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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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異世界からの侵略者たち 7

 屑どもを取り逃がすとは!

 

 ガーフにしてみれば、上官の心変わりなど無視して攻撃したい。

 

(ジャップども、ロシナ様に何を吹き込んだ?)


 急な話だった。


 傷を負っていたものの、回復の術に通じた僧侶の手によって元に戻っている。

 両の手を開いたり、閉じたりしているものの。

 見張りが邪魔だった。かといって、押しのけて外へ行くこともできない。


「ガーフ様のお加減、よろしいですね」


「はあ」


 気のない声がでた。それではいけないのだが。


 相手は、元とはいえ女教皇。妹にその地位を譲ったとしても、国内における人気は絶大だ。

 それが、秘密裏に負傷したガーフを診るというのは何を意味するのか。

 1つしかない。


「時に、ガーフ様」


 目が光った錯覚を覚える。

 金の髪を左右に分ける女は、扇子で口元を隠し目尻を下げた。


「何でしょうか」


「奥方様とお子様を冥界よりお連れする算段が、整いました」


 晴天の霹靂である。死体は、焼かれて蘇生はできないはず。


「そ、そんな馬鹿な。彼女は、死んでしまって骨しか」


「それでは、諦めるのですか」


「いえ、そんな事はありません。しかし、どのようにして彼女を蘇らせるのですか」


 冥界下りというのは、只の与太話ではない。ミッドガルドでは、冥界への門が時折開かれるという。

 だが、その管理者というのは死神と、ガーフは聞いている。

 出逢えば、死ぬ。だから、死の神と。


 フィナルは、小気味よく扇子をたたむ。


「すっかり、元気になられた様子。わたくしとしては、欲しいものを持ってきていただける方を探していますの」


「誠心誠意、お伝えいたしましょう」


 女は、にっこりと満面の笑みを浮かべた。多くの男は、あっさりと騙されるであろう。


「今のところは?」


「残念ながら、欠片もございませんな」


 1人の男を思い浮かべる。だが、見た覚えはない。


 東京というのは、人が多すぎる。かといって、魔力での探知はアルーシュたちもやっているであろう。

 何処かへ隠れ住んでいるのか。それとも、


「そうそう、他にもご希望されている方がおりまして。時間は、残酷なものですよ」


 目の前が、暗くなりかけた。寝ているというのに、気絶しかかったのか。

 つくづく人というのは、気分なのだ。上げておいて、落としにきた。


「傷も癒えました。ですが、上司が降りておりますので許可がいります」


「早く降りられるといいですね」


 言われるまでもない。




 通りには、焼き焦げた物体が転がっている。

 コンビニエンスストアを見つけた。入り口からして、動いているのは死体だ。

 扉は閉じられていた。


(ま、簡単に開くんだけどな)


 剣の力だ。恐るべき能力である。強化硝子が、飴のように溶け落ちた。

 中に動く死体の姿はない。


 階段を上がるべきか。2階への階段は、物言わぬ人が倒れていた。

 血を流している。ドアの向こうで、殴られたのか。赤い池が地面にできていた。

 階段から落ちたかのように液体が、彩りを与えていた。


(上に上がっても食料があるとは限らないよな)


 コンビニエンスストアに入ってみたものの、食べ物が見つからない。

 売り場の棚にないだけで、裏にはあるのかも知れなかった。

 

「翔ちゃん。さっさと出ようよ」


「わかった。これじゃあね」


 入り口から入って、倒れている人間がごろごろしているのだ。

 誰も助けなかったのだろうか。

 通路に3、4。カウンターの向こうにも1。硝子は、砕かれて地面に散乱している。

 出ようとすると、


「兄ちゃん、どうするんだ」


 トモヤだ。野球チームの刺繍が入った帽子を被っている。顔は悪くないだろう。

 殴られたのか青あざを作っていた。

 小柄だけに姉を背負っては、筋力が無いためによたよたと歩く。


(代わってやればいいんだろうけど)


 背負えば、動きが取れなくなるだろう。そうなれば、殺られるかもしれない。


(その前に餓死しそうだな)


