異世界からの侵略者たち 8 (キム
反応の無くなった女を放り出す。
股間からは、白い液体が流れ落ちた。
「さっさと次を持って来い」
「はっ」
いい時が来た。苦節70年。キム・イルファにとっては、20と少しだが。
愚かで、哀れなるジャップに誅伐の時が来たのだ。
宇宙最高最強民族である韓国人が、ジャップを制する。
当然であり、当たり前の事だ。打ち立てられた作戦は、無謬にして無欠。
完璧なまでの成功に至るであろう。
作戦名は、神の恩寵。いわゆる、原発破壊と原子爆弾による浄化である。
「ひぃぎい」
「やめてやめて」
止めるはずなどない。ジャップの雌は、須らく便器。慈悲など必要ないのだ。
魔物が現れれば、まずジャップを囮にしてもろともに処分。
間違いない。囮に食いつくのは、まさに畜生同士なのである。
「ふむ? 北進するか」
「県境は、確保しました。あとは、高速道路の破壊ですが」
「当然だ。東に行く道路は、封鎖せよ。じきに応援の艦隊もくる」
実際には、海からの援軍頼みである。米軍が、行動不能になるのも全て完璧な読みであった。
負けるはずがないのだ。死体が動きだしたとしても、火炎放射器を装備した同胞の手によって処理される。ジャップの死体ばかりなので手加減もいらない。
主幹道路は、死体で埋め尽くされている。
主にジャップので。多少は、毛色も違う。目下、川崎国の独立準備だ。
港を押さえ、役所もまた制圧済み。
行くところ東韓解放軍は、無敵である。
「閣下。北で神の恩寵が降ったようです」
「なるほど。急がねばならんな」
兵は、懲罰に夢中だが努めを果たさねばならない。男の尻を蹴り飛ばしながら、立ち上がった。
「東と西はどうだ。鎌倉からは、連絡があったか」
「それが、奇怪な化物、という言葉を残して音信不通になっております」
「奇怪だと? それは、臆病が言わせているのだろうよ。兵には伝えるな」
屈強な大韓戦士といえど、憶測が敗北を産む可能性。僅かにだが、ある。
やり始めたからには、勝たねばならないのだ。
キムは、神奈川攻略をあずかる身であった。
肌色をした足を踏みしだく。蹴りつければ、多少の反応があった。
飛び上がると胴へ着地。脆弱なる女は、骨が折れたのか。汚らしい液体を口から吹き出す。
穢らわしいことこの上ない。
「少しは、慎みを持てというに。なんという売女なのだ。すぐに尻を振ってくる」
「仕方のないことです。韓国人には、惚れてしまうジャップの雌ですからな」
「まったくだ。よし、攻撃を東側へと集中。雑魚ジャップどもを殲滅だ」
「承りました」
部下の1人が去っていく。
動きの悪くなった女を踏み砕く。顔面に踵を下ろす。白いものがぱらぱらと抜け落ちた。
他愛もない。
全てのジャップは、老若男女を問わず死罪である。
これは、全人類の意思なのだ。キムは、死んで当然の罪持つジャップへの刑を執行している。
「東京、埼玉はどうなっているか」
「連絡がつかず、目下のところ情勢は不明とのこと」
「なんと、だらしがない。だが、市ヶ谷は落ちているのだな?」
「はっ、動きはありません」
通信機器は、殆どが駄目になっている。だが、キムたちは予め用意しておいたもので連絡が取れる。
ジャップが卑劣な反撃をしようとも包囲して殲滅しているのは、完璧なる用意があってこそだ。
秘密裏に用意されたそれは、確固たる独立戦士たちの血潮で賄われた。
ジャップたちから逃れ得た金だ。
「やはり、ジャップ。低能極まる反応よ」
「如何にも」
腰を振っている女の脇腹を殴り、顔面に聖なる罰を加える。
定期的に罰を与えねば、反応が悪くなるからだ。汚れた血を吐き出したり、溢せば数倍の罰をあたえなければ収まらない。
「ふん、っふっふっふん。おらおらおらおらおらおろらららららら」
「あまり、やりすぎれば、そろそろ」
「何か、文句があるのか?」
「いえ。ございません」
代わりならいくらでも転がっている。
