表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
172/708

異世界側が侵略する場合6 中野を彷徨う

 周りには動く死体と人。それに、突如として現れ出した魔物。

 昼だというのに、警察は魔物を駆逐もしないでいる。


(一体、何が起きているんだよ)


 異世界人が攻めて来たなんて、一体、誰が信じるというのか。

 南へ行けば、助かる。なんて、保証は何処にもない。

 通りを進むのに、1人の女の子が出てきた。


(うわ…ひでえ)


 暴行を受けたのだろう。全裸だった。顔は、殴られたのか。片目が閉じられている。


「ちょっと、見てないでよ」


 といっても、隠すような布はないではないか。視線を下に向ければ、男の子の姿があった。

 

「近づくな!」


 男の子は、足を引きずっているようだ。腰だめに、光るものを構えている。


「麗花を刺そうとしたら、殺す」


 己が出したにしては、冷酷無惨な声の響きだ。人を殺すのに、慣れつつある。

 

「まあまあ、待ちねえ。お二人さん。こいつは、襲ったりしねえって。なあ」


 人形が声を出すのに、子供はビックリした顔をした。そこに、


「いやがった。こっちだ。糞ゾンビどもがっ」


 黒いニットの帽子をかぶった男たち。短髪に入れ墨といった風体は、普通の人間ではない。

 離れるようにして道路を渡ろうとしたが、燃え上がった死体が転々としていて思うように進まない。

 横道からすぐだ。そして、迷うことなく路地へ向けて剣を向けた。


「死ね」


 赤い炎が通路を埋めて進む。熱さを感じないのが、不思議だ。3秒も放てば、走り寄ってくる男たちは煙を上げながら跳ね回っている。


「へっ、こいつらを全員焼き殺しに行くか? 兄弟」


 いつから兄弟になったのだろう。しかし、心は真っ赤に燃えている。

 通りも南の方向へと目を向ければ、動く死体が人間と争っていた。


「そうだなあ。南は、南で面倒くさいかもしれないな。西、南に向かってみるか」


 後ろでは、女の子の身体を拭いている麗花の姿がある。


「行こう」


「この人も、一緒のほうがいいかも」


 頷く。置いておけば、また襲われるかもしれない。生きている人間が信頼できない状態なのだ。

 場所の位置は、


(杉並、かあ)


 全然、土地勘がない。近くのコンビニに食料品を求めるのもいいだろう。

 そろそろ、腹が減ってきた。こういった時に、食料がなくなる展開は目に見えている。

 

「俺たちは、行かねえ。警察がくるし」


「本当に来ると思っているなら、良いけどね。僕は、来ないと思う」


 なんと、残酷無惨な事を子供に告げるのだろう。だが、真実である。

 進む眼前には、銃を構えた半裸の男が現れて剣が火を吹く。剣というより、火炎放射器になってきた。


「いいぞ。手慣れてきたな。がんがん行こうぜ」


 けだし、名言である。人を殺すというよりも、虫を叩き潰す作業だと思えば心も痛まない。

 ぼうっとした表情で歩いている女の子は、麗花とさほど歳の頃は違わないだろう。

 そう考えると、より一層に力が漲ってきた。


 丸い玉が転がってくれば、蹴り飛ばす。手榴弾か。目の前で、爆発が起きた。

 飛来する面は、覆えただろうか。突き進むと、伺う男たちの姿がある。

 上段に振りかぶった金属製の棒。それよりも、剣が胴を薙いでいた。


「うぉおお」


 雄叫びと共に、新手が突っ込んでくる。出目をした男の腹を蹴れば、おかしな位に吹っ飛んで倒れた。

 足元には、赤いものがぶちまけられている。見るに、敵しかいないようだ。

 薙ぐようにして、火を放てば。


「ぎいぃいい」


 人間が出すとは思えない悲鳴を上げて、転げ回る。北に進むか。それとも、南か。

 北は、ロシナの言葉通りなら放射能が怖い。南も、横浜、川崎は韓国人が多いので怖い。

 となれば、西だ。

 

「何処に行くんだよ」


「とりあえず、西に向かって見ようと思うけど」


 ここでお別れとなっても、それは仕方がない。どうするかは、他人の自由なのだ。

 

「連れてく?」


「来たいのならってとこかな」


 選択肢がないのをわかったのか、そのまま歩けば後ろに付く。前の死体を焼きながらコンビニを探して進むことにした。

 襲ってくる人間は、死んだのか。いない。


「それさ、どうなってんの。あ、俺はトモヤ。ともは、友達の友。さっきは、ありがとうございました」


 振り返ると、頭を下げていた。


「いいよ。どうして、お姉さん? なのかな」


 前に向き直り、周囲の気配を探る。

 何回、炎を出せるのか気になってカードを見れば。剣は、【火炎剣】使用レベル1なんて表示が出ている。

 残りの回数は、表示がない。どうなっているのか。


「姉ちゃんと2人で逃げてたんだ。父さん母さんとはぐれちまったし」


 前髪を切りそろえて容貌はアイドル以上。だが、白い液体で化粧されていたのだろう。

 生臭い匂いがする。服もないので、今も下はすっぽんぽんであった。 

  

「お金は、ある?」


「そんなもん、ない」


 大人が助けてくれるのが、当たり前。そんな常識は、もう通用しないと思った方がいい。

 だが、言葉にして言うのも無惨だ。

 細い路地の方がまだ死体の姿がない。皆して、家に閉じこもっている訳でもないようであるし。


「このゾンビって、ずっと動くとか?」


 ロシナ人形を見る。


「いや。ファンタジーものに有りがちな何日経とうが、生きているってことは無いねえ。こっちでの死体ってのは細菌系だろうし。本体が、カロリー不足になっちまえば自然と動かなくなるっしょ。つまり、保って2,3日ってとこだな。それ以上になると、ねえ。ここは薄いし。身体を維持できねえって」