 食料が見つからないと、骨と皮になってしまう。飲水すらないのである。


「ここは、駄目だ。違うところに歩いていくしかなさそうだ」


「そっか。休憩は、できない?」


 首を横に振って答える。残念だが、トモヤとその姉のおかげで歩みが遅い。

 移動するのに、ゾンビと戦っている時間の方が長く感じ始めていた。

 

「ここは、まだ安全じゃない。こいつらもすぐに動きだすかもしれないし。ともかく、コンビニはないな」


 他にも食料を追い求めて、やってくる人間がいないとも限らない。

 起き上がろうとした人を蹴る。否、人ではなかった。首がおかしな方向に向いているのに、立つ。

 

「今頃、ゾンビになるって、ええ?」


 時間差。考えられなくもない。剣を突き立てる。身体は、燃え上がって黒く変色した。


「できたてほやほやだあーな。犯人は、とっくにずらかってる感じだしな。気をつけろ」


 ロシナの顔になった人形が、声を出す。声を出せるようになったのか。頭に直接語りかけてくるのを止めているのは、謎だ。


 ポケットが熱を持っている。ステータスカードを入れている場所ではないだろうか。

 ゾンビでも経験値が得られる。


「お前さん、だいぶレベルを上げたねえ。今なら、ガーフと出会っても一方的にやられるこたーねえかも?

いや、足手纏いがいるからなあ。わからんか」


「今は、ガーフってのが襲いかかってくる気配しないのかですか」


「手を打った。けどまあ、どこまで通用するかわからんけどな」


「なんですか、それ」


 曖昧すぎる。杉並の町を抜けるはずが、迷ってしまっていたらしい。まだ抜けられていない。

 だが、収穫もあった。ぐったりとしているトモヤの姉を赤ちゃんを乗せるように買い物かごに座らせたのだ。今は、パンツも下着もつけているので抵抗はない。


 走り寄ってきた犬を斬る。目が赤く輝くとか、普通ではなかった。

 続いて、左右から同時に。守りきる。動きが、常人ではなくなりつつある。

 身体が、変化してしまってはいないだろうかと足元を見た。


 細い足だ。頼りないとも言える。筋肉質から程遠い。


「兄ちゃんってさ。何かスポーツをしてたん」


「いや、全然。帰宅部だよ」


「私が何処かに入ろうって言っても、恥ずかしがって入らなかったの」


「あ、そうなんだ。ところでさ、どこに向かってんだっけ」


 駐車場には、人の姿はない。ゾンビだったものかゾンビになろうとしていたものの残骸が、残っている。


「西かな。北が駄目だからね」


 不意に、振動がして。


「やばい! 伏せろ! 防壁スキルを」


 といっても、スキルなど詳しい事を全然説明してくれないのだ。分かるわけがないと地面に伏せる。

 次いで、大気に押しつぶされそうになりながらステータスカードをなぞる。

 防壁スキルは、入手できていない。瓦礫が飛来するのに気がついたものの、身体が痺れている。


(このままじゃ、やばい)


 やばい、と思ったが動かない。潰されるのか見ていると、何かにぶつかったかのようにして石が地面に転がる。ロシナが使ったのだろうか。そうして、麗花の顔を見れば汗だくだった。

 

 顔を見て、温かい気持ちになる。


(大丈夫なのか)


 翔が、剣を握ったときはろくに動けなくなる有様だった。

 今でこそ気絶しないものの、疲労感はある。早死しそうな予感さえあった。

 それも、麗花を生かすためだ。両方、死んでしまっては意味がない。


「そんな顔をすんな。お嬢ちゃんの頑張りだろうがよ。何、資格があるってのは剣を握って平気だったんだ。それだけでも合格ってもんよ。ま、正邪を問わないのが武器ではあるんだけどな」


