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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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異世界からの侵略者たち 9(翔、麗花、ロシナ人形、トウヤ、アイカ

 タワーマンションというべきか。黒っぽい色の壁に、へばりついた赤を見て背筋が寒くなった。

 時間は、ない。左右から死体が迫っている。駆け込めば、中にいたのは2m近い半裸の男。

 首があらぬ方向を向いていた。


 剣を突き立てる。そのまま上へ。肉の焼ける匂いに、ひしゃげた扉から新手だ。

 血まみれの女が、両手を前にして掴みかかってくる。

 手を切り、胴を下から上へ剣を動かす。


「ひゅー、やるじゃねえか。様になってきたな? おい」


「時間がないですから」


 後ろからは、動く死体が迫っている。前へ進むしかない。廊下には、鉄製の格子がはまっていて侵入経路は入り口だけのようだ。

 2階への階段には何もない。防ごうとは思わなかったのか。扉は、硬いのかもしれない。

 階段の踊り場へ足を進めると、人が降ってくる。


「せいっ」


 男か。女か。真っ二つになって、血の雨が降り注ぐ。しかし、雨は見えない壁に阻まれたかのように落ちていった。


「気をつけろ。こいつらの体液を浴びれば、ゾンビになるかもしれねえ」


 汚れた綿が飛び出すぼろぼろの人形は、肩にへばりついた格好で喋る。声が出たり、頭の中に話しかけたりと器用だ。2階の廊下には、人影があった。翔を見るや否や駆け寄ってくる。顔面にある目玉は、赤い光を放っている。


(赤い・・・目?)


 人の目は発光したりしない。

 発光する理由はわからないが、剣を向けて念じる。炎よ、と。すると、オレンジ色を帯びた熱が広がっていき人を包み込む。受ければ、よろめいて倒れた。また、1人。燃え落ちて、黒いなにかになった。


「あんま、建物で剣の力を使うなよ。燃えちまったら、休むことなんてできねーんだからな」


「ごめん」


 入れそうな部屋は、どこかないか。わからないが、鍵がしまっていそうだ。


「こーゆーとこだと、鍵を壊すしかねーけど。どうする?」


「空き部屋を探すしかないよ」


 あるのかどうか。それが問題だった。通りからは、中国語らしき言葉が聞こえてきた。見れば、男が指を指してくる。ついで、拳銃を向けて引き金を引くではないか。さっと身を隠すものの、気配は上がってこない。

 通りを駆けている。それを追うのは、動く死体だ。もう、何がなんなのか訳がわからない。  


「翔ちゃん、大丈夫?」


 麗花の


「うん。平気さ。どこか空いている部屋があるといいんだけど」


 2階から3階への階段からは、息遣いが聞こえてくる。

 手前の部屋は、空いてなさそうだ。まっすぐ廊下が伸びている。進むべきだろうか。

 一方通行だけに、部屋から死体が出てくれば身動きが取れなくなる可能性がある。


「あんちゃん。俺が見てこようか」


「いや、危ないから僕が見てくる。すぐさ」


 扉が壊れている部屋がある。よく見れば、3つ目の部屋の扉が取れかかっている。

 中は、どうなっているのか。覗き込めば、走り寄ってくる女。構えを取るに、赤い目玉が輝いている。

 ついで、伸ばされる手を剣で払って返す剣で薙ぐ。


 トイレか。そこから覗いているのは、男だ。顔が、崩れていた。のけぞった姿勢で、寄ってくれば股間から剣に突っ込む。廊下が、血の池になってしまった。


 トウヤは、武器も持っていない。身軽ではありそうだが、ゾンビに捕まればすぐに仲間にされて終いだろう。4つ目、5つ目。5つ目の部屋は、扉の上に筒状の金属物がついている。住人がいない可能性が高い。階段に取れかかった扉を持っていくと、塞ぐように置いた。


 1つ目と2つ目の扉が開かないように祈るばかりだ。いや、中から死体が動いてこないのを、というべきか。5つ目の扉の上側についている鍵を剣で溶かして、扉を開ける。4つ目と2つ目、1つ目に人の気配はあるものの、閉じこもったままなのかでてこない。