「ずっとゾンビが動き回ってたら、お終いだよね」


 ほっとしている。動く死体にやられなければ、いいのだ。しかし、果たしてそれで終わりなのだろうか。


「言っとくけどよ。ゾンビ菌を撒いている奴が止めるのと、菌が死に絶えるまで油断出来ねえからな」


 腕組みをしてまたえらい事を言い出す。部屋のベッドでああでもないこうでもないと悶々していた日々がとても懐かしい。 

 剣の出す火では、燃やし尽くせないのだろうか。ふと、気になった。


「こいつの火じゃだめなの?」


「たぶん、な。効いていると思うけど。その辺りについては、詳しくねえっていうか。アルストロメリアのとこが開発した対無神世界用の兵器だからなあ。只の火じゃ、菌が死滅しねえって事は考えられるな」


 動く死体の姿も少ない。壁に寄りかかっていたり、倒れていたりと様々だが。

 通行している人間というと、翔たち以外にはいないようだ。

 引きこもっていた方が安全だというのは理解できる。


「なあ、にいちゃん。そのぬいぐるみみたいなのに話かけてるけど、話せるの?」


 建物と建物の間を抜ける道で、上から緑色の魔物が矢を番えている。すかさず、剣を振るった。

 矢は、中空で弾かれて事なきを得た。相手は、姿が見えない。当たったと思える。


「ああ。ロシナっていうんだ。僕の味方をしてくれる人形さ」


「すっっげ、すっげえなあ。妖精さんみたいなのかよ」


 ちょっと違うと思ったが、あえて訂正する必要もないだろう。

 彼が異世界の住人で事の発端だとしても、生き延びるのには経験と助言が必要だ。

 生き残った後で、余裕があれば聞いてみるくらいだ。


「妖精さん的には、どちらへ向かった方がいいと思います?」


「この子を襲った仲間を全員粛清したら教えてやってもいいぜ」


 なるほど。どのみち、そのように誘導するつもりなのだろう。だったら、それに乗るまでで。

 ただ、麗花は危険に晒したくない。少女を助けたのは、オマケのようなものだ。

 流れというか。


「それじゃあ、どっちに行けばいいの」

 

 通りにも、死体があってそれを踏まないようにして進む。死んだ振りをしているような死体はいないようだ。

「ともあれ、南だな。多摩川が近くなってから、さらに進むか決めても良いんじゃないか」


 気になってくる。川崎といえば、韓国人が多いことでも知られているからだ。

 そこら中で、韓国人が銃を手に暴れまわっているのではないか。

 そんなところへ行って生き延びられるのか。2人で行きていきたい。それだけなのだ。


(自販機も残っちゃいないってのが痛いな)


 通りにある自動販売機は、悉くがひっくり返されて中身が取り出されている始末。

 このままでは、ホームセンターか大型ショッピングモールへ行かなければならないだろう。

 当然、人がそこを根城にしている事が予想される。


「このままじゃ、飲み物を奪うしかない。盗賊になっちゃう寸前だよ」


「警察とか何してんだよ。にいちゃんは警察の人と会ったりした?」


「ないね。残念だけど、拳銃を向けられたらどうしようかと思っているところだよ」


「それ、取り上げられそうだもんね」


 翔だって、剣とか刃物を振り回していたりするのが不味い事くらい理解している。

 だが、火の出る剣を手放して生き残れるだろうか。

 ない話だ。


「川崎に行くなんて、自殺行為ってことかな。なんとなくだけど」


「ばれたか」


「ばれるわ!」


 何かを見せたかったか。それとも、彼らの本性を教えたかったのか。

 どちらでもいいのだが、奇妙な果実に日本人を仕立て上げるくらいやりそうである。

 なんたって殺しまくって、山を作るくらいだ。ひょっとすると、異世界の魔物よりも厄介な敵かもしれなかった。


 なんせ、人の顔を保っている。口を開けば、意思疎通ができると思うかもしれない。


「んじゃ、まあ」


 かつては、服屋だったのだろうか。硝子が散乱している建物を発見した。

 やはりというか。人の死体が、転がっている。動く様子はないので、ただの死体だろう。


「死体って、必ず動く、とは限らないとか?」


「さあ。脳みそが生きていないと駄目、ってわけでもないだろうがねえ。俺は、専門外なんだよ。解説が詳しくできない」


 右の通りを北上するか左の通りを南下していくか。目の前からは、人の気配がしない。

 状況が状況である。女の子の服を盗むと。お金を一円だけ置いておく。

 ひょっとしたら、お金が必要になるかもしれないからだ。


「翔ちゃん、一円は無いと思うけど」


「しょうがないよ。この先でもいるかもしれない。緊急事態だから、ね」


 後ろに気を配りながら、中を捜索する。水を求めて蛇口をひねるものの、何も出てこない。

 冷蔵庫の中は、空っぽであった。2階もあるようだが、登る気にはなれない。

 扉は閉まっている。


「服は、食えない。頑張って行こう」


 ここが、世紀末か。翔たちは、腹が空いている。


(コンビニを見つけたら、たむろしている奴らなんて気にしねえ)


 麗花以外、どうなろうと翔にとってはどうでも良くなりつつあった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