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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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異世界からの侵略者たち 10

 瞼が開くと、薄暗い。


「起きた?」


 頭を起こす。見知った顔があった。テーブルの対面に麗花がいる。

 目をしぱしぱと瞬かせていた。辛そうだ。


「うん」


「お前さ。寝る時は、寝るって言えよ。全滅するところだったろ」


 クリーム色のカーテンで仕切られているが、まだ明るい。マンションは、拠点にするのにもってこいだ。電気が来ているので灯りがつくはず。

 なのに、灯りをつけていないので薄暗かった。


「疲れてるんだよ」

「そりゃあな。わかる。だけどよう、この子を先に寝かせるべきだったんじゃねえの」


 麗花がうとうとしている。そのまま横になってしまった。限界だったのだろう。

 トウヤの姿が見えない。


「あの2人なら、寝てるぜ」


「うん。これから、僕らはどうするべきだと思いますか」


 ショウたちは、西に向かっているがそれで助かるという保証はない。地上が動く死体だらけな上に、外人が襲ってくる。見た目が日本人で騙されそうになるが、やっていることは気狂いと一緒だ。当面の水と食料を手に入れないといけないが、奪い合いになることは必定だった。


「はっ」


 人形は、腕組みをしている。外は、と立ち上がってカーテンを横にすれば木製の棚が両側に見える。町並みは、多くが崩壊して崩れていた。道路に見えるのは、動く死体の群れだ。死体は、一体いつになったら動きを止めるのだろう。明日か。明後日か。それとも、一ヶ月は動き続けるのか。


「終わりだろうよ。どのみち、人間同士での殺し合いはなくならねえ。安全な場所なんてねえって」


「ですかね」


 漫画のように、巨大な空を飛ぶ城やロボットが存在するのだ。自衛隊が何をしているのかしれないが、原子爆弾が炸裂したりしている。現状では放射能に汚染されて食料が、食べられなくなって餓死する可能性が格段に跳ね上がった。生き残るには、まず食料を手に入れないといけない。


 ロシナは人形だからいい。だが、水は手に入る。

 蛇口を捻れば、水が出てくるのだからカップラーメンでも作れる。お湯は、と試してみた。


「暖かい。お湯だけでも違うかも」


「あんまり、水は使うなよ。飯が手に入らないと揃って餓死だぞ」


「はい」


 言われるまでもない。だが、扉の向こうには動く死体がいるのか。わからないので、動けない。

 少なくとも麗花が、目を覚ますまでは待機だ。


「つっても、お嬢ちゃんたちが寝てるんじゃあな」


「死体の群れが動いてこちらにくる可能性だって、ありますよね」


「まあな。連中、知能はないが人に呼び寄せられるからな。飯を探しに行くのだって命がけだが、飯、食ってるか? 水だけ飲んでちゃ体が持たねえぞ」


 3つ目の部屋に食料が残っているかもしれない。一番近い可能性だ。扉の方に近寄って、気配を伺う。扉の向こう側に、人は居なさそうだ。 

 隣の部屋に人間がいるなら、争奪戦になる。


 ショウは、扉の取手に手をかけた。


「ちょっと行ってきます」


「どこにだよ」


「3つ目の部屋です。食料が残っているかもしれない」


「あーあるかもな。隣の奴と出くわしたら、どうするんだ。決めとかねえと死ぬかもしれねえぞ」


 死ぬかもしれない。だが、食料が無くても死ぬ。空腹で動けなくなって死ぬのは、嫌だった。

 押して開けた。血まみれの死体は、いない。


「殺す、しかないんでしょうか」


「悩むところか? わっかんねえ。他人の方がお嬢ちゃんよりも大事ってんなら、言うこたあねえよ」


 結局。そうなのだ。麗花が大事。他人など殺して食料を奪ってしまえとロシナは言っているのだ。

 扉を開けたままにしておく訳にもいかない。ベランダ側は、鍵がしまっている。硝子が嵌っているので割れれば音がするはずだ。


 果たして3つ目の扉は開きっぱなしで、中には倒れた人の死体があった。血の匂いがして、死体は死体に引かれないとも限らないが優先すべきは食料だ。冷蔵庫を探せば、すぐに見つかって牛乳パックと食パンを確保できた。肉は、四角いプラパックに入ったものがある。すぐに引き返す。


 左右の扉が開いたか。入り口から数えて3つ目部屋から出てみたものの、人が出てきてはいない。息を殺して様子を伺っている気がする。ショウだったら、絶対にそうするし勝てそうな相手だったら戦うかもしれない。

 1分たっただろうか。ショウにしても素早く5つ目の部屋に戻って、リビングへと上がろうとして靴を履いたままなことに気がつく。麗花の靴を脱がすべきだろうか。わからない。


「戻ったかよ」


「ええ」


「結構な収穫だが、4人じゃあ持って2日か? パンの耳と水だけで過ごせりゃいいけどよ」


 そうなのだ。2人ではない。4人だ。部屋から見渡すかぎり、治安が回復する見込みはない。

 今までおとなしくしていた人間だって、暴徒と化す恐れがある。

 

「そういえば、動く死体って2,3日で動かなくなるって言ってたけど、人を襲うのはなぜ?」


「あーあれか。言うなりゃ食料を求めてるんだろ。汚染の進んだ人間を食ったら、どうなるか知らねえけど2,3日っつったけどな。ありゃ人間かお仲間を食わねー時だ。そこらじゅうに固まって動いてんなら、共食いだってやらあな」