 収まるまでの時間は、長く感じられた。実際には10秒程度だっただろうか。それにしても、瓦礫が飛んでいくほどの衝撃だ。衝撃波であろうか。


「ちょっと待ってくれ。西から、今の来たよな」


「そうだな」


「今のって、もしかして」


「もしかしなくても、あれじゃねえか」


 茸のような雲が上に伸びていっている。何故? と思った。


「あれが」


「核兵器だろう。さて、どうする。西も駄目になったら、南か?」


 放射能が残っているなら、進むわけにはいかない。放射線を防げてないだろうから、すぐに死ぬ可能性もあるわけだ。翔は、


「それしかないだろ。それとも、スキルでどうにかできるっていうんですか」


「知り合いなら、楽勝なんだがねえ。ま、そいつがいるならこの事態にもなってねえか」


 空から降ってくる放射線を含んだ雨とか、最悪だ。

 建物が崩れて止めを刺されている。車道には、車が走っているいる姿もない。

 いったい、誰が核兵器を使ったのだろうか。


 南へと向かって歩きだす。


「公園で一休みできればいいけど、ゾンビだらけのような気もする。ここで飲み物が手に入ればよかったんだけどなあ」


 あえて、新宿には寄らずに突っ切ってきた。およそ誰もが食料を求めていきそうだからだ。

 ゾンビだらけで、統制が取れてなさそうである。

 さらに、核兵器。核爆発を見ては、嘘とも言えない。内蔵が、外に飛び出ていないのが不思議だった。


「お嬢ちゃんのスキルのおかげで、皆助かったな。礼くらいいってやったらどうだ」


 汗をたたえ、笑みを浮かべている。平気なのだろうか。


「ロシナさん。ありがとうございます。おかげで、助かりました」


「かはっ、嫁さんの方がしっかりしてると来やがった。情けないねえ。ま、俺も人の事を言えないけど、なんにしてもこの先に生き残るのは楽じゃねえ。巫女見習いなのに、防壁と祈祷が使えるってのは大したもんだ」


 ロシナが助けてくれたのか。ロシナに助けられっぱなしである。道すがらに、建物が立っているものがない。崩れて、うめき声が上がっている。上がっているが、助けられない。


「さっきのスキルは、どうやって手にいれたんだ」


 カードを取り出して見せる。不思議な色だ。青とも翠とも見える。

 麗花のカードだ。翔のとは、まるで違うような。そんな気がしてくる。

 他人のものだけに、余計に神秘的に見えるのかもしれない。


「同じものを持っているって、言ってたよ」


「俺も、野郎と一緒でさ女の子には優しく教えてやるよ。男なら、土下座をして聞きに来やがれってんだ」


「えっとね。こうして」


 麗花は、カードをなぞる。白い指に、光が板に軌跡を描く。まるで、スマートフォンの画面だ。

 翔のカードは、それほど輝きに満ちていない。

 才能か。


「くく、そんなしょぼくれた犬みてーな顔をしてんじゃねえ」


「どうせ、俺は大したことないですよ」


「そうやって、捻くれて女を守りきれるのか? ガーフじゃなくてセリアがきたら一発でてめえは蒸発するぞ。あいつ、話が通用しないからな」


 狼の耳を頭につけた女の子の事だろうか。二度とは会いたくないと思った。

 白い甲冑に、襤褸襤褸になった背中のマント。顔だけ見れば、綺麗な美人である。

 だというのに、心臓を鷲掴みにされたかのような。


 道の先に、建物が無事立っているという物がない。恐るべき衝撃波と熱線だったのだろう。

 溶けている外壁は、高熱を示していた。

 何処が核を使ったのか。


「誰が、核なんて」


「考えろ、すぐにわかるだろ」


 わかる訳がない。わかったところで、理解する頭が追いついていないのだった。

 

「翔、上だ!」


 瓦礫を見ていれば、上から影が飛んでいた。飛ぶ? 敵か? 落下してくるであろう影へと剣を振るう。

 炎が軌跡を描いて襲いかかった。

 燃えるかと思いきや、地面へと降り立つ。黒い毛だ。のっぺりとした顔に、大きく開いた口。

 鼻は、団子のような穴だ。


「ゾンビだけじゃないってか」


 後ろには、麗花とトウヤ、トウヤ姉がいる。

 腕が、人のような太さだ。殴られれば只ではすまないだろう。

 間合いが、見る間もなく詰まる。突きだ。太い爪。威力は、わからない。

 

(何?)


 押された。押されたが、突きは剣で防いだ。食い込むと、燃え上がる。

 叩きつけられそうになるのと、燃えて崩れたのか。間合いを離そうとする。

 巨体だ。3mはあるのではないか。


(こいつ)

 

 逃げようとしているのがわかった。だが、賢い相手を逃がすわけにはいかない。

 

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