 寝る場所は、確保できた。

 だが、翔は心が休まらない。どうして、日本は動く死体で溢れているのか。

 疑問ばかりだが、南にもいけない。中は、どこにでもあるアパートの一室だ。フローリングを靴のまま上がっている。扉を閉めると、鍵をかけた。


「やっと休めるね」


「安心するのは、まだ早いんじゃないか」


 そうだ。ソファーにトウヤの姉を麗花が寝かせている。


「一息入れたら、どこかへ移るのがいいんだろうね」


「だな」


 水道の蛇口を捻ったが、水は出てこない。電気は、つく。どういうことか。テレビも、置いてあった。

 備え付けなのか。テレビの電源を入れてみたが、画面は灰色のちらちらとしたものだ。どこも放送は、していないようである。


 ラジオは、ないのか探すもののない。携帯を見れば、充電が切れている。充電器はない。

 困った。トウヤは、冷蔵庫の中を見て残念そうな身振りをする。麗花の対面に座り、


「中国語を話していたってことは、中国人なんだろうけど。なんで、銃を向けてきたの」


「え? 戦争だろ。あーお前、何も知らない口か」


 人形は、隣で横になっている。中国人に恨みを買っている覚えはないのだ。翔は、万事控えめに生きてきたつもりである。顔を正面に向けると麗花は、首を横に振っていた。


「よくわかんないんだけど」


 そもそも、動く死体が動き回っているのも訳がわからない。人間は、死んだら動かない。

 動くことがまず信じられない。ゾンビ物の映画は、見たことがあるしゲームもやったりするものの現実ではない。動物が車に轢かれてしまえば、死ぬ。死んだら動かないものだ。


「まず、そうだな。21世紀の戦争とは、人口による侵食型ということを認識しているか?」


「いえ。初耳です。侵食ってなんですか」


 侵食。それが、うろついている中国語を話す人間のことなのだろうか。


「移民として、目標の国に入り込む。そうして多数を形成すればどうなる」


「それは、その国の国民になるんですよね」


「ならないんだな。これが。国家に忠誠を誓わない人間を増やすということが如何に危険かってことを、日本人は理解していない。理解もできないんだ。なんせ、想像できないし議論もしない。長いこと内乱とは無縁だったろ」


「確かに」


 戦争で負けて、民主国家になったくらいの認識しかない。


「移民を増やして、大人しい日本人のようにこき使えると思っていたら大間違いなんだがな。明確に違う価値観と常識を持って、自国の文化を植え付けるってが侵略以外のなにかに思えるらしい。だが、こうやって内乱が起きたってマスコミってのは責任も取らないし自覚もないだろう。後で、責任なんて微塵も感じてない糞を垂れ流すだけだ」


 そうなのか。翔からすると、移民がどうこうなど遠い国の話にしか思えなかった。コンビニにいけば、外人と思われる人間が店員として働いているのも普通だったからだ。


「移民を入れれば、内乱になるなんてテレビも新聞もそんなこと一言も言っていなかったですよ」


「言う訳がないだろう。危険は、教えず。被害は、顧みず。テレビと新聞がつながっているから、自浄作用もない。談合が、どうのこうのと他の業界に言うけれど参入障壁を作って自分たちはぬくぬくと過ごすその傲岸さ。頭のおかしな連中だ。全員、ぶっ殺してやるよ」


 怨念に満ちた声音だ。このままロシナ人形の言うことを聞いていていいのか。

 新聞、テレビ関係の人間に出会ったら剣を振るわされそうな気配だ。

 

「殺されるほどですか? そうは、思えないんですけど」


 窓の外は、煙が立ち上っている。近寄ると、通りから乾いた音が連続して聞こえてきた。

 銃声だ。すっかり、耳に馴染んでいる。


「奴らが、糞なのは自分たちはいい。他所は駄目っつー片務性を持っているところだろう」


「政治家の人が、変えれば良いんじゃないですか」


「変えられたやつは、いねえ。消費税だってよ。これからも、過去も、だ。そもそも、供託金なんつー民主主義を破壊するシステムを見逃しておいて、いまさらだろうがよ」


 供託金。これもまた、知らない。翔は、知らないことだらけだ。そうして、ベランダの壁に手がへばりついたの見る。手だ。どうなるのか。腰に下げた剣帯から身を抜くと。


 ベランダの窓を開けて、ちょうど突き出た頭の赤い目玉と目玉の間に突き立てる。


「ひゅう、やるねえ。ゾンビ狩りが板についてきたじゃねえか。油断は、すんなって言おうと思ってたのも杞憂だったな」


 窓を閉じて、


「それで、供託金のどこが民主主義を破壊しているんですか? マスコミの方と関係がどうあるんですか。このまま日本は、どうなってしまうんですか。中国人に支配されるんですか」


「質問ばっかだが、まー教えておいてやるよ。まず、供託金な。こいつが、あると金のないやつは立候補できねえ。とすると、金を持っている人間か組織しか立候補しなくなる。となると、どうなる?」


 金。翔は、親から小遣いをもらうことはあっても2-3千円だ。麗花は、どうなのか知れない。


「さあ。わかりません。供託金って、なんですか」


 想像できない。供託金からして、わからない。供託金とは、一体なんなのか。


「そこからかよ。まあ、高校生だもんな。もやしの癖に、ガリ勉じゃないときた」


「それは、余計だと思います」


 ぐぐるにも携帯は、使えない。充電器を探してみるものの、部屋には置いていないようだ。


「供託金ってのは、立候補した時に必要な金だ。得票率の低い冷やかしを排除するってのが、表向きの名目だがね。こいつが、曲者で多くの人間は気が付かない。金がないと立候補できなってのは、金持ちがバックにつかねえと政治家になれねえってことによ。金が、政治を動かすようになるのも当然、金持ち向けの税制になるのも当然な訳よ。だが、テレビも新聞もそんなことは言わねえだろ? だから、糞なんだよ」