黒い団子鼻。味方がやられる前に倒さないといけない。前進だ。
伸びてくる腕を躱して、鳩尾に剣を突き立てる。
めり込む感触と、焼き焦げる肉の匂いで反吐が出てきた。
化物は、口で噛み付こうとしている。腹にめり込んだ剣を振り上げて、頭上から下へと降ろす。
化物の股間から、裂けた。
「翔ちゃん!」
黒い化物は、大量の死体を連れていた。
斬っても、斬っても死体は減らない。
動く死体は、燃えると酷い匂いだ。頭に痛みすらくる。
なので、徐々に移動しているのだが連れが2人。1人は、背負っていて余裕がない。
(どうする)
建物に逃げれば、火で翔たちは死ぬ。建物は、逃げ場があるとは限らないからだ。
路地から何処からでも死体が寄ってくるのだ。
真っ直ぐに進んでいるが、どこをどう進んでいるのか。
「どうするの?」
「ともかく、こいつらを斬ってくしかない」
斬っても斬っても斬っても、ゾンビたちは減らない。
いや、減っているのだろうがそう見えないのだ。
翔が、1人で斬っているのだから仕方がないとはいえ。
(やばい。完全に、足手まといだ)
トウヤの姉を背負っている麗花と棒を振り回しているトウヤ。
まだ背の低いトウヤは、あっけなく攫われかねなかった。
「しょうがねえなあ。ステータスを上げといてやるぜ」
ぼろぼろの人形が、カードを手にして言う。
「お、おい」
何をしたのか。疲れが飛んだ。
「どうした? 剣が軽くなったろ? 力と体力だな。案の定、ステ振りしてねーから弱え」
ゾンビを押し返すとあり得ない距離に飛んだ。文字通り、放物線を軽く描いた。
「ここいらのゾンビは、ま、割りと元の能力が反映されてるっぽい。油断すんなよ」
「おう」
漲る力に、麗花のスキルを貰って剣が煌めく。
陽が落ちようとしている。
夕暮れになっては、危険だ。逃げ込んだのは、マンションだった。
核兵器の爆風でもやられていないようで、選んだ先の廊下でゾンビが徘徊していた。
「階段、塞がれてるな」
行く先々の階段が、机やら冷蔵庫やらで覆われて通れなくなっている。
でれば、少なくないゾンビがいた。
首を剣で落とせば、動かなくなる。まだ、いい。飛び跳ねてくるゾンビがいないだけ優しい。
「どうしよう」
「近くに、ショッピングモールがある。そこまでいけば」
助かるかもしれない。ともかく、夜を凌ぐには食べ物と安全な寝床が必要だ。
入れないマンションを諦めて、移動する事にした。
「助かるのか?」
「わからないな。多分、だけど人が集まっている可能性は高い。勿論、全員がゾンビになっている可能性も否定できないけど」
最悪なのは、銃で武装した集団が支配している時だ。その時、翔はどうするのか。
武装グループを排除するのか。それとも頭を垂れるのか。
選ばないといけない。背後は、麗花のスキルが守ってくれている。
背後は、気にしなくてもいい。トウヤとその姉の他に生きている人間は、いないのか。
口だったり、目だったりから血を流して動いている死体ばかりだ。
杉並区へ西へと向かうか世田谷区を抜けて南へと行くか。
「段々、慣れてきたか」
「でも、喉が乾いてきた」
「自販機を破壊するか?」
電気が入っていないのだ。壊されていない自動販売機を破壊して飲み水を確保するというのは、非常に魅力的だった。
「そうれも、いいけど」
休憩場所は? と訴えているようだ。マンションといった防御能力が高い建物は、入り難い。
2階より上は、特に封鎖されている。どこもかしこもだ。
赤い自販機の、隙間へ手をかける。動き回る死体は、見当たらなくなっている。
「ていっと」
レベル、ステータスのおかげか。自動販売機のロックはあっさり壊れて開く。
なかなかの犯罪者ぶりだろう。動く死体が、人権を持っているのだとすれば既にして大罪人だが。
その近くにあるマンションを覗けば、2階への封鎖がない。
すでに食い破られているのか。2階の状況を知りたいところだ。