「じゃあさ。ひょっとして、日本人が全滅するまでゾンビが増え続けるって可能性もある?」


 頷いた。風呂に入りたいが、水は貴重だ。


「そうだな。十分に可能性がある。つーか、その前に他国に攻められてるって現状に気が付かないままに滅ぶかもしんねえな」


「どういうことですか」


「そんままだ。考えろよ。あと、水を風呂場に貯めておいたほうがいいな」


 早速風呂場へと行き桶を洗って、水栓を捻った。


「これで、食いもんがなくても1日2日は持つぜ」


「ありがとうございます」


 それで、床を歩く人形におじぎをして手に取る。


「他国というのは?」


「思い浮かばねえかよ」


 なんとなくわかるが、口にもしたくないのだ。


「北朝鮮、韓国、中国、ですか」


「それに、ロシアも混じってんな」


 絶望的だ。ロシナの所属する国と戦ったのは、もはや馬鹿としか言いようがない。


「援助してきた国に滅ぼされるって、どんな気分なんだろうな。俺は、いい気味だと思うが」


 ため息が出る。それでなくとも、ロシナの国には日本を日本人を憎んでいる軍人がいる。

 理由は、あるのだろう。そして、息を吐くように他国を嘲笑する性癖がある。


(だからって、訳じゃないんだろうけど。王子様の男を探してるってのもわからないよなあ)


 それとも、日本人が転移転生すると異世界人の知能が下がる世界なのかもしれない。


(じゃなきゃ説明がつかないんだよね。装飾がごてごてしてるくらいあるのに) 

 

 肉の両面焼きがわからない異世界だとか浮き輪をしらない異世界だとか色々とあるけれど。

 異世界人からしたら、日本人たちの方が馬鹿に見えるといえる。


(さんざん、異世界で好き放題する本がでるんだもんな)


 婚約破棄物が麗花だって好きだった。なぜ好きなのか理解できない。

 婚約破棄物に共通している事は、常に公爵だったり伯爵だったり裏の権力者だったりする親がいるのだ。 そう親の権力で逆襲しようというのが、常に存在する。自分ではやらないのだ。

 

 誰かの力を当てにしてすがっているようにしか思えなかったので、どうしてそうなのか理解できなかった。ロシナが、日本に帰ってきて復讐? しようとしているのは見えてくる。だというのに、ショウや麗花を助ける。矛盾していた。


「ロシアはなんで攻めてくるんですか」


「そんなの、決まっているだろ。負けそうな国の火事場泥棒が連中の18番じゃねえか」


 戦っては勝てないからか。なんだかんだと質問には答えてくれる。


「米国は何をしているんでしょう。日本は、同盟国ですよね」


「ああ。連中、日本を助けるどころじゃねえから。自分とこに火がついてっから無理だろ」


 火をつけた側なのだろう。それが、なんなのか知ったところでショウがどうこうできる事もない。

 明日、生き残っているかすら怪しい。テレビは付かず、ラジオはない。動く死体がベランダから入ってくる可能性、あるだろうか。


「海沿いなら、魚を釣って行きていけますかね」


「海? お前、いや、人間が食えねえんなら海ってのも1つの手じゃあるが・・・魚人って知ってるか」


「なんですかそれ」


 魚人なんて知らない。魚が人。人の形をした頭が魚のなにかを想像した。漫画にだったら、居たかも知れない。音がする。通路を走る音だ。人か。扉に耳を押し当てる。「開けろ! 開けてくれ!」 音がする。扉を叩く音だ。誰が入れるのか。3つ目の扉は開いたままだ。しかし、そこに入る気になれるかというとなれない。


 リビングからして血の池と臓物が散らばったテーブルがあった。


「魚人ってのは、魚の神を崇める連中だ。深淵なんて目じゃねえ数がいる。こっちに、アル様が出現したのに合わせてやってきてるだろうから目も当てられねえ様になっているだろうよ」


「戦えば、どうにかなりませんか」


「命を賭けるには、相手がわりいな。少なくとも、ゾンビ如き出会った端から倒してけるようにならねえと」


 勝てないのか。扉の向こうでは、悲鳴と咀嚼する音が聞こえてきた。常識に照らし合わせるなら、もっと早く扉を開けてやるべきだったのだろう。ショウの体力は回復している。ならば、と扉を開けて確認する。上にも下にも右にも動く死体はいない。壁に張り付いている死体もない。


 向かって入り口の通路で倒れている男に、のしかかるゾンビの頭を斬りつける。

 勢い良く火が上がる。心なしか火の勢いがいい。1つ。2つ。向こう側から両手を突き出して、掴みかからんとする腕を払い斜めに剣を振る。赤い筋が走ってずるりと上半身が落ちた。


 ぞろぞろと寄ってくる死体を思う様に切りつけながら、倒れた男の頭を貫く。


(キリがないけど、炎を出すわけにはいかないか)


 そんなことをして、扉が溶け落ちたらことだ。次は、生きた住人を殺す羽目になることだろう。狭い通路で、1人か2人しかやってこれないのは都合がいい。疲れを感じない適度な運動に思えてきた。


(そういや。ステータスカードで、能力値があがる、とか)


 ロシナは、バランスを勧めていた。それならば、それに乗ってみるのも悪くない。

 奇怪な動きをする死体を待っているのだが、特段に変哲もなく。

 積み上がる死体を、剣でそのまま相手の方へとぶちまけ始めた。

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