「わかりました。でも、糞糞言い過ぎですよ」 


 すると、人形の頭が肥大化した。恐ろしい。頭から、湯気が立っている。目の錯覚か。擦ったものの、しぼんでいく頭は赤い。黒い取れかかった円盤の瞳が、元の位置に戻って大きくなっている。甦ったかのようだ。


「てめえ、親父はブンヤじゃねえだろうな」


 殺されるかもしれない。そんな剣呑な雰囲気をしている。

 翔は、人形に得体の知れなさを感じた。


「違いますけど、仕事と畑をしてる半分農家ですよ」


「さいたまだもんな。わかるわ。だがな、連中が移民を促進させて内乱まで持ってく原因になったのは確かだって身を持って実感したんじゃねえか? 通りに放置されてる死体の山を見ても、理解できなかったかね」


 わかる訳がない。とても現実のものとは思えない。ただ、剣の重さが真実だ。麗花は、浮かない顔をしている。お腹が空いているのかも。水が飲みたいのかもしれない。そう。歩きずめで水すら口にしていない状態だ。視線は、トウヤの姉に向けられているようだ。

 

「う、うぅん」


「あ、気がついた?」


 瞬きをした後、後ずさって麗花にしがみつく。翔は、何もしていない。

 何もしていないのに、怯えられている。切ない気分になった。明後日を向くと、人が動く死体に追われているのが窓から見える。見下ろすに、捕まった人は寄ってたかって食われているようだ。


 一体、どれだけの人間が死に明日を迎えられるのか。死ねば、動く死体になるのか。

 死体だらけの国で生き残れるのか。10万人死んでいるのか100万人死んでいるのか知れないが。

 水道が使えないのは、まずい。原子崩壊の光は、奥多摩の方向にも見えた。


「姉ちゃん、アイカ姉ちゃん。俺だよ、トウヤだよ。大丈夫。ここ、大丈夫だから」


「お父さんとお母さんは、どこ」


「逃げてるから。大丈夫だから」


 父親と母親の影も形もなかった。であるなら、最悪の想像をして口腔が乾く。


「新聞もテレビでも、教えてくれなかったんですけど、どうして教えないんですか」


「そりゃ、知られたら不味いだろ。連中にとって、都合の良いことだけを垂れ流すのは思想統制の第一手段だぜ? もっと言うなら、そういった機関に他国籍民を入れちまう日本人の愚かさってやつが総括されてるだけなんだがな。思想統制、意味がわかるか?」


 思想統制。わからない。首を横に振った。ベランダから動く死体が入ってこないか伺う。


「思想統制ってのは、自分たちに都合が良いものは報道し、都合の悪いものはヘイトとして弾圧することだ。しかし、日本人には理解できないしわかろうともしないだろう。なんせ、頭の中がお花畑だからな。中国人、韓国人の犯罪を隠蔽するのは幇助するに等しいってこと。わからないんだなーこれが」


「都合の良いものは、知らせて、悪いものは隠す連中ってことですか」


「ついでに、悪いと思ったものはヘイトとして出版発禁まで追い込む。その外道ぶりときたら、笑いさえ浮かんでくるぜ。奴らは、中国人韓国人が電車に人間を投げ込もうが叩きつけようが報道しようとはしない。それでいて、妄想小説で日本人が戦争で6000人もの中国人を斬ったなんつったら発禁まで追い込むのさ。ソンミ事件っつーやつなんだけど、流石に知っているよな」


 それは、知っている。ニュースにもなった。おかしいとは思ったが、特段に気にもしていなかった。


「関係があるんですか」


「おうとも。日本人を殺害予告しようとも、問題がない。中国人、韓国人が日本人を如何に殺そうとも、大した問題ではない。ヘイトスピーチとして思想レッテルを貼って、土下座させてから処刑する。いとも容易く行われるえげつない行為だろ。そいつが、まかり通っちまった。こいつに味を覚えた連中ときたら、やりたい放題に拍車をかけた。ま、終わった話で要は中韓を批判するな、憎むな怒るなってこと。虫のように感情を表現したりするんじゃねえと言ってんだ」


 文句を言っては、駄目ということなのだろう。だが、黙って殺されるつもりはない。


「でも、銃で撃たれたら僕も怒ります」


「くはっ。普通は、ゾンビの仲間になってるけどな」


 ソファーに腰掛けると、途端に気が遠くなった。目を開けていようとしたが、まぶたが落ちてくる。

 

挿絵(By みてみん)

麗花

iRaNaさま作品


挿絵(By みてみん)

山田 翔

ぽっぴーさま作品



トウヤ


アイカ

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