そうなのも最近はいないし。ユウタがいないと)

 

 犬歯が鳴る。


 強そうにしている者と戦うのも好きだ。それが、大して強くなくてがっかりしても捻り潰すのも好きだが戦いにならない相手を蹴り飛ばしても面白くもなんともない。銃を手に襲いかかってくるならば、まだ相手もしてやろうとも思うが、無抵抗で死体に襲われて死んでいる人間を相手にする?


「私は、戦いが好きだ」


「は。存じております」


 眼の前には、死体に返って動かない日本人の破片が飛び散っている。ユウタの姿はない。

 では、何のために歩いているのか。ひょっとしたら、ユウタが飛び出してこないとも限らないからだ。

 で、斜め後ろにいる男は貧弱な相手を叩けという。


「隔絶した戦力差があるな? これは、もう戦いですらない。勝手に死んでいる相手を如何にせん、というよりもう放っておけばいいだろうよ」


「ロシナ様の気が変わってしまったようで」


「ふむ」


 さもありなん。ロシナという男は、冷たいようでいて甘い。自衛隊を殲滅するのに、わざわざ戦車から出る相手は攻撃しないし飛ぶ筒から飛び出した人間を撃ったりしなかった。兵士なら倒しておかなければならないのだが、攻撃をされなければ放っておいてもよいとばかりだ。


 さしあたり、獣人を引き連れて練り歩くのだが、大型の車に乗った男たちが突進してくる。遠目に見て、動く死体を踏み潰すくらいに大きな車で原子崩壊弾と思われる光でも壊れていないらしい。影の刃をその前に置くと2つになって、左右に分かれる。銃を持った男たちは投げ出されて、痙攣している。石を投げて止めを刺していく。

 

「が、手遅れだろう」  


 別に植民地にしたいわけでもないし、食料に困っているわけでもない。


「手遅れとは?」


「放っておいても、この星の人類は滅ぶ。なくても、1億を切るだろうさ。積極的に、攻撃したいという気持ちはわからんでもないが、面倒だぞ」


 すっと下がっていく。自分の手で止めを刺したい。そんな風であるから、味方が増えないのだ。アルーシュが殲滅を許すなら浮遊城を都市に落下させればいい。強固で圧倒的な質量は、都市を押し潰し熱波で人は焼け死ぬ。全ての都市で質量攻撃を制限なくやればいいのだ。貧弱な原住民は鏖殺だから、それでユウタが見つかる。あるいは、戦闘にならないというならそうしていただろう。


(だが、それで何になる。悲しみばかりでキリがない上に)


 合理性がないのだ。理由が、怨恨では小さすぎて話にならない。

 動き回る死体というのは、数を次から次に増やしていて通りに出てくる意識のある人間がいるのか怪しさがでていた。道を走る車はなくて、そこかしこで火が上がり家からは煙が出ている。


(詰んでいるのだから、放っておけばいいものを)


 彼ほどに、日本人を恨んでいるミッドガルド人というのはいるのか。

 小首をかしげ、後ろに控えている雌に、


「ミーシャ、お前は、どうだ?」


「殺したい! 日本人、どんどん殺したい!」


 眉の間に皺ができる。ぐりぐりと押さえ、ほぐす。

 駄目だった。セリアだけなのだろうか。それほどに、もう恨んでいないのは。


「駄目ですよ~。そんなことを言っちゃ」


 牛娘が嗜める。 


「やるなら、こう、こうですよ」


 黙ってやれというのか。手にした槌が地面をえぐる振動が響く。

 かように、獣人が日本人を憎む理由としたら裏から操ったり特殊な能力でもって戦争を起こしたりするからだろう。大量虐殺も大好きな連中だ。なぜ、か日本人だということはばれたりしないし異世界から日本に攻め込んでくるなんて想像にもしないのだ。


 牧師が憎ければ教会が焼き討ちに合うものなのだが。

 好も愛も存在しない無色な世界であるのかも。そして、苦境にあって連帯をせず野放図に逃げ回るばかりだ。通りが、一層広くなったところに蠢く肉塊を見つける。死体が合体したような風体だ。


 黒い染みが広がってくる。セリアも同様に影を伸ばす。食い合いでは、負けられない。

 

「あれ、なんでしょうか」


 死体の山だ。稀に、瘴気を帯びて魔物になる。魔物は、山の中腹に口ができていて死体を手に口へと運んでいる。異様な光景だが、魔物にしては奇怪でもなんともない。影に吸い込まれるようにして消えた。中に落ち込むと、なかったようにして赤い色が広がっている。山は、一つではない。


「どうなったんです」


「食べた」


「え?」


 美味くは、ない。咀嚼するわけでもないのだが、下手物でも食えるならなんでもありだ。

 

「あの影って、吸い込まれるとどこへに行ってるんですか」


 わからないのだ。


「地獄だな」


「ひぇっ」


 地獄ではない。きっと、腹だ。感触はないが、魔力に変換して真っ赤な液体は吐き出すだろう。

 ユウタの前で、喰うと吐けなんて言われたものだ。


「さっきの話なんですけど」


「モニカもか」


 もじもじしている。油断しているので、周囲から砲撃でも浴びれば頭でもなくなりそうだ。


「日本人は、邪悪な人間だと聞きます。ガーフさんに協力して、倒しちゃいましょうよ」


「お前は、理由なんてなさそうなんだが」


 山は、見えなくなった。死体の山で魔物を作ろうなどと、粋な真似をするのは何者か。

 俄然、そちらに興味が湧いてくる。死霊術師気取りで、召喚する生贄というならわからなくもない。

 

「日本人がいるから、異世界で好き勝手する害悪が生まれるんですよ。彼らを根絶やしにしないとガーフさんのような被害者が絶えません!」


「そう言うな」


 ガーフのように妻子を殺されていなくとも、同調する獣人がいる。厄介な問題だった。

 セリアでなければ暴走する獣人たちが、協力して日本人の生き残りを殺してまわりかねない。

 死んだ日本人は、良い日本人で死なない日本人はユウタだとか言い出す。

 可能性の問題で、零ではなさそうなのだ。


(ロシナが敵に回ったとしても、問題ない)


 彼は、ユウタではないから全周囲バリア程度の能力だ。所詮、バリア。相手の攻撃を防いで、体当たりが必殺技でしかない。間合いが、移動するスピードで光よりも遅く風速でmとかいうクソ雑魚である。その上、音も光も何もかも防ぐというものではないので掴んで叩きつけているうちに、死ぬ。水球をぶつけると降参する。穴だらけになって死ぬのが、恐怖になっているらしい。


(何もかもを吸い込むバリアなら強そうだが、そんなもの内側に存在できない)


 内側も吸い込むものになりそうだから、自滅しかない。

 セリアの使う影の術は、説明しようがない術でどうなっているのか未だ暗黒物質としかわかっていない。

 

「お前たち、ミッドガルドの兵士であることを忘れるな」


「はーい」


 面白くなさそうだ。だが、面白くなくとも任務でやりたいことなのだから。

 主に、セリアの都合であるとしても。

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